説明

ろう付用活性バインダー、該バインダーを用いたろう付用部品及びろう付製品、並びに、銀ろう付材

本発明は、金属とセラミックスとをろう付する際に使用するろう付用活性バインダーを提供する。又、該バインダーが塗布されたろう付用セラミック部品、及び、ろう付されたろう付製品も提供される。金属−セラミックスろう付製品を製造する際に使用される箔状のろう付材も開示されている。 本発明の活性バインダー中には活性金属あるいはその化合物(好ましくは水素化チタン)の粉末が添加混合されており、本発明のろう付用部品では、セラミックスより成る部品の少なくともろう付部位に、活性金属あるいはその化合物の粉末がバインダーを介して固着されている。本発明のろう付製品を製造する際には、上記のろう付用部品のろう付部位と、金属部品のろう付部位とを重ね合せた後、炉中で加熱してろう粉末を溶融させてろう付する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属とセラミックスとをろう付する際に使用するろう付用の活性バインダーに関する。又、本発明は、上記活性バインダーを用いたろう付部品(ろう付セラミック部品)、並びに当該ろう付部品がろう付されたろう付製品(金属−セラミックスろう付製品)に関するものでもある。更に本発明は、半導体素子の放熱用ヒートシンク他の、金属とセラミックスとのろう付製品を製造する際に使用する銀ろう付材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりセラミックスと金属とをろう付する方法として、セラミックスのろう付面に通称メタライズと呼ばれる処理を施した後、銀ろう他のろう材を使用して金属とろう付する方法が知られているが、メタライズ処理は工数がかかること、コスト高になることから、最近は通称活性ろうと呼ばれるろう材を使用して半導体素子の放熱用ヒートシンク他、金属とセラミックスをろう付する方法が行われるようになってきた。
【0003】
活性銀ろうを使用してセラミックスと金属とをろう付する場合、一般には、銀粉末、銅粉末及び水素化チタンの粉末をバインダーとともに混練したペースト状活性銀ろう材を銅板あるいはセラミックス板の接合面に塗布した後、ろう付する相手材と合わせて炉中で加熱溶融してろう付する。この場合、活性銀ろうに含まれる1.5%〜2%のチタンがセラミックスのろう付部位を活性化することによりろう付が可能となる。
このようなチタンの活性化作用を利用して、活性銀ろうと同様にニッケルろうや銅ろうに水素化チタンを混練した活性ろうも開発されている。又、銀粉末及び銅粉末に替えて銀と銅の合金である銀ろう粉末を使用したペースト状活性銀ろう材や、水素化チタン粉末に替えて活性金属あるいはその化合物の粉末を使用したペースト状活性銀ろう材も開発されている。
【0004】
一方、半導体素子の放熱用ヒートシンクには、従来より銅板とセラミックス板とをダイレクトボンディングといわれる方法で接合したものが使用され、セラミックスとしては、窒化アルミニウムや窒化珪素の開発が進められている。
最近半導体素子の高出力化にともなって、銅板を厚くし放熱性を向上させたヒートシンクが望まれるようになってきたが、ダイレクトボンディング方法では銅板を厚くすることが困難であり、金属とセラミックスとのろう付部の接合強度に優れ、かつ熱伝導性にも優れたヒートシンクが望まれている。
銅板を厚くしたヒートシンクを製造する方法として、最近ペースト状活性銀ろう材が使用されるようになってきた。
しかしながら、活性ろうは高価であり、ろう材量を少なくした場合にはセラミックスのろう付部位を活性化させるために必要なチタンの量が不足し、十分なろう付強さが得られなくなるなどの不都合がある。
又、金属とセラミックスの接合強度を向上させるためには活性銀ろうに含まれるチタン等の活性金属元素の濃度を高くするのが効果的とされているが、活性金属が高濃度となった場合ろう付したろう材の靭性や熱伝導性が低下するなどの不都合が生じる。
【0005】
金属あるいはセラミックスのろう付部にペースト状の活性銀ろうを塗布する方法としてディスペンサーによる方法やスクリーン印刷による方法が知られているが、ディスペンサーによる方法ではペースト状の活性銀ろうを薄く均一に塗布することが困難であるために、一般にはスクリーン印刷による方法が行われている。ところが、スクリーン印刷による方法では銅板やセラミックス板が厚くなると、塗布作業時における外周部へのペースト状ろう材の垂れを防止することが困難となり、またスキージやスクリーンに付着したペースト状ろう材を除去する手間がかかるなどの不都合がある。
【0006】
そこで、このようなディスペンサーやスクリーン印刷方法によるペースト状活性銀ろう材の塗布の不具合を解消する方法として、チタンやジルコニウム等の活性金属を重量比で2%前後含有した活性銀ろうの薄板や箔を作り、これをセラミックスと金属との間に挟んで炉中で加熱してろう付する方法も検討されている。
しかしながら、チタン等の活性金属を含む合金は展延性が悪く、圧延時に割れが発生するため、活性金属を含む合金の薄板や箔を製造することは工業的に問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ペースト状の活性ろうを使用して金属とセラミックスとをろう付する場合の不具合がなく、使用するろう材の量を少なくでき、熱伝導の良いろう付が可能で、チタン等の活性金属元素を含まないろう材を使用して金属とセラミックスとのろう付を可能とするろう付用活性バインダーを提供することを目的としている。
又、本発明は、ペースト状活性ろう材や活性ろう材の薄板や箔を使用してセラミックスと金属とを活性ろう付する際の不具合を解消し、工業的に使用が可能な新しいろう付部品(活性ろう付用セラミックス部品)を提供することを目的としている。
【0008】
更に、本発明は、従来のディスペンサーやスクリーン印刷などの方法によってペースト状ろう材を塗布する際の不具合を解消し、ろう付部の接合強度及び熱伝導性に優れた金属とセラミックスとをろう付したろう付製品を提供することを目的としている。
又、本発明は、ペースト状活性銀ろう材を使用してセラミックスと金属とをろう付する際の不具合を解消し、工業的に使用が可能な新しい銀ろう材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るろう付用活性バインダーは、金属より成る金属部品とセラミックスより成るセラミックス部品とをろう付する際に使用されるものであって、当該バインダー中に活性金属あるいはその化合物の粉末が添加混合されていることを特徴としている。
又、本発明のろう付用活性バインダーは、前記の特徴を有したものにおいて、前記バインダーが水性バインダーであり、前記活性金属の化合物が水素化チタン(TiH)であることを特徴とするものでもある。
【0010】
本発明に係るろう付用部品は、金属より成る金属部品とろう付する際に使用される、セラミックスより成る部品であって、当該部品の少なくともろう付部位に、活性金属あるいはその化合物の粉末がバインダーを介して固着されていることを特徴とする。
又、本発明のろう付用部品は、前記の特徴を有したものにおいて、前記活性金属の化合物が水素化チタンであり、前記セラミックスが窒化アルミニウム又は窒化珪素であることを特徴とするものでもある。
【0011】
本発明に係るろう付製品は、金属より成る金属部品とセラミックスより成るセラミックス部品とがろう付されたものであって、該セラミックス部品のろう付部位に、水性バインダー中に活性金属あるいはその化合物の粉末が添加混合されたろう付用活性バインダーを塗布した後、当該バインダー上にろう粉末を散布固着して得たセラミックス部品と、ろう付する相手である金属部品のろう付部位とを重ね合わせた後、炉中で加熱して前記ろう粉末を溶融させてろう付したことを特徴とする。
又、本発明のろう付用製品は、前記の特徴を有したものにおいて、前記金属部品が銅又は銅合金製であり、前記セラミックス部品が窒化アルミニウム又は窒化珪素製であり、前記ろう粉末が銀ろう粉末であることを特徴とするものでもある。
【0012】
本発明に係る銀ろう材は、銀ろうの箔状基材(薄板または箔)の少なくとも片面に、活性金属あるいはその化合物の粉末がバインダーを介して固着されていることを特徴としている。
又、本発明の銀ろう材は、前記の特徴を有したものにおいて、前記活性金属の化合物が水素化チタンであることを特徴とするものでもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず最初に、本発明のろう付用活性バインダーについて説明する。
本発明に係るろう付用活性バインダーは、バインダー中に活性金属あるいはその化合物の粉末が添加混合されているものであって、セラミックスのろう付部位に塗布して使用され、塗布後、その上に市販の銀ろう粉末を散布、あるいは銀ろう粉末の替わりに銀ろうの薄板または箔を乗せ、さらにその上にろう付する金属を重ね合わせた後に炉中で加熱ろう付することにより、セラミックスと金属との銀ろう付が達成できる。又、本発明のろう付用活性バインダーは、セラミックスのろう付部位に塗布した後、その上に市販の銅ろう粉末あるいはニッケルろう粉末を散布、あるいは銅ろう粉末の替わりに銅ろうの薄板または箔を乗せ、さらにろう付する金属を重ね合わせた後に炉中で加熱ろう付することにより、セラミックスと金属とのろう付が達成できるものでもある。
【0014】
本発明に係るろう付用活性バインダーを使用すれば、セラミックスのろう付部位を活性化させるために必要なチタン等の活性化物質をセラミックスのろう付部表面に供給できるため、チタン等の活性物質を含まないろう材を使用して金属とセラミックスのろう付が可能となる。また、ろう付部のろう材の厚さを薄くすることが可能となり、またろう材の厚さを薄くしても十分なろう付強さを得ることができる。
本発明に係る活性金属としては、チタン、ジルコニウム等が挙げられ、活性金属の化合物としてはチタンやジルコニウムの水素化物等が挙げられるが、入手の容易さや安全性から水素化チタンが望ましい。
【0015】
本発明に係るろう付用活性バインダーに使用するバインダーは、水素化チタンなどの活性化物質をセラミックスのろう付部位に固着させうるものであれば、有機溶剤系のバインダーでも水性のバインダーでも良いが、有機溶剤系バインダーはバインダーの噴霧時およびろう付時の臭気により作業環境を悪化させることから水性バインダーが望ましく、ポリエチレングリコール水溶液やビニルアルコールポリマー水溶液やセルロースエーテル水溶液等が挙げられ、合成水溶性接着剤も使用できる。
【0016】
また、本発明に係るろう付用活性バインダーの粘度は、セラミックスのろう付部位への塗布方法としてスプレーを使用する場合には粘度を低くすれば良く、またスクリーン印刷方法で塗布する場合には粘度を高くすれば良く、マスキングの有無なども含め粘度を適宜変えることが可能である。
本発明に係るろう付用活性バインダーにおいては、水素化チタン(TiH)の粉末の替わりに水素化ジルコニウム(ZrH)の粉末を添加混合しても良く、これら活性金属粉末の粒径は10μm以下が好ましい。これは、粒径が10μmを超えて極端に大きくなると、ろう付部表面での活性化物質の分布がまばらになってろう付特性が低下するためである。
【0017】
本発明に係るろう付用活性バインダーを使用して銀ろう付を行なう場合、使用する銀ろうの粉末や薄板、箔等は通常使用されている銀ろうでも錫やインジウム等を添加して融点を下げた銀ろうでも良い。
又、本発明に係るろう付用活性バインダーを使用してニッケルろう付を行う場合、使用するニッケルろうの粉末J1S Z 3265に規定される通常のニッケルろう粉末で良い。また、本発明に係るろう付用活性バインダーを使用して銅ろう付を行う場合、使用する銅ろうの粉末や薄板、箔等は、通常市販されている銅ろうでも錫や銀等を添加して融点を下げた銅ろうでも良い。
【0018】
次に、本発明のろう付用部品及びろう付製品について説明する。
本発明において、金属とろう付するセラミックスのろう付面に活性金属あるいはその化合物の粉末をバインダーで固着させてろう付用部品とする理由は、金属とセラミックスをろう付する際に活性金属あるいはその化合物が少なくともセラミックスのろう付面に存在すればろう付が可能になるためである。
本発明に係るろう付用部品を使用すれば、ろう付する際のろう材として活性金属を含まないろう材を用いることが可能となる。
本発明に係る活性金属としては、チタン、ジルコニウム又はハフニウム等が挙げられ、活性金属の化合物としてはチタンやジルコニウムの水素化物等が挙げられるが、入手の容易さや安全性から水素化チタンが望ましい。
【0019】
本発明において、セラミックスより成るセラミックス部品のろう付面に活性金属あるいはその化合物の粉末をバインダーで固着させる方法としては、活性金属あるいはその化合物の粉末とバインダーを予め混合したものをセラミックスのろう付面にスプレーで噴霧した後、乾燥すれば良い。
また、活性金属あるいはその化合物の粉末とバインダーを予め混合したものをセラミックスのろう付面にスクリーン印刷方法で塗布した後、乾燥しても良い。
本発明においては、セラミックス部品が窒化アルミニウムあるいは窒化珪素製であることが好ましく、この理由は、これらのセラミックスが優れた熱伝導性と電気絶縁性を有しており、半導体素子の放熱用ヒートシンクとして望ましいことによる。
【0020】
上記の本発明のろう付用部品を、金属より成る金属部品とろう付することによって、本発明のろう付製品を製造するには、予め活性金属あるいはその化合物の粉末(例えば水素化チタン粉末)を混合したバインダーをセラミックス部品のろう付面にスプレーで噴霧した後、その上にろう粉末(銀ろう粉末、ニッケルろう粉末あるいは銅ろう粉末)を散布固着させ、引き続いてその面にろう付する金属部品を重ね合わせた後、炉中で加熱してろう付する方法が、製造工程が簡略であり、銀ろう粉末や水素化チタン粉末等使用材料の入手が容易であり、更に水素化チタン粉末をバインダー中に混合して使用することから安全性にも優れ、工業的に有利である。
【0021】
バインダーと粉末ろう材を予め混合したスラリー状ろう材を噴霧して塗布した場合、ろう付部以外に飛散したスラリー状ろう材が塗布装置内に付着して、回収再利用が困難になる。また、米国ウォールコルモノイ社の粉末ろう材塗布装置を使用した場合、バインダーと粉末ろう材は別々に粉末ろう材塗布装置に供給されるが、バインダーの噴霧と同時に粉末ろう材が散布されて混合するため、ろう材部以外に飛散した粉末ろう材の回収再利用が困難となる。
【0022】
本発明においては、セラミックス部品のろう付面に活性金属の粉末あるいは活性金属の化合物の粉末を混合したバインダーをスプレーで噴霧し、一方金属部品のろう付面にバインダーを噴霧してからろう粉末を散布固着させ、その後これらのろう付面を重ね合わせて炉中で加熱してろう付しても良い。
本発明においては、セラミックス部品のろう付面にバインダーをスプレーで噴霧し、その上に活性金属の粉末あるいは活性金属の化合物の粉末を散布固着させ、更にその上にバインダーを噴霧後、ろう粉末を散布固着させ、引き続いてその面にろう付する金属部品を重ね合わせて炉中で加熱してろう付しても良い。
また、本発明においては、銀ろうの薄板や箔の片面に活性金属の粉末あるいは活性金属の化合物の粉末をバインダーで固着させたものを用意し、ろう付するセラミックス部品側に活性金属あるいは活性金属の化合物の粉末を固着させた面を合わせ、反対側の面にろう付する金属部品の面を重ね合わせた後、炉中で加熱してろう付しても良い。
【0023】
本発明に係るろう付製品を製造する際、セラミックスのろう付面に活性金属の粉末あるいは活性金属の化合物の粉末をバインダーで固着させ、引き続いてその面とろう付する金属の間に銀ろうの薄板あるいは箔を挟みこんだ後、炉中で加熱してろう付しても良い。
本発明に係るろう付製品を製造する際に使用する銀ろう粉末は、銀と銅の合金粉末の他、インジウムやスズなどを添加して溶融温度を下げた合金粉末でも良く、少量の活性金属を含んだ銀ろう粉末でも良い。
【0024】
本発明においては、ろう粉末とバインダーを同時に塗布したり、予めろう粉末とバインダーを混合したものを作製し、これを塗布することも望ましくない。というのは、いずれの場合にも、ろう粉末の回収再利用が困難になるためである。
活性金属の粉末あるいは活性金属の化合物の粉末を混合したバインダーを噴霧した面の上にろう粉末を散布する方法としては、電磁振動子や電歪振動子などを用いたフィーダー装置を使用するのが簡便で望ましい。
尚、本発明においては、金属部品として銅又は銅合金が好ましく、この理由は、優れた熱伝導性と電気伝導性を有するためである。一方、セラミックス部品としては、窒化アルミニウムあるいは窒化珪素製のものが好ましい。
本発明のろう付製品の具体例としては、半導体素子の放熱用ヒートシンクが挙げられるが、本発明のろう付製品はこれに限定されるものではない。
【0025】
最後に、銀ろう付に適した本発明のろう材について説明する。
本発明に係る銀ろう材は、銀ろうの箔状基材(薄板または箔)の少なくとも片面に、活性金属あるいはその化合物の粉末(好ましくは水素化チタン)がバインダーを介して固着されたものであり、本発明において銀ろうの薄板または箔とした理由は、チタン等の活性金属を合金元素として添加した活性銀ろうは圧延によって薄板や箔に加工できないが、一般の銀ろうは圧延で薄板や箔の加工ができるためである。
又、本発明において活性金属あるいはその化合物の粉末を銀ろうの薄板または箔の片面にバインダーで固着させた理由は、金属とセラミックスをろう付する時に活性金属あるいはその化合物の粉末が少なくともセラミックスのろう付面側にあればろう付できることによる。
【0026】
上記の本発明のろう付材を用いてろう付製品を製造するには、銀ろうの活性金属あるいはその化合物の粉末を固着させた面が、セラミックス部品と対向するようにして、ろう付する金属部品とセラミックス部品との間に挟み、炉中で加熱してろう付すればよい。
本発明において活性金属あるいはその化合物の粉末を銀ろうの薄板または箔にバインダーで固着させる方法としては、予め活性金属あるいはその化合物の粉末とバインダーを混合したものをスプレーで噴霧した後、乾燥すればよい。
また、銀ろうの薄板または箔の片面にバインダーをスプレーで噴霧した後、その上に活性金属あるいはその化合物の粉末を電磁振動子等の振動を用いたフィーダー装置等を使用して散布し、その後乾燥してもよい。
更には、活性金属あるいはその化合物の粉末とバインダーを予め混合したものをセラミックスのろう付面にスクリーン印刷方法で塗布した後、乾燥しても良い。
この際、バインダーは、活性金属あるいはその化合物の粉末を銀ろうの薄板または箔に固着させ得るものであれば有機溶剤系バインダーでも水性バインダーでも良い。なお、有機溶剤系バインダーは臭気により作業環境が悪くなることから水性バインダーが望ましい。
本発明に係る銀ろうの薄板または箔は、銀と銅の合金より成るものでよいが、インジウムやスズなどを添加して溶融温度を下げた合金でも良く、少量の活性金属を含んだ銀ろうでも良い。
以下、本発明について実施例をもって詳細に説明する。
【実施例】
【0027】
A.本発明のろう付用活性バインダーによるろう付試験結果
<実施例A1>
粘度0.1dPa・sの市販の水性バインダー(ポリビニルアルコール水溶液)に粒径10μm以下(粒径:約5〜10μm)の水素化チタンの粉末を重量比で8%添加混合したろう付用活性バインダーを用意した。また、窒化アルミニウムと無酸素銅の20mm角の角棒を各1本用意した。
このろう付用活性バインダーを窒化アルミニウムの20mm角面に0.01gスプレーで噴霧した後、JIS Z3261に規定されるBAg−8の銀ろう粉末(72Ag−28Cu)を振動式フィーダー装置で均一に散布し、その後バインダーを乾燥させて0.04gの銀ろう粉末を固着させた。次に銀ろう粉末が固着した面と無酸素銅の20mm角面とを突合せ、真空炉中で加熱ろう付を行なった。
得られたろう付品より試験片を採取し、JISに準じてろう付部の折り曲げ試験を行なった。その結果、窒化アルミニウムが破損したが、ろう付部には異常は見られず、健全なろう付ができていることが判明した。なお、ろう付部のろう材の厚さは10μmであった。
【0028】
<実施例A2>
粘度0.2dPa・sの市販の有機溶剤系バインダーに粒径10μm以下の水素化チタンの粉末を重量比で12%添加混合したろう付用活性バインダーを用意した。また、窒化珪素と無酸素銅の20mm角の角棒を各1本用意した。
このろう付用活性バインダーを、実施例A1と同様に窒化珪素の20mm角面に0.01gスプレーで噴霧した後、BAg−18の銀ろう粉末を均一に散布し、バインダーを乾燥させて0.08gの銀ろう粉末を固着させた。次に銀ろう粉末が固着した面と無酸素銅の20mm角面とを突合せ、真空炉中で加熱ろう付を行なった。
実施例A1と同様に、得られたろう付品より試験片を採取し、JISに準じてろう付部の折り曲げ試験を行なった。その結果、窒化珪素が破損したが、ろう付部には異常は見られず、健全なろう付ができていることが判明した。なお、ろう付部のろう材の厚さは20μmであった。
【0029】
<実施例A3>
粘度70dPa・sの市販の水性バインダー(セルロースエーテル水溶液)に粒径10μm以下の水素化チタンの粉末を重量比で11%添加混合したろう付用活性バインダーを用意した。また、酸化アルミニウムとコバール(Fe−Ni−Co合金)の20mm角の角棒を各1本用意した。
このろう付用活性バインダーを、酸化アルミニウムの20mm角面に0.03gスクリーン印刷方法で塗布した後、その上に実施例A1と同じBAg−8の銀ろう粉末を均一に散布し、その後バインダーを乾燥させて0.13gの銀ろう粉末を固着させた。次に銀ろう粉末が固着した面とコバールの20mm角面とを突合せ、真空炉中で加熱ろう付を行なった。
実施例A1と同様に、得られたろう付品より試験片を採取し、JISに準じてろう付部の折り曲げ試験を行なった。その結果、酸化アルミニウムが破損したが、ろう付部には異常は見られず、健全なろう付ができていることが判明した。なお、ろう付部のろう材の厚さは30μmであった。
【0030】
<実施例A4>
実施例A1と同じ市販の水性バインダーに粒径10μm以下の水素化ジルコニウムの粉末を重量比で10%添加混合したろう付用活性バインダーを用意した。また、窒化アルミニウムと無酸素銅の20mm角の角棒を各1本用意した。
このろう付用活性バインダーを、実施例A1と同様に窒化アルミニウムの20mm角面に0.01gスプレーで噴霧した後、BAg−8の銀ろう粉末を均一に散布し、バインダーを乾燥させて0.06gの銀ろう粉末を固着させた。次に銀ろう粉末が固着した面と無酸素銅の20mm角面とを突合せ、真空炉中で加熱ろう付を行なった。
実施例A1と同様に、得られたろう付品より試験片を採取し、JISに準じてろう付部の折り曲げ試験を行なった。その結果、窒化アルミニウムが破損したが、ろう付部には異常は見られず、健全なろう付ができていることが判明した。なお、ろう付部のろう材の厚さは15μmであった。
【0031】
<実施例A5>
実施例A1と同じ市販の水性バインダーに粒径10μm以下の水素化チタンの粉末を重量比で8%添加混合したろう付用活性バインダーを用意した。また、窒化珪素とSUS304の20mm角の角棒を各1本用意した。
このろう付用活性バインダーを窒化珪素の20mm角面に0.03gスプレーで噴霧した後、JIS Z3265に規定されるBNi−2のニッケルろう粉末を振動式フィーダー装置で均一に散布し、その後バインダーを乾燥させて0.11gのニッケルろう粉末を固着させた。次にニッケルろう粉末が固着した面とSUS304の20mm角面とを突合せ、真空炉中で加熱ろう付を行った。
得られたろう付品より試験片を採取し、JISに準じてろう付部の折り曲げ試験を行った。その結果、窒化珪素が破損したが、ろう付部には異常は見られず健全なろう付ができていることが判明した。なお、ろう付部のろう材の厚さは30μmであった。
【0032】
<実施例A6>
粘度0.2dPa・sの市販の有機溶剤系バインダーに粒径10μm以下の水素化チタンの粉末を重量比で12%添加混合したろう付用活性バインダーを用意した。また、窒化アルミニウムと無酸素銅の20mm角の角棒を各1本用意した。
このろう付用活性バインダーを実施例A1と同様に窒化アルミニウムの20mm角面に0.02gスプレーで噴霧した後、重量比で錫20%、残部銅及び付随的不純物よりなる銅ろう粉末を均一に散布し、バインダーを乾燥させて0.07gの銅ろう粉末を固着させた。次に銅ろう粉末が固着した面と無酸素銅の20mm角面とを突合せ、加熱ろう付を行った。
実施例1と同様に得られたろう付品より試験片を採取し、JISに準じてろう付部の折り曲げ試験を行った。その結果、窒化アルミニウムが破損したが、ろう付部には異常は見られず健全なろう付ができていることが判明した。なお、ろう付部のろう材の厚さは20μmであった。
【0033】
<実施例A7>
粘度70dPa・sの市販の水性バインダーに粒径10μm以下の水素化チタンの粉末を重量比で11%添加混合したろう付用活性バインダーを用意した。また、酸化アルミニウムとコバールの20mm角の角棒を各1本用意した。
このろう付用活性バインダーを酸化アルミニウムの20mm角面に0.03gスクリーン印刷方法で塗布した後、その上に重量比で錫8%、残部銅及び付随的不純物よりなる銅ろう粉末を均一に散布し、その後バインダーを乾燥させて0.12gの銅ろう粉末を固着させた。次に銅ろう粉末が固着した面とコバールの20mm角面とを突合せ、加熱ろう付を行った。
実施例1と同様に得られたろう付品より試験片を採取し、JISに準じてろう付部の折り曲げ試験を行った。その結果、酸化アルミニウムが破損したが、ろう付部には異常は見られず健全なろう付ができていることが判明した。なお、ろう付部のろう材の厚さは30μmであった。
【0034】
<比較例A1>
実施例A1と同じ市販の水性バインダーを、窒化アルミニウムの20mm角の角棒の20mm角面に0.02gスプレーで噴霧した後、その上に実施例A1と同じBAg−8の銀ろう粉末を均一に散布し、その後バインダーを乾燥させて0.09gの銀ろう粉末を固着させた。
次に銀ろう粉末が固着した面に20mm角の無酸素銅の棒材を突合せ、真空炉中で加熱ろう付を行なったが、ろう付ができなかった。
【0035】
<比較例A2>
実施例1と同じ市販の水性バインダーを窒化アルミニウムの20mm角の角棒の20mm角面に0.02gスプレーで噴霧した後、その上に実施例A5と同じBNi−2のニッケルろう粉末を均一に散布し、その後バインダーを乾燥させて0.11gのニッケルろう粉末を固着させた。
次にニッケルろう粉末が固着した面に20mm角の無酸素銅の棒材を突合せ、真空炉中で加熱ろう付を行ったが、ろう付が出来なかった。
【0036】
B.本発明のろう付用部品によるろう付試験結果
<実施例B1>
窒化アルミニウムと無酸素銅の20mm角の角棒各1本を用意し、窒化アルミニウムの20mm角面に、実施例A1と同じ水素化チタンの微粉末を重量比で10%混合した水性バインダー(ポリビニルアルコール水溶液)0.01gをスプレーで噴霧し、次いでその上に銅27.4%(重量比)、残部銀及び付随的不純物より成る平均粒径35μmの銀ろう粉末0.08gを電磁フィーダーで散布固着させた。引き続いて無酸素銅の20mm角面を銀ろう粉末を散布固着した面に突合せ、真空炉中で加熱ろう付を行った。
得られたろう付品より試験片を採取し、JISに準じて折り曲げ試験を行った。その結果、窒化アルミニウムが破損したが、ろう付部には異常は見られず健全なろう付ができていることが判明した。
【0037】
<実施例B2>
窒化珪素と無酸素銅の20mm角の角棒各1本を用意し、窒化珪素の20mm角面に実施例A3と同じ水素化チタンの微粉末を11%混合した水性バインダー0.03gをスクリーン印刷方法で塗布し、次いでその上に銅23.8%、インジウム14.1%残部銀及び付随的不純物より成る平均粒径35μmの銀ろう粉末0.14gを電磁フィーダーで散布固着させた。引き続いて無酸素銅の20mm角面を銀ろう粉末を散布固着した面に突合せ、真空炉中で加熱ろう付を行った。
得られたろう付品より試験片を採取し、JISに準じて折り曲げ試験を行った。その結果、窒化珪素が破損したが、ろう付部には異常は見られず健全なろう付ができていることが判明した。
【0038】
<実施例B3>
25×25×0.6mmの窒化アルミニウムと25×25×1mmの無酸素銅を用意し、窒化アルミニウムの25mm角面に水素化チタンの微粉末を15%混合した水性バインダー0.01gをスプレーで噴霧し、次いでその上に銅27.4%、残部銀及び付随的不純物より成る平均粒径35μmの銀ろう粉末0.11gを電磁フィーダーで散布固着させた。引き続いて無酸素銅を銀ろう粉末を散布固着した面に重ね合わせ、真空炉中で加熱ろう付を行った。
得られたろう付部品の接合部を超音波探傷したところ、ピンホールやブローホールなどが検出されず、健全なろう付ができていることが確認された。
【0039】
<実施例B4>
窒化アルミニウムと無酸素銅の20mm角の角棒を各1本用意し、窒化アルミニウムの20mm角の面に水素化チタンの微粉末を重量比で10%混合した水性バインダー0.01gをスプレーで噴霧した後、乾燥させた。次に重量比で銅27.1%、残部銀及び付随的不純物より成る厚さ20μmの銀ろう箔を用意し、これを窒化アルミニウムの水素化チタンを固着させた20mm角の面と無酸素銅の20mm角の面との間に挟み込み、真空炉中で加熱ろう付を行った。
得られたろう付品より試験片を採取し、JISに準じて折り曲げ試験を行った。その結果、窒化アルミニウムが破損したが、ろう付部には異常は見られず健全なろう付ができていることが判明した。
【0040】
<実施例B5>
窒化珪素と無酸素銅の20mm角の角棒を各1本用意し、窒化珪素の20mm角の面に水素化チタンの微粉末を10%混合した水性バインダー0.01gをスプレーで噴霧した後、乾燥させた。一方、無酸素銅の20mm角の面に水性バインダー0.01gをスプレーで噴霧した後、その上に銅27.4%、残部銀及び付随的不純物より成る平均粒径35μmのアトマイズ製銀ろう粉末0.08gを電磁フィーダーで散布後、バインダーを乾燥させた。
引き続いて、窒化珪素の水素化チタンが固着した面と無酸素銅の銀ろう粉末が固着した面とを突合せ、真空炉中で加熱ろう付を行った。
得られたろう付品より試験片を採取し、JISに準じて折り曲げ試験を行った。その結果、窒化珪素が破損したが、ろう付部には異常は見られず健全なろう付ができていることが判明した。
【0041】
C.本発明の銀ろう付材によるろう付試験結果
<実施例C1>
重量比で銅27.4%、残部銀及び付随的不純物より成る銀ろうで厚さ20μmの薄板を圧延で製作した。この銀ろうの片面に、市販の水性バインダー(ポリビニルアルコール水溶液)に実施例A1と同じ水素化チタンの微粉末を重量比で15%混合した液体をスプレーで噴霧した後乾燥し、水素化チタンの粉末を固着させた活性銀ろう材を用意した。また、窒化アルミニウムと無酸素銅の25mm角の角棒各1本を用意した。
引き続いて窒化アルミニウムと無酸素銅の25mm角面の間に先に用意した活性銀ろう材を水素化チタンの粉末が固着している面を窒化アルミニウム側にして挟み込み、真空炉中で加熱ろう付を行った。
得られたろう付品より試験片を採取し、JISに準じて折り曲げ試験を行った。その結果、窒化アルミニウムが破損したが、ろう付部には異常は見られず健全なろう付ができていることが判明した。
【0042】
<実施例C2>
実施例C1と同じ厚さ20μmの銀ろうの薄板を用意し、その片面に市販の有機溶剤系バインダーに水素化チタンの微粉末を10%混合した液体をスプレーで噴霧した後乾燥し、水素化チタンの粉末を固着させた活性銀ろう材を用意した。また、窒化珪素と無酸素銅の25mm角の角棒各1本を用意した。
引き続いて窒化珪素と無酸素銅の25mm角面の間に先に用意した活性銀ろう材を水素化チタンの粉末が固着している面を窒化珪素側にして挟み込み、真空炉中で加熱ろう付を行った。
得られたろう付品より試験片を採取し、JISに準じて折り曲げ試験を行った。その結果、窒化珪素が破損したが、ろう付部には異常は見られず健全なろう付ができていることが判明した。
【0043】
<実施例C3>
重量比で銅23.7%、インジウム14.3%、残部銀及び付随的不純物より成る銀ろうで厚さ20μmの薄板を圧延で製作した。この銀ろうの片面に実施例A3と同じ水素化チタンの微粉末を11%混合した水性バインダーをスクリーン印刷方法で塗布した後乾燥し、水素化チタンの粉末を固着させた活性銀ろう材を用意した。また、25×25×0.6mmの窒化アルミニウムと25×25×1mmの無酸素銅を用意した。
窒化アルミニウムと無酸素銅の25mm角面の間に、水素化チタンが固着している面を窒化アルミニウム側にして活性銀ろう材を挟み込み、真空炉中で加熱ろう付を行った。
得られたろう付部品の接合部を超音波探傷したところ、ピンホールやブローホールなどが検出されず、健全なろう付ができていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のろう付用活性バインダーを使用すれば、セラミックスを活性化しろう付を容易にする水素化チタンがセラミックスのろう付部表面に有効に作用して良好なろう付が可能となり、また、高価な活性ろうを使用しないで金属とセラミックスとのろう付が可能となり工業上非常に有益である。又、本発明のろう付用活性バインダーを銀ろう付に使用した場合、ろう付部の銀ろうの厚さが薄くでき、また熱伝導の優れたろう付が可能となる。
又、本発明のろう付用セラミックス部品を使用した場合には、ペースト状活性銀ろうを使用した際の塗布工程の不具合が解消でき、しかも活性金属を含まない銀ろうを用いて活性銀ろう付を行うことができ、金属とセラミックスのろう付部の接合強度及び熱伝導性が向上し、工業上非常に有益である。
更に、本発明の活性銀ろう材によれば、ペースト状活性銀ろうを使用する不具合が解消でき、金属とセラミックスのろう付作業が容易にでき、作業速度が速く大量生産が可能となり、工業上非常に有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属より成る金属部品とセラミックスより成るセラミックス部品とをろう付する際に使用されるバインダーであって、当該バインダー中に活性金属あるいはその化合物の粉末が添加混合されていることを特徴とするろう付用活性バインダー。
【請求項2】
前記バインダーが水性バインダーであり、前記活性金属の化合物が水素化チタンであることを特徴とする請求項1に記載のろう付用活性バインダー。
【請求項3】
金属より成る金属部品とろう付する際に使用される、セラミックスより成る部品であって、当該部品の少なくともろう付部位に、活性金属あるいはその化合物の粉末がバインダーを介して固着されていることを特徴とするろう付用部品。
【請求項4】
前記活性金属の化合物が水素化チタンであり、前記セラミックスが窒化アルミニウム又は窒化珪素であることを特徴とする請求項3に記載のろう付用部品。
【請求項5】
金属より成る金属部品とセラミックスより成るセラミックス部品とがろう付されたろう付製品であって、当該セラミックス部品のろう付部位に、水性バインダー中に活性金属あるいはその化合物の粉末が添加混合されたろう付用活性バインダーを塗布した後、当該バインダー上にろう粉末を散布固着して得たセラミックス部品と、ろう付する相手である金属部品のろう付部位とを重ね合わせた後、炉中で加熱して前記ろう粉末を溶融させてろう付したことを特徴とするろう付製品。
【請求項6】
前記金属部品が銅又は銅合金製であり、前記セラミックス部品が窒化アルミニウム又は窒化珪素製であり、前記ろう粉末が銀ろう粉末であることを特徴とする請求項5に記載のろう付製品。
【請求項7】
銀ろうの箔状基材の少なくとも片面に、活性金属あるいはその化合物の粉末がバインダーを介して固着されていることを特徴とする銀ろう付材。
【請求項8】
前記活性金属の化合物が水素化チタンであることを特徴とする請求項7に記載の銀ろう付材。

【国際公開番号】WO2005/012206
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512543(P2005−512543)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011051
【国際出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(599091058)株式会社ブレイジング (3)
【Fターム(参考)】