説明

MEMS揺動装置

【課題】低電圧で駆動したいという要望を満足でき、可動枠体の板厚方向及びこの板厚方向と直交する方向の剛性の向上を図ることのできるMEMS揺動装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るMEMS揺動装置は、可動体30B、可動体を揺動可能に支持する第1バネ部33Bを有する可動枠体34B、可動枠体を揺動可能に支持する第2バネ部311B、312T1、312T2とを有する固定枠体38Bとを有し、第2バネ部は可動枠体の厚さ方向から見て厚さ方向に間隔を開けてクロスされた独立変位可能な二本の板バネ体311B、312T1から構成され、この板バネ体は、可動枠体の厚さ方向から板バネ体を見たときのバネ幅が可動枠体の厚さ方向と直交する方向から板バネ体を見たときのバネ幅よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ電気機械機構(MEMS)揺動装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、MEMS技術を利用して製造されるマイクロ構造体として、MEMS走査型ミラー等のMEMS揺動装置が知られている。
例えば、そのMEMS走査型ミラーとしては、1つの段差付き静電櫛歯アクチュエータを有し、ミラーを最上面よりも下に形成して、ミラー表面に傷が発生するのを防止し、製造歩留まりの向上を図ったものが知られている。
【0003】
このMEMS走査型ミラーは、可動櫛歯が形成された一対の揺動軸とミラー面とを有する可動体と、この一対の揺動軸と固定枠体とを連結するバネ部とから大略構成されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
一般に、MEMS走査型ミラーは、低電圧で駆動して大きな回転角度を得られるようにすることが望ましいため、揺動軸と固定枠体とを連結するバネ部を回転に対して抵抗力の小さい柔らかいバネ部にする必要がある。
【0005】
しかしながら、バネ部の材料にそのような柔らかいものを用いて、このバネ部を構成することにすると、バネ部の剛性が低下し、可動体が回転変位以外の変位を発生し易くなる。
【0006】
例えば、静電櫛歯アクチュエータの駆動電圧が高くなるに伴って、静電引力がバネの復元力に比べて過大となってバネ部が変形することにより、可動櫛歯が電極側に引き込まれて、可動体が安定して回動しなくなるといういわゆるプルイン現象が生じる。
【0007】
光学機器にこのMEMS走査型ミラーを組み込んで用いる場合、バネ部が変形することにより、ミラーの姿勢を安定して制御できなくなったり、アライメントのずれが生じたりし、光学機器が正常に動作しないという問題が生じる。
【0008】
また、MEMS製造工程では、高温環境条件のもとで、シリコンウエハーを張り合わせたり、成膜したりしているが、MEMSを形成するシリコンウエハーの各層に圧縮又は引っ張り応力が加わっている。
【0009】
このため、バネ部の剛性が低いと、MEMS走査型ミラーを構成するシリコンウエハーに生じた応力によってバネ部が変形し、MEMS走査型ミラーが設計で意図した通りに正常に作動しないという問題も生じる。
【0010】
従って、MEMS走査型ミラーを設計で意図した通りに駆動させるには、剛性の高い材料のバネ部を用いざるを得ず、このような剛性の高いバネ部を用いたMEMS走査型ミラーにより走査ミラーの回転角度を大きくしようとすると、高い駆動電圧を静電櫛歯アクチュエータに加えざるを得ず、従来のMEMS走査型ミラーでは、低電圧で駆動したいという要望と安定して駆動させたいという要望との相反する要望を両立させ難いという問題があった。
【0011】
また、本発明に係るMEMS技術の類似の技術として、半導体プロセスによってねじり揺動体を作成する技術も知られている(特許文献2参照)。
この特許文献2に開示の技術では、固定枠体と可動体としてのミラー板とを二枚の平行四辺形状の板バネをクロスさせて連結すると共に、二枚の平行四辺形状の板バネを軸対称に配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−107628号公報
【特許文献2】特開2000−330067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、この特許文献2に示すねじり揺動体は、ミラー板の板厚方向と直交する方向のバネの剛性を向上させることは可能であるが、ミラー板の板厚方向の剛性が低く、バネ体が厚さ方向に撓みやすいという問題がある。
【0014】
すなわち、特許文献2に開示の技術は、低電圧で駆動したいという要望を満足することはできるが、ミラー板の板厚方向及びこの板厚方向と直交する方向の剛性の向上を解決する技術を提供するものではない。
【0015】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたもので、低電圧で駆動したいという要望を満足することができるのみならず、可動体の板厚方向及びこの板厚方向と直交する方向の両方向の剛性の向上を図ることのできるMEMS揺動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載のMEMS揺動装置は、可動体と該可動体を揺動可能に支持するバネ部とを有するMEMS揺動装置であって、
前記バネ部は、前記可動体の厚さ方向から見て厚さ方向に間隔を開けてクロスされた独立変位可能な二本の板バネ体から構成され、該二本の板バネ体は、前記可動体の厚さ方向から前記板バネ体を見たときのバネ幅が前記可動体の厚さ方向と直交する方向から前記板バネ体を見たときのバネ幅よりも小さくされていることを特徴とする。
【0017】
請求項2に記載のMEMS揺動装置は、可動体と、該可動体を揺動可能に支持する第1バネ部を有する可動枠体と、該可動枠体を揺動可能に支持する第2バネ部とを有する固定枠体とを有して2軸回りに揺動可能なMEMS揺動装置であって、
前記第2バネ部は前記可動枠体の厚さ方向から見て厚さ方向に間隔を開けてクロスされた独立変位可能な二本の板バネ体から構成され、該二本の板バネ体は、前記可動枠体の厚さ方向から前記板バネ体を見たときのバネ幅が前記可動枠体の厚さ方向と直交する方向から前記板バネ体を見たときのバネ幅よりも小さくされていることを特徴とする。
【0018】
請求項3に記載のMEMS揺動装置は、前記可動枠体が二層のデバイス層と該二層の間に存在する絶縁層とを含み、前記二本の板バネ体の間隔は、前記絶縁層を除去することによって形成されることを特徴とする。
【0019】
請求項4に記載のMEMS揺動装置は、外側に向かってY軸方向に延びる一対の外側可動櫛歯が形成された可動体と、該可動体を包囲するようにして配置されかつ内側に向かって延びて前記外側可動櫛歯に対向する一対の内側固定櫛歯と前記可動体を前記Y軸方向と直交するX軸方向の回りに揺動可能に支持する一対の第1バネ部と外側に向かって前記X軸方向に延びる一対の外側可動櫛歯とを有する内側可動枠体と、前記内側可動枠体を包囲するようにして配置されかつ内側に向かって延びて前記内側可動枠体の外側可動櫛歯に対向する一対の固定櫛歯と前記内側可動枠体を前記Y軸方向の回りに揺動可能に支持する一対の第2バネ部とを有する外側固定枠体とを有するMEMS揺動装置であって、前記第2バネ部は前記内側可動枠体の厚さ方向から見て厚さ方向に間隔を開けてクロスされた独立変位可能な二本の板バネ体から構成され、該二本の板バネ体は、前記内側可動枠体の厚さ方向から前記板バネ体を見たときのバネ幅が前記内側可動枠体の厚さ方向と直交する方向から前記板バネ体を見たときのバネ幅よりも小さくされていることを特徴とする。
【0020】
請求項5に記載のMEMS揺動装置は、前記二本の板バネ体の内の少なくとも一本が、前記内側可動枠体の外側可動櫛歯と前記可動体の外側可動櫛歯、又は前記内側可動枠体の内側固定櫛歯に電圧を印加する電圧供給ラインとなっていることを特徴とする。
【0021】
請求項6に記載のMEMS走査型ミラーの製造方法は、請求項4又は請求項5に記載のMEMS揺動装置の製造方法であって、
空洞が形成されるべきハンドル層と請求項4又は請求項5に記載の下層構成要素が形成されるべきデバイス層とがシリコン酸化膜を介して接合されたウエハを準備する工程と、
前記デバイス層に前記MEMS揺動装置の下層構成要素に対応する下層構造体を形成する工程と、
前記下層構造体の形成後のウエハの前記デバイス層にシリコン酸化膜を介して請求項4又は請求項5に記載のMEMS揺動装置の上層構成要素が形成されるべき上層のデバイス層を形成するためのウエハを接合する工程と、
該上層のウエハを加工して所定厚さの上層のデバイス層を形成する工程と、
該上層のデバイス層に請求項4又は請求項5に記載のMEMS揺動装置の上層構成要素に対応する上層構造体を形成する工程と、
前記ハンドル層に前記空洞を形成する工程と、
前記下層構造体と前記上層構造体との間のシリコン酸化膜を除去して請求項4又は請求項5に記載のMEMS揺動装置を完成させる工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、低電圧で駆動したいという要望を満足することができるのみならず、可動体又は可動枠体の板厚方向及びこの板厚方向と直交する方向の剛性の向上を図ることのできるMEMS揺動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は本発明に係るMEMS揺動装置としてのMEMS走査型ミラーの第1の実施例を示す説明図であって、(a)は平面図、(b)は(a)に示すB−B’線に沿う断面図、(c)は(a)に示すA−A’線に沿う断面図である。
【図2】図2は図1に示すバネ部のクロス部分を拡大して示す斜視図である。
【図3】図3は本発明に係るMEMS走査型ミラーの第2の実施例を示す説明図であって、(a)は平面図、(b)は(a)に示すB−B’線に沿う断面図、(c)は(a)に示すA−A’線に沿う断面図である。
【図4】図4は本発明に係るMEMS走査型ミラーの製造方法の実施例を示す説明図であって、(a)は準備工程の説明図、(b)はデバイス層への構造体の形成工程の図1(a)に示すA−A’線に沿う説明図、(c)はシリコンウエハ接合工程の説明図、(d)は最上層のデバイス層の形成工程の説明図、(e)はハンドル層へのマスクの形成工程の説明図である。
【図5】図5は本発明に係るMEMS走査型ミラーの製造方法の実施例を示す説明図であって、(a)は最上層のデバイス層への構造体の形成工程の図1(a)に示すA−A’線に沿う説明図、(b)はハンドル層への空洞の形成工程の説明図、(c)はシリコン酸化膜除去工程の説明図である。
【図6】図6は図2に示すバネ部を部分的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0024】
以下に、図面を参照しつつ、本発明に係る段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラー及びその製造方法を説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明に係わるMEMS揺動装置としての2つの段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーの模式図を示している。
このMEMS走査型ミラーは、図1(a)〜図1(c)に示すように、3層構造を呈しており、最上層のデバイス層T、最下層のハンドル層H及びこれらの間に存在するデバイス層Bからなる。
【0026】
この実施例1の可動体としてのミラー板は、図1(a)に示すX−X’軸、及びこれと直交するY−Y’軸の2軸周りの回転が可能である。
デバイス層T、デバイス層Bはn型又はp型にドープされた導電性のシリコンからなる。ハンドル層Hには絶縁性若しくは導電性シリコン又はガラスが用いられる。これらの各層の間は、絶縁層Iによって電気的に絶縁されている。絶縁層Iは、ハンドル層Hがシリコンの場合、シリコン酸化物であることが好ましい。
【0027】
そのハンドル層Hには空洞HOが形成されている。各デバイス層T、デバイス層Bに形成される静電櫛歯アクチュエータの構成要素はその空洞HOの上方に位置する。この各デバイス層T、デバイス層Bに形成される静電櫛歯アクチュエータの構成要素については、各層を示す符号T、Bに添字を付して説明する。
【0028】
デバイス層Bに形成される静電櫛歯アクチュエータの各構成要素は、ミラー板30B、X軸周りの一対の外側可動櫛歯31B、X軸周りの第1バネ部33B、内側可動枠部34B、外側固定枠部38B、Y軸周りの外側可動櫛歯36B、Y軸周りの第2バネ部を構成する板バネ体としてのバネ下部311Bである。これらの各構成要素は全てが一体とされ、電気的に等電位である。
【0029】
デバイス層Tに形成される静電櫛歯アクチュエータの各構成要素は、X軸周りの上内側固定櫛歯32T1、X軸周りの下内側固定櫛歯32T2、内側上土台35T1、内側下土台35T2、Y軸周りの左内側固定櫛歯37T1、右内側固定櫛歯37T2、外側上土台39T1、外側下土台39T2、外側左土台310T1、外側右土台310T2、Y軸周りの第2バネ部を構成する板バネ体としての上バネ上部312T1、Y軸周りの第2バネ部を構成する板バネ体としての下バネ上部312T2である。
【0030】
外側可動櫛歯31Bはミラー板30Bと一体に形成され、Y軸方向に向かって延びている。内側可動枠部34Bは、ミラー板30Bを包囲するようにして配置されている。
内側可動枠部34Bはデバイス層Bの上面に形成されたデバイス層Tと共に内側可動枠体を構成している。
【0031】
その内側可動枠体のデバイス層Tには、内側に向かって延びて外側可動櫛歯31Bに対向する一対の上下内側固定櫛歯32T1、32T2が形成されている。
第1バネ部33Bは、X−X’軸方向に延びてミラー板30Bと内側可動枠部34Bとを連結し、ミラー板30BをX−X’軸回りに揺動可能に支持している。
【0032】
外側可動櫛歯36Bは内側可動枠部34Bと一体に形成されて、外側に向かってX軸方向に延びている。
バネ下部311Bは外側固定枠部38Bと内側可動枠部34Bとを連結している。外側固定枠部38Bは内側可動枠部34Bを包囲するようにして配置されている。その外側固定枠部38Bはデバイス層Bの上面に形成されたデバイス層Tと共に外側固定枠体を構成している。
【0033】
その外側固定枠体のデバイス層Tには、内側に向かって延びて外側可動櫛歯36Bに対向する一対の左内側固定櫛歯37T1、右内側固定櫛歯37T2と、一対の第2バネ部を構成する上バネ上部312T1、下バネ上部312T2が形成されている。
その左内側固定櫛歯37T1、右内側固定櫛歯37T2はY軸方向に内側に向かって延びて、それぞれ外側可動櫛歯36Bに対向している。
【0034】
上バネ上部312T1、下バネ上部312T2は、内側可動枠体のデバイス層Tと外側固定枠体のデバイス層Tとを連結し、内側可動枠体をY−Y’軸回りに揺動可能に支持する一対の第2バネ部をバネ下部311Bと協働して構成している。
この構造により、デバイス層Bに形成される全ての構成要素は一体化される。なお、ミラー板30Bの表面には、金、アルミニウム等による膜が形成されていてもよい。
【0035】
その上バネ上部312T1(下バネ上部312T2)とバネ下部311Bとは、図2に斜視図として示すように、可動体としての内側可動枠体を厚さ方向から見て厚さ方向に間隔hを開けかつ図1(a)に示すY−Y’軸を境にして対称的にクロス形成されて、上バネ上部312T1(下バネ上部312T2)とバネ下部311Bとは、独立変位可能とされている。
【0036】
この上バネ上部312T1(下バネ上部312T2)とバネ下部311Bとは、内側可動枠体のY−Y’軸回りの回動方向の剛性が大幅に高くならず、内側可動枠体の厚さ方向と直交する方向(X−X’方向及びY−Y’方向)の剛性及び内側可動枠体の厚さ方向の剛性が高くなるように、内側可動枠体を厚さ方向から見たときのバネ幅t1が内側可動枠体をその厚さ方向と直交する方向から見たときのバネ幅t2よりも小さくされている。
また、上バネ上部312T1(下バネ上部312T2)のバネ幅t2とバネ下部311Bとのバネ幅t2との和は内側可動枠体の厚さ方向の幅と略同じ幅とされている。
【0037】
すなわち、X軸周りの上内側固定櫛歯32T1、内側上土台35T1、Y軸周りの上バネ上部312T1及び外側上土台39T1は一体化され、X軸周りの下内側固定櫛歯32T2、内側下土台35T2、Y軸周りの下バネ上部312T2及び外側下土台39T2は一体化され、Y軸周りの左内側固定櫛歯37T1及び外側左土台310T1は一体化され、Y軸周りの右内側固定櫛歯37T2及び外側右土台310T2は一体化されている。これら一体化されている構成要素ごとに、互いに独立に電圧を設定することができる。
【0038】
バネ下部311Bは外側可動櫛歯31B、36Bに電圧を印加する電圧供給ラインとされ、上バネ上部312T1は上内側固定櫛歯32T1に電圧を印加する電圧供給ラインとされ、下バネ上部312T2は下内側固定櫛歯32T2に電圧を印加する電圧供給ラインとされている。
【0039】
デバイス層Bには、その表面が優れた鏡面を有するシリコンウエハが用いられ得る。このデバイス層Bとハンドル層Hとを絶縁層Iを介して接合した材料がMEMS走査型ミラーの作製用に提供され得る。デバイス層B、絶縁層I、ハンドル層Hがあらかじめ一体化されたSOIウエハを用いても良い。SOIウエハのデバイス層Bの表面は優れた鏡面状態に仕上げることができる。
【0040】
いずれの材料を用いてMEMS走査型ミラーを作製する場合でも、デバイス層Bの優れた鏡面をそのまま用いることにより、鏡面性の良好なミラー板30Bを実現することができる。
【0041】
この実施例1のMEMS走査型ミラーは、図1(a)、図1(b)に示すように、デバイス層Tで定義される最上面TOPSよりも下にミラー板30Bの表面30BSが位置している。その作用、効果については、 特開2010−107628号公報を参照されたい。
【0042】
X軸周りの外側可動櫛歯31Bは、X軸周りの上下内側下固定櫛歯32T1、32T2に対して段差をもって交差指状に位置している。外側可動櫛歯31Bと上下内側固定櫛歯32T1、32T2間に電圧が印加されると、静電エネルギーが低下するように、X軸周りの外側可動櫛歯31B、すなわち、ミラー板30BにX−X’軸周りのトルクが発生する。
【0043】
また、Y軸周りの外側可動櫛歯36Bは、Y軸周りの左右内側固定櫛歯37T1、37T2に対して段差をもって交差指状に位置している。外側可動櫛歯36Bと左右内側固定櫛歯37T1、37T2間に電圧が印加されると、静電エネルギーが低下するように、Y軸周りの外側可動櫛歯36B、すなわち、ミラー板30Bを一体に有する内側可動枠体にY−Y’軸周りのトルクが発生する。
【0044】
この実施例によれば、上バネ上部312T1(下バネ上部312T2)とバネ下部311Bとは、互いに独立変位可能とされ、かつ、この上バネ上部312T1(下バネ上部312T2)とバネ下部311Bを内側可動枠体の厚さ方向から見たときのバネ幅t1がこの内側可動枠体の厚さ方向と直交する方向から見たときのバネ幅t2よりも小さく、しかも、上バネ上部312T1(下バネ上部312T2)とバネ下部311Bの撓みの方向が同方向となるので、その回動方向の抵抗力が小さく、従って、内側可動枠体を極力低電圧で駆動することが可能である。
【0045】
これに対して、内側可動枠体をその厚さ方向と直交する方向から見たときの上バネ上部312T1(下バネ上部312T2)のバネ幅t2とバネ下部311Bのバネ幅t2との和は、内側可動枠体の厚さ方向の幅と略同じ幅とされているので、かつ、上バネ上部312T1(下バネ上部312T2)とバネ下部311Bとがクロスされているので、外力Fzを構造力学的に面的に受けることができることになり、内側可動枠体にその厚さ方向から加わる外力Fzに対する剛性を高めることができる。
【0046】
また、上バネ上部312T1(下バネ上部312T2)とバネ下部311Bとは、クロスして、内側可動枠体と外側固定枠体とを連結しているので、内側可動枠体にX−X’方向から外力Fxが加わった場合は、内側可動枠体のX−X’方向の変位により、上バネ上部312T1(下バネ上部312T2)とバネ下部311Bとの一方が延び、一方は縮む方向に撓み変位するので、内側可動枠体にそのX−X’方向から加わる外力Fxに対する剛性を高めることができる。
【0047】
更に、内側可動枠体にY−Y’方向から外力Fyが加わった場合は、上バネ上部312T1とバネ下部311B(下バネ上部312T2とバネ下部311B)との対の一方が突っ張り力を発生するので、内側可動枠体にそのY−Y’方向から加わる外力Fyに対する剛性を高めることができる。
【0048】
この実施例1によるMEMS走査型ミラーは、X−X’軸及びY−Y’軸の2軸周りに駆動が可能である。好ましくは、デバイス層Bの全体は接地(符号GNDで示す)され、X軸周りの上下内側固定櫛歯32T1、32T2、Y軸周りの左右内側固定櫛歯37T1、37T2に、それぞれ電圧Vx1、Vx2、Vy1、Vy2を印加することにより、MEMS走査型ミラー(デバイス)が駆動される。
【0049】
この実施例1によれば、2軸共にDC駆動、1軸がDC駆動で他の1軸が共振駆動、2軸共に共振駆動のいずれをも採用することができる。例えば、Vx1、Vx2、Vy1、Vy2のいずれもDC電圧とした場合、2軸共にDC駆動となる。また、これらのいずれもAC電圧とすると、2軸共に共振駆動が得られる。また、例えば、Vx1、Vx2をDC電圧とし、Vy1、Vy2をAC電圧とすれば、X−X’軸周りにDC駆動、Y−Y’軸周りに共振駆動を実現できる。
【実施例2】
【0050】
図3は本発明に係わる1つの段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーの他の例の模式図を示している。この実施例2では、実施例1と同様に、ミラー板はX−X’軸、Y−Y’軸の2軸周りの回転が可能であるが、Y−Y’軸周りの駆動は、共振駆動に限定される。
【0051】
このMEMS走査型ミラーも、実施例1と同様に3層構造を呈しており、最上層のデバイス層T、最下層のハンドル層H及びこれらの間に存在するデバイス層Bからなる。デバイス層T、デバイス層Bはn型又はp型にドープされた導電性のシリコンからなる。ハンドル層Hには絶縁性若しくは導電性シリコン又はガラスが用いられる。これらの各層の間は、絶縁層Iによって電気的に絶縁されている。絶縁層Iは、ハンドル層Hがシリコンの場合、シリコン酸化物であることが好ましい。
【0052】
そのハンドル層Hには空洞HOが形成されている。各デバイス層T、デバイス層Bに形成される静電櫛歯アクチュエータの構成要素はその空洞HOの上方に位置する。この各デバイス層T、デバイス層Bに形成される静電櫛歯アクチュエータの構成要素については、各層を示す符号T、Bに添字を付して説明する。
【0053】
デバイス層Bに形成される静電櫛歯アクチュエータの各構成要素は、ミラー板40B、X軸周りの外側可動櫛歯41B、X軸周りの第1バネ部43B、内側可動枠部44B、Y軸周りの外側可動櫛歯46B、Y軸周りの左内側固定櫛歯47B1、Y軸周りの右内側固定櫛歯47B2、外側固定枠部48B、Y軸周りの第2バネを構成する板バネ体としてのバネ下部410B、外側左土台412B1、外側右土台412B2、溝413である。
【0054】
第1バネ部43Bは、X−X’軸に沿って延びてミラー板40Bと内側可動枠部44Bとを連結し、ミラー板40BをX−X’軸回りに揺動可能に支持している。
外側可動櫛歯41Bはミラー板40Bと一体に形成されて、Y軸方向に向かって延びている。
【0055】
内側可動枠部44Bは、ミラー板40Bを包囲するようにして配置されている。
内側可動枠部44Bは、デバイス層Bの上面に形成されたデバイス層Tと共に内側可動枠体を構成している。
デバイス層Bに形成された各構成要素40B、41B、43B、44B、46B、48B、410Bは一体とされ、電気的には等電位である。
【0056】
デバイス層Tに形成される静電櫛歯アクチュエータの各構成要素は、X軸周りの上内側固定櫛歯42T1、X軸周りの下内側固定櫛歯42T2、内側上土台45T1、内側下土台45T2、外側上土台49T1、外側下土台49T2、Y軸周りの第2バネ部を構成する板バネ体としての上バネ上部411T1、Y軸周りの第2バネ部を構成する板バネ体としての下バネ上部411T2である。上内側固定櫛歯42T1、下内側固定櫛歯42T2は、内側に向かって延びて、外側可動櫛歯41Bに対向している。
【0057】
X軸周りの上内側固定櫛歯42T1、内側上土台45T1、Y軸周りの上バネ上部411T1、外側上土台49T1は一体化され、X軸周りの下内側固定櫛歯42T2、内側下土台45T2、Y軸周りの下バネ上部411T2、外側下土台49T2は一体化され、これら一体の構成要素ごとに独立に電圧を設定することができる。
外側可動櫛歯46Bは内側可動枠部44Bと一体に形成されて外側に向かってX軸方向に延びている。
【0058】
バネ下部410Bは、外側固定枠部48Bと内側可動枠部44Bとを連結している。外側固定枠部48Bは内側可動枠部44Bを包囲するようにして配置されている。外側固定枠部48Bはそのデバイス層Bの上面に形成されたデバイス層Tと共に外側固定枠体を形成している。
【0059】
溝413はその外側固定枠部48Bに形成され、これにより、外側固定枠部48Bに対して絶縁された外側左土台412B1、外側右土台412B2が形成される。Y軸周りの左内側固定櫛歯47B1、Y軸周りの右内側固定櫛歯47B2は外側左右土台412B1、412B2にそれぞれ形成される。
バネ下部410B、上バネ上部411T1、下バネ上部411T2の構造は、実施例1と同様である。
【0060】
Y軸周りの左右内側固定櫛歯47B1、47B2は、溝413により外側固定枠部48Bと電気的に分離した外側左土台412B1、外側右土台412B2にそれぞれ連結されているので、外側固定枠部48B、外側左土台412B1、外側右土台412B2には、それぞれ独立に電圧を印加することができる。なお、ミラー板40Bの表面は、金、アルミニウム膜等が形成されていてもよい。
【0061】
そのデバイス層Bには、実施例1と同様に、その表面が優れた鏡面を有するシリコンウエハが用いられ得る。このデバイス層Bとハンドル層Hとを絶縁層Iを介して接合した材料がMEMS走査型ミラーの作製用に提供され得る。デバイス層B、絶縁層I、ハンドル層Hがあらかじめ一体化されたSOIウエハを用いても良い。SOIウエハのデバイス層Bの表面は、優れた鏡面状態に仕上げることができる。
【0062】
いずれの材料を用いてMEMS走査型ミラーを作製する場合でも、デバイス層Bの優れた鏡面をそのまま用いることにより、鏡面性の良好なミラー板40Bを実現することができる。
【0063】
この実施例1のMEMS走査型ミラーも、図3(a)、図3(b)に示すように、デバイス層Tで定義される最上面TOPSよりも下にミラー板40Bの表面40BSが位置している。
【0064】
X軸周りの外側可動櫛歯41Bは、X軸周りの上下内側固定櫛歯42T1、42T2に対して段差をもって交差指状に位置している。外側可動櫛歯41Bと上下内側固定櫛歯42T1、42T2間に電圧が印加されると、静電エネルギーが低下するように、X軸周りの外側可動櫛歯41B、すなわち、ミラー板40BにX−X’軸周りのトルクが発生する。また、Y軸周りの左右内側固定櫛歯47B1、47B2は、いずれも、Y軸周りの外側可動櫛歯46Bに対して交差指状に位置している。
外側可動櫛歯46Bと左右内側固定櫛歯47B1、47B2間にAC電圧が印加されると、ミラー板40Bを有する内側可動枠部44BにY−Y’軸周りの振動が励起される。
【0065】
この実施例2によるMEMS走査型ミラーは、X−X’軸、Y−Y’軸の2軸周りに駆動が可能である。好ましくは、デバイス層Bの全体は接地され、X軸周りの上下内側固定櫛歯42T1、42T2、Y軸周りの左右内側固定櫛歯47B1、47B2に、それぞれ電圧Vx1、Vx2、Vy1、Vy2を印加することにより、MEMS走査型ミラー(デバイス)が駆動される。
【0066】
ここで、X軸周りの上下内側固定櫛歯42T1、42T2、外側可動櫛歯41Bは、一組の段差付き静電櫛歯を構成するが、Y軸周りの左右内側固定櫛歯47B1、47B2、外側可動櫛歯46Bは、一組の段差のない静電櫛歯を構成しており、Y軸周りは共振駆動のみが可能である。
【0067】
この実施例2によれば、X−X’軸周りがDC駆動でかつY−Y’軸周りが共振駆動又は2軸共に共振駆動のいずれをも採用することができる。例えば、Vx1、Vx2にDC電圧、Vy1、Vy2にAC電圧を印加すると、X−X’軸周りがDC駆動でY−Y’軸周りが共振駆動となる。これらのいずれの電圧もAC電圧とすると、2軸共に共振駆動が得られる。
【実施例3】
【0068】
実施例1に示す段差付き静電櫛歯アクチュエータを有するMEMS走査型ミラーの製造方法の一例を図4を参照しつつ説明する。この図4に示す模式図は、図1のA−A’線に沿う断面に対応している。
【0069】
なお、このMEMS走査型ミラーの製造方法は、実施例2に係わるMEMS走査型ミラーの製造方法にも適用できるものである。
1.準備工程
図4(a)はMEMS走査型ミラーの各構成要素に対応する構造体形成前のウエハMMの図1のA−A’線に相当する断面図を示している。
【0070】
ウエハMMは、デバイス層Bとハンドル層Hとが絶縁層Iを介して一体に形成されている。デバイス層Bの表面BSは加工前にあらかじめ鏡面仕上げされている。デバイス層B、ハンドル層Hは好ましくはシリコンであり、絶縁層Iはシリコン酸化膜である。ここでは、ハンドル層Hの表面HSにもシリコン酸化膜(絶縁層I)が形成されている。
【0071】
ウエハMMには、市販のSOI(Silicon-on-Insulator)ウエハを用いることができる。シリコン酸化膜(絶縁層I)には、後加工において利用する第1アラインメントマーク(図示を略す)を形成する。この第1アラインメントマークは、シリコン酸化膜(絶縁層I)上にあらかじめ感光性レジストを用いてアライメントパターンを形成した後、フッ化水素、緩衝フッ化水素により感光性レジストで覆われていない部分のシリコン酸化膜をエッチングにより除去することにより形成できる。感光性レジストは、エッチング後、例えば、アセトン洗浄により除去できる。
【0072】
2.デバイス層BへのMEMS走査ミラーの下層構成要素に対応する下層構造体の形成工程
デバイス層Bに、ミラー板30B、外側可動櫛歯31B、内側可動枠部34B、第1バネ部33B、外側固定枠部38B、バネ下部311B、外側可動櫛歯36Bに対応する構造体を形成する。図4(b)には、外側固定枠部38B、バネ下部311B、内側可動枠部34B、外側可動櫛歯36Bに対応する構造体38B’、311B’、34B’、36B’が示されている。
【0073】
この加工は、第1アラインメントマークを用いて、あらかじめ、デバイス層Bの表面に感光性レジストでこの構造体に対応するパタ−ンを形成した後、ボッシュプロセスによるDRIE(Deep Reactive Ion Etching)法を用いて行うことができる。なお、図4(b)はDRIE後に感光性レジストを除去した状態を示している。
【0074】
3.デバイス層Bへのシリコンウエハ接合工程
デバイス層Bに、図4(c)に示すように、シリコン酸化膜(絶縁層I)が表面に形成されたシリコンウエハ52が接合される。この接合はデバイス層Bの最上面とシリコンウエハ52の表面とを接触させ、例えば、1000℃から1100℃に加熱処理することにより行われる。
【0075】
4.シリコンウエハのグラインディング及びラッピング工程
図4(c)に示すシリコンウエハ52をグラインディング及びラッピングすることにより、シリコンウエハ52の厚みを減少させ、図4(d)に示すように、所定の厚さを有する上層のデバイス層Tを形成する。
【0076】
従来のMEMS走査型ミラーでは、貼り合せウエハの最上面にグラインディング、ラッピング、研磨加工を施して得られる表面がミラーに供せられる。
【0077】
研磨後の表面状態は鏡面性能(ミラー性能)を決定するため、従来の加工に許容される表面精度が厳しく要求される。また、従来の加工が施されるシリコンウエハの下部に貼り合せられたシリコンウエハの下部、とりわけ、ミラー板に相当する部分の下に空洞が形成されている場合、ウエハ面内の加工の均一性が劣化し、優れた鏡面性をもつミラー板を歩留りよく得ることが困難である。
【0078】
これに対して、本発明に係わる実施例よれば、ミラーはデバイスの最上面ではなく、あらかじめ鏡面加工されたウエハの表面に形成するので、鏡面仕上げのための研磨加工を省略できると共に、グラインディング、ラッピング加工に許容される表面粗さの要求精度が従来に較べて緩和される。
【0079】
また、後述するように、あらかじめ鏡面加工されたウエハの表面は、デバイスの完成直前までシリコン酸化膜で保護されているので、本発明によれば、ミラー板30Bは表面の優れた鏡面性が確保される。従って、本発明のMEMS走査ミラーによれば、製造歩留りの向上を図ることができる。
【0080】
5.ハンドル層Hへのマスクの形成工程
ハンドル層Hに空洞を形成するエッチング工程で用いるマスク51を形成するために、図4(e)に示すように、ハンドル層Hの表面HSのシリコン酸化膜(絶縁層I)の一部を除去する。
【0081】
マスク51の形成には、第1アラインメントマークを用い、シリコン酸化膜(絶縁層I)上に予め感光性レジストでパターンを形成した後、フッ化水素、緩衝フッ化水素により感光性レジストで覆われていない部分のシリコン酸化膜をエッチングにより除去することにより、マスク51が得られる。
【0082】
なお、エッチング後に感光性レジストは、アセトン洗浄等により除去される。なお、エッチング時に用いるこのマスク51は、少なくともミラー板30B、外側可動櫛歯31B、内側可動枠部34B、外側可動櫛歯36B、バネ下部311B、左右内側固定櫛歯37T1、37T2、上下内側固定櫛歯32T1、32T2、上バネ上部312T1、下バネ上部312T2に対応する構造体の下の部分を覆わないように形成する。
【0083】
なお、このハンドル層Hへのマスク51の形成工程のエッチング時間の短縮化を図るために、準備工程1において、マスク51を予め形成しておけば、デバイス層Bへのシリコンウエハ接合工程3で生じるマスク開口部の薄いシリコン酸化膜(絶縁層I)を短時間のエッチングにより除去できる。
【0084】
6.デバイス層TにMEMS走査ミラーの上層構成要素に対応する上層構造体を形成する形成工程
次に、デバイス層Tに、上内側固定櫛歯32T1、下内側固定櫛歯32T2、内側上土台35T1、内側下土台35T2、外側上土台39T1、外側下土台39T2、上バネ上部312T1、下バネ上部312T2、外側左土台310T1、外側右土台310T2、左内側固定櫛歯37T1、右内側固定櫛歯37T2を形成する。
【0085】
その図5(a)には、外側固定枠部38B、バネ下部311B、内側可動枠部34B、外側可動櫛歯36Bに対応する構造体38B’、311B’、34B’、36B’と共に、外側上土台39T1、上バネ上部312T1、内側上土台35T1、左内側固定櫛歯37T1、外側左土台310T1に対応する構造体39T1’、312T1’、35T1’、37T1’、310T1’が示されている。
【0086】
この形成工程では、各構造体38B’、311B’、34B’、36B’、39T1’、312T1’、35T1’、37T1’、310T1’等は形成されているが、ミラー板30Bの表面は未だ露出されず、シリコン酸化膜(絶縁層I)により保護されている。また、ミラー板30Bに対応する構造体の下部にはハンドル層Hが存在し、機械的強度を維持している。
更に、バネ下部311Bと上バネ上部312T1とを構成する構造体、バネ下部311Bと下バネ上部312T2とを構成する構造体も絶縁層Iを介して一体化されている。
【0087】
このデバイス層TにMEMS走査ミラーの上層構成要素に対応する上層構造体を形成する形成工程には、デバイス層BへのMEMS走査ミラーの下層構成要素に対応する下層構造体の形成工程で用いた加工方法と同様の加工方法を用いる。なお、この加工工程にも、第1アラインメントマークを利用可能である。
【0088】
しかし、工程2から工程5に至る加工の際に、第1アラインメントマークが不鮮明となり、十分なアライメント精度が得られないと考えられる場合には、工程2において、デバイス層Bに図示を略す第2アラインメントマークを形成し、工程6に先立って第1アラインメントマークを用いてボッシュプロセスによりデバイス層Tにデバイス層Bに至る貫通穴を第2アラインメントマークを囲むように形成しておくことにより、この第2アラインメントマークを用いて精度よくこの加工を実施できる。
【0089】
7.ハンドル層Hにエッチングによる空洞の形成工程
工程5で形成されたマスク51を用い、ボッシュプロセスによりハンドル層Hをエッチングすることにより、図5(b)に示すように、下層構造体の下に空洞HOを形成する。
【0090】
これにより、ミラー板30B、内側可動枠部34Bが回転動作を行う際に、ハンドル層Hと衝突することが回避される。この工程7では、未だ、バネ下部311B、内側可動枠部34B、外側可動櫛歯36B、上バネ上部312T1、左内側固定櫛歯37T1等はシリコン酸化膜(絶縁層I)により固定されており、リリースされていない。
【0091】
8.シリコン酸化膜除去工程
工程7で形成された空洞を有するハンドル層H、デバイス層T、Bの表面に形成されている露出部分のシリコン酸化膜(絶縁層I)は、図5(c)に示すようにエッチングにより除去される。エッチング液にはフッ化水素を用いることができる。この段階で、バネ下部311Bと上バネ上部312T1(下バネ上部312T2)との交差部に存在する非露出部分の絶縁層Iも交差面積が小さいので除去される。
【0092】
9.デバイス層B、Tの表面への膜形成工程
なお、デバイス層B、Tの表面には、金、アルミニウム、誘電多層膜等の膜を蒸着、スパッタリング等の手法により形成するのが望ましい。これにより、ミラーの反射率が向上、すなわち、ミラー特性が向上する。ミラーにより反射させる光の波長に応じて、好ましい反射・吸収特性を有する素材を選択するか又は多層膜を光学的に設計して採用すると、なお、一層好ましい。
【0093】
この実施例に係るMEMS揺動装置によれば、可動体としてのミラー板、このミラー板を揺動可能に支持する第1バネ部を有する可動枠体と、この可動枠体を揺動可能に支持する第2バネ部とを有して2軸回りに揺動可能なMEMS揺動装置において、第2バネ部を、ミラー板の厚さ方向から見て厚さ方向に間隔を開けてクロスされた独立変位可能な二本の板バネ体から構成し、この二本の板バネ体を、可動枠体の回動方向の剛性が大幅に高くならず、かつ可動枠体の厚さ方向とこの厚さ方向に対して直交する方向との剛性が高くなるように、可動枠体の厚さ方向から板バネ体を見たときのバネ幅が可動枠体の厚さ方向と直交する方向から板バネ体を見たときのバネ幅よりも小さく構成しているので、低電圧で駆動したいという要望を満足することができるのみならず、可動枠体の板厚方向及びこの板厚方向と直交する方向の剛性の向上を図ることのできるMEMS揺動装置を提供できる。
【0094】
以上、実施例においては、二軸駆動のMEMS揺動装置について説明したが、可動体としてもミラー板とこのミラー板を揺動可能に支持するバネ部とを有する一軸回りの駆動のMEMS揺動装置にも本発明を適用できるものである。
【0095】
この場合、バネ部を、ミラー板の厚さ方向から見て厚さ方向に間隔を開けてクロスされた独立変位可能な二本の板バネ体から構成し、この二本の板バネ体は、ミラー板の回動方向の剛性が大幅に高くならず、かつミラー板の厚さ方向とこの厚さ方向に対して直交する方向との剛性が高くなるように、ミラー板の厚さ方向から板バネ体を見たときのバネ幅がミラー板の厚さ方向と直交する方向から板バネ体を見たときのバネ幅よりも小さく構成すれば良い。
【0096】
ところで、各板バネ体としての上バネ上部312T1、下バネ上部312T2、及びバネ下部311Bの寸法(バネ幅t1及びバネ幅t2)はそれぞれ異ならせても良い。
また、板バネ体の形状は向かい合う側面同士が平行の関係にあるものに限らず、各バネ体はそれぞれ異なる形状としても良い。
【0097】
また、なお、図6に示すように、実施例1の上バネ上部312T1(下バネ上部312T2)とバネ下部311BとのX方向のバネ間隔h’を広げると、バネ部のX方向の剛性が大きくなり、一方、バネ幅t1を大きくするに伴って可動枠体34Bに対するX方向の剛性及び可動枠体34Bを回動させる方向の剛性が大きくなるので、バネ間隔h’、バネ幅t1はこれらを考慮して所望の剛性が得られるように設定するのが望ましい。
【符号の説明】
【0098】
30B…可動体(ミラー板)
33B…第1バネ部
34B…可動枠体(内側可動枠部)
311B…バネ下部(第2バネ部)
312T1…上バネ上部(第2バネ部)
312T2…下バネ上部(第2バネ部)
38B…固定枠体(外側可動枠部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動体と該可動体を揺動可能に支持するバネ部とを有するMEMS揺動装置であって、
前記バネ部は、前記可動体の厚さ方向から見て厚さ方向に間隔を開けてクロスされた独立変位可能な二本の板バネ体から構成され、該二本の板バネ体は、前記可動体の厚さ方向から前記板バネ体を見たときのバネ幅が前記可動体の厚さ方向と直交する方向から前記板バネ体を見たときのバネ幅よりも小さくされていることを特徴とするMEMS揺動装置。
【請求項2】
可動体と、該可動体を揺動可能に支持する第1バネ部を有する可動枠体と、該可動枠体を揺動可能に支持する第2バネ部とを有する固定枠体とを有して2軸回りに揺動可能なMEMS揺動装置であって、
前記第2バネ部は前記可動枠体の厚さ方向から見て厚さ方向に間隔を開けてクロスされた独立変位可能な二本の板バネ体から構成され、該二本の板バネ体は、前記可動枠体の厚さ方向から前記板バネ体を見たときのバネ幅が前記可動枠体の厚さ方向と直交する方向から前記板バネ体を見たときのバネ幅よりも小さくされていることを特徴とするMEMS揺動装置。
【請求項3】
前記可動枠体が二層のデバイス層と該二層の間に存在する絶縁層とを含み、前記二本の板バネ体の間隔は、前記絶縁層を除去することによって形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のMEMS揺動装置。
【請求項4】
外側に向かってY軸方向に延びる一対の外側可動櫛歯が形成された可動体と、該可動体を包囲するようにして配置されかつ内側に向かって延びて前記外側可動櫛歯に対向する一対の内側固定櫛歯と前記可動体を前記Y軸方向と直交するX軸方向の回りに揺動可能に支持する一対の第1バネ部と外側に向かって前記X軸方向に延びる一対の外側可動櫛歯とを有する内側可動枠体と、前記内側可動枠体を包囲するようにして配置されかつ内側に向かって延びて前記内側可動枠体の外側可動櫛歯に対向する一対の固定櫛歯と前記内側可動枠体を前記Y軸方向の回りに揺動可能に支持する一対の第2バネ部とを有する外側固定枠体とを有するMEMS揺動装置であって、前記第2バネ部は前記内側可動枠体の厚さ方向から見て厚さ方向に間隔を開けてクロスされた独立変位可能な二本の板バネ体から構成され、該二本の板バネ体は、前記内側可動枠体の厚さ方向から前記板バネ体を見たときのバネ幅が前記内側可動枠体の厚さ方向と直交する方向から前記板バネ体を見たときのバネ幅よりも小さくされていることを特徴とするMEMS揺動装置。
【請求項5】
前記二本の板バネ体の内の少なくとも一本が、前記内側可動枠体の外側可動櫛歯と前記可動体の外側可動櫛歯、又は前記内側可動枠体の内側固定櫛歯に電圧を印加する電圧供給ラインとなっていることを特徴とする請求項4に記載のMEMS揺動装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載のMEMS揺動装置の製造方法であって、
空洞が形成されるべきハンドル層と請求項4又は請求項5に記載のMEMS揺動装置の下層構成要素が形成されるべきデバイス層とがシリコン酸化膜を介して接合されたウエハを準備する工程と、
前記デバイス層に前記MEMS揺動装置の下層構成要素に対応する下層構造体を形成する工程と、
前記下層構造体の形成後のウエハの前記デバイス層にシリコン酸化膜を介して請求項4又は請求項5に記載のMEMS揺動装置の上層構成要素が形成されるべき上層のデバイス層を形成するためのウエハを接合する工程と、
該上層のウエハを加工して所定厚さの上層のデバイス層を形成する工程と、
該上層のデバイス層に請求項4又は請求項5に記載のMEMS揺動装置の上層構成要素に対応する上層構造体を形成する工程と、
前記ハンドル層に前記空洞を形成する工程と、
前記下層構造体と前記上層構造体との間のシリコン酸化膜を除去して請求項4又は請求項5に記載のMEMS揺動装置を完成させる工程とを含むことを特徴とするMEMS走査型ミラーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−185418(P2012−185418A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49863(P2011−49863)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】