説明

GPS測位装置

【課題】 マルチパスによる影響を低減し、測位精度の高い「GPS測位装置」を提供する。
【解決手段】 GPS測位装置は、移動体の高度情報Zoを記憶する高度情報メモリ34と、捕捉可能な複数のGPS衛星の中からGPS衛星の組合せを求める組合せ算出部30と、組合せ毎に移動体の3次元位置を計測する位置計測部32と、計測された3次元位置に含まれる高度情報Zと高度情報メモリ34かた提供される高度情報Zoとの差分を求める差分抽出部36と、抽出された差分としきい値とを比較し、差分がしきい値以下となるGPS衛星の組合せを選択し、選択された組合せの3次元位置に基づき移動体の測位位置を決定する位置決定部38とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の位置をGPS(Global Positioning System)を利用して測位するGPS測位装置、GPS測位方法、GPS測位プログラム、およびこれらを用いたナビゲーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の移動体の位置を算出する方法として、GPS衛星を利用した測位(以下、GPS測位という)が広く利用されている。GPS測位は、3つのGPS衛星を捕捉することができれば、移動体の2次元位置(緯度、経度)を測位することができ、4つ以上のGPS衛星を捕捉することができれば、移動体の3次元位置(緯度、経度、高度)を測位することができる。GPS測位は、測位環境によって捕捉できるGPS衛星の数に変化がある。このため、2次元位置しか測位できないようなとき、直前の3次元測位で得られた高度を利用する方法もある。
【0003】
特許文献1は、GPS受信機に大気圧検知部を設け、2次元測位しかできないとき、大気圧から算出された高度情報を利用して3次元測位を行うものである。
【0004】
特許文献2は、気圧データから高度情報を算出し、道路地図上に複数の高度の異なる道路が存在するとき、算出された高度情報に近い道路を選択して自車位置のマップマッチングを行うナビゲーション装置を開示している。
【0005】
特許文献3は、気圧を計測し、その気圧から移動体の高度を検出し、検出された高度をGPS測位により得られた移動体の高度を基準に校正し、移動体の位置速度を算出する移動体用航法装置を開示する。また、GPS測位ができないときは、気圧から検出された高度を利用する。
【0006】
特許文献4は、高度変化に由来する気圧変動分を除去し、気象条件に由来する変動分だけを含んだ気圧を測定する気圧計を開示する。
【0007】
【特許文献1】特開平5−45436号
【特許文献2】特開2000−275051号
【特許文献3】特開2006−214993号
【特許文献4】特開平9−61269号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、移動体の位置を算出するとき、GPS測位が利用されるが、概してGPS受信機は、捕捉できるGPS衛星のすべての信号を利用し、測位演算を行っている。例えば、GPS受信機により5つ以上のGPS衛星を捕捉できるとき、その中からGPS衛星の組合せを求め、求められた組合せの3次元位置の平均値を測位位置としたり、あるいはGPS衛星の受信強度や仰角から特定のGPS衛星の組合せを選択し、選択された組合せの3次元位置を測位位置としていた。
【0009】
しかしながら、GPS測位は、測位環境に影響され易いという欠点がある。例えば、移動体が高層ビル等が多い都市エリアを移動する場合、GPS衛星からGPS受信機に到来する信号にマルチパスが生じることがある。現状のGPS受信機では、どのGPS衛星からの信号がマルチパスの影響を受けているのかを特定することができないため、マルチパスの影響を受けたGPS衛星からの信号を利用して測位してしまい、その結果、移動体の位置に大きな誤差を含ませ、GPS測位精度を劣化させてしまうという課題があった。
【0010】
本発明は、このような従来の課題を解決するために成されたものであり、マルチパスによる影響を低減し、測位精度の高いGPS測位装置、GPS測位方法およびGPS測位プログラムを提供することを目的とする。
さらに本発明は、マルチパスの影響のあるGPS衛星を特定し、そのようなGPS衛星を移動体の測位に用いないGPS測位装置、GPS測位方法およびGPS測位プログラムを提供することを目的とする。
さらに本発明は、上記のGPS測位装置、GPS測位方法またはGPS測位プログラムを利用し、車両等の移動体の位置を正確に表示し、かつ移動体の経路案内を行うことができるナビゲーション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るGPS測位装置は、移動体の位置をGPS測位により算出するものであって、移動体の高度情報Zoを取得する取得手段と、捕捉可能な複数のGPS衛星の中からGPS衛星の組合せを求め、GPS衛星の組合せ毎に移動体の3次元位置を計測する計測手段と、前記計測された3次元位置に含まれる高度情報Zと高度情報Zoとの差分を求める差分抽出手段と、抽出された差分としきい値とを比較し、差分がしきい値以下となるGPS衛星の組合せを選択し、選択された組合せの3次元位置に基づき移動体の測位位置を決定する位置決定手段とを有する。
【0012】
好ましくは計測手段は、捕捉可能なGPS衛星の数をn(nは、自然数)としたとき、通りのGPS衛星の組合せを求める。4つのGPS衛星の組合せにより移動体の3次元位置の計測が可能である。また、計測手段は、GPS衛星のPDOP値が一定値以上の組合せを除外するようにしてもよい。GPS衛星の配置によりPDOP値が大きいと測位精度が劣化するためである。
【0013】
位置決定手段は、差分がしきい値以下となるGPS衛星の組合せが複数あるとき、当該複数の組合せの中から差分が最小となる組合せを選択し、当該組合せの3次元位置を測位位置とすることができる。あるいは、複数の組合せの3次元位置の平均を移動体の測位位置とすることができる。
【0014】
また位置決定手段は、差分がしきい値以下となる組合せがないとき、前記計測手段による3次元位置を測位位置としないようにしてもよい。高度情報Zoは、気圧計により計測された気圧から求められた絶対高度を用いることでき、あるいは、道路地図データベースから求められた絶対高度を用いることができる。
【0015】
さらに好ましくは位置決定手段は、高度情報Zoの信頼度に応じてしきい値を可変するようにしてもよい。高度情報Zoの信頼度は、例えば、気圧計の信頼度である。信頼度が低ければ、しきい値を大きくし、その反対に信頼度が高ければ、しきい値を小さくすることができる。
【0016】
本発明に係るGPS測位方法またはそのプログラムは、移動体の高度情報Zoを取得するステップと、捕捉可能な複数のGPS衛星の数をn(nは、自然数)としたとき、通りのGPS衛星の組合せを求め、組合せ毎に移動体の3次元位置を計測するステップと、計測された3次元位置に含まれる高度情報Zと高度情報Zoとの差分を求めるステップと、差分としきい値とを比較するステップと、差分がしきい値以下となるGPS衛星の組合せを選択するステップと、選択された組合せの3次元位置に基づき移動体の測位位置を決定するステップとを有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、GPS測位以外の方法で取得された移動体の高度情報ZoとGPS測位により計測された高度情報Zとの差分がしきい値を越えるとき、GPS衛星の組合せにはマルチパスの影響を受けたGPS衛星が含まれると判定して当該組合せをGPS測位から除くようにしたので、GPS測位におけるマルチパスの影響を防止し、測位精度の劣化を阻止することができる。この結果、従来と比較して移動体の位置精度は向上し、ひいては、GPS測位を利用するナビゲーション装置においてディスプレイの道路地図上に正確に移動体を表示させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の最良の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0019】
図1は、本発明の実施例に係るGPS測位装置の構成を示すブロック図である。GPS測位装置10は、GPS衛星から送られてくる信号を受信するGPS受信アンテナ12と、受信した信号のデコード等の処理を行い、その信号を位置算出部20へ出力する受信部14と、GPS測位以外の方法を用いて移動体の高度情報をリアルタイムで取得する高度情報取得部16と、受信部14で受信された信号と高度情報取得部16で取得された高度情報に基づき移動体の位置を算出する位置算出部20とを含んでいる。位置算出部30は、例えば、マイクロコンピュータを含み、ROM/RAMに格納されたプログラムによって移動体の位置算出を実行することができる。
【0020】
図2は、図1に示す位置算出部の機能的な構成を示すブロック図である。位置算出部20は、受信部14から受信した信号に基づき捕捉可能なGPS衛星が複数あるときそれらの中からGPS衛星の組合せを算出するGPS衛星組合せ算出部30と、組み合わされたGPS衛星の信号に基づき2次元または3次元位置を計測する位置計測部32と、高度情報取得部16で取得された高度情報(ここでは、絶対高度Zoとする)を記憶しその内容を逐次最新のものに更新する高度情報メモリ34と、位置計測部32で計測された3次元位置に含まれる絶対高度Zと高度情報メモリ34に記憶された絶対高度Zoとの差分を抽出する高度情報差分抽出部36と、高度情報差分抽出部36で求められた差分としきい値とを比較し、比較結果に基づき移動体の測位位置を決定する位置決定部38とを含んで構成される。
【0021】
GPS衛星組合せ算出部30は、受信部14からの信号に基づき、捕捉可能なGPS衛星を識別する。捕捉可能なGPS衛星の数が5つ以上あるとき、組合せ算出部30は、GPS衛星から4つの組合せを算出する。捕捉可能なGPS衛星の数をn(nは、5以上の自然数)としたとき、組合せ算出部30は、n個のGPS衛星の中から4つのGPS衛星の組合せ、すなわちを算出する。捕捉可能なGPS衛星の数が5つであれば、その組合せは、5通りとなる。
【0022】
位置計測部32は、組合せ算出部30からGPS衛星の組合せを受け取ると、組合せ毎に位置を計測する。例えば、図3に示すように、捕捉可能なGPS衛星の番号が、「3」、「7」、「15」、「24」、「29」であるとき、GPS衛星の組合せは、[3,7,15,24]、[3,7,15,29]、[3,7,24,29]、[3,15,24,29]、[7,15,24,29]の5通りであり、これらの5通りの組合せの3次元位置(XYZ)が計測される。例えば、第1の組合せ[3,7,15,24]の計測結果は、緯度(X位置)が35度41分354297秒、経度(Y位置)が139度41分78353秒、絶対高度(Z)が578メートルである。一方、捕捉可能なGPS衛星の数が4つである場合には、その組合せは1つに決定され、その3次元位置が計測され、捕捉可能なGPS衛星の数が3つである場合には、その2次元位置が計測される。
【0023】
高度情報メモリ34は、図1に示す高度情報取得部16で取得された高度情報を逐次更新し、移動体のリアルタイムな絶対高度を高度情報差分抽出部36へ提供する。高度情報を得る方法として、例えば、気圧計(気圧センサ)により移動体が位置する気圧を計測し、計測された気圧から絶対高度を求めることができる。高度情報取得部16は、それ自身が気圧計を含み構成であってもよいし、あるいは、移動体等に取り付けられた気圧計から気圧および/または絶対高度を入力するものであってもよい。
【0024】
また、気圧計以外の高度情報を得る手段として、絶対高度または相対高度を格納した地図データベースを利用することができる。この場合、例えば、GPS測位で得られた移動体のXY位置(緯度、経度)に対応する高度情報を地図データベースから取得することができる。GPS測位以外の自立航法による測位から得られたXY位置を利用して高度情報を取得するようにしてもよい。
【0025】
高度情報差分抽出部36は、高度情報メモリ34に記憶された絶対高度Zoと位置計測部32において計測された3次元位置に含まれる絶対高度Zとを比較し、両者の差分(|Zo−Z|)を抽出する。例えば、GPS衛星の組合せが5通りであれば、5通りの絶対高度Zと絶対高度Zoの差分が抽出される。高度情報差分抽出部36による差分は位置決定部38へ提供される。
【0026】
図4に位置決定部の動作フローを示す。位置決定部38は、差分抽出部36から各組合せの差分を受け取ると(ステップS101)、それぞれの差分を予め設定されたしきい値Sと比較する(ステップS102)。しきい値Sは、GPS測位の精度を判定するものである。例えば、気圧計から得られた絶対高度Zoを基準にGPS測位の精度を判定する場合には、気圧計の精度に基づきしきい値Sが決定される。
【0027】
次に、位置決定部38は、差分がしきい値S以下となるGPS衛星の組合せを検索する(ステップS103)。しきい値S以下となる組合せが存在しないとき(ステップS104)、位置決定部38は、GPS測位の誤差が大きいと判定し、その旨を示す結果を出力する(ステップS105)。このような出力は、例えばナビゲーション装置に供給され、ナビゲーション装置は、GPS測位を自車位置の判定から除外することができる。
【0028】
差分がしきい値S以下となるGPS衛星の組合せが存在するとき(ステップS104)、位置決定部38はさらにその組合せが1つか否かを判定する(ステップS106)。もし、しきい値S以下の組合せが1つであれば、位置決定部38は、当該組合せを最適とみなし、この組合せの測位結果を測位位置に決定する(ステップS107)。しきい値S以下となる組合せが複数存在する場合には、位置決定部38は、好ましくは、その中から差分としきい値Sとの差が最も小さくなる組合せを選択し、この組合せの測位結果を測位位置とする(ステップS108)。
【0029】
図3を参照すると、上記したように、捕捉された5つのGPS衛星の中から5つの組合せが求められ、それぞれの3次元位置が計測される。また、高度情報メモリから提供される絶対高度Zoは、62メートルである。第1の組合せないし第5の組合せにより測位された絶対高度Zと、高度情報メモリ34から得られた絶対高度Zoとの差分を求めると、その差分は上から順に、516m、1m、324m、428m、294mとなる。気圧計の誤差精度が仮に3メートルであるとき、しきい値Sは3メートルに設定される。図3の例において、差分がしきい値S以下となる組合せは、第2の組合せである。他の組合せは、差分がしきい値Sを超えているため、マルチパスの影響を受けたGPS衛星を含むことになる。言い換えれば、第2の組合せは、GPS衛星「24」を除外しており、他の組合せはすべてGPS衛星「24」を含んでいるので、GPS衛星「24」がマルチパスの影響を受けている衛星であると特定することができる。
【0030】
このように、第2のGPS衛星の組合せ[3,7,15,29]は、絶対高度の差分をしきい値S以下に収めているため、GPS測位精度を良好とみなすことができ、この組合せの測位結果を測位位置に利用する。この場合、絶対高度は、GPS測位による61メートルまたは高度情報メモリ(気圧計)から取得した62メートルのいずれを用いてもよい。
【0031】
図3に示す例では、差分がしきい値以下となる組合せは1つしか存在しないが、仮に、差分がしきい値S以下となる組合せが複数ある場合は、上記したように差分が最小となる組合せを測位位置としたり、あるいは、複数の組合せの測位結果の平均を測位位置にしてもよい。一方、差分がしきい値S以下となる組合せが存在しない場合は、GPS測位精度が大きな誤差を含み、その精度が良くないとみなせるため、測位結果の出力を停止したり、精度が悪いことを示す結果を出力するようにすることも可能である。
【0032】
図5は、気圧計から取得された絶対高度とGPS測位から得られた絶対高度を比較する市街地の実測データである。図5の縦軸は、絶対高度[m]であり、横軸は経過時間[s]である。実測データは、温度補償機能を有する高精度の気圧計K1のグラフと、温度補償機能がない低コストの気圧計K2のグラフと、GPS受信機Gのグラフとを示している。グラフK1とグラフK2は、ほぼ近似した絶対高度を出力しているが、経過時間が約100秒となる期間T1、および経過時間が約900秒となる期間T2において、GPS測位の絶対高度がマルチパスの影響により突然大きく変位している。また、経過時間が約600−800の期間T3は、移動体が立体駐車場に進入しGPS測位をすることができない期間であり、その間、GPS測位による絶対高度は一定となっている。他方、気圧計による絶対高度G1、G2は、立体駐車場に入ってからそこを出るまでの高度を忠実に反映している。
【0033】
このように、マルチパスの影響がなければ、GPS測位による絶対高度は、気圧計による絶対高度に追従しほぼ同等の大きさである。両者の差分は、気圧計による誤差範囲内に収まると見ることができる。従って、GPS測位による絶対高度が気圧計による絶対高度から一定以上乖離したとき、GPS衛星がマルチパスの影響を受けているか、GPS衛星を測位することができないと認められ、そのようなマルチパスの影響を受けたGPS衛星を測位対象から除外することで、GPS測位の精度の劣化を防止することができる。
【0034】
次に、本発明の実施例に係るGPS測位装置の好ましい変形例について説明する。捕捉可能なGPS衛星の数が多いとき、例えば、8つのGPS衛星が捕捉可能であると、そこから4つのGPS衛星を選択する組合せは70通り存在する。位置計測部32の負担を軽減し、かつ処理速度を向上させるため、位置決定部38は、差分がしきい値S以下となる組合せの存在を確認した時点で、位置計測部32に対して未処理の組合せの位置計測を停止するように指示を与えるようにしてもよい。この場合、位置決定部38は、最初に差分がしきい値S以下となる組合せの測位結果を測位位置に用いるようにする。
【0035】
また、GPS測位の精度を表す概念に、ドップ(DOP:Dilution of Precision)がある。PDOP(Position Dilution of Precision)は、衛星の配置状態の良否の指標であり、4つの衛星を結んでできる4面体の体積が大きいほど、精度が高くPDOP値が小さくなる。GPS衛星組合せ算出部30は、GPS衛星の組合せから得られたPDOP値が所定値以上であるとき、当該組合せの誤差が大きいものとして、組合せから除外し計測をさせないようにしてもよい。これにより、位置計測部32や位置決定部38による処理の効率化、高速化を図ることができる。
【0036】
次に、高度情報を地図データベースから取得する例について説明する。
地図データベースは、ナビゲーション装置等において自車位置周辺の道路や地図を表示するために、道路や地図をデータベース化している。地図データベースに高度情報を格納する方法として、第1の方法は、例えば図6(a)に示すように、地図データベースに含まれる道路(リンク)データR1、R2、・・・Rn毎にそれらの絶対高度Z1、Z2、・・・Znを含めることができる。例えば、移動体が道路R2上にあるとき、地図データベースから絶対高度Z2を取得することができる。高度情報は、絶対高度であってもよいし、他の隣接する道路との差分を示す相対高度であってもよい。
【0037】
第2の方法は、例えば図6(b)に示すように、地図データを一定の面積を持つ矩形状のメッシュM1、M2、・・・、Mp、・・・Mnに分割し、各メッシュ毎に絶対高度Z1、Z2、・Zp・Znを与える。例えば、移動体の位置がメッシュM2にあれば、メッシュM2の絶対高度Z2を取得することができる。この場合にも、高度情報は、隣接するメッシュの高度との差分である相対高度であっても良い。また、メッシュの形状、大きさは適宜変更することが可能である。
【0038】
地図データベース上の移動体の位置の特定は、GPS測位により得られたX、Y座標を用いることができる。あるいは、GPS測位以外の自立航法センサ(例えば、角度センサと距離センサ)を備えている場合には、自立航法センサによるX、Y座標を用いることができる。
【0039】
さらに、GPS測位装置は、移動体の位置近傍の絶対高度を通信手段を用いて取得するようにしてもよい。例えば、VICSによる光ビーコンや電波ビーコンは、そこを中心とする一定のエリア内の移動体に光または電波を送信するが、この機能を利用して高度情報を送信し、移動体がそのエリア内で絶対高度を受信するようにしてもよい。勿論、VICS以外の他の道路情報提供サービスが提供する無線情報から絶対高度を受信したり、車々間通信により他の車両が保持する絶対高度を受信するようにしてもよい。
【0040】
次に、気圧計により絶対高度を求める際の好ましい構成例を説明する。気圧計を用いる場合には、天候による気圧変動を考慮することが好ましい。なぜなら、低気圧や台風が接近し、または通過するとき気圧変動が大きくなり、気圧計による精度が劣化しやすくなるためである。例えば、低気圧の通過による気圧変動が2hPa/hであるとき、1時間で約16mの高さの誤差が発生する。また、台風の通過による気圧変動が2hPa/15分であるとき、15分で約16mの高さの誤差が発生する。
【0041】
このように気圧変動が大きい場合は、気圧計の測定結果を信頼することができないため、気圧計による絶対高度を利用しないようにするか、上記したしきい値を変化させ、精度を補償することが望ましい。
【0042】
例えば気圧計の信頼度は、次のような方法により判定することができる。
(1)初めに、地図データベース等の絶対高度を利用して、絶対高度のリファレンス(基準)を得る。気圧計から取得した絶対高度を更新したときに、前回の更新から要した時間と、そのときのオフセット補正量(リファレンスとの差分)を記録しておく。
(2)次に、前回の更新から要した時間と、オフセット補正量を利用して、単位時間当たりの絶対高度オフセット補正量Aを計算する。
(3)オフセット補正量Aが、しきい値W以下であれば、気圧計の信頼度が高いものとして、気圧計をGPS衛星の組合せの特定に利用する。一方、しきい値Wを超える場合、気圧変動が大きいため、次回更新するまでは、気圧計の信頼度が低いとみなし、気圧計をGPS衛星の組合せの特定に利用しないようにする。あるいは、しきい値Wを超える場合には、気圧計の信頼度が低いので、上記したしきい値Sを可変するようにしてもよい。すなわち、気圧計の信頼度が低いときのしきい値Sを高いときの信頼度Sよりも大きな値にする。
【0043】
図7は、気圧計の信頼度の判定結果を示す例である。同図において、Rfは、リファレンスの絶対高度を示している。更新タイミングt1、t2、・・・t5において単位時間当たりのオフセット補正量Aが計算されるとすると、更新タイミングt1では、オフセット補正量A1がしきい値Wよりも小さいため、この期間の気圧計の信頼度は高いと判定される。更新タイミングt2のオフセット補正量A2がしきい値Wを越えると、期間t1−t2までの信頼度は高いが、t2以降は、信頼度が低いと判定される。さらに更新タイミングt3のオフセット補正量A3がしきちWよりも大きいと、t3以降も信頼度が低いと判定される。更新タイミングt4のオフセット補正量A4がしきい値Wよりも小さくなると、t4以降の信頼度が高いと判定される。
【0044】
次に、本実施例に係るGPS測位装置を適用したナビゲーション装置について説明する。図8は、そのようなナビゲーション装置のブロック図である。ナビゲーション装置100は、本実施例に係るGPS測位装置10と、自立航法により位置を測位する自立航法測位装置110と、道路地図データベース等を格納するデータベース120と、経路探索や経路案内等のナビゲーションを実行するナビゲーション機能部130と、スピーカ140と、ディスプレイ150とを含んで構成される。
【0045】
ナビゲーション機能部130は、GPS測位装置10により決定された測位位置を受け取り、これに基づき自車等の移動体が位置する周辺道路地図をデータベース120から読み出し、これをディスプレイ150に表示する。また、ナビゲーション機能部130は、GPS測位装置10からGPS測位の誤差が大きいことを示す出力(図4のステップS105)を受け取ると、GPS測位を利用せず、自立航法測位装置110による測位位置を利用しあるいは優先させ、移動体の位置を算出する。これにより、マルチパスの影響を受けた誤差の大きなGPS測位結果を排除する。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明に係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係るGPS測位装置は、車両等の移動体に搭載されるGPS受信機、ナビゲーション装置、ナビゲーションシステム、あるいはナビゲーション機能を包含するコンピュータ等の電子装置において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施例に係るGPS測位装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の位置算出部の機能的な構成を示すブロック図である。
【図3】GPS衛星の組合せ毎の測位位置と絶対高度との関係を示す例である。
【図4】図1に示す位置決定部の動作フローを示す図である。
【図5】気圧計による絶対高度とGPS測位による絶対高度との市街地での実測データを示すグラフである。
【図6】地図データベースから高度情報を取得する例を示す図であり、同図(a)は道路(リンク)データに絶対高度を与える例、同図(b)は地図データをメッシュ状に分割しそれぞれのエリアに絶対高度を与える例を示している。
【図7】気圧計の信頼度を判定する例を示す図である。
【図8】本実施例に係るGPS測位装置をナビゲーション装置に適用したときの構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0049】
10:GPS測位装置
12:GPSアンテナ
14:受信部
16:高度情報取得部
20:位置算出部
30:GPS衛星組合せ算出部
32:位置計測部
34:高度情報メモリ
36:高度情報差分抽出部
38:位置決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の位置をGPS測位により算出するGPS測位装置であって、
移動体の高度情報Zoを取得する取得手段と、
捕捉可能な複数のGPS衛星の中からGPS衛星の組合せを求め、GPS衛星の組合せ毎に移動体の3次元位置を計測する計測手段と、
前記計測された3次元位置に含まれる高度情報Zと高度情報Zoとの差分を求める差分抽出手段と、
抽出された差分としきい値とを比較し、差分がしきい値以下となるGPS衛星の組合せを選択し、選択された組合せの3次元位置に基づき移動体の測位位置を決定する位置決定手段と、
を有するGPS測位装置。
【請求項2】
前記計測手段は、捕捉可能なGPS衛星の数をn(nは、自然数)としたとき、の数のGPS衛星の組合せを求める、請求項1に記載のGPS測位装置。
【請求項3】
前記計測手段は、GPS衛星のPDOP値が一定値以上の組合せを除外する、請求項1に記載のGPS測位装置。
【請求項4】
前記位置決定手段は、差分がしきい値以下となるGPS衛星の組合せが複数あるとき、当該複数の組合せの中から差分が最小となる組合せを選択し、当該組合せの3次元位置を測位位置とする、請求項1に記載のGPS測位装置。
【請求項5】
前記位置決定手段は、差分がしきい値以下となるGPS衛星の組合せが複数あるとき、当該複数の組合せの3次元位置の平均を移動体の測位位置とする、請求項1に記載のGPS測位装置。
【請求項6】
前記位置決定手段は、差分がしきい値以下となる組合せがないとき、前記計測手段による3次元位置を測位位置としない、請求項1に記載のGPS測位装置。
【請求項7】
高度情報Zoは、気圧計により計測された気圧から求められた絶対高度である、請求項1に記載のGPS測位装置。
【請求項8】
高度情報Zoは、道路地図データベースから求められた絶対高度である、請求項1に記載のGPS測位装置。
【請求項9】
前記位置決定手段は、高度情報Zoの信頼度に応じてしきい値を可変する、請求項1に記載のGPS測位装置。
【請求項10】
請求項1ないし9いずれか1つに記載のGPS測位装置から出力された測位位置に基づき移動体の道路案内を行うナビゲーション装置。
【請求項11】
移動体の位置をGPS測位により算出するGPS測位方法であって、
移動体の高度情報Zoを取得するステップと、
捕捉可能な複数のGPS衛星の数をn(nは、自然数)としたとき、通りのGPS衛星の組合せを求め、組合せ毎に移動体の3次元位置を計測するステップと、
計測された3次元位置に含まれる高度情報Zと高度情報Zoとの差分を求めるステップと、
差分としきい値とを比較するステップと、
差分がしきい値以下となるGPS衛星の組合せを選択するステップと、
選択された組合せの3次元位置に基づき移動体の測位位置を決定するステップと、
を有するGPS測位方法。
【請求項12】
計測するステップは、GPS衛星のPDOP値が一定値以上の組合せを除外する、請求項11に記載のGPS測位方法。
【請求項13】
決定するステップは、差分がしきい値以下となるGPS衛星の組合せが複数あるとき、当該複数の組合せの中から差分が最小となる組合せを選択し、当該組合せの3次元位置を測位位置とする、請求項11に記載のGPS測位方法。
【請求項14】
決定するステップは、差分がしきい値以下となるGPS衛星の組合せが複数あるとき、当該複数の組合せの3次元位置の平均を移動体の測位位置とする、請求項11に記載のGPS測位方法。
【請求項15】
決定するステップは、差分がしきい値以下となるGPS衛星の組合せがないとき、計測ステップによる3次元位置を測位位置としない、請求項11に記載のGPS測位方法。
【請求項16】
高度情報Zoは、気圧計により計測された気圧から求められた絶対高度である、請求項11に記載のGPS測位方法。
【請求項17】
高度情報Zoは、道路地図データベースから求められた絶対高度である、請求項11に記載のGPS測位方法。
【請求項18】
比較するステップは、高度情報Zoの信頼度に応じてしきい値を可変するステップを含む、請求項11に記載のGPS測位方法。
【請求項19】
移動体の位置をGPS測位により算出するGPS測位プログラムであって、
移動体の高度情報Zoを取得するステップと、
捕捉可能な複数のGPS衛星の数をn(nは自然数)としたとき、通りの組合せを求め、組合せ毎に移動体の3次元位置を計測するステップと、
計測された3次元位置に含まれる高度情報Zと高度情報Zoとの差分を求めるステップと、
差分としきい値とを比較するステップと、
差分がしきい値以下となるGPS衛星の組合せを選択するステップと、
選択された組合せの3次元位置に基づき移動体の測位位置を決定するステップと、
を有するGPS測位プログラム。
【請求項20】
計測するステップは、PDOP値が一定値以上の組合せから除外する、請求項19に記載のGPS測位プログラム。
【請求項21】
決定するステップは、差分がしきい値以下となるGPS衛星の組合せが複数あるとき、当該複数の組合せの中から差分が最小となる組合せを選択し、当該組合せの3次元位置を測位位置とする、請求項19に記載のGPS測位プログラム。
【請求項22】
決定するステップは、差分がしきい値以下となる組合せが複数あるとき、当該複数の組合せの3次元位置の平均を移動体の測位位置とする、請求項19に記載のGPS測位プルグラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−139247(P2008−139247A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328148(P2006−328148)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000101732)アルパイン株式会社 (2,424)
【Fターム(参考)】