説明

アンダーフィル組成物及びそれを用いた半導体装置

【課題】従来のアンダーフィル材よりも低弾性率のアンダーフィル組成物を提供し、これを用いて接続信頼性の高い半導体装置を提供する。
【解決手段】ブタジエン化合物及びウレタン化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物Aと、分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物を少なくとも1種含む化合物Bと、硬化剤と、無機フィラーとを含むアンダーフィル組成物16を、VCSEL15とプリント基板11との間に充填して半導体装置を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子と基板とのフリップチップ実装に用いられるアンダーフィル組成物及びそれを用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子を基板に実装して半導体装置を製造する分野では、半導体素子を高密度に実装する要求が高まっており、その要求を満たす方式としてフリップチップ実装方式が注目されている。これは、半導体素子(チップ)と基板との電気的接続をワイヤボンディングを介して達成する従来のフェイスアップ実装に代わるものであり、半導体素子をフェイスダウン実装し、半導体素子の回路面側に形成したバンプと配線基板の電極との間を電気的及び機械的に接続する方式である。
【0003】
上記フリップチップ実装において、回路面の保護や、バンプ破断の抑制等のために、半導体素子と基板との間にアンダーフィル材が充填されている。例えば、LSIチップをガラスクロス入り有機基板に実装する時のアンダーフィル材は、LSI回路の水分や粉塵に対する保護の機能と、LSIチップ側のSi基板と有機基板との熱膨張率差に起因する接合部の破断を抑制する機能が必要であり、低熱膨張性、高弾性、低吸水率等が要求される。これらの性能は、チップサイズ、バンプ数、バンプサイズ、バンプ金属組成等によって変わるため一概には決定されないが、アンダーフィル材としては、低熱膨張率化のために40〜60重量%程度の無機フィラーを含有する材料が一般的に使用されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照。)。従来、この種のアンダーフィル材の熱膨張率は35〜45ppm/℃程度、その弾性率は8〜12GPa程度である。
【特許文献1】特開平10−101906号公報
【特許文献2】特開2004−346232号公報
【特許文献3】特表2004−518796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、最近では、微細化、高速化のためにLSI回路を形成する絶縁膜は低誘電率化が進められてきている。これに伴って絶縁膜は低弾性率化してきている。例えば、10GPa程度の絶縁膜も使用される場合がある。従来のLSIチップの絶縁膜はアンダーフィル材よりも2倍程度以上の弾性率を有していたため、フリップチップ実装してアンダーフィル材を充填したパッケージに熱ストレスが加えられた場合、アンダーフィル材側が変形し熱応力を吸収できた。しかし、低弾性率の絶縁膜を用いたLSI回路では、アンダーフィル材よりも絶縁膜の弾性率が低くなると、絶縁膜のほうが変形し易くなるため、回路内の配線破断等不良の発生する可能性が高くなるという問題がある。
【0005】
また、近年、表面受発光型の光半導体素子も基板にフリップチップ実装されるようになってきた。この場合、受発光の安定化のために、基板側に光を入出力する光配線が設けられ、さらには、屈折率界面での多重反射を抑制するため、光半導体素子と光配線との光入出力端面の間には、透光性のアンダーフィル材が充填されている。光半導体素子は、LSIチップに比べてチップサイズが小さいため、それに用いるアンダーフィル材には、LSIチップの場合程の低い熱膨張率や高い弾性率は必要としない。しかし、光半導体素子に従来の高弾性のアンダーフィル材を用いると、受発光時おける熱サイクルに起因する応力によって、発光特性が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するもので、弾性率が低い絶縁膜を含む半導体素子や光半導体素子に最適なアンダーフィル組成物を提供するもので、さらにそのアンダーフィル組成物を用いた半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のアンダーフィル組成物は、ブタジエン化合物及びウレタン化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物Aと、分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物を少なくとも1種含む化合物Bと、硬化剤と、無機フィラーとを含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の半導体装置は、半導体素子が基板にフリップチップ実装されている半導体装置であって、前記半導体素子と前記基板との間に、上記本発明のアンダーフィル組成物が充填されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアンダーフィル組成物によれば、弾性率が低い絶縁膜を含む半導体素子や光半導体素子を基板にフリップチップ実装してアンダーフィル組成物を充填しても、半導体素子等に加わる応力を低減できる。また、本発明の半導体装置によれば、上記本発明のアンダーフィル組成物を用いているので、半導体素子等と基板との接続信頼性を高めることができるとともに、半導体素子等の損傷や機能低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
(実施形態1)
先ず、本発明のアンダーフィル組成物の実施形態を説明する。
【0012】
本発明のアンダーフィル組成物は、ブタジエン化合物及びウレタン化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物Aと、分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物を少なくとも1種含む化合物Bと、硬化剤と、無機フィラーとを含む。
【0013】
上記組成を有するアンダーフィル組成物とすることにより、従来のアンダーフィル材とほぼ同等の低い熱膨張率を維持しつつ、従来のアンダーフィル材よりも低弾性率とすることができる。これにより、弾性率10GPa程度の低誘電率材料を絶縁材とする回路を有するLSIチップ等の半導体素子や、面発光型半導体レーザ(VCSEL:Vertical Cavity-Surface Emitting Laser)、フォトディテクタ(PD:Photodetector)等の光半導体素子をフリップチップ実装する場合に、熱サイクル試験耐性や吸湿リフロー試験耐性に優れる半導体装置を提供できる。
【0014】
上記化合物Aの含有量は、上記化合物A、上記化合物B及び上記硬化剤の全重量に対して、10重量%以上30重量%以下であることが好ましく、15重量%以上30重量%以下がより好ましい。上記化合物Aに含まれるブタジエン化合物及びウレタン化合物は、アンダーフィル組成物の弾性率を低下させるために添加するものであり、上記化合物Aの含有量が上記範囲内であれば、アンダーフィル組成物の室温(25℃)における弾性率を4GPa以上7GPa以下にすることができる。
【0015】
上記無機フィラーの含有量は、上記アンダーフィル組成物の全重量に対して、30重量%以上70重量%以下が好ましく、40重量%以上60重量%以下がより好ましい。これにより、従来のアンダーフィル材と同等の45ppm/℃以下の熱膨張率を維持できる。
【0016】
また、上記無機フィラーは、平均粒径が0.1μm以下のナノシリカフィラーを含むことが好ましく、平均粒径が0.05μm以下のナノシリカフィラーを含むことがより好ましい。これにより、アンダーフィル組成物の透光性を維持しつつ、低熱膨張率化を実現できる。従って、透光性が必要な光半導体素子のアンダーフィル組成物として最適となる。
【0017】
上記ナノシリカフィラーの含有量は、上記無機フィラーの全重量に対して、20重量%以上100重量%以下とすることができ、好ましくは40重量%以上100重量%以下である。アンダーフィル組成物が充填される光半導体素子と基板との間隔は、5〜50μmと短いため、透光性に関して上記無機フィラーの全てを上記ナノシリカフィラーとしなくても実用上問題はない。
【0018】
シリカフィラーは、その粒子表面にシラノール基が残存している場合がある。シラノール基は反応性があり、特定のエポキシ化合物を反応開始させる場合があるため、シラノール基は少ないことが望ましい。粒子表面のシラノール基を低減する方法は、公知であり、後述のエポキシ基、アミノ基又はメルカプト基等を有するシランカップリング剤で表面処理する方法等がある。上記ナノシリカフィラーもシラノール基は少ないことが望ましく、このため、上記ナノシリカフィラーのpHは5以上9以下であることが望ましい。
【0019】
上記化合物Aは、アンダーフィル組成物の弾性率を下げる成分であり、室温(25℃)で液状であることが好ましい。これにより、他の成分との混合が容易となり、より確実に弾性率を下げることができる。
【0020】
また、上記化合物Aは、主鎖末端又は側鎖に、エポキシ基、不飽和エチレン基及び水酸基から選ばれる少なくとも1種を有することが好ましい。これにより、アンダーフィル組成物の弾性率の安定化を図ることができる。
【0021】
また、上記ウレタン化合物は、当初からウレタン骨格を有する化合物であってもよく、イソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する化合物との混合物で、加熱等により反応してウレタン骨格を形成する混合物であってもよい。
【0022】
上記ブタジエン化合物としては、例えば、液状ポリブタジエン“B−1000”、“M−1000”(商品名、新日本石油化学製)、“Hycar CTB”(商品名、宇部興産製)、“C−1000”(商品名、東洋水曹達製)、又は液状ブタジエン−アクリロニトリル共重合体“CTBN1300”(商品名、宇部興産製)等が使用できる。エポキシ基を有するブタジエン化合物としては、例えば、“エポリードPB3600”、“エポリードPB4700”(商品名、ダイセル化学製)、液状ポリブタジエン“E−1000”、“E−1800”(商品名、新日本石油化学製)等が使用できる。
【0023】
上記ウレタン化合物としては、例えば、ポリウレタン“ニッポラン 3022”(商品名、日本ポリウレタン工業製)、イソシアネート基を有するウレタン化合物としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、6−メトキシ−2,4−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、4,4’−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ポリイソシアネート“D−101A”、“D165N”(商品名、三井武田ケミカル製)、ブロックタイプイソシアネート“B−830”(商品名、三井武田ケミカル製)等、エポキシ基を有するウレタン化合物としては、例えば、“PUE101”、“PUE106”(商品名、ダイセル化学製)等、水酸基を有するウレタン化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール“ニッポラン800”、“ニッポラン136”(商品名、日本ポリウレタン工業製)、ポリエステルポリオール“U−53”(商品名、三井武田ケミカル製)、ポリウレタンポリオール“E−550”(商品名、三井武田ケミカル製)、ポリカーボネートジオール“ニッポラン980R”(商品名、日本ポリウレタン工業製)等、不飽和エチレン基を有するウレタン化合物としては、例えば、フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー等が使用できる。
【0024】
上記分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物としては、例えば、グリシジルエーテル、線状脂肪族エポキシ、脂環式エポキシ又はこれらの混合物が使用できる。グリシジルエーテルとしては、例えば、ビスフェノールF型エポキシ、ビスフェノールA型エポキシ、ナフタレン型エポキシ、ノボラック型エポキシ又はこれらの混合物、線状脂肪族エポキシとしては、例えば、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル又はこれらの混合物、脂環式エポキシとしては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレート又はこれらの混合物が使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
上記化合物Bの硬化剤としては、例えば、ポリアミン、酸無水物、イミダゾール化合物又はこれらの混合物等が使用できる。ポリアミンとしては、例えば、イソホロンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキシスピロ−(5,5)−ウンデカンアダクト、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、m−キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、メンセンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、変性脂肪族ポリアミン“Q604”、“Q636”(商品名、三井化学製)、ポリアミドアミン“Q651”(商品名、三井化学製)又はこれらの混合物が使用できる。これらの混合物は、一般に反応開始温度が低いため、アンダーフィル組成物の保存安定性の観点からはマイクロカプセルの形態で添加されることが望ましい。
【0026】
また、酸無水物としては、例えば、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ピロメリット酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメート)、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、“リカシッドTMTA”、“リカシッドMT−500”、“リカシッドHF−24B”、“リカシッドHF−04”(商品名、新日本理化製)、“エピキュアYH306”、“エピキュアYH307”(商品名、油化シェルエポキシ製)等、又はこれらの混合物が使用できる。
【0027】
また、イミダゾール化合物としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−(2’−メチルイミダゾリル−(1’))−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2’−ウンデシルイミダゾリル)−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2’−エチル−4−メチルイミダゾリル−(1’))−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2’−メチルイミダゾリル−(1’))−エチル−s−トリアジン・イソシアヌル酸付加物、又はこれらの混合物が使用できる。なお、ポリアミンの場合と同様に、液状のものや、反応開始温度の低いものは、マイクロカプセルの形態で添加されることが望ましい。
【0028】
本実施形態のアンダーフィル組成物には、アンダーフィル組成物と基板又は半導体部品との密着性を改善するために、他の添加剤を混合してもよい。添加剤の種類は、基板の表層の膜材質や半導体部品の表層の膜材質により、適宜選択して添加することができ、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤又はシリコーン系カップリング剤等が使用できる。シラン系カップリング剤としては、例えば、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が使用できる。チタネート系カップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル)チタネート、ジイソプロピルビス(ジオクチルホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスフェート)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート等が使用できる。
【0029】
本実施形態のアンダーフィル組成物の製造方法は特に限定されず、上述の化合物A、化合物B、硬化剤、無機フィラーの必須成分に、適宜添加剤等を混合・撹拌することで、本実施形態のアンダーフィル組成物を製造することができる。なお、溶剤を含む原料を用いた場合には、混合・撹拌後、減圧撹拌等の方法により、溶剤を除去することが望ましい。
【0030】
(実施形態2)
次に、本発明の半導体装置の実施形態を説明する。本発明の半導体装置は、半導体素子が基板にフリップチップ実装されている。また、上記半導体素子と上記基板との間に、実施形態1のアンダーフィル組成物が充填されている。これにより、半導体素子と基板との接続信頼性を高めることができるとともに、半導体素子の損傷や機能低下を防止できる。
【0031】
上記半導体素子には、例えば、LISチップ、ウエハ等、及び前述の面発光型半導体レーザ(VCSEL)、フォトディテクタ(PD)等の光半導体素子が含まれる。また、上記基板には、プリント基板、セラミック基板、半導体基板等が含まれる。
【0032】
実施形態1の上記アンダーフィル組成物を用いることにより、室温(25℃)におけるその弾性率を4GPa以上7GPa以下に設定でき、その熱膨張率を45ppm/℃以下に設定できる。これにより、上記半導体素子が、弾性率12GPa以下の絶縁膜を用いたLSI回路を備えていても、回路内の配線破断等の不良の発生を抑制できる。また、上記半導体素子が、光半導体素子であっても、発光特性の低下を抑制できる。
【0033】
(実施形態3)
次に、本発明の半導体装置の製造方法の実施形態を図面に基づき説明する。図1A、Bは、本実施形態の半導体装置の製造方法を示す工程断面図である。
【0034】
本実施形態の製造方法では、先ず図1Aに示すように、電極10が配置されたプリント基板11を準備する。プリント基板11は、内部に45度ミラー12と、光ファイバ13とを備えている。次に、プリント基板11の電極10の上に、バンプ14を備えた面発光型半導体レーザ(VCSEL)15を配置する。
【0035】
続いて、図1Bに示すように、VCSEL15のバンプ14とプリント基板11の電極10とを、はんだ接合、超音波接合、金スタッド・はんだ接合等により接合し、そのVCSEL15とプリント基板11との間に、本実施形態1のアンダーフィル組成物16を充填する。その後、加熱によりアンダーフィル組成物16を硬化させることにより、本実施形態の半導体装置が完成する。本実施形態の半導体装置は、実施形態1のアンダーフィル組成物16を用いているため、発光及び消光を繰り返して熱サイクルを加えても、それに起因する応力をアンダーフィル組成物16が吸収することによって、VCSEL15の発光特性の低下を抑制できる。
【0036】
なお、上記半導体装置では、VCSEL15からの発光は、矢印のように、プリント基板11に垂直に入射し、45度ミラー12で反射して、光ファイバ13を通じて外部に照射される。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
<アンダーフィル組成物の作製>
分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物である変性ビスフェノールA型エポキシ(リカレジン製の“BEO−60E”)15重量部、ビスフェノールF型エポキシ(大日本インキ化学工業製の“EXA830LVP”)45重量部、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル10重量部と、室温(25℃)で液状のエポキシ基を有するブタジエン化合物(新日本石油化学製の“E−1000”)10重量部、エポキシ基を有するウレタン化合物(ダイセル化学製の“PUE101”)20重量部と、酸無水物系硬化剤(新日本理化製の“リカシッドHF−24B”)60重量部、酸無水物系硬化剤(油化シェルエポキシ製の“エピキュアYH307”)20重量部、平均粒径約1μmのシリカフィラー(アドマテックス製の“SO−G3”)60重量部、シランカップリング剤(信越化学製の“KBM403”)で表面処理した平均粒径約0.03μmのナノシリカフィラー(日本アエロジル製の“AEROSIL50”)60重量部、シランカップリング剤(信越化学の“KBM403”)6重量部とを混合、撹拌、脱泡し、アンダーフィル組成物を作製した。なお、ナノシリカフィラーの表面処理は、メタノールの溶液中にシランカップリング剤を溶解し、ここにナノシリカフィラーを添加し、撹拌した後、溶液から分離・乾燥することで行った。
【0039】
上記アンダーフィル組成物を150℃で1時間加熱して硬化させた。硬化後のアンダーフィル組成物の熱膨張率は45ppm/℃(30℃から80℃の平均値、TMA測定、以下も同様。)、曲げ弾性率は5.7GPa(30℃、DMS測定、以下も同様。)であった。
【0040】
<半導体装置の製造>
図2Aに示すように、配線を形成したガラス基板20に、VCSEL(AVALON製の“APA410104”)を超音波接合によりフリップチップ実装した。ここで、VCSEL21の発光面と直下のガラス基板20の上面との間隔は、12μmであった。ガラス基板20上の配線を用いて、VCSEL21に電流源を接続して電流を印加し、ガラス基板20の裏面に配置した大口径(直径0.5mm)のフォトディテクタ(PD)22でVCSEL21の発振光を受光した。その時の発振しきい値は1.3mA、スロープ効率は0.32mW/mA(発振しきい値電流と6mAとの間での値、以下も同様。)であった。
【0041】
次に、図2Bに示すように、VCSEL21とガラス基板20との間に上記本実施例のアンダーフィル組成物23を充填し、150℃で1時間加熱して硬化させた後、上記と同様にして発振光を受光した。その時の発振しきい値は1.1mAであり、スロープ効率は0.33mW/mAであった。
【0042】
このアンダーフィル組成物を充填したサンプルを熱衝撃試験槽に入れ、−40℃/85℃の温度サイクルを200サイクル印加する試験を行った。その後、上記と同様にして発振光を受光した。その時の発振しきい値は1.1mA、スロープ効率は0.28mW/mAであり、ほぼ当初の値を維持できていた。
【0043】
また、このサンプルを恒温恒湿槽に入れ、85℃、相対湿度85%で印加電流を発振しきい値の1.2倍にしての高温高湿試験を行った。その結果、500時間後での発振しきい値は1.0mA、スロープ効率は0.28mW/mAであり、実用的には問題のない値であった。
【0044】
以上のように、本実施例のアンダーフィル組成物によって、発光による熱応力が発生しても、VCSELの発光特性の低下を抑制できた。
【0045】
(実施例2)
<アンダーフィル組成物の作製>
分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物であるビスフェノールA型エポキシ(油化シェルエポキシ製の“エピコート828”)30重量部、変性ビスフェノールA型エポキシ(リカレジン製の“BEO−60E”)15重量部、ビスフェノールF型エポキシ(大日本インキ化学工業製の“EXA830LVP”)30重量部、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル10重量部と、室温で液状のエポキシ基を有するブタジエン化合物(ダイセル化学製の“エポリードPB4700”)10重量部、エポキシ基を有するブタジエン化合物(新日本石油化学製の“E−1000”)5重量部と、酸無水物系硬化剤(新日本理化製の“HF−24B”)30重量部、酸無水物系硬化剤(油化シェルエポキシ製の“エピキュアYH307”)60重量部、平均粒径約10μmのアルミナフィラー(アドマテックス製の“AO−809”)100重量部、シランカップリング剤(信越化学製の“KBM403”)で表面処理した平均粒径約0.03μmのナノシリカフィラー(日本アエロジル製の“AEROSIL50”)40重量部、シランカップリング剤(信越化学の“KBM403”)9重量部とを混合、撹拌、脱泡し、アンダーフィル組成物を作製した。
【0046】
本アンダーフィル組成物を150℃で1時間加熱して硬化させた。硬化後のアンダーフィル組成物の熱膨張率は41ppm/℃、曲げ弾性率は6.5GPaであった。なお、室温で液状のブタジエン化合物、ウレタン化合物、又はこれらの混合物の添加比を調節することにより、弾性率の低下の割合を調整することができる。
【0047】
<半導体装置の製造1>
実施例1と同様にして、配線を形成したガラス基板に、VCSEL(AVALON製の“APA410104”)を超音波接合によりフリップチップ実装し、フォトディテクタ(PD)でVCSELの発振光を受光した。その時の発振しきい値は1.3mA、スロープ効率は0.32mW/mAであった。
【0048】
次に、実施例1と同様にして、VCSELとガラス基板の間に上記本実施例のアンダーフィル組成物を充填し、150℃で1時間加熱して硬化させた後、上記と同様にして発振光を受光した。その時の発振しきい値は1.1mAであり、スロープ効率は0.28mW/mAであった。
【0049】
以上のように、本実施例のアンダーフィル組成物によって、発光による熱応力が発生しても、VCSELの発光特性の低下を抑制できた。
【0050】
<半導体装置の製造2>
半導体素子として、サイズが8.5mm×8.5mmで、周辺に120個の金バンプを備え、配線の絶縁材の弾性率が10GPa程度の素子を準備した。また、基板として、半導体素子の金バンプと同じ配置電極を有する40mm×40mmのBTレジン基板を準備した。基板の電極が設置されている部位に上記本実施例のアンダーフィル組成物を塗布し、60℃に設定したボンダ装置の基板ステージに設置した。約10分間放置した後、ボンダのチップ加熱ツールに半導体素子を取り、フェイスダウンの半導体素子の金バンプと基板の電極の位置を合せ、アンダーフィル組成物の温度が220℃以上となる時間を10秒とする条件で加熱し、半導体素子を基板に接合した。
【0051】
その後、基板側から引き出した配線を用いて接合部の導通を試験した結果、全ての接合部について導通していることが確認できた。
【0052】
次に、このサンプルを熱衝撃試験槽に入れ、−55℃/125℃の温度サイクルを500サイクル印加する試験を行った。その結果、オープン/導通不良の発生はなかった。
【0053】
以上のように、本実施例のアンダーフィル組成物によって、パッケージに要求される一般的な条件での信頼性を確保することができ、かつ、本実施例のアンダーフィル組成物は弾性率が6.5GPaと低く、素子側の配線の絶縁材の弾性率が10GPa程度の低弾性率材となっても、回路内の配線破断等の不良の発生を抑制することができた。
【0054】
(比較例1)
実施例1と同様にして、配線を形成したガラス基板に、VCSEL(AVALON製の“APA410104”)を超音波接合によりフリップチップ実装し、フォトディテクタ(PD)でVCSELの発振光を受光した。その時の発振しきい値は1.3mA、スロープ効率は0.31mW/mAであった。
【0055】
次に、実施例1と同様にして、VCSELとガラス基板の間に、ブタジエン化合物及びウレタン化合物を含まない従来のアンダーフィル材(ナガセチバ製の“UFR107”、熱膨張率:38ppm/℃、曲げ弾性率:8GPa)を充填し、150℃で1時間加熱して硬化させた後、上記と同様にして発振光を受光した。その時の発振しきい値は1.1mAであり、スロープ効率は0.15mW/mAであった。
【0056】
このアンダーフィル材を充填したサンプルを熱衝撃試験槽に入れ、−40℃/85℃の温度サイクルを200サイクル印加する試験を行った。その後、上記と同様にして発振光を受光した。その時の発振しきい値は1.3mA、スロープ効率は0.06mW/mAであり、スロープ効率が大きく低下した。
【0057】
(比較例2)
実施例1と同様にして、配線を形成したガラス基板に、VCSEL(AVALON製の“APA410104”)を超音波接合によりフリップチップ実装し、フォトディテクタ(PD)でVCSELの発振光を受光した。その時の発振しきい値は1.2mA、スロープ効率は0.31mW/mAであった。
【0058】
次に、実施例1と同様にして、VCSELとガラス基板の間に、シリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング・シリコーン製の“JCR6140”、熱膨張率:320ppm/℃、曲げ弾性率:約1MPa)を充填し、150℃で1時間加熱して硬化させた後、上記と同様にして発振光を受光した。その時の発振しきい値は1.1mAであり、スロープ効率は0.34mW/mAであった。
【0059】
このサンプルを恒温恒湿槽に入れ、85℃、相対湿度85%で印加電流を発振しきい値の1.2倍にしての高温高湿試験を行った結果、500時間後での発振しきい値は1.3mA、スロープ効率は0.06mW/mAであり、スロープ効率が大きく低下した。これは、本比較例で用いたアンダーフィル材(シリコーン樹脂)の曲げ弾性率が約1MPaと小さいことによるもと考えられる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態のアンダーフィル組成物を用いることにより、VCSEL等の光半導体素子を基板にフリップチップ実装しても、発光特性の低下が小さく、信頼性試験の耐性にも優れる半導体装置を作製することができる。また、本実施形態のアンダーフィル組成物は、その弾性率が4〜7GPaと低く、通常のパッケージに要求される信頼性を確保することができ、絶縁層に10GPa程度の低弾性率の絶縁材を使用した半導体素子においても、熱サイクル試験時の半導体素子側の絶縁層の破壊を抑制することができる。
【0061】
以上の実施例1、2を含む本発明の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0062】
(付記1) ブタジエン化合物及びウレタン化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物Aと、
分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物を少なくとも1種含む化合物Bと、
硬化剤と、
無機フィラーと、
を含むことを特徴とするアンダーフィル組成物。
【0063】
(付記2) 前記化合物Aの含有量は、前記化合物A、前記化合物B及び前記硬化剤の全重量に対して、10重量%以上30重量%以下である付記1に記載のアンダーフィル組成物。
【0064】
(付記3) 前記無機フィラーの含有量は、前記アンダーフィル組成物の全重量に対して、30重量%以上70重量%以下である付記1に記載のアンダーフィル組成物。
【0065】
(付記4) 前記無機フィラーは、平均粒径が0.1μm以下のナノシリカフィラーを含む付記1又は3に記載のアンダーフィル組成物。
【0066】
(付記5) 前記ナノシリカフィラーの含有量は、前記無機フィラーの全重量に対して、20重量%以上100重量%以下である付記4に記載のアンダーフィル組成物。
【0067】
(付記6)
前記ナノシリカフィラーのpHは、5以上9以下である付記4又は5に記載のアンダーフィル組成物。
【0068】
(付記7) 前記ナノシリカフィラーは、シラン系カップリング剤で表面処理されている付記4〜6のいずれかに記載のアンダーフィル組成物。
【0069】
(付記8) 前記化合物Aは、室温で液状である付記1に記載のアンダーフィル組成物。
【0070】
(付記9) 前記化合物Aは、主鎖末端又は側鎖に、エポキシ基、不飽和エチレン基及び水酸基から選ばれる少なくとも1種を有する付記1又は2に記載のアンダーフィル組成物。
【0071】
(付記10) 前記ウレタン化合物は、イソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する化合物とが反応して生成した化合物である付記1に記載のアンダーフィル組成物。
【0072】
(付記11) 半導体素子が基板にフリップチップ実装されている半導体装置であって、
前記半導体素子と前記基板との間に、付記1〜10のいずれかに記載のアンダーフィル組成物が充填されていることを特徴とする半導体装置。
【0073】
(付記12) 前記アンダーフィル組成物の室温における弾性率が4GPa以上7GPa以下であり、その熱膨張率が45ppm/℃以下である付記11に記載の半導体装置。
【0074】
(付記13) 前記半導体素子は、弾性率が12GPa以下の絶縁膜を含む付記11に記載の半導体装置。
【0075】
(付記14) 前記半導体素子は、光半導体素子である付記11に記載の半導体装置。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】A及びBは、本発明の半導体装置の製造方法の一例を示す工程断面図である。
【図2】A及びBは、実施例1で用いた半導体素子と基板との接合サンプルの断面図である。
【符号の説明】
【0077】
10 電極
11 プリント基板
12 45度ミラー
13 光ファイバ
14 バンプ
15、21 VCSEL
16、23 アンダーフィル組成物
20 ガラス基板
22 PD


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタジエン化合物及びウレタン化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物Aと、
分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物を少なくとも1種含む化合物Bと、
硬化剤と、
無機フィラーと、
を含むことを特徴とするアンダーフィル組成物。
【請求項2】
前記化合物Aの含有量は、前記化合物A、前記化合物B及び前記硬化剤の全重量に対して、10重量%以上30重量%以下である請求項1に記載のアンダーフィル組成物。
【請求項3】
前記無機フィラーの含有量は、前記アンダーフィル組成物の全重量に対して、30重量%以上70重量%以下である請求項1に記載のアンダーフィル組成物。
【請求項4】
半導体素子が基板にフリップチップ実装されている半導体装置であって、
前記半導体素子と前記基板との間に、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアンダーフィル組成物が充填されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
前記アンダーフィル組成物の室温における弾性率が4GPa以上7GPa以下であり、その熱膨張率が45ppm/℃以下である請求項4に記載の半導体装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−145996(P2007−145996A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−342573(P2005−342573)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】