説明

アルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂、アルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂組成物、アルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂組成物を含有するコーティング剤、フッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物およびそれを用いてなる積層体

【課題】フッ素樹脂の持つ耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気特性、撥水性、潤滑性とシラン架橋体(シリカ)の持つ高硬度、機械特性、バリア性、UVカット性を併せ持ち、かつ透明性、耐溶剤性、高耐久性を有する高度なフッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物を形成できるシラン変性フッ素樹脂、シラン変性フッ素樹脂組成物およびそれを含有するコーティング剤、フッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物ならびにフッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物を有する積層体を提供する。
【解決手段】溶剤に可溶なエステル基を有するフッ素樹脂(1)とテトラアルコキシシラン部分縮合物および/またはトリアルコキシシラン部分縮合物(2)とをエステル交換反応させることによって得られるアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂、アルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂組成物、コーティング剤、フッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気特性、撥水性、潤滑性などに優れており、中でも有機溶剤可溶型の含フッ素共重合体は、ハンドリングの容易さに加え、その優れた耐候性、耐熱性や透明性のため、近年高耐久性建築塗料用ベースとして使用されているだけでなく、光学材料、電気・電子材料用途への展開も期待されている。
【0003】
これら多様な用途で使用するためには、含フッ素樹脂の硬度、機械的特性、耐久性などの向上が求められており、これらの諸性能を向上させるために、例えば、シリカ(SiO)などの無機化合物と複合化する方法が検討されている。
含フッ素樹脂とシリカとを複合化する方法としては、
(1)フッ素樹脂にシリカ粒子を分散させる方法
(2)官能基含有含フッ素樹脂と、アルコキシシランの部分加水分解縮合物などの加水分解性シリル基を有する化合物を配合後、加水分解性シリル基(アルコキシシリル基)を当該官能基と架橋反応させて硬化する方法(特許文献1参照)
(3)フッ素樹脂に加水分解性シリル基を導入する方法(特許文献2および3参照)などがある。
【0004】
しかしながら、(1)で提案されている方法では、シリカ粒子の分散が難しくシリカ粒子の凝集により透明性の低下、またフッ素樹脂とシリカとの間の相互作用が十分でないために機械的特性、耐熱性、耐水性、耐溶剤性に劣る。(2)で提案されている特許文献1記載の技術では、官能基含有フッ素樹脂とアルコキシシランの部分加水分解縮合物との相溶性のコントロールが難しく、シラン縮合物の添加量が多くなるとシラン縮合物の硬化の際に相分離が起こり透明な硬化物が得られにくい。また、硬化反応時に官能基含有フッ素樹脂とシラン縮合物との間に十分な化学結合が形成されないために、得られる硬化物の機械的特性、耐熱性、耐水性、耐溶剤性も大きく向上しない。(3)で提案されている特許文献2記載の技術では、加水分解性シラン単量体の使用量を増やすとフッ素樹脂中のフッ素含有量が低下するため、フッ素樹脂としての特徴を維持できず、また、特許文献3記載の技術では、フッ素樹脂中に水酸基またはカルボキシル基といった高極性官能基を含むため、シラン変性のための官能基導入量に限界があり、その結果シリカ含有量を高く出来ず、また可溶溶剤としてはアルコール系などの極性の高い溶剤に実質的に種類が限定されてしまうという問題がある。
【0005】
以上のように、従来においては、フッ素樹脂の持つ耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気特性、撥水性、潤滑性とシラン架橋体(シリカ)の持つ高硬度、機械特性、バリア性、UVカット性を併せ持ち、かつ透明性、耐溶剤性、高耐久性を有する高度なフッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物を得ることは困難だった。
【0006】
【特許文献1】特開平9−143420号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特公平1−16405号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平4−173881号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、フッ素樹脂の持つ耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気特性、撥水性、潤滑性とシラン架橋体(シリカ)の持つ高硬度、機械特性、バリア性、UVカット性を併せ持ち、かつ透明性、耐溶剤性、高耐久性を有する高度なフッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物を形成できるシラン変性フッ素樹脂、シラン変性フッ素樹脂組成物およびそれを含有するコーティング剤、フッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物ならびにフッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物を有する積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、溶剤に可溶なエステル基を有するフッ素樹脂の特定シラン変性物を用いることにより、上記課題を解決しうる組成物や硬化物や積層体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、溶剤に可溶なエステル基を有するフッ素樹脂(1)(以下、成分(1)ということがある)とテトラアルコキシシラン部分縮合物および/またはトリアルコキシシラン部分縮合物(2)(以下、成分(2)ということがある)とをエステル交換反応させることによって得られるアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂に関する。また、本発明は、当該アルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂および溶剤を含有することを特徴とする樹脂組成物に関する。また、本発明は、当該アルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂およびフィラーを含有することを特徴とする樹脂組成物に関する。また、本発明は、当該樹脂組成物を含有することを特徴とするコーティング剤に関する。また、本発明は、当該樹脂組成物を硬化させて得られることを特徴とするフッ素樹脂‐シリカハイブリッド硬化物に関する。更に本発明は、当該フッ素樹脂‐シリカハイブリッド硬化物および基材を有する積層体に関する。
【0010】
さらに詳細には、本発明は、
[1] 溶剤に可溶なエステル基を有するフッ素樹脂(1)と、テトラアルコキシシラン部分縮合物および/またはトリアルコキシシラン部分縮合物(2)とをエステル交換反応させることによって得られるアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂、
[2]
前項[1]に記載されたアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂および溶剤を含有するアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂組成物、
[3]
前項[1]に記載されたアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂およびフィラーを含有するアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂組成物、
[4] フィラーが、金属酸化物、金属、ポリマーおよび鉱物からなる群より選ばれる少なくとも1種である前項[3]に記載されたアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂組成物、
[5] 前項[1]に記載されたアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂を含有するコーティング剤、
[6] 前項[1]に記載されたアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂をゾル−ゲル硬化させることによって得られるフッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物、
[7] 基材上に設けられた層のうち少なくとも1つが前項[6]に記載されたフッ素樹脂‐シリカハイブリッド硬化物からなる層である積層体、
[8] 基材がプラスチック、金属、ガラスまたはセラミックスから形成されている前項[7]に記載された積層体、
[9] 基材がフィルム、シート、箔または成型物である前項[7]に記載された積層体。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、フッ素樹脂の持つ耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気特性、撥水性、潤滑性とシラン架橋体(シリカ)の持つ高強度、機械特性、バリア性、UVカット性を併せ持ち、かつ透明性、耐溶剤性、高耐久性を有する高度なフッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物を形成できるシラン変性フッ素樹脂およびシラン変性フッ素樹脂組成物を提供することができる。また、そのような高度なフッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物、該硬化物の層を形成できるコーティング剤および該硬化物の層を有する積層体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に用いる成分(1)はエステル基を有するフッ素樹脂であり、このエステル基を有することは、成分(2)とのエステル交換反応により主鎖のフッ素樹脂側が共有結合を介してシラン変性されるために必要である。成分(1)としては、例えば、フッ素を含む重合性単量体とエステル基を含む重合性単量体を必須成分として重合されてなる共重合体が挙げられる。
【0013】
フッ素を含む重合性単量体としては、下記一般式(I)で示される含フッ素重合性単量体が挙げられる。
CX=CX ・・・(I)
〔式(I)中、X、X、XおよびXは水素原子、フッ素原子、塩素原子または式:−(O)m−Rf(この式中、mは0または1であり、Rfは直鎖、分岐、環状のいずれでもよいフルオロアルキル基またはエーテル結合を含むフルオロオキシアルキル基を表し、Rfのうちのアルキル部分の炭素数は1〜4である。)で示される基を表す。ただし、X,X,XおよびXは同一であってもよいし、互いに異なっていてもよいが、それらのうちの少なくとも一つはフッ素原子あるいはフッ素原子を含む基である。〕
【0014】
フッ素を含む重合性単量体の具体例としては、フルオロオレフィン類が挙げられ、例えば、モノフルオロエチレン、ジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどが挙げられ、好ましくはフッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンである。これらフッ素を含む重合性単量体は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用しても構わない。
【0015】
エステル基を含む重合性単量体としては、下記一般式(II)で示される重合性単量体が挙げられる。
CY=CY−(CH−O−CO−R ・・・(II)
〔式(II)中、nは0または1であり、Y、YおよびYは、水素原子あるいはメチル基を表し、互いに同じでも異なっていてもよい。Rは炭素数が1〜20の直鎖、分岐または環状のアルキル基を表し、あるいは炭素数が6〜30の、芳香族環を有する基を表す。〕
なお、上記の芳香族環を有する基としては、例えばフェニル基、ベンジル基その他のアリール基が挙げられる。
【0016】
エステル基を含む重合性単量体の具体例としては、カルボン酸ビニルエステル類、カルボン酸アリルエステル類、カルボン酸イソプロペニルエステル類、カルボン酸メタリルエステル類などが挙げられる。カルボン酸ビニルエステル類としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、オクチル酸ビニル、カプリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルチミン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、p−tert−ブチル安息香酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、桂皮酸ビニルなどが挙げられる。カルボン酸アリルエステル類としては、酢酸アリル、プロピオン酸アリル、酪酸アリル、安息香酸アリル、シクロヘキサンカルボン酸アリルなどが挙げられる。カルボン酸イソプロペニルエステル類としては、酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。これらエステル基を含む重合性単量体は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用しても構わない。
【0017】
本発明におけるエステル交換反応を効果的に行うためには、一般式(II)中のRの炭素数が10以下のものが好ましい。より好ましくは、炭素数5以下であり、さらに好ましくは炭素数3以下である。また、上記のエステル基を含む重合性単量体の2種以上を併用し、それぞれのエステル交換反応に対する反応性の違いを利用することで、一部のエステル基のみを優先的にエステル交換反応させることもできる。
【0018】
エステル基を有するフッ素樹脂の好ましい組成としては、構成単位の合計量を基準として、フッ素を含む重合性単量体1〜99mol%とエステル基を含む重合性単量体1〜99 mol%とが共重合されてなる組成であり、より好ましくは、フッ素を含む重合性単量体10〜80mol%とエステル基を含む重合性単量体20〜90mol%とが共重合されてなる組成であり、さらに好ましくは、フッ素を含む重合性単量体10〜70mol%とエステル基を含む重合性単量体30〜90mol%とが共重合されてなる組成である。
【0019】
また、エステル基を有するフッ素樹脂には、フッ素を含む重合性単量体およびエステル基を含む重合性単量体以外に、これらと共重合可能なビニル単量体が共重合されていてもよい。該共重合可能なビニル単量体の具体例としては、オレフィン類(例えばエチレン、プロピレン、ブテンなど。)、脂環式オレフィン類(例えばシクロペンテン、シクロヘキセン、ノルボルネンなど。)、塩素化オレフィン類(例えば塩化ビニル、塩化ビニリデンなど。)、ビニルエーテル類(例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、n−ペンチルビニルエーテル、n−ヘキシルビニルエーテル、n−オクチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルーテル、シクロヘキシルメチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、フェネチルビニルエーテルなど。)、アリルエーテル類(例えばエチルアリルエーテル、n−ブチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル、ベンジルアリルエーテルなど。)、(メタ)アクリル酸エステル類(例えばアクリル酸メチル、メタアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタアクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタアクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタアクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、メタアクリル酸イソブチル、アクリル酸−tert−ブチル、メタアクリル酸―tert―ブチル、アクリル酸ヘキシル、メタアクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタアクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタアクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、メタアクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタアクリル酸ステアリル、アクリル酸ベンジル、メタアクリル酸ベンジルなど。)およびクロトン酸エステル類(例えばクロトン酸メチル、クロトン酸エチル、クロトン酸プロピルなど。)などが挙げられる。
【0020】
本発明における成分(1)のエステル基を有するフッ素樹脂は、溶剤に可溶なものとする。成分(1)が溶剤に可溶であることにより、成分(2)とのエステル交換反応が効率的に進行するからである。
【0021】
本発明に用いる成分(1)を、フッ素を含む重合性単量体とエステル基を含む重合性単量体とを必須成分とする重合によって合成するに際し、その重合方法としては、通常のラジカル重合方法が採用でき、その重合形態としては、溶液重合、懸濁重合、乳化重合または塊状重合などが挙げられる。特に、以下に示すようなラジカル発生型開始剤の存在下に、重合温度0〜130℃程度で、圧力0.1〜10MPa程度、好ましくは0.3〜2MPaの条件で重合させる方法が好ましい。
【0022】
上記ラジカル発生型重合開始剤としては、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、tert―ブチルパーオキシピバレート、ベンゾイルパーオキサイド、ラウオイルパーオキサイドなどの過酸化物、アゾイソブチロニトリル、アゾイソブチロバレロニトリルなどのアゾ化合物など、またはパーフルオロアシルパーオキサイドなどのフッ素系開始剤などの油溶性重合開始剤、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの水溶性開始剤、あるいはレドックス開始剤が使用できる。
【0023】
溶液重合を行う場合の重合溶媒としては、炭化水素系、アルコール系、ケトン系、エステル系またはフッ素系有機溶媒などが使用できる。炭化水素系有機溶媒としては、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの飽和炭化水素系、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系有機溶媒が使用できる。アルコール系有機溶媒としては、例えばターシャリーブタノール、エチルアルコールなどが使用できる。ケトン系有機溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが使用できる。エステル系有機溶媒としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチルなどが使用できる。フッ素系有機溶媒としては、例えばトリクロロフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン、ジクロロペンタフルオロプロパンなどの塩素含有のフッ素系、例えばヘプタフルオロシクロペンタン、トリデカフルオロヘキサン、パーフルオロブチルメチルエーテルなどの塩素を含まないフッ素系有機溶媒などが使用できる。
【0024】
懸濁重合を行う場合の重合溶媒としては、溶液重合で使用できる溶媒として挙げた上記の溶媒などのうち、非水溶性のものを使用することができる。また懸濁重合を行う場合の懸濁剤としては、部分ケン化ポリビニルアルコールまたはメチルセルロース類などが使用できる。
【0025】
乳化重合を行う場合の乳化剤としては、アニオン型乳化剤、非イオン型乳化剤、カチオン型乳化剤、反応性乳化剤などが挙げられ、これらのうちアニオン型および非イオン型乳化剤が好ましく用いられる。
【0026】
また、得られる重合体の分子量調節のために連鎖移動剤を用いることもできる。
【0027】
本発明に用いる成分(2)としては、一般的にゾル−ゲル法に用いられているアルコキシシランを部分的に加水分解、縮合したオリゴマー、例えば、下記一般式(III)で表される化合物の部分縮合物を例示できる。
Si(OR4−p ・・・(III)
〔式(III)中、pは0または1を示す。Rは、エステル基で置換されていてもよい低級(炭素数1〜4)アルキル基、アリール基、もしくは、不飽和脂肪族残基を示す。Rはメチル基またはエチル基を示し、複数のR同士はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。〕
なお、pが2〜4では3次元架橋が起こらなくなるため、最終的に得られる硬化物の耐熱性、機械特性、耐薬品性、耐久性などの効果を得ることが難しくなるので好ましくない。
【0028】
成分(2)の構成原料である加水分解性アルコキシシラン化合物としては、例えばテトラアルコキシシラン類(例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシランなど)、トリアルコキシシラン類(例えばメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシランなど)などが挙げられ、成分(2)としては、それらの加水分解性アルコキシシラン化合物のうちの1種類を、もしくは2種類以上の混合物を縮合したものを用いることができる。
【0029】
それらの中でも、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシランを成分(2)の構成原料である加水分解性アルコキシシラン化合物として用いると、成分(1)との反応性に富み、硬化物に所望の効果を付与しやすく、かつゾル−ゲル硬化速度が速いため好ましい。
【0030】
成分(2)の数平均分子量は、通常、230〜2000程度であり、成分(2)としては、下記一般式(IV)または下記一般式(V)で表される化合物であって、平均繰り返し単位数qが1〜10のものが好ましい。:
【0031】
【化1】

【0032】
【化2】

【0033】
上記一般式(IV)および一般式(V)で表される化合物においてqが10を超えると、成分(1)との相溶性が低下するため、該化合物と成分(1)との反応性が低下する傾向がある。qが1未満であると、該化合物が該化合物と成分(1)との反応で副生するアルコールと一緒に系外へ留去されやすく、生産性が悪くなる傾向があるので好ましくない。
なお、上記一般式(IV)および一般式(V)中のRおよびRは、上記一般式(III)におけるRおよびRと同じ意味を表す。
【0034】
本発明のアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂は、成分(1)と成分(2)とを、エステル交換反応させることによって得られる。成分(1)と成分(2)との使用量は特に限定されないが、成分(2)のモル数Mと、成分(1)中のエステル基のモル数Mとの比(M/M)が0.1〜6.0程度であることが好ましく、0.15〜3.0であることがさらに好ましい。
【0035】
ここで、当該比率が1.0の場合、理論的には成分(1)が有する全てのエステル基が、成分(2)に含まれるアルコキシ基の1つとエステル交換により反応し、成分(1)中に含まれるエステル基(−O−COR)部分がすべて−O−Si≡となったアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂を得ることができる。このため、当該比率が1.0を超える場合、反応後に成分(2)が残存することになり、1.0未満である場合には成分(1)のエステル基が残存するか、成分(2)1分子に成分(1)のエステル基が複数個反応することになる。本発明の効果が失われない範囲で、成分(2)が残存したり成分(1)のエステル基が残存しても構わないが、当該比率が6.0を超える場合には、残存する成分(2)が多くなりすぎて硬化物が白濁したり脆くなったりする場合がある。また、0.1未満の場合には、成分(2)1分子に複数の成分(1)のエステル基が反応して3次元架橋構造ができ、反応による脱アルコールの進行に伴ってゲル化が起こりやすくなるうえ、成分(2)の導入量が少なくなりすぎるため、本発明に特有の耐熱性、機械特性、耐薬品性、耐水性、耐久性などの効果が得られにくくなる場合がある。
【0036】
成分(1)と成分(2)とのエステル交換反応は、例えば、これら成分を溶解することができる溶剤に両成分を溶解させ、加熱することにより進行させることができる。当該反応は、副反応としての成分(2)自体の重縮合反応を防止するため、実質的に無水条件下で行うことが好ましい。反応温度としては、特に限定されないが、通常30〜150℃程度、好ましくは60〜130℃である。なお、150℃を超える温度で反応させると、反応系中における成分(2)の縮合に伴って、反応生成物の分子量が大きくなりすぎ高粘度化やゲル化する傾向がある。このような場合には、反応を途中で停止させるなどの方法により高粘度化、ゲル化を防止できる。また、上記M/Mが1.0未満である場合も、反応の進行によって成分(2)1分子に複数の成分(1)のエステル基が反応して3次元架橋構造ができ、高粘度化やゲル化が起こりやすいため、反応を途中で停止させ、成分(1)のエステル基の一部を未反応のまま残存させるなどの方法を採用することが好ましい。なお、残存した成分(1)のエステル基は、後述するゾル−ゲル硬化の際、成分(2)のアルコキシシリル基と結合するため、通常問題にはならない。
【0037】
成分(1)と成分(2)とのエステル交換反応において、1分子の成分(1)当たり少なくとも1分子以上の成分(2)が反応することが好ましく、かかる点から当該反応で得られるアルコキシシリル基含有フッ素樹脂の残存エステル基率(アルコキシシリル基含有フッ素樹脂に含まれるエステル基のモル数/成分(1)に含まれるエステル基のモル数)を0.9以下とすることが好ましく、0.7以下とすることがさらに好ましい。
なお、残存エステル基率が測定できない場合は、下記の方法により測定される残存膜率を好ましい範囲とすることで代用すればよく、残存膜率を0.7以上とすることが好ましく、0.9以上とすることがより好ましい。
(残存膜率の測定方法)
アルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂またはこれを含む組成物を、硬化後の膜の厚さが30〜100μmになるようにガラス板上に塗布した後、80℃で1時間、さらに200℃で1時間乾燥、硬化させた後の固形物(硬化物膜)を得る。この硬化物膜(通常は10cm×10cmの略正方形とする)を、成分(1)が可溶な溶剤中に24時間浸漬した後の乾燥膜重量Wを測定し、溶剤浸漬前の乾燥膜重量Wで除したW/Wの値を残存膜率とする。
【0038】
また、上記エステル交換反応に際しては、反応促進のために従来公知の触媒を使用することができる。触媒としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、チタン、コバルト、ゲルマニウム、錫、鉛、アンチモン、砒素、セリウム、カドミウム、マンガンなどの金属;これら金属の酸化物、有機酸塩、ハロゲン化物、アセチルアセトナート錯体およびアルコキシド、上記金属による有機金属類、塩酸、硝酸、硫酸、ホウ酸などの無機酸、酢酸、蟻酸、シュウ酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸、4級アンモニウムアルコキシド、3級アミンなどが挙げられる。これらの中でも、特に、有機錫、有機酸錫が好ましく、具体的には、ジブチル錫ラウレート、オクチル酸錫などが好ましい。
【0039】
エステル交換反応で使用する溶剤としては、沸点が上記エステル交換反応の反応温度以上で、成分(1)を溶解するものであればよく、特に限定されない。具体的には、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、1H,1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクタン、1H,1H,1H,2H,2H−パーフルオロデカン、パーフルオロデカリン、パーフルオロシクロヘキサン、パー(2−ブチルテトラヒドロフラン)、パーフルオロトリペンチルアミン、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリプロピルアミンなどが例示できる。なお、これら溶剤は、1種類のみを使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0040】
本発明のアルコキシシリル基含有シラン変性樹脂組成物(以下、「本発明の樹脂組成物」と略称することがある。)は、上記のようにして得られたアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂を必須構成成分として含有し、さらに、他の1つ以上の構成成分を含有するものである。また、当該樹脂は、その分子中に成分(2)に由来するアルコキシシリル基を有するものである。このアルコキシシリル基は、加熱処理や水分(湿気)を利用した反応によってゾル−ゲル反応ができ、相互に結合することにより硬化物を形成する。かかる硬化物は、フッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物であり、ゲル化した微細なシリカ部位(シロキサン結合の高次網目構造)を有するものである。このため、アルコキシシリル基含有シラン変性樹脂においては通常、原料となる成分(2)のアルコキシシリル基の40〜95モル%程度、好ましくは50〜90モル%を未反応のままで保持させることが好ましい。
【0041】
本発明の樹脂組成物中には、ゾル−ゲル反応を促進させるための触媒を構成成分として配合することができる。ゾル−ゲル反応の触媒としては、上記したエステル交換反応に使用できる触媒など従来公知のものをあげることができるが、特にオクチル酸錫やジブチル錫ジラウレートが高活性で、しかも当該樹脂組成物に対する溶解性に優れており好ましい。ゾル−ゲル反応の触媒の使用量は、使用する触媒の活性、目的とする硬化物の膜厚により適宜決めることができる。通常、使用するアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂のアルコキシ基に対し、モル比率で、触媒能力の高いパラトルエンスルホン酸やオクチル酸錫などで0.01〜5モル%程度、触媒能力の低いギ酸、酢酸などで0.1〜50モル%程度使用すればよい。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、固体状でも液状でもよいが、通常、硬化残分10〜70重量%程度の液状であるのが適当であるため、必要に応じて溶剤が構成成分として加えられていてもよい。溶剤としては、特に限定されず、従来公知の溶剤を使用することができるが、アルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂を溶解するものが好ましい。具体的には、例えば、アルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂の製造に用いた溶剤や、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸イソプロピルなどのエステル系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶剤などを使用できる。
【0043】
本発明のアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂組成物には、その構成成分として、アルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂以外に、所望により成分(2)を配合することができる。成分(2)は、ゾル−ゲル硬化時に加水分解、重縮合によりシリカとなり、アルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂と結合することで、本願発明に特有の耐熱性、機械特性、耐薬品性などの効果を一層高めることができる。また、前述した通りアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂の製造時に、M/Mが1.0を超える場合には成分(2)が残存することになるが、残存した成分(2)でも成分(2)を後から配合した場合と同様の効果が得られる。成分(2)の使用量は、目的とする耐熱性、機械特性、耐薬品性などの性能に応じて適宜決めることができるが、通常、使用するアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂に対し、重量比率で50%以下とすることで、得られる硬化物の白濁を防止し、強靭にすることができるため好ましい。
【0044】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じてフィラーを構成成分として含んでいてもよい。フィラーとしては、例えば金属酸化物、金属、ポリマー、鉱物などが挙げられ、これらは1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。フィラーは得られる硬化膜の機能向上および機能付与に用いられ、具体的な機能としては、表面硬度、アンチブロッキング、耐熱性、バリア性、導電性、帯電防止性、電磁波吸収、紫外線カット、強靱化、耐衝撃性、低熱線膨張などが挙げられる。金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫、フッ素ドープ酸化スズ、などが挙げられる。金属としては、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、亜鉛、ステンレスなどが挙げられる。ポリマーとしては、フッ素樹脂、液晶ポリマー、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ゴムなどが挙げられる。鉱物としては、モンモリロナイト、タルク、マイカ、ベーマイト、カオリン、スメクタイト、ゾノライト、バーキュライト、セリサイトなどの粘土鉱物が挙げられる。その他には、カーボンファイバー、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブなどの炭素化合物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、ガラスファイバー、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスバルーンなどの各種ガラス、などのフィラーを挙げることができる。用いるフィラーの大きさには特に規定はなく、例えば1nm〜10μm程度の大きさのものを用いることができ、球状、針状、板状、ファイバー状、バルーン状、中空状などのいずれの形状であってもよい。ポリマーの場合は粉末、架橋粒子およびビーズなどが用いられる。また、フィラーは粉体をそのまま使用してもよく、ゾルやコロイドの様に溶媒に分散したものを用いてもよい。
【0045】
さらに、分散性や界面親和性向上を目的とし、フィラー表面にカップリング剤などにより表面処理されたものを用いてもよい。
【0046】
本発明の樹脂組成物は、上記したような構成成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、離型剤、表面処理剤、難燃剤、抗菌剤、レベリング剤、消泡剤、揺変剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、カップリング剤、金属アルコキサイドなどが挙げられる。
【0047】
本発明のアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂、およびこれを含有する本発明の樹脂組成物は、上記したように、ゾル−ゲル硬化させることにより、フッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物とすることができる。そのようなフッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物もまた本発明のひとつである。ゾル−ゲル硬化反応は、公知の反応条件により行うことができるが、例えば、以下の方法で行えばよい。
【0048】
まず、溶剤を含む本発明の樹脂組成物を容器に流し込んだ後、加熱して溶剤の留去およびゾル−ゲル硬化を行う。続いてさらに昇温させて完全に溶剤の留去およびゾル−ゲル硬化させることにより、所望のハイブリッド硬化物が得られる。当該溶剤の留去およびゾル−ゲル硬化工程では、溶剤などの揮発分の急激な飛散による発泡や硬化収縮を制御するため、上記のように2段階以上で行うことが好ましい。したがって、硬化温度および加熱時間は、使用したアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂がアルコキシシリル基の脱アルコール縮合反応の際に副生するアルコールの量、および溶剤の種類、所望のハイブリッド硬化物の厚みなどを考慮して、適宜決定すればよい。二段階で硬化させる場合には、一段階目は当該硬化物の表面タックが無くなる程度に部分的に硬化、乾燥させるため、通常は20〜150℃程度で1分〜2時間程度の条件とするのが好ましい。二段階目は130℃〜280℃程度、好ましくは200℃以上250℃未満で、1分〜6時間程度加熱することにより、残存溶剤を完全に除くとともにアルコキシシリル基の脱アルコール縮合反応を完了させることができる。こうして得られる硬化物(硬化膜)は、アルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂中のアルコキシシリル基に由来するシリカ(SiO)部位を有しており、当該硬化物はシリカ複合化の効果によって、耐熱性、機械特性、耐薬品性、耐水性、耐久性に優れるという特徴を有する。
【0049】
本発明のフッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物は、例えばOA機器用部材、光学部品、電気・電子部品などに用いることができる。
【0050】
本発明のアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂は、これを含有するコーティング剤として好適に使用することができる。そのようなコーティング剤もまた本発明のひとつである。
【0051】
本発明のコーティング剤の用途としては、例えば、建築用塗料、自動車用塗料、接着剤、シール剤、封止剤、OA機器用コーティング剤、光学部材用コーティング剤、電気・電子材料用コーティングなどが挙げられる。
【0052】
コーティング剤としての形態には特に限定されず、液状であっても粉体状であってもよい。また、上記した本発明の樹脂組成物をコーティング剤として用いることができるのは勿論である。
【0053】
本発明のコーティング剤を適応しうる基材としては、特に限定されないが、プラスチック、金属、ガラスまたはセラミックスなどから形成される基材が挙げられ、具体的には後述する基材などが挙げられる。
【0054】
本発明のコーティング剤を基材に塗布する場合には、基材の材質、形状あるいは用途に応じて適宜使い分けることが望ましいが、例えば、刷毛塗り、バーコーター、アプリケーター、ロールコーターあるいはロールブラシなどにより直接塗布する方法、エアースプレーあるいはエアースプレー塗装機などによるスプレー塗装法、シャワーコーターまたはカーテンフローコーターなどによる流し塗り法、ディップ法、キャスティング法、スピンコート法、メニスカスコーター法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法などを用いることができる。
【0055】
本発明のコーティング剤は、上記方法で塗布後、既述の方法で硬化し硬化物となる。
【0056】
本発明に係る積層体は、基材上に1つ以上の層が設けられてなる積層体であって、該基材上に設けられた層の少なくとも1つが本発明のフッ素樹脂‐シリカハイブリッド硬化物からなる層である積層体である。該基材としては、例えばプラスチック、金属、ガラスまたはセラミックスなどから形成される基材が挙げられる。
【0057】
プラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレナフタレートなどのポリアルキレンテレナフタレート樹脂、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース、トリアセチルセルロースなどのセルロース樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、アラミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、トリメチルペンテン、ポリビニルノルボルネン、ノルボルネン系樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、フッ素系樹脂およびこれらの複合化樹脂(アロイ)などが挙げられる。
【0058】
金属としては、鉄、銅、アルミニウム、ステンレスなどが挙げられる。
セラミックスとしては、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化チタン、フェライト、チタン酸バリウム、ニオブ酸リチウム、硫化モリブデンなどが挙げられる。
【0059】
上記の基材は、フィルム、シート、箔のようにフラットな形状を有する基材であってもよく、また、棒状の基材や、金型などの型を用いて成型される成型物のように種々の立体的な形状を有する基材であってもよい。
【0060】
本発明の積層体において、フッ素樹脂‐シリカハイブリッド硬化物からなる層は基材に隣接して設けられていてもよいし、基材との間に1つ以上の他の層を介して設けられていてもよい。かかる他の層としては、例えば、アンカー層、プライマー層、導電層、帯電防止層、紫外線吸収層、電磁波吸収層などが挙げられる。また必要に応じて、フッ素樹脂‐シリカハイブリッド硬化物からなる層は複数存在してもよく、それら複数のフッ素樹脂‐シリカハイブリッド硬化物からなる層の間に1つ以上の他の層が存在してもよい。
【0061】
積層体の作製方法は特に限定されないが、コーティング、ラミネート、共押し出しなどの従来公知の方法が挙げられる。本発明の効果を最大限に生かすためには、フッ素樹脂‐シリカハイブリッド硬化物からなる層は最外層であることが望ましい。本発明の積層体は、耐熱性、耐薬品性、耐水性、耐久性に優れた特徴を有する。この様な積層体の用途としては、例えば、光学フィルム、電気・電子材料基板、包装材料などが挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明する。なお、各例中、%は特記しない限り重量基準である。
また、残存膜率は、既に述べた方法により測定した。
【0063】
実施例1(アルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂の製造)
攪拌機、冷却管、温度計、窒素吹き込み口を備えた反応装置に、エステル基を有するフッ素樹脂(テトラフルオロエチレン/酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン換算数平均分子量24万、エステル基当量110g/eq)のN−メチル−2−ピロリドン溶液(フッ素樹脂濃度10%)600gと、ポリ(テトラメトキシシラン)(多摩化学工業株式会社製、商品名「Mシリケート51」、平均繰り返し単位数=4.0)40gとを仕込み、120℃まで加熱した。ここに触媒として、ジブチル錫ジラウレート1.2gを加え、120℃で5時間エステル交換反応させることによって、アルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂および溶剤を含有する液状の樹脂組成物(以下、樹脂組成物(A−1)という)を得た。このとき、M/M=0.16であり、樹脂組成物(A−1)から得られる硬化物の残存膜率は92%であった。
【0064】
実施例2
実施例1で用いたのと同じ反応装置に、実施例1記載のエステル基を有するフッ素樹脂のメチルイソブチルケトン溶液(フッ素樹脂濃度22%)500gと、ポリ(メチルトリメトキシシラン)(多摩化学工業株式会社製、商品名「MTMS−A」、平均繰り返し単位数=3.2)76gとを仕込み、100℃まで加熱した。ここに触媒として、ジブチル錫ジラウレート1.4gを加え、100℃で7時間エステル交換反応させることによって、アルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂および溶剤を含有する液状の樹脂組成物(以下、樹脂組成物(A−2)という)を得た。このとき、M/M=0.4であり、樹脂組成物(A−2)から得られる硬化物の残存膜率は95%であった。
【0065】
実施例3
実施例1で得られた樹脂組成物(A−1)100gにシリカゾル(日産化学工業株式会社製 MEK−ST)3gを配合することで、さらにフィラーを含有する樹脂組成物を得た。
【0066】
実施例4
樹脂組成物(A−1)を実施例2で得られた樹脂組成物(A−2)に変更したこと以外は、実施例3と同じにして、さらにフィラーを含有する樹脂組成物を得た。
【0067】
比較例1
実施例1記載のエステル基を有するフッ素樹脂のN−メチル−2−ピロリドン溶液(フッ素樹脂濃度10%)600gにシリカゾル(日産化学工業株式会社製 MEK−ST)68gを配合することで樹脂組成物を得た。
【0068】
比較例2
実施例1記載のエステル基を有するフッ素樹脂のN−メチル−2−ピロリドン溶液(フッ素樹脂濃度10%)600g、ポリ(テトラメトキシシラン)(多摩化学工業株式会社製、商品名「Mシリケート51」、平均繰り返し単位数=4.0)40g、およびジブチル錫ジラウレート 1.2gを配合することで樹脂組成物を得た。
【0069】
実施例1〜4および比較例1,2記載の樹脂組成物をテフロン容器に流し込み、100℃で60分さらに200℃で60分乾燥・硬化させることにより膜厚10μmの硬化物を得た。また、同様にして(流し込む量を調整して)膜厚50μmの硬化物を得た。得られた膜厚10μmの硬化物について目視による外観の評価を、膜厚50μmの硬化物について耐熱機械特性およびゲル分率を下記の方法により評価した。
【0070】
外観(目視評価)
○:透明 △:濁りがある ×:白濁している
【0071】
耐熱機械特性
一定温度、一定荷重下における硬化物の変形の程度で評価した。すなわち、幅10mm×長さ50mmの帯状に調製した硬化物の長さ方向に25gの荷重をかけ、100℃で60分放置した後の硬化物の変化をもって評価した。
○:破断せず ×:伸びきって破断
【0072】
ゲル分率
硬化物(幅20mm×長さ50mm×厚さ50μm)を400メッシュの金網状容器に入れたものをアセトン中に漬け、50℃で24時間放置後に金網状容器の中に残存している硬化物の乾燥重量を測定し、浸漬前の乾燥重量に対する比率を求めてゲル分率とした。
【0073】
外観、耐熱機械特性、ゲル分率の評価結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
実施例5、6および比較例3、4
実施例1、2および比較例1,2記載の樹脂組成物をそれぞれコーティング剤として用い、UV処理を施したPETフィルム(東レ(株)社製 ルミラー T60 厚み50μm)の片面へ乾燥膜厚3μmとなるようにバーコーターでコートした後、70℃で20分、ついで140℃で30分乾燥・硬化することで、PETフィルム基材の片面に硬化物層が設けられた積層体を作製した。
【0076】
上記で得られた積層体について、密着性、耐酸性、耐アルカリ性、耐溶剤性の評価試験を行った。試験方法は以下の通りである。
【0077】
密着性
JIS K−5600に基づき、ゴバン目セロテープ剥離試験を行い次の基準で判定した。
○:100/100 △:99〜80/100 ×:79/100以下
【0078】
耐酸性
硬化物面に0.1規定塩酸水溶液を1ml滴下し、1時間後に拭き取り、外観を目視で評価し、変化の見られないものを「良好」、白化や溶解が見られるものを「不良」とした。
【0079】
耐溶剤性
硬化物面をメタノールを十分染みこませた脱脂綿にて往復20回擦った後の外観を目視で評価し、変化の見られないものを「○」、白化や溶解が見られるものを「×」とした。
【0080】
密着性、耐酸性、耐溶剤性の試験結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
実施例7、8および比較例5、6
実施例1、2および比較例1,2記載の樹脂組成物をそれぞれコーティング剤として用い、UV処理を施したPETフィルム(東レ(株)社製 ルミラー T60 厚み50μm)の一方の面へ乾燥膜厚3μmとなるようにバーコーターでコートした後、70℃で20分乾燥・硬化した。ついで、それぞれの例における同じコーティング剤を他方のPETフィルム面に、同じく乾燥膜厚3μmとなるようにバーコーターでコートした後、70℃で20分乾燥・硬化した。その後、さらに140℃で30分乾燥・硬化することで、PETフィルム基材の両面に硬化物層が設けられた積層体を作製した。
【0083】
上記で得られた積層体について、耐水性、耐久性評価試験を行った。試験方法は以下の通りである。
【0084】
耐水性
得られた積層体を50℃の水に12時間漬けた後の、外観の変化を目視で評価した。
○:変化無し ×:白濁している
【0085】
耐久性
得られた積層体および参考例として未コート品のPETフィルムを、200℃、30分加熱処理を行い、光学特性の変化を評価した。
光学特性としては、日本電色工業(株)社製 濁度計 NDH2000 にてヘイズを測定し、ヘイズの変化率を下記式により求めた。
式: ヘイズ変化率 =(H−H)/H
(H:加熱処理後のヘイズ H:加熱処理前のヘイズ)
【0086】
耐水性試験結果を表3に、耐久性試験結果を表4に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂、アルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂組成物およびそれを含有するコーティング剤は、建築用塗料、自動車用塗料、接着剤、シール剤、封止剤、OA機器用コーティング剤、光学部材用コーティング剤、電気・電子材料用コーティング剤などに利用できる。
また、本発明のアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂ないし組成物を硬化して得られるフッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物は、OA機器用部材、光学部品、電気・電子部品などの成形材料として利用できる。さらに、フッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物を有する積層体は、光学フィルム、電気・電子材料基板、包装材料などに利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤に可溶なエステル基を有するフッ素樹脂(1)と、テトラアルコキシシラン部分縮合物および/またはトリアルコキシシラン部分縮合物(2)とをエステル交換反応させることによって得られるアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂。
【請求項2】
請求項1に記載されたアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂および溶剤を含有するアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1に記載されたアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂およびフィラーを含有するアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂組成物。
【請求項4】
フィラーが、金属酸化物、金属、ポリマーおよび鉱物からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載されたアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1に記載されたアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂を含有するコーティング剤。
【請求項6】
請求項1に記載されたアルコキシシリル基含有シラン変性フッ素樹脂をゾル−ゲル硬化させることによって得られるフッ素樹脂−シリカハイブリッド硬化物。
【請求項7】
基材上に設けられた層のうち少なくとも1つが請求項6に記載されたフッ素樹脂‐シリカハイブリッド硬化物からなる層である積層体。
【請求項8】
基材がプラスチック、金属、ガラスまたはセラミックスから形成されている請求項7に記載された積層体。
【請求項9】
基材がフィルム、シート、箔または成型物である請求項7に記載された積層体。

【公開番号】特開2008−81547(P2008−81547A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260505(P2006−260505)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
2.セロテープ
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】