説明

X線測定装置

【課題】量産品で安価なX線管を用いて、高いX線管電圧にて高出力線量の白色X線を発生させると共に、白色X線からローパスフィルタ手段により低エネルギー域の軟X線を高線量で抽出して試料に照射可能なX線測定装置を実現する。
【解決手段】X線源から出射される軟X線を含むX線を試料に照射し、試料の透過線量をX線検出器で検出するX線測定装置において、
前記X線源より円錐状に出射されたX線ビームを、スライスした扇状ビームX線に生成するコリメータと、
前記扇状ビームX線を所定の角度で入射し、反射した前記軟X線を前記試料に照射する反射ミラーと、
を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線源から出射される軟X線を含むX線を試料に照射し、試料の透過線量をX線検出器で検出するX線測定装置に関するものであり、低エネルギー域から高エネルギー域を含む白色X線より、測定の阻害となる短波長(高エネルギー)X線をカットし、測定に有効な長波長(低エネルギー)の極紫外線を含む軟X線を高出力で抽出する、ローパスフィルタ手段を備えるX線測定装置を提供する。
【背景技術】
【0002】
図6は、試料(紙やフィルム、薄膜シート等)の坪量測定装置の構成例を示す斜視図である。X線源1からの円錐ビームX線B1を、スリット21を有するコリメータ2を通過させてスライスした扇状ビームX線B2に変換し、矢印F方向に走行する試料3に照射する。
【0003】
試料3を透過したX線は、試料の下方にX線源1と対峙して配置されたX線検出器4のラインセンサにより透過量が測定される。予め坪量(塗工量)が既知の試料を測定し、図7に示すような検量線Lを引き、透過線量と坪量の関係から膜厚(坪量)測定や塗工量の膜厚測定を行っている。
【0004】
X線検出器4は、シンチレータと半導体受光素子(CCDやC-MOS等)を組み合わせたもので、電子線や光子エネルギー(電磁波)をシンチレータが受けて燐光を発し、可視光に感度のある半導体受光素子でこの燐光強度を電荷に変換することで放射線量を測定するものや、半導体受光素子で直接電子線や光子エネルギー(電磁波)を受けて、放射線強度に応じた電荷量に変換する直接変換型放射線検出素子等を採用することができる。
【0005】
試料3として、紙、フィルム、電池の電極、複層シート等のシート材であって、特に高エネルギーの短波長X線に感度の無い軽元素の測定物である場合には、X線として低エネルギーの長波長X線、いわゆる軟X線を高出力で照射することで測定感度及び測定精度を確保することができる。
【0006】
軟X線は透視力が弱く、一般の撮影や透視には役に立たないが、散乱が多く人体に当たった場合、皮膚におけるエネルギー吸収が多い。このため、軟X線そのものを利用する特殊な場合を除いて、軟X線を出来る限り取り除くことが必要であり、そのためにろ過板(アルミニウム、銅、鉄、鉛などの金属板)を使用する。
【0007】
このことは、電離則11条にも記載されており、X線装置として義務付けられているがその一方、軟X線そのものを利用する場合は除外されてもいる。具体的には、蛍光X線分析、皮膚疾患のX線治療、薄膜シートの厚さ測定等がその用途である。
【0008】
X線の発生に関しては、図8に示すようにX線管電圧とX線管電流との間には、ほぼ比例して増加する領域(空間電荷領域)と、ほぼ一定となる領域(飽和電流域)がある。飽和電流値は、フィラメントを加熱する電流によって決まる値なので、管電圧をできるだけ高く設定し、フィラメント電流を任意に変化させて動作させると管電圧と管電流を夫々独立に選ぶことができる。
【0009】
また、飽和電流域では、X線管電圧の多少の変動に対してもX線管電流の値はほぼ一定な値をとることができ、一定のX線強度を得るには好適である。図9は、X線管電流の変化によるX線スペクトル変化の様相を示す。X線管電流を上げるとX線強度は増すが、最高強度の波長Aと最短波長Bは変わらない。
【0010】
一方、X線管電圧を上げた場合は、図10に示すように、X線管電圧を上げてX線強度が増加すると共に、最高強度の短波長A及び最短波長Bは短波長(高エネルギー)側にシフトする。
【0011】
従って、低エネルギーである軟X線を発生させるためには、X線管電圧を低く抑えたうえでX線管電流を調整して所望する出力を得ることになる。また、X線管の陽極ターゲット材質(通常タングステン)を長波長(低エネルギー)の発生しやすいクロム、鉄、コバルト等にしたX線管を用いることもある。
【0012】
更に、X線管の放射窓の材質をX線強度(線量率)が減弱しないようにベリリウムあるいは雲母の薄い窓にする等して、低エネルギー域の減弱を最小限にしている。また、大気吸収に対しても注意が必要で、ヘリウムなどのX線吸収の少ない気体を充填したり、真空に引いたりすることも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−294368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来構成のX線測定装置では、X線管電圧を低く抑えてフィラメント電流を上げていくと、図8に示したようにX線管電流が飽和してしまい、ある領域からそれ以上流れなくなり、フィラメントから発生する熱電子も増加しない。そのために、X線線量も頭打ちとなる。
【0015】
従って、低管電圧ではX線線量に上限が現れる。このため、X線管電圧を上げる必要があるが、そうなると軟X線そのものを利用する用途では、高エネルギーを含むことになり、好ましくない。
【0016】
一方、X線管電圧が低いままでは、X線管自体を高出力化対応させる以外にX線線量を増やすことがでない。X線管の出力を上げない場合は、不足気味の線量を用い、測定時間を十分にとって信号/ノイズ比を上げざるを得ない。静止物であればそれでもよいが、動きのあるものの測定には適さない。
【0017】
一般に流通する多くのX線管は検査用途であり、これらは30keV以下の低エネルギーを排除して用いるため、X線管の設計も低エネルギー発生を念頭に製作される事は稀である。専用の基準で新規設計することは可能であるが、少量生産に伴い品質のばらつき管理や生産効率の低さ等、量産品に対して価格面で割高となる。
【0018】
本発明の目的は、量産品で安価なX線管を用いて、高いX線管電圧にて高出力線量の白色X線を発生させると共に、白色X線からローパスフィルタ手段により低エネルギー域の軟X線を高線量で抽出して試料に照射可能なX線測定装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
このような課題を達成するために、本発明は次の通りの構成になっている。
(1)X線源から出射される軟X線を含むX線を試料に照射し、試料の透過線量をX線検出器で検出するX線測定装置において、
前記X線源より円錐状に出射されたX線ビームをスライスした扇状ビームX線に成形するコリメータと、
前記扇状ビームX線を所定の角度で入射し、反射した前記軟X線を前記試料に照射する反射ミラーと、
を備えたことを特徴とするX線測定装置。
【0020】
(2)前記反射ミラーは、前記扇状ビームX線を少なくとも1回反射させ、所定入射角度で反射可能な波長のX線のみを選別的に反射する、ローパスフィルタ手段を形成することを特徴とする(1)に記載のX線測定装置。
【0021】
(3)前記反射ミラーは、X線の全反射臨界角の大きな重金属を蒸着した反射ミラーであって、平面または緩い曲率の曲面鏡であることを特徴とする(1)または(2)に記載のX線測定装置。
【0022】
(4)前記反射ミラーは、前記重金属として金、銀、銅、ニッケルの少なくとも何れかで蒸着されていることを特徴とする(3)に記載のX線測定装置。
【0023】
(5)前記反射ミラーは、任意の角度で前記扇状ビームX線を反射することを可能とする、支持旋回台に搭載されていることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載のX線測定装置。
【0024】
(6)前記コリメータから直接前記試料を透過して前記X線検出器に到達する直射X線を制限する遮蔽板を備え、この遮蔽板の操作により前記直X射線を選択的に遮蔽または通過させることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載のX線測定装置。
【0025】
(7)前記X線源、前記X線検出器、前記反射ミラー及びその支持旋回台の少なくとも1つが前記反射ミラーの反射面に対して垂直方向に所定距離を移動できる、自動または手動の位置調整手段を備え、その位置調整により、前記反射ミラーの反射角度が変わった場合に前記X線検出器を前記透過線量が検出可能な位置関係に補正することを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載のX線測定装置。
【0026】
(8)前記試料はシート材であって、高エネルギーの短波長X線に感度の無い軽元素の測定物であることを特徴とする(1)乃至(7)のいずれかに記載のX線測定装置。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、次のような効果を期待することができる。
(1)低X線管電流時に発生してしまうフィラメント電流の飽和に起因するX線線量の飽和を越えた線量が得られる。
【0028】
(2)僅かにX線管電圧を高くするだけでX線の出力は、低エネルギーから高エネルギーのブロードな範囲で線量が大きくなる。そのため、低エネルギー発生用に専用設計したX線管ではない安価な市販品のX線管で容易に高出力の低エネルギーX線を得られる。
【0029】
(3)一般的にX線管から発生する連続エックス線の全強度(I)とX線管電流(i)、X線管電圧(V)、ターゲットの元素の原子番号(Z)との関係は I=kiV2Z となり、X線管電圧の2乗に比例して大きな出力が得られる。
【0030】
(4)特別な分光器を用いなくても単一のミラーで容易に軟X線をの分別ができ、更に反射ミラー角度の調整で反射するエネルギーの閾値を変えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を適用したX線測定装置の一実施例を示す断面図である。
【図2】本発明を適用したX線測定装置の一実施例を示す斜視図である。
【図3】物質の全反射臨界角を説明する表である。
【図4】本発明で採用されたローパスフィルタ手段のX線強度特性図である。
【図5】本発明を適用したX線測定装置の他の実施例を示す断面図である。
【図6】試料の坪量測定装置の構成例を示す斜視図である。
【図7】坪量と透過線量の関係を示す特性図である。
【図8】X線管電流の対するX線スペクトル変化を示す特性図である。
【図9】X線管電流をパラメータとするX線強度特性図である。
【図10】X線管電圧をパラメータとするX線強度特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明を適用したX線測定装置の一実施例を示す断面図、図2は斜視図である。図6で説明した従来構成と同一要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0033】
図1、図2において、X線源1が試料3の上方にX線出射口を下にして適当な距離を取って正対して設置されている。試料3の下方には、試料3から比較的近くにシンチレーション付きラインカメラ、電離箱、半導体検出器等のX線検出器4が試料に向けて設置されている。
【0034】
試料3とX線源1の中間には、本発明の特徴部を形成する反射ミラー(平面ミラー、曲率の大きい曲面ミラー等)100が設置されている。反射ミラー100は、ミラー角度θの調整が可能なように、旋回が可能な微調整ステージを搭載するミラー支持台200により保持されている。
【0035】
X線源1は、試料3の流れ方向Fに対して数mmから数十mmP1方向に平行移動できるX線源移動機構300に搭載されている。同様に、X線検出器4は、試料3の流れ方向Fに対して数mmから数十mmP2方向に平行移動できるX線源移動機構400に搭載されている。
【0036】
これら移動機構は、一方又は両方で操作される。これら移動機構は、自動制御で動くようなモータ駆動ステージであってもよいし、取り付け穴(長穴)の範囲で動かすことが可能な簡単な機構だけでも構わない。
【0037】
また、X線源1の出射口の近くにはX線を制限するコリメータ2、またはこれと等価な照射筒を具備しており、円錐状に照射される円錐ビームX線B1を円錐の全幅を確保しつつ、薄く(3度以下に)スライスした扇状ビームX線B2に成形する。
【0038】
このように構成した試料3の厚さを測定するX線測定装置において、X線源1から出射され、コリメータ2で規制された薄い扇状ビームX線B2は、反射ミラー100に浅い角度で入射し、1回反射した反射X線X1が試料3の方向に向かい、試料3を通過して透過X線がX線検出器4により検出される。
【0039】
図1で示すように、反射ミラー100で反射した反射X線X1のみならず直接試料3を透過してX線検出器4に向かう直射X線X2もあるため、反射ミラー100の中腹近傍に直射X線X2の遮蔽板500を配置している。
【0040】
この遮蔽板500は、用途に応じて有無を選択できる構成であることが望ましい。厚い試料やX線が透過し難い試料では、遮蔽板を外して(直射+反射)X線を利用することで、多くの線量を得ることが可能である。
【0041】
一方、遮蔽板500を入れて反射X線のみ利用することで、反射ミラー100で反射制限された、高エネルギー(短波長)を含まない低エネルギーの軟X線を用いた測定が可能になる。
【0042】
図3は、物質の全反射臨界角を説明する表である。この表は、様々な物質に対する8.04keVエネルギーの全反射臨界角を示す。原子番号が大きい物質の方が全反射臨界角が大きいことがわかる。
【0043】
また、図には示していないものの、低エネルギー(軟X線)であれば更に全反射臨界角が大きく、逆に高エネルギーであれば全反射臨界角が浅くなって反射されない(直進する)ことから、反射したX線は高エネルギーの短波長がカットされた、いわば短波長カットフィルタ(ローパスフィルタ)の作用を得ることができる。コスト的に実用できる重金属としては、金、銀、銅、ニッケル等である。
【0044】
図4は、本発明で採用されたローパスフィルタ手段のX線強度特性図である。X線管電圧20kV、40kV、60kV時の光子エネルギー−最高強度の特性を示している。反射ミラーの反射がなければ、最短波長は夫々ほぼX線管電圧に近い光子エネルギー20keV、40keV、60keVから低エネルギー側に線量が増えていくが、5〜10keVの領域になるとその多くは大気吸収により急激に減衰するので、図のように15-20keV辺りが最高強度となる。
【0045】
X線管電圧を上げると共に、30KeV以上のX線は反射しないような角度θに反射ミラー100を調整することで、短波長X線がカットされて低エネルギーの軟X線のみの最高強度を増すことができ、従来、フィラメント電流で飽和していたX線線量を越えた強度を得ることが可能となる。
【0046】
反射ミラー100の角度θを調整することにより、所望するエネルギーのX線を得られるが、反射位置が移動してしまうため、X線源1かX線検出器4を反射ミラー100の角度変化に対応した方向に移動機構300、400移動機構で移動させて反射したX線を追従する。当然、反射ミラー100の旋回ステージを搭載しているミラー支持台200を移動させても良いし、夫々が連動して相対移動できるようにしてもよい。
【0047】
本発明では、遮蔽板500を導入することにより、反射X線X1と直射X線X2の双方を利用することが可能であり、反射ミラー100をローパスフィルタ手段としての用途でなくても線量アップが可能である。
【0048】
図5は、本発明を適用したX線測定装置の他の実施例を示す断面図である。反射ミラー100及びミラー支持台200、X線透過光路、遮蔽板500等をチャンバ600で囲い、軟X線の大気吸収が少ない気体(例えばヘリウム)を充填すれば、更に効率よく軟X線の取出しが可能になる。
【符号の説明】
【0049】
1 X線源
2 コリメータ
21 スリット
3 試料
4 X線検出器
100 反射ミラー
200 ミラー支持台
300 X線源移動機構
400 X線検出器移動機構
500 遮蔽板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源から出射される軟X線を含むX線を試料に照射し、試料の透過線量をX線検出器で検出するX線測定装置において、
前記X線源より円錐状に出射されたX線ビームを、スライスした扇状ビームX線に成形するコリメータと、
前記扇状ビームX線を所定の角度で入射し、反射した前記軟X線を前記試料に照射する反射ミラーと、
を備えたことを特徴とするX線測定装置。
【請求項2】
前記反射ミラーは、前記扇状ビームX線を少なくとも1回反射させ、所定入射角度で反射可能な波長のX線のみを選別的に反射する、ローパスフィルタ手段を形成することを特徴とする請求項1に記載のX線測定装置。
【請求項3】
前記反射ミラーは、X線の全反射臨界角の大きな重金属を蒸着した反射ミラーであって、平面または緩い曲率の曲面鏡であることを特徴とする請求項1または2に記載のX線測定装置。
【請求項4】
前記反射ミラーは、前記重金属として金、銀、銅、ニッケルの少なくとも何れかで蒸着されていることを特徴とする請求項3に記載のX線測定装置。
【請求項5】
前記反射ミラーは、任意の角度で前記扇状ビームX線を反射することを可能とする、支持旋回台に搭載されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のX線測定装置。
【請求項6】
前記コリメータから直接前記試料を透過して前記X線検出器に到達する直射X線を制限する遮蔽板を備え、この遮蔽板の操作により前記直X射線を選択的に遮蔽または通過させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のX線測定装置。
【請求項7】
前記X線源、前記X線検出器、前記反射ミラー及びその支持旋回台の少なくとも1つが前記反射ミラーの反射面に対して垂直方向に所定距離を移動できる、自動または手動の位置調整手段を備え、その位置調整により、前記反射ミラーの反射角度が変わった場合に前記X線検出器を前記透過線量が検出可能な位置関係に補正することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のX線測定装置。
【請求項8】
前記試料はシート材であって、高エネルギーの短波長X線に感度の無い軽元素の測定物であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のX線測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−112561(P2011−112561A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270465(P2009−270465)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】