説明

PLL制御装置及びPLL制御方法

【課題】親機、複数台の中継機、複数台の子機を備えた大規模なシステムで符号長が比較的長い同期信号を用いても、安定したPLLの引き込みを実現可能とする。
【解決手段】このPLL制御装置では、TIM抽出回路101は入力信号からタイミング成分を抽出し、VCXOは供給される制御信号に基づき基準信号の位相及び/又は発振周波数を制御する。0次PLL回路102はタイミング成分の位相差に基づき基準信号の発振周波数範囲を設定するための制御信号を出力し、1次PLL回路103はタイミング成分の位相差に基づき基準信号の位相を制御するための制御信号を出力する。制御セレクタ105は、0次PLL回路102又は1次PLL回路103からの制御信号を順次切り替えてVCXOに供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、データ通信用モデムのような伝送装置などにおけるPLL(Phase Locked Loop)制御装置及びPLL制御方法に関し、特に、電力線を介してデータ通信を行う電力線通信(PLC:Power Line Communication)システムに用いて最適なPLL制御装置及びPLL制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パチンコ店等の遊技店(ホール)では当然遊技者ごとにパチンコ遊技機等の遊技機が設けられ、学校では児童、生徒又は学生及び教職員ごとにパーソナルコンピュータ(パソコン)が設けられていることが多い。さらに、最近の病院には、医師や看護婦ごとにパソコンが設けられているだけでなく、病棟のベッドごとにデータ端末が設けられているものがある。
【0003】
遊技機、パソコン、データ端末等(以下総称するときは、「端末」という。)とサーバや管理装置等は、通常、専用の通信ケーブルを介して接続されるが、既存の施設に通信ケーブルを敷設するのでは、経費も時間もかかってしまう。そこで、最近では、施設に当初より設置され、端末に電力を供給する電力線を介してデータ通信を行うPLCシステムが以下に示すように提案されている。
【0004】
すなわち、従来、電力線ネットワークを介してデータをポイント・ツー・マルチポイントディジタル伝送する多重アクセス及び多重伝送方法がある。この方法では、アップストリームチャンネル及びダウンストリームチャンネルにより、電力線ネットワーク上で双方向通信する複数のユーザ装置と1つのヘッドエンド装置とが設けられている。アップストリームチャンネルでは、データは複数のユーザ装置からヘッドエンド装置に伝送され、ダウンストリームチャンネルでは、データはヘッドエンド装置から複数のユーザ装置に伝送される。
【0005】
各ユーザ装置及び各ヘッドエンド装置は、複数のユーザ装置が送信可能なデータ量を最大化し、かつ、複数のユーザ装置における遅延時間を最小化するための媒体アクセスコントローラ(MAC)を含んでいる。電力線ネットワークは、周波数分割多重及び時分割多重の少なくとも一方によりアップストリームチャンネル及びダウンストリームチャンネルに分割される。
【0006】
また、この方法では、OFDMA(直交周波数分割多重アクセス)、TDMA(時分割多重アクセス)及びCDMA(符号分割多重アクセス)のうちの少なくとも1つのアクセス方法を用いて、アップストリームチャンネルにおける複数のユーザ装置による同時アクセスが可能である。
【0007】
さらに、この方法では、搬送波ごとのビット数増大又はS/N向上により、OFDMシステムにおける各搬送波の伝送容量を増大させ、アップストリームチャンネル及びダウンストリームチャンネルの両方において伝送容量を最大化するように、各搬送波を、その時点で送信するデータを有する1つ又は複数のユーザ装置に対して動的に割り当てる基準をサポートしている。
【0008】
また、この方法では、データのタイプと送信を要求するユーザ装置とに依存してサービス品質(QoS)を調整することをサポートしている。サービス品質は、異なる瞬間における周波数応答と、複数のユーザ装置及びヘッドエンド装置の間の異なる距離とに従って適応化可能である。
【0009】
さらに、この方法では、システムの全帯域幅にわたって、複数のユーザ装置及びヘッドエンド装置によって観測されるS/Nを常に計算しかつモニタリングすることにより、個々の通信要求の間で、利用可能な帯域幅をヘッドエンド装置により動的に割り当てることをサポートしている。これにより、OFDMシステムにおけるすべての搬送波は、各瞬間における各ユーザ装置の送信の必要性と、当該ユーザ装置に対して確立されたサービス品質(QoS)パラメータと、システムの全容量を最大化する基準と、送信遅延時間を最小化する基準とに従って分配される。
【0010】
分配される伝送リソースは、OFDMAが使用される場合には1つのシンボルに係る複数の搬送波において、TDMAが使用される場合には時間的にシンボル間において、CDMAが使用される場合には複数の符号において、複数のユーザ装置間で再分配され、常に変化する電力線の品質パラメータを常にモニタリングすることにより再分配を最適化している(例えば、特許文献1参照。)。以下、この技術を第1の従来例と呼ぶ。
【0011】
ところで、複数のユーザ装置とヘッドエンド装置との間で電力線ネットワーク上でデータ通信するには、送信側と受信側とで同期をとる必要がある。そのためには、PLL制御装置が必要不可欠であるが、従来、以下に示すものがあった。すなわち、このPLL制御装置は、タイミング抽出部と、1次PLLと、2次PLLと、切換器とを有している。また、2次PLLは、1次PLLの制御信号から周波数情報を抽出する周波数情報抽出部を備えている。
【0012】
タイミング抽出部は、受信信号からタイミング成分を抽出する。1次PLL及び2次PLLは、それぞれタイミング抽出部によって抽出されたタイミング位相に追従する。切換器は、受信信号を受信してから所定時間経過した後に、1次PLLから2次PLLに切り換える。2次PLLの第1積分器は、周波数抽出部により抽出された周波数情報に基づいて初期化される(例えば、特許文献2参照。)。以下、この技術を第2の従来例と呼ぶ。
【0013】
【特許文献1】特表2004−531944号公報
【特許文献2】特許第2588937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、前述したホール、学校、病院等の施設が大規模になるに従って、端末の台数も当然増大する。ホールでは、例えば、最大で2400台の遊技機が設置されることがある。ホールでは、複数台の遊技機をひとまとまりとして「島」と呼び、この「島」を複数個設けることにより全体のシステムを構築しており、大規模なホールでは最大63個の「島」が設けられていることが想定される。したがって、最大で2400台の端末が接続されるシステムを構築するには、63個の「島」入口それぞれに63個の中継機を設置するとともに、各中継機に最大で256台の子機をそれぞれ設置する必要がある。
【0015】
このため、63台の中継機が同時に信号を送信した場合、信号の衝突を回避するために、63分割で信号を多重伝送する必要がある。信号の分割手法として、周波数分割多重、時分割多重又は符号分割多重あるいはこれらの組み合わせが考えられる。信号の分割手法として、符号分割を採用した場合には、各信号、特に、同期信号を識別するための必要最小限の識別利得を確保するためには、前述した第1の従来例と比較して多少符号長を長くする必要がある。
【0016】
従来と比較して多少長めの符号長を有する同期信号を採用した場合、その同期信号自体が有する周波数許容範囲が極端に狭くなるため、前述した第2の従来例に係るPLL制御装置では、引き込みについて何らかの対策が必要となる。今、例えば、「1,1,1,−1」という4ビットの符号を実軸で送信することを想定する。送信側と受信側との間で同期信号の周波数が一致している場合には、特に問題はない。一方、送信側と受信側との間で同期信号の周波数が異なっている場合、特に、受信側のPLL制御装置が引き込んでいない場合には、送信側と受信側との間における同期信号の周波数の差に基づいて、受信信号に位相回転が生じる。例えば、各シンボル間でそれぞれ60度だけ受信信号の位相が回転したと仮定すると、「1,1,1,−1」という4ビットの信号を構成する各シンボルの位相は、送信側では、それぞれ0度、0度、0度及び180度であるため、受信側で60度の位相回転が生じると、各シンボルの位相は、それぞれ0度、60度、120度及び0度となり、実信号は、「1,0.5,−0.5,1」となり、送信側の「1,1,1,−1」とはかなり相関値が異なったものとなってしまう。この結果、受信側で符号が正しく認識できない状況となる。
【0017】
このように、符号には符号長に依存した周波数許容範囲があり、PLL制御装置における安定した引き込みを実現するためには、この周波数許容範囲が重要となる。以下、その理由について説明する。前述した第2の従来例に係るPLL制御装置は、時間軸で1次PLLと2次PLLとに切り替えて引き込み制御を実現していた。例えば、符号長が約160μsの比較的短い同期信号が有する周波数許容範囲は、幅で約200ppmであるので、送信側と受信側との間で発振周波数の偏差が±50ppmである発振器を使用した場合でも、受信偏差は最大で±100ppmとなる。このため、前述した第2の従来例において、受信側では、前述した送信側と受信側との間における発振周波数偏差±50ppmを吸収するため、±100ppmで1次PLLを動作させることにより引き込みを実現しており、安定した同期信号検出を行うことができる。
【0018】
これに対し、例えば、符号長が約200μsの比較的長い同期信号が有する周波数許容範囲は、幅で約150ppmに減少するため、前述した第2の従来例において、受信側で±100ppmで1次PLLを動作させた場合、50ppmの不足が生じる。この結果、同期信号が1次PLLの制御時に安定して生成されず、結果としてPLL制御装置の安定的な引き込みが実現できないことが考えられる。
【0019】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、前述のような問題を解決することを課題の一例とするものであり、これらの課題を解決することができるPLL制御装置及びPLL制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前述した課題を解決するために、請求項1記載の発明に係るPLL制御装置は、入力信号からタイミング成分を抽出するタイミング抽出回路と、供給される制御信号に基づいて基準信号の位相及び/又は発振周波数を制御する可変発振器と、前記抽出されたタイミング成分の位相差に基づいて前記基準信号の発振周波数範囲を設定するための前記制御信号を出力する0次PLL回路と、前記抽出されたタイミング成分の前記位相差に基づいて前記基準信号の位相を制御するための前記制御信号を出力する1次PLL回路と、前記0次PLL回路又は前記1次PLL回路から供給される前記制御信号を順次切り替えて前記可変発振器に供給する切替手段とを備えていることを特徴としている。
【0021】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のPLL制御装置に係り、前記抽出されたタイミング成分の前記位相差に基づいて前記基準信号の前記位相及び前記発振周波数を制御するための前記制御信号を出力する2次PLL回路を備え、前記切替手段は、前記0次PLL回路、前記1次PLL回路又は2次PLL回路から供給される前記制御信号を順次切り替えて前記可変発振器に供給することを特徴としている。
【0022】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のPLL制御装置に係り、前記0次PLL回路は、前記抽出されたタイミング成分の位相差の極性を判定し、前記入力信号の周波数が前記基準信号の周波数より進んでいるか否かを判断する複素共役極性判定回路と、前記複素共役極性判定回路の出力信号を積分する積分回路と、前記積分回路の積分結果の極性を判断することにより、周波数領域判定を行う判定回路と、前記判定回路から供給される周波数領域情報に基づいて、複数種類の自走周波数の設定値を出力する0次PLL制御回路とを備えていることを特徴としている。
【0023】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のPLL制御装置に係り、前記複素共役極性判定回路は、前記抽出されたタイミング成分の相対位相差を計算し、計算した相対位相差の極性を判定し、前記判定の結果に基づいて前記入力信号の周波数が前記基準信号の周波数より進んでいるか否かを判断することを特徴としている。
【0024】
また、請求項5に記載の発明は、請求項2乃至4のいずれかに記載のPLL制御装置に係り、前記1次PLL回路は、前記抽出されたタイミング成分の位相差の極性を判定し、前記抽出されたタイミング成分の位相が進んでいるか否かを判断するイマジナリ極性判定回路と、前記判定回路から供給される周波数領域情報に基づいて前記基準信号の中心周波数を設定するとともに、前記イマジナリ極性判定回路から供給されるイマジナリ成分の極性に基づいて複数の1次系PLL制御情報を獲得する1次PLL制御回路とを備えていることを特徴としている。
【0025】
また、請求項6に記載の発明は、請求項2乃至5のいずれかに記載のPLL制御装置に係り、前記2次PLL回路は、前記抽出されたタイミング成分に基づいて制御係数及び位相制御係数を生成する制御係数発生回路と、前記制御係数発生回路から供給される前記制御係数を積分する第1積分回路と、前記制御係数発生回路から供給される前記位相制御係数を積分する第2積分回路とを備えていることを特徴としている。
【0026】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のPLL制御装置に係り、前記切替手段から前記可変発振器に供給される前記制御信号から周波数情報を抽出する周波数情報抽出回路を備え、前記第1積分回路は前記周波数情報に基づいて初期化されることを特徴としている。
【0027】
また、請求項8に記載の発明に係るPLL制御方法は、入力信号から抽出したタイミング成分の位相差に基づいて基準信号の発振周波数範囲を設定するための前記制御信号を出力する0次PLL制御過程と、前記タイミング成分の前記位相差に基づいて前記基準信号の位相を制御するための前記制御信号を出力する1次PLL制御過程とを有し、前記0次PLL制御過程又は前記1次PLL制御過程で生成される前記制御信号を順次切り替えて可変発振器に供給して前記基準信号の位相及び/又は発振周波数を制御することを特徴としている。
【0028】
また、請求項9に記載の発明は、請求項8に記載のPLL制御方法に係り、前記タイミング成分の前記位相差に基づいて前記基準信号の前記位相及び前記発振周波数を制御するための前記制御信号を出力する2次PLL制御過程を有し、前記0次PLL制御過程、前記1次PLL制御過程又は前記2次PLL制御過程で生成される前記制御信号を順次切り替えて可変発振器に供給して前記基準信号の位相及び/又は発振周波数を制御することを特徴としている。
【0029】
また、請求項10に記載の発明は、請求項8又は9に記載のPLL制御方法に係り、前記0次PLL制御過程は、前記タイミング成分の位相差の極性を判定し、前記入力信号の周波数が前記基準信号の周波数より進んでいるか否かを判断する複素共役極性判定過程と、前記複素共役極性判定過程の判断結果である信号を積分する積分過程と、前記積分過程の積分結果の極性を判断することにより、周波数領域判定を行う判定過程と、前記判定過程の結果である周波数領域情報に基づいて、複数種類の自走周波数の設定値を出力する0次PLL制御過程とを有していることを特徴としている。
【0030】
また、請求項11に記載の発明は、請求項10に記載のPLL制御方法に係り、前記複素共役極性判定過程では、前記タイミング成分の相対位相差を計算し、計算した相対位相差の極性を判定し、前記判定の結果に基づいて前記入力信号の周波数が前記基準信号の周波数より進んでいるか否かを判断することを特徴としている。
【0031】
また、請求項12に記載の発明は、請求項9乃至11のいずれかに記載のPLL制御方法に係り、前記1次PLL制御過程は、前記タイミング成分の位相差の極性を判定し、前記タイミング成分の位相が進んでいるか否かを判断するイマジナリ極性判定過程と、前記判定過程の結果である周波数領域情報に基づいて前記基準信号の中心周波数を設定するとともに、前記イマジナリ極性判定過程の結果であるイマジナリ成分の極性に基づいて複数の1次系PLL制御情報を獲得する1次PLL制御過程とを有していることを特徴としている。
【0032】
また、請求項13に記載の発明は、請求項9乃至12のいずれかに記載のPLL制御方法に係り、前記2次PLL制御過程は、前記タイミング成分に基づいて制御係数及び位相制御係数を生成する制御係数発生過程と、前記制御係数を積分する第1積分過程と、前記位相制御係数を積分する第2積分過程とを有していることを特徴としている。
【0033】
また、請求項14に記載の発明は、請求項13に記載のPLL制御方法に係り、前記可変発振器に供給される前記制御信号から周波数情報を抽出する周波数情報抽出過程を有し、前記第1積分過程では前記周波数情報に基づいて初期化されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、親機と、複数台の中継機と、各中継機に属する複数台の子機を備えた大規模なシステムにおいて、符号長が比較的長い同期信号を用いた場合でも、安定したPLLの引き込みを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るPLL制御装置を適用したPLCシステムの概略構成を示すブロック図である。本実施の形態に係るPLCシステムは、最大で2400台の遊技機(端末)1が設置されるホールに適用されるものである。各端末1には、それぞれPLCモデム61(図3参照)を有する子機2がそれぞれ接続されている。各端末1は、最大で64台がひとまとまりとなって島3を構成しており、各島3には、PLCモデム(図示略)を有する1台の中継機4が設けられている。島3は最大で63個設けられるため、中継機4は、最大で63台が必要となる。
【0036】
各中継機4は、AC100Vの電力を供給するための電源ケーブル5を介して例えば、32分岐回路6及び分岐アダプタ(分岐ADP)7に接続されている。32分岐回路6は、後述するフロア入口分電盤31から供給されるAC100V単相2線又はAC100V単相3線の電圧を最大で32分岐して、電源ケーブル5及び8を介して、それぞれ中継機4、分岐ADP7及び変圧器9に供給する。分岐ADP7は、中継機4から電源ケーブル5を介して供給される信号を分岐して通信線10を介して各子機2に供給するとともに、各子機2から通信線10を介して供給される信号をまとめて電源ケーブル5を介して中継機4に供給する。変圧器9は、AC100Vの電圧をAC24Vに変換して、電源ケーブル11を介して各端末1に供給する。
【0037】
一方、当該ホールが入っている建物の、例えば、屋上には、受電設備(図示略)が設けられている。この受電設備には、受電設備内分電盤21が設けられている。受電設備内分電盤21は、変圧器22と例えば、6分岐回路23とを有している。変圧器22は、外部から供給されるAC6.6kVの電圧をAC100Vの電圧に変換して電源ケーブル24を介して6分岐回路23に供給する。6分岐回路23は、変圧器22から供給されるAC100Vの電圧を最大で6分岐して、電源ケーブル25を介してフロア入口分電盤31に供給する。
【0038】
フロア入口分電盤31は、1個の例えば、32分岐回路32と、複数個の例えば、32分岐回路33と、親機34及び34と、分岐アダプタ(分岐ADP)35とを有している。1個の32分岐回路32と、複数個の32分岐回路33とは、それぞれ独立した電源ケーブル25を介して前述した6分岐回路23からAC100Vの電力が供給されている。32分岐回路32は、電源ケーブル26を介して親機34にAC100Vの電力を供給している。この電源ケーブル26は、電源ケーブル42と接続されている。電源ケーブル42は、ホール内監視室41の壁コンセント43と接続されている。
【0039】
親機34は、PLCモデム(図示略)を有しており、ホール内監視室41から電源ケーブル42及び26を介して供給される信号及び親機34から信号線37を介して供給される信号に基づいて、各種信号処理を行う。一方、親機34もPLCモデム(図示略)を有しており、親機34から信号線37を介して供給される信号及び分岐ADP35から通信線37を介して供給される信号に基づいて、各種信号処理を行う。また、親機34は、生成した信号を通信線37を介して分岐ADP35に供給する。分岐ADP35は、親機34から通信線37を介して供給される信号を分岐して電源ケーブル38を介して各32分岐回路33に供給するとともに、各32分岐回路33から電源ケーブル38を介して供給される信号をまとめて通信線37を介して親機34に供給する。
【0040】
ホール内監視室41には、サーバ44と、ホール内LAN45と、子機46とが概略設置されている。子機46は、PLCモデム61(図3参照)を有しており、電源ケーブル47及び差し込みプラグ48を介して壁コンセント43に接続されているとともに、通信線49を介してホール内LAN45に接続されている。サーバ44は、通信線50を介してホール内LAN45と接続されている。ホール内LAN45は、通信線51、WAN52及び通信線53を介して、リモート監視センタ内に設置されたセンタ内サーバ54に接続されている。
【0041】
本発明は、前述したような、親機と、複数台の中継機と、各中継機に属する複数台の子機を備えた大規模なシステムにおいて、符号長が比較的長い同期信号を用いた場合でも、安定したPLLの引き込みを実現することを目的としている。
【0042】
図2は、本実施の形態に係るPLCシステムで送受信されるマスタフレームの構成の一例を示す図である。マスタフレームは、図2に示すように、同期信号としてのビーコン信号BC1及びBC2の送受信に用いられる同期信号エリアと、データの送受信に用いられるデータエリア等とから構成されている。
【0043】
ビーコン信号BC1は、親機34と子機46との間及び親機34と中継機4との間で同期をとるための同期信号である。一方、ビーコン信号BC2は、中継機4と当該中継機4に属する複数台の子機2との間で同期をとるための同期信号である。図2から分かるように、ビーコン信号BC2は、符号4分割として、4個の異なる、ビーコン信号BC2A、ビーコン信号BC2B、ビーコン信号BC2C及びビーコン信号BC2Dが送受信されるとともに、周波数16分割として、ビーコン信号BC2A、BC2B、BC2C及びBC2Dごとに、16種類のビーコン信号BC2A#01〜BC2A#16、BC2B#01〜BC2B#16、BC2C#01〜BC2C#16及びBC2D#01〜BC2D#16が送受信される。ビーコン信号BC1及びBC2の符号長は、比較的長い約208μsである。
【0044】
PLL制御装置は、一般に、制御の観点から、位相という1個のパラメータを制御する「1次系」PLLと、位相及び周波数という2個のパラメータを制御する「2次系」PLLとに分けられる。本実施の形態では、1個のパラメータも制御しない、言い換えれば、0個のパラメータを制御する「0次系」PLLを導入する。
【0045】
0次系PLLは、0個のパラメータを制御するが、基本的に自局の設定周波数で基準信号が自走することにより、この基準信号と受信信号との位相関係、すなわち、受信信号の位相が基準信号の位相より進んでいるか否か、受信信号の周波数が基準信号の周波数より進んでいる(増加している)か否かを検出することはできる。
【0046】
そこで、複素共役回路を設け、受信信号から抽出されたタイミング成分(位相ベクトル)の複素共役をとって位相差分を計算し、計算結果の極性に基づいて、受信信号の周波数が基準信号の周波数より進んでいるか否かを判断する。前述した複素共役回路による処理を複数の設定周波数について順次実行することにより、受信信号の周波数が概略どの周波数範囲に入っているのかを判断することができ、PLLの制御範囲、具体的には1次系PLLの制御範囲を絞り込むことが可能となる。
【0047】
この後、1次系PLL、2次系PLLと順次切り替えてそれぞれの周波数許容範囲内でPLL制御を行うことにより、符号長が比較的長い同期信号であるビーコン信号BC1及びBC2(符号長;約208μs)を用いた場合でも、安定したPLL引き込みを実現することができる。
【0048】
図3は、子機2を構成するPLCモデム61の構成を示すブロック図である。PLCモデム61は、ディジタル部62と、アナログ部63と、電源部64と、送信ドライバ回路(DV)65と、トランス66と、コモンモードチョーク(CMC)67と、接続部68とから構成されている。
【0049】
ディジタル部62は、PLCメディアアクセス(PLC−MAC)制御部71と、多重化処理部72と、多重分離処理部73とから概略構成されている。PLC−MAC制御部71は、接続部68を介して外部と送受信データの授受を行うとともに、CPU等からなるコントローラ85からの指示に基づいて、時分割処理等を行い、コントローラ85からの制御データの転送やユーザデータのタイムスロット管理を実施する。多重化処理部72は、送信データを多重化して送信する。多重分離処理部73は、受信信号を分離して受信データとする。
【0050】
多重化処理部72は、スクランブラ(SCR)・和分回路74と、信号点発生部75と、逆高速フーリエ変換部(IFFT)76と、変調部(MOD)77と、D/A変換器78とから構成されている。スクランブラ(SCR)・和分回路74は、PLC−MAC制御部71からの送信データをランダム化し、送信スペクトルの安定化又は漏洩電界の安定化を実現するとともに、回線変動に耐えるべく位相和分を行う。
【0051】
信号点発生部75は、複数チャネルの送信信号点を発生するとともに、必要に応じて、ノッチの生成やスペクトル拡散等を行う。また、信号点発生部75は、同期信号であるビーコン信号BC1及びBC2を発生する。
【0052】
IFFT76は、信号点発生部75から供給される複数チャネルの送信信号点である周波数軸上のデータを、時間軸上のデータに変換する。MOD77は、IFFT76から供給される時間軸上のデータを波形整形した後、変調する。IFFT76及びMOD77は、信号点を時間軸上はナイキスト時間間隔で、かつ、周波数軸上はナイキスト周波数間隔で多重化するように構成されている。D/A変換器78は、MOD77からの変調信号をアナログ信号に変換する。
【0053】
多重分離処理部73は、A/D変換器79と、復調部(DEM)80と、高速フーリエ変換部(FFT)81と、タイミング同期部(TIM抽出&PLL)82と、信号点判定部83と、差分・デスクランブル(DSCR)回路84とから構成されている。A/D変換器79は、アナログ部63からの受信信号を14ビットのディジタル信号に変換する。DEM80は、A/D変換器79からのディジタル信号に変換された受信信号を復調してベースバンド信号とした後、不要帯域を除去する。
【0054】
FFT81は、DEM80からの信号の時間軸上のデータを周波数軸上のデータに変換する。信号点判定部83は、FFT81からの周波数軸上のデータについて受信信号点を判定する。タイミング同期部82は、FFT81からの個々の周波数軸上のデータに基づいて、同期信号であるビーコン信号BC1及びBC2について処理を行い、ビーコン信号BC1及びBC2を検出する。そして、タイミング同期部82は、電圧制御型水晶発振器(VCXO)94を制御して、所望の同期を確立する。
【0055】
差分・DSCR回路84は、受信信号点が判定された信号の位相差分をとった後、ランダム化されていた状態を元に戻すことにより、送信データを再生する。この送信データは、PLC−MAC制御部71及び接続部68を介して端末(図示略)へ転送される。
【0056】
アナログ部63は、第1ローパスフィルタ(LPF)91と、ハイパスフィルタ及びゲインスイッチ部(HPF&GSW)92と、第2LPF93と、VCXO94とから構成されている。第1LPF91は、多重化処理部72から供給されるアナログ信号上の不要帯域を除去する。HPF&GSW92は、CMC67及びトランス66とを介して入力された受信信号より不要な低域成分を除去した後、所定レベルまで増幅する。第2LPF93は、HPF&GSW92からの受信信号の高域の不要帯域成分を除去する。VCXO94は、タイミング同期部82を構成する制御セレクタ105(図4参照)から供給されるアナログ信号(電圧)に基づいて、所定の発振周波数の基準クロックを生成してA/D変換器79に供給する。
【0057】
接続部68は、端末1側からインターフェイス86を介して入出力される信号について、フィルタリング処理、フラグメント処理、再送処理、暗号化処理及びスイッチング処理等を行うPLCスイッチ部(PLC−SW)87を有している。
【0058】
電源部64は、例えば、DC電圧5Vの動作電圧を各部に供給する電源出力部95と、スイッチング電源で構成された電源出力部95のスイッチング雑音の漏洩を抑制する電源フィルタ96とを有している。送信ドライバ回路65は、第1LPF91から供給される信号を増幅した後、トランス66及びCMC67を介してAC100Vの屋内配電線側に送信する。
【0059】
また、図4は、本発明の実施の形態に係るPLL制御装置を含むタイミング同期部82の構成を示すブロック図である。タイミング同期部82は、FFT81からの個々の周波数軸上のデータに基づいて、同期信号であるビーコン信号BC1及びBC2について処理を行い、ビーコン信号BC1及びBC2を検出する。また、タイミング同期部82は、VCXO94を制御して、所望の同期を確立する。
【0060】
タイミング同期部82は、タイミング成分(TIM)抽出回路101と、0次PLL回路102と、1次PLL回路103と、2次PLL回路104と、制御セレクタ105と、周波数抽出回路106と、同期制御回路107と、各種制御係数発生回路108とから構成されている。TIM抽出回路101は、FFT81からの周波数軸上のデータよりタイミング位相信号を抽出する。
【0061】
0次PLL回路102は、位相を引き込んでいない状態において、設定周波数で自走している基準信号と受信信号との位相関係、すなわち、受信信号の位相が基準信号の位相より進んでいるか否か及び、受信信号の周波数が基準信号の周波数より進んでいる(増加している)か否かを検出する。
【0062】
0次PLL回路102は、複素共役極性判定回路111と、積分回路112と、判定回路113と、0次PLL制御回路114とから構成されている。複素共役極性判定回路111は、TIM抽出回路101から供給されるタイミング位相信号の位相差の極性を判定し、受信信号の周波数が基準信号の周波数より進んでいるか遅れているかを判断する。また、複素共役極性判定回路111は、前述したタイミング位相信号の複素共役をとる、すなわち、相対位相差を計算し、計算した相対位相差の極性を判定し、受信信号の周波数が基準信号の周波数より進んでいる(増加している)か否かを検出する。
【0063】
積分回路112は、相対位相差を必要サンプル数分積分することにより、不要な雑音成分を除去する。判定回路113は、積分回路112の積分結果の極性を判断することにより、周波数領域判定を行い、得られた周波数領域情報を0次PLL制御回路114及び1次PLL制御回路116に供給する。0次PLL制御回路114は、判定回路113から供給される周波数領域情報に基づいて、0ppmと、+71ppmと、−71ppmとの3種類の自走周波数の設定値を出力する。
【0064】
1次PLL回路103は、イマジナリ極性判定回路115と、1次PLL制御回路116とから構成されている。イマジナリ極性判定回路115は、TIM抽出回路101から供給されるタイミング位相信号のイマジナリ成分の極性を判定し、入力されたタイミング位相信号の位相が進んでいるか又は遅れているかを判断し、イマジナリ成分の極性を1次PLL制御回路116に供給する。
【0065】
1次PLL制御回路116は、0次系PLL回路102を構成する判定回路113から供給される周波数領域情報に基づいて1次PLL制御の中心周波数を設定するとともに、イマジナリ極性判定回路115から供給されるイマジナリ成分の極性に基づいて最終的に4つの1次系PLL制御情報を獲得する。
【0066】
2次PLL回路104は、制御係数発生回路117と、第1積分回路118と、第2積分回路119とから構成されている。制御係数発生回路117は、TIM抽出回路101から供給されるタイミング位相信号に基づいて、第1積分回路118を駆動する制御係数と、第2積分回路119を駆動する位相制御係数とを生成する。
【0067】
第1積分回路118は、加算器121及び122と、タップ123とから構成されている。タップ123には、周波数抽出回路106で求められた周波数成分が初期値としてセットされる。加算器121は、制御係数発生回路117から供給される制御係数と、タップ123から供給される周波数成分とを加算して加算結果を加算器122及びタップ123に供給する。加算器122は、制御係数発生回路117から供給される制御係数と、加算器121から供給される加算結果とを加算して加算結果を第2積分回路119に供給する。
【0068】
第2積分回路119は、加算器124と、タップ125と、第2積分制御回路126とから構成されている。加算器124は、第1積分回路118から供給される情報と、タップ125から供給される位相成分とを加算して加算結果を第2積分制御回路126に供給する。第2積分制御回路126は、第1積分回路118から供給される情報から、制限されたビット長の情報を切り出し、制御セレクタ105を介してVCXO94へ出力するとともに、出力されなかった差分値を第2積分回路119、具体的には、タップ125に戻す。
【0069】
制御セレクタ105は、0次系PLL回路102と、1次系PLL回路103と、2次系PLL回路104とを適宜切り替えて所望の引き込みを得る。また、制御セレクタ105は、0次PLL制御回路114から供給される3種類の自走周波数の設定値を図3に示すVCXO94に供給する。
【0070】
周波数抽出回路106は、制御セレクタ105から出力される各制御段階における正確な周波数情報を抽出する。また、周波数抽出回路106は、抽出した周波数情報を2次PLL回路104を構成する第1積分回路118のタップ123にセットする。同期制御回路107は、例えば、シーケンサ的な役割を担っており、各部に同期系の制御係数を供給する。各種制御係数発生回路108は、各部に同期系以外の制御係数を供給する。
【0071】
以下、本実施の形態について、図5〜図7を参照してさらに詳細に説明する。
図5(a)は、受信側の理想的な制御範囲を示している。この例では、送信側において+100ppmの精度で発振信号が入力され、受信側において1次系PLL回路103の制御を周波数偏差±100ppmで実施している場合であり、特に、中心周波数からのずれが−100ppmである時の制御が問題となる。つまり、中心周波数からのずれが−100ppmである時の制御では、周波数偏差が幅で200ppmとなり、受信された符号の周波数許容範囲150ppmを越えるため、符号が消滅し、受信不能となってしまう。したがって、1次系PLL回路103の制御時といえども、制御範囲は幅で150ppmを越えてはいけないことが分かる。
【0072】
このため、事前に周波数許容範囲を絞り込むことが必要である。そこで、本実施の形態では、0次系PLL回路102として、何もしない系、いわゆる「自走モード」を設けた。最初の自走モードでは中心周波数からのずれが0ppmであり、この場合、送信側の発振周波数が±100ppmに振れたとしても、受信側の最大偏差は100ppmであるため、150ppmの許容偏差に入っている。
【0073】
次に、0次PLL回路102において、複素共役極性判定回路111がタイミング位相信号の複素共役をとり、位相を引き込んでいない不定状態において、相対位相差を計算することにより、位相が進んでいるのか又は遅れているのかを判断する。次に、積分回路112は、相対位相差を必要サンプル数分積分することにより、不要な雑音成分を除去する。
【0074】
この後、判定回路113は、積分回路112の積分結果の極性を判断することにより、周波数領域判定を行う。図5(f)では、A、B、C及びDの4つの領域が示されているが、判定回路113における判定において、受信信号の周波数が進んでいるのであれば、A又はBの領域、遅れているのであれば、C又はDの領域にいると判断することができる。以上説明した第1段階は、図6(3)に示すSYNC0の処理である。
【0075】
第2段階では、図6(3)に示すSYNC1の処理に移行する。SYNC1の処理では、判定回路113による判定に基づいて、周波数がプラス側か又はマイナス側かの周波数領域判定を行うことができるため、この判断結果に基づき、プラス側であれば、自走周波数として+71ppmをセットし、マイナス側であれば、自走周波数を−71ppmにセットする。このように、SYNC0の処理と同様の手法を用いることにより、±71ppmより進みか又は遅れかを周波数判断する。この結果、SYNC1の処理完了後、図5(f)に示す4つの領域のいずれに属するのかの判断をすることができる。
【0076】
次に、SYNC2の処理では、制御セレクタ105により、PLL回路を0次系PLL回路102から1次系PLL回路103に切り替える(図6(2)及び(3)参照)。1次系PLL回路103の周波数の中心値を周波数判断結果A、B、C又はDの領域に従い、A領域であれば、+106ppm±71ppm、B領域であれば、+35ppm±71ppm、C領域であれば、−35ppm±71ppm、D領域であれば、−106ppm±71ppmとする。これにより、±177ppmの範囲までの追従が可能となる。
【0077】
イマジナリ極性判定回路115は、TIM抽出回路101から供給されるタイミング位相信号のイマジナリ成分の極性を判定し、入力されたタイミング位相信号の位相が進んでいるか又は遅れているかを判断し、イマジナリ成分の極性を1次PLL制御回路116に供給する。
【0078】
1次PLL制御回路116は、0次系PLL回路102を構成する判定回路113から供給される周波数領域情報に基づいて1次PLL制御の中心周波数を設定するとともに、イマジナリ極性判定回路115から供給されるイマジナリ成分の極性に基づいて最終的に4つの1次系PLL制御情報を獲得する。
【0079】
送信側と受信側との周波数偏差が±50ppmである場合、幅で200ppmの引き込み範囲があれば、1次系PLL回路103としては十分である。しかし、実際には、VCXO94のループゲインのアナログ的なバラツキもあり、さらに、安定した制御範囲を確保のためのマージンも必要であるため、±170ppm程度の制御範囲が必要である。また、受信符号が安定して検出できるように、最大偏差も150ppm以下とする必要がある。そこで、本実施の形態では、1次系PLL回路103における周波数偏差も±71ppmに制限している。
【0080】
1次系PLL回路103では、2次系PLL回路104の動作に必要な周波数情報を求める必要がある。そこで、この周波数情報は、周波数抽出回路106において、実際にVCXO94を制御するために出力した信号を時間積分することで求める。この場合、位相ずれがあった状態で積分したのでは、周波数成分以外に位相ずれ成分も積分してしまうこととなるため、これを除去する必要がある。このため、図6(3)に示すSYNC2の処理において、1次系PLL回路103の位相引き込みのみを実施している。そして、SYNC3の処理において、周波数抽出回路106は、制御セレクタ105から出力されるVCXO94への制御出力を積分することにより、正確で安定した周波数情報を抽出している。
【0081】
SYNC3の処理が完了すると、正確な周波数成分が求められることになる。そこで、周波数抽出回路106は、抽出した周波数情報を2次PLL回路104を構成する第1積分回路118のタップ123にセットして初期化する。次に、制御セレクタ105により、PLL回路を1次系PLL回路103から2次系PLL回路104に切り替える(図6(2)及び(3)参照)。
【0082】
図6(3)に示すSYNC4、SYNC5及びSYNC6の各処理では、タイミング同期部82は、2次系PLLモードで動作する。すなわち、SYNC4、SYNC5及びSYNC6の各処理の前半において、2次系PLLモードで位相の引き込みを行い、位相ずれをなくしておく。このため、図4に示す2次PLL回路104を構成する第1積分回路118における周波数情報の更新動作は停止しておく。また、制御係数発生回路117は、TIM抽出回路101から供給されるタイミング位相信号に基づいて、第1積分回路118を駆動する制御係数と、第2積分回路119を駆動する位相制御係数とを生成する。
【0083】
第1積分回路118において、加算器121は、制御係数発生回路117から供給される制御係数と、タップ123から供給される周波数成分とを加算して加算結果を加算器122及びタップ123に供給する。加算器122は、制御係数発生回路117から供給される制御係数と、加算器121から供給される加算結果とを加算して加算結果を第2積分回路119に供給する。
【0084】
第2積分回路119は、第1積分回路118から供給される情報と、制御係数発生回路117から供給される位相制御係数とに基づいてPLL動作することとなる。すなわち、第2積分回路119において、加算器124は、第1積分回路118から供給される情報と、タップ125から供給される周波数成分とを加算して加算結果を第2積分制御回路126に供給する。第2積分制御回路126は、第1積分回路118から供給される情報から、制限されたビット長の情報を切り出し、制御セレクタ105を介してVCXO94へ出力するとともに、出力されなかった差分値を第2積分回路119、具体的には、タップ125に戻す。この処理を行うことにより、高精度化を実現することができる。
【0085】
したがって、制御係数発生回路117からの位相制御係数を可変とした場合、制御範囲が可変となり、SYNC4、SYNC5及びSYNC6の3段階の処理において、周波数の絞り込みを行うことにより、順次、周波数精度を向上させていくことが可能となる。
【0086】
図7に1次系PLLモード及び2次系PLLモードにおける引き込み段階の一例を示す。図7は、横軸に各SYNCの処理段階、縦軸に位相量及び周波数量をそれぞれとり、SYNCの処理段階ごとの位相量及び周波数量をそれぞれプロットしたものである。図7からは、SYNC段階ごとに制御係数の絞り込みが行われ、順次ジッタ精度及び周波数精度の絞り込みが行われていることが分かる。図7に示すグラフでは、±100ppmから順次、±10ppm、±1ppmそして±0.1ppmと推移している、すなわち、全体として対数リニアの曲線となっており、引き込み時間の短縮には効果的であることが分かる。
【0087】
このように、本実施の形態によれば、最大で2400台の遊技機(端末)1がホールに設置され、親機34と中継機4を介して接続されるような大規模なシステムにおいて、1次系PLL回路103及び2次系PLL回路104以外に、0次系PLL回路102を新たに設け、これらの回路を順次3段階に切り替えてPLL制御をすることにより、符号長が比較的長いビーコン信号BC1及びBC2を用いた場合でも、安定したPLLの引き込みを実現することができる。
【0088】
また、本実施の形態によれば、制御セレクタ105の後段に周波数抽出回路106を設け、位相引き込み後に制御セレクタ105から出力されるVCXO94への制御出力を積分することにより、SYNC段階ごとの正確で高精度な周波数情報の抽出が可能となっている。また、本実施の形態によれば、0次系PLL回路102において、複素共役極性判定回路111によるタイミング位相差信号の極性判定と、判定回路113による周波数領域判定との2段階の処理を設け、周波数範囲をより細かに絞り込むことにより、高速の引き込みを実現することができる。
【0089】
また、本実施の形態によれば、1次系PLL回路103の処理を前半の位相引き込み処理及び後半の周波数調整処理の2段階に分離することにより、高精度の周波数抽出を実現することができる。さらに、本実施の形態によれば、2次系PLL回路104の処理を3段階に分離し、各段階の前半で位相引き込み処理を行うとともに、後半で周波数抽出処理を行うことにより、段階的に高精度引き込みを高速で実現することができる。
【0090】
また、本実施の形態によれば、図5(b)〜(e)に示すように、各制御範囲にオーバラップの範囲を持たせることにより、安定した引き込み時間を確保することができる。さらに、本実施の形態によれば、0次系PLL回路102において、複素共役極性判定回路11、積分回路112及び判定回路113により、位相が引き込んでいない状態でも、正確な周波数の進み又は遅れを判断することができる。このように、本実施の形態によれば、PLLの制御範囲が、受信された同期信号の周波数許容範囲に入り、安定したPLLの引き込みを実現することができる。
【0091】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、上述した実施の形態では、VCXO94を設ける例を示したが、これに限定されず、VCXO94に換えて、ディジタル制御水晶発振器(DCXO)を設けても良い。VCXO94及びDCXOの両方を含む概念として、「可変発振器」を挙げることができる。
【0092】
また、上述した実施の形態では、子機2を構成するPLCモデム61の構成のみについて説明した。中継機4、親機34及び34並びに子機46を構成するPLCモデムの構成は、接続部68の構成以外は、前述したPLC61の構成と異なることはない。ただし、各PLCモデムが取り扱う信号、データや実行されるプログラム等が異なっている。
また、上述した実施の形態では、本発明をPLCシステムに適用する例を示したが、これに限定されず、本発明は、例えば、ロボット制御など、フィードバック制御装置を必要とする各種の制御に幅広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施の形態に係るPLL制御装置を適用したPLCシステムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】本実施の形態に係るPLCシステムで送受信されるマスタフレームの構成の一例を示す図である。
【図3】子機を構成するPLCモデムの構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るPLL制御装置を構成するタイミング同期部の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るPLL制御装置のPLL引き込み範囲の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るPLL制御装置のPLL引き込みの時間的推移の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るPLL制御装置の1次系PLLモード及び2次系PLLモードにおける引き込み段階の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0094】
1…遊技機(端末)、2,46…子機、3…島、4…中継機、5,8,11,24,25,26,38,42,47…電源ケーブル、6,32,33…32分岐回路、7,35…分岐アダプタ(分岐ADP)、9,22…変圧器、10,37,37,49,50,51,53…通信線、21…受電設備内分電盤、23…6分岐回路、31…フロア入口分電盤、34,34…親機、41…ホール内監視室、43…壁コンセント、44…サーバ、45…ホール内LAN、48…差し込みプラグ、52…WAN、54…センタ内サーバ、61…PLCモデム、62…ディジタル部、63…アナログ部、64…電源部、65…送信ドライバ回路(DV)、66…トランス、67…コモンモードチョーク(CMC)、68…接続部、71…PLCメディアアクセス(PLC−MAC)制御部、72…多重化処理部、73…多重分離処理部、74…スクランブラ(SCR)・和分回路、75…信号点発生部(同期信号発生手段)、76…逆高速フーリエ変換部(IFFT)、77…変調部(MOD)、78…D/A変換器、79…A/D変換器、80…復調部(DEM)、81…高速フーリエ変換部(FFT)、82…タイミング同期部(TIM抽出&PLL)、83…信号点判定部、84…差分・デスクランブル(DSCR)回路、85…コントローラ(CPU)、86…インターフェイス、87…PLCスイッチ部(PLC−SW)、91…第1ローパスフィルタ(LPF)、92…ハイパスフィルタ及びゲインスイッチ部(HPF&GSW)、93…第2LPF、94…電圧制御型水晶発振器(VCXO)、95…電源出力部、96…電源フィルタ、101…タイミング抽出回路、102…0次PLL回路、103…1次PLL回路、104…2次PLL回路、105…制御セレクタ、106…周波数抽出回路、107…同期制御回路、108…各種制御係数発生回路、111…複素共役極性判定回路、112…積分回路、113…判定回路、114…0次PLL制御回路、115…イマジナリ極性判定回路、116…1次PLL制御回路、117…制御係数発生回路、118…第1積分回路、119…第2積分回路、121,122,124…加算器、123,125…タップ、126…第2積分制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号からタイミング成分を抽出するタイミング抽出回路と、
供給される制御信号に基づいて基準信号の位相及び/又は発振周波数を制御する可変発振器と、
前記抽出されたタイミング成分の位相差に基づいて前記基準信号の発振周波数範囲を設定するための前記制御信号を出力する0次PLL回路と、
前記抽出されたタイミング成分の前記位相差に基づいて前記基準信号の位相を制御するための前記制御信号を出力する1次PLL回路と、
前記0次PLL回路又は前記1次PLL回路から供給される前記制御信号を順次切り替えて前記可変発振器に供給する切替手段と
を備えていることを特徴とするPLL制御装置。
【請求項2】
前記抽出されたタイミング成分の前記位相差に基づいて前記基準信号の前記位相及び前記発振周波数を制御するための前記制御信号を出力する2次PLL回路を備え、
前記切替手段は、前記0次PLL回路、前記1次PLL回路又は2次PLL回路から供給される前記制御信号を順次切り替えて前記可変発振器に供給する
ことを特徴とする請求項1に記載のPLL制御装置。
【請求項3】
前記0次PLL回路は、
前記抽出されたタイミング成分の位相差の極性を判定し、前記入力信号の周波数が前記基準信号の周波数より進んでいるか否かを判断する複素共役極性判定回路と、
前記複素共役極性判定回路の出力信号を積分する積分回路と、
前記積分回路の積分結果の極性を判断することにより、周波数領域判定を行う判定回路と、
前記判定回路から供給される周波数領域情報に基づいて、複数種類の自走周波数の設定値を出力する0次PLL制御回路と
を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のPLL制御装置。
【請求項4】
前記複素共役極性判定回路は、前記抽出されたタイミング成分の相対位相差を計算し、計算した相対位相差の極性を判定し、前記判定の結果に基づいて前記入力信号の周波数が前記基準信号の周波数より進んでいるか否かを判断することを特徴とする請求項3に記載のPLL制御装置。
【請求項5】
前記1次PLL回路は、
前記抽出されたタイミング成分の位相差の極性を判定し、前記抽出されたタイミング成分の位相が進んでいるか否かを判断するイマジナリ極性判定回路と、
前記判定回路から供給される周波数領域情報に基づいて前記基準信号の中心周波数を設定するとともに、前記イマジナリ極性判定回路から供給されるイマジナリ成分の極性に基づいて複数の1次系PLL制御情報を獲得する1次PLL制御回路と
を備えていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のPLL制御装置。
【請求項6】
前記2次PLL回路は、
前記抽出されたタイミング成分に基づいて制御係数及び位相制御係数を生成する制御係数発生回路と、
前記制御係数発生回路から供給される前記制御係数を積分する第1積分回路と、
前記制御係数発生回路から供給される前記位相制御係数を積分する第2積分回路と
を備えていることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載のPLL制御装置。
【請求項7】
前記切替手段から前記可変発振器に供給される前記制御信号から周波数情報を抽出する周波数情報抽出回路を備え、
前記第1積分回路は前記周波数情報に基づいて初期化される
ことを特徴とする請求項6に記載のPLL制御装置。
【請求項8】
入力信号から抽出したタイミング成分の位相差に基づいて基準信号の発振周波数範囲を設定するための前記制御信号を出力する0次PLL制御過程と、
前記タイミング成分の前記位相差に基づいて前記基準信号の位相を制御するための前記制御信号を出力する1次PLL制御過程とを有し、
前記0次PLL制御過程又は前記1次PLL制御過程で生成される前記制御信号を順次切り替えて可変発振器に供給して前記基準信号の位相及び/又は発振周波数を制御する
ことを特徴とするPLL制御方法。
【請求項9】
前記タイミング成分の前記位相差に基づいて前記基準信号の前記位相及び前記発振周波数を制御するための前記制御信号を出力する2次PLL制御過程を有し、
前記0次PLL制御過程、前記1次PLL制御過程又は前記2次PLL制御過程で生成される前記制御信号を順次切り替えて可変発振器に供給して前記基準信号の位相及び/又は発振周波数を制御する
ことを特徴とする請求項8に記載のPLL制御方法。
【請求項10】
前記0次PLL制御過程は、
前記タイミング成分の位相差の極性を判定し、前記入力信号の周波数が前記基準信号の周波数より進んでいるか否かを判断する複素共役極性判定過程と、
前記複素共役極性判定過程の判断結果である信号を積分する積分過程と、
前記積分過程の積分結果の極性を判断することにより、周波数領域判定を行う判定過程と、
前記判定過程の結果である周波数領域情報に基づいて、複数種類の自走周波数の設定値を出力する0次PLL制御過程と
を有していることを特徴とする請求項8又は9に記載のPLL制御方法。
【請求項11】
前記複素共役極性判定過程では、前記タイミング成分の相対位相差を計算し、計算した相対位相差の極性を判定し、前記判定の結果に基づいて前記入力信号の周波数が前記基準信号の周波数より進んでいるか否かを判断することを特徴とする請求項10に記載のPLL制御方法。
【請求項12】
前記1次PLL制御過程は、
前記タイミング成分の位相差の極性を判定し、前記タイミング成分の位相が進んでいるか否かを判断するイマジナリ極性判定過程と、
前記判定過程の結果である周波数領域情報に基づいて前記基準信号の中心周波数を設定するとともに、前記イマジナリ極性判定過程の結果であるイマジナリ成分の極性に基づいて複数の1次系PLL制御情報を獲得する1次PLL制御過程と
を有していることを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載のPLL制御方法。
【請求項13】
前記2次PLL制御過程は、
前記タイミング成分に基づいて制御係数及び位相制御係数を生成する制御係数発生過程と、
前記制御係数を積分する第1積分過程と、
前記位相制御係数を積分する第2積分過程と
を有していることを特徴とする請求項9乃至12のいずれかに記載のPLL制御方法。
【請求項14】
前記可変発振器に供給される前記制御信号から周波数情報を抽出する周波数情報抽出過程を有し、
前記第1積分過程では前記周波数情報に基づいて初期化される
ことを特徴とする請求項13に記載のPLL制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−10774(P2010−10774A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164573(P2008−164573)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000161806)京楽産業.株式会社 (4,820)
【Fターム(参考)】