説明

アスベスト含有物処理炉およびアスベスト含有物処理システム

【課題】熱処理に要するエネルギーが比較的小さく、かつ有害な二次生成物の発生を抑制可能なアスベスト含有物処理炉およびアスベスト含有物処理システムを提供することを課題とする。
【解決手段】アスベスト含有物処理炉3は、軸回りに回転可能であって、カルシウムとアスベストとを含む被処理物Oを軸方向に流動させる管体30と、被処理物Oにマイクロ波を照射するマイクロ波照射部34と、を備えている。被処理物Oにマイクロ波を照射することにより、被処理物Oを外面からのみならず内部から熱処理することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば家屋やビルなどの解体時に排出されるアスベストを無害化(低害化を含む。以下同じ。)するためのアスベスト含有物処理炉およびアスベスト含有物処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、アスベスト含有物を溶融処理することにより、アスベストを無害化する処理方法が紹介されている。同文献記載の処理方法によると、アスベスト含有物をドラム缶に詰め、当該ドラム缶を搬送し、搬送後のドラム缶を約1500℃の高温雰囲気下で熱処理することにより、アスベスト含有物を溶融処理している(同文献の[0017]参照)。
【特許文献1】特開2006−43620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、同文献記載の処理方法によると、アスベスト含有物を約1500℃という高温まで昇温する必要がある。つまり、熱処理温度を高くする必要がある。並びに、アスベスト含有物は、比較的高い断熱性を有している。このため、アスベスト含有物の内部にまで熱を行き渡らせるためには、高温環境を保持する時間(つまり熱処理時間)を長くする必要がある。このように、同文献記載の処理方法によると、熱処理に多大なエネルギーが必要となる。
【0004】
ここで、熱処理温度を低くするため、アスベスト含有物にナトリウムなどのアルカリ、あるいはフッ素などを加えて、低温溶融させる処理方法も考えられる。しかしながら、この処理方法の場合、不可避的にソーダやフッ化物などの有害な二次生成物が発生してしまう。このため、有害な二次生成物を無害化するための設備が別途必要となる。
【0005】
本発明のアスベスト含有物処理炉およびアスベスト含有物処理システムは、上記課題に鑑みて完成されたものである。したがって、本発明は、熱処理に要するエネルギーが比較的小さく、かつ有害な二次生成物の発生を抑制可能なアスベスト含有物処理炉およびアスベスト含有物処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記課題を解決するため、本発明のアスベスト含有物処理炉は、軸回りに回転可能であって、カルシウムとアスベストとを含む被処理物を、軸方向に流動させる管体と、該被処理物にマイクロ波を照射するマイクロ波照射部と、を備えてなることを特徴とする。
【0007】
つまり、本発明のアスベスト含有物処理炉は、被処理物にマイクロ波を照射することにより、被処理物を外面からのみならず内部から熱処理するものである。上述したように、アスベスト含有物は断熱性が高い。このため、アスベスト含有物の外面のみから熱処理を施しても、内部まで熱が伝達しにくい。
【0008】
そこで、本発明者は、アスベスト含有物中のカルシウムに着目している。すなわち、アスベストは、例えばセメントや石膏などのカルシウム含有物に混入している場合が多い。言い換えると、アスベスト含有物は、アスベストに加えて、カルシウムを含有している場合が多い(本明細書では、カルシウムを含有するアスベスト含有物を、「被処理物」という。)。
【0009】
カルシウムは、アスベストと比較して、マイクロ波を吸収しやすい。このため、被処理物にマイクロ波を照射すると、マイクロ波は、被処理物中に分布するカルシウム成分(例えば酸化カルシウム(CaO)など)に、選択的に吸収される。マイクロ波を吸収したカルシウム成分は、発熱し昇温する。したがって、昇温したカルシウム成分と、当該カルシウム成分に隣接するアスベスト繊維との間に、微視的な非熱平衡、つまり微視的なスケールで大きな温度差が発生する。当該温度差は、被処理物におけるカルシウム成分の分布に応じて発生する。当該温度差により、カルシウム成分とアスベスト繊維との境界付近では、瞬間的に、変性や化学反応が起こる。その後、カルシウム成分からアスベスト繊維への熱伝導により、アスベスト繊維が加熱される。当該過程を経ることにより、発ガン性因子と言われるアスベストの針状結晶構造は、熱変性したり粒状へ移行または崩壊する。このようにして、アスベストが無害化される。
【0010】
本発明のアスベスト含有物処理炉によると、被処理物におけるカルシウム成分の分布に応じて、被処理物の外面あるいは内部から、アスベストを無害化することができる。このため、熱処理温度を比較的低くすることができる。また、熱処理時間を比較的短くすることができる。すなわち、熱処理に要するエネルギーが比較的小さくて済む。
【0011】
また、本発明のアスベスト含有物処理炉によると、熱処理温度が比較的低いにもかかわらず、被処理物にアルカリやフッ素などを加える必要がない。このため、有害な二次生成物の発生を抑制することができる。
【0012】
ところで、アスベスト含有物からは、例えばトラックなどによる輸送の際にも、アスベストが飛散する可能性がある。このため、アスベスト含有物が実際に使われている現場(例えば建物取り壊し現場)から処理炉まで、アスベスト含有物を輸送する際にも、例えば梱包方法など、取り扱いにおいて厳重な注意が必要である。したがって、輸送せずに現場でアスベストを無害化したいというニーズが極めて高い。
【0013】
ここで、仮に、処理炉としてバッチ炉を用いる場合、処理速度(例えば一日あたりの処理量)を速くするためには、比較的大きな容量の炉内空間が必要となる。このため、必然的に処理炉が大型化してしまう。したがって、現場に搬入できる程度に、処理炉を小型化するのは困難である。
【0014】
これに対して、本発明のアスベスト含有物処理炉によると、被処理物を流動させながら、連続的に熱処理することができる。このため、現場に搬入できる程度に、炉体を小型化することができる(勿論小型化しなくてもよい)。したがって、炉体を小型化した場合、現場でアスベストを無害化することができる。
【0015】
(2)好ましくは、さらに、前記被処理物を、該被処理物の外面から加熱する加熱部を備える構成とする方がよい。ここで、「被処理物の外面」とは、被処理物において管体の内部空間に表出している面のみならず、管体の内周面に当接している面をも含む。本構成によると、マイクロ波照射部と加熱部とにより、被処理物に熱処理を施すことができる。このため、より迅速に熱処理を施すことができる。
【0016】
(3)好ましくは、前記管体の内周面の軸直方向断面は、多角形状を呈している構成とする方がよい。仮に、管体の内周面の軸直方向断面が円形を呈している場合、円の中心付近つまり管体の軸付近に、マイクロ波が集中してしまう。このため、管体内部において、熱処理の程度にばらつきが出るおそれがある。これに対して、本構成によると、マイクロ波照射部から射出されたマイクロ波が、多角形状の管体の内周面により、あらゆる方向に反射される。このため、管体内部におけるマイクロ波分布の集中を抑制することができる。
【0017】
(4)また、上記課題を解決するため、本発明のアスベスト含有物処理システムは、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のアスベスト含有物処理炉と、該アスベスト含有物処理炉から排出されたマイクロ波照射済みの前記被処理物を、流動させながら冷却する冷却装置と、該アスベスト含有物処理炉から排出された排ガスを、外部環境に放出可能に処理する排ガス処理装置と、を備えてなることを特徴とする。
【0018】
本発明のアスベスト含有物処理システムによると、熱処理つまり無害化のみならず、無害化後の被処理物の冷却までも、連続的に行うことができる。このため、処理速度をさらに迅速化することができる。並びに、被処理物から排出される排ガスも処理することができる。このため、アスベスト含有物の無害化に必要なあらゆる処理を、総合的に実施することができる。
【0019】
(5)好ましくは、上記(4)の構成において、前記アスベスト含有物処理炉と前記冷却装置とは、上下方向に積層配置されており、搬送可能にユニット化されている構成とする方がよい。
【0020】
本構成によると、アスベスト含有物処理炉と冷却装置とが、あたかも二階建ての建物のように、上下方向に並んで配置されている。このため、設置スペース(水平面投影面積)が小さくて済む。また、設置スペースが小さいため、例えばトラックや船舶や航空機などにより、搬送可能である。したがって、アスベスト含有物が実際に使われている現場に、簡単に搬入することができる。すなわち、現場でアスベストを無害化することができる。
【0021】
好ましくは、アスベスト含有物処理炉を上方に冷却装置を下方に配置する方がよい。アスベスト含有物処理炉で発生した排ガスは、比較的温度が高いため上方に移動しやすい。このため、本構成によると、排ガスが冷却装置に侵入しにくい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、熱処理に要するエネルギーが比較的小さく、かつ有害な二次生成物の発生を抑制可能なアスベスト含有物処理炉およびアスベスト含有物処理システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明のアスベスト含有物処理炉およびアスベスト含有物処理システムの実施の形態について説明する。
【0024】
<第一実施形態>
まず、本実施形態のアスベスト含有物処理システム(以下、適宜「処理システム」と略称する。)の構成について説明する。図1に、本実施形態の処理システムの概要図を示す。図1に示すように、処理システム1は、主に、ホッパー2とロータリーキルン3と連結管4とロータリークーラー5と排ガス処理装置6とを備えている。このうち、ロータリーキルン3は、本発明のアスベスト含有物処理炉に含まれる。また、ロータリークーラー5は、本発明の冷却装置に含まれる。
【0025】
ホッパー2は、下方に縮径するテーパ筒状を呈している。ホッパー2は、蓋付きの密閉式である。ホッパー2には、被処理物Oが貯蔵されている。被処理物Oは、セメントとアスベストとを含んでいる。また、セメントは、酸化カルシウムを含んでいる。ホッパー2の下部には、水平方向に延在する被処理物供給管20が、接続されている。被処理物供給管20の内部には、スクリューフィーダー21が配置されている。ホッパー2の底部から流下した被処理物Oは、スクリューフィーダー21により、水平方向に搬送される。
【0026】
ロータリーキルン3は、主に、管体30と加熱部31と上流側フード32と下流側フード33とマイクロ波照射部34とを備えている。加熱部31は、直方体箱状を呈している。加熱部31の内面には、電気式のヒーター310a、310bが、ジグザグに配索されている。加熱部31の内部には、後述する管体30の本体300が、軸回りに回転可能に、貫通している。
【0027】
マイクロ波照射部34は、マイクロ波発生装置34a、34cと、導波管340a、340cとを備えている。マイクロ波発生装置34a、34cおよび導波管340a、340cは、被処理物供給管20を中心とする同心円上に、合計四つ配置されている。隣り合うマイクロ波発生装置同士、および導波管同士は、各々、90°ずつ離間している(図1においては、0°位置(最上位置)のマイクロ波発生装置34a、導波管340aと、180°位置(最下位置)のマイクロ波発生装置34c、導波管340cとを示している。)。
【0028】
図2に、本実施形態の処理システムのロータリーキルン3の管体30の合体斜視図を示す。図3に、同管体30の部分分解斜視図を示す。説明の便宜上、図2、図3において、加熱部31は透過して点線で示す。図2、図3に示すように、管体30は、本体300と上流側円筒部301と下流側円筒部302とを備えている。管体30は、自身の軸を中心に、周方向に回転可能である。
【0029】
本体300は、ステンレス製であって、略水平方向に延びた六角筒状を呈している。具体的には、本体300の内周面の軸直方向断面は、正六角形状を呈している。また、当該正六角形の図心は、管体30の回転軸上に配置されている。本体300の軸方向一端(上流端)には、円形の導入口300aが開設されている。導入口300aの中心は、前記正六角形の図心と一致している。導入口300aの中心には、前記被処理物供給管20の下流端が挿入されている。また、前述したように、被処理物供給管20の周囲には、マイクロ波照射部34の導波管340a〜340dが、90°ずつ離間して配置されている。導波管340a〜340dも、被処理物供給管20と共に、導入口300aに挿入されている。
【0030】
上流側円筒部301は、本体300の上流端に環装されている。上流側円筒部301は、円筒301aと三枚の仕切板301b〜301dとタイヤ301eとを備えている。円筒301aは、ステンレス製であって、本体300の上流端の外周面を覆っている。円筒301a内周面(断面円形)と本体300外周面(断面正六角形)との間には、隙間が介在している。仕切板301b〜301dは、当該隙間を埋めるように配置されている。具体的には、仕切板301b〜301dは、ステンレス製であって、リング状を呈している。仕切板301b〜301dの外周面は、円筒301a内周面と同径の円形を呈している。並びに、仕切板301b〜301dの内周面は、本体300外周面と型対称の正六角形状を呈している。これら三枚の仕切板301b〜301dは、本体300の軸方向外側から内側に向かって、仕切板301b、301c、301dの順に、所定間隔ずつ離間して配置されている。一方、円筒301aの外周面には、鋼鉄製のタイヤ301eが固定されている。タイヤ301eは、一対のローラー90(図2、図3では片方のみ示す。)の上に搭載されている。一対のローラー90のうち、片方が回転駆動することにより、タイヤ301eつまり管体30が軸回りに回転する。また、円筒301aの下流端外周面には、加熱部31の上流側開口311が、シール部材(図略)を介して、相対的に回転可能に当接している。
【0031】
下流側円筒部302は、本体300の下流端に環装されている。下流側円筒部302は、円筒302aと三枚の仕切板302d(図2、図3では一枚のみ示す。)とタイヤ302eとを備えている。下流側円筒部302の構成は、前記上流側円筒部301の構成と同様である。したがって、ここでは説明を割愛する。タイヤ302eは、一対のローラー91(図2、図3では片方のみ示す。)の上に搭載されている。一対のローラー91のうち、片方が回転駆動することにより、タイヤ302eつまり管体30が軸回りに回転する。また、円筒302aの上流端外周面には、加熱部31の下流側開口312が、シール部材(図略)を介して、相対的に回転可能に当接している。
【0032】
図1に戻って、上流側フード32は、直方体箱状を呈している。上流側フード32の側壁には、上流側フード開口320が開設されている。上流側フード開口320には、前記上流側円筒部301の上流端外周面(具体的には、図2、図3の円筒301aの上流端外周面)が、シール部材(図略)を介して、相対的に回転可能に収容されている。また、上流側フード32の頂壁には、排ガス配管92が接続されている。
【0033】
下流側フード33は、上部が部分弧状で下部が尖った箱状を呈している。下流側フード33の側壁には、下流側フード開口330が開設されている。下流側フード開口330には、前記下流側円筒部302の下流端外周面(具体的には、図2、図3の円筒302aの下流端外周面)が、シール部材(図略)を介して、相対的に回転可能に収容されている。
【0034】
排ガス処理装置6は、排ガス処理炉60と集塵装置61とブロワ62とガス排出口63とを備えている。排ガス処理装置6は、排ガス配管92を介して、上流側フード32と連通している。これらの部材は、排ガスの流れ方向に従って、排ガス処理炉60、集塵装置61、ブロワ62、ガス排出口63の順に、直列に配置されている。
【0035】
連結管4は、ロータリーキルン3の下流側フード33の底部に接続されている。連結管4は、L字状を呈している。連結管4の管径は、マイクロ波照射部34から照射されたマイクロ波(波長2.45GHz)が連結管4下流側に漏出しない程度に、小径に設定されている。すなわち、連結管4の管径によりマイクロ波がシールされている。
【0036】
ロータリークーラー5は、主に、管体50と冷却部51と上流側フード52と下流側フード53とを備えている。ロータリークーラー5は、ロータリーキルン3の下方に配置されている。管体50は、ステンレス製であって、略水平方向に延びた円筒状を呈している。管体50は、自身の軸を中心に、周方向に回転可能である。管体50の外周面には、軸方向に所定間隔離間して、一対のタイヤ54、55が配置されている。タイヤ54は一対のローラー93上に、タイヤ55は一対のローラー94上に、それぞれ搭載されている。また、タイヤ54はローラー93により、タイヤ55はローラー94により、それぞれ回転駆動されている。
【0037】
冷却部51は、直方体箱状を呈している。冷却部51には、クーリングタワー510が併設されている。冷却部51とクーリングタワー510との間には、冷却水が循環している。管体50は、冷却部51を貫通している。
【0038】
上流側フード52は、直方体箱状を呈している。上流側フード52の側壁には、上流側フード開口520が開設されている。上流側フード開口520には、管体50の上流端外周面が、シール部材(図略)を介して、相対的に回転可能に収容されている。
【0039】
下流側フード53は、上部が部分弧状で下部が尖った箱状を呈している。下流側フード53の側壁には、下流側フード開口530が開設されている。下流側フード開口530には、管体50の下流端外周面が、シール部材(図略)を介して、相対的に回転可能に収容されている。下流側フード53の底部には、排出口531が開設されている。
【0040】
次に、本実施形態の処理システム1における被処理物Oの流れについて説明する。図1に示すように、被処理物Oはホッパー2に収容されている。ホッパー2内の被処理物Oは、ホッパー2の底部から、スクリューフィーダー21により、ロータリーキルン3の管体30の導入口300a内部に投入される。ここで、管体30つまり本体300は、上流端から下流端に向かって、若干下向きに傾斜している。このため、被処理物Oは、本体300の回転により、本体300内を徐々に下流側に移動する。
【0041】
図4に、図3のIV−IV断面図を示す。なお、説明の便宜上、スクリューフィーダーおよび加熱部は省略して示す。図4に示すように、被処理物Oは、本体300内を移動する途中で、加熱部対応区間(管体30において加熱部内部に配置されている区間)を通過する。この際、被処理物Oは、矢印A1で示すように、本体300の外径側から、加熱部のヒーター(図略)により加熱される。ヒーターの熱は、本体300の管壁を介して、被処理物Oに伝達される。このため、被処理物Oは、外面から加熱されることになる。
【0042】
一方、導波管340a〜340dからは、マイクロ波発生装置(図略)のマグネトロンで発生したマイクロ波が、矢印A2で示すように、発射される。ここで、本体300の内周面の軸直方向断面は、正六角形状を呈している。このため、発射されたマイクロ波は、矢印A3で示すようにあらゆる方向に反射され、本体300の隅々にまで行き渡る。被処理物Oのカルシウム成分は、本体300内を伝播するマイクロ波を吸収し、発熱する。このため、被処理物Oは、カルシウム成分の分布に応じて、外面および内部から加熱されることになる。マイクロ波照射部による熱処理により、被処理物O内のカルシウム成分とアスベスト繊維との間には、微視的なスケールで大きな温度勾配が発生する。このため、カルシウム成分とアスベスト繊維との境界付近では、瞬間的に、変性や化学反応が起こる。その後、カルシウム成分からアスベスト繊維への熱伝導により、アスベスト繊維が加熱される。並びに、加熱部からの熱伝導により、アスベスト繊維が加熱される。当該過程を経ることにより、発ガン性因子と言われるアスベストの針状結晶構造は、熱変性したり粒状へ移行または崩壊する。このようにして、被処理物Oが無害化される。なお、被処理物Oの熱処理温度は1050℃に設定されている。また、熱処理時間は1時間に設定されている。
【0043】
図1に戻って、無害化された被処理物Oは、連結管4を介して、ロータリークーラー5の管体50の上流端に投入される。管体50内を下流側に移動する際、高温の無害化済み被処理物Oは、冷却部51の冷却水と、管体50の管壁を介して、熱交換を行う。当該熱交換により無害化済み被処理物Oは冷却される。約80℃にまで冷却された無害化済み被処理物Oは、排出口531から外部環境に排出される。一方、熱交換により加熱された冷却水あるいは水蒸気は、クーリングタワー510において再度冷却される。
【0044】
次に、本実施形態の処理システム1における排ガスの流れについて簡単に説明する。図1に示すように、熱処理の際、被処理物Oからは、排ガス(水蒸気、乾留ガスなど)が発生する。発生した排ガスは、上流側フード32の頂壁に接続された排ガス配管92に流入する。流入した排ガスは、排ガス処理炉60を通過する。排ガス処理炉60は、熱処理炉であり、排ガスの臭気を除去する。臭気除去後の排ガスは、集塵装置61を通過する。集塵装置61は、HEPA(High Efficiency Particulate AirFilter)フィルターであり、排ガス中に分散したアスベストを除去する。アスベスト除去後の排ガスは、吸引用のブロワ62を通過し、ガス排出口63から外部環境に放出される。
【0045】
次に、本実施形態のロータリーキルン3および処理システム1の作用効果について説明する。本実施形態の処理システム1によると、排出口531から排出された被処理物Oは無害化されている。このため、特殊な容器、袋等にアスベスト含有物を収容しなくてもよい。したがって、取扱いが簡単である。
【0046】
また、本実施形態のように、熱処理により水蒸気や揮発性ガスが発生する被処理物Oを無害化する場合は、被処理物Oを減容化することができる。このため、無害化済み被処理物Oの搬送コストを削減することができる。
【0047】
また、ロータリーキルン3は、いわゆる外熱式のロータリーキルンである。このため、内熱式のロータリーキルンと比較して、排ガス量が少ない。したがって、集塵装置61を小型化することができる。
【0048】
また、本実施形態のロータリーキルン3によると、被処理物Oは、加熱部31により外面から、マイクロ波照射部34により外面および内部から、それぞれ加熱されることになる。このため、被処理物Oの断熱性が高いにもかかわらず、より迅速に被処理物O全体を加熱することができる。したがって、熱処理時間を短縮することができる。また、本実施形態のロータリーキルン3の場合、被処理物O全体を溶融させる必要はなく、針状のアスベスト繊維を、熱変性させたり粒状へ移行または崩壊させるだけで充分である。このため、熱処理温度を低くすることができる。このように、熱処理に要するエネルギーが比較的小さくて済む。
【0049】
また、本実施形態のロータリーキルン3によると、熱処理温度が比較的低いにもかかわらず、被処理物Oにアルカリやフッ素などを加える必要がない。このため、有害な二次生成物の発生を抑制することができる。したがって、別途、有害な二次生成物を無害化するための設備を配置する必要がない。
【0050】
また、本実施形態のロータリーキルン3によると、カルシウム成分の分布に応じて、被処理物Oを内部から加熱することができる。このため、被処理物Oを予め粉砕処理する必要がない。したがって、無害化処理に要する時間を短縮化することができる。また、別途、粉砕装置を配置しなくて済むため、処理システム1の設置スペースを小さくすることができる。
【0051】
また、本実施形態のロータリーキルン3によると、バッチ炉のように、熱処理の際、被処理物Oをケースなどに収容する必要がない。このため、マイクロ波がケースにより減衰するおそれがない。並びに、マイクロ波がケースに吸収されるおそれがない。
【0052】
また、本実施形態の処理システム1は、コンパクトにユニット化されている。詳しく説明すると、ロータリーキルン3とロータリークーラー5とは、上下方向に積層配置されている。このため、処理システム1の設置スペース(水平面投影面積)は、ロータリーキルン3およびロータリークーラー5の延在方向(前出図1における紙面左右方向)に5780mm、当該方向と直交する方向(前出図1における紙面表裏方向)に1600mm(つまり5780mm×1600mm)である。
【0053】
また、管体30の全長は2700mmである。また、加熱部31の全長は1300mmである。また、本体300の内周径(正六角形の対向する頂点間の距離)は900mmである。このように、処理システム1は、非常に小型である。このため、例えばトラックなどにより、アスベスト含有物が実際に使われている現場(例えば建物取り壊し現場)に、搬入することができる。したがって、熱処理前の有害な被処理物Oを搬送することなく、現場でアスベストを無害化することができる。
【0054】
また、本実施形態の処理システム1によると、ロータリーキルン3が上方に、ロータリークーラー5が下方に、積層配置されている。本体300で発生した排ガスは、比較的温度が高いため上方に移動しやすい。このため、ロータリーキルン3の下方に配置されているロータリークーラー5には、排ガスが侵入しにくい。
【0055】
また、本体300の内周面の軸直方向断面は、正六角形状を呈している。このため、マイクロ波照射部34から射出されたマイクロ波は、本体300の内周面により、あらゆる方向にランダムに反射される。したがって、軸直方向断面が円形の場合と比較して、本体300内部におけるマイクロ波分布の集中を抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態の処理システム1によると、アスベストの無害化のみならず、無害化後の被処理物Oの冷却までも、連続的に行うことができる。このため、処理速度をさらに迅速化することができる。並びに、被処理物Oから排出される排ガスも処理することができる。すなわち、被処理物Oの無害化に必要なあらゆる処理を、処理システム1単独で全て実施することができる。
【0057】
また、本実施形態の処理システム1から排出された無害化済み被処理物Oは、例えばセメント原料や建材のフィラーなどとして、リサイクル可能である。このため、最終処分場(例えばアスベスト含有物埋め立て地)の慢性的なスペース不足を解消することができる。
【0058】
<第二実施形態>
本実施形態のロータリーキルンおよび処理システムと第一実施形態のロータリーキルンおよび処理システムとの相違点は、ロータリーキルンの管体が円筒状を呈している点である。また、ロータリーキルンに、マイクロ波を拡散するためのプロペラが配置されている点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。
【0059】
図5に、本実施形態の処理システムの概要図を示す。なお、図1と対応する部位については、同じ符号で示す。ロータリーキルン3は、加熱部31およびマイクロ波照射部35以外は、前述したロータリークーラー5(第一実施形態と同じ)同様の構成を有している。具体的には、ロータリーキルン3の管体30は、円筒状を呈している。すなわち、管体30の内周面の軸直方向断面は、円形を呈している。管体30は、自身の軸を中心に回転可能である。管体30の外周面には、軸方向に離間して、一対のタイヤ303、304が対向配置されている。上流側のタイヤ303はローラー90により、下流側のタイヤ304はローラー91により、それぞれ回転駆動されている。管体30の上流端外周面と上流側フード32の上流側フード開口320、管体30の中間部外周面と加熱部の上流側開口311および下流側開口312、管体30の下流端外周面と下流側フード33の下流側フード開口330は、各々、シール部材(図略)を介して、相対的に回転可能に当接している。
【0060】
図6に、本実施形態の処理システムのロータリーキルン3の下流側フード33付近の透過斜視図を示す。図5、図6に示すように、下流側フード33の内面には、プロペラ331が配置されている。プロペラ331の中心は、管体30の軸上に配置されている。マイクロ波照射部35は、マイクロ波発生装置35a、35cと、導波管350a〜350dとを備えている。マイクロ波発生装置35a、35cおよび導波管350a〜350dは、プロペラ331を中心とする同心円上に、合計四つ配置されている。隣り合うマイクロ波発生装置同士、および導波管同士は、各々、90°ずつ離間している(図5においては、0°位置(最上位置)のマイクロ波発生装置35a、導波管350aと、180°位置(最下位置)のマイクロ波発生装置35c、導波管350cとを示している。)。導波管350a〜350dの射出口は、各々、プロペラ331を向いている。
【0061】
導波管350a〜350dから発射されたマイクロ波は、回転するプロペラ331によりランダムに反射される。反射されたマイクロ波は、管体30内周面で反射しながら、上流方向に拡散する。この拡散により、マイクロ波は、管体30内部の全体に行き渡る。
【0062】
本実施形態のロータリーキルン3および処理システム1は、第一実施形態のロータリーキルンおよび処理システムと同様の作用効果を有する。また、本実施形態のロータリーキルン3によると、管体30の内周面の軸直方向断面を多角形状にしなくても、マイクロ波を管体30内に行き渡らせることができる。このため、管体30の構成が簡単になる。
【0063】
<その他>
以上、本発明のアスベスト含有物処理炉およびアスベスト含有物処理システムの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0064】
例えば、第一実施形態においては、ロータリーキルン3の本体300の内周面の軸直方向断面を、正六角形状としたが、三角形状、四角形状、五角形状、八角形状などとしてもよい。また、本体300内周面の一部のみの軸直方向断面を、多角形状としてもよい。また、軸方向途中で軸直方向断面の形状を変えてもよい。
【0065】
また、ロータリーキルン3における熱処理温度は、好ましくは800℃〜1200℃であればよい。また、熱処理温度に応じて、熱処理時間も適宜調整すればよい。また、マイクロ波照射部34、35から照射されるマイクロ波の周波数は、2.45GHzの他、800MHz〜30GHzであってもよい。また、熱処理は、例えば窒素ガス、アルゴン、一酸化炭素ガスなど、非酸化性ガス雰囲気下で行ってもよい。また、処理システム1の大きさも特に限定しない。例えば、エレベーターを介して搬入できるように、幅900mm×高さ1800mm以内としてもよい。
【0066】
また、上記実施形態においては、加熱部31に電気式のヒーター310a、310bを用いたが、例えばガスを熱源とする加熱部31を配置してもよい。また、これらの熱源を、数種類組み合わせて用いてもよい。
【0067】
また、上記実施形態においては、排ガス処理炉60として熱処理炉を配置したが、触媒式処理炉を配置してもよい。また、集塵装置61としてHEPAフィルターを配置したが、ULPA(Ultra Low Penetration AirFilter)フィルタ−を配置してもよい。さらに、これらのフィルターのプレ集塵用として、サイクロンを配置してもよい。こうすると、HEPAフィルターやULPAフィルターなどの有する高い集塵性能を、長時間確保することができる。また、管体30よりも下流側の機器(例えば下流側フード33)に排ガス配管92を接続する場合は(前出図1参照)、被処理物Oの無害化が完了しているので、汎用のバグフィルターを配置してもよい。こうすると、処理システムの設備コストを削減することができる。
【0068】
また、冷却装置の種類も特に限定しない。ロータリークーラー5でなくてもよい。例えば、被処理物を搬送するスクリューフィーダーが内蔵されたパイプと、該パイプの外周側に配置された冷却部51と、からなる冷却装置を配置してもよい。また、冷却部51に循環させる作動流体は、冷却水の他、不凍液などであってもよい。
【0069】
また、処理対象となる被処理物Oも特に限定しない。例えば、押出成形品、パルプセメント板、スラグ石膏板、サイディング、住宅屋根用化粧スレート、ロックウール吸音天井板、スレート波板、スレートボード、ケイ酸カルシウム板、シール材、ブレーキ部品、電気絶縁用部品など、種々の被処理物Oを処理システム1で処理することができる。すなわち、被処理物Oに、カルシウムとアスベストとが含有されていればよい。
【0070】
また、被処理物Oに、マイクロ波吸収の大きい添加物を添加してもよい。添加量を増減することにより、被処理物Oのマイクロ波の吸収量つまり発熱量を調整することができる。添加物としては、例えば、酸化カルシウム、珪酸化合物を添加物として使用してもよい。こうすると、珪酸塩化合物の組成が変化し、板状結晶構造を有する雲母から別の鉱物に変化する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第一実施形態の処理システムの概要図である。
【図2】同処理システムのロータリーキルンの管体の合体斜視図である。
【図3】同管体の部分分解斜視図である。
【図4】図3のIV−IV断面図である。
【図5】第二実施形態の処理システムの概要図である。
【図6】同処理システムのロータリーキルンの下流側フード付近の透過斜視図である。
【符号の説明】
【0072】
1:処理システム(アスベスト含有物処理システム)、2:ホッパー、20:被処理物供給管、21:スクリューフィーダー、3:ロータリーキルン(アスベスト含有物処理炉)、30:管体、300:本体、300a:導入口、301:上流側円筒部、301a:円筒、301b〜301d:仕切板、301e:タイヤ、302:下流側円筒部、302a:円筒、302d:仕切板、302e:タイヤ、303:タイヤ、304:タイヤ、31:加熱部、310a:ヒーター、310b:ヒーター、311:上流側開口、312:下流側開口、32:上流側フード、320:上流側フード開口、33:下流側フード、330:下流側フード開口、331:プロペラ、34:マイクロ波照射部、34a:マイクロ波発生装置、34c:マイクロ波発生装置、340a〜340d:導波管、35:マイクロ波照射部、35a:マイクロ波発生装置、35c:マイクロ波発生装置、350a〜350d:導波管、4:連結管、5:ロータリークーラー(冷却装置)、50:管体、51:冷却部、510:クーリングタワー、52:上流側フード、520:上流側フード開口、53:下流側フード、530:下流側フード開口、531:排出口、54:タイヤ、55:タイヤ、6:排ガス処理装置、60:排ガス処理炉、61:集塵装置、62:ブロワ、63:ガス排出口、90:ローラー、91:ローラー、92:排ガス配管、93:ローラー、94:ローラー、A1〜A3:矢印、O:被処理物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸回りに回転可能であって、カルシウムとアスベストとを含む被処理物を、軸方向に流動させる管体と、
該被処理物にマイクロ波を照射するマイクロ波照射部と、
を備えてなるアスベスト含有物処理炉。
【請求項2】
さらに、前記被処理物を、該被処理物の外面から加熱する加熱部を備える請求項1に記載のアスベスト含有物処理炉。
【請求項3】
前記管体の内周面の軸直方向断面は、多角形状を呈している請求項1に記載のアスベスト含有物処理炉。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のアスベスト含有物処理炉と、
該アスベスト含有物処理炉から排出されたマイクロ波照射済みの前記被処理物を、流動させながら冷却する冷却装置と、
該アスベスト含有物処理炉から排出された排ガスを、外部環境に放出可能に処理する排ガス処理装置と、
を備えてなるアスベスト含有物処理システム。
【請求項5】
前記アスベスト含有物処理炉と前記冷却装置とは、上下方向に積層配置されており、搬送可能にユニット化されている請求項4に記載のアスベスト含有物処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−275178(P2008−275178A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202610(P2006−202610)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度、経済産業省、地域新生コンソーシアム研究開発事業「アスベストの飛散がない迅速無害化処理システムの開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【出願人】(390008431)高砂工業株式会社 (53)
【出願人】(598031095)株式会社 山口雲母工業所 (7)
【Fターム(参考)】