説明

アキュムレータ制御装置

【課題】ベローズを備えるアキュムレータにおいて、ベローズとストッパとの当接を防止する。
【解決手段】ベローズ64は、アキュムレータ50のシェル58内部の底面に一端が固定され、軸方向に伸縮自在にされている。ベローズキャップ70は、ベローズ64の他端に取り付けられ、アキュムレータのシェル内を油室90とガス室72とに分離する。ストッパ88は、ベローズキャップ70と当接することでベローズの収縮量を規制する。上限圧測定手段は、ベローズキャップがストッパと当接するときのアキュムレータ圧である上限圧を測定する。モータ制御手段は、アキュムレータ圧が上限圧を超えないように、アキュムレータに蓄圧するポンプを駆動するモータの動作を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のブレーキシステム等に用いられるアキュムレータの制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のブレーキシステムでは、油圧を蓄圧し脈動を吸収するためにアキュムレータが使用される。このようなアキュムレータには、シェルの内部をガス室と油室とに分離する分離膜として金属ベローズを使用したものがよく用いられている。金属ベローズは、薄い鋼板を円筒蛇腹状に形成し、軸方向に伸縮自在とされている。ベローズ内部の空間がガス室に、ベローズとシェルに挟まれる空間が油室になる。
【0003】
このようなアキュムレータにおいて、油室に通じる油圧が大きく上昇したり、または環境温度の低下によりベローズ内に封入されているガスの圧力が低下すると、金属ベローズが大きく圧縮されることになる。このような圧縮は、金属ベローズの蛇腹部に座屈を生じさせ、ベローズの耐久性を大きく低下させてしまう。
【0004】
また、アキュムレータのサイズが比較的大きく、アキュムレータ圧の最小値と最大値との差が大きいと、アキュムレータの動作に伴う騒音が大きくなったり、またはアキュムレータに蓄圧するポンプを駆動するモータの必要定格トルクも大きくなるという問題がある。そのため、近年では自動車に搭載するアキュムレータを小型化したいという要請がある。アキュムレータを小型化するには、封入圧を小さくしてベローズの鋼板を薄くすればよい。しかしながら、鋼板を薄くすると、ベローズの耐久性が低下する。
【0005】
上記のようなベローズの耐久性低下を防止するためには、アキュムレータ内にベローズの所定以上の収縮を防止するストッパを設けることが有効である。例えば、特許文献1には、金属ベローズとシェル内面との間に油室を形成する可動板を備えるアキュムレータにおいて、シェルの軸方向中間部に金属ベローズの所定以上の収縮を防止するストッパ部が形成されたアキュムレータが開示されている。これによると、金属ベローズが大きく圧縮されるとき、可動板がストッパ部に当接することで、油室内の作動油がシェルとベローズの間に流入することが阻止され、金属ベローズの所定以上の収縮が防止される。
【特許文献1】特開2004−232784号公報
【特許文献2】特開2002−98101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
たとえストッパが設けられていても、薄膜化されたベローズでは、通常動作時にはストッパとの接触をできる限り回避するようにアキュムレータ圧が制御されることが好ましい。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ベローズを備えるアキュムレータにおいて、ベローズとストッパとの当接を防止する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、アキュムレータ制御装置である。この装置は、アキュムレータのシェル内部の底面に一端が固定され、軸方向に伸縮自在にされたベローズと、前記ベローズの他端に取り付けられ、アキュムレータのシェル内を油室とガス室とに分離するベローズキャップと、前記ベローズキャップと当接することでベローズの収縮量を規制するストッパと、前記アキュムレータ内の圧力を検出するセンサと、モータにより駆動され前記アキュムレータに蓄圧するポンプと、前記ベローズキャップが前記ストッパと当接するときのアキュムレータ圧である上限圧を測定する上限圧測定手段と、アキュムレータ圧が前記上限圧を超えないように前記モータの動作を制御するモータ制御手段と、を備える。
【0009】
この態様によると、車両の出荷前などにベローズキャップとストッパとが当接するアキュムレータ圧を測定し、これを上限圧としてアキュムレータ圧を制御するようにした。これにより、通常動作時にはベローズキャップとストッパが当接することが防止されるので、ベローズキャップの板厚を薄くしたり溶接箇所を小さくしたりすることが可能になる。この結果、アキュムレータを小型化することができる。
【0010】
前記アキュムレータの周囲温度を測定する温度センサと、前記上限圧測定手段により上限圧が測定されたときの温度と、前記温度センサにより測定された温度との差分に基づき、前記上限圧を温度補正する補正手段と、をさらに備え、前記モータ制御手段は、アキュムレータ圧が補正された上限圧を超えないように前記モータの動作を制御してもよい。アキュムレータ圧の上限圧を測定した時と、実際にアキュムレータ圧を制御する時の温度が大きく異なると、アキュムレータのガス室内の気体体積の違いによって、アキュムレータ圧が上限圧に到達する前にベローズキャップがストッパと当接する場合がある。この態様によると、上限圧を温度補正した上でアキュムレータ圧を制御するので、温度環境によらずベローズキャップとストッパとの当接を防止することができる。
【0011】
前記上限圧の測定後に所定のタイミングで、前記ベローズキャップが前記ストッパと当接するときのアキュムレータ圧である再測定上限圧を測定する上限圧再測定手段と、前記補正手段により補正された再測定上限圧と前記上限圧との差分が予め定められたしきい値以上であるとき、前記ストッパが損傷していると判定する損傷検出手段と、をさらに備えてもよい。何らかの原因によってストッパが損傷している場合、ストッパによるベローズの過収縮の阻止が期待できないため、ストッパの損傷を検出する仕組みを設けることが好ましい。この態様によると、ベローズキャップとストッパが当接するときのアキュムレータ圧の上限圧を再測定し、その結果を当初の上限圧と比較することで、ストッパの損傷を検出することができる。
【0012】
前記損傷検出手段によってストッパが損傷していると判定されたとき、アキュムレータ圧が前記再測定上限圧を超えないように前記モータの動作を制御する損傷時制御手段をさらに備えてもよい。この態様によると、ストッパの損傷後にもアキュムレータ圧が上限圧以下になるように制御することで、ストッパによるベローズの損傷を予防することができる。
【0013】
前記ストッパは、前記ベローズの内部に配置されるストッパであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ベローズを備えるアキュムレータにおいて、ベローズとストッパとの当接を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置10を示す系統図である。同図に示されるブレーキ制御装置10は、車両用の電子制御式ブレーキシステムを構成しており、運転者によるブレーキ操作部材としてのブレーキペダル12への操作に応じて車両の4輪のブレーキを独立かつ最適に設定するものである。また、本実施形態に係るブレーキ制御装置10が搭載された車両は、4つの車輪のうちの操舵輪を操舵する図示されない操舵装置や、これら4つの車輪のうちの駆動輪を駆動する図示されない内燃機関やモータ等の走行駆動源等を備えるものである。
【0016】
制動力付与機構としてのディスクブレーキユニットは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。各ディスクブレーキユニットは、それぞれブレーキディスクとブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ20FR〜20RLを含む。そして、各ホイールシリンダ20FR〜20RLは、それぞれ異なる流体通路を介して油圧アクチュエータ80に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ20FR〜20RLを総称して「ホイールシリンダ20」という。
【0017】
ディスクブレーキユニットにおいては、ホイールシリンダ20に油圧アクチュエータ80からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスクに摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニットを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ20を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。あるいは、流体力により摩擦部材の押圧力を制御するのではなく、例えば電動モータ等の電動の駆動機構を用いて摩擦部材の車輪への押圧力を制御する制動力付与機構を用いることもできる。
【0018】
ブレーキペダル12は、運転者による踏み込み操作に応じて作動流体としてのブレーキフルードを送り出すマスタシリンダ14に接続されている。ブレーキペダル12には、その踏み込みストロークを検出するためのストロークセンサ46が設けられている。マスタシリンダ14の一方の出力ポートには、運転者によるブレーキペダル12の操作力に応じた反力を創出するストロークシミュレータ24が接続されている。マスタシリンダ14とストロークシミュレータ24とを接続する流路の中途には、シミュレータカット弁23が設けられている。シミュレータカット弁23は、非通電時に閉状態にあり、運転者によるブレーキペダル12の操作が検出された際に開状態に切り換えられる常閉型の電磁開閉弁である。また、マスタシリンダ14には、ブレーキフルードを貯留するためのリザーバタンク26が接続されている。
【0019】
マスタシリンダ14の一方の出力ポートには、右前輪用のブレーキ油圧制御管16が接続されており、ブレーキ油圧制御管16は、図示されない右前輪に対して制動力を付与する右前輪用のホイールシリンダ20FRに接続されている。また、マスタシリンダ14の他方の出力ポートには、左前輪用のブレーキ油圧制御管18が接続されており、ブレーキ油圧制御管18は、図示されない左前輪に対して制動力を付与する左前輪用のホイールシリンダ20FLに接続されている。右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、右マスタカット弁22FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の中途には、左マスタカット弁22FLが設けられている。これらの右マスタカット弁22FRおよび左マスタカット弁22FLは、いずれも、非通電時に開状態にあり、運転者によるブレーキペダル12の操作が検出された際に閉状態に切り換えられる常開型電磁弁である。
【0020】
また、右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、右前輪側のマスタシリンダ圧を検出する右マスタ圧力センサ48FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の途中には、左前輪側のマスタシリンダ圧を計測する左マスタ圧力センサ48FLが設けられている。ブレーキ制御装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれた際、ストロークセンサ46によりその踏み込み操作量が検出されるが、これらの右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLによって検出されるマスタシリンダ圧からもブレーキペダル12の踏み込み操作力(踏力)を求めることができる。このように、ストロークセンサ46の故障を想定して、マスタシリンダ圧を2つの圧力センサ48FRおよび48FLによって監視することは、フェイルセーフの観点からみて好ましい。なお、以下では適宜、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLを総称して、マスタシリンダ圧センサ48という。
【0021】
一方、リザーバタンク26には、油圧給排管28の一端が接続されており、この油圧給排管28の他端には、モータ32により駆動されるオイルポンプ34の吸込口が接続されている。オイルポンプ34の吐出口は、高圧管30に接続されており、この高圧管30には、アキュムレータ50とリリーフバルブ53とが接続されている。本実施形態では、オイルポンプ34として、モータ32によってそれぞれ往復移動させられる2体以上のピストン(図示せず)を備えた往復動ポンプが採用される。また、アキュムレータ50としては、ブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギに変換して蓄えるものが採用される。
【0022】
アキュムレータ50は、オイルポンプ34によって例えば14〜22MPa程度にまで昇圧されたブレーキフルードを蓄える。また、リリーフバルブ53の弁出口は、油圧給排管28に接続されており、アキュムレータ50におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ53が開弁し、高圧のブレーキフルードは油圧給排管28へと戻される。さらに、高圧管30には、アキュムレータ50の出口圧力、すなわち、アキュムレータ50におけるブレーキフルードの圧力を検出するアキュムレータ圧センサ51が設けられている。
【0023】
そして、高圧管30は、増圧弁40FR,40FL,40RR,40RLを介して右前輪用のホイールシリンダ20FR、左前輪用のホイールシリンダ20FL、右後輪用のホイールシリンダ20RRおよび左後輪用のホイールシリンダ20RLに接続されている。以下適宜、増圧弁40FR〜40RLを総称して「増圧弁40」という。増圧弁40は、いずれも、非通電時は閉じた状態にあり、必要に応じてホイールシリンダ20の増圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。
【0024】
また、右前輪用のホイールシリンダ20FRと左前輪用のホイールシリンダ20FLとは、それぞれ減圧弁42FRまたは42FLを介して油圧給排管28に接続されている。減圧弁42FRおよび42FLは、必要に応じてホイールシリンダ20FR,20FLの減圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。一方、右後輪用のホイールシリンダ20RRと左後輪用のホイールシリンダ20RLとは、常開型の電磁流量制御弁である減圧弁42RRまたは42RLを介して油圧給排管28に接続されている。以下、適宜、減圧弁42FR〜42RLを総称して「減圧弁42」という。
【0025】
右前輪用、左前輪用、右後輪用および左後輪用のホイールシリンダ20FR〜20RL付近には、それぞれ対応するホイールシリンダ20に作用するブレーキフルードの圧力であるホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ44FR,44FL,44RRおよび44RLが設けられている。以下、適宜、ホイールシリンダ圧センサ44FR〜44RLを総称して「ホイールシリンダ圧センサ44」という。
【0026】
上述の右マスタカット弁22FRおよび左マスタカット弁22FL、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL、オイルポンプ34、アキュムレータ50等は、ブレーキ制御装置10の油圧アクチュエータ80を構成する。そして、かかる油圧アクチュエータ80は、本実施形態における制御部としての電子制御ユニット(以下「ECU」という)200によって制御される。ECU200は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、入出力インターフェース、メモリ等を備える。
【0027】
図2は、アキュムレータ50の断面図を示す。アキュムレータ50は、円筒状に形成されたシェル58と、シェル58の内部に配置される金属製のベローズ64から構成される。シェル58は、円筒状の壁部60と、壁部60の上側に接合される上底部86と、壁部60の下側に接合される下底部92とに分割して形成され、各部材は溶接にて接合される。ベローズ64は、薄い鋼板により円筒蛇腹状に形成されている。
【0028】
ベローズ64は、一端がシェル58の上部に固定され、シェルの軸方向に伸縮可能に配置されている。ベローズ64の下端には、ベローズ64の開口部を封止するベローズキャップ70が嵌合されている。ベローズキャップ70の外周には、伸縮時にキャップとシェル58の内壁との間で発生する振動を抑えるための制振リング66が取り付けられている。ベローズキャップ70によって、シェル58の内部空間は、ベローズ内側のガス室72と、ベローズキャップ70、シェルの下底部92および円筒状の壁部60とで形成される油室90とに分離される。ガス室72には窒素ガスが封入され、油室90にはブレーキフルードが満たされる。
【0029】
シェル58の上底部86には、ガス室72に窒素ガスを導入するためのガス孔62が形成されている。ガス室72内にガスを導入した後、ガス孔62はガスプラグ84で塞がれる。ガスプラグ84は、六角ナット82でシェルの上底部86に固定される。
【0030】
シェル58の下底部92には、油室90を外部に連通させるとともに、高圧管30からのブレーキフルードを油室90に導くためのオイルポート74が形成されている。
【0031】
ベローズ64の内側には、ベローズ64の所定長さ以上の収縮を防止するためのストッパ88が設けられている。ストッパ88は円筒形状をなしており、図示しない台座を介してベローズ64と同心軸上に配置される。ベローズ64が収縮すると、ベローズキャップ70とストッパ88の下端とが接触して、それ以上の収縮が防止される。
【0032】
続いて、アキュムレータ50の動作について説明する。アキュムレータに油圧が付加されていないとき、ベローズ64は軸方向に伸びた状態で停止している。この状態で、油圧回路に接続されたオイルポート74の圧力がガス室72の圧力よりも増大すると、オイルポート74から油室90に流入するブレーキフルードによってベローズキャップ70が押圧され、ガス室72の容積が小さくなるようにベローズ64が圧縮される。オイルポート74の圧力がガス室72の圧力よりも小さくなると、ガス室72の容積が大きくなるようにベローズ64が伸張して、元の状態に復帰する。このように、油圧回路に生じる圧力変化に対応してベローズ64が伸縮を繰り返すことにより、油圧の蓄圧や脈動吸収が行われる。アキュムレータの構造自体は周知なので、本明細書ではこれ以上詳細な説明を省略する。
【0033】
上述したように、ベローズ64が大きく収縮すると、ベローズキャップ70とストッパ88の下端とが当接する。しかしながら、たとえストッパが設けられていても、特に薄膜化されたベローズを使用する場合、ベローズキャップとストッパの接触をできる限り回避するようにアキュムレータ圧(ACC圧)が制御されることが好ましい。なぜなら、ベローズキャップとストッパとの接触回数が増大すると、ベローズキャップとベローズの嵌合部や、ベローズとシェルとの接合部に負担がかかり、嵌合部に配置されているOリングや接合部の溶接箇所等の劣化が進み、ベローズの耐久性が低下するからである。
【0034】
また、ストッパ88が台座から外れていたり、ストッパ88そのものが潰れていたりすると、所望の位置でベローズキャップと当接できなくなり、ベローズの過度の収縮を阻止できない可能性がある。ベローズが過収縮により変形してしまうと、アキュムレータ内に想定以上のブレーキフルードが流れ込み、代わりにホイールシリンダに本来の量のブレーキフルードが流れなくなるおそれがある。また、ストッパによってベローズが傷つけられてしまうおそれもある。
【0035】
そこで、本実施形態では、ベローズキャップとストッパとの当接を防止するようにアキュムレータ圧を制御し、また、アキュムレータ内に設けられたストッパの損傷を検出する方法を提供する。
【0036】
図3は、図1のECU200のうち、本実施形態に係るアキュムレータ制御部100に関与する部分の機能ブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0037】
アキュムレータ制御部100は、ストッパ当たり検出部110と、ストッパ当たり防止部120と、ストッパ損傷検出部130と、損傷時制御部140とを含む。
【0038】
ストッパ当たり検出部110は、アキュムレータ50において、ベローズキャップ70とストッパ88とが接触する直前の圧力を測定する。ストッパ当たり検出部110は、モータ制御部112と上限圧測定部114とを含む。
【0039】
モータ制御部112は、モータ32を動作させてポンプ34を駆動し、予め設定されているアキュムレータの封入圧から開始してリリーフ圧に向けて徐々にアキュムレータ圧を増加させていく。この過程において、ベローズキャップ70とストッパ88が接触した時点でアキュムレータ圧が急激に上昇する点(以下、この点を「折れ点」と呼ぶ)が表れる。上限圧測定部114は、アキュムレータ圧の上昇勾配を監視することでこの折れ点を検出し、折れ点に到達した時のアキュムレータ圧を上限圧として設定する。ストッパ当たり検出部110による上限圧の測定は、アキュムレータを搭載した車両が出荷される前に実施することが好ましい。
【0040】
ストッパ当たり防止部120は、ストッパ当たり検出部110によって上限圧を検出して以降、ベローズキャップ70とストッパ88との当接が発生しないようにアキュムレータ圧を制御する。ストッパ当たり防止部120は、上限圧保持部122、モータ制御部124および上限圧補正部126を含む。
【0041】
上限圧保持部122は、上限圧測定部114で測定されたアキュムレータ圧の上限圧を受け取り保持する。上限圧補正部126は、アキュムレータ50の近傍に配置された温度センサ(図示せず)により検出された温度を受け取り、この温度に基づき、予め準備されている計算式にしたがってアキュムレータ上限圧を温度補正する。
【0042】
この温度補正は、アキュムレータ圧の実際の制御時におけるアキュムレータの周囲温度が、上限圧測定部114による上限圧の測定時よりも低い場合に実施されることが特に好ましい。アキュムレータの周囲温度が低下するとガス室の封入圧も低下するため、上限圧のブレーキフルードが油室に供給される以前にストッパがベローズキャップに当接してしまうからである。
【0043】
上限圧補正部126は、上限圧をP、上限圧測定部114により最初に上限圧が測定されたときの温度をt、補正時の気温をt、補正係数をc(c>0)としたとき、補正後の上限圧Pを次式にしたがって計算する。
=P−c(t−t) (1)
補正係数cは、実験またはシミュレーションにより決定される。式(1)を用いず、所与のマップにしたがってPaを求めてもよい。また、上述の趣旨から、補正時の気温よりも最初に上限圧を測定したときの気温の方が小さい場合は、上限圧の補正をしなくてもよい。
【0044】
モータ制御部124は、車両の通常走行時には、上限圧補正部126によって補正された上限圧をアキュムレータ圧が超えないように、アキュムレータ50に蓄圧するポンプ34を駆動するモータ32を制御する。例えば、アキュムレータ圧が補正後の上限圧に到達する前にモータをオフにしたり、またはアキュムレータ圧が補正後の上限圧に近づくにつれて、モータ回転数を低下させたりする。
【0045】
ストッパ損傷検出部130は、何らかの原因によってストッパ88が損傷しているために、例えば、ストッパ88が台座から外れていたりまたはストッパ88自体が損傷しているために、ベローズキャップと当接してベローズの収縮を防止できない状態を検出する。ストッパ損傷検出部130は、上限圧再測定部132と上限圧比較部134とを含む。
【0046】
上限圧再測定部132は、所定のタイミング(例えば、エンジンの再起動時)で、予め設定されているアキュムレータの封入圧から開始してリリーフ圧に向けて徐々にアキュムレータ圧を増加させていく。この過程において上述の折れ点を検出し、折れ点に到達した時のアキュムレータ圧を再測定上限圧として取得する。上限圧比較部134は、取得された再測定上限圧を上述の式(1)にしたがって温度補正した値と、上限圧保持部122に保持されている上下圧の初期値とを比較する。そして、所定のしきい値以上の差分がある場合、ストッパ88が損傷していると判定する。これは、ストッパが正常であれば、温度補正された上限圧の近傍に折れ点が生じるという仮定に基づいている。
【0047】
損傷時制御部140は、ストッパ損傷検出部130によってストッパが損傷したと判定されたときに、ベローズ64の過収縮が起こらないようにモータを制御する。損傷時制御部140は、ストッパ損傷検出部130からストッパが損傷したという情報を受け取ると、上限圧保持部122から上限圧の初期値を取得するか、または、上限圧補正部126によって最後に補正された補正後の上限圧を取得する。そして、損傷時制御部140は、アキュムレータ圧が上記上限圧の初期値または補正後の上限圧を超えないように、モータ32を制御する。
【0048】
このような損傷時制御を行うのは、ストッパの損傷を他の部分の損傷につなげないために重要である。例えば、ストッパが台座から外れてしまっているような場合、そのままにしておいてもブレーキの動作には何の影響もない。しかし、ストッパが正常な位置にないにもかかわらず、アキュムレータ圧を上昇させてベローズとストッパとが接触してしまうと、ベローズ自体を損傷してしまうことが起こりえる。上述の損傷時制御によって、このような損傷の連鎖を防止することができる。
【0049】
図4は、上限圧測定部114による折れ点の検出を説明する図である。
上述のように、モータ制御部112は、封入圧からリリーフ圧までアキュムレータ圧徐々に増加させていく。アキュムレータ圧が増加していくと、ベローズキャップ70とストッパ88とが当接した時点で、アキュムレータ圧の上昇勾配が変化する。したがって、上限圧測定部114は、アキュムレータ圧の上昇勾配が変化する折れ点(図4中の点A)を任意の方法で検出し、折れ点に対応するアキュムレータ圧を上限圧として設定する。
【0050】
図5は、アキュムレータ制御部100によるストッパ当たり防止制御のフローチャートである。
まず、ストッパ当たり検出部110は、車両の出荷前に、上述の方法でアキュムレータ圧の上限圧を測定する(S10)。上限圧補正部126は、アキュムレータの周囲温度を測定し(S12)、この温度に基づき上限圧を補正する(S14)。モータ制御部124は、アキュムレータ圧が補正後の上限圧を超えないようにモータを制御する(S16)。なお、補正された上限圧でもって上限圧の初期値を書き換えるようにしてもよい(S18)。この場合、S14における温度補正は、前回の補正後上限圧に対して実施される。
【0051】
上述したように、アキュムレータの周囲温度が低下するとガス室の封入圧が低下するため、アキュムレータ圧が上限圧以下であってもストッパにベローズキャップが接触してしまうことが生じ得る。図5に示したように、上限圧を温度補正することによって、アキュムレータが低温状態にあるときでもベローズキャップとストッパとの接触を回避することができる。
【0052】
図6は、アキュムレータ制御部100によるストッパ損傷判定のフローチャートである。
まず、ストッパ損傷検出部130は、損傷判定をするための適切なタイミングであるか否かを判定する(S30)。ブレーキ作動中などのように、適切なタイミングでない場合(S30のN)、このフローを終了する。適切なタイミングである場合(S30のY)、上限圧再測定部132はアキュムレータ圧を徐々に増加させていく(S32)。上限圧再測定部132は、上述したアキュムレータ圧の上昇勾配に基づき折れ点を検出し、上限圧の再測定を実施する(S34)。そして、上限圧比較部は、再測定された上限圧と初期上下圧とを比較する(S36)。上限圧比較部134は、温度補正後の再測定上限圧と初期上限圧との間の差分が許容範囲以内であるかを判定する(S38)。具体的には、上限圧の初期値をP、温度補正係数をC(t)、再測定上限圧をPとしたとき、次式が成り立つか否かを判定する。
C(t)・P−P<B (2)
但し、Bは許容誤差を表す。
【0053】
式(2)を満たす場合(S38のN)、このフローを終了する。式(2)を満たさない場合(S38のY)、上限圧比較部134は、再測定上限圧Pが初期値から予測される範囲から大きくずれていることから、アキュムレータ内のストッパが損傷しており、その結果ベローズキャップがストッパと当接せずに収縮した状態となっていると判定する(S40)。ストッパが損傷している場合、ベローズキャップとストッパとが当接することはないので、折れ点の再検出、すなわち上限圧の再測定ができなくなる。したがって、損傷時制御部140は、上限圧の初期値、または最後に補正された上限圧を上限圧保持部122から取得する。そして、この時点以降は、上限圧の温度補正等を実施することなく、単にアキュムレータ圧が取得した上限圧を超えないようにモータを制御する(S42)。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば、アキュムレータ内に設けられたストッパとベローズキャップとが当接するときのアキュムレータ圧の上限圧を予め測定しておき、通常時はベローズキャップとストッパとが当接しない範囲内でアキュムレータ圧を制御する。このアキュムレータ圧の上限圧は温度補正されるため、たとえ上限圧の測定が高温時に行われ、実際のアキュムレータ圧の制御が低温時に行われた場合でも、ベローズキャップとストッパとの当接を回避することができる。
【0055】
また、定期的に上限圧の再測定を実施し、再測定された上限圧の温度補正値と上限圧の初期値との比較に基づき、ストッパの損傷を検出することができる。損傷が検出された場合、上限圧の初期値または最後に補正された上限圧を超えないようにアキュムレータ圧を制御する。これによって、ストッパが損傷した場合でも、ベローズが収縮し過ぎないようにアキュムレータ圧を制御することができる。
【0056】
以上、本発明をいくつかの実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態はあくまで例示であり、実施の形態どうしの任意の組合せ、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスの任意の組合せなどの変形例もまた、本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0057】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置を示す系統図である。
【図2】アキュムレータの断面図である。
【図3】アキュムレータ制御部の機能ブロック図である。
【図4】上限圧再測定部による折れ点の検出を説明する図である。
【図5】ストッパ当たり防止制御のフローチャートである。
【図6】ストッパ損傷判定のフローチャートである。
【符号の説明】
【0059】
50 アキュムレータ、 58 シェル、 60 壁部、 62 ガス孔、 64 ベローズ、 66 制振リング、 70 ベローズキャップ、 72 ガス室、 74 オイルポート、 82 六角ナット、 84 ガスプラグ、 86 上底部、 88 ストッパ、 90 油室、 92 下底部、 100 アキュムレータ制御部、 110 ストッパ当たり検出部、 112 モータ制御部、 114 上限圧測定部、 120 ストッパ当たり防止部、 122 上限圧保持部、 124 モータ制御部、 126 上限圧補正部、 130 ストッパ損傷検出部、 132 上限圧再測定部、 134 上限圧比較部、 140 損傷時制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アキュムレータのシェル内部の底面に一端が固定され、軸方向に伸縮自在にされたベローズと、
前記ベローズの他端に取り付けられ、アキュムレータのシェル内を油室とガス室とに分離するベローズキャップと、
前記ベローズキャップと当接することでベローズの収縮量を規制するストッパと、
前記アキュムレータ内の圧力を検出するセンサと、
モータにより駆動され前記アキュムレータに蓄圧するポンプと、
前記ベローズキャップが前記ストッパと当接するときのアキュムレータ圧である上限圧を測定する上限圧測定手段と、
アキュムレータ圧が前記上限圧を超えないように前記モータの動作を制御するモータ制御手段と、
を備えることを特徴とするアキュムレータ制御装置。
【請求項2】
前記アキュムレータの周囲温度を測定する温度センサと、
前記上限圧測定手段により上限圧が測定されたときの温度と、前記温度センサにより測定された温度との差分に基づき、前記上限圧を温度補正する補正手段と、をさらに備え、
前記モータ制御手段は、アキュムレータ圧が補正された上限圧を超えないように前記モータの動作を制御することを特徴とする請求項1に記載のアキュムレータ制御装置。
【請求項3】
前記上限圧の測定後に所定のタイミングで、前記ベローズキャップが前記ストッパと当接するときのアキュムレータ圧である再測定上限圧を測定する上限圧再測定手段と、
前記補正手段により補正された再測定上限圧と前記上限圧との差分が予め定められたしきい値以上であるとき、前記ストッパが損傷していると判定する損傷検出手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載のアキュムレータ制御装置。
【請求項4】
前記損傷検出手段によってストッパが損傷していると判定されたとき、アキュムレータ圧が前記再測定上限圧を超えないように前記モータの動作を制御する損傷時制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載のアキュムレータ制御装置。
【請求項5】
前記ストッパが前記ベローズの内側に配置されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のアキュムレータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−1962(P2010−1962A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161011(P2008−161011)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】