説明

Si含有炭素膜およびこれを用いた型

【課題】従来に比べ、離型性、耐久性に優れた皮膜を提供すること。離型性、耐久性に優れた型を提供すること。
【解決手段】膜表面10aでF濃度が最大であり、膜裏面10bでF濃度が最小であるSi含有炭素膜10とする。F濃度は、膜表面から膜裏面にかけて傾斜していることが好ましい。膜表面は、接着材料および/または粘着材料と接触させて好適に使用することができる。また、型表面にSi含有炭素膜10が積層された型とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si含有炭素膜およびこれを用いた型に関し、さらに詳しくは、型等の表面処理に用いて好適なSi含有炭素膜およびこれを用いた型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な産業分野において、離型性、耐摩耗性等の機能を有する機能皮膜が利用されている。例えば、プラスチック成形品の成形に用いる型の表面に離型性に優れた皮膜が使用されている。他にも、摺動部品の表面に耐摩耗性に優れた皮膜が形成されることもある。
【0003】
具体的には、例えば、特許文献1には、樹脂用金型の表面に、シリコン系離型剤を塗布し、皮膜を形成する点が記載されている。シリコン系離型剤以外にも、フッ素系離型剤を塗布して皮膜を形成する方法も公知である。
【0004】
また、同文献には、金型の表面に形成する皮膜として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に代表されるフッ素含有高分子材料よりなる皮膜が記載されている。
【0005】
また、同文献には、樹脂用金型の表面に形成する皮膜として、膜表面にフッ素を1〜20原子%含むダイヤモンド状炭素膜が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3189347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術は、以下の点で問題があった。
【0008】
すなわち、シリコン系離型剤、フッ素系離型剤等の塗布により形成した皮膜を用いると、製品製造時に離型剤が製品中に移行し、製品の品質に悪影響を及ぼすことがある。
【0009】
例えば、配線基板上に電子部品を実装するのに使用される部材として、異方性導電膜が知られている。この異方性導電膜の製造時に、型に保持した導電性粒子を接着層に転写する工程を経ることがあるが、上記型表面にシリコン系離型剤、フッ素系離型剤等を塗布すると、接着層に離型剤が移行し、接着性が低下して異方性導電膜の基本性能が損なわれてしまう。
【0010】
また、PTFE等の高分子材料よりなる皮膜は、良好な離型性を有するものの、無機材料との密着力が低いため、使用時に無機基材から剥離しやすい。また、皮膜自身の硬さが低いため、皮膜に傷が付いたり、摩耗したりする。このように高分子材料よりなる皮膜は、耐久性が低い。
【0011】
また、いわゆるDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)等や、これをベースにフッ素を含有させた炭素膜は、高分子材料よりなる皮膜に比較すれば、ある程度の硬さ(フッ素を含有させた場合には、さらに離型性も)を有している。しかしながら、接着材料や粘着材料と接触させて使用した場合には、基材から剥離しやすく、耐久性に乏しい。
【0012】
また、皮膜を2層構造にし、一方の層に離型性を、他方の層に基材との密着性を担わせ、機能分離を行うことも考えられる。しかしながら、このような皮膜は、生産性が悪く、コストもかかるため、不利である。
【0013】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、従来に比べ、離型性、耐久性に優れた皮膜を提供することにある。また、他の課題は、離型性、耐久性に優れた型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明に係るSi含有炭素膜は、膜表面でF濃度が最大であり、膜裏面でF濃度が最小であることを要旨とする。
【0015】
ここで、上記Si含有炭素膜は、膜表面から膜裏面にかけてF濃度が傾斜していることが好ましい。
【0016】
また、上記Si含有炭素膜は、膜表面のF濃度が25原子%以上であることが好ましい。
【0017】
また、上記Si含有炭素膜は、ビッカース硬度が60Hv以上であることが好ましい。
【0018】
また、上記Si含有炭素膜は、膜表面の表面自由エネルギーが30mN/m以下であることが好ましい。
【0019】
また、上記Si含有炭素膜は、膜表面の表面自由エネルギーのD成分がP成分よりも大きいことが好ましい。
【0020】
また、上記Si含有炭素膜は、膜表面の表面自由エネルギーのP成分が1mN/m以下であることが好ましい。
【0021】
また、上記Si含有炭素膜は、膜表面における水の接触角が100度以上、ホルムアミドの接触角が80度以上、エチレングリコールの接触角が70度以上であることが好ましい。
【0022】
また、上記Si含有炭素膜は、アニール温度120℃以上、アニール処理時間12時間以上のアニール処理が施されていることが好ましい。
【0023】
また、上記Si含有炭素膜は、膜厚が0.01〜0.1μmの範囲内にあることが好ましい。
【0024】
また、上記Si含有炭素膜は、Si基材またはNi基材上に成膜されていることが好ましい。また、酸化ケイ素基材は、紫外線硬化性樹脂等の光硬化性樹脂を用いる際に有用である。
【0025】
また、上記Si含有炭素膜は、膜表面を、接着材料および/または粘着材料と接触させて使用するものであることが好ましい。
【0026】
本発明に係る型は、型表面に、上述したSi含有炭素膜が積層されていることを要旨とする。
【0027】
本発明に係る粒子転写型は、粒子が導入される多数の孔部を型表面に有し、上記型表面に、上述したSi含有炭素膜が積層されていることを要旨とする。
【0028】
本発明に係る異方性導電膜の製造方法は、上述した粒子転写型を用いることを要旨とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るSi含有炭素膜は、膜表面でF濃度が最大とされ、膜裏面でF濃度が最小とされている。すなわち、離型性が必要な膜表面でF濃度が最大とされているため、優れた離型性を発現できる。また、離型性が必要ではなく、膜を支持する基材との密着性が要求される膜裏面でF濃度が最小とされているため、膜裏面でC濃度が相対的に高くなり、基材との密着性に優れる。さらに、ベースがSiを含有する炭素膜であるため、Fを含有するダイヤモンド状炭素膜等と比較して、高い硬度が得られる。それ故、膜に傷が発生したり、膜の剥離が生じたりし難くなる。
【0030】
したがって、本発明に係るSi含有炭素膜は、従来に比べ、優れた離型性、耐久性を発揮することができる。また、上記効果を1層構造で達成することができることから、生産性、コスト面でも有利である。
【0031】
ここで、上記Si含有炭素膜において、膜表面から膜裏面にかけてF濃度が傾斜している場合には、上記離型性および密着性を確保しやすく、信頼性の向上に寄与できる。
【0032】
また、膜表面のF濃度が25原子%以上である場合には、例えば、接着材料や粘着材料と接触して使用される場合等でも、十分な離型性を発現させることができる。
【0033】
また、ビッカース硬度が60Hv以上である場合には、粒子等と接触して用いられる場合等であっても、傷・剥離が生じ難くなる。
【0034】
また、膜表面の表面自由エネルギーが、30mN/m以下である場合、膜表面の表面自由エネルギーのD成分がP成分よりも大きい場合、膜表面の表面自由エネルギーのP成分が1mN/m以下である場合、膜表面における水の接触角が100度以上、ホルムアミドの接触角が80度以上、エチレングリコールの接触角が70度以上である場合には、いずれも、例えば、接着材料や粘着材料と接触して使用される場合等であっても、十分な離型性を発現させることができる。
【0035】
また、アニール温度120℃以上、アニール処理時間12時間以上のアニール処理が施されている場合には、離型性を向上させることができる。
【0036】
また、膜厚が0.01〜0.1μmの範囲内にある場合には、膜を成膜する基材の固有の硬さを損なうことなく、粒子等と接触して用いられる場合であっても膜表面に傷・剥離が生じ難くなる。
【0037】
また、上記Si含有炭素膜が、Si基材またはNi基材上に成膜されている場合には、SiとNiは膜中のSiと結合しやすいため、基材との密着性を向上させやすくなる。また、Ni基材であれば、比較的低コスト化を図ることもできる。
【0038】
また、膜表面を、接着材料および/または粘着材料と接触させて使用する場合には、本発明の主な効果である離型性、耐久性を顕著に発揮させることができる。
【0039】
本発明に係る型は、型表面に上述したSi含有炭素膜が積層されている。そのため、離型性、耐久性に優れる。
【0040】
本発明に係る粒子転写膜は、粒子が導入される多数の孔部を型表面に有し、上記型表面に、上述したSi含有炭素膜が積層されている。そのため、離型性に優れる。また、型基材と膜との密着性に優れるとともに、孔部へ粒子を充填する際に粒子により膜に傷や剥離が生じ難くなり、耐久性に優れる。
【0041】
それ故、粒子転写型に保持した導電性粒子を接着層に転写する工程や、あるいは、粒子転写型に保持した導電性粒子を粘着材に一次転写し、これを接着層に転写する工程を有する異方性導電膜の製造等に好適に用いることができる。また、従来であれば、接着層や粘着材が粒子転写型にひっつき、これを無理やり引き剥がそうとすると、引き剥がし時の衝撃などによって型に配列保持させた粒子が位置ズレすることがあったが、このようなことも抑制しやすくなる。
【0042】
本発明に係る異方性導電膜の製造方法は、上述した粒子転写型を用いる。そのため、接着層や粘着材に対して繰り返し粒子の転写を行うことができ、生産性の向上に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本実施形態に係るSi含有炭素膜(以下、「本膜」ということがある。)、本実施形態に係る型(以下、「本型」ということがある。)、本実施形態に係る異方性導電膜の製造方法(以下、「本ACF製法」ということがある。)について詳細に説明する。
【0044】
1.本膜
図1は、本膜の模式的な断面図である。本膜10は、Siを含有する炭素膜をベースとする膜である。ここで、本膜10は、さらにF元素を含有しており、F濃度は、膜表面10aで最大とされ、膜裏面10bで最小とされている。
【0045】
膜表面10aは、各種樹脂、ゴム等の素材に接する面である。一方、膜裏面10bは、薄膜である本膜10を支持する型等の基材に接する面である。本膜10におけるF濃度分布は、X線光電子分光分析法(XPS)により測定することができる。なお、厚み方向のF濃度分布は、Arイオンビーム等を用いてエッチングを行い、所定量の膜を除去した後、XPS分析を行うことで測定することができる。
【0046】
本膜において、F濃度は、膜表面から膜裏面にかけて傾斜していることが好ましい。この場合には、離型性および密着性を確保しやすく、信頼性の向上に寄与しやすくなるからである。
【0047】
なお、膜中におけるF濃度の傾斜は、成膜時にF源の濃度を制御することで調節することができる。
【0048】
本膜において、膜表面のF濃度の下限は、好ましくは、25原子%以上、より好ましくは、30原子%以上、さらに好ましくは、35原子%以上であると良い。接着材料や粘着材料と接触して使用される場合等でも、十分な離型性を発現させやすくなるからである。
【0049】
一方、本膜において、膜表面のF濃度の上限は、特に限定されるものではないが、成膜性、膜安定性、離型性等の観点から、好ましくは、45原子%以下であると良い。
【0050】
本膜のビッカース硬度の下限は、好ましくは、60Hv以上、より好ましくは、80Hv以上、さらに好ましくは、100Hv以上であると良い。粒子等と接触して用いられる場合等であっても、傷・剥離が生じ難くなるからである。
【0051】
一方、ビッカース硬度の上限は、特に限定されるものではないが、成膜性、膜安定性、剥離性、耐久性等の観点から、好ましくは、800Hv以下、より好ましくは、400Hv以下、さらに好ましくは、230Hv以下であると良い。
【0052】
本膜において、特定の評価溶媒を用いたときの膜表面における接触角および表面自由エネルギーは、好ましくは、下記の条件を満たしていると良い。いずれも、接着材料や粘着材料と接触して使用される場合等でも、十分な離型性を発現させやすくなるからである。
【0053】
(接触角)
・水の接触角:好ましくは、100度以上、より好ましくは、102度以上、さらに好ましくは、105度以上
・ホルムアミドの接触角:好ましくは、80度以上、より好ましくは、82度以上、さらに好ましくは、83度以上
・エチレングリコールの接触角:好ましくは、70度以上、より好ましくは、75度以上、さらに好ましくは、80度以上
本膜において、接触角は、濡れ性を定量的に示すという技術的意義がある。
【0054】
(表面自由エネルギー)
(1)表面自由エネルギー:好ましくは、30mN/m以下、より好ましくは、28mN/m以下
(2)表面自由エネルギーのD成分>表面自由エネルギーのP成分
(3)表面自由エネルギーのP成分:好ましくは、1mN/m以下、より好ましくは、0.9mN/m以下、さらに好ましくは、0.8mN/m以下
【0055】
本膜において、(1)表面自由エネルギーの値は、極性の有無に対する濡れ性を定量的に示すという技術的意義がある。
【0056】
また、本膜において、(2)表面自由エネルギーのD成分は、その値が相対的に大きい場合、極性を持たない溶媒に対して濡れ性を持つ。一方、表面自由エネルギーのP成分と規定は、その値が大きい場合、極性を持つ溶媒に対して濡れ性を持つ。そのため、D成分>P成分の関係を満たすことは、極性を持つ溶剤に対する離型性を示すという技術的意義がある。
【0057】
また、本膜において、(3)表面自由エネルギーのP成分の値を規定することは、一般的に用いられる極性を持つ溶剤に対する濡れ性を示すという技術的意義がある。
【0058】
なお、上記接触角は、液滴法により、本膜の表面に液滴を付着させてできた液滴と膜界面との角度を測定することにより得られる。また、上記表面自由エネルギーは、3種の評価溶媒を用いて測定したそれぞれの接触角を用い、Owens−Wendt法により算出することができる。以下にOwens−Wendt法の計算式を示す。
【0059】
<Owens−Wendt法の計算式>
図2は、Owens−Wendt法の計算式を説明するための図である。
ここで、σSL:固体−液体の界面張力
σ :液体の表面張力
σ:液体の表面張力の分散成分
σ:液体の表面張力の極性成分
σ :固体の表面張力(表面自由エネルギー)
σ:固体の表面張力の分散成分(D成分)
σ:固体の表面張力の極性成分(P成分)とすると、

σ=σ+σ・・・・(1)
σ=σ+σ・・・・(2)
σSL=σ+σ−2(√(σ・σ)+√(σ・σ))・・・(3)
σ=σcosθ+σSL・・・・(4)
(4)より
σSL=σ−σcosθ・・・・(5)
(5)を(3)に代入
σ−σcosθ=σ+σ−2(√(σ・σ)+√(σ・σ))
σ(1+cosθ)/2=√(σ・σ)+√(σ・σ
σ(1+cosθ)/(2・√σ)=√σ+√σ・(√σ/√σ
Y=σ(1+cosθ)/(2・√σ
b=√σ
m=√σ
X=(√σ/√σ

σとσとσは既知の溶媒の値を用いることで、Y=mX+bの傾き(σ)と切片(σ)が求まり、この傾きと切片の和が固体の表面張力(σ)すなわち表面自由エネルギーとなる。
【0060】
本膜は、離型性を向上させる観点から、特定のアニール処理が施されていることが好ましい。
【0061】
アニール温度は、好ましくは、120℃〜200℃、より好ましくは、130℃〜180℃、さらに好ましくは、140℃〜160℃の範囲内にあると良い。また、アニール処理時間は、12時間〜36時間、より好ましくは、12時間〜24時間、さらに好ましくは、12時間〜18時間の範囲内にあると良い。
【0062】
本膜において、膜厚の下限は、型等の基材の表面を十分に覆う等の観点から、好ましくは、0.01μm以上、より好ましくは、0.005μm以上、さらに好ましくは、0.001μm以上であると良い。一方、膜厚の上限は、生産性等の観点から、好ましくは、0.1μm以下、より好ましくは、0.08μm以下、さらに好ましくは、0.05μm以下であると良い。
【0063】
本膜は、各種材質の基材上に成膜されていても良いが、好ましくは、Si基材またはNi基材上に成膜されていると良い。SiとNiは膜中のCと結合しやすいため、基材との密着性を向上させやすくなるからである。また、とりわけNi基材であれば、比較的低コスト化を図りやすくなるからである。
【0064】
本膜の膜表面に接触させる材料は、特に限定されるものではなく、各種の樹脂やゴム等を例示することができる。これらのうち、好ましくは、接着材料および/または粘着材料であると良い。本発明の主な効果である離型性、耐久性を顕著に発揮させることができるからである。
【0065】
上述した本膜は、イオンプレーティング法、スパッタリング法、プラズマCVD法等の各種の気相法を用いて成膜することができる。これら気相法のうち、好ましくは、膜中にF原子を取り込みやすい等の観点から、プラズマCVD法であると良い。
【0066】
プラズマCVD法を採用する場合、成膜用原料ガスとしては、C源として、例えば、メタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)、ブタン(C10)、アセチレン(C)、ベンゼン(C)、シクロヘキサン(C12)等の炭化水素ガスを好適に用いることができる。また、Si源として、例えば、モノシラン(SiH)、ジシラン(Si)、モノメチルシラン(CHSiH)、トリメチルシラン((CHSiH)、テトラメチルシラン((CHSi)等を好適に用いることができる。また、F源として、フッ素(F)、三フッ化窒素(NF)、六フッ化硫黄(SF)、四フッ化炭素(CF)、六フッ化二炭素(C)、八フッ化四炭素(C)、四フッ化ケイ素(SiF)、六フッ化ケイ素(Si)、三フッ化塩素(ClF)、フッ化水素(HF)等を好適に用いることができる。これらガスは、それぞれ単独で用いても良いし、必要に応じて混合して用いても良い。
【0067】
また、膜表面でF濃度を最大、膜裏面でF濃度を最小にするには、F源の量を成膜初期に最小とし、成膜終期に最大となるように制御すれば良い。また、膜表面から膜裏面にかけてF濃度を傾斜させるには、F源の量を漸次増加させたり、F源の量を段階的に増加させたりすれば良い。なお、高周波電力、変調周波数、真空度、処理時間等の各種成膜条件は、最適な値を選択することができる。
【0068】
また、成膜前に、必要に応じて、基材表面をフッ素ガス、水素ガス、酸素ガス、希ガス、これらの任意の組み合わせによるガスのプラズマに曝しても良い。この種の前処理を行った場合には、基材表面がプラズマ化したガスによってクリーニングされるので、基材との密着性を向上させやすくなるからである。
【0069】
また、成膜後、アニール処理を施すこともできる。アニール処理の条件は上述した条件を例示することができる。
【0070】
2.本型
本型は、型表面に上述した本膜が積層されている。型基材の材質としては、例えば、Si、SiC、SiN等の半導体、Ni、Ni合金、Cu、Cu合金等の金属、SiO等の絶縁体、鍍金材料等を例示することができ、用途等に応じて適宜選択することができる。
【0071】
例えば、転写用途に用いる場合には、型面に微細な表面加工を施しやすい、本膜との密着性に優れる等の観点から、Si、Ni、Ni合金等が好適である。
【0072】
本型の用途としては、例えば、成形物の成形、表面凹凸の転写、孔部内に保持させた粒子の転写などを例示することができる。本型の型面形状は、これら用途等に応じて選択することができ、平滑であっても良いし、微細凹凸、孔部等が形成されていても良い。
【0073】
より具体的には、例えば、粒子の転写に本型を用いる場合、型基材表面には、粒子が導入される多数の孔部が形成されており、この孔部形成面の表面に、上述した本膜が成膜されている。この場合、孔部の内部には、本膜が成膜されていても良いし、成膜されていなくても良い。好ましくは、成膜されていると良い。また、孔部は、規則的に配列されていても良いし、ランダムであっても良い。好ましくは、有用性が高まる等の観点から、孔部は規則的に配列されていると良い。
【0074】
なお、本型の形状は、特に限定されるものではなく、平板状、ロール状等、各種の形状を採用することができる。
【0075】
3.本ACF製法
本ACF製法は、粒子が導入される多数の孔部を型表面に有し、この型表面に本膜が積層された粒子転写型を用いる。
【0076】
具体的には、先ず、準備した粒子転写型の孔部に導電性粒子を保持させ、孔部内の導電性粒子を、第1の接着層形成材料より形成した平膜表面に転写する。この際、孔部内の導電性粒子を、第1の接着層形成材料ではなく、粘着材等に一次転写し、この一次転写された導電性粒子を、上記平膜表面に二次転写することも可能である。この際、粒子転写型の孔部が互いに離間されて規則的に配列されておれば、この配列に対応した状態で導電性粒子が平膜に転写される。
【0077】
なお、粒子転写型の孔部に導電性粒子を保持させる方法としては、具体的には、例えば、(1)導電性粒子自体またはその分散液を粒子転写型の孔部形成面上に散布した後、刷毛、ブラシ、ブレードなどの擦り切り手段により擦り切り、孔部内に導電性粒子を入れる方法、(2)導電性粒子自体またはその分散液を粒子転写型の孔部形成面上に散布した後、外部から磁力や振動を加えたり、孔部の底部から粒子を吸引したりする等して、孔部内に導電性粒子を入れる方法、(3)上記分散液中に粒子転写型を浸漬する方法、(4)粒子転写型の孔部形成面と一定距離離間させて板状部材を配置し、形成された隙間に、上記分散液を導入し、型および/または板状部材をスライド移動させる方法、これらの組み合わせなどを例示することができる。
【0078】
導電性粒子を孔部内に物理的に押し込むので、導電性粒子をより確実に保持させやすい、保持させるのに要する時間が比較的短いなどの観点から、好ましくは、(1)の方法を用いるのが良い。より好ましくは、乾式で行うことができるなどの観点から、(1)の方法において粉末状の導電性粒子自体を用いるのが良い。さらに好ましくは、導電性粒子が孔部内に導入されやすくなるなどの観点から、(1)の方法において、孔部形成面と反対側から磁力により導電性粒子を型に引きつけつつ、擦り切り手段により擦り切ると良い。
【0079】
次に、転写した導電性粒子を平膜内に埋め込んで保持させる。これにより、多数の導電性粒子を保持する第1の接着層を形成する。この際、導電性粒子の埋め込みは、熱ラミネート法等を利用して行うことが可能であり、加圧力、加熱温度等を調整することで、導電性粒子の埋め込み程度を可変させることが可能である。
【0080】
次に、この第1の接着層の何れか一方の面、好ましくは、転写面に、第2の接着層を形成する。この際、第2の接着層の形成方法としては、具体的には、例えば、適当な固形分量(好ましくは、40〜70%)、粘度となるように調製した第2の接着層形成材料を、コーター等の公知の塗工手段を用いて第1の接着層表面に塗工し、必要に応じて乾燥させる方法、離型性を有する基材表面に第2の接着層形成材料を同様にして塗工する等して予め作製しておいた膜状の第2の接着層を、第1の接着層表面に貼り合わせる方法等を例示することができる。
【0081】
なお、第1および第2の接着層材料としては、各種の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、紫外線等の光による光硬化性樹脂、ゴムなどを用いることができる。
【0082】
具体的には、例えば、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、ビスマレイミドトリアジン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリビニル系樹脂などの熱可塑性樹脂、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ビニル基、アミノ基、エポキシ基などの官能基を1種または2種以上含むゴムやエラストマーなどを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0083】
これら材料中には、硬化剤、硬化促進剤、改質剤、酸化防止剤、充填剤などの各種添加剤が、必要に応じて、1種または2種以上添加されていても良い。
【0084】
以上により、本型を利用して、多数の導電性粒子を保持する第1の接着層と、第1の接着層の片面に積層された第2の接着層とを有する異方性導電膜を製造することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0086】
1.被成膜基材の準備
被成膜基材として、Siウェハー(大きさ:φ150cm、厚み:500μm)と、表面に多数の孔部を有するSi型と、表面に多数の孔部を有するNi電鋳型とを準備した。
【0087】
上記Si型は、ドライエッチング法を用いて、Siウェハー(大きさ:φ150cm、厚み:500μm)表面に、約8°に傾斜して千鳥状に規則的に配列した略円柱状の孔部(断面:直径5.5μmの略円形状、深さ:3.5μmの非貫通孔、ピッチ:9μm)を形成したものである。
【0088】
上記Ni電鋳型は、光造形法を用いて、Siウェハー(大きさ:φ150cm、厚み:500μm)表面に、約8°に傾斜して千鳥状に規則的に配列した略円柱状の凸部(断面:直径5.5μm、高さ:3.5μmの略円形、ピッチ:9μm)を光硬化樹脂を用い形成した後、それを母型としてNi電鋳によって形成したものである。なお、ともに孔部形成領域は、100mm×100mmである。
【0089】
2.成膜装置および成膜プロセスの概略説明
(成膜装置)
図3に、実施例で使用した成膜装置の概略構成を示す。図3に示した成膜装置は、プラズマCVD装置である。プラズマCVD装置100は、圧力調整弁102を介して排気ポンプ104が接続された真空チャンバ106を有している。真空チャンバ106内には、電極108(大きさ:直径80cm)およびこれに対向する位置に電極110が設置されている。
【0090】
電極110は接地され、電極108にはマッチングボックス112を介して高周波電源114、任意波形発生装置116が接続されている。また、電極108には、その上に支持される被成膜基材118を成膜温度に加熱するためのヒータ120が付設されている。また、電極108は、被成膜基材118の温度上昇を抑えるため、水冷可能とされている。
【0091】
また、真空チャンバ106には、ガス供給部122が付設されており、真空チャンバ106内に成膜用原料ガスを導入できるようになっている。ガス供給部122には、流量調整器124、圧力調整弁126を介して成膜用原料ガスのガス源128が1または2以上接続されている。
【0092】
(成膜プロセス)
真空チャンバ106内の電極108上に被成膜基材118を設置し、排気ポンプ104により真空排気する。また、ガス供給部122から真空チャンバ106内に前処理用ガスを所定圧力まで導入するとともに、高周波電源114からマッチングボックス112を介して電極108に高周波電力を供給する。これにより真空チャンバ106内に導入した前処理ガスをプラズマ化し、被成膜基材118の被成膜面をプラズマクリーニングし、前処理を行う。前処理用ガスには、フッ素含有ガス、水素ガスおよび酸素ガスのうち1種以上を使用することができる。また、上記前処理は、同じガスまたは異なるガスを用いて複数回行うことも可能である。
【0093】
上記前処理の後、前処理用ガスを排気し、新たに、真空チャンバ106内に所定の成膜用原料ガスを導入する。そして、高周波電源114および任意波形発生装置116により形成したパルス変調高周波電力をマッチングボックス112を介して電極108に供給し、成膜用原料ガスをプラズマ化し、被成膜基材118の被成膜面に成膜を行う。なお、膜構成を2層とする場合には、1層目の成膜後、成膜用原料ガスを排気し、次いで、新たに2層目の成膜用原料ガスを導入し、上記と同様にして成膜を行えば良い。
【0094】
3.実施例および比較例における成膜条件
実施例および比較例における成膜条件を以下に示す。
(実施例1)
・前処理条件
前処理用ガス 水素(H)ガス 500sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、500W
真空度 0.1Torr
処理時間 10分
・成膜条件
成膜用原料ガス
成膜開始〜30秒まで
テトラメチルシラン((CHSi)ガス 20sccm
31秒〜3分30秒まで
テトラメチルシラン((CHSi)ガス 20sccm
ヘキサフルオロエタン(C)ガス 0〜200sccmで傾斜
3分31秒〜4分まで
テトラメチルシラン((CHSi)ガス 20sccm
ヘキサフルオロエタン(C)ガス 200sccm
なお、図4に実施例1における成膜処理時間とガス流量との関係を示す。
高周波電力 周波数13.56MHz、200W
変調周波数 1kHz Duty 50%
真空度 0.05Torr
処理時間 4分
【0095】
(実施例2)
・前処理条件
実施例1に同じ
・成膜条件
成膜用原料ガス
成膜開始〜30秒まで
テトラメチルシラン((CHSi)ガス 10sccm
31秒〜5分まで
テトラメチルシラン((CHSi)ガス 10sccm
ヘキサフルオロエタン(C)ガス 0〜100sccmで傾斜
5分1秒〜7分まで
テトラメチルシラン((CHSi)ガス 10sccm
ヘキサフルオロエタン(C)ガス 100sccm
なお、図5に実施例2における成膜処理時間とガス流量との関係を示す。
高周波電力 周波数13.56MHz、100W
変調周波数 1kHz Duty 50%
真空度 0.03Torr
処理時間 7分
【0096】
(実施例3)
・前処理条件
実施例1に同じ
・成膜条件
成膜用原料ガス
成膜開始〜30秒まで
テトラメチルシラン((CHSi)ガス 20sccm
31秒〜4分まで
テトラメチルシラン((CHSi)ガス 20〜10sccm
ヘキサフルオロエタン(C)ガス 0〜200sccmで傾斜
4分1秒〜5分まで
テトラメチルシラン((CHSi)ガス 10sccm
ヘキサフルオロエタン(C)ガス 200sccm
なお、図6に実施例3における成膜処理時間とガス流量との関係を示す。
高周波電力 周波数13.56MHz、200W
変調周波数 1kHz Duty 50%
真空度 0.05Torr
処理時間 5分
【0097】
(実施例4)
実施例3の成膜後、形成した膜を恒温槽内で160℃で24時間アニール処理した。
【0098】
(比較例1)
未成膜の被成膜基体を比較例1とした。
【0099】
(比較例2)
・前処理条件
実施例1に同じ
・成膜条件
成膜用原料ガス シクロヘキサン(C12)ガス 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、450W
変調周波数 1kHz Duty 50%
真空度 0.15Torr
処理時間 10分
【0100】
(比較例3)
・前処理条件
実施例1に同じ
・成膜条件
成膜用原料ガス メタン(CH)ガス 10sccm
シクロフルオロエタン(C)ガス 220sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、630W
変調周波数 1kHz Duty 50%
真空度 0.1Torr
処理時間 10分
【0101】
(比較例4)
・前処理条件
実施例1に同じ
・成膜条件
成膜用原料ガス テトラメチルシラン((CHSi)ガス 20sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、200W
変調周波数 1kHz Duty 50%
真空度 0.02Torr
処理時間 5分
【0102】
4.各種特性の測定
4.1 膜厚
触針式表面形状測定装置を用いて、各被成膜基材(Siウェハー)表面に成膜された膜の厚みを測定した。なお、膜厚は、3点について測定された値の平均値である。
【0103】
4.2 元素組成分析
X線光電子分光分析法(XPS分析法)により、各被成膜基材(Siウェハー)表面に成膜された膜の元素組成分析を行った。膜厚方向の元素組成は、Arイオンビームを用いて膜表面から膜のエッチングを行い、所定の膜を除去した後に分析した。
【0104】
4.3 ビッカース硬度
ビッカース硬度測定装置を用いて、各被成膜基材(Siウェハー)表面に成膜された膜のビッカース硬度を測定した。なお、ビッカース硬度は、3点について測定された値の平均値である。また、比較として基材そのもののビッカース硬度も同様にして測定した。
【0105】
4.4 接触角および表面自由エネルギー
液滴法(液滴量:2μL)により、各被成膜基材(Siウェハー)表面に成膜された膜の表面に液滴を付着させてできた液滴と膜界面との接触角を測定した。評価溶媒には水、ホルムアミド、エチレングリコールを用い、接触角の測定には、測定器(KRUSS社製、「DSA20E EasyDrop」)付属の画像解析ソフトを用いた。なお、接触角は、1つの膜につき3回測定を行って得られた値の平均値である。
また、評価溶媒として水、ホルムアミド、エチレングリコールを用い、Owens−Wendt法により上記膜の表面自由エネルギーを算出した。具体的には、各溶媒を用いて測定された各接触角を上記測定器の解析ソフトに入力することにより表面自由エネルギーを算出した。なお、比較として基材そのものの表面自由エネルギーも同様にして求めた。
【0106】
4.5 表面粗さ
JIS B0601に準拠し、触針式表面形状測定装置を用いて、各被成膜基材(Siウェハー)表面に成膜された膜の表面粗さRa(算術平均粗さ)を測定した。なお、比較として基材そのものの表面粗さRaも同様にして測定した。
【0107】
5 評価
5.1 膜密着性
JIS K−5400に準拠し、粘着テープ(ニチバン(株)製、JIS Z 1522規定)を用いて、各被成膜基材(Siウェハー)表面に成膜された膜の密着性を測定した。なお、上記測定のサンプル数は、1つの膜につき5回である。剥離状態が10点であった場合を膜密着性が良好であるとして「○」、剥離状態が8点以下であった場合を膜密着性に劣るとして「×」と判断した。
【0108】
5.2 接着剤離型性
アルコール可溶ポリアミド系樹脂23.39質量部と、フェノキシ系樹脂(東都化成(株)製、「EFR−0010M30」)25.16質量部と、エポキシ系樹脂(東都化成(株)製、「FX289EK75」)4.9質量部と、エポキシ系樹脂(東都化成(株)製、「FX305EK70」)2.67質量部と、メラミン系樹脂(三和ケミカル(株)製、「ニカラックMX−750」)1.37質量部と、硬化剤(四国化成(株)製、「C11Z」)0.38質量部と、硬化剤(三菱ガス化学(株)製、「F−TMA」)0.57質量部と、メタノール24.26質量部と、トルエン48.05質量部と、メチルセロソルブ69.2質量部とを混合し、接着層形成液を調製した。
【0109】
次いで、離型処理が施された基材(ポリエチレンテレフタレート、厚み50μm、リンテック(株)製「PET50X」)の離型面に、コンマコーターを用いて上記調製した接着層形成液を塗工した。この塗工層を160℃で90秒間乾燥させ、ポリアミド系樹脂とフェノキシ系樹脂とを主成分とする接着層(厚み2μm)を形成した。
【0110】
次いで、被成膜基材(Si型またはNi電鋳型)に成膜された膜面上に、離型処理が施された基材上の接着層面を重ね合わせ、離型処理が施された基材上にて加熱・加圧ロールを一方向に走行させて両者を密着させた。この際、加熱・加圧条件は、温度:130〜200℃、圧力:0.1〜0.5MPa、走行速度:0.06〜0.2m/分とした。なお、型温度は100〜130℃に設定した。
【0111】
次いで、離型処理が施された基材の両端を把持しているニップロールを上昇させた。
【0112】
この際、接着層と型とが全く密着しなかった場合を、接着剤離型性に優れるとして「◎」とし、接着層が破れることなく、かつ、接着層と型とを徐々に剥離することができた場合を、接着剤離型性が良好であるとして「○」と判断した。一方、離型処理された基材から接着層が剥がれ、接着層が破れてしまった場合を、接着剤離型性が悪いとして「×」と判断した。
【0113】
5.3 耐久性
上記「5.2 接着剤離型性」の試験後、離型処理が施された基材を型の長さ分だけ走行させた。そして、未試験部位の接着層について上記「5.2 接着剤離型性」の試験を行った。これを繰り返し、接着層に破れが発生するまでの回数を測定した。
【0114】
表1および表2に、膜構成、各種特性値、評価結果をまとめて示す。また、図7に接触角、図8に表面自由エネルギーの測定結果をグラフ化したものを示す。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
6.結果
上記結果によれば、以下のことが分かる。すなわち、比較例1は、型表面に全く膜が成膜されていない。そのため、接着剤との離型性が極めて悪く、実用に供することができないことが分かる。
【0118】
比較例2は、型表面に従来から良く知られているDLC膜が成膜されている。DLC膜は、テープ剥離試験では良好な膜密着性を有していたが、接着剤との離型性は悪かった。このことから、接着性、粘着性を有する材料との離型を図るための膜には適していないことが分かる。
【0119】
比較例3は、型表面にCとFとを主体とするF含有炭素膜が成膜されている。このF含有炭素膜は、F元素を含有しているが、そのF元素の分布は、本発明で規定される分布になっていない。そのため、接着剤離型性はあるが、繰り返し離型性を発現することができず、耐久性に劣っていた。また、膜硬度が低いので、膜に傷が発生しやすく、この点でも耐久性に劣ると言える。
【0120】
比較例4は、型表面にF元素を含有しないSiC膜が成膜されている。そのため、接着剤離型性に劣っていることが分かる。
【0121】
これらに対し、各実施例は、従来に比べ、いずれも優れた接着剤離型性、耐久性を有していることが分かる。これは、Si含有炭素膜において、膜表面でF濃度を最大としたことで優れた離型性を発揮でき、一方、離型性が不要である膜裏面でF濃度を最小としたことで基材との密着性が向上したためであると推察される。また、膜硬度もDLC膜と同程度またはそれ以上あり、粒子等との接触による傷も付き難いことが分かる。
【0122】
また、各溶媒の接触角、表面自由エネルギーの範囲、D成分とP成分との関係、P成分の範囲が本発明で規定される範囲内であると、離型性に優れることも分かる。
【0123】
とりわけ、成膜後にアニール処理を施した場合、表面自由エネルギーの特性は大きく変わらないが、離型性を大きく向上させることが可能なことが分かる。これは、膜組成で、Cが若干減り、Oが増加していることから(実施例3及び実施例4)、アニール処理により、膜中の未結合の末端基に酸素が反応し、膜が安定化したためであると推察される。
【0124】
以上、本発明の一実施形態、一実施例について説明したが、本発明は上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本実施形態に係るSi含有炭素膜の模式的な断面図である。
【図2】Owens−Wendt法の計算式を説明するための図である。
【図3】実施例で使用した成膜装置の概略構成図である。
【図4】実施例1における成膜処理時間とガス流量との関係を示した図である。
【図5】実施例2における成膜処理時間とガス流量との関係を示した図である。
【図6】実施例3における成膜処理時間とガス流量との関係を示した図である。
【図7】接触角の測定結果をグラフ化したものである。
【図8】表面自由エネルギーの測定結果をグラフ化したものである。
【符号の説明】
【0126】
10 Si含有炭素膜
10a 膜表面
10b 膜裏面
100 プラズマCVD装置
102 圧力調整弁
104 排気ポンプ
106 真空チャンバ
108 電極
110 電極
112 マッチングボックス
114 高周波電源
116 任意波形発生装置
118 被成膜基材
120 ヒータ
122 ガス供給部
124 流量調整器
126 圧力調整弁
128 ガス源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜表面でF濃度が最大であり、膜裏面でF濃度が最小であることを特徴とするSi含有炭素膜。
【請求項2】
膜表面から膜裏面にかけてF濃度が傾斜していることを特徴とする請求項1に記載のSi含有炭素膜。
【請求項3】
膜表面のF濃度が25原子%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のSi含有炭素膜。
【請求項4】
ビッカース硬度が60Hv以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のSi含有炭素膜。
【請求項5】
膜表面の表面自由エネルギーが、30mN/m以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のSi含有炭素膜。
【請求項6】
膜表面の表面自由エネルギーのD成分はP成分よりも大きいことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のSi含有炭素膜。
【請求項7】
膜表面の表面自由エネルギーのP成分は、1mN/m以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のSi含有炭素膜。
【請求項8】
膜表面における水の接触角が100度以上、ホルムアミドの接触角が80度以上、エチレングリコールの接触角が70度以上であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のSi含有炭素膜。
【請求項9】
アニール温度120℃以上、アニール処理時間12時間以上のアニール処理が施されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のSi含有炭素膜。
【請求項10】
膜厚が0.01〜0.1μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のSi含有炭素膜。
【請求項11】
Si基材またはNi基材上に成膜されていることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のSi含有炭素膜。
【請求項12】
膜表面を、接着材料および/または粘着材料と接触させて使用することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載のSi含有炭素膜。
【請求項13】
型表面に、請求項1から12のいずれか1項に記載のSi含有炭素膜が積層されていることを特徴とする型。
【請求項14】
粒子が導入される多数の孔部を型表面に有し、前記型表面に、請求項1から12のいずれか1項に記載のSi含有炭素膜が積層されていることを特徴とする粒子転写型。
【請求項15】
請求項14に記載の粒子転写型を用いる異方性導電膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−100905(P2010−100905A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273934(P2008−273934)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(591029699)日本アイ・ティ・エフ株式会社 (25)
【Fターム(参考)】