説明

アルミニウム合金製部材の製造方法

【課題】 溶体化処理時におけるAl−Cu化合物の共晶融解を防止するアルミニウム合金製部材の製造方法を提供すること。
【解決手段】 アルミニウム合金で形成される被加工素材12を、当該被加工素材12中のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって共晶融解とならないように高加工度で鍛造成形し、鍛造成形後のスクロール13に溶体化処理及び時効処理を行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金製部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロールはエアコン等の空調機械を構成する圧縮機等に用いられるものであり、その形状を図11に示す。スクロール101は端板102と、端板102の一端面から渦巻状に延設するラップ103と、端板102の他端面に形成される筒状の取付部104とから構成されている。スクロール圧縮機はこのスクロール101を、互いのラップ103を対向するように組み合わせ、その一方のスクロール101を他方のスクロール101に対して公転させて、両スクロール101のラップ103の間で流体を圧縮するものである。
【0003】
近年、スクロールは軽量化等のために、アルミニウム合金(Al−Si−Cu−Mg系合金)で製造されることが多く、その製造方法は鋳造が主であった。
【0004】
従来の一般的な鋳造によるスクロール製造方法を図12(a),(b)に示す。図12(a)は連続鋳造棒の削り出しによる製造方法である。この方法は、連続鋳造で押し出された鋳造棒105を輪切り加工及びピーリング加工し、所定の大きさの素材106を形成する。そして、この素材106に強度を向上させるために溶体化処理及び時効熱処理を施し、その後、機械加工等により削り出し仕上げ加工を行いスクロール107を製造するものである。また、同図(b)は鋳造成形による製造方法である。この方法は、先ず、金型等によりアルミニウム合金製のスクロール108を鋳造成形し、次に、強度を向上させるために溶体化処理及び時効熱処理をする。その後、機械加工等により削り出し仕上げ加工を行なうものである。
【0005】
このような従来のアルミニウム合金製鋳造スクロールの製造方法は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−192180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、アルミニウム合金で製造されるスクロールは軽量化等を有するだけではなく、高強度化も求められるようになってきている。これは、アルミニウム合金を組成するCuの添加量を増加することで対応可能とされる。例えば、従来のアルミニウム合金製スクロールはAl−9Si−2Cu−0.4Mgで形成されていたが、これをAl−9Si−4Cu−0.35Mgのアルミニウム合金で形成することにより対応可能となる。しかしながら、このように組成を変えて従来と同じ条件で溶体化処理を行なおうとすると、材料に欠陥が生じてしまうことがある。
【0008】
この溶体化処理中に生じる材料の欠陥について図13(a),(b)を用いて説明する。同図(a)は鋳造後のスクロールの組織図であり、同図(b)は溶体化処理(510℃×5H)及び時効処理(T6処理:170℃×6H)後のスクロールの組織図である。
【0009】
図13(a)に示すように、Cuの添加量が増加するとAl−Cu化合物の粒子が粗大化して組織中に介在することになる。また、SiはAl−Cu化合物を溶解する働きを有し、MgはAl−Cu化合物の融点を低下させAl−Cu化合物を低融点化合物にする働きを有している。これにより、溶体化処理の昇温過程においてAl−Cu化合物が拡散によるAl母層中に固溶するまでの時間がかかってしまい、Al−Cu化合物が固溶して消滅する前にSiとMgとの働きによって、Al−Cu化合物は拡散が不十分のうちに溶解されてしまう。同図(b)に示すように、このAl−Cu化合物が溶解した箇所は、組織中で空洞となり、材料の欠陥となってしまう。このような現象は共晶融解と称され、材料の熱処理中に共晶融解が起こると、その後の鋳造品の品質等に悪影響を及ぼしてしまうおそれがある。
【0010】
更に、近年はスクロールの強度や生産性等の問題によって、鋳造より鍛造で製造する方が有利であると解されるようになり、スクロールは鍛造品で使用されるようになっている。鍛造によるスクロール製造方法は鍛造用金型を用いて行うものであり、この鍛造金型に挿入できるように、鍛造工程前に据え込み用素材を所定の形状の被加工素材に成形する据え込み加工を行うものである。しかしながら、従来のアルミニウム合金製鍛造スクロールにおいても、上述した共晶融解についての対応は何ら講じられていなかった。
【0011】
従って、本発明は上記課題を解決するものであって、溶体化処理時におけるAl−Cu化合物の共晶融解を防止するアルミニウム合金製部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する第1の発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法は、
アルミニウム合金で形成される被加工素材を、当該被加工素材中のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって空洞とならないように高加工度で鍛造成形し、
鍛造成形後に前記被加工素材に溶体化処理及び時効処理を行うようにした
ことを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する第2の発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法は、
アルミニウム合金を連続鋳造により鋳造素材に形成し、
前記鋳造素材を輪切加工及びピーリング加工により被加工素材に形成し、
前記被加工素材を、当該被加工素材中のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって空洞とならないように高加工度で鍛造成形し、
鍛造成形後に前記被加工素材に溶体化処理及び時効処理を行うようにした
ことを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決する第3の発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法は、
アルミニウム合金で形成される据え込み用素材を、当該据え込み用素材中のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって空洞とならないように高加工度で据え込み加工し、
鍛造成形後に前記据え込み用素材に溶体化処理及び時効処理を行うようにした
ことを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決する第4の発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法は、
アルミニウム合金を連続鋳造により鋳造素材に形成し、
前記鋳造素材を輪切加工及びピーリング加工により据え込み用素材に形成し、
前記据え込み用素材を、当該据え込み用素材中のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって空洞とならないように高加工度で据え込み加工し、
鍛造成形後に前記据え込み用素材に溶体化処理及び時効処理を行うようにした
ことを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決する第5の発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法は、
アルミニウム合金中のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって空洞とならないように高加工度で連続押し出し加工して鋳造素材を形成し、
前記鋳造素材を輪切加工及びピーリング加工により被加工素材に形成し、
鍛造成形後に前記被加工素材に溶体化処理及び時効処理を行うようにした
ことを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決する第6の発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法は、
第1乃至5のいずれかの発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法において、
前記アルミニウム合金をCu添加量が4.2wt%以下になるように形成し、
ε≧1.5のひずみを導入するように高加工度を付与する
ことを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決する第7の発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法は、
第1乃至6いずれかの発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法において、
製造される部材はスクロールである
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法によれば、アルミニウム合金で形成される被加工素材を、当該被加工素材中のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって空洞とならないように高加工度で鍛造成形し、鍛造成形後に前記被加工素材に溶体化処理及び時効処理を行うようにしたことにより、溶体化処理時におけるAl−Cu化合物の共晶融解を防止することができる。
【0020】
第2の発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法によれば、アルミニウム合金を連続鋳造により鋳造素材に形成し、前記鋳造素材を輪切加工及びピーリング加工により被加工素材に形成し、前記被加工素材を、当該被加工素材中のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって空洞とならないように高加工度で鍛造成形し、鍛造成形後に前記被加工素材に溶体化処理及び時効処理を行うようにしたことにより、溶体化処理時におけるAl−Cu化合物の共晶融解を防止することができる。
【0021】
第3の発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法によれば、アルミニウム合金で形成される据え込み用素材を、当該据え込み用素材中のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって空洞とならないように高加工度で据え込み加工し、鍛造成形後に前記据え込み用素材に溶体化処理及び時効処理を行うようにしたことにより、溶体化処理時におけるAl−Cu化合物の共晶融解を防止することができる。
【0022】
第4の発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法によれば、アルミニウム合金を連続鋳造により鋳造素材に形成し、前記鋳造素材を輪切加工及びピーリング加工により据え込み用素材に形成し、前記据え込み用素材を、当該据え込み用素材中のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって空洞とならないように高加工度で据え込み加工し、鍛造成形後に前記据え込み用素材に溶体化処理及び時効処理を行うようにしたことにより、溶体化処理時におけるAl−Cu化合物の共晶融解を防止することができる。
【0023】
第5の発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法によれば、アルミニウム合金中のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって空洞とならないように高加工度で連続押し出し加工して鋳造素材を形成し、前記鋳造素材を輪切加工及びピーリング加工により被加工素材に形成し、鍛造成形後に前記被加工素材に溶体化処理及び時効処理を行うようにしたことにより、溶体化処理時におけるAl−Cu化合物の共晶融解を防止することができる。
【0024】
第6の発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法によれば、第1乃至5の発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法において、前記アルミニウム合金をCu添加量が4.2wt%以下になるように形成し、ε≧1.5のひずみを導入するように高加工度を付与することにより、溶体化処理時におけるAl−Cu化合物の共晶融解を防止することができる。
【0025】
第7の発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法は、第1乃至6の発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法において、製造される部材をスクロールとすることにより、溶体化処理時におけるAl−Cu化合物の共晶融解を防止することができるので、高強度の前記スクロールを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る車体構造の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0027】
先ず、図1〜図4を参照しながら実施例1を説明する。図1は本発明の実施例1に係るスクロールの製造プロセスフローチャートを示した図、図2はアルミニウム合金の化学成分を示した図、図3は鍛造条件を示した図、図4(a)は溶体化処理及びT6処理後のスクロールの組織断面図、同図(b)は同図(a)のIの位置の拡大図、同図(c)は同図(a)のIIの位置の拡大図、図5は高加工度を付与されたAl−Cu化合物の模式図である。
【0028】
図1に示すように、合金成分を調整して溶解されたアルミニウム合金は連続鋳造された後、切断されて鋳造棒11に形成される。このアルミニウム合金はAl−9Si−4Cu−0.35Mgで組成されており、その化学成分を図2に示す。次に、鋳造棒11は所定の長さ(高さ)になるように輪切加工された後、ピーリング加工されて被加工素材12に形成される。鋳造棒11の径は略鍛造品の外形に合わせるようにするのが一般的であり、被加工素材12は鍛造用の素材となるものである。
【0029】
次に、図示しないが鍛造用金型を用いて被加工素材12を鍛造し、スクロール13が成形される。この鍛造成形により被加工素材12に高加工度が付与される。このときの鍛造条件を図3に示す。そして、スクロール13は鍛造後強度を得るために溶体化処理及び時効処理が行われる。本実施例での溶体化処理の条件を510℃×5Hとし、時効処理(T6処理:以下T6処理と記す)の条件を170℃×6Hとした。その後、寸法精度を出すためにスクロール13の表面を切削等により仕上げ加工をする。
【0030】
そして、図4(a)に示すように、溶体化処理及びT6処理後のスクロール13の組織の断面観察をI,IIの位置で行った。同図(b)はラップの根元(Iの位置)の断面観察を行ったものであり、同図(c)は端板(IIの位置)の断面観察を行ったものである。この結果、高加工度領域であるIの位置では共晶融解は発生しておらず、低加工度領域であるIIの位置では共晶融解が発生していることがわかる。
【0031】
本実施例では、鍛造成形時において被加工素材12を高温に保持して圧縮変形させることにより高加工度を付与している。また、被加工素材12を高温に保持することにより、被加工素材12が変形しやすくなり、割れが生じにくくさせている。これにより、図5に示すように、略球状に形成するAl−Cu化合物は板状に押し潰され、鍛造成形前よりも比表面積が増加される。つまり、Al−Cu化合物はAl母層と接する面積が大きくなる。よって、溶体化処理の昇温過程においてAl−Cu化合物の拡散が促進され、拡散に要する時間が短くなり、Al−Cu化合物がAl母層中に固溶し易くなる。
【0032】
このように、アルミニウム合金で形成されるスクロールの強度を上げるためにCuの添加量を増加させても、低融点共晶化合物であるAl−Cu化合物に高加工度を付与し、比表面積を大きくさせることにより、溶体化処理の昇温過程中にAl−Cu化合物が消滅するので、共晶融解の発生を防止することができる。
【0033】
たとえ、加工度の低い付近で共晶融解が発生してもスクロールの表層付近であれば疲労強度の起点になりにくく、使用条件を選べば使用に十分に耐えられると考えられる。即ち、鍛造成形は共晶融解を防止する効果的なプロセスであると解される。
【0034】
従って、本発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法によれば、アルミニウム合金を連続鋳造により鋳造素材11に形成し、鋳造素材11を輪切加工及びピーリング加工により被加工素材12に形成し、被加工素材12を、当該被加工素材12中のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって共晶融解とならないように高加工度で鍛造成形してスクロール13を形成し、スクロール13に溶体化処理及びT6処理を行うようにしたことにより、溶体化処理時におけるAl−Cu化合物の共晶融解を防止することができる。また、このような欠陥(空洞)がなくなるので、高強度のスクロール13を製造することができる。
【実施例2】
【0035】
次に、図6〜図10を参照しながら実施例2を説明する。図6は本発明の実施例2に係るスクロールの製造プロセスフローチャートを示した図、図7は据え込み条件を示した図、図8(a)は溶体化処理及びT6処理後のスクロールの組織断面図、同図(b)は同図(a)のIIIの位置の拡大図、図9は据え込み用素材の形状と圧縮ひずみの導入量とを示した図、図10は共晶融解の有無に及ぼす圧縮ひずみとCu添加量との関係を示した図である。
【0036】
図6に示すように、合金成分を調整して溶解されたアルミニウム合金は連続鋳造された後、切断されて鋳造棒14に形成される。このアルミニウム合金は実施例1と同様にAl−9Si−4Cu−0.35Mgで組成されており、その化学成分は図2に示したものと同じである。次に、鋳造棒14は所定の長さ(高さ)になるように輪切加工された後、ピーリング加工されて据え込み用素材15に形成され、この据え込み用素材15は据え込み加工されて被加工素材16に形成される。この据え込み加工により高加工度が付与される。このときの据え込み条件を図7に示す。被加工素材16の径は略鍛造品の外形に合わせるようにするのが一般的である。
【0037】
次に、図示しないが鍛造用金型を用いて被加工素材16を鍛造し、スクロール17が成形される。このときの鍛造条件は図3に示したものと同じである。そして、スクロール13は鍛造後強度を得るために溶体化処理及び時効処理が行われる。本実施例での溶体化処理の条件を515℃×5Hとし、時効処理(T6処理:以下T6処理と記す)の条件を170℃×6Hとした。その後、寸法精度を出すためにスクロール17の表面を切削等により仕上げ加工をする。
【0038】
そして、図8(a)に示すように、溶体化処理及びT6処理後のスクロール17の組織の断面観察をIIIの位置で行った。同図(b)はラップの根元(IIIの位置)の断面観察を行ったものである。この結果、据え込み加工により高加工度が付与されたスクロール17は、全体的に均一に高加工度領域が形成され、共晶融解は発生していなかった。
【0039】
本実施例で行う据え込み加工は、据え込み用素材を所定の形状の被加工素材に成形する従来の据え込み加工とは違い、据え込み用素材15を所定の形状に成形するだけではなく、高加工度を付与する高温圧縮変形も行うものである。また、被加工素材12を高温に保持することにより、被加工素材12が変形しやすくなり、割れが生じにくくさせている。
【0040】
上述したように据え込み加工を行うことにより、図5に示すように、略球状に形成するAl−Cu化合物は板状に押し潰され、据え込み加工前よりも比表面積が増加される。つまり、Al−Cu化合物はAl母層と接する面積が大きくなる。よって、溶体化処理の昇温過程においてAl−Cu化合物の拡散が促進され、拡散に要する時間が短くなり、Al−Cu化合物がAl母層中に固溶し易くなる。つまり、据え込み加工は素材中の組織を変形させるようにした組織制御を意図的に行うものである。
【0041】
このように、アルミニウム合金で形成されるスクロールの強度を上げるためにCuの添加量を増加させても、低融点共晶化合物であるAl−Cu化合物に高加工度を付与し、比表面積を大きくさせることにより、溶体化処理の昇温過程中にAl−Cu化合物が消滅するので、共晶融解の発生を防止することができる。
【0042】
ここで、Cu添加量が2.0,3.5,4.2wt%のアルミニウム合金で形成された据え込み用素材を用意し、各据え込み用素材の被加工素材への圧縮ひずみεが0.0,0.5,1.0,1.2,1.5となるように据え込み加工した。これにより、Cu添加量と圧縮ひずみεとの関係について解析することにする。
【0043】
図9はCu添加量が2.0,3.5,4.2wt%の各据え込み用素材A〜Eに共通する形状と据え込み加工時に導入される圧縮ひずみεの大きさを示したものである。hoは据え込み用素材の高さを示し、Doは直径を示している。据え込み用素材AはCu添加量を増加する前の2.0wt%であるので据え込み加工をする必要がないので圧縮ひずみεが0.0となっている。
【0044】
図10は図9の条件で据え込み加工された被加工素材を鍛造成形した後、溶体化処理及びT6処理後のスクロールの組織を解析し、共晶融解の有無を示したものである。共晶融解が発生していたものには×印を付し、発生していなかったものには○印を付した。
【0045】
図10に示すように、Cu添加量が2.0wt%の場合は各圧縮ひずみで共晶融解が発生していな。また、3.5,4.2wt%の場合は圧縮ひずみがε=1.5のときだけ共晶融解が発生していなかった。この結果、Cu添加量が4.2wt%以下あれば、圧縮ひずみがε≧1.5となるような高加工度を付与することにより、共晶融解を防止することができる。
【0046】
また、鍛造成形前に据え込み加工を行うことにより、鍛造成形において加工度を上げられない低加工度領域の加工度を上げることができ、鍛造品のAl−Cu化合物を全体的に減少させ、共晶融解を防止している。
【0047】
なお、実施例1,2のように、鍛造成形中や据え込み加工中に付与しなくても、アルミニウム合金を連続押し出し加工時に高加工度を付与するように圧縮しても構わない。
【0048】
従って、本発明に係るアルミニウム合金製部材の製造方法によれば、アルミニウム合金を連続鋳造により鋳造素材14に形成し、鋳造素材14を輪切加工及びピーリング加工により据え込み用素材15に形成し、据え込み用素材15を、当該据え込み用素材中15のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって共晶融解とならないように高加工度で据え込み加工して被加工素材16に形成し、被加工素材16を鍛造成形してスクロール17に成形し、スクロール17に溶体化処理及びT6処理を行うようにしたことにより、溶体化処理時におけるAl−Cu化合物の共晶融解を防止することができる。
【0049】
また、アルミニウム合金をCu添加量が4.2wt%以下になるように形成し、ε≧1.5の圧縮ひずみを導入するように高加工度を付与することにより、確実に共晶融解を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
溶体化処理後の共晶融解を防止することを目的としたアルミニウム合金で形成される部品に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施例1に係るスクロールの製造プロセスフローチャートを示した図である。
【図2】アルミニウム合金の化学成分を示した図である。
【図3】鍛造条件を示した図である。
【図4】(a)は溶体化処理及びT6処理後のスクロールの組織断面図、(b)は同図(a)のIの位置の拡大図、(c)は同図(a)のIIの位置の拡大図である。
【図5】高加工度を付与されたAl−Cu化合物の模式図である。
【図6】本発明の実施例2に係るスクロールの製造プロセスフローチャートを示した図である。
【図7】据え込み条件を示した図である。
【図8】(a)は溶体化処理及びT6処理後のスクロールの組織断面図、(b)は同図(a)のIIIの位置の拡大図である。
【図9】据え込み用素材の形状と圧縮ひずみの導入量とを示した図である。
【図10】共晶融解の有無に及ぼす圧縮ひずみとCu添加量との関係を示した図である。
【図11】従来の一実施例に係るスクロールの概略図である。
【図12】(a)は従来の一実施例に係る連続鋳造棒の削り出しによるスクロールの製造プロセスフローチャートを示した図、(b)は従来の一実施例に係る鋳造成形によるスクロールの製造プロセスフローチャートを示した図である。
【図13】(a)は鋳造後のスクロールの組織図、(b)は溶体化処理及び時効処理後のスクロールの組織図である。
【符号の説明】
【0052】
11,14 鋳造棒
12,16 被加工素材
13,17 スクロール
15 据え込み用素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金で形成される被加工素材を、当該被加工素材中のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって空洞とならないように高加工度で鍛造成形し、
鍛造成形後に前記被加工素材に溶体化処理及び時効処理を行うようにした
ことを特徴とするアルミニウム合金製部材の製造方法。
【請求項2】
アルミニウム合金を連続鋳造により鋳造素材に形成し、
前記鋳造素材を輪切加工及びピーリング加工により被加工素材に形成し、
前記被加工素材を、当該被加工素材中のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって空洞とならないように高加工度で鍛造成形し、
鍛造成形後に前記被加工素材に溶体化処理及び時効処理を行うようにした
ことを特徴とするアルミニウム合金製部材の製造方法。
【請求項3】
アルミニウム合金で形成される据え込み用素材を、当該据え込み用素材中のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって空洞とならないように高加工度で据え込み加工し、
鍛造成形後に前記据え込み用素材に溶体化処理及び時効処理を行うようにした
ことを特徴とするアルミニウム合金製部材の製造方法。
【請求項4】
アルミニウム合金を連続鋳造により鋳造素材に形成し、
前記鋳造素材を輪切加工及びピーリング加工により据え込み用素材に形成し、
前記据え込み用素材を、当該据え込み用素材中のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって空洞とならないように高加工度で据え込み加工し、
鍛造成形後に前記据え込み用素材に溶体化処理及び時効処理を行うようにした
ことを特徴とするアルミニウム合金製部材の製造方法。
【請求項5】
アルミニウム合金中のAl−Cu化合物が後の溶体化処理によって空洞とならないように高加工度で連続押し出し加工して鋳造素材を形成し、
前記鋳造素材を輪切加工及びピーリング加工により被加工素材に形成し、
鍛造成形後に前記被加工素材に溶体化処理及び時効処理を行うようにした
ことを特徴とするアルミニウム合金製部材の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のアルミニウム合金製部材の製造方法において、
前記アルミニウム合金をCu添加量が4.2wt%以下になるように形成し、
ε≧1.5のひずみを導入するように高加工度を付与する
ことを特徴とするアルミニウム合金製部材の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のアルミニウム合金製部材の製造方法において、
製造される部材はスクロールである
ことを特徴とするアルミニウム合金製部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−193765(P2006−193765A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−4700(P2005−4700)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】