説明

FRP製部材用プリフォームおよびその製造方法並びにその方法を用いたFRP製部材の製造方法

【課題】皺や折れ曲がり等を生じさせることなく所定の湾曲もしくは屈曲形状に賦形できるFRP製部材用プリフォームの製造方法とプリフォーム、およびその方法により賦形されたプリフォームを用いて所定の湾曲もしくは屈曲形状を有するFRP製部材を製造する方法を提供する。
【解決手段】強化繊維基材を弾性変形可能なマンドレルに沿わせて配置する工程Aと、強化繊維基材とマンドレルを第1バッグ材で密閉して第1バッグ構造体を形成し、その内部を減圧して強化繊維基材をマンドレルの形状に沿わせて所定の横断面形状に賦形する工程Bと、第1バッグ構造体を、長手方向に所定の湾曲もしくは屈曲形状を有する賦形型の上に配置する工程Cと、賦形型上の第1バッグ構造体を第2バッグ材で密閉し、第2バッグ材の内部を減圧して第1バッグ構造体内の強化繊維基材を賦形型の形状に沿わせて長手方向に湾曲もしくは屈曲した形状に賦形する工程Dとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP(繊維強化プラスチック)製部材の樹脂含浸前のプリフォームを所定形状に賦形する方法および所定形状に賦形されたプリフォーム、並びにその方法を用いてFRP製部材を製造する方法に関し、とくに、長手方向に湾曲もしくは屈曲しているFRP製部材成形用のプリフォームおよびその製造方法、並びにその方法を用いたFRP製部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維材の積層体からなる強化繊維基材を用いて、所定の横断面形状を有し、かつ、長手方向に湾曲もしくは屈曲しているFRP製部材用プリフォームを製造する場合、通常、長手方向に湾曲もしくは屈曲賦形する前の、長手方向にストレートな形状の段階にて、強化繊維基材を構成している積層体が強化繊維材層間で接着一体化されているため、層間で強化繊維材同士が拘束し合い、積層体全体としての賦形性が低下しており、湾曲部や屈曲部で、皺が発生しやすく、局部的な折れ曲がり(層座屈)が発生しやすいという問題がある。
【0003】
例えば図15(A)、(B)に示すような、ウエブ部101aの端部に屈曲して延びるフランジ部101bを備えた横断面形状を有し、長手方向にストレートに延びる強化繊維材の積層体からなる強化繊維基材101を、図15(C)に示すように、長手方向に湾曲賦形する場合、とくに圧縮力のかかる湾曲凹部に、中でもその部位における積層体の表層側に、皺や局部的な折れ曲がり102が発生しやすい。
【0004】
上記のような長手方向に湾曲もしくは屈曲したFRP製部材の製造方法として、例えば次のような方法が知られている。特許文献1には、長手方向に湾曲もしくは屈曲を有するストリンガーの成形において、予めストレートのストリンガープリフォームを作製しておき、該プリフォームを湾曲もしくは屈曲を有する面を有する板状体の上に配置し、密閉媒体で覆って内部を真空吸引することにより、該プリフォームを湾曲形状もしくは屈曲形状に賦形する方法が開示されている。しかしながら、本方法では、予め作製したストレートのストリンガープリフォームを湾曲もしくは屈曲形状に賦形するため、図11に示したようにプリフォームに皺が入りやすく、特に曲率の大きい形状への賦形は困難であり、折れ曲がり、皺の発生が避けられないという問題があった。そのため、本従来技術では、特許文献1の請求項13に「板状体の面が、厚み方向に5mm以下の表面変位を有する」と記載されているように、賦形はきわめて微小な湾曲もしくは屈曲に限定されている。そのため、比較的大きな曲率を有する比較的長尺物の賦形には適用が困難であるという問題があった。
【0005】
また、特許文献2には、複合材製板材上に配置されて成形される屈曲断面(C断面など)をもったビームをオートクレーブ成形する際に、屈曲断面で囲まれる空間に屈曲断面形状に沿う弾性部材をマンドレルとして挿入する方法が開示されている。このマンドレルは芯材と該芯材を覆うように設けられたゴム製被覆材から構成されており、芯材には該マンドレルが複合材製板材の法線方向に湾曲できるように切欠きが設けられており、ビームに装着しやすく、成形前準備時間を短縮し、更にマンドレルを挿入することにより、成形品質も向上できると説明されている。しかしながら、本方法では長手方向に湾曲もしくは屈曲形状を有するプリフォームの形成法自体は記載されておらず、プリフォームは予め所定の形状に形成されている必要がある。したがって、湾曲プリフォーム賦形上の前述したような問題は依然残されたままとなっている。
【0006】
さらに、特許文献3には、円錐台治具の曲面形状部に繊維束を少なくとも円錐台の端部と平行に配列する糸層を含むように複数積層し(プレイスメントし)、厚さ方向糸で結合して、円錐台筒状に三次元繊維構造体を形成した後、円錐台の周方向と直交する方向に切断して、それを展開して得られる曲面板状の積層体を用いて、長手方向に湾曲しているストリンガープリフォームを形成することにより、湾曲の周方向に平行な方向に強化繊維束を配置するようにした方法が開示されている。このように上フランジ部と下フランジ部の曲率の違いによる周長差を有する三次元繊維構造体を予め作製することにより、湾曲したプリフォームを賦形する方法である。しかしながら、本方法では、多数のピンを表面に有する円錐台治具が必要であり、該治具のピンに強化繊維束を掛けることにより積層体を準備する必要があり、通常工業的に入手できる布状の織物基材をそのまま使用することはできないため、積層体を作製する段階で非常な労力と時間を要するという問題があった。
【特許文献1】特開2007-8147 号公報
【特許文献2】特開平5-116162号公報
【特許文献3】特開2005-97759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の課題は、上記のような従来技術における限界に鑑み、長手方向に湾曲もしくは屈曲しているFRP製部材の樹脂含浸前のプリフォームを、比較的大きな曲率を有する場合にあっても、皺や折れ曲がり等の問題を生じることなく容易にかつ確実に所定の形状に賦形できるようにしたFRP製部材用プリフォームの製造方法と、所定の形状に賦形されたFRP製部材用プリフォーム、並びにその方法により賦形されたプリフォームを用いて所定の湾曲もしくは屈曲形状を有するFRP製部材を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るFRP製部材用プリフォームの製造方法は、長手方向に湾曲もしくは屈曲しているFRP製部材の樹脂含浸前のプリフォームを製造するに際し、
長手方向に延びる強化繊維材の積層体からなるドライの強化繊維基材を弾性変形可能なマンドレルに沿わせて配置する工程Aと、
前記強化繊維基材とマンドレルを第1バッグ材で密閉することにより第1バッグ構造体を形成し、その内部を減圧することにより前記強化繊維基材を前記マンドレルの形状に沿わせて所定の横断面形状に賦形する工程Bと、
前記第1バッグ構造体を、長手方向に所定の湾曲もしくは屈曲形状を有する賦形型の上に配置する工程Cと、
前記賦形型上の第1バッグ構造体を第2バッグ材で密閉し、第2バッグ材の内部を減圧することにより、第1バッグ構造体内の強化繊維基材を前記賦形型の形状に沿わせて長手方向に湾曲もしくは屈曲した形状に賦形する工程Dと、
を有することを特徴とする方法からなる。
【0009】
このような方法においては、まず、積層体の強化繊維材間が接着固定されていないドライの強化繊維基材を、マンドレルを用い第1バッグ材で密閉し内部を減圧して所定の横断面形状に賦形するが(工程A、B)、この段階では長手方向には湾曲もしくは屈曲されないので、積層体であっても前述したような皺や折れ曲がりの問題は発生しない。そして、所定の横断面形状の強化繊維基材とマンドレルを第1バッグ材で密閉した第1バッグ構造体を、長手方向に所定の湾曲もしくは屈曲形状を有する賦形型上に配置し第2バッグ材で密閉してその内部を減圧することにより、第1バッグ構造体ごと強化繊維基材を賦形型の形状に沿わせて長手方向に湾曲もしくは屈曲した形状に賦形する(工程C、D)。強化繊維基材がドライの基材からなるので、工程Dにおいて湾曲もしくは屈曲賦形する際には、賦形される強化繊維基材の強化繊維材間で適度にずれることができ、賦形性が良好に保たれて、皺や折れ曲がりの発生が防止される。また、第1バッグ構造体ごと湾曲もしくは屈曲賦形されるので、第1バッグ構造体内の強化繊維基材は工程Bで賦形された所定の横断面形状に維持されたまま長手方向に湾曲もしくは屈曲賦形されることになり、最終的に全体が、問題を発生させることなく目標とする所定形状に賦形されることになる。
【0010】
上記本発明に係るFRP製部材用プリフォームの製造方法においては、工程Bの前に、工程Aで配置された強化繊維基材をマンドレルの形状に沿わせて予賦形する工程Eを有する形態とすることができる。工程Bでは、第1バッグ材の内部の減圧に伴う第1バッグ材の収縮により強化繊維基材がマンドレルに向けて押圧され、強化繊維材の積層体からなる強化繊維基材がある程度コンパクション処理されて所定の横断面形状に賦形されることになるが、上記のように予賦形する工程Eを有することで、工程Bにおける所定の横断面形状への賦形がより確実にかつ高精度に行われることになる。
【0011】
また、工程Bにおいて、第1バッグ材内に、第1バッグ材の内部の減圧に伴う第1バッグ材の収縮により強化繊維基材をマンドレルに向けて押圧可能な押圧板を配置することもできる。このような押圧板を配置しておくことによっても、工程Bにおける所定の横断面形状への賦形がより確実にかつ高精度に行われる。特に後述の図5、図6に示すように、押圧板を皺の発生しやすいフランジ部の上部に配置することにより、皺の発生を抑制できるため好ましい。この押圧板は、そのまま工程Dまで第1バッグ構造体内に残されたままとなるので、この押圧板は、工程Dにおける上記強化繊維基材の賦形に伴って強化繊維基材とともに変形可能な部材からなることが好ましい。
【0012】
また、工程Dにおいては、第1バッグ材内の真空度の方が、第2バッグ材内の真空度よりも低いことが好ましい。例えば、第1バッグ材の内部はある程度真空吸引を弱めて減圧し、第2バッグ材の内部はフル真空吸引により減圧する。このようにすれば、第1バッグ構造体内の強化繊維基材を湾曲もしくは屈曲賦形する際に、第1バッグ材による強化繊維基材のコンパクション力をある程度弱めて強化繊維基材内での適度な層間ずれを許容して賦形時の皺や折れ曲がりの発生をより確実に防止でき、強化繊維基材全体に対する湾曲もしくは屈曲賦形は第2バッグ材内部のフル真空吸引による減圧による第2バッグ材の収縮力により、確実に実行できる。
【0013】
ただし、工程Dの後に、または工程Dの最終段階では、工程Dにおける第1バッグ材内の真空度をより高め、第1バッグ材の内部の減圧に伴う第1バッグ材の収縮による押圧力をより高める工程Fを有することが好ましい。例えば、上記の如く工程Dでは第1バッグ材の内部はある程度真空吸引を弱めて減圧し、工程Dの後に、または工程Dの最終段階で、第1バッグ材の内部を、第2バッグ材と同様に、フル真空吸引により減圧する。すなわち、工程Dが実質的に終了した段階では、強化繊維基材の所定の湾曲もしくは屈曲形状への賦形は完了するが、その賦形形状をより確実なものとするために、強化繊維基材に対し、強められた第1バッグ材の収縮力によりコンパクション処理(つまり、加圧)を施すのである。
【0014】
また、所定の湾曲もしくは屈曲の賦形形状を含む強化繊維基材の最終賦形形状をより確実に保つために、工程Dの後に、または工程Dの最終段階で、賦形された強化繊維基材を加熱する工程Gを有することも好ましい。つまり、一種の熱処理により、所定の賦形形状に固定するのである。
【0015】
また、本発明における強化繊維基材としては、強化繊維糸条が一方向に平行に配列した強化繊維材を用いて形成されている形態を採用することができる。このような強化繊維糸条が一方向に平行に配列した強化繊維材を用いることにより、最終的に成形されるFRP製部材について、特定方向の力学特性の向上をはかることが可能になる。一方、本発明においては、クロス材など強化繊維が2軸に織られた織物材の使用も当然可能である。しかし元々クロス材等は一方向強化繊維材に比べて賦形性能が高い反面、特定方向の力学特性は劣る。この点において、本発明は特に高い力学特性を発現しうる一方向強化繊維材を使い、長手方向に湾曲、屈曲を有するフレーム部等を良好に賦形できる点に大きな特徴を有する。
【0016】
上記のように強化繊維糸条が一方向に平行に配列した強化繊維材を用いて形成されている強化繊維基材としては、長手方向に対する配向角度が0度の強化繊維糸条を含む基材、例えば配向角度が0度の強化繊維糸条を含む布状基材を使用することができる。ここで、「長手方向に対する強化繊維糸条の配向角度が0度」とは、丁度0度のものはもちろんのこと、0度の配向部分を含むもの、例えば0度の配向部分の両側などに丁度0度からは若干外れる角度の配向部分を含んでいてもよい。また、0度配向の強化繊維糸条を含む強化繊維材と、それ以外の配向角度の強化繊維糸条を含む強化繊維材との積層体もしくは組み合わせ体まで含まれる概念である。このような0度配向の強化繊維糸条を含む強化繊維基材を使用すれば、とくに長手方向における力学特性の向上をはかることが可能になるとともに、所定の横断面形状への賦形の容易化をはかることも可能になる。例えば、工程Bで所定の横断面形状(例えば、Z形の屈曲部を有する横断面形状)に賦形した後、工程Dで長手方向に湾曲もしくは屈曲形状に賦形しても、例えば湾曲の周方向に沿って上記0度配向強化繊維糸条を配置することが可能になる。そのため、前述の特許文献3のように強化繊維糸束を特殊治具上に配置して予め特定の強化繊維基材を準備するような工程は全く不要になり、布状の基材、例えば、布状の基材を本発明方法で用いる強化繊維基材としてそのまま使用できるようになり、安価に所望のプリフォームを製造できる。
【0017】
このような強化繊維糸条が一方向に平行に配列した強化繊維材を含む、所定の横断面形状に賦形される前の強化繊維基材に関しては、長手方向に対し横断する方向における予め定められた部位にて強化繊維糸条が布状に結束されずに分断状態とされている強化繊維材を含んでいる形態を採用することも可能である。このような分断状態の部位を設けておくことにより、所定の横断面形状への賦形が容易化されるとともに、最終的な長手方向に湾曲もしくは屈曲した形状に賦形する際にも、皺の発生を抑えて所望の形状により確実に賦形できるようになる。すなわち、湾曲もしくは屈曲形状への賦形に際し、特に0度配向の強化繊維材を構成している0度配向の強化繊維糸条を、互いに動きやすくすることにより、賦形性を向上できるようになる。この観点において、強化繊維材の強化繊維糸条が結束用のよこ糸だけでなく、強化繊維材の表面に付着されている樹脂材などにより、強化繊維糸条が結束されている場合には、該結束も分断できるように、強化繊維材が0度配向方向に平行に分断れていることが好ましい。
【0018】
上記分断状態とされる予め定められた横断面部位は、強化繊維基材が所定の横断面形状に賦形される際に屈曲横断面部位となるべき部位を含むことができる。また、屈曲されない横断面部位に対しても、必要に応じて、上記のような強化繊維糸条が結束されていない分断状態とされた部位を設けてもよい。
【0019】
また、本発明における強化繊維基材は、表面に樹脂粒子を有する強化繊維材の積層体から構成することも可能である。この樹脂粒子は、FRP製部材のマトリックス樹脂とは異なり、強化繊維基材の強化繊維材同士を部分的に仮接着するためのものである。また、成形後にFRPの層間強化する目的で、強化繊維基材の表面に配置した樹脂粒子を接着に使用することも可能である。したがって、この樹脂粒子には熱可塑性樹脂粒子等を使用できる。表面に樹脂粒子を有する強化繊維材の積層体構成としておくことにより、強化繊維基材全体の賦形性を損なうことなく、強化繊維基材の取扱い等を容易化できる。また、上述の工程Dの後または工程Dの最終段階での加圧、加熱処理により、強化繊維基材の最終賦形形状の維持にも寄与できる。
【0020】
これら樹脂粒子は、硬化後にマトリックス樹脂と良好な接着性を有するものが好ましく、樹脂種として、例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、およびこれらの変性樹脂、共重合樹脂などが挙げられる。
【0021】
上述の如く、本発明で用いる強化繊維基材は、断面形状および湾曲形状への賦形性を損なわない範囲において、強化繊維材の層間が部分的に接着一体化して、積層体として取り扱いやすい形態となっていてもよい。
【0022】
工程Dの最終段階での加圧および加熱処理によって、積層体の層間を全面にわたり接着することにより、プリフォームの形状保持性を向上できる。さらに加圧および加熱を制御することにより、樹脂粒子を軟化させた状態にて加圧することにより、積層体の厚みを薄くし、厚みを制御することも可能である。プリフォームの厚みを制御することにより、FRP製部材の厚みも制御することが可能である。
【0023】
本発明で使用する強化繊維基材の強化繊維種は特に限定しないが、代表的には炭素繊維を含む基材を使用でき、炭素繊維と他の強化繊維を含むハイブリッド構成の基材も使用可能である。とくに炭素繊維は腰が強いので、炭素繊維を含む基材の使用は、皺や折れ曲がりの発生を防止可能な本発明方法には好適である。
【0024】
また、本発明で使用するマンドレルとしては、工程Bで強化繊維基材を所定の横断面形状に賦形可能で、工程Dで弾性変形して強化繊維基材とともに長手方向に湾曲もしくは屈曲可能なものであれば特に限定しないが、長手方向に実質的に強化繊維基材の全長にわたって連続的に延びているものが好ましい。このようなマンドレルを使用することにより、工程Dにおいて強化繊維基材が長手方向に切れ目なくより滑らかに湾曲もしくは屈曲できるようになる。また、工程Dにおける湾曲もしくは屈曲賦形の際に、マンドレルが、強化繊維基材の全長にわたって各部における所定の横断面形状を維持するように機能することができる。
【0025】
また、工程Bにおいて賦形される強化繊維基材の横断面形状についても、特に限定されず、例えば、強化繊維基材を、マンドレルの形状に沿わせてウエブ部と該ウエブ部の端部で屈曲して延びるフランジ部を有する横断面形状に賦形することができる。このような横断面形状としては、例えば、L形の横断面形状、ウエブ部の両端部でフランジ部が同じ方向に屈曲して延びるC形の横断面形状、ウエブ部の両端部でフランジ部が互いに反対の方向に屈曲して延びるZ形の横断面形状等を挙げることができる。さらに、円弧状の横断面形状の採用も可能である。マンドレルの材質は特に限定されるものではないが、所定の断面形状の賦形が可能で、かつ湾曲形状への変形が可能で加熱処理に対する耐熱性を有する観点からシリコンゴムが好ましい。また、後工程のマトリックス樹脂の注入工程においても該マンドレルを使用する場合には耐樹脂特性も有することが好ましい。
【0026】
上記のようなウエブ部とフランジ部を有する横断面形状に賦形する場合には、強化繊維基材が、上記フランジ部に賦形される部位において長手方向に交差する方向に延びるスリット(切り欠き)を有していることが好ましい。このようなスリットが存在していると、とくに長手方向に湾曲若しくは屈曲賦形される際に、スリット部で皺や折れ曲がりを生じさせようとする力が解放されるため、皺や折れ曲がりの発生を一層確実にかつ効率よく防止できるようになる。このスリットは、長手方向に必要に応じて複数配列されていることが好ましい。また、このスリットは、横断面方向には、横断面形状における屈曲部分の両側にまたがって延びていることが好ましいが、必ずしもこのような延設形状に形成されていなくてもよい。
【0027】
本発明に係るFRP製部材用プリフォームは、長手方向に湾曲もしくは屈曲しているFRP製部材の樹脂含浸前のプリフォームであって、該プリフォームを形成する強化繊維基材は、強化繊維糸条が一方向に平行に配列した強化繊維材を用いて形成されており、かつ、強化繊維糸条が前記長手方向に湾曲もしくは屈曲しているFRP製部材の長手方向に対し0度の角度で配向されている強化繊維材を含むことを特徴とするものからなる。強化繊維糸条の0度配向の概念は、前述した通りである。
【0028】
このFRP製部材用プリフォームにおいては、とくに、ウエブ部と該ウエブ部の端部で屈曲して延びるフランジ部を有する横断面形状を有する形態を採用できる。この場合、ウエブ部およびフランジ部のいずれかにおける皺の高さが0.5mm以下であることが好ましい。この皺の高さは、例えば次のように測定することができる。ウエブ部またはフランジ部に発生している高さが最も高い皺の頂上部に金尺を当てた時に、皺の無いウエブ部表面またはフランジ部表面と金尺との隙間を皺の高さとすることができる。
【0029】
このような本発明に係るFRP製部材用プリフォームは、とくに、前述したようなFRP製部材用プリフォームの製造方法により、所望の形状に賦形することができる。
【0030】
本発明に係るFRP製部材の製造方法は、前述したようなFRP製部材用プリフォームの製造方法により賦形されたプリフォームにマトリックス樹脂を含浸させ硬化させる方法からなる。樹脂含浸硬化方法には、例えば、いわゆるRTM(Resin Transfer Molding) 成形方法を採用できる。また、真空圧を利用したVacuum assisted RTM(VaRTM)成形方法も採用できる。VaRTM は、加圧装置が不要であり、簡易に成形できるため、より好ましい。
【0031】
また、このようなFRP製部材の製造においては、賦形されたプリフォームの少なくともいずれかの部位に対し、例えば、少なくともウエブ部に対して、所定形状の剛体板を配置した状態でマトリックス樹脂を含浸させることができる。このような剛体板を配置しておくことで、FRP製部材の表面平滑性を向上することができるとともに、繊維の蛇行を改善することができるため好ましい。特に賦形時に発生した微小な皺、繊維のうねりなどを、剛体板を押し当てて成形することにより、皺やうねりを圧縮した状態でマトリックス樹脂を硬化し、成形できるため、皺やうねりの大きさを小さくすることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係るFRP製部材用プリフォームおよびその製造方法によれば、所定の横断面形状を有し長手方向に所定の湾曲もしくは屈曲した形状のプリフォームを、皺や折れ曲がりを発生させることなく、容易にかつ精度よく、確実にしかも安価に賦形できる。このプリフォームを用いてFRP製部材を製造すれば、目標とする湾曲もしくは屈曲形状を有するFRP製部材を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係るFRP製部材用プリフォームの製造方法により製造されるべき樹脂含浸前のプリフォームの形状例を示している(このプリフォームを用いて本発明に係るFRP製部材の製造方法により製造されるべきFRP製部材も、同等の形状として例示される)。図1に示す賦形後のプリフォーム1は、横断面形状がウエブ部2と、ウエブ部2の両側で互いに反対方向に折れ曲がって延びるフランジ部3、4とからなり、長手方向X−Xには湾曲して延びる形状に賦形されている。本発明では、このような横断面形状をZ形横断面形状と呼び、該Z形横断面形状は、ウエブ部2からのフランジ部3、4の屈曲角が90度以外のものも含み、ウエブ部2に対するフランジ部3、4の屈曲角が互いに異なるものも含む概念である。また、フランジ部3、4のサイズについても、同一でも互いに異なっていてもよい。なお、前述の如く、本発明においては、L形の横断面形状、ウエブ部の両端部でフランジ部が同じ方向に屈曲して延びるC形の横断面形状、円弧状の横断面形状などの採用も可能である。
【0034】
上記Z形横断面形状を有し、長手方向X−Xに湾曲した形状のFRP製部材用プリフォーム1は、例えば、図2〜図8に示すように製造される。まず、図2に示すように、長手方向X−X(図2の紙面と垂直の方向)に延びる、強化繊維材11の積層体からなるドライの強化繊維基材12を、弾性変形可能なマンドレル13に沿わせて配置する(工程A)。マンドレル13は、長手方向X−Xに、実質的に強化繊維基材12の全長にわたって連続的に延びている。このマンドレル13の横断面形状や個数、相対配置位置は、賦形しようとする強化繊維基材12の横断面形状に応じて適宜設定すればよい。また、マンドレル13の角部は横断面形状に対応した形状にR加工されていてもよい(図示省略)。
【0035】
次に、本実施態様では、図3に示すように、強化繊維基材12をマンドレル13の形状に沿わせて予賦形する(工程E)。この予賦形は、単に強化繊維基材12の横断面両側部分を、各マンドレル13の外面に沿わせて折り曲げ、屈曲させればよい。この段階で、ほぼ、図1に示したようなウエブ部2、フランジ部3、4を備えたZ形横断面形状が形成される。また、この段階では、図4に示すように、強化繊維基材12、マンドレル13ともに長手方向X−Xにストレート状に延びている。このストレート状に延びている段階で、Z形横断面形状の高さが長手方向X−Xの部位によって変化していてもよい。
【0036】
次に、図5に示すように、強化繊維基材12とマンドレル13を第1バッグ材としての第1のバギングフィルム14で密閉することにより第1バッグ構造体15を形成し、その内部を真空ポンプ等による真空吸引によって減圧(真空度〔真空圧〕V1)することにより、該減圧に伴う第1のバギングフィルム14の収縮により強化繊維基材12をマンドレル13に押し付け、強化繊維基材12をマンドレル13の形状に沿わせて所定の横断面形状(Z形横断面形状)に賦形する(工程B)。この賦形に際し、本実施態様では、第1のバギングフィルム14の収縮により強化繊維基材12をマンドレル13に向けて押圧可能な押圧板16が配置される。本実施態様では、フランジ部3に対応する部位にのみ押圧板16が配置されているが、フランジ部4に対応する部位や他の部位に対しても設けることができる。この押圧板16は、後述の工程Dにおける強化繊維基材12の賦形に伴って変形可能な部材からなる。
【0037】
次に、図6(A)に示すように、第1バッグ構造体15を、長手方向X−Xに所定の湾曲もしくは屈曲形状を有する賦形型17の上に配置し(工程C)、賦形型17上の第1バッグ構造体15を第2バッグ材としての第2のバギングフィルム18でシール材19を利用して密閉する(工程Dの前段)。このとき、第1バッグ構造体15の内部の強化繊維基材12、マンドレル13、押圧板16は、図6(B)に示すように、図5に示した工程B後の横断面形状、状態に保たれている。
【0038】
次に、図7(A)に示すように、第1バッグ構造体15を密閉した第2のバギングフィルム18の内部を真空ポンプ等による真空吸引によって減圧(真空度〔真空圧〕V2)することにより、第1バッグ構造体15内の強化繊維基材12を上記賦形型17の形状に沿わせて長手方向X−Xに湾曲した形状に賦形する(工程Dの後段)。このとき、第1バッグ構造体15の内部の強化繊維基材12、マンドレル13、押圧板16の横断面形状は、図7(B)に示すように、実質的にそのままの横断面形状に保たれている。ただし、次に述べるコンパクション処理を行う場合には、強化繊維基材12はその肉厚方向に多少縮小する。この工程Dにおいては、例えば図8に示すように、強化繊維基材12がマンドレル13とともに長手方向X−Xに湾曲され、所定の湾曲形状に賦形される。
【0039】
この工程Dにおいては、第1のバギングフィルム14内の真空度V1の方が、第2のバギングフィルム18内の真空度V2よりも低いことが好ましい。これは、第1のバギングフィルム14内の強化繊維基材12を第1のバギングフィルム14で締め付けすぎないようにして強化繊維基材12の良好な賦形性を維持しつつ、第2のバギングフィルム18により第1バッグ構造体15内の強化繊維基材12を所定の湾曲形状に円滑に賦形するためである。真空吸引する場合には、第1のバギングフィルム14内に対しては、ある程度真空度V1を弱めるように真空吸引し、第2のバギングフィルム18内に対しては、フル真空吸引すればよい。
【0040】
ただし、強化繊維基材12を所定の湾曲形状への賦形が終了した段階、あるいはほぼ終了した段階では、その所定の湾曲形状に固定しておくことが望まれるので、工程Dの後に、または工程Dの最終段階で、工程Dにおける第1のバギングフィルム14内の真空度V1をより高め(例えば、第1のバギングフィルム14内に対してフル真空吸引とすることにより真空度V1をより高め)、第1のバギングフィルム14の内部の減圧に伴う第1のバギングフィルム14の収縮による押圧力をより高める工程F、つまり、強化繊維基材12のコンパクション処理を行う工程Fを有することが好ましい。この工程Fにより、所定の横断面形状および湾曲形状に賦形されていた強化繊維基材12に対しコンパクション処理が施され、プリフォームとしての最終目標形状が維持されるようになる。
【0041】
また、上記のように所定の形状に賦形された強化繊維基材12の最終賦形形状をより確実に保つために、工程Dの後に、または工程Dの最終段階で、賦形された強化繊維基材12を加熱する工程Gを有することが好ましい。これによって、熱的に形状固定することが可能になる。
【0042】
また、前述したように、強化繊維基材12には、表面に仮接着用の樹脂粒子を有する強化繊維材の積層体を使用することも可能である。この形態では、上記の最終形状への賦形が終了する前の段階では、良好な賦形性を維持しつつ、積層体からなる強化繊維基材12の取り扱い性の向上をはかることができ、工程Dの後または工程Dの最終段階では、上記のような加圧、加熱処理により、樹脂粒子を利用して強化繊維材を層間でより強固に接着させ、プリフォームとしての最終賦形形状の維持をはかることができる。
【0043】
なお、前述したように、上記強化繊維基材12としては、長手方向X−Xに対する配向角度が0度の強化繊維糸条を含む基材、例えば配向角度が0度の強化繊維糸条を含む布状基材を使用することができる。このような強化繊維基材を使用すれば、最終的に、長手方向X−Xの湾曲賦形形状の周方向に沿って上記0度配向強化繊維糸条を配置することが可能になり、布状の織物基材等を容易に使用することができるようになって、安価に所望形状のプリフォームを製造できるようになる。
【0044】
上記のような工程を経て目標とする湾曲形状に賦形されたZ形横断面形状のプリフォーム1を用いて、FRP製部材、例えば、FRP製ビームやFRP製ストリンガーが成形される。この成形には、前述したようにRTM成形方法やVaRTM成形方法を適用できる。この成形においては、例えば図9に示すように、所定形状に賦形されたプリフォーム1の少なくともいずれかの部位に対し、図示例では少なくともウエブ部に対して、所定形状の剛体板21を配置し、その状態でマトリックス樹脂を含浸させることができる。このような剛体板21を配置しておけば、より確実にFRP製部材の目標形状への成形が可能になる。
【0045】
図10は、上述したような所定のZ形横断面形状および長手方向X−Xにおける湾曲形状を有するプリフォーム31を賦形するに際し、スリット32を有する強化繊維基材を使用した場合を例示している。図示例では、フランジ部33に賦形される部位において長手方向X−Xに交差する方向に延びるスリット32(切り欠き)が、長手方向X−Xに複数形成されており、各スリット32は、フランジ部33からウエブ部34の一部まで延びている。このようなスリット32を予め強化繊維基材に設けておくと、とくに長手方向X−Xに湾曲賦形される際に、スリット部で皺や折れ曲がりを生じさせようとする力が解放されるため、皺や折れ曲がりの発生を一層確実にかつ効率よく防止できるようになる。なお、図10における破線は強化繊維糸条の配向方向を示しており、長手方向X−Xに対して0度方向に配向されている。このような0度配向強化繊維糸条の場合にも、スリット32の存在により、皺や折れ曲がりの発生を確実に防止することができる。
【0046】
なお、上記各実施態様では、長手方向X−Xに湾曲した形状を有するプリフォーム1、31を賦形する場合について説明したが、本発明は、長手方向X−Xに屈曲した形状を有するプリフォームを賦形する場合についても、屈曲に追従変形可能なマンドレルを使用することにより、適用可能である。
【0047】
また、本発明においては、前述したように、用いる強化繊維基材が、強化繊維糸条が一方向に平行に配列した強化繊維材からなる形態を好ましい形態として採用できる。一方向配列強化繊維材を用いることにより、FRP製部材の力学特性の向上が可能になる。この場合、単に、強化繊維糸条が一方向に平行に配列した強化繊維材の積層体からなる強化繊維基材を用いて、本発明のような長手方向に湾曲もしくは屈曲している形状に賦形すると、大きな皺が発生するおそれがあり、皺による繊維の屈曲、蛇行などにより、逆に力学特性が低下するおそれがあるが、本発明に係る特定の方法により、強化繊維糸条が一方向に平行に配列した強化繊維材を用いた場合であっても、大きな皺の発生なくプリフォームを製造することができるようになる。
【0048】
例えば、図11に示すような、ウエブ部42の両側に上フランジ部43と下フランジ部44が接続されたZ形横断面形状の、長手方向X−Xに湾曲したプリフォーム41を賦形しようとする場合を考えてみる。例えば図12に示すような、通常の、強化繊維糸条51が一方向に(例えば、長手方向X−Xに対し0度方向に)平行に配列され強化繊維糸条51が(より正確には強化繊維糸条51の繊維束が)よこ糸52で布状に結束された強化繊維材53を用い(図示例では表層として用い)、それと同じ一方向配向の強化繊維材または異なる方向に強化繊維糸条が配列された強化繊維材54(図示例では異なる方向に配列された強化繊維材54)とを、複数枚積層して強化繊維基材55を形成している(なお、図12は、分かりやすくするために積層体からなる強化繊維基材55の表層の0度層のみを浮かせた状態で図示してある。この積層体からなる強化繊維基材55における各強化繊維材は必ずしも厚み方向に結束されてはいない)。このような積層体からなる強化繊維基材55を用いて、上記ウエブ部42に相当する部分56に対し上フランジ部相当部分57および下フランジ部相当部分58を屈曲賦形し、さらに長手方向X−Xに湾曲賦形する場合、とくにウエブ部や各フランジ部における湾曲凹部となる部位に皺が発生しやすい。
【0049】
しかし、本発明に係る特定の方法では、例えば、図13に示すように、強化繊維糸条61が一方向に(例えば、長手方向X−Xに対し0度方向に)平行に配列され強化繊維糸条61が(より正確には強化繊維糸条61の繊維束が)よこ糸62で布状に結束された強化繊維材63を用い(図示例では表層として用い)、他の強化繊維材64との積層体からなる強化繊維基材65を作製するに際し、例えば表層の0度層を構成している強化繊維材63に対し、ウエブ部相当部分66とそれに対し屈曲賦形されるべき上フランジ部相当部分67および下フランジ部相当部分68との境界部を、よこ糸62で結束されていない分断状態の部位69に形成した積層体からなる強化繊維基材65を用いて、ウエブ部相当部分66に対し上フランジ部相当部分67および下フランジ部相当部分68を屈曲賦形し、さらに長手方向X−Xに湾曲賦形すると、皺の発生を抑制することができるため好ましい。なお、図13においても、分かりやすくするために積層体からなる強化繊維基材65の表層の0度層のみを浮かせた状態で図示してある。0度層以外は、従来通りよこ糸で結束されていてもよい。
【0050】
すなわち、通常は上記のような強化繊維基材を作製する場合、強化繊維糸条が一方向に平行に配列された強化繊維材は布状形態を保つために強化繊維糸条の繊維束が全てよこ糸により結束されている。このよこ糸を切断することにより、強化繊維材における幅方向の所定の部位に、結束しないことによる、0度繊維配向の強化繊維材を長手方向に沿って平行に切断分離した部位を設けることができる(分断状態にすることができる)。このような0度の強化繊維材を所定箇所で切断分離した状態で積層した強化繊維基材を形成し、それを使用すれば、賦形した際により皺の発生を抑制することができるため好ましい。なお、分断状態の部位69においては、その両側の強化繊維材部分間に隙間が開いている必要はない。また、図示例のごとく、積層される他の強化繊維材は長手方向X−Xに対する角度が0度以外の角度の強化繊維糸条を含んでいてもよく、0度配向の強化繊維糸条を含んでいてもよい。これら他の強化繊維材は、分断部位69にて、必ずしも切断されている必要はない。湾曲形状への賦形において、45度層や90度層などは比較的賦形しやすいが、0度層は賦形しにくいため、特に0度層の強化繊維材がよこ糸で結束されていない分断状態を有することにより、賦形性が向上できるため好ましい。必ずしもすべての0度層が分断状態を有する必要はないが、図13、14に示すように、表層だけでなく、内挿される0度層についても分断状態を有することが好ましい。
【0051】
更に、上記のような分断部位は、必要に応じて、横断面が屈曲賦形される部位以外にも設けることができる。例えば図13に示した強化繊維基材65に、さらに、図14に示すように、ウェブ部相当部分66に対しその幅方向中央部に、少なくとも1本の長手方向X−Xに延びる分断部位を追加した分断部位71を有する強化繊維基材72とすることもできる。すなわち、ウェブ部相当部分66が、長手方向に平行に少なくとも2分割以上に分断された状態にて、表層の0度配向強化繊維材63が積層されている形態である。このように分断部位を適切に設定することで、皺の発生をより一層抑制することができるようになる。
【0052】
このように、本発明は、従来の通常の布状強化繊維材の積層体からなる強化繊維基材を用いた場合にあっても湾曲賦形を行うことができるとともに、上記のような一方向強化繊維材を用いて積層体からなる強化繊維基材を形成しそれを用いた場合には、より皺の発生を抑制できるという点に大きな特徴を有している。
【実施例】
【0053】
<実施例1>
Z形横断面形状の長手方向に曲率半径R2000mmで湾曲している、長さ1mのプリフォームを次の手段で作製した。
強化繊維材には、東レ(株)製T800Sの炭素繊維糸条がよこ糸で結束された一方向織物を用い、その一方向織物にポリエーテルスルホンとエポキシからなる高靱性層間強化樹脂粒子を分散付与した強化繊維材を裁断し、積層構成[45/0/−45/90/45/0/−45/90]Sに積層して、幅140mm、長さ450mmの強化繊維基材を作製した。ここで積層構成[45/0/−45/90/45/0/−45/90]Sの45、0、−45、90は長手方向を0°とした場合の積層角度およびその順番を意味する。Sは鏡面対象を意味する。
【0054】
次いで、シリコンラバーからなる2本のフレキシブルマンドレルを準備した。フレキシブルマンドレルは、断面形状が、高さ70mm、幅40mmで、長さ460mmであり、各角はR5mmのR加工を施した直方体形状である。フレキシブルマンドレルに強化繊維基材を配置し、図7(B)のように、強化繊維基材がZ形横断面形状となるように、賦形し、第1バッグ材としてナイロン製バギングフィルムとシーリングテープを用いて密閉した後、内部を真空吸引することにより、第1バッグ構造体を作製した。
【0055】
次に第1バッグ構造体を曲率半径R2000mmの曲面を有する曲面型の上に配置し、第1バッグ構造体を第2バッグ材としてのナイロン製のバギングフィルムとシーリングテープを用いて密閉した後、内部を真空吸引することにより、第1バッグ構造体を曲面型に沿わせて、強化繊維基材をZ形横断面形状を有し、長手方向に曲率半径R2000mmで湾曲したフレーム形状に賦形した。
【0056】
第1バッグ材、および第2バッグ材の内部を共に真空吸引して、大気圧を利用して加圧した状態にてオーブン内に入れて、温度80℃にて2時間の加熱処理を行った。
【0057】
室温に冷却した後、第1バッグ材、第2バッグ材を外して、プリフォームを作製した。プリフォーム外観検査をした結果、凹部側のフランジ部に若干の凸形状の皺が確認されたものの、成形品に問題となるような大きな皺はなく、高品位なプリフォームであることが確認された。
【0058】
<実施例2>
図7(B)のように、プリフォームの凹部側のフランジ部に、厚み2mm、幅30mm、長さ450mmのアルミニウム製押圧板を配置した以外は、実施例1と同様にしてプリフォームを作製した。プリフォームの外観検査を行った結果、凹部側のフランジ部に凸形状の皺はなく、高品位なプリフォームであることが確認された。
【0059】
<実施例3>
図10に示すように、プリフォームのフランジ部からウェブ部の一部に延びる切り欠き(スリット)を有するように、予め強化繊維基材を作製した他は、実施例2と同様にしてプリフォームを作製した。プリフォームの外観検査を行った結果、フランジ部、ウェブ部共に成形品に問題となるような大きな皺はなく、高品位なプリフォームであることが確認された。
【0060】
<実施例4>
図14のように、強化繊維基材を構成している0度強化繊維配向層のウエブ部相当部分66とそれに対し屈曲賦形されるべき上フランジ部相当部分67およびFフランジ部相当部分68との境界部およびウエブ部相当部分66が、長手方向に平行に4分割になるように横糸が切断された分断状態部位を有する形態で積層した以外は実施例3と同様にしてプリフォームを作製した。プリフォームの外観検査を行った結果、フランジ部、ウエブ部共に成形品に問題となるような大きな皺はなく、高品位なプリフォームであることが確認された。
【0061】
<実施例5>
実施例3で作製したプリフォームの凹部側のフランジ部および両ウェブ面にウェブ形状に一致した厚さ2mmのアルミニウム製の押圧板を配置した状態にてナイロン製バギングフィルムで密閉し、内部を真空吸引してVaRTM成形により、エポキシ樹脂を注入し、オーブン内にて130℃、2時間の加熱処理を行い、エポキシ樹脂を硬化させた。エポキシ樹脂の硬化後、冷却して、バギングフィルムを外して押圧材を脱型してCFRP製フレームを作製した。
【0062】
CFRP製フレームの外観検査をした結果、ウェブ部、フランジ部共に目立つ皺はなく、良好な外観を有することを確認した。また、JIS K7075−1991に記載の(4)硫酸分解法により同フレームのウェブおよびフランジ面の各5ヶ所の強化繊維体積含有率を測定した結果、すべての部位において55.0〜60.0%の範囲内であることを確認した。
【0063】
<実施例6>
実施例4で作製したプリフォームの凹部側のフランジ部および両ウェブ面にウェブ形状に一致した厚さ2mmのアルミニウム製の押圧板を配置した状態にてナイロン製バギングフィルムで密閉し、内部を真空吸引してVaRTM成形により、エポキシ樹脂を注入し、オーブン内にて130℃、2時間の加熱処理を行い、エポキシ樹脂を硬化させた。エポキシ樹脂の硬化後、冷却して、バギングフィルムを外して押圧材を脱型してCFRP製フレームを作製した。
【0064】
CFRP製フレームの外観検査をした結果、ウェブ部、フランジ部共に目立つ皺はなく、良好な外観を有することを確認した。また、JIS K7075−1991に記載の(4)硫酸分解法により同フレームのウェブおよびフランジ面の各5ヶ所の強化繊維体積含有率を測定した結果、すべての部位において55.0〜60.0%の範囲内であることを確認した。
【0065】
<比較例1>
実施例1で用いたフレキシブルマンドレルと同形状のアルミニウム製マンドレルを用いて、実施例1と同様に第1バッグ構造体を準備し、そのままオーブン内に投入して温度80℃、2時間の加熱処理によりZ形横断面形状を有するストレートなプリフォームを作製した。
【0066】
このストレートなプリフォームを実施例1で用いた曲面型の上に配置し、プリフォームをナイロン製バギングフィルムで密閉し、内部を真空吸引することにより曲面型に沿わせた状態にて、オーブン内にて温度80℃、2時間の加熱処理を行い、プリフォームを作製した。プリフォームの外観検査を行った結果、プリフォームの長手方向のほぼ中央の両フランジ、ウェブ部に大きな皺が多数確認された。
【0067】
<比較例2>
比較例1と同様に、Z形横断面形状を有するストレートなプリフォームを作製し、同プリフォームに実施例1で用いたフレキシブルマンドレルを配置した状態にて、実施例1で用いた曲面型の上に配置し、プリフォームおよびフレキシブルマンドレルを共にナイロン製バギングフィルムで密閉し、内部を真空吸引することにより、曲面型に沿わせた状態にて、オーブン内にて温度80℃、2時間の加熱処理を行い、プリフォームを作製した。プリフォームの外観検査を行った結果、プリフォームの長手方向のほぼ中央の両フランジ、ウェブ部に大きな皺が多数確認された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係るFRP製部材用プリフォームおよびその製造方法並びにその方法を用いたFRP製部材の製造方法は、長手方向に湾曲もしくは屈曲しているFRP製部材およびその樹脂含浸前のプリフォームを製造することが求められるあらゆる用途に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施態様に係るFRP製部材用プリフォームの製造方法により製造されるべき樹脂含浸前のプリフォームの形状例を示す斜視図である。
【図2】図1のFRP製部材用プリフォームを製造するための一ステップを示す概略横断面図である。
【図3】図2の次のステップを示す概略横断面図である。
【図4】図3のステップにおける各部材の概略斜視図である。
【図5】図3の次のステップを示す概略横断面図である。
【図6】図5の次のステップを示す概略縦断面図(図6(A))および図6(A)のA−A線に沿う概略拡大横断面図(図6(B))である。
【図7】図6の次のステップを示す概略縦断面図(図7(A))および図7(A)のA’−A’線に沿う概略拡大横断面図(図7(B))である。
【図8】図7のステップにおける各部材の概略斜視図である。
【図9】FRP製部材の成形における各部材配置例を示す概略横断面図である。
【図10】本発明の別の実施態様に係るFRP製部材用プリフォームの製造方法により製造されるべき樹脂含浸前のプリフォームの形状例を示す斜視図である。
【図11】賦形しようとするプリフォームの一例を示す斜視図である。
【図12】図11のプリフォームの賦形に使用する強化繊維基材の一例を示す斜視図である。
【図13】図11のプリフォームの賦形に使用する強化繊維基材の好ましい形態の一例を示す斜視図である。
【図14】図11のプリフォームの賦形に使用する強化繊維基材の別の好ましい形態の一例を示す斜視図である。
【図15】従来技術におけるプリフォーム賦形上の問題点を示すための図であり、(A)は湾曲賦形前の強化繊維基材の横断面図、(B)は側面図、(C)は湾曲賦形した際の強化繊維基材の側面図である。
【符号の説明】
【0070】
1、31 プリフォーム
2、34 ウエブ部
3、4、33 フランジ部
11 強化繊維材
12 強化繊維基材
13 マンドレル
14 第1バッグ材としての第1のバギングフィルム
15 第1バッグ構造体
16 押圧板
17 賦形型
18 第2バッグ材としての第2のバギングフィルム
19 シール材
21 剛体板
32 スリット
41 賦形しようとするプリフォーム
42 ウエブ部
43 上フランジ部
44 下フランジ部
51、61 強化繊維糸条
52、62 よこ糸
53、63 一方向強化繊維材
54、64 他の強化繊維材
55、65、72 強化繊維基材
56、66 ウエブ部相当部分
57、67 上フランジ部相当部分
58、68 下フランジ部相当部分
69、71 分断部位
X−X 長手方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に湾曲もしくは屈曲しているFRP製部材の樹脂含浸前のプリフォームを製造するに際し、
長手方向に延びる強化繊維材の積層体からなるドライの強化繊維基材を弾性変形可能なマンドレルに沿わせて配置する工程Aと、
前記強化繊維基材とマンドレルを第1バッグ材で密閉することにより第1バッグ構造体を形成し、その内部を減圧することにより前記強化繊維基材を前記マンドレルの形状に沿わせて所定の横断面形状に賦形する工程Bと、
前記第1バッグ構造体を、長手方向に所定の湾曲もしくは屈曲形状を有する賦形型の上に配置する工程Cと、
前記賦形型上の第1バッグ構造体を第2バッグ材で密閉し、第2バッグ材の内部を減圧することにより、第1バッグ構造体内の強化繊維基材を前記賦形型の形状に沿わせて長手方向に湾曲もしくは屈曲した形状に賦形する工程Dと、
を有することを特徴とするFRP製部材用プリフォームの製造方法。
【請求項2】
工程Bの前に、工程Aで配置された強化繊維基材をマンドレルの形状に沿わせて予賦形する工程Eを有する、請求項1に記載のFRP製部材用プリフォームの製造方法。
【請求項3】
工程Bにおいて、第1バッグ材内に、第1バッグ材の内部の減圧に伴う第1バッグ材の収縮により前記強化繊維基材を前記マンドレルに向けて押圧可能な押圧板を配置する、請求項1または2に記載のFRP製部材用プリフォームの製造方法。
【請求項4】
前記押圧板が、工程Dにおける前記強化繊維基材の賦形に伴って変形可能な部材からなる、請求項3に記載のFRP製部材用プリフォームの製造方法。
【請求項5】
工程Dにおいて、第1バッグ材内の真空度の方が、第2バッグ材内の真空度よりも低い、請求項1〜4のいずれかに記載のFRP製部材用プリフォームの製造方法。
【請求項6】
工程Dの後に、または工程Dの最終段階で、工程Dにおける第1バッグ材内の真空度をより高め、第1バッグ材の内部の減圧に伴う第1バッグ材の収縮による押圧力をより高める工程Fを有する、請求項1〜5のいずれかに記載のFRP製部材用プリフォームの製造方法。
【請求項7】
工程Dの後に、または工程Dの最終段階で、賦形された強化繊維基材を加熱する工程Gを有する、請求項1〜6のいずれかに記載のFRP製部材用プリフォームの製造方法。
【請求項8】
前記強化繊維基材が、強化繊維糸条が一方向に平行に配列した強化繊維材を用いて形成されている、請求項1〜7のいずれかに記載のFRP製部材用プリフォームの製造方法。
【請求項9】
前記強化繊維基材が、長手方向に対する配向角度が0度の強化繊維糸条を含む基材からなる、請求項1〜8のいずれかに記載のFRP製部材用プリフォームの製造方法。
【請求項10】
所定の横断面形状に賦形される前の前記強化繊維基材が、長手方向に対し横断する方向における予め定められた部位にて強化繊維糸条が布状に結束されずに分断状態とされている強化繊維材を含んでいる、請求項8または9に記載のFRP製部材用プリフォームの製造方法。
【請求項11】
前記予め定められた部位が、前記強化繊維基材が所定の横断面形状に賦形される際に屈曲横断面部位となるべき部位を含む、請求項10に記載のFRP製部材用プリフォームの製造方法。
【請求項12】
前記強化繊維基材が、表面に樹脂粒子を有する強化繊維材の積層体からなる、請求項1〜11のいずれかに記載のFRP製部材用プリフォームの製造方法。
【請求項13】
前記強化繊維基材が、炭素繊維を含む基材からなる、請求項1〜12のいずれかに記載のFRP製部材用プリフォームの製造方法。
【請求項14】
前記マンドレルが、長手方向に実質的に前記強化繊維基材の全長にわたって連続的に延びている、請求項1〜13のいずれかに記載のFRP製部材用プリフォームの製造方法。
【請求項15】
前記強化繊維基材を、前記マンドレルの形状に沿わせてウエブ部と該ウエブ部の端部で屈曲して延びるフランジ部を有する横断面形状に賦形する、請求項1〜14のいずれかに記載のFRP製部材用プリフォームの製造方法。
【請求項16】
前記強化繊維基材が、前記フランジ部に賦形される部位において長手方向に交差する方向に延びるスリットを有する、請求項15に記載のFRP製部材用プリフォームの製造方法。
【請求項17】
長手方向に湾曲もしくは屈曲しているFRP製部材の樹脂含浸前のプリフォームであって、該プリフォームを形成する強化繊維基材は、強化繊維糸条が一方向に平行に配列した強化繊維材を用いて形成されており、かつ、強化繊維糸条が前記長手方向に湾曲もしくは屈曲しているFRP製部材の長手方向に対し0度の角度で配向されている強化繊維材を含むことを特徴とするFRP製部材用プリフォーム。
【請求項18】
ウエブ部と該ウエブ部の端部で屈曲して延びるフランジ部を有する横断面形状を有する、請求項17に記載のFRP製部材用プリフォーム。
【請求項19】
ウエブ部およびフランジ部のいずれかにおける皺の高さが0.5mm以下である、請求項18に記載のFRP製部材用プリフォーム。
【請求項20】
請求項1〜16のいずれかに記載の方法により賦形されたものからなる、請求項17〜19のいずれかに記載のFRP製部材用プリフォーム。
【請求項21】
請求項1〜16のいずれかに記載の方法により賦形されたプリフォームにマトリックス樹脂を含浸させ硬化させる、FRP製部材の製造方法。
【請求項22】
賦形されたプリフォームの少なくともいずれかの部位に対し剛体板を配置した状態でマトリックス樹脂を含浸させる、請求項21に記載のFRP製部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−191092(P2009−191092A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30084(P2008−30084)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】