説明

すべり軸受およびそれを備える内燃機関の制御装置

【課題】この発明は、すべり軸受およびそれを備える内燃機関の制御装置に関し、外部からの電力供給を必要とせずに、摺動面を加熱してフリクションを低減可能とすることを第1の目的とし、また、すべり軸受の性能を損なうような不具合の発生を予測して、当該不具合を速やかに回避可能とすることを第2の目的とする。
【解決手段】クランクジャーナル部10aやクランクピン部10bを回転自在に支持するすべり軸受16であって、すべり軸受16の内部に配置された圧電素子20および熱電素子22と、圧電素子20と熱電素子22とを電気的に接続する電子回路24とを備える。また、圧電素子20が発生させる電圧が所定値β以上である場合に、内燃機関60の負荷が低減されるように内燃機関60を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、すべり軸受およびそれを備える内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、内燃機関のクランクピンの軸受の近傍に圧電素子を含むセンサを備え、軸受温度の監視を行う軸受温度監視装置が開示されている。この従来の軸受温度監視装置では、軸受の温度が軸受性能を損なう温度に達した際に警報を発するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平5−42568号公報
【特許文献2】特開2010−127375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の低温始動時などには、潤滑油の温度が低いため、潤滑油の粘度が非常に高くなる。その結果、潤滑油のせん断抵抗が大きくなり、内燃機関が備えるすべり軸受の摺動面のフリクションが大きくなる。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、外部からの電力供給を必要とせずに、摺動面を加熱してフリクションを低減可能とするすべり軸受を提供することを第1の目的とする。
【0006】
また、上記特許文献1に記載の技術は、軸受の温度を監視するシステムにはなっているが、軸受の温度に異常が認められた場合に警報を発することによって軸受の損傷を防止するというものである。内燃機関(特に自動車用)では、高いエンジン回転数が使用されるため、回転体の軸部とすべり軸受との間に固体接触が発生すると、大きな摺動熱が瞬間的に発生する。このため、人が警報を認知してから対応を図るということでは、すべり軸受の性能および内燃機関自体を損なう不具合(焼付きや異常摩耗等)を回避(防止)するための対策として十分とはいえない場合がある。
【0007】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、すべり軸受の性能を損なうような不具合の発生を予測して、当該不具合を速やかに回避可能とするすべり軸受を備える内燃機関の制御装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、すべり軸受であって、
回転体の軸部を回転自在に支持するすべり軸受であって、
前記すべり軸受の内部、または前記すべり軸受を取り付けるハウジングと当該すべり軸受との間に配置され、作用する圧力に応じた電圧を生じさせる圧電素子と、
前記すべり軸受の内部、または前記ハウジングと当該すべり軸受との間に配置され、電気エネルギーを熱エネルギーに変換する熱電素子と、
前記圧電素子と前記熱電素子とを電気的に接続する電子回路と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記すべり軸受を潤滑する潤滑油の温度が所定値にまで上昇した場合に、前記圧電素子と前記熱電素子との電気的な接続を切断する高温時導通切断手段を更に備えることを特徴とする。
【0010】
また、第3の発明は、第2の発明において、
前記高温時導通切断手段は、前記潤滑油の温度が前記所定値にまで上昇した場合に、前記圧電素子と前記熱電素子との電気的な接続が切断されるように動作するサーモスタットであることを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、すべり軸受を備える内燃機関の制御装置であって、
内燃機関の回転体の軸部を回転自在に支持するすべり軸受を備える内燃機関の制御装置であって、
前記すべり軸受は、前記すべり軸受の内部、または前記すべり軸受を取り付けるハウジングと当該すべり軸受との間に配置され、作用する圧力に応じた電圧を生じさせる圧電素子を含み、
前記内燃機関の制御装置は、
前記圧電素子が発生させる電圧を検知する電圧検知手段と、
前記電圧検知手段により検知される電圧が所定値以上である場合に、前記内燃機関の負荷が低減されるように前記内燃機関を制御する負荷制御手段と、
を更に備えることを特徴とする。
【0012】
また、第5の発明は、第4の発明において、
前記負荷制御手段による制御が行われた後に、前記電圧検知手段により検知される電圧が未だ前記所定値以上である場合に、エンジン回転数が低減されるように前記内燃機関を制御する回転数制御手段を更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、すべり軸受に圧力が加わった場合に、圧電素子が電圧を発生する。そして、圧電素子が発生させた電圧が電子回路を介して熱電素子に供給されることにより、熱電素子が発熱する。その結果、熱電素子によってすべり軸受の摺動面が加熱され、潤滑油が加熱されるようになる。これにより、潤滑油の粘度が低下する。このため、本発明によれば、外部からの電力供給を必要とせずに、すべり軸受の摺動面を加熱してフリクションを低減させることができる。
【0014】
第2の発明によれば、低温時には、圧電素子と熱電素子とを利用した発熱によって、すべり軸受のフリクション低減を図りつつ、高温時には、すべり軸受に焼付きや異常摩耗といった不具合が発生するのを防止することができる。
【0015】
第3の発明によれば、高温時導通切断手段としてサーモスタットを用いたことにより、すべり軸受の周辺に備える構成のみを利用して、低温時にはすべり軸受のフリクション低減を図りつつ、高温時に上記不具合が発生するのを防止することが可能となる。
【0016】
第4の発明によれば、すべり軸受に対して備えられた圧電素子を利用して、異物の噛み込みや油膜温度の過度な温度上昇に起因する焼付きや異常摩耗といった、すべり軸受の性能を損なうような不具合の発生を予測することができる。そして、そのような不具合の発生が予測される場合に、内燃機関の負荷を低減させることにより、すべり軸受に加わる負荷を抑えることができる。これにより、上記不具合を速やかに回避(防止)することが可能となる。
【0017】
第5の発明によれば、上記負荷制御手段による制御のみでは対策として不十分な場合に、エンジン回転数を低減させることにより、より積極的に、油膜温度の低下による油膜厚さの増加(回復)や単位時間当たりの固定接触部の摩耗量の減少を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1のすべり軸受が適用される内燃機関のクランクシャフト周りの構成を表した図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるすべり軸受の特徴的な構成を説明するための図である。
【図3】潤滑油の動粘度と温度との関係を表した図である。
【図4】本発明の実施の形態1におけるすべり軸受の構成による効果を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態1の第1変形例におけるすべり軸受の具体的な構成を説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態1の第2変形例におけるすべり軸受の具体的な構成を説明するための図である。
【図7】本発明の実施の形態2におけるすべり軸受の特徴的な構成を説明するための図である。
【図8】本発明の実施の形態2におけるすべり軸受の構成による効果を説明するためのフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態3のすべり軸受が適用される内燃機関のシステム構成を説明するための図である。
【図10】本発明の実施の形態3におけるすべり軸受の特徴的な構成を説明するための図である。
【図11】本発明の実施の形態3において実行される制御ルーチンのフローチャートである。
【図12】本発明の実施の形態3におけるすべり軸受の構成およびこれを用いた異常時の制御(Eng負荷制御やEng回転数制御)による効果を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1のすべり軸受が適用される内燃機関のクランクシャフト10周りの構成を表した図である。
図1に示すように、クランクシャフト10は、クランクジャーナル部(クランク主軸部)10aと、クランクシャフト10とピストン12とを連結するコンロッド14が取り付けられるクランクピン部10bと、クランクジャーナル部10aとクランクピン部10bとを繋ぐクランクアーム部10cとを備えている。
【0020】
クランクジャーナル部10aは、エンジンブロック(図示省略)とクランクキャップ(図示省略)とに挟まれた状態で支持されている。また、クランクピン部10bは、コンロッド14のロッド部14aとキャップ部14bとに挟まれた状態で支持されている。
【0021】
本実施形態のすべり軸受16(図2参照)は、U字型に形成されており、クランクジャーナル部10aとエンジンブロックとの間、クランクジャーナル部10aと上記クランクキャップとの間、クランクピン部10bとロッド部14aとの間、および、クランクピン部10bとキャップ部14bとの間に、それぞれ介在するように配置される部品である。このような構成により、各クランクジャーナル部10aおよび各クランクピン部10bは、一対のすべり軸受16によって、それぞれ回転自在に支持されている。
【0022】
図2は、本発明の実施の形態1におけるすべり軸受16の特徴的な構成を説明するための図である。より具体的には、図2(A)は、すべり軸受16を、当該すべり軸受16が支持する回転体の軸部(本実施形態では、クランクジャーナル部10aおよびクランクピン部10bが相当)の軸方向から見た図であり、図2(B)は、すべり軸受16を、図2(A)中のB−B線で切断した断面図であり、図2(C)は、図2(A)中の矢印Aの方向からすべり軸受16を見た図である。尚、図2(C)においては、オーバレイ層16cの図示が省略されている。
【0023】
図2に示すように、すべり軸受16は、ハウジング(本実施形態では、上述したエンジンブロック、クランクキャップ、ロッド部14aおよびキャップ部14bが相当)18に取り付けられている。図2(B)に示すように、すべり軸受16は、ハウジング18側から順に、圧延鋼板からなる裏金16a、銅合金もしくはアルミニウム合金からなるライニング層(軸受合金層)16b、および、軟質金属や固体潤滑剤からなるオーバレイ層(めっき層)16cが積層された構造を有している。
【0024】
すべり軸受16の内部には、作用する圧力に応じた電圧を生じさせる圧電素子20と、と、電気エネルギーを熱エネルギーに変換する熱電素子(例えば、ペルチェ素子)22と、圧電素子20と熱電素子22とを電気的に接続する電子回路24とが配置されている。熱電素子22は、圧電素子20の両端にそれぞれ配置されている。このような構成によって、熱電素子22は、圧電素子20が発生する電圧を利用して熱を発生するように構成されている。また、熱電素子22は、発熱側の面がオーバレイ層16c側(すなわち、すべり軸受16の摺動面側)を向くように配置されている。
【0025】
また、図2(A)に示すように、薄板状に形成された圧電素子20および熱電素子22は、U字型に形成されたすべり軸受16の形状に沿って延びるようにして配置されている。より具体的には、上記の圧電素子20、熱電素子22および電子回路24は、オーバレイ層16c側においてライニング層16bに埋め込まれており、オーバレイ層16cは、これらの圧電素子20等がライニング層16bに埋め込まれた状態ですべり軸受16の最表面に設けられている。
【0026】
また、内燃機関の運転中にクランクシャフト10が回転する際、クランクジャーナル部10aおよびクランクピン部10bには、各気筒における爆発力や遠心力が作用し、これらの力を各部に配置されたすべり軸受16が受け止めることになる。そこで、すべり軸受16における圧電素子20の配置部位は、上記の力(特に爆発力)の影響で高い油膜圧力が作用する部位とすることが好ましい。例えば、図1に示す直列4気筒用のクランクシャフト10の場合には、クランクキャップやコンロッド14のロッド部14aに取り付けられるすべり軸受16を、図2(A)に示すように、すべり軸受16の周方向の中央部位近辺に配置するのが良い。これにより、圧電素子20が油膜圧力を高い感度で検知できるようになる。
一方、熱電素子22については、そのような高い油膜圧力が作用する部位を避け、油膜圧力の低い部位に配置するのが良い。例えば、図1に示す直列4気筒用のクランクシャフト10の場合には、クランクキャップやコンロッド14のロッド部14aに取り付けられるすべり軸受16を、図2(A)に示すように、すべり軸受16の周方向の中央部位近辺から離れた部位に配置するのが良い。これにより、油膜圧力が高くなる部位は、もともと発熱が生じ易いので、そのような部位において熱電素子22によって過度な発熱が生ずるのを避けることができる。
【0027】
図3は、潤滑油の動粘度と温度との関係を表した図である。
クランクシャフト10に使用されるすべり軸受16とクランクジャーナル部10aとの間、および、すべり軸受16とクランクピン部10bとの間には、潤滑油が供給されている。そして、クランクジャーナル部10aおよびクランクピン部10bが回転すると、クランクジャーナル部10aおよびクランクピン部10bと、対応するすべり軸受16との間には、流体潤滑膜が形成される。すべり軸受16は、そのような流体潤滑膜内に発生する油膜圧力によりクランクジャーナル部10aおよびクランクピン部10bを支持する部品である。
【0028】
図3に示すように、潤滑油の動粘度は、低温域において潤滑油温度が低くなるにつれ、急激に大きくなる特性を有している。このため、極低温時(−30℃程度を想定)や低温始動時などのように、定常運転時よりも低い温度域での内燃機関の運転時には、潤滑油のせん断抵抗が大きくなるので、内燃機関のフリクションが大きくなり、その中でも、すべり軸受16の摺動面におけるフリクションが大きく増加することになる。
【0029】
図4は、本発明の実施の形態1におけるすべり軸受16の構成による効果を説明するためのフローチャートである。
以上説明したように、本実施形態のすべり軸受16は、摺動面の近傍に圧電素子20と、当該圧電素子20と電気的に接続された熱電素子22とを備えている。このような構成によれば、図4に示すように、内燃機関(エンジン)の運転が開始し、すべり軸受16に油膜を介して圧力が加わった場合に、圧電素子20が電圧を発生する。そして、圧電素子20が発生させた電圧が電子回路24を介して熱電素子22に供給されることにより、熱電素子22が発熱する。その結果、熱電素子22によってすべり軸受16の摺動面が加熱され、潤滑油が加熱されるようになる。これにより、潤滑油の粘度が低下する。図3を参照して上述したように、低温時における潤滑油の動粘度は、潤滑油温度の変化に応じて大きく変化する。このため、少しの温度変化によってもフリクションの低減効果を見込めるので、本実施形態のすべり軸受16によれば、低温時において、すべり軸受16の摺動面のフリクションを良好に低減することが可能となる。また、そのようなフリクションの低減を、外部からの電力供給を必要とせずに行えるようになる。
【0030】
また、図2に示すように、本実施形態の圧電素子20および熱電素子22は、オーバレイ層16cの下(オーバレイ層16cとライニング層16bとの間)に配置されている。このような構成によれば、すべり軸受16の摺動面に非常に近い場所に圧電素子20および熱電素子22が存在することになる。このため、油膜圧力を感度良く検知することができる。また、クランクジャーナル部10aやクランクピン部10bとすべり軸受16との間に存在する潤滑油との距離が近いため、熱電素子22が発生した熱を効率良く潤滑油に伝えることができる。
【0031】
ところで、上述した実施の形態1においては、オーバレイ層16cの下(オーバレイ層16cとライニング層16bとの界面)に、圧電素子20および熱電素子22を配置した例について説明を行った。しかしながら、本発明における圧電素子および熱電素子の具体的な配置部位は、上記のものに限定されるものではなく、例えば、以下の図5または図6を参照して説明するものであってもよい。
【0032】
図5は、本発明の実施の形態1の第1変形例におけるすべり軸受30の具体的な構成を説明するための図である。尚、図5において、上記図2に示す構成要素と同一の要素については、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
図5に示すすべり軸受30では、圧電素子20および熱電素子22は、すべり軸受30(の裏金16a)とハウジング18との間(界面)に取り付けられている。
【0033】
上記図5に示す構成によれば、上記図2に示す構成のようにすべり軸受16の内部に備える場合と比べ、すべり軸受30に対する圧電素子20および熱電素子22の取り付けが容易となる。また、上記図2に示す構成と比べると、油膜圧力検知の感度および熱電素子22の熱の伝達性は低くなるが、これらの素子20、22をより良く保護できるようになり、耐久性を向上させることができる。
【0034】
図6は、本発明の実施の形態1の第2変形例におけるすべり軸受40の具体的な構成を説明するための図である。尚、図6において、上記図2に示す構成要素と同一の要素については、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
図6に示すすべり軸受40では、圧電素子20は、すべり軸受30(の裏金16a)とハウジング18との間(界面)に取り付けられており、熱電素子22は、オーバレイ層16cの下(オーバレイ層16cとライニング層16bとの界面)に取り付けられている。
【0035】
上記図6に示す構成によれば、圧電素子20の十分な保護を図りつつ、熱電素子22の熱を効率良く潤滑油に伝えられる構成を得ることができる。
【0036】
実施の形態2.
次に、図7および図8を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。
図7は、本発明の実施の形態2におけるすべり軸受50の特徴的な構成を説明するための図である。尚、図7は、図2(C)と同様の方向からすべり軸受50を見た図である。また、すべり軸受50は、図7を参照して説明する点を除き、基本的には図2に示すすべり軸受16と同様に構成されているものとする。
【0037】
上述した実施の形態1におけるすべり軸受16によれば、潤滑油温度が低い状況下では、圧電素子20と熱電素子22とを用いてすべり軸受16の摺動面を加熱することにより、フリクションの低減を図ることができる。しかしながら、すべり軸受16によれば、潤滑油温度が良好な温度に達している内燃機関の定常運転時においても、上記摺動面が加熱されることになる。その結果、潤滑油の粘度が過度に下がり、すべり軸受16に焼付きや異常摩耗といった不具合が発生することが懸念される。
【0038】
そこで、本実施形態のすべり軸受50は、すべり軸受16と同様に、圧電素子20および熱電素子22を備えたうえで、圧電素子20と熱電素子22とを電気的に接続する電子回路52の途中に、サーモスタット(例えば、バイメタル)54を備えるようにした。このサーモスタット54は、すべり軸受50の周辺の潤滑油温度が所定値α(定常運転時の温度)にまで上昇した際に動作し、圧電素子20と熱電素子22との電気的な接続が切断されるように構成されている。
【0039】
図8は、本発明の実施の形態2におけるすべり軸受50の構成による効果を説明するためのフローチャートである。
潤滑油温度が上記所定値αよりも低い低温時の動作は、上記図4を参照して実施の形態1において既述した通りである。一方、潤滑油温度が上記所定値α以上となる定常運転時には、サーモスタット54が上記のように動作することで、圧電素子20から熱電素子22への電圧の供給が遮断されるようになる。その結果、この場合には、熱電素子22が発熱することが無くなるので、すべり軸受50の摺動面の油膜温度が過度に上昇することが防止される。これにより、低温時には、圧電素子20と熱電素子22とを利用した発熱によって、すべり軸受50のフリクション低減を図りつつ、定常運転時に、すべり軸受50に焼付きや異常摩耗といった不具合が発生するのを防止することができる。
【0040】
また、高温時に電子回路24を切断するための要素としてサーモスタット54を用いたことにより、すべり軸受50の周辺に備える構成のみを利用して、低温時にはすべり軸受50のフリクション低減を図りつつ、定常運転時に上記不具合が発生するのを防止することが可能となる。
【0041】
ところで、上述した実施の形態2においては、電子回路52の途中にサーモスタット54を利用したスイッチを組み込むことにより、潤滑油温度が所定値αにまで上昇した場合に、圧電素子20と熱電素子22との電気的な接続を切断するようにしている。しかしながら、本発明における高温時導通切断手段は、上記のような構成に限定されるものではない。すなわち、高温時導通切断手段は、例えば、内燃機関が備える油温センサにより検出される潤滑油温度が所定値(例えば、上記所定値α)にまで上昇した場合に、内燃機関を制御するECU(Electronic Control Unit)からの有線もしくは無線による指令に基づいて圧電素子と熱電素子との電気的な接続を切断するように動作するスイッチを、電子回路中に備えることにより実現される構成であってもよい。
【0042】
実施の形態3.
次に、図9乃至図12を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。
図9は、本発明の実施の形態3のすべり軸受が適用される内燃機関60のシステム構成を説明するための図である。
内燃機関60の筒内には、ピストン62が設けられている。ピストン62は、コンロッド64を介してクランクシャフト66のクランクピン部66bと連結されている。また、内燃機関60の燃焼室68には、吸気通路70および排気通路72が連通している。
【0043】
吸気通路70の入口近傍には、吸気通路70に吸入される空気の流量に応じた信号を出力するエアフローメータ74が設けられている。エアフローメータ74の下流には、スロットルバルブ76が設けられている。また、スロットルバルブ76の下流には、内燃機関60の吸気ポートに燃料を噴射するための燃料噴射弁78が配置されている。また、内燃機関60が備えるシリンダヘッドには、燃焼室68の頂部から燃焼室68内に突出するように点火プラグ80が取り付けられている。
【0044】
クランクシャフト66の近傍には、エンジン回転数を検出するためのクランク角センサ82が配置されている。また、図9に示すシステムは、ECU84を備えている。ECU84の入力部には、上述したエアフローメータ74およびクランク角センサ82等の内燃機関60の運転状態を検出するための各種センサが電気的に接続されている。また、ECU84の出力部には、上述したスロットルバルブ76、燃料噴射弁78および点火プラグ80等の内燃機関60を制御するための各種のアクチュエータが電気的に接続されている。ECU84は、それらのセンサ出力に基づいて、内燃機関60の運転状態を制御する。
【0045】
図10は、本発明の実施の形態3におけるすべり軸受86の特徴的な構成を説明するための図である。尚、図10は、図2(C)と同様の方向からすべり軸受86を見た図である。また、すべり軸受86は、図10を参照して説明する点を除き、基本的には図7に示すすべり軸受50と同様に構成されているものとし、また、図10においては、サーモスタット54の図示を省略している。
【0046】
より具体的には、図10は、クランクジャーナル部66aのためのすべり軸受86、すなわち、内燃機関60の運転中に静止状態にあるハウジング(エンジンブロックやクランクキャップ)に取り付けられるすべり軸受86を対象とした構成を示している。すなわち、図10に示すすべり軸受86に設けられた圧電素子20および熱電素子22は、電気配線88を介してECU84に電気的に接続されており、これにより、ECU84は、作用する圧力に応じて圧電素子20が発生する電圧を検知できるようになっている。尚、クランクジャーナル部66aのためのすべり軸受86、すなわち、内燃機関60の運転中に稼動状態にあるハウジング(コンロッド64のロッド部やキャップ部)に取り付けられるすべり軸受86の場合には、無線通信(例えば、電波)を利用して、圧電素子20が発生する電圧をECU84が検知できるように構成することができる。
【0047】
回転体の軸部を回転自在に支持するためにすべり軸受が用いられている場合、当該軸部とすべり軸受との間に異物が噛み込むことが原因で焼付きが生じたり、油膜温度の過度の上昇による焼付きや異常摩耗が生じたりするといった不具合が起こり得る。
より具体的には、異物の噛み込みが原因の不具合は、以下のようにして生じ得る。すなわち、異物が軸部とすべり軸受との間に入り込み、軸部の回転に巻き込まれるようにして異物がすべり軸受に傷を発生させる。その結果、すべり軸受に発生した傷の周囲が塑性変形によって盛り上がるようになり、この盛り上がり部分が軸部と固体接触し、異常過熱を引き起こす場合がある。このようにして、異物の噛み込みが焼付きの原因となる。
また、油膜温度の過度な上昇による不具合は、以下のようにして生じ得る。すなわち、油膜温度が上昇したことで油膜厚さが減少し、軸部とすべり軸受との間に固体接触が発生し、異常加熱を引き起こす。その結果、焼付きや異常摩耗が発生することがある。
更に、同様の不具合は、過大な筒内圧の発生、軸部や軸受の軸受周りの変形、および、軸部のミスアライメントという状況でも発生する。
【0048】
以上説明したような焼付きや異常摩耗といった不具合は、固体接触がトリガーとなって引き起こされることが多い。そして、固体接触時には、通常の油膜圧力よりも高くかつ異常な圧力がすべり軸受に作用することになる。このため、本実施形態のすべり軸受86のように圧電素子20を備えている場合には、圧電素子20は固体接触時に通常よりも高い電圧を発生させることになる。
【0049】
そこで、本実施形態では、内燃機関60の運転中に、上述した構成を利用して圧電素子20の電圧値をECU84に取り込むようにした。そして、ECU84によって検知された圧電素子20の電圧が所定値β以上である場合には、すべり軸受86に上記不具合が生じ得る異常な状況にあると判断(予測)し、内燃機関60の負荷(筒内圧)が低減されるように内燃機関60を制御するようにした(Eng負荷制御)。具体的には、例えば、燃料噴射量を減らしたり、スロットル開度を絞ることによって吸入空気量を減らしたりするようにした。
【0050】
更に、本実施形態では、異常時に内燃機関60の負荷を低減するための上記制御が行われた後においても、圧電素子20の電圧が未だ上記所定値β以上であると認められる場合には、エンジン回転数が低減されるように内燃機関60を制御するようにした(Eng回転数制御)。具体的には、当該Eng回転数制御としては、例えば、各気筒への燃料供給のカット、ECU84からの指令に基づいて車両のブレーキを制御可能な構成の場合には車両のブレーキを掛ける処理、または、内燃機関60に組み合されるトランスミッションのギア比を高いギア比に変更する処理が該当する。
【0051】
図11は、上記の機能を実現するために、本実施の形態3においてECU84が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。
図11に示すルーチンでは、先ず、圧電素子20の電圧が検知される(ステップ100)。次いで、上記ステップ100において検知された圧電素子20の電圧が上記所定値β以上であるか否かが判定される(ステップ102)。本ステップ102における所定値βは、すべり軸受86が正常に機能している場合の定常運転時には発生しない過大な電圧が生じている状況を判断するための値として予め設定された閾値である。
【0052】
上記ステップ102において圧電素子20の電圧が上記所定値β以上であると判定された場合には、上記Eng負荷制御、より具体的には、燃料噴射量を減らす制御もしくはスロットル開度を絞ることによる吸入空気量の減らす制御が実行される(ステップ104)。
【0053】
次に、上記ステップ104における上記Eng負荷制御が行われてから所定時間が経過した後に、圧電素子20の電圧が未だ上記所定値β以上であるか否かが判定される(ステップ106)。その結果、本ステップ106における判定が成立する場合、すなわち、上記Eng負荷制御の実行によっても過大な電圧が収まらないと判断できる場合には、上記Eng回転数制御、より具体的には、例えば、フューエルカット、車両のブレーキを掛ける処理、または、内燃機関60に組み合されるトランスミッションのギア比を高いギア比に変更する処理が実行される(ステップ108)。
【0054】
図12は、本発明の実施の形態3におけるすべり軸受86の構成およびこれを用いた異常時の制御(上記Eng負荷制御やEng回転数制御)による効果を説明するためのフローチャートである。
圧電素子20の電圧が上記所定値βよりも低い正常運転時の動作は、上記図8を参照して実施の形態2において既述した通りである。一方、圧電素子20の電圧が上記所定値β以上となる異常時には、図12に示すように、異物噛み込みによるすべり軸受86の表面への傷の発生に起因して、または、油膜温度の過度な温度上昇に伴う油膜厚さの減少による固体接触の発生に起因して、すべり軸受86の表面に異常な圧力が作用する。その結果、圧電素子20が過大な電圧を発生させることになる。
【0055】
本実施形態では、この場合には、上記図11に示すルーチンによる上記Eng負荷制御が実行される。これにより、すべり軸受86に加わる負荷を抑えることができるので、固定接触時の発生熱量を抑えることができる。このため、油膜温度の低下による油膜厚さの増加(回復)および固定接触部の穏やかな摩耗を促すことができる。更に、上記Eng負荷制御のみでは対策として不十分な場合には、上記Eng回転数制御が実行される。これにより、より積極的に、油膜温度の低下による油膜厚さの増加(回復)および単位時間当たりの固定接触部の摩耗量の減少を図ることができる。また、異常時に上記Eng負荷制御や上記Eng回転数制御が行われた場合には、図12に示すように、圧電素子20の電圧が正常値に向けて減少するようになる。
【0056】
以上説明したように、本実施形態のすべり軸受86およびそれを用いた上記Eng負荷制御およびEng回転数制御によれば、異物の噛み込みや油膜温度の過度な温度上昇に起因する焼付きや異常摩耗といった、すべり軸受86の性能を損なうような不具合の発生を予測したうえで、当該不具合を速やかに回避(防止)することが可能となる。
【0057】
ところで、上述した実施の形態3においては、圧電素子20とともに熱電素子22を備えることにより低温時において潤滑油の加熱が可能なすべり軸受86に対して、圧電素子20の電圧を利用したすべり軸受86の異常検出を行う点について説明を行った。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、圧電素子の電圧を利用したすべり軸受の異常検出を行ううえでは、すべり軸受86のように熱電素子22をも備えたものではなくてもよく、ECUによって圧電素子の電圧を検知可能に構成されたすべり軸受であればよい。
【0058】
尚、上述した実施の形態3においては、ECU84が、上記ステップ100の処理を実行することにより前記第4の発明における「電圧検知手段」が、上記ステップ102および104の処理を実行することにより前記第4の発明における「負荷制御手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態3においては、ECU84が上記ステップ106および108の処理を実行することにより前記第5の発明における「回転数制御手段」が実現されている。
【符号の説明】
【0059】
10、66 クランクシャフト
10a クランクジャーナル部
10b クランクピン部
10c クランクアーム部
12、62 ピストン
14、64 コンロッド
14a コンロッドのロッド部
14b コンロッドのキャップ部
16、30、40、50、86 すべり軸受
16a 裏金
16b ライニング層
16c オーバレイ層
18 ハウジング
20 圧電素子
22 熱電素子
24、52 電子回路
54 サーモスタット
60 内燃機関
66a クランクジャーナル部
66b クランクピン部
70 吸気通路
76 スロットルバルブ
78 燃料噴射弁
84 ECU(Electronic Control Unit)
88 電気配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体の軸部を回転自在に支持するすべり軸受であって、
前記すべり軸受の内部、または前記すべり軸受を取り付けるハウジングと当該すべり軸受との間に配置され、作用する圧力に応じた電圧を生じさせる圧電素子と、
前記すべり軸受の内部、または前記ハウジングと当該すべり軸受との間に配置され、電気エネルギーを熱エネルギーに変換する熱電素子と、
前記圧電素子と前記熱電素子とを電気的に接続する電子回路と、
を備えることを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】
前記すべり軸受を潤滑する潤滑油の温度が所定値にまで上昇した場合に、前記圧電素子と前記熱電素子との電気的な接続を切断する高温時導通切断手段を更に備えることを特徴とする請求項1記載のすべり軸受。
【請求項3】
前記高温時導通切断手段は、前記潤滑油の温度が前記所定値にまで上昇した場合に、前記圧電素子と前記熱電素子との電気的な接続が切断されるように動作するサーモスタットであることを特徴とする請求項2記載のすべり軸受。
【請求項4】
内燃機関の回転体の軸部を回転自在に支持するすべり軸受を備える内燃機関の制御装置であって、
前記すべり軸受は、前記すべり軸受の内部、または前記すべり軸受を取り付けるハウジングと当該すべり軸受との間に配置され、作用する圧力に応じた電圧を生じさせる圧電素子を含み、
前記内燃機関の制御装置は、
前記圧電素子が発生させる電圧を検知する電圧検知手段と、
前記電圧検知手段により検知される電圧が所定値以上である場合に、前記内燃機関の負荷が低減されるように前記内燃機関を制御する負荷制御手段と、
を更に備えることを特徴とするすべり軸受を備える内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記負荷制御手段による制御が行われた後に、前記電圧検知手段により検知される電圧が未だ前記所定値以上である場合に、エンジン回転数が低減されるように前記内燃機関を制御する回転数制御手段を更に備えることを特徴とする請求項4記載のすべり軸受を備える内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−122393(P2012−122393A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273416(P2010−273416)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000207791)大豊工業株式会社 (152)
【Fターム(参考)】