XYステージ
【課題】 ヨーイング、ピッチング及びローリング、コギング、速度制御におけるループゲイン、デッドタイム発生回路に起因する位置決め精度向上の障害要因に対応した補正手段を備えた、複数のスライダ部を有するXYステージを実現する。
【解決手段】 格子プラテン上のスライダ部を2次元方向に位置制御するXYステージにおいて、
独立に位置制御される複数のスライダ部を有し、これらスライダ部の夫々は、スライダ部をX軸方向及びY軸方向に位置制御する位置制御手段と、スライダ部のZ軸まわりのヨーイングを補正するヨーイング補正手段を備える。
【解決手段】 格子プラテン上のスライダ部を2次元方向に位置制御するXYステージにおいて、
独立に位置制御される複数のスライダ部を有し、これらスライダ部の夫々は、スライダ部をX軸方向及びY軸方向に位置制御する位置制御手段と、スライダ部のZ軸まわりのヨーイングを補正するヨーイング補正手段を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、格子プラテン上のスライダ部を2次元方向に位置制御するXYステージに関する。XYステージは、半導体製造、半導体検査装置、組み立て装置、印刷装置等に幅広く利用されている。
【背景技術】
【0002】
複数のスライダ部を有するXYステージは特許文献1に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−116239号公報
【0004】
格子プラテンと、その上面をX軸方向及びY軸方向にスライドして位置制御されるスライダ部を有するXYステージの構造及びスライダ部のヨーイング抑制技術については、特許文献2にされている。
【0005】
【特許文献2】特開2000−65970号公報
【0006】
図20は、特許文献1に開示されている複数のスライダ部を有するXYステージの構成を示す平面図である。これに開示された技術は、タクトを向上させたデバイス検査装置である。
【0007】
1は格子プラテンである。2は(A)位置のスライダ部,3は(B)位置のスライダ部であり、格子プラテン1の上面を2次元方向(X,Y)に位置制御される。4は、スライダ部2に搭載された検査対象のデバイス、5は、スライダ部3に搭載された検査対象のデバイスである。6は制御部、7及び8は制御部で操作されるカメラ及び検査部である。
【0008】
(A)位置のスライダ部2に搭載された検査対象となるデバイス4の位置をカメラ7で画像計測し、デバイスの配置状態のずれを求めるアライメントを行う。同時に(B)位置のスライダ部3に搭載されたデバイス5に検査部8のプローブ9を接触させて検査を実行する。
【0009】
検査が終了すると、(A)位置でのアライメント後のデバイス4を搭載しているスライダ部2を、検査を行う(B)位置へ移送(矢印P1)すると同時に、検査後のデバイス5を搭載しているスライダ部3をアライメントを行う(A)位置に移送(矢印P2)する。
【0010】
(B)位置に移送されたデバイス4は、アライメントで求めたずれ量に基づいてデバイスを位置決めしてから検査が実行される。(A)位置に移送されたデバイス5は新たなデバイスと交換されてアライメントが実行される。
【0011】
このように、アライメントを行う(A)位置と検査を行う(B)位置にスライダ部2とスライダ部3を交互入れ替え、一方のスライダ部でデバイスの検査をしている間に他方のスライダ部で次の検査対象デバイスのアライメントを行う工程を繰り返す。制御部6は、スライダ部2の移動経路と、スライダ部3の移動経路が互いに交差しない別経路になるように制御する。
【0012】
図21は、スライダ部2の2次元位置制御システムを説明する機能ブロック図である。水平に固定配置された格子プラテン1には、X方向及びY方向に沿って一定ピッチで歯が形成されている。図では簡略のため一部の歯だけを示している。格子プラテンは磁性体の平坦面に格子状に溝を切ることによって形成される。
【0013】
2は、格子プラテン上面をX方向及びY方向にスライドして位置決め制御されるスライダ部であり、この上部にワーク及び位置決めの対象となるデバイスが搭載される。浮揚手段21は、格子プラテン1に対向する裏面にノズルが設けられていて圧縮空気を噴射させることでライダ2を格子プラテン1上に浮揚させる。
【0014】
31はスライダ部2の上部に固定配置されたX軸センサである。32は同様にスライダ部2の上部に固定配置されたY軸センサである。11は、格子プラテン1のX軸の一端部にX軸に直交して固定配置された所定高さを有するX軸ミラーであり、X軸センサ31と対向する。12は、格子プラテン1のY軸の一端部にY軸に直交して固定配置された所定高さを有するY軸ミラーであり、Y軸センサ32と対向する。
【0015】
X軸センサ31及びY軸センサ32は光学的な距離測定装置であり、レーザ光をX軸ミラー11及びY軸ミラー12に照射し反射光を受光し干渉を利用して移動距離を測定することでスライダ部2のX方向及びY方向の位置を測定する。PXはX軸センサ31によるX軸方向距離測定値、PYはY軸センサ33によるY方向距離測定値である。干渉計による距離測定の原理については特許文献2に詳細に開示されている。
【0016】
ブロック40はXYサーボドライバであり、X軸ドライバ41及びY軸ドライバ42よりなる。X軸ドライバ41は、測定座標PXと上位装置から与えられる目標位置信号SXの偏差を演算してスライダ2に搭載された面モータで実現されるXモータ(図示せず)に制御電流MXを出力する。Y軸ドライバ42は、測定座標PYと上位装置から与えられる目標位置信号SYとの偏差を演算してスライダ2に搭載されたYモータに制御電流MYを出力する。Xモータ及びYモータによる2次元位置制御の原理についても特許文献2に詳細に開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
複数のスライダ部を有するXYステージを用いた半導体製造装置では、露光工程でフォトマスクの精密移動制御とデバイスを搭載したスライダの精密位置制御が必要であり、スライダは高精度の位置決め精度を要求される。従来構成のXYスライダでは、次のような問題点があった。
(1)スライダ部を2次元位置制御する際に、Z軸まわりの回転(ヨーイング)が発生し、これが位置決め精度向上の障害要因となる。
【0018】
(2)スライダ部を2次元位置制御する際に、スライダ部のZ軸方向の変化(スライダ部と格子プラテン間の距離変動)、即ちローリング又はピッチングが発生し、これが位置決め精度向上の障害要因となる。
【0019】
(3)ハイブリッド型の面モータの弱点として、モータに供給される交流制御電流の転流周期に同期して発生するコギング推力によりスライダの位置制御にリップルが重畳する問題があり、これが位置決め精度向上の障害要因となる。
【0020】
(4)スライダ部を2次元位置制御する制御ループに速度制御ループを持たせた場合、ループゲインが小さいと速度検出値に変動が生じ、コギングによる推力、推力リップル等が要因となるモータ推力の外乱となる。ゲインを上げるとループにおける信号遅延が大きい場合や、モータに機械系共振が存在すると発振するため、ゲインに制約が生じ、これが位置決め精度向上の障害要因となる。
【0021】
(5)面モータに対する制御電流を、スイッチング回路を介して供給する場合に設けられるデッドタイム発生回路による不感帯により、微小電流時に電流歪や応答遅れがあり、微小振幅を発生してモータの制御特性が悪化する。これが位置決め精度向上の障害要因となる。
【0022】
従って本発明が解決しようとする課題は、ヨーイング、ピッチング及びローリング、コギング、速度制御におけるループゲイン、デッドタイム発生回路に起因する位置決め精度向上の障害要因に対応した補正手段を備えた、複数のスライダ部を有するXYステージを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
このような課題を達成するために、本発明の構成は次の通りである。
(1)格子プラテン上のスライダ部を2次元方向に位置制御するXYステージにおいて、
独立に位置制御される複数のスライダ部を有し、これらスライダ部の夫々は、スライダ部をX軸方向及びY軸方向に位置制御する位置制御手段と、スライダ部のZ軸まわりのヨーイングを補正するヨーイング補正手段を備えることを特徴とするXYステージ。
【0024】
(2)前記スライダ部の夫々は、スライダ部のZ軸方向の変化を補正するローリング又はピッチング補正手段を備えることを特徴とする(1)に記載のXYステージ。
【0025】
(3)前記スライダ部の夫々は、スライダ部のZ軸方向の変化を検出するセンサ手段と、このセンサ手段の検出値に基づいてZ軸方向の変化を抑制するコイル手段を備えたことを特徴とする(2)に記載のXYステージ。
【0026】
(4)前記スライダ部の夫々は、Z軸方向の変化を検出するセンサ手段と、このセンサ手段の検出値に基づいて前記スライダ部をX軸方向及びY軸方向に移動するX軸モータ及びY軸モータの制御電流に対してその位相角と直交する位相の補正電流を付与する、直交電流付与手段を備えることを特徴とする(2)に記載のXYステージ。
【0027】
(5)前記スライダ部の夫々は、速度に応じて前記X軸モータ及びY軸モータに供給される制御電流の転流位相角より計算されるコギング補正信号により、スライダ部に発生するコギング推力に起因するリップルを抑制する、リップル抑制手段を備えることを特徴とする(1)に記載のXYステージ。
【0028】
(6) 前記転流位相角又は前記コギング補正信号の少なくともいずれかの定数を変更する、定数設定手段を設けたことを特徴とする(5)に記載のXYステージ。
【0029】
(7)X軸に関する前記コギング補正信号をY軸のコギング補正信号に、Y軸に関する前記コギング補正信号をX軸のコギング補正信号に加算することを特徴とする(5)に記載のXYステージ。
【0030】
(8)X軸及びY軸に関する前記コギング補正信号を、Z軸に関するコギング補正信号に加算することを特徴とする(5)に記載のXYステージ。
【0031】
(9)前記スライダ部の夫々は、スライダの移動速度に基づく速度フィードバック制御手段及びスライダの移動速度に基づく加速度フィードバック制御手段を備えることを特徴とする(1)に記載のXYステージ。
【0032】
(10)前記速度フィードバック制御手段が出力するスライダの加速度指令値を前記加速度フィードバック制御手段にフィードフォワード信号として与えることを特徴とする(9)に記載のXYステージ。
【0033】
(11)前記スライダ部の夫々は、前記X軸モータ及びY軸モータに供給する制御電流に対して位相が直交する補正電流を重畳させる、デッドタイム補正手段を備えることを特徴とする(1)に記載のXYステージ。
【0034】
(12)前記補正電流の値は、デッドタイム発生回路の特性に応じて手動設定されることを特徴とする(11)に記載のXYステージ。
【0035】
(13) 前記スライダ部の夫々は、半導体製造装置でアライメントを行うデバイス及び半導体製造装置で露光を行うデバイスを搭載し、位置制御されることを特徴とする(1)乃至(12)のいずれかに記載のXYステージ。
【発明の効果】
【0036】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば次のような効果があり、XYステージを半導体製造装置の露光工程に使用した場合に要求される位置決め精度を実現することができる。
(1)スライダ部を2次元位置制御する際に、Z軸まわりの回転(ヨーイング)による位置決め誤差が抑制され、位置決め精度向上に貢献できる。
【0037】
(2)スライダ部のZ軸方向の変化(スライダ部と格子プラテン間の距離変動)、即ちローリング又はピッチングが抑制され、位置決め精度向上に貢献できる。
【0038】
(3)面モータに供給される交流制御電流の転流周期に同期して発生するコギング推力により発生する位置制御のリップルが抑制され、位置決め精度向上に貢献できる。
【0039】
(4)加速度制御ループの採用により、速度制御ループの特性を変えることなく、コギングによる推力、推力リップル等が要因となるモータ推力の外乱が抑制され、位置決め精度向上に貢献できる。
【0040】
(5)デッドタイム発生回路による不感帯が補正され、微小電流時の電流歪や応答遅れに起因するよるモータの制御特性の悪化が抑制され、位置決め精度向上に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明を図面により詳細に説明する。図1は本発明を適用したXYステージの一実施形態を示す斜視図である。図1において、100は格子プラテンである。101は(A)位置のスライダ部、102は(B)位置のスライダ部、103は(C)位置のスライダ部であり、格子プラテン100の上面を2次元方向(X,Y)に位置制御される。
【0042】
104はスライダ部101に形成されたデバイスホルダ、105はスライダ部102に形成されたデバイスホルダ、106はスライダ部103に形成されたデバイスホルダであり、これらデバイスホルダには検査対象のデバイス107、107´、107″が搭載されている。112,113,114は、夫々スライダ部101,102,103が備えるヨーイング補正手段である。
【0043】
(A)位置のスライダ部101は、ロード・アンロード工程を実行し、露光工程を終了した(C)位置のスライダ部が移動した状態である。ここで露光済みのデバイスがアンロードされ、新たな露光対象デバイス107がロードされる。
【0044】
このとき、同時進行で(B)位置のスライダ部102では、前の露光サイクルでロードされたデバイス107´のアライメント測定がカメラ108で実行されており、(C)位置スライダ部103では、その前の露光サイクルでロードされ、アライメント測定が終了したデバイス107″の露光が実行されている。
【0045】
露光は、レーザ光源109からのスリット状ビームをフォトマスク110及びレンズ系111を介してデバイスに照射する。デバイスの各チップに対する露光は、フォトマスク110とスライダ部103を相対的に移動制御して実行されるが、両者の移動制御の位置精度がバランスよく高精度であることが高集積密度の半導体製造には必須要件となる。
【0046】
(C)位置での露光が終了すれば、(C)位置のスライダ部103は矢印P1の経路で(A)に移動しアンロードとロード工程に遷移し、(A)位置のスライダ部101は矢印P2の経路で(B)位置に移動しアライメント工程に遷移し、(B)位置のスライダ部102は矢印P3の経路で(C)位置に移動し露光工程に遷移する。以下、このローテーションを繰り返す。
【0047】
図2は、本発明の他の実施形態を示すXYステージの斜視図である。図1に比較した特徴点は、(B)位置のスライダ部102がローダ・アンローダ工程とアライメント工程を同じ位置で実行する点にある。このような2スライダ部構成により、各スライダ部へのケーブル接続(図示せず)の取り回しや干渉計の設計が容易となり、システムのコスト低減にも貢献する。
【0048】
図3は、スライダ部101を代表して示した2次元位置制御システムを説明する機能ブロック図である。図21で説明した従来の2次元位置制御システムとの相違は、Z軸まわりの回転θに対する補正を行うヨーイング補正手段を備える点にある。以下、ヨーイング補正手段の機能構成を説明する。
【0049】
格子プラテン100及びスライダ部101に形成された浮揚手段115の構成は、図21の格子プラテン1及び浮揚手段15の構成と同一である。以下、本発明の特徴部につき説明する。
【0050】
116及び117は、スライダ部101の上部にX方向に所定距離を持って固定配置された第1のX軸センサ及び第2のX軸センサである。118は同様にスライダ部101の上部に固定配置されたY軸センサである。
【0051】
119は、格子プラテン100のX軸の一端部にX軸に直交して固定配置された所定高さを有するX軸ミラーであり、第1のX軸センサ116及び第2のX軸センサ117と対向する。120は、格子プラテン100のY軸の一端部にY軸に直交して固定配置された所定高さを有するY軸ミラーであり、Y軸センサ118と対向する。
【0052】
第1のX軸センサ116、第2のX軸センサ117及びY軸センサ118は光学的な距離測定装置であり、レーザ光をX軸ミラー119及びY軸ミラー120に照射し反射光を受光し干渉を利用して移動距離を測定することでスライダ部101のX方向及びY方向の位置を測定する。PX1及びPX2は第1のX軸センサ116及び第2のX軸センサ117によるX軸方向距離測定値、PYはY軸センサ118によるY方向距離測定値である。
【0053】
ブロック121はXYサーボドライバであり、座標変換手段122,第1X軸ドライバ123,第2X軸ドライバ124,Y軸ドライバ125よりなる。座標変換手段122は、測定値PX1,PX2及びPYを入力し第1X軸ドライバ123に測定座標Xを、第2X軸ドライバ124にヨーイング回転角(Z軸の回転角)θを、Y軸ドライバ125に測定座標Yを夫々出力する。
【0054】
第1X軸ドライバ123は、測定座標Xと上位装置から与えられる目標位置信号SXの偏差を演算してスライダ部101に搭載された面モータで実現されるX1モータに制御電流MX1を出力する。
【0055】
第2X軸ドライバ124は、ヨーイング回転角θと設定値0°との偏差を演算してスライダ部101に搭載されたX2モータに制御電流MX2を出力する。Y軸ドライバ125は、測定座標Yと上位装置から与えられる目標位置信号SYとの偏差を演算してスライダ部101に搭載されたY1モータ及びY2モータに共通の制御電流MYを出力する。
【0056】
図4は、XYサーボドライバ121を構成する各要素の具体的構成及びスライダ部101に搭載されるX1,X2モータ、Y1,Y2モータの配置を説明する機能ブロック図である。
【0057】
座標変換手段122の演算内容は、位置検出手段126からの測定値PX1及びPX2の加算演算で測定座標Xを出力する。測定値PYはそのまま測定座標Yとして出力する。測定値PX1及びPX2の減算値より所定の関数演算でZ軸回転角即ちヨーイング角θを算出して出力する。
【0058】
第1X軸ドライバ123は、目標位置信号SXと測定座標Xとの偏差を入力するX位置速度制御手段123aと、その推力指令FX1を受けてスライダ部101のX1モータ127に制御電流MX1を出力するX1電流制御手段123bよりなる。
【0059】
第2X軸ドライバ124は、ヨーイング角θと設定値0°との偏差を入力するθ位置速度制御手段124aとその推力指令FX2を受けてスライダ部101のX2モータ128に制御電流MX2を出力するX2電流制御手段124bよりなる。
【0060】
Y軸ドライバ125は、目標位置信号SYと測定座標Yとの偏差を入力するY位置速度制御手段125aとその推力指令FYを受けてスライダ部101のY1モータ129及びY2モータ130に共通の制御電流MYを出力するY電流制御手段125bよりなる。
【0061】
X位置速度制御手段123aの出力は、θ位置速度制御手段124aの出力に加算されて推力指令FX2としてX2電流制御手段124bに入力される。θ位置速度制御手段124aの出力は、X位置速度制御手段123aの出力に減算され推力指令FX1としてX1電流制御手段123bに入力される。
【0062】
スライダ部101に搭載されるX1,X2,Y1,Y2モータは、中心点Qに対してX1,X2モータ及びY1,Y2モータが互いに対角となるように配置されており、X1モータ及びX2モータについては異なる制御電流を受けるとQ点を中心にZ軸の周りに回転力を発生し、これがX軸のヨーイング抑制の操作力となる。
【0063】
スライダ部101に搭載されるX1モータ,X2モータ, Y1モータ,Y2モータの詳細構造、位置制御サーボ系の構成等は、特許文献2に詳細に開示されているので説明を省略する。
【0064】
図5は、スライダ部101を代表して示した2次元位置制御システムの他の実施形態を説明する機能ブロック図である。図3との構成上の相違は、第1X軸センサ116,第2X軸センサ117,Y軸センサ118を固定配置し、X軸ミラー119及びY軸ミラー120をスライダ部101側に形成した点にある。
【0065】
このように、干渉計のセンサをスライダ部101に搭載しない構成により、次のような効果を期待できる。
(1)X軸センサ2台及びY軸センサ1台はスライダ部より分離され固定配置されるので、その電子部品による発熱がスライダ部の上に取り付けられるワーク及びワーク上に搭載されるデバイスに影響を与えることが回避される。これにより、露光工程のようにワークが更に精度の高いデバイスの位置決め作業をしている場合等では温度補償を不用とし、スライダ部上の構成がシンプルとなり、コストダウンに貢献できる。
【0066】
(2)3台のセンサが外部に固定配置されるので、従来XYステージで必要としていたスライダ部への電源ケーブル、信号ケーブルの可動的な取り回しが不用となり、ケーブル処理のコストダウンに貢献できる。
【0067】
次に、本発明に適用されるピッチング及びローリング補正につき説明する。図6は、格子プラテン100上を浮揚して移動するスライダ部101のピッチング及びローリング現象を説明するイメージ図である。点線の矢印で示すX方向のゆれPがピッチングであり、直交する一点鎖線の矢印で示すY方向のゆれRがローリングである。
【0068】
スライダ部101に搭載されるデバイスが、露光工程等の極めて高い位置決め精度を要求する場合には、浮揚して移動するスライダ部101のピッチング及びローリングを抑制する補正が必須となる。特許文献2記載の技術では、スライダ部のZ軸方向の回転であるヨーイングは抑制可能であるが、ピッチング及びローリングについては対応できない。
【0069】
図7(A)は、格子プラテン100とスライダ部101の平面図、(B)はX軸方向の側面図(Y軸方向センサは図示せず)である。スライダ部101は、圧縮空気の噴射により格子プラテン100の上面に微小空隙を持って浮揚している。浮揚手段自身はこの空隙を一定に制御する機能を持たないために、スライダ部101の移動に伴い図6で説明したピッチング及びローリングが発生する。
【0070】
Z1センサ301及びZ2センサ302は、スライダ部101のX軸方向の両端部に取り付けられた距離計であり、スライダ部のX軸方向のピッチング角を検出する第1のZ軸センサを形成する。同様に、Z3センサ303及びZ4センサ304は、スライダ部101のY軸方向の両端部に取り付けられた距離計であり、スライダ部のY軸方向のローリング角を検出する第2のZ軸センサを形成する。
【0071】
図7(B)に示すように、Z1センサ301及びZ2センサ302は、センサ位置におけるスライダ部101と格子プラテン100間の距離d1及びd2を測定する。図示されていないが、同様にZ3センサ303及びZ4センサ304は、センサ位置におけるスライダ部101と格子プラテン100間の距離d3及びd4を測定する。
【0072】
Z1センサ301とZ2センサ302間の距離及びZ3センサ303及びZ4センサ304間の距離は、同一距離Lとされている。Z1センサ301とZ2センサ302の距離測定値d1及びd2とスライダ部のX方向距離Lに基づいてピッチング角を検出する。同様に、Z3センサ303及びZ4センサ304の測定値d3及びd4とスライダ部のY方向距離Lに基づいてスライダ部のY方向のローリング角を検出する。
【0073】
ピッチング角pz及びローリング角rzは、次式で近似計算される。
pz=(d1−d2)/L (1)
rz=(d3−d4)/L (2)
【0074】
更に、4個の距離計の測定値d1乃至d4に基づいてスライダ部102と格子プラテン100間のZ方向平均距離hzが次式で計算される。
hz=(d1+d2+d3+d4)/4 (3)
【0075】
Z1コイル305及びZ2コイル306は、Z1センサ301及びZ2センサ302に夫々近接して設けられ、第1のZ軸コイルを形成する。同様に、Z3コイル307及びZ4コイル308は、Z3センサ303及びZ4センサ304に夫々近接して設けられ、第2のZ軸コイルを形成する。これらコイルに励磁電流を流すことにより、図7(B)に示すように、スライダ部101と格子プラテン100間に吸引力が発生し、空隙の距離d1乃至d4を個別に制御することができる。
【0076】
図8は、ピッチング角サーボ手段, ローリング角サーボ手段, 位置サーボ手段の具体的な構成例を示す機能ブロック図である。309乃至122は電流増幅器であり、夫々Z1コイル305乃至Z4コイル308にサーボ制御のための励磁電流i1乃至i4を供給する。
【0077】
Z1センサ301の測定値d1とZ2センサ302の測定値d2は、減算器313で差が計算され、1/L演算部314により前記(1)式のピッチング角pzが算出される。Z3センサ303の測定値d3とZ4センサ304の測定値d4は、減算器315で差が計算され、1/L演算部116により前記(2)式のローリング角rzが算出される。Z1センサ乃至Z4センサの側定値d1乃至d4は、加算器317で加算され、1/4演算部318により前記(3)式の位置hzが算出される。
【0078】
減算器319は、ピッチング角測定値pzとピッチング角指令部320の設定値ps(0°)の差を誤差増幅器321に与える。減算器322は、ローリング角測定値rzとローリング角指令部323の設定値rs(0°)の差を誤差増幅器324に与える。減算器325は、位置測定値hzと位置指令部326の設定値hsの差を誤差増幅器327に与える。
【0079】
ピッチング角を制御する誤差増幅器321の出力vpは、加算器328及び減算器329を介して電流増幅器309及び310に与えられ、Z1コイル305及びZ2コイル306の励磁電流i1及びi2を可逆的に操作し、ピッチング角pzがゼロとなるように制御する。
【0080】
同様に、ローリング角を制御する誤差増幅器324の出力vrは、加算器330及び減算器331を介して電流増幅器311及び312に与えられ、Z3コイル307及びZ4コイル308の励磁電流i3及びi4を可逆的に操作し、ローリング角rzがゼロとなるように制御する。
【0081】
スライダの位置を制御する誤差増幅器327の出力vhは、加算器328,330及び減算器329,3131を介して電流増幅器309乃至312に与えられ、Z1コイル乃至Z4コイルの励磁電流i1乃至i4を操作し、スライダ部101と格子プラテン100間の距離hzが設定値hsとなるように制御する。
【0082】
このように、ピッチング角サーボ手段及びローリング角サーボ手段に加えて、スライダ部の位置(Z軸方向の距離hz)を一定にする位置サーボ手段を設けることで、ピッチング角及びローリング角の抑制精度を向上させることができる。
【0083】
次に、ピッチング角及びローリング角の抑制制御の他の実施形態を図9乃至図15に基づいて説明する。この実施形態の特徴は、検出されたピッチング角pz及びローリング角rz並びにZ軸方向平均距離hzの測定値に基づき、スライダ部に搭載されたX軸モータ又はY軸モータの制御電流にこれと位相が直交する補正電流を重畳させることにより、スライダ部101と格子プラテン100間引力を発生させ、空隙の距離d1乃至d4を個別に制御する点にある。
【0084】
図9(A)は、格子プラテン100とスライダ部101の平面図、(B)はX軸方向の側面図(Y軸方向センサは図示せず)である。スライダ部101は、圧縮空気の噴射により格子プラテン100の上面に微小空隙を持って浮揚している。浮揚手段自身はこの空隙を一定に制御する機能を持たないために、スライダ部の移動に伴い図6で説明したピッチング及びローリングが発生する。
【0085】
Z11センサ401及びZ12センサ402は、スライダ部101のX軸方向の両端部に取り付けられた距離計であり、スライダ部のX軸方向のピッチング角を検出する第1のZ軸センサを形成する。同様に、Z21センサ403及びZ22センサ404は、スライダ部101のY軸方向の両端部に取り付けられた距離計であり、スライダ部のY軸方向のローリング角を検出する第2のZ軸センサを形成する。
【0086】
図9(B)に示すように、Z11センサ401及びZ12センサ402は、センサ位置におけるスライダ部101と格子プラテン100間の距離d1及びd2を測定する。図示されていないが、同様にZ21センサ403及びZ22センサ404は、センサ位置におけるスライダ部101と格子プラテン100間の距離d3及びd4を測定する。距離測定の原理は、図7の実施形態と同一である。
【0087】
図10は、X軸モータ及びY軸モータへ供給される制御電流の位相を説明する特性図である。従来の使用形態では、最も推力を発生する機械角90°に位相が設定されているが、本発明ではこの制御電流の位相に直交する機械角0°(モータの歯とプラテンの歯の位置が一致している位置)の推力を発生しない電流(直交電流)を重畳する点を特徴とする。
【0088】
モータの吸引力はバイアスマグネットの磁束と電流による磁束の和で決まるため、直交電流により吸引力を制御できる。又、空気浮揚手段を使用している平面モータの浮上量は吸引力と空気の反発力のバランスで決まるため、吸引力(∝直交電流)により浮上量を制御することができる。
【0089】
図11は、この原理を利用して対角配置されたX1モータ及びX2モータ(又はY1モータ及びY2モータ)に異なる直交電流を供給することにより、スライダ部101をピッチング(又はローリング)制御するイメージ図である。
【0090】
図12は、同様にこの原理を利用して対角配置されたX1モータ及びX2モータ(又はY1モータ及びY2モータ)に同位相で同一値の直交電流を供給することにより、スライダ部101をZ軸方向に位置制御するイメージ図である。
【0091】
図13は、標準的なモータの配置を示す平面図である。この様なモータ配置の場合は、以下の組み合わせで直交電流を流して姿勢制御を行う。
(1)ピッチング方向制御:X1モータ,Y2モータとY1モータ,X2モータで逆位相の直交電流を流す。
(2)ローリング方向制御:X1モータ,Y1モータとY2モータ,X2モータで逆位相の直交電流を流す。
(3)Z軸方向位置制御:全モータに同位相で同一値の直交電流を流す。
【0092】
図14は、スライダに搭載されるモータ配置として領域を9分割し、中心領域を除いた8領域にX1乃至X4モータ及びY1乃至Y4モータを配置した平面図を示す。131及び132は、X3モータ及びX4モータである。133及び134は、Y3モータ及びY4モータである。このように、8軸の電流供給部を持たせることで移動方向により主に推力を発生させるモータと、主に吸引力を発生させるモータを分離して制御を容易にすることができる。
【0093】
移動方向時に推力を発生していないXモータで制御する場合には、
(1)ピッチング方向制御:X1,X2とX3,X4で逆相の直交電流を流す。
(2)ローリング方向制御:X1,X3とX2,X4で逆相の直交電流を流す。
(3)Z軸方向位置制御 :X1〜X4で同相の直交電流を流す。
【0094】
図15は、ピッチング角サーボ手段, ローリング角サーボ手段, Z軸方向位置サーボ手段の具体的な構成例を示す機能ブロック図である。405はX1ドライバ、406はX2ドライバ、407はY1ドライバ、408はY2ドライバであり、夫々推力指令FX1,FX2及び推力指令FY1,FY2を入力し、X1モータ127,X2モータ128及びY1モータ129,Y2モータ130に3相の制御電流MX1,MX2及びMY1,MY2を出力する。
【0095】
409はX1直交電流生成手段、410はX2直交電流生成手段、411はY1直交電流生成手段、412はY2直交電流生成手段であり、夫々生成された直交電流IX1,IX2及びIY1,IY2をX1ドライバ405,X2ドライバ406及びY1ドライバ407,Y2ドライバ408に出力する。これら直交電流IX1,IX2及びIY1,IY2は、3相の制御電流MX1,MX2及びMY1,MY2に重畳される。
【0096】
Z11センサ401の測定値d1とZ12センサ402の測定値d2は、減算器413で差が計算され、1/L演算部414により前記(1)式のピッチング角pzが算出される。
【0097】
Z21センサ403の測定値d3とZ22センサ404の測定値d4は、減算器415で差が計算され、1/L演算部416により前記(2)式のローリング角rzが算出される。
【0098】
Z11センサ乃至Z22センサの側定値d1乃至d4は、加算器417で加算され、1/4演算部418により前記(3)式のZ軸方向の平均位置hzが算出される。
【0099】
ピッチング角サーボ手段の構成を説明する。減算器419は、ピッチング角測定値pzとピッチング角指令部420の設定値ps(0°)の偏差を、ピッチング角を制御する誤差増幅器421に与える。誤差増幅器421の出力vpは、加算器428及び加算器429を介してX1直交電流生成手段409及びY2直交電流生成手段412に与えられる。
【0100】
誤差増幅器421の逆相出力−vpは、加算器430及び加算器431を介してX2直交電流生成手段410及びY1直交電流生成手段411に与えられる。このようなサーボ系により、X1モータ,Y2モータ及びX2モータ,Y1モータが逆相に回転操作され、ピッチング角pzがゼロとなるように制御される。
【0101】
ローリング角サーボ手段の構成を説明する。減算器422は、ローリング角測定値rzとローリング角指令部423の設定値rs(0°)の偏差を、ローリング角を制御する誤差増幅器424に与える。誤差増幅器424の出力vrは、加算器428及び加算器431を介してX1直交電流生成手段409及びY1直交電流生成手段411に与えられる。
【0102】
誤差増幅器424の逆相出力−vrは、加算器430及び加算器429を介してX2直交電流生成手段410及びY2直交電流生成手段412に与えられる。このようなサーボ系により、X1モータ,Y1モータ及びX2モータ,Y2モータが逆相に回転操作され、ローリング角rzがゼロとなるように制御される。
【0103】
Z方向位置サーボ手段の構成を説明する。減算器425は、Z軸方向平均位置測定値hzと位置指令部426の設定値hsの偏差を、z軸方向位置を制御する誤差増幅器427に与える。誤差増幅器427の出力vhは、加算器428乃至431に共通に与えられ、X1モータ,Y1モータ及びX2モータ,Y2モータを同相に操作し、スライダ部101と格子プラテン100間の距離が設定値hsとなるように制御する。
【0104】
このように、ピッチング角サーボ手段及びローリング角サーボ手段に加えて、スライダ部の位置(Z軸方向の距離)を一定にするZ軸方向位置サーボ手段を設けることで、ピッチング角及びローリング角の抑制精度を向上させることができる
【0105】
次に、コギング推力に起因するリップル抑制につき図16及び図17により説明する。図16は、リップル抑制手段600を備えるスライダ部101のX軸位置制御サーボ系を示す機能ブロック図である。
【0106】
501は速度変換器であり、スライダ部101の位置検出手段126より得られるX軸の位置検出値Pfxの信号成分よりスライダ部101の速度を演算し、速度検出値Vfxを算出する。この速度変換器についても前記特許文献2に詳細が開示されており、内容説明を省略する。
【0107】
502は位置制御部であり、位置指令値Psxと位置検出値Pfxの偏差を演算処理して速度指令値Vsxを出力する。503は速度制御部であり、速度指令値Vsxと速度検出値Vfxの偏差evxを演算処理して推力指令値Fdxを出力する。
【0108】
504は推力発生部であり、推力指令値Fdxとこの指令値に加算手段505で加算される後述のリップル抑制手段600からのコギング補正信号Fexを入力し、スライダ部101のX1モータ127及びX2モータ128に交流制御電流を供給し、X軸方向の推力Fxを発生させる。この推力発生部についても前記特許文献2に詳細が開示されているので、内容説明を省略する。
【0109】
スライダ部101に設けられたXモータ及びYモータは、磁性体で形成される格子プラテンの溝に対向する複数のコアに交流制御電流を供給して格子プラテンとの間に推力を発生させる、いわゆるハイブリッド型面モータが応答性やコスト面で有利であり採用される場合が多い。
【0110】
ハイブリッド型面モータの弱点として、モータに供給される交流制御電流の転流周期に同期して発生するコギング推力Frxによりスライダ部101の位置制御にリップルが重畳する問題があり、位置制御の精度を低下させる要因の一つとなっている。
【0111】
点線のブロック600は本発明のリップル抑制手段であり、コギング推力と同一振幅で逆位相のコギング補正信号Fexを算出し、加算手段505で推力指令値Fdxに加算することでコギング推力Frxの発生を抑制する。
【0112】
リップル抑制手段600において、601は転流位相検出手段である。転流位相角φは、X軸については位置検出値Pfxより得られる位置X及びX軸モータのコアピッチPより、割り算の余りを演算するmod関数により、
φ=mod(X,P)
で算出される。
【0113】
602は1次正弦波発生手段であり、転流位相角φを入力してsin(φ)を生成する。603は2次正弦波発生手段であり、転流位相角φを入力してsin(2φ)を生成する。必要に応じて3次,4次…n次正弦波発生手段を設けることが可能である。
【0114】
604は定数設定手段であり、速度変換器501の速度検出値Vfxを入力して定数a1,a2及びk1,k2を速度Vfxに対応した最適値を演算して設定する。演算は適当なアルゴリズムによる関数演算でもよいが、適当な分解能で分割した速度検出値と最適定数を対応させたテーブルより定数を読み出す構成が一般的である。
【0115】
506はスライダ部101に取り付けられた加速度センサ、507は推力変換手段であり、加速度センサ506の検出値に基づいてスライダ部101に働いているコギング推力を含む推力推定値Faxを算出する。この推力推定値Faxと速度制御部503の推力指令値Fdxは減算されて、差分dxが算出される。
【0116】
605は1次正弦波に関する定数修正手段であり、差分dxと1次正弦波発生手段602の出力を入力し両者の振幅と位相を比較し、振幅誤差及び位相誤差に基づいて定数a1を修正する信号kp1及び定数k1を修正する信号kg1を生成し、夫々a1及びk1に加算する。
【0117】
同様に、606は2次正弦波に関する定数修正手段であり、差分dxと2次正弦波発生手段603の出力を入力し両者の振幅と位相を比較し、振幅誤差及び位相誤差に基づいて定数a2を修正する信号kp2及び定数k2を修正する信号kg2を生成し、夫々a2及びk2に加算する。
【0118】
607は定数発生用パラメータ修正手段であり、定数修正手段605及び606の修正信号kp1,kg1及びkp2,kg2を入力し、定数設定手段604における定数生成用のパラメータを修正し、定数a1,a2及びk1,k2を修正する。
【0119】
608は加算手段であり、定数の修正処理が実行された1次正弦波発生手段602の出力と2次正弦波発生手段603の出力を加算し、コギング推力と同一振幅で逆位相のコギング補正信号Fexを算出し、加算手段505で推力指令値Fdxに加算することでコギング推力Frxの発生を抑制する。
【0120】
このように、スライダ部101に働く推定推力Faxをフィードバックし、推力指令値Fdxとの差分dxにより次数毎に正弦波発生手段の振幅誤差、位相誤差を求めて定数設定値を修正するフィードバック制御により、コギング補正効果を高めることができる。
【0121】
更に、フィードバック制御後の修正信号kp1,kg1及びkp2,kg2と設定定数a1,a2及びk1,k2の差を参照して定数設定手段604の定数生成用のパラメータを修正することで、学習効果により精度の高い定数設定手段604にチューニングすることができる。
【0122】
以上、X軸にリップル抑制手段600を適用した実施形態を説明したが、Y軸及びθ軸の各軸についても同様なリップル抑制手段を備えることで、各軸のコギング推力によるリップルを効果的に抑制することができる。
【0123】
しかしながら、面モータを用いたXYステージでは、他の軸からの干渉があり、各軸に働くコギング推力は他の軸にも干渉するので、各軸毎の独立したリップル抑制手段ではコギング補正が完全ではない。
【0124】
図17は、他の軸のコギング補正信号に各軸のコギング補正信号を加算した実施形態を示す機能ブロック図である。鎖線の領域AはX軸制御系、BはY軸制御系、Cはθ軸制御系であり、各制御系よりスライダ部101に対して推力Fx、Fy及びトルクTθが作用している。
【0125】
X軸の推力Fxには、自軸のコギング推力Frxx及びY軸の干渉によるコギング推力Fryxが作用している。同様に、Y軸の推力Fyには、自軸のコギング推力Fryy及びX軸の干渉によるコギング推力Frxyが作用している。更に、θ軸のトルクTθには、X軸及びY軸の干渉によるコギング推力Trxθ及びTryθが作用している。
【0126】
位置検出手段126は、スライダ部101のX軸位置検出値Pfx、Y軸位置検出値Pfy、θ軸位置Pfθを出力して各軸制御系に与えている。502A,502B,502Cは、各軸制御系の位置制御部であり、各軸の位置指令値Psx,Psy,Psθと各軸の位置検出値Pfx,Pfy,Pfθの偏差を演算して速度指令値Vsx,Vsy,Vsθを出力する。
【0127】
各軸の速度変換器501A,501B,501Cの速度検出値Vfx,Vfy,Vfθと、前記各軸の速度指令値Vsx,Vsy,Vsθの偏差evx,evy,evθは、各軸の速度制御部503A,503B,503Cで演算され、X,Y軸の推力指令値Fdx,Fdy及びθ軸のトルク指令値Tdθを出力する。
【0128】
これら各軸の推力指令値は、各軸の加算手段505A,505B,505Cで各軸のリップル抑制手段からのコギング補正信号が加算されてX,Yの推力発生部504A,504B及びθ軸のトルク発生部504Cに入力され、推力Fx,Fy及びトルクTθに変換されてスライダ部101に作用する。
【0129】
点線のブロック700は、X軸のリップル抑制手段であり、自軸の転流位相検出手段701、自軸のコギング推力に対する補正値発生器702、Y軸からの干渉によるコギング推力に対する補正値発生器703、これら補正値発生器に対する定数保持手段704,705により構成されている。
【0130】
点線のブロック800は、Y軸のリップル抑制手段であり、自軸の転流位相検出手段801、自軸のコギング推力に対する補正値発生器802、X軸からの干渉によるコギング推力に対する補正値発生器803、これら補正値発生器に対する定数保持手段804,805により構成されている。
【0131】
点線のブロック900は、θ軸のリップル抑制手段であり、X軸からの干渉によるコギング推力に対する補正値発生器901、Y軸からの干渉によるコギング推力に対する補正値発生器902、これら補正値発生器に対する定数保持手段903,904により構成されている。
【0132】
X軸の転流位相検出手段701の転流位相各出力φxは、自軸の補正値発生器702に出力されると共に、Y軸の補正値発生器803及びθ軸の補正値発生器901にも出力される。同様に、Y軸の転流位相検出手段801の転流位相各出力φyは、自軸の補正値発生器802に出力されると共に、X軸の補正値発生器703及びθ軸の補正値発生器902にも出力される。
【0133】
X軸の補正値発生器702及び703のコギング補正値Fex及びFeyは加算されて加算手段505Aで推力指令値Fdxに加算される。同様に、Y軸の補正値発生器802及び803のコギング補正値Fey及びFexは加算されて加算手段505Bで推力指令値Fdyに加算される。同様に、θ軸の補正値発生器901及び902のコギング補正値Teθx及びTeθyは加算されて加算手段505Cでトルク指令値Tdθに加算される。
【0134】
図18は、加速度フィードバック制御手段を備えた位置制御サーボ系をX1モータについて示した機能ブロック図である。位置制御部502は、位置指令値と位置検出手段126の位置検出値の偏差をもとにX1モータ127を指令位置にフィードバック制御するための制御信号を出力する。速度変換器501は位置検出手段126の位置検出信号を速度検出値に変換する。
【0135】
速度制御部503は、位置制御部502からの速度指令値と速度変換器501からの速度検出値の偏差をもとにX1モータ127の移動速度をフィードバック制御するための制御信号を出力する。
【0136】
推力発生部504は、速度制御部503からの制御信号をもとにX1モータ127を駆動する。推力発生部504には、モータコイルの制御電流を操作するためのパルス幅変調信号(PWM信号)を生成するPWM回路、PWM信号をもとにモータを駆動するブリッジ形のインバータ回路等が設けられている。
【0137】
スライダ部を2次元位置制御する制御ループに速度制御ループを持たせた場合には、ループゲインが小さいと速度検出値に変動が生じ、コギングによる推力、推力リップル等が要因となるモータ推力の外乱となる。ゲインを上げるとループにおける信号遅延が大きい場合や、モータに機械系共振が存在すると発振するため、ゲインに制約が生じ、これが位置決め精度向上の障害要因となる。
【0138】
本発明では、この問題点を解決するために、速度制御ループの特性を変えることなくモータ推力の外乱による影響を低減するために、位置制御ループ及び速度制御ループに加えて加速度制御ループが設けられている。
【0139】
加速度センサ506は、X1モータ127の加速度を検出する。加速度制御部508は、速度制御部503からの加速度指令値と加速度センサ506からの加速度検出値との偏差をもとにX1モータ127の移動加速度をフィードバック制御する。加速度制御部508の制御出力が推力発生部504に与えられる。
【0140】
更に、速度制御部503が出力する加速度指令値が、加速度制御部508をバイパスする信号経路が設けられており、バイパスした加速度指令値はフィードフォワード信号として加速度制御部508の出力に加算される。これにより、加速度がフィードフォワード制御される。
【0141】
このとき、加速度を加速度検出値に変換するときのゲイン(加速度定数)を調整することで、外乱推力の影響を低減し、速度制御ループの特性は加速度制御ループの影響を受けないように設定できる。これによって、速度制御ループの特性を変えることなく、コギングによる推力、推力リップル等が要因となるモータの推力の外乱による影響を低減できる。
【0142】
図19は、デッドタイム補正手段を設けた位置制御サーボ系をX1モータについて示した機能ブロック図である。509は積算カウンタであり、上位装置510からパルス数で与えられる目標位置信号SXを積算し、ディジタルの目標位置信号Piに変換する。
【0143】
511は周期検出手段であり、位置検出手段126の位置検出信号PX1を入力してその周期を算出する。512は位置変換手段、501は速度変換器であり、周期検出手段511からの周期信号を取得して位置信号Pf及び速度信号Vfに変換する。この動作原理については特許文献2に詳細に開示されているので、ここではその説明を省略する。
【0144】
502は位置制御部であり、目標位置信号Piと位置信号Pfの偏差を演算して速度指令信号Viを出力する。503は速度制御部であり、速度指令信号Viと速度信号Vfの偏差を演算して推力指令Fを出力する。
【0145】
513は位相差検出手段であり、位置検出信号PX1とスキャン周期foとの位相差を検出して転流制御手段514に出力する。この転流制御手段514の出力sinωt及びsin(ωt+120°)の信号と推力指令Fは夫々乗算器515及び516で乗算され、Fsinωt及びFsin(ωt+120°)を出力する。
【0146】
これら乗算器出力と電流検出手段519及び520の検出信号との偏差が電流制御手段521に入力される。電流制御手段521は、偏差を演算しパルス幅変調(PWM)されたスイッチング信号S1及びS2を出力し、デッドタイム発生回路522を介してインバータを形成する3相スイッチング回路523を開閉制御し、3相の面モータで実現されるX1モータ127のU相,V相,W相コイルに制御電流を供給する。
【0147】
電流検出手段519は、U相コイルに直列接続された電流検出抵抗Ruの電圧降下を検出して電流制御手段521フィードバックする。同様に電流検出手段520は、V相コイルに直列接続された電流検出抵抗Rvの電圧降下を検出して電流制御手段521にフィードバックする。W相コイルについてはフィードバックを行わない。
【0148】
転流制御による3相の面モータに対するPWM電流制御の詳細に関しては、特許文献2に開示されているので、ここでは詳細説明を省略する。
【0149】
ここで、デッドタイム発生回路522は、スイッチング信号S1及びS2が同時にオンとならないようにスイッチング信号の切り替わりのタイミングに所定時間のデッドタイムを付加し、同時オンによる3相スイッチング回路523の大電流焼損を防止する。
【0150】
デッドタイム発生回路522は、スイッチング回路の大電流焼損を防止するための必要要素であるが、デッドタイムによる不感帯の影響により、モータに対する微小な電流出力時に電流歪や応答の遅れがあり、微小振幅を発生してモータの制御特性を悪化させる問題点がある。
【0151】
スライダの位置制御の精度要求がさほど厳しくない場合には、この特性悪化は問題とならないが、スライダ上に更に高精度の位置決め装置を搭載する露光工程のような超高精度の位置決め装置では、微小振幅が位置決めの要求精度の障害要因となる。
【0152】
点線のブロック1000は本発明により導入されるデッドタイム補正手段である。1001は直交電流設定手段であり、重畳すべき補正電流を決める直交電流指令Hを出力する。この値は、デッドタイム発生回路522の特性に応じてオペレータが任意に手動設定することができる。
【0153】
1002及び1003は乗算器であり、転流制御手段514の出力sinωt及びsin(ωt+120°)の信号と直交電流指令Hとを乗算してHsinωt及びHsin(ωt+120°)を出力する。
【0154】
乗算器1002の出力Hsinωtを演算器1004で1/2倍演算した信号と、乗算器1003の出力Hsin(ωt+120°)とを加算手段1006で加算することにより、Hsin(ωt−90°)信号を生成せしめる。これを電流制御手段521の入力側に設けた加算器517により、Fsinωt側の偏差信号に重畳させる。
【0155】
同様に、乗算器1003の出力Hsin(ωt+120°)を演算器1004で1/2倍演算した信号と、乗算器1002の出力Hsinωtとを加算手段1007により逆相で加算することにより、Hsin(ωt+120°−90°)信号を生成せしめる。これを電流制御手段521の入力側に設けた加算器518により、Fsin(ωt+120°)側の偏差信号に重畳させる。
【0156】
このようなデッドタイム補正手段の導入により、デッドタイムの影響による微小振幅を有効に回避することができる。重畳させる補正電流値は、デッドタイム発生回路の特性に応じて手動設定することができるので、制御精度を最適にするためのチューニング作業が容易である。
【0157】
以上説明した実施形態では、複数のスライダ部を有するXYステージを半導体製造装置に適用したときに位置制御精度の向上効果が顕著となる各種の補正手段にについて説明した。しかしながら、本発明の適用対象は半導体製造装置に限定されるものではなく、検査装置、組み立て装置等の高精度を要求されるXYステージに汎用的に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】本発明を適用したXYステージの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明の他の実施形態を示すXYステージの斜視図である。
【図3】スライダ部101を代表して示した2次元位置制御システムを説明する機能ブロック図である。
【図4】XYサーボドライバを構成する各要素の具体的構成及びスライダ部に搭載されるX1,X2モータ、Y1,Y2モータの配置を説明する機能ブロック図である。
【図5】スライダ部101を代表して示した2次元位置制御システムの他の実施形態を説明する機能ブロック図である。
【図6】格子プラテン上を浮揚して移動するスライダ部のピッチング及びローリング現象を説明するイメージ図である。
【図7】(A)は、格子プラテンとスライダ部の平面図、(B)はX軸方向の側面図である。
【図8】ピッチング角サーボ手段, ローリング角サーボ手段, 位置サーボ手段の具体的な構成例を示す機能ブロック図である。
【図9】(A)は、格子プラテンとスライダ部の平面図、(B)はX軸方向の側面図である。
【図10】X軸モータ及びY軸モータへ供給される制御電流の位相を説明する特性図である。
【図11】対角配置されたX1モータ及びX2モータ(又はY1モータ及びY2モータ)に異なる直交電流を供給することにより、スライダ部をピッチング(又はローリング)制御するイメージ図である。
【図12】対角配置されたX1モータ及びX2モータ(又はY1モータ及びY2モータ)に同位相で同一値の直交電流を供給することにより、スライダ部をZ軸方向に位置制御するイメージ図である。
【図13】標準的なモータの配置を示す平面図である。
【図14】スライダに搭載されるモータ配置として領域を9分割し、中心領域を除いた8領域にX1乃至X4モータ及びY1乃至Y4モータを配置した平面図である。
【図15】ピッチング角サーボ手段, ローリング角サーボ手段, Z軸方向位置サーボ手段の具体的な構成例を示す機能ブロック図である。
【図16】リップル抑制手段を備えるスライダ部のX軸位置制御サーボ系を示す機能ブロック図である。
【図17】他の軸のコギング補正信号に各軸のコギング補正信号を加算した実施形態を示す機能ブロック図である。
【図18】加速度フィードバック制御手段を備えた位置制御サーボ系をX1モータについて示した機能ブロック図である。
【図19】デッドタイム補正手段を設けた位置制御サーボ系をX1モータについて示した機能ブロック図である。
【図20】特許文献1に開示されている複数のスライダ部を有するXYステージの構成を示す平面図である。
【図21】スライダ部の2次元位置制御システムを説明する機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0159】
100 格子プラテン
101、102 103スライダ部
104、105、106 デバイスホルダ
107、107´、107″ デバイス
108 カメラ
109 レーザ光源
110 フォトマスク
111 レンズ系
112、113、114 ヨーイング補正手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、格子プラテン上のスライダ部を2次元方向に位置制御するXYステージに関する。XYステージは、半導体製造、半導体検査装置、組み立て装置、印刷装置等に幅広く利用されている。
【背景技術】
【0002】
複数のスライダ部を有するXYステージは特許文献1に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−116239号公報
【0004】
格子プラテンと、その上面をX軸方向及びY軸方向にスライドして位置制御されるスライダ部を有するXYステージの構造及びスライダ部のヨーイング抑制技術については、特許文献2にされている。
【0005】
【特許文献2】特開2000−65970号公報
【0006】
図20は、特許文献1に開示されている複数のスライダ部を有するXYステージの構成を示す平面図である。これに開示された技術は、タクトを向上させたデバイス検査装置である。
【0007】
1は格子プラテンである。2は(A)位置のスライダ部,3は(B)位置のスライダ部であり、格子プラテン1の上面を2次元方向(X,Y)に位置制御される。4は、スライダ部2に搭載された検査対象のデバイス、5は、スライダ部3に搭載された検査対象のデバイスである。6は制御部、7及び8は制御部で操作されるカメラ及び検査部である。
【0008】
(A)位置のスライダ部2に搭載された検査対象となるデバイス4の位置をカメラ7で画像計測し、デバイスの配置状態のずれを求めるアライメントを行う。同時に(B)位置のスライダ部3に搭載されたデバイス5に検査部8のプローブ9を接触させて検査を実行する。
【0009】
検査が終了すると、(A)位置でのアライメント後のデバイス4を搭載しているスライダ部2を、検査を行う(B)位置へ移送(矢印P1)すると同時に、検査後のデバイス5を搭載しているスライダ部3をアライメントを行う(A)位置に移送(矢印P2)する。
【0010】
(B)位置に移送されたデバイス4は、アライメントで求めたずれ量に基づいてデバイスを位置決めしてから検査が実行される。(A)位置に移送されたデバイス5は新たなデバイスと交換されてアライメントが実行される。
【0011】
このように、アライメントを行う(A)位置と検査を行う(B)位置にスライダ部2とスライダ部3を交互入れ替え、一方のスライダ部でデバイスの検査をしている間に他方のスライダ部で次の検査対象デバイスのアライメントを行う工程を繰り返す。制御部6は、スライダ部2の移動経路と、スライダ部3の移動経路が互いに交差しない別経路になるように制御する。
【0012】
図21は、スライダ部2の2次元位置制御システムを説明する機能ブロック図である。水平に固定配置された格子プラテン1には、X方向及びY方向に沿って一定ピッチで歯が形成されている。図では簡略のため一部の歯だけを示している。格子プラテンは磁性体の平坦面に格子状に溝を切ることによって形成される。
【0013】
2は、格子プラテン上面をX方向及びY方向にスライドして位置決め制御されるスライダ部であり、この上部にワーク及び位置決めの対象となるデバイスが搭載される。浮揚手段21は、格子プラテン1に対向する裏面にノズルが設けられていて圧縮空気を噴射させることでライダ2を格子プラテン1上に浮揚させる。
【0014】
31はスライダ部2の上部に固定配置されたX軸センサである。32は同様にスライダ部2の上部に固定配置されたY軸センサである。11は、格子プラテン1のX軸の一端部にX軸に直交して固定配置された所定高さを有するX軸ミラーであり、X軸センサ31と対向する。12は、格子プラテン1のY軸の一端部にY軸に直交して固定配置された所定高さを有するY軸ミラーであり、Y軸センサ32と対向する。
【0015】
X軸センサ31及びY軸センサ32は光学的な距離測定装置であり、レーザ光をX軸ミラー11及びY軸ミラー12に照射し反射光を受光し干渉を利用して移動距離を測定することでスライダ部2のX方向及びY方向の位置を測定する。PXはX軸センサ31によるX軸方向距離測定値、PYはY軸センサ33によるY方向距離測定値である。干渉計による距離測定の原理については特許文献2に詳細に開示されている。
【0016】
ブロック40はXYサーボドライバであり、X軸ドライバ41及びY軸ドライバ42よりなる。X軸ドライバ41は、測定座標PXと上位装置から与えられる目標位置信号SXの偏差を演算してスライダ2に搭載された面モータで実現されるXモータ(図示せず)に制御電流MXを出力する。Y軸ドライバ42は、測定座標PYと上位装置から与えられる目標位置信号SYとの偏差を演算してスライダ2に搭載されたYモータに制御電流MYを出力する。Xモータ及びYモータによる2次元位置制御の原理についても特許文献2に詳細に開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
複数のスライダ部を有するXYステージを用いた半導体製造装置では、露光工程でフォトマスクの精密移動制御とデバイスを搭載したスライダの精密位置制御が必要であり、スライダは高精度の位置決め精度を要求される。従来構成のXYスライダでは、次のような問題点があった。
(1)スライダ部を2次元位置制御する際に、Z軸まわりの回転(ヨーイング)が発生し、これが位置決め精度向上の障害要因となる。
【0018】
(2)スライダ部を2次元位置制御する際に、スライダ部のZ軸方向の変化(スライダ部と格子プラテン間の距離変動)、即ちローリング又はピッチングが発生し、これが位置決め精度向上の障害要因となる。
【0019】
(3)ハイブリッド型の面モータの弱点として、モータに供給される交流制御電流の転流周期に同期して発生するコギング推力によりスライダの位置制御にリップルが重畳する問題があり、これが位置決め精度向上の障害要因となる。
【0020】
(4)スライダ部を2次元位置制御する制御ループに速度制御ループを持たせた場合、ループゲインが小さいと速度検出値に変動が生じ、コギングによる推力、推力リップル等が要因となるモータ推力の外乱となる。ゲインを上げるとループにおける信号遅延が大きい場合や、モータに機械系共振が存在すると発振するため、ゲインに制約が生じ、これが位置決め精度向上の障害要因となる。
【0021】
(5)面モータに対する制御電流を、スイッチング回路を介して供給する場合に設けられるデッドタイム発生回路による不感帯により、微小電流時に電流歪や応答遅れがあり、微小振幅を発生してモータの制御特性が悪化する。これが位置決め精度向上の障害要因となる。
【0022】
従って本発明が解決しようとする課題は、ヨーイング、ピッチング及びローリング、コギング、速度制御におけるループゲイン、デッドタイム発生回路に起因する位置決め精度向上の障害要因に対応した補正手段を備えた、複数のスライダ部を有するXYステージを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
このような課題を達成するために、本発明の構成は次の通りである。
(1)格子プラテン上のスライダ部を2次元方向に位置制御するXYステージにおいて、
独立に位置制御される複数のスライダ部を有し、これらスライダ部の夫々は、スライダ部をX軸方向及びY軸方向に位置制御する位置制御手段と、スライダ部のZ軸まわりのヨーイングを補正するヨーイング補正手段を備えることを特徴とするXYステージ。
【0024】
(2)前記スライダ部の夫々は、スライダ部のZ軸方向の変化を補正するローリング又はピッチング補正手段を備えることを特徴とする(1)に記載のXYステージ。
【0025】
(3)前記スライダ部の夫々は、スライダ部のZ軸方向の変化を検出するセンサ手段と、このセンサ手段の検出値に基づいてZ軸方向の変化を抑制するコイル手段を備えたことを特徴とする(2)に記載のXYステージ。
【0026】
(4)前記スライダ部の夫々は、Z軸方向の変化を検出するセンサ手段と、このセンサ手段の検出値に基づいて前記スライダ部をX軸方向及びY軸方向に移動するX軸モータ及びY軸モータの制御電流に対してその位相角と直交する位相の補正電流を付与する、直交電流付与手段を備えることを特徴とする(2)に記載のXYステージ。
【0027】
(5)前記スライダ部の夫々は、速度に応じて前記X軸モータ及びY軸モータに供給される制御電流の転流位相角より計算されるコギング補正信号により、スライダ部に発生するコギング推力に起因するリップルを抑制する、リップル抑制手段を備えることを特徴とする(1)に記載のXYステージ。
【0028】
(6) 前記転流位相角又は前記コギング補正信号の少なくともいずれかの定数を変更する、定数設定手段を設けたことを特徴とする(5)に記載のXYステージ。
【0029】
(7)X軸に関する前記コギング補正信号をY軸のコギング補正信号に、Y軸に関する前記コギング補正信号をX軸のコギング補正信号に加算することを特徴とする(5)に記載のXYステージ。
【0030】
(8)X軸及びY軸に関する前記コギング補正信号を、Z軸に関するコギング補正信号に加算することを特徴とする(5)に記載のXYステージ。
【0031】
(9)前記スライダ部の夫々は、スライダの移動速度に基づく速度フィードバック制御手段及びスライダの移動速度に基づく加速度フィードバック制御手段を備えることを特徴とする(1)に記載のXYステージ。
【0032】
(10)前記速度フィードバック制御手段が出力するスライダの加速度指令値を前記加速度フィードバック制御手段にフィードフォワード信号として与えることを特徴とする(9)に記載のXYステージ。
【0033】
(11)前記スライダ部の夫々は、前記X軸モータ及びY軸モータに供給する制御電流に対して位相が直交する補正電流を重畳させる、デッドタイム補正手段を備えることを特徴とする(1)に記載のXYステージ。
【0034】
(12)前記補正電流の値は、デッドタイム発生回路の特性に応じて手動設定されることを特徴とする(11)に記載のXYステージ。
【0035】
(13) 前記スライダ部の夫々は、半導体製造装置でアライメントを行うデバイス及び半導体製造装置で露光を行うデバイスを搭載し、位置制御されることを特徴とする(1)乃至(12)のいずれかに記載のXYステージ。
【発明の効果】
【0036】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば次のような効果があり、XYステージを半導体製造装置の露光工程に使用した場合に要求される位置決め精度を実現することができる。
(1)スライダ部を2次元位置制御する際に、Z軸まわりの回転(ヨーイング)による位置決め誤差が抑制され、位置決め精度向上に貢献できる。
【0037】
(2)スライダ部のZ軸方向の変化(スライダ部と格子プラテン間の距離変動)、即ちローリング又はピッチングが抑制され、位置決め精度向上に貢献できる。
【0038】
(3)面モータに供給される交流制御電流の転流周期に同期して発生するコギング推力により発生する位置制御のリップルが抑制され、位置決め精度向上に貢献できる。
【0039】
(4)加速度制御ループの採用により、速度制御ループの特性を変えることなく、コギングによる推力、推力リップル等が要因となるモータ推力の外乱が抑制され、位置決め精度向上に貢献できる。
【0040】
(5)デッドタイム発生回路による不感帯が補正され、微小電流時の電流歪や応答遅れに起因するよるモータの制御特性の悪化が抑制され、位置決め精度向上に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明を図面により詳細に説明する。図1は本発明を適用したXYステージの一実施形態を示す斜視図である。図1において、100は格子プラテンである。101は(A)位置のスライダ部、102は(B)位置のスライダ部、103は(C)位置のスライダ部であり、格子プラテン100の上面を2次元方向(X,Y)に位置制御される。
【0042】
104はスライダ部101に形成されたデバイスホルダ、105はスライダ部102に形成されたデバイスホルダ、106はスライダ部103に形成されたデバイスホルダであり、これらデバイスホルダには検査対象のデバイス107、107´、107″が搭載されている。112,113,114は、夫々スライダ部101,102,103が備えるヨーイング補正手段である。
【0043】
(A)位置のスライダ部101は、ロード・アンロード工程を実行し、露光工程を終了した(C)位置のスライダ部が移動した状態である。ここで露光済みのデバイスがアンロードされ、新たな露光対象デバイス107がロードされる。
【0044】
このとき、同時進行で(B)位置のスライダ部102では、前の露光サイクルでロードされたデバイス107´のアライメント測定がカメラ108で実行されており、(C)位置スライダ部103では、その前の露光サイクルでロードされ、アライメント測定が終了したデバイス107″の露光が実行されている。
【0045】
露光は、レーザ光源109からのスリット状ビームをフォトマスク110及びレンズ系111を介してデバイスに照射する。デバイスの各チップに対する露光は、フォトマスク110とスライダ部103を相対的に移動制御して実行されるが、両者の移動制御の位置精度がバランスよく高精度であることが高集積密度の半導体製造には必須要件となる。
【0046】
(C)位置での露光が終了すれば、(C)位置のスライダ部103は矢印P1の経路で(A)に移動しアンロードとロード工程に遷移し、(A)位置のスライダ部101は矢印P2の経路で(B)位置に移動しアライメント工程に遷移し、(B)位置のスライダ部102は矢印P3の経路で(C)位置に移動し露光工程に遷移する。以下、このローテーションを繰り返す。
【0047】
図2は、本発明の他の実施形態を示すXYステージの斜視図である。図1に比較した特徴点は、(B)位置のスライダ部102がローダ・アンローダ工程とアライメント工程を同じ位置で実行する点にある。このような2スライダ部構成により、各スライダ部へのケーブル接続(図示せず)の取り回しや干渉計の設計が容易となり、システムのコスト低減にも貢献する。
【0048】
図3は、スライダ部101を代表して示した2次元位置制御システムを説明する機能ブロック図である。図21で説明した従来の2次元位置制御システムとの相違は、Z軸まわりの回転θに対する補正を行うヨーイング補正手段を備える点にある。以下、ヨーイング補正手段の機能構成を説明する。
【0049】
格子プラテン100及びスライダ部101に形成された浮揚手段115の構成は、図21の格子プラテン1及び浮揚手段15の構成と同一である。以下、本発明の特徴部につき説明する。
【0050】
116及び117は、スライダ部101の上部にX方向に所定距離を持って固定配置された第1のX軸センサ及び第2のX軸センサである。118は同様にスライダ部101の上部に固定配置されたY軸センサである。
【0051】
119は、格子プラテン100のX軸の一端部にX軸に直交して固定配置された所定高さを有するX軸ミラーであり、第1のX軸センサ116及び第2のX軸センサ117と対向する。120は、格子プラテン100のY軸の一端部にY軸に直交して固定配置された所定高さを有するY軸ミラーであり、Y軸センサ118と対向する。
【0052】
第1のX軸センサ116、第2のX軸センサ117及びY軸センサ118は光学的な距離測定装置であり、レーザ光をX軸ミラー119及びY軸ミラー120に照射し反射光を受光し干渉を利用して移動距離を測定することでスライダ部101のX方向及びY方向の位置を測定する。PX1及びPX2は第1のX軸センサ116及び第2のX軸センサ117によるX軸方向距離測定値、PYはY軸センサ118によるY方向距離測定値である。
【0053】
ブロック121はXYサーボドライバであり、座標変換手段122,第1X軸ドライバ123,第2X軸ドライバ124,Y軸ドライバ125よりなる。座標変換手段122は、測定値PX1,PX2及びPYを入力し第1X軸ドライバ123に測定座標Xを、第2X軸ドライバ124にヨーイング回転角(Z軸の回転角)θを、Y軸ドライバ125に測定座標Yを夫々出力する。
【0054】
第1X軸ドライバ123は、測定座標Xと上位装置から与えられる目標位置信号SXの偏差を演算してスライダ部101に搭載された面モータで実現されるX1モータに制御電流MX1を出力する。
【0055】
第2X軸ドライバ124は、ヨーイング回転角θと設定値0°との偏差を演算してスライダ部101に搭載されたX2モータに制御電流MX2を出力する。Y軸ドライバ125は、測定座標Yと上位装置から与えられる目標位置信号SYとの偏差を演算してスライダ部101に搭載されたY1モータ及びY2モータに共通の制御電流MYを出力する。
【0056】
図4は、XYサーボドライバ121を構成する各要素の具体的構成及びスライダ部101に搭載されるX1,X2モータ、Y1,Y2モータの配置を説明する機能ブロック図である。
【0057】
座標変換手段122の演算内容は、位置検出手段126からの測定値PX1及びPX2の加算演算で測定座標Xを出力する。測定値PYはそのまま測定座標Yとして出力する。測定値PX1及びPX2の減算値より所定の関数演算でZ軸回転角即ちヨーイング角θを算出して出力する。
【0058】
第1X軸ドライバ123は、目標位置信号SXと測定座標Xとの偏差を入力するX位置速度制御手段123aと、その推力指令FX1を受けてスライダ部101のX1モータ127に制御電流MX1を出力するX1電流制御手段123bよりなる。
【0059】
第2X軸ドライバ124は、ヨーイング角θと設定値0°との偏差を入力するθ位置速度制御手段124aとその推力指令FX2を受けてスライダ部101のX2モータ128に制御電流MX2を出力するX2電流制御手段124bよりなる。
【0060】
Y軸ドライバ125は、目標位置信号SYと測定座標Yとの偏差を入力するY位置速度制御手段125aとその推力指令FYを受けてスライダ部101のY1モータ129及びY2モータ130に共通の制御電流MYを出力するY電流制御手段125bよりなる。
【0061】
X位置速度制御手段123aの出力は、θ位置速度制御手段124aの出力に加算されて推力指令FX2としてX2電流制御手段124bに入力される。θ位置速度制御手段124aの出力は、X位置速度制御手段123aの出力に減算され推力指令FX1としてX1電流制御手段123bに入力される。
【0062】
スライダ部101に搭載されるX1,X2,Y1,Y2モータは、中心点Qに対してX1,X2モータ及びY1,Y2モータが互いに対角となるように配置されており、X1モータ及びX2モータについては異なる制御電流を受けるとQ点を中心にZ軸の周りに回転力を発生し、これがX軸のヨーイング抑制の操作力となる。
【0063】
スライダ部101に搭載されるX1モータ,X2モータ, Y1モータ,Y2モータの詳細構造、位置制御サーボ系の構成等は、特許文献2に詳細に開示されているので説明を省略する。
【0064】
図5は、スライダ部101を代表して示した2次元位置制御システムの他の実施形態を説明する機能ブロック図である。図3との構成上の相違は、第1X軸センサ116,第2X軸センサ117,Y軸センサ118を固定配置し、X軸ミラー119及びY軸ミラー120をスライダ部101側に形成した点にある。
【0065】
このように、干渉計のセンサをスライダ部101に搭載しない構成により、次のような効果を期待できる。
(1)X軸センサ2台及びY軸センサ1台はスライダ部より分離され固定配置されるので、その電子部品による発熱がスライダ部の上に取り付けられるワーク及びワーク上に搭載されるデバイスに影響を与えることが回避される。これにより、露光工程のようにワークが更に精度の高いデバイスの位置決め作業をしている場合等では温度補償を不用とし、スライダ部上の構成がシンプルとなり、コストダウンに貢献できる。
【0066】
(2)3台のセンサが外部に固定配置されるので、従来XYステージで必要としていたスライダ部への電源ケーブル、信号ケーブルの可動的な取り回しが不用となり、ケーブル処理のコストダウンに貢献できる。
【0067】
次に、本発明に適用されるピッチング及びローリング補正につき説明する。図6は、格子プラテン100上を浮揚して移動するスライダ部101のピッチング及びローリング現象を説明するイメージ図である。点線の矢印で示すX方向のゆれPがピッチングであり、直交する一点鎖線の矢印で示すY方向のゆれRがローリングである。
【0068】
スライダ部101に搭載されるデバイスが、露光工程等の極めて高い位置決め精度を要求する場合には、浮揚して移動するスライダ部101のピッチング及びローリングを抑制する補正が必須となる。特許文献2記載の技術では、スライダ部のZ軸方向の回転であるヨーイングは抑制可能であるが、ピッチング及びローリングについては対応できない。
【0069】
図7(A)は、格子プラテン100とスライダ部101の平面図、(B)はX軸方向の側面図(Y軸方向センサは図示せず)である。スライダ部101は、圧縮空気の噴射により格子プラテン100の上面に微小空隙を持って浮揚している。浮揚手段自身はこの空隙を一定に制御する機能を持たないために、スライダ部101の移動に伴い図6で説明したピッチング及びローリングが発生する。
【0070】
Z1センサ301及びZ2センサ302は、スライダ部101のX軸方向の両端部に取り付けられた距離計であり、スライダ部のX軸方向のピッチング角を検出する第1のZ軸センサを形成する。同様に、Z3センサ303及びZ4センサ304は、スライダ部101のY軸方向の両端部に取り付けられた距離計であり、スライダ部のY軸方向のローリング角を検出する第2のZ軸センサを形成する。
【0071】
図7(B)に示すように、Z1センサ301及びZ2センサ302は、センサ位置におけるスライダ部101と格子プラテン100間の距離d1及びd2を測定する。図示されていないが、同様にZ3センサ303及びZ4センサ304は、センサ位置におけるスライダ部101と格子プラテン100間の距離d3及びd4を測定する。
【0072】
Z1センサ301とZ2センサ302間の距離及びZ3センサ303及びZ4センサ304間の距離は、同一距離Lとされている。Z1センサ301とZ2センサ302の距離測定値d1及びd2とスライダ部のX方向距離Lに基づいてピッチング角を検出する。同様に、Z3センサ303及びZ4センサ304の測定値d3及びd4とスライダ部のY方向距離Lに基づいてスライダ部のY方向のローリング角を検出する。
【0073】
ピッチング角pz及びローリング角rzは、次式で近似計算される。
pz=(d1−d2)/L (1)
rz=(d3−d4)/L (2)
【0074】
更に、4個の距離計の測定値d1乃至d4に基づいてスライダ部102と格子プラテン100間のZ方向平均距離hzが次式で計算される。
hz=(d1+d2+d3+d4)/4 (3)
【0075】
Z1コイル305及びZ2コイル306は、Z1センサ301及びZ2センサ302に夫々近接して設けられ、第1のZ軸コイルを形成する。同様に、Z3コイル307及びZ4コイル308は、Z3センサ303及びZ4センサ304に夫々近接して設けられ、第2のZ軸コイルを形成する。これらコイルに励磁電流を流すことにより、図7(B)に示すように、スライダ部101と格子プラテン100間に吸引力が発生し、空隙の距離d1乃至d4を個別に制御することができる。
【0076】
図8は、ピッチング角サーボ手段, ローリング角サーボ手段, 位置サーボ手段の具体的な構成例を示す機能ブロック図である。309乃至122は電流増幅器であり、夫々Z1コイル305乃至Z4コイル308にサーボ制御のための励磁電流i1乃至i4を供給する。
【0077】
Z1センサ301の測定値d1とZ2センサ302の測定値d2は、減算器313で差が計算され、1/L演算部314により前記(1)式のピッチング角pzが算出される。Z3センサ303の測定値d3とZ4センサ304の測定値d4は、減算器315で差が計算され、1/L演算部116により前記(2)式のローリング角rzが算出される。Z1センサ乃至Z4センサの側定値d1乃至d4は、加算器317で加算され、1/4演算部318により前記(3)式の位置hzが算出される。
【0078】
減算器319は、ピッチング角測定値pzとピッチング角指令部320の設定値ps(0°)の差を誤差増幅器321に与える。減算器322は、ローリング角測定値rzとローリング角指令部323の設定値rs(0°)の差を誤差増幅器324に与える。減算器325は、位置測定値hzと位置指令部326の設定値hsの差を誤差増幅器327に与える。
【0079】
ピッチング角を制御する誤差増幅器321の出力vpは、加算器328及び減算器329を介して電流増幅器309及び310に与えられ、Z1コイル305及びZ2コイル306の励磁電流i1及びi2を可逆的に操作し、ピッチング角pzがゼロとなるように制御する。
【0080】
同様に、ローリング角を制御する誤差増幅器324の出力vrは、加算器330及び減算器331を介して電流増幅器311及び312に与えられ、Z3コイル307及びZ4コイル308の励磁電流i3及びi4を可逆的に操作し、ローリング角rzがゼロとなるように制御する。
【0081】
スライダの位置を制御する誤差増幅器327の出力vhは、加算器328,330及び減算器329,3131を介して電流増幅器309乃至312に与えられ、Z1コイル乃至Z4コイルの励磁電流i1乃至i4を操作し、スライダ部101と格子プラテン100間の距離hzが設定値hsとなるように制御する。
【0082】
このように、ピッチング角サーボ手段及びローリング角サーボ手段に加えて、スライダ部の位置(Z軸方向の距離hz)を一定にする位置サーボ手段を設けることで、ピッチング角及びローリング角の抑制精度を向上させることができる。
【0083】
次に、ピッチング角及びローリング角の抑制制御の他の実施形態を図9乃至図15に基づいて説明する。この実施形態の特徴は、検出されたピッチング角pz及びローリング角rz並びにZ軸方向平均距離hzの測定値に基づき、スライダ部に搭載されたX軸モータ又はY軸モータの制御電流にこれと位相が直交する補正電流を重畳させることにより、スライダ部101と格子プラテン100間引力を発生させ、空隙の距離d1乃至d4を個別に制御する点にある。
【0084】
図9(A)は、格子プラテン100とスライダ部101の平面図、(B)はX軸方向の側面図(Y軸方向センサは図示せず)である。スライダ部101は、圧縮空気の噴射により格子プラテン100の上面に微小空隙を持って浮揚している。浮揚手段自身はこの空隙を一定に制御する機能を持たないために、スライダ部の移動に伴い図6で説明したピッチング及びローリングが発生する。
【0085】
Z11センサ401及びZ12センサ402は、スライダ部101のX軸方向の両端部に取り付けられた距離計であり、スライダ部のX軸方向のピッチング角を検出する第1のZ軸センサを形成する。同様に、Z21センサ403及びZ22センサ404は、スライダ部101のY軸方向の両端部に取り付けられた距離計であり、スライダ部のY軸方向のローリング角を検出する第2のZ軸センサを形成する。
【0086】
図9(B)に示すように、Z11センサ401及びZ12センサ402は、センサ位置におけるスライダ部101と格子プラテン100間の距離d1及びd2を測定する。図示されていないが、同様にZ21センサ403及びZ22センサ404は、センサ位置におけるスライダ部101と格子プラテン100間の距離d3及びd4を測定する。距離測定の原理は、図7の実施形態と同一である。
【0087】
図10は、X軸モータ及びY軸モータへ供給される制御電流の位相を説明する特性図である。従来の使用形態では、最も推力を発生する機械角90°に位相が設定されているが、本発明ではこの制御電流の位相に直交する機械角0°(モータの歯とプラテンの歯の位置が一致している位置)の推力を発生しない電流(直交電流)を重畳する点を特徴とする。
【0088】
モータの吸引力はバイアスマグネットの磁束と電流による磁束の和で決まるため、直交電流により吸引力を制御できる。又、空気浮揚手段を使用している平面モータの浮上量は吸引力と空気の反発力のバランスで決まるため、吸引力(∝直交電流)により浮上量を制御することができる。
【0089】
図11は、この原理を利用して対角配置されたX1モータ及びX2モータ(又はY1モータ及びY2モータ)に異なる直交電流を供給することにより、スライダ部101をピッチング(又はローリング)制御するイメージ図である。
【0090】
図12は、同様にこの原理を利用して対角配置されたX1モータ及びX2モータ(又はY1モータ及びY2モータ)に同位相で同一値の直交電流を供給することにより、スライダ部101をZ軸方向に位置制御するイメージ図である。
【0091】
図13は、標準的なモータの配置を示す平面図である。この様なモータ配置の場合は、以下の組み合わせで直交電流を流して姿勢制御を行う。
(1)ピッチング方向制御:X1モータ,Y2モータとY1モータ,X2モータで逆位相の直交電流を流す。
(2)ローリング方向制御:X1モータ,Y1モータとY2モータ,X2モータで逆位相の直交電流を流す。
(3)Z軸方向位置制御:全モータに同位相で同一値の直交電流を流す。
【0092】
図14は、スライダに搭載されるモータ配置として領域を9分割し、中心領域を除いた8領域にX1乃至X4モータ及びY1乃至Y4モータを配置した平面図を示す。131及び132は、X3モータ及びX4モータである。133及び134は、Y3モータ及びY4モータである。このように、8軸の電流供給部を持たせることで移動方向により主に推力を発生させるモータと、主に吸引力を発生させるモータを分離して制御を容易にすることができる。
【0093】
移動方向時に推力を発生していないXモータで制御する場合には、
(1)ピッチング方向制御:X1,X2とX3,X4で逆相の直交電流を流す。
(2)ローリング方向制御:X1,X3とX2,X4で逆相の直交電流を流す。
(3)Z軸方向位置制御 :X1〜X4で同相の直交電流を流す。
【0094】
図15は、ピッチング角サーボ手段, ローリング角サーボ手段, Z軸方向位置サーボ手段の具体的な構成例を示す機能ブロック図である。405はX1ドライバ、406はX2ドライバ、407はY1ドライバ、408はY2ドライバであり、夫々推力指令FX1,FX2及び推力指令FY1,FY2を入力し、X1モータ127,X2モータ128及びY1モータ129,Y2モータ130に3相の制御電流MX1,MX2及びMY1,MY2を出力する。
【0095】
409はX1直交電流生成手段、410はX2直交電流生成手段、411はY1直交電流生成手段、412はY2直交電流生成手段であり、夫々生成された直交電流IX1,IX2及びIY1,IY2をX1ドライバ405,X2ドライバ406及びY1ドライバ407,Y2ドライバ408に出力する。これら直交電流IX1,IX2及びIY1,IY2は、3相の制御電流MX1,MX2及びMY1,MY2に重畳される。
【0096】
Z11センサ401の測定値d1とZ12センサ402の測定値d2は、減算器413で差が計算され、1/L演算部414により前記(1)式のピッチング角pzが算出される。
【0097】
Z21センサ403の測定値d3とZ22センサ404の測定値d4は、減算器415で差が計算され、1/L演算部416により前記(2)式のローリング角rzが算出される。
【0098】
Z11センサ乃至Z22センサの側定値d1乃至d4は、加算器417で加算され、1/4演算部418により前記(3)式のZ軸方向の平均位置hzが算出される。
【0099】
ピッチング角サーボ手段の構成を説明する。減算器419は、ピッチング角測定値pzとピッチング角指令部420の設定値ps(0°)の偏差を、ピッチング角を制御する誤差増幅器421に与える。誤差増幅器421の出力vpは、加算器428及び加算器429を介してX1直交電流生成手段409及びY2直交電流生成手段412に与えられる。
【0100】
誤差増幅器421の逆相出力−vpは、加算器430及び加算器431を介してX2直交電流生成手段410及びY1直交電流生成手段411に与えられる。このようなサーボ系により、X1モータ,Y2モータ及びX2モータ,Y1モータが逆相に回転操作され、ピッチング角pzがゼロとなるように制御される。
【0101】
ローリング角サーボ手段の構成を説明する。減算器422は、ローリング角測定値rzとローリング角指令部423の設定値rs(0°)の偏差を、ローリング角を制御する誤差増幅器424に与える。誤差増幅器424の出力vrは、加算器428及び加算器431を介してX1直交電流生成手段409及びY1直交電流生成手段411に与えられる。
【0102】
誤差増幅器424の逆相出力−vrは、加算器430及び加算器429を介してX2直交電流生成手段410及びY2直交電流生成手段412に与えられる。このようなサーボ系により、X1モータ,Y1モータ及びX2モータ,Y2モータが逆相に回転操作され、ローリング角rzがゼロとなるように制御される。
【0103】
Z方向位置サーボ手段の構成を説明する。減算器425は、Z軸方向平均位置測定値hzと位置指令部426の設定値hsの偏差を、z軸方向位置を制御する誤差増幅器427に与える。誤差増幅器427の出力vhは、加算器428乃至431に共通に与えられ、X1モータ,Y1モータ及びX2モータ,Y2モータを同相に操作し、スライダ部101と格子プラテン100間の距離が設定値hsとなるように制御する。
【0104】
このように、ピッチング角サーボ手段及びローリング角サーボ手段に加えて、スライダ部の位置(Z軸方向の距離)を一定にするZ軸方向位置サーボ手段を設けることで、ピッチング角及びローリング角の抑制精度を向上させることができる
【0105】
次に、コギング推力に起因するリップル抑制につき図16及び図17により説明する。図16は、リップル抑制手段600を備えるスライダ部101のX軸位置制御サーボ系を示す機能ブロック図である。
【0106】
501は速度変換器であり、スライダ部101の位置検出手段126より得られるX軸の位置検出値Pfxの信号成分よりスライダ部101の速度を演算し、速度検出値Vfxを算出する。この速度変換器についても前記特許文献2に詳細が開示されており、内容説明を省略する。
【0107】
502は位置制御部であり、位置指令値Psxと位置検出値Pfxの偏差を演算処理して速度指令値Vsxを出力する。503は速度制御部であり、速度指令値Vsxと速度検出値Vfxの偏差evxを演算処理して推力指令値Fdxを出力する。
【0108】
504は推力発生部であり、推力指令値Fdxとこの指令値に加算手段505で加算される後述のリップル抑制手段600からのコギング補正信号Fexを入力し、スライダ部101のX1モータ127及びX2モータ128に交流制御電流を供給し、X軸方向の推力Fxを発生させる。この推力発生部についても前記特許文献2に詳細が開示されているので、内容説明を省略する。
【0109】
スライダ部101に設けられたXモータ及びYモータは、磁性体で形成される格子プラテンの溝に対向する複数のコアに交流制御電流を供給して格子プラテンとの間に推力を発生させる、いわゆるハイブリッド型面モータが応答性やコスト面で有利であり採用される場合が多い。
【0110】
ハイブリッド型面モータの弱点として、モータに供給される交流制御電流の転流周期に同期して発生するコギング推力Frxによりスライダ部101の位置制御にリップルが重畳する問題があり、位置制御の精度を低下させる要因の一つとなっている。
【0111】
点線のブロック600は本発明のリップル抑制手段であり、コギング推力と同一振幅で逆位相のコギング補正信号Fexを算出し、加算手段505で推力指令値Fdxに加算することでコギング推力Frxの発生を抑制する。
【0112】
リップル抑制手段600において、601は転流位相検出手段である。転流位相角φは、X軸については位置検出値Pfxより得られる位置X及びX軸モータのコアピッチPより、割り算の余りを演算するmod関数により、
φ=mod(X,P)
で算出される。
【0113】
602は1次正弦波発生手段であり、転流位相角φを入力してsin(φ)を生成する。603は2次正弦波発生手段であり、転流位相角φを入力してsin(2φ)を生成する。必要に応じて3次,4次…n次正弦波発生手段を設けることが可能である。
【0114】
604は定数設定手段であり、速度変換器501の速度検出値Vfxを入力して定数a1,a2及びk1,k2を速度Vfxに対応した最適値を演算して設定する。演算は適当なアルゴリズムによる関数演算でもよいが、適当な分解能で分割した速度検出値と最適定数を対応させたテーブルより定数を読み出す構成が一般的である。
【0115】
506はスライダ部101に取り付けられた加速度センサ、507は推力変換手段であり、加速度センサ506の検出値に基づいてスライダ部101に働いているコギング推力を含む推力推定値Faxを算出する。この推力推定値Faxと速度制御部503の推力指令値Fdxは減算されて、差分dxが算出される。
【0116】
605は1次正弦波に関する定数修正手段であり、差分dxと1次正弦波発生手段602の出力を入力し両者の振幅と位相を比較し、振幅誤差及び位相誤差に基づいて定数a1を修正する信号kp1及び定数k1を修正する信号kg1を生成し、夫々a1及びk1に加算する。
【0117】
同様に、606は2次正弦波に関する定数修正手段であり、差分dxと2次正弦波発生手段603の出力を入力し両者の振幅と位相を比較し、振幅誤差及び位相誤差に基づいて定数a2を修正する信号kp2及び定数k2を修正する信号kg2を生成し、夫々a2及びk2に加算する。
【0118】
607は定数発生用パラメータ修正手段であり、定数修正手段605及び606の修正信号kp1,kg1及びkp2,kg2を入力し、定数設定手段604における定数生成用のパラメータを修正し、定数a1,a2及びk1,k2を修正する。
【0119】
608は加算手段であり、定数の修正処理が実行された1次正弦波発生手段602の出力と2次正弦波発生手段603の出力を加算し、コギング推力と同一振幅で逆位相のコギング補正信号Fexを算出し、加算手段505で推力指令値Fdxに加算することでコギング推力Frxの発生を抑制する。
【0120】
このように、スライダ部101に働く推定推力Faxをフィードバックし、推力指令値Fdxとの差分dxにより次数毎に正弦波発生手段の振幅誤差、位相誤差を求めて定数設定値を修正するフィードバック制御により、コギング補正効果を高めることができる。
【0121】
更に、フィードバック制御後の修正信号kp1,kg1及びkp2,kg2と設定定数a1,a2及びk1,k2の差を参照して定数設定手段604の定数生成用のパラメータを修正することで、学習効果により精度の高い定数設定手段604にチューニングすることができる。
【0122】
以上、X軸にリップル抑制手段600を適用した実施形態を説明したが、Y軸及びθ軸の各軸についても同様なリップル抑制手段を備えることで、各軸のコギング推力によるリップルを効果的に抑制することができる。
【0123】
しかしながら、面モータを用いたXYステージでは、他の軸からの干渉があり、各軸に働くコギング推力は他の軸にも干渉するので、各軸毎の独立したリップル抑制手段ではコギング補正が完全ではない。
【0124】
図17は、他の軸のコギング補正信号に各軸のコギング補正信号を加算した実施形態を示す機能ブロック図である。鎖線の領域AはX軸制御系、BはY軸制御系、Cはθ軸制御系であり、各制御系よりスライダ部101に対して推力Fx、Fy及びトルクTθが作用している。
【0125】
X軸の推力Fxには、自軸のコギング推力Frxx及びY軸の干渉によるコギング推力Fryxが作用している。同様に、Y軸の推力Fyには、自軸のコギング推力Fryy及びX軸の干渉によるコギング推力Frxyが作用している。更に、θ軸のトルクTθには、X軸及びY軸の干渉によるコギング推力Trxθ及びTryθが作用している。
【0126】
位置検出手段126は、スライダ部101のX軸位置検出値Pfx、Y軸位置検出値Pfy、θ軸位置Pfθを出力して各軸制御系に与えている。502A,502B,502Cは、各軸制御系の位置制御部であり、各軸の位置指令値Psx,Psy,Psθと各軸の位置検出値Pfx,Pfy,Pfθの偏差を演算して速度指令値Vsx,Vsy,Vsθを出力する。
【0127】
各軸の速度変換器501A,501B,501Cの速度検出値Vfx,Vfy,Vfθと、前記各軸の速度指令値Vsx,Vsy,Vsθの偏差evx,evy,evθは、各軸の速度制御部503A,503B,503Cで演算され、X,Y軸の推力指令値Fdx,Fdy及びθ軸のトルク指令値Tdθを出力する。
【0128】
これら各軸の推力指令値は、各軸の加算手段505A,505B,505Cで各軸のリップル抑制手段からのコギング補正信号が加算されてX,Yの推力発生部504A,504B及びθ軸のトルク発生部504Cに入力され、推力Fx,Fy及びトルクTθに変換されてスライダ部101に作用する。
【0129】
点線のブロック700は、X軸のリップル抑制手段であり、自軸の転流位相検出手段701、自軸のコギング推力に対する補正値発生器702、Y軸からの干渉によるコギング推力に対する補正値発生器703、これら補正値発生器に対する定数保持手段704,705により構成されている。
【0130】
点線のブロック800は、Y軸のリップル抑制手段であり、自軸の転流位相検出手段801、自軸のコギング推力に対する補正値発生器802、X軸からの干渉によるコギング推力に対する補正値発生器803、これら補正値発生器に対する定数保持手段804,805により構成されている。
【0131】
点線のブロック900は、θ軸のリップル抑制手段であり、X軸からの干渉によるコギング推力に対する補正値発生器901、Y軸からの干渉によるコギング推力に対する補正値発生器902、これら補正値発生器に対する定数保持手段903,904により構成されている。
【0132】
X軸の転流位相検出手段701の転流位相各出力φxは、自軸の補正値発生器702に出力されると共に、Y軸の補正値発生器803及びθ軸の補正値発生器901にも出力される。同様に、Y軸の転流位相検出手段801の転流位相各出力φyは、自軸の補正値発生器802に出力されると共に、X軸の補正値発生器703及びθ軸の補正値発生器902にも出力される。
【0133】
X軸の補正値発生器702及び703のコギング補正値Fex及びFeyは加算されて加算手段505Aで推力指令値Fdxに加算される。同様に、Y軸の補正値発生器802及び803のコギング補正値Fey及びFexは加算されて加算手段505Bで推力指令値Fdyに加算される。同様に、θ軸の補正値発生器901及び902のコギング補正値Teθx及びTeθyは加算されて加算手段505Cでトルク指令値Tdθに加算される。
【0134】
図18は、加速度フィードバック制御手段を備えた位置制御サーボ系をX1モータについて示した機能ブロック図である。位置制御部502は、位置指令値と位置検出手段126の位置検出値の偏差をもとにX1モータ127を指令位置にフィードバック制御するための制御信号を出力する。速度変換器501は位置検出手段126の位置検出信号を速度検出値に変換する。
【0135】
速度制御部503は、位置制御部502からの速度指令値と速度変換器501からの速度検出値の偏差をもとにX1モータ127の移動速度をフィードバック制御するための制御信号を出力する。
【0136】
推力発生部504は、速度制御部503からの制御信号をもとにX1モータ127を駆動する。推力発生部504には、モータコイルの制御電流を操作するためのパルス幅変調信号(PWM信号)を生成するPWM回路、PWM信号をもとにモータを駆動するブリッジ形のインバータ回路等が設けられている。
【0137】
スライダ部を2次元位置制御する制御ループに速度制御ループを持たせた場合には、ループゲインが小さいと速度検出値に変動が生じ、コギングによる推力、推力リップル等が要因となるモータ推力の外乱となる。ゲインを上げるとループにおける信号遅延が大きい場合や、モータに機械系共振が存在すると発振するため、ゲインに制約が生じ、これが位置決め精度向上の障害要因となる。
【0138】
本発明では、この問題点を解決するために、速度制御ループの特性を変えることなくモータ推力の外乱による影響を低減するために、位置制御ループ及び速度制御ループに加えて加速度制御ループが設けられている。
【0139】
加速度センサ506は、X1モータ127の加速度を検出する。加速度制御部508は、速度制御部503からの加速度指令値と加速度センサ506からの加速度検出値との偏差をもとにX1モータ127の移動加速度をフィードバック制御する。加速度制御部508の制御出力が推力発生部504に与えられる。
【0140】
更に、速度制御部503が出力する加速度指令値が、加速度制御部508をバイパスする信号経路が設けられており、バイパスした加速度指令値はフィードフォワード信号として加速度制御部508の出力に加算される。これにより、加速度がフィードフォワード制御される。
【0141】
このとき、加速度を加速度検出値に変換するときのゲイン(加速度定数)を調整することで、外乱推力の影響を低減し、速度制御ループの特性は加速度制御ループの影響を受けないように設定できる。これによって、速度制御ループの特性を変えることなく、コギングによる推力、推力リップル等が要因となるモータの推力の外乱による影響を低減できる。
【0142】
図19は、デッドタイム補正手段を設けた位置制御サーボ系をX1モータについて示した機能ブロック図である。509は積算カウンタであり、上位装置510からパルス数で与えられる目標位置信号SXを積算し、ディジタルの目標位置信号Piに変換する。
【0143】
511は周期検出手段であり、位置検出手段126の位置検出信号PX1を入力してその周期を算出する。512は位置変換手段、501は速度変換器であり、周期検出手段511からの周期信号を取得して位置信号Pf及び速度信号Vfに変換する。この動作原理については特許文献2に詳細に開示されているので、ここではその説明を省略する。
【0144】
502は位置制御部であり、目標位置信号Piと位置信号Pfの偏差を演算して速度指令信号Viを出力する。503は速度制御部であり、速度指令信号Viと速度信号Vfの偏差を演算して推力指令Fを出力する。
【0145】
513は位相差検出手段であり、位置検出信号PX1とスキャン周期foとの位相差を検出して転流制御手段514に出力する。この転流制御手段514の出力sinωt及びsin(ωt+120°)の信号と推力指令Fは夫々乗算器515及び516で乗算され、Fsinωt及びFsin(ωt+120°)を出力する。
【0146】
これら乗算器出力と電流検出手段519及び520の検出信号との偏差が電流制御手段521に入力される。電流制御手段521は、偏差を演算しパルス幅変調(PWM)されたスイッチング信号S1及びS2を出力し、デッドタイム発生回路522を介してインバータを形成する3相スイッチング回路523を開閉制御し、3相の面モータで実現されるX1モータ127のU相,V相,W相コイルに制御電流を供給する。
【0147】
電流検出手段519は、U相コイルに直列接続された電流検出抵抗Ruの電圧降下を検出して電流制御手段521フィードバックする。同様に電流検出手段520は、V相コイルに直列接続された電流検出抵抗Rvの電圧降下を検出して電流制御手段521にフィードバックする。W相コイルについてはフィードバックを行わない。
【0148】
転流制御による3相の面モータに対するPWM電流制御の詳細に関しては、特許文献2に開示されているので、ここでは詳細説明を省略する。
【0149】
ここで、デッドタイム発生回路522は、スイッチング信号S1及びS2が同時にオンとならないようにスイッチング信号の切り替わりのタイミングに所定時間のデッドタイムを付加し、同時オンによる3相スイッチング回路523の大電流焼損を防止する。
【0150】
デッドタイム発生回路522は、スイッチング回路の大電流焼損を防止するための必要要素であるが、デッドタイムによる不感帯の影響により、モータに対する微小な電流出力時に電流歪や応答の遅れがあり、微小振幅を発生してモータの制御特性を悪化させる問題点がある。
【0151】
スライダの位置制御の精度要求がさほど厳しくない場合には、この特性悪化は問題とならないが、スライダ上に更に高精度の位置決め装置を搭載する露光工程のような超高精度の位置決め装置では、微小振幅が位置決めの要求精度の障害要因となる。
【0152】
点線のブロック1000は本発明により導入されるデッドタイム補正手段である。1001は直交電流設定手段であり、重畳すべき補正電流を決める直交電流指令Hを出力する。この値は、デッドタイム発生回路522の特性に応じてオペレータが任意に手動設定することができる。
【0153】
1002及び1003は乗算器であり、転流制御手段514の出力sinωt及びsin(ωt+120°)の信号と直交電流指令Hとを乗算してHsinωt及びHsin(ωt+120°)を出力する。
【0154】
乗算器1002の出力Hsinωtを演算器1004で1/2倍演算した信号と、乗算器1003の出力Hsin(ωt+120°)とを加算手段1006で加算することにより、Hsin(ωt−90°)信号を生成せしめる。これを電流制御手段521の入力側に設けた加算器517により、Fsinωt側の偏差信号に重畳させる。
【0155】
同様に、乗算器1003の出力Hsin(ωt+120°)を演算器1004で1/2倍演算した信号と、乗算器1002の出力Hsinωtとを加算手段1007により逆相で加算することにより、Hsin(ωt+120°−90°)信号を生成せしめる。これを電流制御手段521の入力側に設けた加算器518により、Fsin(ωt+120°)側の偏差信号に重畳させる。
【0156】
このようなデッドタイム補正手段の導入により、デッドタイムの影響による微小振幅を有効に回避することができる。重畳させる補正電流値は、デッドタイム発生回路の特性に応じて手動設定することができるので、制御精度を最適にするためのチューニング作業が容易である。
【0157】
以上説明した実施形態では、複数のスライダ部を有するXYステージを半導体製造装置に適用したときに位置制御精度の向上効果が顕著となる各種の補正手段にについて説明した。しかしながら、本発明の適用対象は半導体製造装置に限定されるものではなく、検査装置、組み立て装置等の高精度を要求されるXYステージに汎用的に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】本発明を適用したXYステージの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明の他の実施形態を示すXYステージの斜視図である。
【図3】スライダ部101を代表して示した2次元位置制御システムを説明する機能ブロック図である。
【図4】XYサーボドライバを構成する各要素の具体的構成及びスライダ部に搭載されるX1,X2モータ、Y1,Y2モータの配置を説明する機能ブロック図である。
【図5】スライダ部101を代表して示した2次元位置制御システムの他の実施形態を説明する機能ブロック図である。
【図6】格子プラテン上を浮揚して移動するスライダ部のピッチング及びローリング現象を説明するイメージ図である。
【図7】(A)は、格子プラテンとスライダ部の平面図、(B)はX軸方向の側面図である。
【図8】ピッチング角サーボ手段, ローリング角サーボ手段, 位置サーボ手段の具体的な構成例を示す機能ブロック図である。
【図9】(A)は、格子プラテンとスライダ部の平面図、(B)はX軸方向の側面図である。
【図10】X軸モータ及びY軸モータへ供給される制御電流の位相を説明する特性図である。
【図11】対角配置されたX1モータ及びX2モータ(又はY1モータ及びY2モータ)に異なる直交電流を供給することにより、スライダ部をピッチング(又はローリング)制御するイメージ図である。
【図12】対角配置されたX1モータ及びX2モータ(又はY1モータ及びY2モータ)に同位相で同一値の直交電流を供給することにより、スライダ部をZ軸方向に位置制御するイメージ図である。
【図13】標準的なモータの配置を示す平面図である。
【図14】スライダに搭載されるモータ配置として領域を9分割し、中心領域を除いた8領域にX1乃至X4モータ及びY1乃至Y4モータを配置した平面図である。
【図15】ピッチング角サーボ手段, ローリング角サーボ手段, Z軸方向位置サーボ手段の具体的な構成例を示す機能ブロック図である。
【図16】リップル抑制手段を備えるスライダ部のX軸位置制御サーボ系を示す機能ブロック図である。
【図17】他の軸のコギング補正信号に各軸のコギング補正信号を加算した実施形態を示す機能ブロック図である。
【図18】加速度フィードバック制御手段を備えた位置制御サーボ系をX1モータについて示した機能ブロック図である。
【図19】デッドタイム補正手段を設けた位置制御サーボ系をX1モータについて示した機能ブロック図である。
【図20】特許文献1に開示されている複数のスライダ部を有するXYステージの構成を示す平面図である。
【図21】スライダ部の2次元位置制御システムを説明する機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0159】
100 格子プラテン
101、102 103スライダ部
104、105、106 デバイスホルダ
107、107´、107″ デバイス
108 カメラ
109 レーザ光源
110 フォトマスク
111 レンズ系
112、113、114 ヨーイング補正手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子プラテン上のスライダ部を2次元方向に位置制御するXYステージにおいて、
独立に位置制御される複数のスライダ部を有し、これらスライダ部の夫々は、スライダ部をX軸方向及びY軸方向に位置制御する位置制御手段と、スライダ部のZ軸まわりのヨーイングを補正するヨーイング補正手段を備えることを特徴とするXYステージ。
【請求項2】
前記スライダ部の夫々は、スライダ部のZ軸方向の変化を補正するローリング又はピッチング補正手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のXYステージ。
【請求項3】
前記スライダ部の夫々は、スライダ部のZ軸方向の変化を検出するセンサ手段と、このセンサ手段の検出値に基づいてZ軸方向の変化を抑制するコイル手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載のXYステージ。
【請求項4】
前記スライダ部の夫々は、Z軸方向の変化を検出するセンサ手段と、このセンサ手段の検出値に基づいて前記スライダ部をX軸方向及びY軸方向に移動するX軸モータ及びY軸モータの制御電流に対してその位相角と直交する位相の補正電流を付与する、直交電流付与手段を備えることを特徴とする請求項2に記載のXYステージ。
【請求項5】
前記スライダ部の夫々は、速度に応じて前記X軸モータ及びY軸モータに供給される制御電流の転流位相角より計算されるコギング補正信号により、スライダ部に発生するコギング推力に起因するリップルを抑制する、リップル抑制手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のXYステージ。
【請求項6】
前記転流位相角又は前記コギング補正信号の少なくともいずれかの定数を変更する、定数設定手段を設けたことを特徴とする請求項5に記載のXYステージ。
【請求項7】
X軸に関する前記コギング補正信号をY軸のコギング補正信号に、Y軸に関する前記コギング補正信号をX軸のコギング補正信号に加算することを特徴とする請求項5に記載のXYステージ。
【請求項8】
X軸及びY軸に関する前記コギング補正信号を、Z軸に関するコギング補正信号に加算することを特徴とする請求項5に記載のXYステージ。
【請求項9】
前記スライダ部の夫々は、スライダの移動速度に基づく速度フィードバック制御手段及びスライダの移動速度に基づく加速度フィードバック制御手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のXYステージ。
【請求項10】
前記速度フィードバック制御手段が出力するスライダの加速度指令値を前記加速度フィードバック制御手段にフィードフォワード信号として与えることを特徴とする請求項9に記載のXYステージ。
【請求項11】
前記スライダ部の夫々は、前記X軸モータ及びY軸モータに供給する制御電流に対して位相が直交する補正電流を重畳させる、デッドタイム補正手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のXYステージ。
【請求項12】
前記補正電流の値は、デッドタイム発生回路の特性に応じて手動設定されることを特徴とする請求項11に記載のXYステージ。
【請求項13】
前記スライダ部の夫々は、半導体製造装置でアライメントを行うデバイス及び半導体製造装置で露光を行うデバイスを搭載し、位置制御されることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載のXYステージ。
【請求項1】
格子プラテン上のスライダ部を2次元方向に位置制御するXYステージにおいて、
独立に位置制御される複数のスライダ部を有し、これらスライダ部の夫々は、スライダ部をX軸方向及びY軸方向に位置制御する位置制御手段と、スライダ部のZ軸まわりのヨーイングを補正するヨーイング補正手段を備えることを特徴とするXYステージ。
【請求項2】
前記スライダ部の夫々は、スライダ部のZ軸方向の変化を補正するローリング又はピッチング補正手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のXYステージ。
【請求項3】
前記スライダ部の夫々は、スライダ部のZ軸方向の変化を検出するセンサ手段と、このセンサ手段の検出値に基づいてZ軸方向の変化を抑制するコイル手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載のXYステージ。
【請求項4】
前記スライダ部の夫々は、Z軸方向の変化を検出するセンサ手段と、このセンサ手段の検出値に基づいて前記スライダ部をX軸方向及びY軸方向に移動するX軸モータ及びY軸モータの制御電流に対してその位相角と直交する位相の補正電流を付与する、直交電流付与手段を備えることを特徴とする請求項2に記載のXYステージ。
【請求項5】
前記スライダ部の夫々は、速度に応じて前記X軸モータ及びY軸モータに供給される制御電流の転流位相角より計算されるコギング補正信号により、スライダ部に発生するコギング推力に起因するリップルを抑制する、リップル抑制手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のXYステージ。
【請求項6】
前記転流位相角又は前記コギング補正信号の少なくともいずれかの定数を変更する、定数設定手段を設けたことを特徴とする請求項5に記載のXYステージ。
【請求項7】
X軸に関する前記コギング補正信号をY軸のコギング補正信号に、Y軸に関する前記コギング補正信号をX軸のコギング補正信号に加算することを特徴とする請求項5に記載のXYステージ。
【請求項8】
X軸及びY軸に関する前記コギング補正信号を、Z軸に関するコギング補正信号に加算することを特徴とする請求項5に記載のXYステージ。
【請求項9】
前記スライダ部の夫々は、スライダの移動速度に基づく速度フィードバック制御手段及びスライダの移動速度に基づく加速度フィードバック制御手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のXYステージ。
【請求項10】
前記速度フィードバック制御手段が出力するスライダの加速度指令値を前記加速度フィードバック制御手段にフィードフォワード信号として与えることを特徴とする請求項9に記載のXYステージ。
【請求項11】
前記スライダ部の夫々は、前記X軸モータ及びY軸モータに供給する制御電流に対して位相が直交する補正電流を重畳させる、デッドタイム補正手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のXYステージ。
【請求項12】
前記補正電流の値は、デッドタイム発生回路の特性に応じて手動設定されることを特徴とする請求項11に記載のXYステージ。
【請求項13】
前記スライダ部の夫々は、半導体製造装置でアライメントを行うデバイス及び半導体製造装置で露光を行うデバイスを搭載し、位置制御されることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載のXYステージ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2006−226862(P2006−226862A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41562(P2005−41562)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]