説明

ころ軸受

【課題】冬期低温時や長時間停止後の始動時等の希少潤滑条件下においても、潤滑不良を起こすことなく駆動することができるころ軸受を提供する。
【解決手段】内輪20のぬすみ溝28に複数の凹部28aを設ける。この凹部28aで潤滑油を捕捉することにより、ぬすみ溝28に潤滑油を確実に保持することができるため、この潤滑油を軸受内に供給することで潤滑性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒ころ軸受や円すいころ軸受等のころ軸受に関し、特に鉄道車両の駆動装置に用いられるころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鉄道車両の駆動装置では、歯車の回転により潤滑油を跳ね上げることで軸受の潤滑を行うことが多い。しかし、冬期の低温時や長時間停車した後は、軸受の摺動部、例えば内輪のつば面と転動体との摺動部に油がなかなか供給されず、潤滑不良が生じる恐れがあった。
【0003】
この対策として、例えば特許文献1に示されている円すいころ軸受では、内輪の軌道面とつば面との境界部に扁平状のぬすみ溝を設け、このぬすみ溝に潤滑油を保持し、ぬすみ溝に保持した潤滑油を前記摺動部に供給することにより、軸受の潤滑性を高めている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−300176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようにぬすみ溝を扁平状に設けても、ぬすみ溝に潤滑油を保持しておくことができない場合があり、潤滑不良が生じる恐れを拭いきれない。
【0006】
本発明の課題は、冬期低温時や長時間停止後の始動時等の希少潤滑条件下においても、潤滑不良を起こすことなく駆動することができるころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、内周面に軌道面を有する外輪と、外周面に軌道面を有し、軌道面の軸方向両側につば面を形成した内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に転動自在に配された複数の転動体とを備え、内輪の軌道面とつば面との境界部にぬすみ溝を設けたころ軸受において、ぬすみ溝の内面に、複数の凹部を形成したことを特徴とする。
【0008】
このように、ぬすみ溝に複数の凹部を設けることにより、この凹部で潤滑油を捕捉することができるため、ぬすみ溝に潤滑油を確実に保持することができる。希少潤滑条件下における軸受運転時には、このぬすみ溝に保持された潤滑油が軌道輪と転動体との摺動部(例えばつば面と転動体の端面との接触部)に供給され、潤滑不良を予防することができる。また、ぬすみ溝に凹部を設けることで、ぬすみ溝で保持することのできる油量を増すことができるため、摺動部により多くの油が供給され、潤滑性を高めることができる。
【0009】
また、前記課題は、ぬすみ溝を開口側へ向けて先すぼまり形状とすることによっても解決することができる。すなわち、ぬすみ溝の先すぼまり部分で潤滑油を捕捉することができるため、ぬすみ溝から潤滑油が流れ落ちにくくなり、より確実に潤滑油をぬすみ溝内に保持することができるため、上記と同様の効果を得ることができる。また、先すぼまり形状とすることにより、ぬすみ溝の開口部の大きさを維持したまま、ぬすみ溝の内部の容積を増すことができるため、保持できる油量が増し、さらに潤滑性を高めることができる。
【0010】
転動体として円すいころを使用した円すいころ軸受では、円すいころの大径端面と、これと対向する内輪の大つば面との間に大きな負荷が加わるため、この部分の潤滑を高めることが重要となる。従って、円すいころ軸受の場合は、少なくとも内輪の軌道面の大径側に設けられたぬすみ溝に前記複数の凹部を形成したり、このぬすみ溝を先すぼまり形状として、円すいころと内輪の大つば面との接触部の潤滑性を高めることが望ましい。
【0011】
上記のようなころ軸受を鉄道車両の駆動装置に使用すれば、冬期低温時や長時間停止後の始動時等であっても、潤滑不良を起こすことなく駆動装置を運転することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によると、冬期低温時や長時間停止後の始動時等の希少潤滑条件下においても、潤滑不良を起こすことなく駆動することができるころ軸受を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1に示す本発明の実施形態に係るころ軸受1(円すいころ軸受)は、例えば鉄道車両の駆動装置用として使用され、外輪10と、内輪20と、複数の円すいころ30と、保持器40とを主要な構成要素としている。
【0015】
外輪10の内周面には円すい状の軌道面12が形成され、内輪20の外周面には円すい状の軌道面22が形成される。外輪10の軌道面12と内輪20の軌道面22との間には、転動体として複数の円すいころ30が転動自在に配列される。複数の円すいころ30は保持器40によって所定の円周方向間隔に保持される。
【0016】
内輪20の軌道面22の大径側には大つば面24が形成され、小径側には小つば面26が形成される。軌道面22と、大つば面24及び小つば面26との境界部には、それぞれぬすみ溝28、29が形成される。大つば面24側のぬすみ溝28の内面の最奥部には、円周方向等間隔に複数の凹部28aが形成される。この凹部28aで潤滑油を捕捉することにより、ぬすみ溝28に潤滑油を保持しておくことができ、この潤滑油を軸受内の摺動部に供給することで潤滑性を高めることができる。特に、本実施形態のような円すいころ軸受の場合、円すいころ30の大径端面32と大つば面24との間には大きな負荷が加わるため、この部分に近接した大径側のぬすみ溝28に凹部28aを設けて潤滑油を保持しておくことにより、より効果的に潤滑性を高めることができる。
【0017】
上記の実施形態では、ぬすみ溝28の内面に設けた凹部28aが、円周方向等間隔の複数箇所に設けられているが、これに限らず、例えばぬすみ溝28の内面にディンプル状やローレット状に形成してもよい。また、小径側のぬすみ溝29にも同様の凹部を形成すれば、さらに潤滑性を高めることができる。
【0018】
また、上記実施形態では、ぬすみ溝28に凹部28aを設けることにより、ぬすみ溝28内における潤滑油の保持性を高めているが、本発明はこれに限られない。例えば、図2に示す例では、ぬすみ溝28を開口側へ向けて先すぼまりの形状としている。具体的には、ぬすみ溝28の開口部(溝幅W1)から奥部へ向けて徐々に溝幅を広げ、溝幅が最大となる部分(溝幅W2)を越えると、徐々に溝幅を狭めて最奥部まで達している。これにより、ぬすみ溝28内の潤滑油を、ぬすみ溝28の先すぼまりの部分で捕捉することができるため、潤滑油をぬすみ溝28内に確実に保持することができる。また、開口部の溝幅W1を変えることなくぬすみ溝28の内部の容積を拡大することができるため、他の部分の設計に影響を与えることなく、ぬすみ溝28の潤滑油の保持量を増すことができる。尚、図2に示すような先すぼまり形状のぬすみ溝28は、一回の加工で形成することは難しい場合があるが、このときはさらに追加工することで形成することができる。
【0019】
また、図3に示す例のように、先すぼまり形状のぬすみ溝28の内面に、複数の凹部28aを形成すれば、先すぼまり形状による効果と凹部による効果の双方を得ることができ、軸受の潤滑性をより一層高めることができる。
【0020】
また、本発明は円すいころ軸受に限らず、円筒ころ軸受等の他のころ軸受に適用することができる。また、本発明のころ軸受は、鉄道車両の駆動装置用に限らず、自動車や産業機械等、他の用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明にかかるころ軸受の断面図である。
【図2】他の例のころ軸受の断面図である。
【図3】他の例のころ軸受の断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 ころ軸受
10 外輪
12 軌道面
20 内輪
22 軌道面
24 大つば面
26 小つば面
28、29 ぬすみ溝
28a 凹部
30 円すいころ
40 保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に軌道面を有する外輪と、外周面に軌道面を有する内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に転動自在に配された複数の転動体とを備え、少なくとも一方の軌道面の端部につば面を形成すると共に、軌道面とつば面との境界部にぬすみ溝を設けたころ軸受において、
ぬすみ溝の内面に、複数の凹部を形成したことを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
内周面に軌道面を有する外輪と、外周面に軌道面を有する内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に転動自在に配された複数の転動体とを備え、少なくとも一方の軌道面の端部につば面を形成すると共に、軌道面とつば面との境界部にぬすみ溝を設けたころ軸受において、
ぬすみ溝を、開口側へ向けて先すぼまり形状としたことを特徴とするころ軸受。
【請求項3】
転動体として円すいころを使用し、内輪の軌道面の大径側に設けられたぬすみ溝に前記複数の凹部を形成した請求項1記載のころ軸受。
【請求項4】
転動体として円すいころを使用し、内輪の軌道面の大径側に設けられたぬすみ溝を、開口側へ向けて先すぼまり形状とした請求項2記載のころ軸受。
【請求項5】
鉄道車両の駆動装置用として用いられる請求項1又は2記載のころ軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−185938(P2009−185938A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27723(P2008−27723)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】