説明

車両用自動変速機の制御装置

【課題】ギヤ段ホールドモードとレンジホールドモードとを備えた車両用自動変速機において、回転速度センサの故障による過大なエンジンブレーキの発生を抑制する車両用自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】回転速度センサ66が故障或いは誤検出した際には、走行モードがギヤ段ホールドモードからレンジホールドモードへ切り換えられる。ここで、レンジホールドモードは、第1速ギヤ段への変速の際には、一方向クラッチF1による係合によって成立させられるため、一方向クラッチF1が空回りすることでエンジンブレーキによる過大な負荷を回避することができ、自動変速機への負荷を回避することができる。これにより、自動変速機10の耐久性の低下を阻止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用自動変速機の制御装置に関し、特に運転者の操作によって任意の変速段を指定するギヤ段ホールドモードと、複数の変速段のうち変速される変速段の範囲を指定して自動変速させるレンジホールドモードとを備える車両用自動変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用自動変速機は、予め電子制御装置に記憶されている変速線図に基づいて好適に自動変速される。変速線図は、たとえば車速とアクセルペダルの操作量であるアクセル開度などのパラメータに基づいて変速領域が設定されている。車速は、たとえば自動変速機に設けられている回転速度センサによってその出力軸の回転速度を検出し、その回転速度から車速を算出する。ここで、回転速度センサが故障或いは誤検出して、たとえば回転速度がゼロすなわち車速がゼロと判定されると、高車速走行中であっても最低速ギヤ段である第1速ギヤ段に変速させられて急激なエンジンブレーキが発生し、自動変速機の各回転部材にも大きな負担がかかり、自動変速機の耐久性が低下する恐れがある。この問題に対して、特許文献1の電子制御式自動変速機では、このような回転速度センサの故障を検出すると、ブレーキ操作が為されない時には、一時的に変速を禁止することで、急激なシフトダウンによる過大なエンジンブレーキの発生を抑制している。
【0003】
【特許文献1】特開平5−157170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両において、運転者の操作によって任意の変速段を指定するギヤ段ホールドモードと、複数の変速段のうち変速される変速段の範囲を指定して自動変速させるレンジホールドモードとを備えるものが知られている。このような車両においてギヤ段ホールドモードで走行中に、回転速度センサが故障或いは誤検出して速度がゼロとなると、ギヤ段ホールドモードであっても車両停止と判定されるため、第1速ギヤ段に変速させられて過大なエンジンブレーキが発生してしまう。ここで、このような車両に特許文献1の発明を採用すると、ブレーキ操作が為されない場合は過大なエンジンブレーキの発生は抑制されるが、ブレーキ操作が為されると、第1速ギヤ段に変速されて過大なエンジンブレーキが発生する恐れがある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、ギヤ段ホールドモードとレンジホールドモードとを備えた車両用自動変速機において、回転速度センサの故障による過大なエンジンブレーキの発生を抑制する車両用自動変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、最低速ギヤ段の達成のためにエンジンブレーキ用係合要素または一方向クラッチが係合させられる車両用自動変速機において、運転者の操作によって変速段を指定するとともに強制的な最低速ギヤ段への変速の際には前記エンジンブレーキ用係合要素を係合させるギヤ段ホールドモードと、複数の変速段のうち変速される変速段の範囲を指定して自動変速させるレンジホールドモードとを備える車両用自動変速機の制御装置であって、前記ギヤ段ホールドモードで運転中に、前記車両の動力伝達経路において変速判断に用いられる回転部材の回転速度を検出する回転速度センサが故障或いは誤検出した際には、前記レンジホールドモードに切り換える走行モード切換手段を備えることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用自動変速機の制御装置において、前記変速判断に用いられる回転部材は、前記車両用自動変速機の出力軸であり、前記回転速度センサはその出力軸の回転速度を検出することを特徴とする。
【0008】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用自動変速機の制御装置において、前記走行モード切換手段は、前記ギヤ段ホールドモードで走行中に、前記車両用自動変速機内の作動油の油温が所定値以上の際には、前記レンジホールドモードに切り換えることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項3の車両用自動変速機の制御装置において、前記走行モード切換手段は、前記ギヤ段ホールドモードからレンジホールドモードへの切換を、トルクコンバータに備えられているロックアップクラッチのロックアップ制御が非作動時に実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1にかかる発明の車両用自動変速機の制御装置によれば、回転速度センサが故障或いは誤検出した際には、走行モードがギヤ段ホールドモードからレンジホールドモードへ切り換えられる。ここで、レンジホールドモードは、最低速ギヤ段への変速の際には、一方向クラッチによる係合によって成立させられるため、一方向クラッチが空回りすることで急激なエンジンブレーキを回避することができ、自動変速機への急激な負荷を回避することができる。これにより、自動変速機の耐久性の低下を阻止することができる。
【0011】
また、請求項2にかかる発明の車両用自動変速機の制御装置によれば、変速判断に用いられる回転部材は、車両用自動変速機の出力軸であり、回転速度センサはその出力軸の回転速度を検出するため、随時回転速度センサの異常を判定することができる。
【0012】
また、請求項3にかかる発明の車両用自動変速機の制御装置によれば、自動変速機内の作動油の油温が高温と判定されると、ギヤ段ホールドモードからレンジホールドモードへの切り換えられるため、変速段が車両の走行状態に従って好適な変速段に変速される。これにより、たとえばトルクコンバータ内の作動油の攪拌が抑制され、油温の上昇が抑制される。
【0013】
また、請求項4にかかる発明の車両用自動変速機の制御装置によれば、ギヤ段ホールドモードからレンジホールドモードへの切換は、さらにトルクコンバータ内のロックアップクラッチ制御が非作動時すなわちロックアップオフ時に為されるため、レンジホールドモードへの変速時の変速ショックを回避することができ、また、エンジンストールの危険を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0015】
図1は、車両用自動変速機(以下、自動変速機という)10の骨子図である。図2は複数の変速段(ギヤ段)を成立させる際の摩擦係合要素すなわち摩擦係合装置の作動状態を説明する作動表である。この自動変速機10は、車両の左右方向(横置き)に搭載するFF車両に好適に用いられるものであって、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース26内において、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置16およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体としてラビニヨ型に構成されている第2変速部20とを共通の軸心C上に有し、入力軸22の回転を変速して出力歯車24から出力する。
【0016】
入力軸22は、走行用の動力源であるエンジン30によって回転駆動される流体式伝動装置としてのロックアップクラッチ33を備えたトルクコンバータ32のタービン軸である。また、出力歯車24は、図3に示す差動歯車装置34に動力を伝達するために、デフリングギヤ36と噛み合ってファイナルギヤ対を構成するデフドライブピニオンと同軸上に配置されたカウンタドリブンギヤと噛み合ってカウンタギヤ対を構成するカウンタドライブギヤである。この出力歯車24の回転速度NOUTが回転速度センサ66によって検出され、後述する電子制御装置100に供給される。そして回転速度NOUTに基づいて車速Vが算出されて変速判断に用いられる。このように、出力歯車24が本発明の変速判断に用いられる回転部材(出力軸)に対応している。
【0017】
このように構成された自動変速機10において、エンジン30の出力は、トルクコンバータ32、自動変速機10、差動歯車装置34、および一対の車軸38等を介して一対の駆動輪40へ伝達される(図3参照)。なお、この自動変速機10やトルクコンバータ32は中心線(軸心)Cに対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその中心線Cの下半分が省略されている。
【0018】
自動変速機10は、第1変速部14および第2変速部20の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)のうちのいずれかの連結状態の組み合わせに応じて第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の6つの前進ギヤ段が成立させられるとともに、後進ギヤ段「R」が成立させられる。図2に示すように、例えば前進ギヤ段では、クラッチC1とブレーキB2との係合により第1速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB1との係合により第2速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB3との係合により第3速ギヤ段が、クラッチC1とクラッチC2との係合により第4速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB3との係合により第5速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB1との係合により第6速ギヤ段が、それぞれ成立させられるようになっている。また、ブレーキB2とブレーキB3との係合により後進ギヤ段が成立させられ、クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3のいずれも解放されることによりニュートラル状態となるように構成されている。
【0019】
図2の作動表は、上記各ギヤ段とクラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。特に、第1速ギヤ段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)にはクラッチC1のみを係合させ、エンジンブレーキを作用させるときにはクラッチC1とブレーキB2とを係合させる。また、各ギヤ段のギヤ比(変速比)γ(=入力軸22の回転速度/出力歯車24の回転速度)は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。なお、第2ブレーキB2が、本発明のエンジンブレーキ用係合要素に対応している。
【0020】
このように本実施例の自動変速機10は、複数の摩擦係合装置すなわちクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3を選択的に係合させることによりギヤ比の異なる複数のギヤ段を成立させるものであり、図2の作動表から明らかなように、クラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の何れか2つを掴み替える所謂クラッチツウクラッチ変速により各ギヤ段の切り替えを行うことができる。
【0021】
また、上記クラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、油圧制御回路50(図3参照)のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5の励磁、非励磁や電流制御により、係合、解放状態が切り換えられるとともに係合、解放時の過渡油圧などが制御される。
【0022】
図3は、図1の自動変速機10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部およびエンジン30から駆動輪40までの動力伝達系の概略構成を説明するブロック線図である。
【0023】
図3において、電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン30の出力制御や自動変速機10の変速制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や油圧制御回路50のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5を制御する変速制御用等に分けて構成される。
【0024】
例えば、電子制御装置100には、アクセル開度センサ54により検出されたアクセルペダル52の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、エンジン回転速度センサ56により検出されたエンジン30の回転速度であるエンジン回転速度Nを表す信号、冷却水温センサ58により検出されたエンジン30の冷却水温Tを表す信号、吸入空気量センサ60により検出されたエンジン30の吸入空気量Qを表す信号、スロットル弁開度センサ64により検出された電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを表すスロットル弁開度信号、回転速度センサ66により検出された出力歯車24の回転速度である出力回転速度NOUTすなわち車速Vを表す信号、ブレーキスイッチ70により検出された常用ブレーキであるフットブレーキ(ホイールブレーキ)の作動中(踏込操作中)を示すフットブレーキペダル68の操作(オン)BONを表す信号、レバーポジションセンサ74により検出されたシフト装置71のシフトレバー72のレバーポジション(操作位置、シフトポジション)PSHを表す信号、タービン回転速度センサ76により検出されたトルクコンバータ32のタービン軸の回転速度であるタービン回転速度Nすなわち入力軸22の回転速度を表す信号、AT油温センサ78により検出された油圧制御回路50内の作動油の温度であるAT油温TOIL表す信号、ギヤ段ホールドスイッチ84により指定した変速段に固定するギヤ段ホールド信号などがそれぞれ供給される。
【0025】
また、電子制御装置100からは、電子スロットル弁62を開閉駆動するスロットルアクチュエータ80への駆動信号、エンジン30の点火時期を指令する点火信号、エンジン30の吸気管または筒内に燃料を供給し或いは停止する燃料噴射装置82によるエンジン30への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、シフトインジケータを作動させるためのレバーポジションPSH表示信号、自動変速機10のギヤ段を切り換えるために油圧制御回路50内のシフト弁を駆動するシフトソレノイドを制御する信号、およびライン圧を制御するリニヤソレノイド弁を駆動するための指令信号などがそれぞれ出力される。
【0026】
また、シフトレバー72は例えば運転席の近傍に配設され、図3に示すように、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、または「S」へ手動操作されるようになっている。
【0027】
「P」ポジション(レンジ)は自動変速機10内の動力伝達経路を解放しすなわち自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力歯車24の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは自動変速機10の出力歯車24の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは自動変速機10の変速を許容する変速範囲(Dレンジ)で第1ギヤ段「1st」〜第6ギヤ段「6th」の総ての前進ギヤ段を用いて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)であり、「S」ポジションはギヤ段の変化範囲を制限する複数種類の変速レンジすなわち高車速側のギヤ段が異なる複数種類の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行ポジション(位置)である。この「S」ポジションにおいては、シフトレバー72の操作毎に変速範囲をアップ側にシフトさせるためのレバーポジションPSHとしての「+」ポジション、シフトレバー72の操作毎に変速範囲をダウン側にシフトさせるためのレバーポジションPSHとしての「−」ポジションが備えられている。この「S」ポジションが本発明のレンジホールドモード位置に対応している。また、シフト装置71には、ギヤ段ホールドスイッチ84が設けられている。ギヤ段ホールドスイッチ84は、「S」ポジションで指定したギヤ段に固定するギヤ段ホールドモードに切り換える為のスイッチである。
【0028】
図4は、油圧制御回路50のうちクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)AC1、AC2、AB1、AB2、AB3の作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL5に関する回路図である。
【0029】
図4において、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3には、ライン油圧PLがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1〜SL5により電子制御装置100からの指令信号に応じたクラッチ油圧(係合油圧)PC1、PC2、PB1、PB2、PB3に調圧されてそれぞれ直接的に供給されるようになっている。このライン油圧PLは、例えばエンジン30の出力トルク(エンジントルク)Tを伝達するための摩擦係合装置のクラッチトルク(係合トルク、トルク容量)が確保される係合油圧が得られるように、エンジン30により回転駆動される機械式のオイルポンプ28(図1参照)から発生する油圧を元圧として図示しない例えばリリーフ型調圧弁(レギュレータバルブ)によって、スロットル弁開度θTH或いは吸入空気量Q等で表されるエンジントルクTに応じた値に調圧されるようになっている。
【0030】
リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、基本的には何れも同じ構成で、電子制御装置100により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の係合油圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3が制御される。そして、自動変速機10は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた摩擦係合装置が係合されることによって各ギヤ段が成立させられる。また、自動変速機10の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放側摩擦係合装置と係合側摩擦係合装置との掴み替えによるクラッチツウクラッチ変速が実行される。このクラッチツウクラッチ変速の際には、変速ショックを抑制しつつ可及的に速やかに変速が実行されるように解放側摩擦係合装置の解放過渡油圧と係合側摩擦係合装置の係合過渡油圧とが適切に制御される。
【0031】
前記解放側摩擦係合装置とは、各クラッチツウクラッチ変速に関して解放される(新たに解放される)側の油圧式摩擦係合装置であり、例えば図2の係合作動表に示すように2速→3速アップシフトではブレーキB1が、3速→4速アップシフトではブレーキB3が、4速→5速アップシフトではクラッチC1が、5速→6速アップシフトではブレーキB3がそれぞれ相当する。また、前記係合側摩擦係合装置とは、各クラッチツウクラッチ変速に関して係合される(新たに係合される)側の油圧式摩擦係合装置であり、例えば1速→2速アップシフトではブレーキB1が、2速→3速アップシフトではブレーキB3が、3速→4速アップシフトではクラッチC2が、4速→5速アップシフトではブレーキB3が、5速→6速アップシフトではブレーキB1がそれぞれ相当する。
【0032】
ここで、ギヤ段ホールドモードで走行中に、たとえば出力回転速度センサが故障或いは誤検出し、回転速度NOUTがゼロ或いは略ゼロと検出されると、ギヤ段ホールドモードであっても、車両停止と判定される或いはエンジンストール等を回避するために最低速ギヤ段である第1速ギヤ段に変速させられる。ギヤ段ホールドモードで第1速ギヤ段に変速される場合は、第1クラッチC1および第2ブレーキB2が係合され、自動変速機10内にはエンジンブレーキによる過大な負荷が発生し、自動変速機10の耐久性が低下する恐れがある。一方、ギヤ段ホールドモードでは、低車速走行中においても、たとえば第6速ギヤ段など高車速ギヤ段での走行が可能となる。このような状態では、トルクコンバータ内の図示しないエンジン30に連結されたポンプ翼車と自動変速機10の入力軸22に連結されたタービン翼車との回転速度差、すなわち滑り量が大きくなる。これにより、トルクコンバータ32内の作動油は過度に攪拌されることで発熱量が増大し、油温が高温となり作動油の機能が低下する恐れがある。
【0033】
図5は、上述したような問題を解決するための電子制御装置100による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、変速制御手段102は、例えば図6に示すような車速Vおよびアクセル開度Accを変数として予め記憶された関係(マップ、変速線図)から実際の車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて変速判断を行い、自動変速機10の変速を実行すべきか否かを判断し、例えば自動変速機10の変速すべきギヤ段を判断し、その判断したギヤ段が得られるように自動変速機10の自動変速制御を実行する。このとき、変速制御手段102は、例えば図2に示す係合表に従ってギヤ段が達成されるように、自動変速機10の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力、油圧指令)を油圧制御回路50へ出力する。図6の変速線図において、実線はアップシフトが判断されるための変速線(アップシフト線)であり、破線はダウンシフトが判断されるための変速線(ダウンシフト線)である。
【0034】
例えば、変速制御手段102は、自動変速機10が第2速ギヤ段とされている車両走行中に、アクセルペダル52が踏込み操作される加速操作により車速Vが上昇して車両状態が2速→3速アップシフトを実行すべき2速→3速アップシフト線を横切ったと判断した場合には、解放側摩擦係合装置としてのブレーキB1の係合油圧を低下させてブレーキB1の解放を開始させると共に、ブレーキB1のトルク容量の低下とブレーキB3のトルク容量の増加が重なるように係合側摩擦係合装置としてのブレーキB3の係合油圧を上昇させてブレーキB3の係合を開始させ、ブレーキB3の解放とクラッチC2の係合とを完了させて第2速ギヤ段のギヤ比γ2から第3速ギヤ段のギヤ比γ3へ移行させる2→3パワーオンアップシフト指令を油圧制御回路50に出力する。
【0035】
油圧制御回路50は、前記変速制御手段102による変速出力に従って、自動変速機10の変速が実行されるように油圧制御回路50内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5を作動させて、その変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3を作動させる。
【0036】
走行モード切換手段104は、シフト装置71のシフトレバー72の位置およびギヤ段ホールドスイッチ84に従って走行モードを切り換えるためのものである。たとえばシフトレバー72が「D」ポジションに位置されると、走行モード切換手段104は、図6の変速線図に従って総ての前進ギヤ段を用いて自動変速制御される通常走行モードに切り換える。シフトレバー72が「S」ポジションに位置されると、走行モード切換手段104はギヤ段の変速範囲を制限する複数種類の変速レンジすなわち「S」ポジションによって選択された変速段を高車速側のギヤ段として自動変速制御されるレンジホールドモードに切り換える。さらにシフトレバー72が「S」ポジションに位置された状態でギヤ段ホールドスイッチ84が選択されると、走行モード切換手段104は「S」ポジションで選択されているギヤ段に固定するギヤ段ホールドモードに切り換える。
【0037】
ギヤ段ホールドモードに切り換えられると、図6の変速線図に拘束されず、たとえば低速走行状態であっても、高車速ギヤ段に固定して走行することが可能となる。しかし、車速およびアクセル開度が各変速段に設定されている限界値に達すると、エンジン30や自動変速機10にかかる過大な負荷などを回避するため、強制的に変速段がアップ変速またはダウン変速される。
【0038】
回転速度センサ異常判定手段106は、自動変速機10に設けられ、自動変速機10の出力歯車24の回転速度NOUTすなわち車速Vを検出する回転速度センサ66が正常か否かを判定するためのものである。回転速度センサ66の作動の判定は、たとえば随時検出される回転速度NOUTの単位時間当りの変化量を随時検出し、その変化量が所定の値を超えた場合に、回転速度センサ66が異常と判定される。そして、回転速度センサ66が異常と判定されると、走行モード切換手段104によって、ギヤ段ホールドモードで走行中の際にはレンジホールドモードへ切り換える信号を変速制御手段102へ出力する。
【0039】
具体的には、ギヤ段ホールドモードで走行中に回転速度センサ66が故障或いは誤検出し、回転速度NOUTがゼロ或いは略ゼロと検出されると、回転速度センサ異常判定手段106によって回転速度センサ66の異常と判定される。そして、走行モード切換手段104によりレンジホールドモードへ切り換えられる。レンジホールドモードへ切り換えられると、回転速度NOUTがゼロ或いは略ゼロすなわち車速Vがゼロ或いは略ゼロと検出されているために、第1速ギヤ段に変速させられる。ここで、レンジホールドモードでは、第1速ギヤ段は第1クラッチC1および一方向クラッチF1の係合に設定されている。走行中に第1速ギヤ段へ変速されると、駆動輪40側から自動変速機10へ回転が入力されるが、一方向クラッチF1は空回り状態となって、自動変速機10内には動力伝達経路が形成されないため、自動変速機10にはギヤ段ホールドモード状態では発生するエンジンブレーキによる過大な負荷は発生しない。
【0040】
AT油温異常判定手段108は、自動変速機10の変速などに使用される作動油の油温をAT油温センサ78によって検出し、その作動油の油温が適正であるか否かを判定するものである。作動油の油温の判定には、たとえば検出された油温が予め電子制御装置100に記憶されている所定の油温よりも高い場合に、油温異常と判定される。さらに、AT油温異常判定手段108では、トルクコンバータ32に備えられているロックアップクラッチ33がロックアップ制御が非作動すなわちロックアップオフか否かを例えば図示しないロックアップ切換ソレノイドバルブの駆動信号等に基づいて判定する。そして、AT油温異常判定手段108によって油温異常、且つロックアップオフと判定されると、走行モード切換手段104によって、ギヤ段ホールドモードで走行中の際にはレンジホールドモードへ切り換える信号を変速制御手段102へ出力する。
【0041】
具体的には、低車速走行中にギヤ段ホールモードによって第6速ギヤ段などの高車速ギヤ段で走行すると、自動変速機10内の作動油の発熱量増大によって油温が上昇し、作動油の油温が高温となる。これにより、AT油温異常判定手段108は油温異常と判定し、さらにロックアップクラッチ33がロックアップオフの場合に走行モード切換手段104によってレンジホールドモードへ切り換えられる。レンジホールドモードへ切り換えられると、ギヤ段ホールドモードで設定されていたギヤ段を高車速ギヤ段側の上限として自動変速されるモードなる。そして、図6の変速線図に従って、現在の走行状態に適した好適な変速段に変速させられる。これにより、トルクコンバータ32の滑り等が抑制されて作動油の油温の上昇が回避される。
【0042】
図7は電子制御装置100の制御作動の要部すなわちギヤ段ホールドモードで走行中に回転速度センサ66が故障或いは誤検出した際の変速制御を説明するフローチャートであり、所定の周期で例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
【0043】
図7に示すように、ステップS1(以下、ステップを省略する)において、現在の走行モードがギヤ段ホールドモードであるか否かを判定する。S1が否定されると、本ルーチンは終了させられるが、S1が肯定される場合は回転速度センサ異常判定手段106に対応するS2において、回転速度センサ66が故障或いは誤検出したか否かが判定される。S2が否定すなわち回転速度センサ66が正常作動すると判定されると、本ルーチンは終了させられる。S2が肯定されると、次いで、走行モード切換手段104に対応するS3において、ギヤ段ホールドモードからレンジホールドモードへ切り換えられる。レンジホールドモードでは、第1速ギヤ段に変速されて駆動輪40側から高速回転が入力されたとしても、一方向クラッチF1が空回りするために動力が遮断され、自動変速機10内の各回転部材には過大な負荷が発生しない構造となっている。
【0044】
図8は電子制御装置100の他の制御作動の要部、たとえば低車速走行中にギヤ段ホールドモードで高車速ギヤ段で走行中に、自動変速機10内の作動油の油温が高温と判定された際の変速制御を説明するフローチャートであり、所定の周期で例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
【0045】
図8に示すように、S11において現在の走行モードがギヤ段ホールドモードであるか否かを判定する。S11が否定されると、本ルーチンは終了させられるが、S11が肯定されるとAT油温異常判定手段108に対応するS12において、作動油の油温が高温が否かが判定される。S12が否定されると本ルーチンは終了させられるが、S12が肯定されると、トルクコンバータ32のロックアップクラッチ33がロックアップオフが否かが判定されたあと、走行モード切換手段104に対応するS13において、ギヤ段ホールドモードからレンジホールドモードに切り換えられる。レンジホールドモードに切り換えられると適正な変速段に変速されて、たとえばトルクコンバータ32内の滑りが抑制されて油温の上昇が抑制される。なお、回転速度センサ故障時およびAT油温異常時の制御作動は、それぞれ独立して説明されているが、これら各制御は平行して実施されている。
【0046】
上述のように、本実施例によれば、回転速度センサ66が故障或いは誤検出した際には、走行モードがギヤ段ホールドモードからレンジホールドモードへ切り換えられる。ここで、レンジホールドモードは、第1速ギヤ段の変速の際には、一方向クラッチF1による係合によって成立させられるため、一方向クラッチF1が空回りすることで急激なエンジンブレーキを回避することができ、自動変速機への急激な負荷を回避することができる。これにより、自動変速機10の耐久性の低下を阻止することができる。
【0047】
また、前述の実施例によれば、回転速度センサ66は自動変速機10の回転部材として機能する出力歯車24の回転速度を検出するため、随時回転速度センサ66の異常を判定することができる。
【0048】
また、前述の実施例によれば、自動変速機10内の作動油の油温が高温と判定されると、ギヤ段ホールドモードからレンジホールドモードへの切り換えられるため、変速段が車両の走行状態に従って好適な変速段に変速される。これにより、たとえばトルクコンバータ32内の作動油の攪拌が抑制され、油温の上昇が抑制される。
【0049】
また、前述の実施例によれば、ギヤ段ホールドモードからレンジホールドモードへの切換は、さらにトルクコンバータ32内のロックアップクラッチ制御が非作動時すなわちロックアップオフ時に為されるため、レンジホールドモードへの変速時の変速ショックを回避することができ、また、エンジンストールの危険を回避することができる。
【0050】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0051】
たとえば、本実施例の車両用自動変速機10は、車両の左右方向に搭載するFF車両に好適に用いられるものであったが、本発明はたとえば車両の前後方向に搭載されるFR車両など他の形式の車両にも適用することができる。すなわち本発明は、車両の形式に拘わらず、低速ギヤ段において一方向クラッチの係合を要するものであれば、自由に適用することができる。
【0052】
また、本実施例の車両用自動変速機10は、作動油の油温が高温であり、且つロックアップクラッチがロックアップオフの場合にレンジホールドモードに切り換えられるが、必ずしもロックアップオフの場合に限定されず、ロックアップオンの場合でもレンジホールドモードに切り換えて実施しても構わない。
【0053】
また、本実施例の回転速度センサ66は自動変速機10内に設けられているが、本発明は自動変速機10内に設けられている回転速度センサ66に限られず、たとえば駆動輪40に設けられて駆動輪40の回転速度から車速を検出する回転速度センサにおいても、本発明は適用することができる。すなわち、変速判断に用いられる回転速度を検出するための回転速度センサであれば、問題なく本発明を適用することができる。
【0054】
また、本実施例車両用自動変速機10では、レンジホールドモードはシフトレバー72が「S」ポジションに位置されたとき、ギヤ段ホールドモードはシフトレバー72が「S」ポジションに位置され、さらにギヤ段ホールドスイッチ84が選択されたときに実施されるようになっているが、これはあくまで一例であり、レンジホールドモードおよびギヤ段ホールドモードに選択可能な構成であればどのような形式でも構わない。たとえばシフトレバー72が「S」ポジションに位置された場合にギヤ段ホールドモードに切り換えられ、何らかの切換スイッチによってレンジホールドモードに切り換えられる形式であってもよい。また、ギヤ段ホールドスイッチ84の位置等も特に限定されない。
【0055】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明が適用された車両用自動変速機の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用自動変速機の複数のギヤ段を成立させる際の摩擦係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表である。
【図3】図1の自動変速機などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部およびエンジンから駆動輪までの動力伝達系の概略構成を説明するブロック線図である。
【図4】図3の油圧制御回路のうちクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の各油圧アクチュエータの作動を制御するリニアソレノイドバルブに関する回路図である。
【図5】図3の電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図6】自動変速機の変速制御において用いられる変速線図の一例を示す図である。
【図7】電子制御装置の制御作動の要部すなわちギヤ段ホールドモードで走行中に出力回転速度センサが故障或いは誤検出した際の変速制御を説明するフローチャートである。
【図8】電子制御装置の他の制御作動の要部、たとえば低車速走行中にギヤ段ホールドモードで高車速ギヤ段で走行中に、自動変速機内の作動油の油温が高温と判定された際の変速制御を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
10:車両用自動変速機 24:出力歯車(回転部材) 32:トルクコンバータ 33:ロックアップクラッチ 66:回転速度センサ B2:第2ブレーキ(エンジンブレーキ用係合要素) F1:一方向クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最低速ギヤ段の達成のためにエンジンブレーキ用係合要素または一方向クラッチが係合させられる車両用自動変速機において、運転者の操作によって変速段を指定するとともに強制的な前記最低速ギヤ段への変速の際には前記エンジンブレーキ用係合要素を係合させるギヤ段ホールドモードと、複数の変速段のうち変速される変速段の範囲を指定して自動変速させるレンジホールドモードとを備える車両用自動変速機の制御装置であって、
前記ギヤ段ホールドモードで運転中に、前記車両の動力伝達経路において変速判断に用いられる回転部材の回転速度を検出する回転速度センサが故障或いは誤検出した際には、前記レンジホールドモードに切り換える走行モード切換手段を備えることを特徴とする車両用自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記変速判断に用いられる回転部材は、前記車両用自動変速機の出力軸であり、前記回転速度センサはその出力軸の回転速度を検出することを特徴とする請求項1の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記走行モード切換手段は、前記ギヤ段ホールドモードで運転中に、前記車両用自動変速機内の作動油の油温が所定値以上の際には、前記レンジホールドモードに切り換えることを特徴とする請求項1の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記走行モード切換手段は、前記ギヤ段ホールドモードからレンジホールドモードへの切換を、トルクコンバータに備えられているロックアップクラッチのロックアップ制御が非作動時に実行することを特徴とする請求項3の車両用自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−151190(P2008−151190A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337562(P2006−337562)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】