説明

イオン液体を用いた試料の処理方法及び処理システム

【課題】本発明はイオン液体を用いた試料の処理方法及び処理システムに関し、大気中を搬送しても試料表面が大気に曝されないようにすることができるイオン液体を用いた試料の処理方法及び処理システムを提供することを目的としている。
【解決手段】イオンビーム加工装置等の真空中で試料2に加工処理を施し、加工処理が施された試料2にイオン液体を塗布し、イオン液体が塗布された試料2を電子顕微鏡等の予備排気室8に搬送し、該予備排気室8でイオン液体を除去し、該イオン液体が除去された試料2を電子顕微鏡本体で観察するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン液体を用いた試料の処理方法及び処理システムに関し、更に詳しくは真空中で試料に対して精密作業を行なう装置(電子顕微鏡,X線等を用いた分析装置)及び真空中で試料に対して処理を行なう装置(スパッタ装置,蒸着装置,イオンビームを用いた電子顕微鏡観察用試料薄片化装置等)に用いて好適なイオン液体を用いた試料の処理方法及び処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン液体は、常温(−30℃〜300℃)でそれ自身がイオンよりなる液体のことである。種類としては、陽イオンの種類でピリジン系、脂環族アミン系、脂肪族アミン系が存在し、陰イオンとしては、フッ化物イオンやトリフラート等のフッ素系等がある。その特徴としては、蒸気圧が極めて低く、常温でも液体状を維持し、不揮発性である。用途としては、電解質に用いることや、また環境負荷が低い溶媒としてメッキ用途が挙げられる。
【0003】
イオン液体は、常温で液体であり、蒸気圧がほとんどなく、真空中でも気化せず安定である。これを利用して、生物試料等の電子顕微鏡観察において、イオン液体を試料に塗布・含浸することで、乾燥させたり導電性薄膜を試料表面に生成したりせずに直接観察できることが報告されている。また、マイクログリッド上に滴下したイオン液体を電子顕微鏡観察用試料の支持膜として利用する手法も報告されている。
【0004】
従来のこの種の装置としては、電解質の小滴が加工されるべき特徴構造を含む領域に亘って堆積され、この堆積された電解質の中に銅線等の微細な導体が浸積されるようにした技術が知られている(例えば特許文献1参照)。また、磁性イオン体を入れた容器に近接して磁界発生装置を配置し、磁性イオン液体中に磁性イオン液体とは比重の異なる分離すべき混合物質を装入し、比重差により混合物質が上昇又は下降する間に磁界発生装置から所定の磁場を印加して混合物質を取り出すようにした技術が知られている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
更に、電子顕微鏡等の真空試料室に、別の場所に設けられた真空処理室で処理を施された試料を、大気に曝すことなく速やかに搬送するようにした技術が知られている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2005−303319号公報(段落0034〜0038、図1、図2)
【特許文献2】特開2007−203205号公報(段落0016〜0018、図1)
【特許文献3】特開平8−273572号公報(段落0007〜0010、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
試料に対して真空中で処理を行なう装置(例えばスパッタ装置、蒸着装置、イオンビームを用いた電子顕微鏡観察用試料薄片化装置)は、真空中で試料に対して精密作業を行なう装置(例えば電子顕微鏡、X線等を用いた分析装置等)へ試料を搬送する際、最低でも数分間試料を大気に曝してしまうため、試料表面が汚染・酸化してしまう。そのため、試料表面に形成された酸化膜によって、分析や性能評価が困難になるという問題がある。この問題を解決するために、前述した特許文献3に示すような搬送時も高真空を保つ試料搬送装置が存在する。しかしながら、この装置は装置の規模が大型化し、高価となり、汎用性も失われてしまう。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、大気中を搬送しても試料表面が大気に曝されないようにすることができるイオン液体を用いた試料の処理方法及び処理システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)請求項1記載の発明は、イオンビーム加工装置等の真空中で試料に加工処理を施し、加工処理が施された試料にイオン液体を塗布し、イオン液体が塗布された試料を電子顕微鏡等の予備排気室に搬送し、該予備排気室でイオン液体を除去し、該イオン液体が除去された試料を電子顕微鏡本体で観察する、ことを特徴とする。
【0009】
(2)請求項2記載の発明は、前記加工処理が施された試料にイオン液体を塗布するために、イオン液体をノズルから試料に噴射することを特徴とする。
(3)請求項3記載の発明は、前記加工処理が施された試料にイオン液体を塗布するために、イオン液体が入った容器の中に試料を浸すようにしたことを特徴とする。
【0010】
(4)請求項4記載の発明は、その内部にイオン液体が含まれる試料ホルダキャップを設け、試料をその内部に挿入することで、試料にイオン液体が塗布されるようにしたことを特徴とする。
【0011】
(5)請求項5記載の発明は、前記予備排気室に搬送されたイオン液体が塗布された試料に不活性ガスを吹き付けることで、イオン液体を除去するようにしたことを特徴とする。
【0012】
(6)請求項6記載の発明は、前記イオン液体は磁性イオン液体であり、前記予備排気室に搬送されたイオン液体が塗布された試料に、磁石を接近させてイオン液体を除去するようにしたことを特徴とする。
【0013】
(7)請求項7記載の発明は、イオンビーム加工装置等の真空中で試料に加工処理を施す加工処理手段と、加工処理が施された試料にイオン液体を塗布する塗布手段と、イオン液体が塗布された試料を電子顕微鏡等の予備排気室に搬送する搬送手段と、該予備排気室でイオン液体を除去する除去手段と、該イオン液体が除去された試料を電子顕微鏡本体で観察する観察手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
(1)請求項1記載の発明によれば、試料全体をイオン液体で被覆して大気中を搬送するので、試料表面が大気に曝されないようにすることができる。
(2)請求項2記載の発明によれば、イオン液体をノズルから試料に塗布することで、試料をイオン液体で被覆することができる。
【0015】
(3)請求項3記載の発明によれば、試料をイオン液体が入った容器中に浸すことにより、試料をイオン液体で被覆することができる。
(4)請求項4記載の発明によれば、試料をイオン液体が入った試料ホルダキャップに挿入することで、試料をイオン液体で被覆することができる。
【0016】
(5)請求項5記載の発明によれば、イオン液体が塗布された試料に不活性ガスを吹き付けることで、イオン液体を除去することができる。
(6)請求項6記載の発明によれば、磁性イオン液体が塗布された試料に磁石を接近させることで、イオン液体を試料表面から効率よく除去することができる。
【0017】
(7)請求項7記載の発明によれば、試料全体をイオン液体で被覆して大気中を搬送するので、試料表面が大気に曝されないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(本発明の概要)
試料表面に酸化膜等が形成されるのを防止するために、試料処理装置内において、試料処理後に真空状態のままで、イオン液体を用いて試料表面を保護し、搬送時に試料が大気に曝されないようにし、試料観察・分析装置へ搬送する。また、試料観察・分析をする際に、試料表面を保護しているイオン液体を取り除きたい場合は、試料観察・分析装置に設けられた予備排気室において、真空中や不活性ガス雰囲気中でイオン媒体を取り除く。ただし、用いるイオン液体は試料に対して不活性なものを使用する。
(実施の形態1)
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1はイオンビーム加工装置の第1の実施の形態を示す構成図である。図に示す装置は、イオンビーム加工装置(例えばCP(クロスセクションポリッシャ),IS(イオンスライサ),FIB(集束イオンビーム装置))内に、イオン液体を塗布するためのノズルを設け、加工後の試料に対してイオン液体を塗布する機能を備えたものである。図中ハッチングで示された部分は断面を示す(以下同じ)。
【0019】
図において、1は真空チャンバ、2は真空チャンバ1内に配置された試料、3はイオンを出射するイオン源(イオンガン)、4は真空チャンバ1内を排気するための排気系制御弁、6はイオン液体が入ったイオン液体容器、5はイオン液体容器6に入っているイオン液体の流量を制御するイオン液体制御弁、7はイオンビーム加工装置で加工後の試料2に液体イオンを塗布するためのノズルである。
【0020】
図2は透過電子顕微鏡におけるイオン液体除去の実施例を示す図である。図において、9は鏡筒、8は該鏡筒9の側壁に取り付けられた予備排気室、10は鏡筒9に設けられた電子線装置と予備排気室8間を仕切る制御弁である。11は鏡筒9内で試料2に照射される電子線である。
【0021】
12は試料2を保持するための試料ホルダ、2は該試料ホルダ12の先端に取り付けられた試料である。15は予備排気室8に取り付けられた排気系制御弁、14は同じく予備排気室8に取り付けられた不活性ガス制御弁、13は不活性ガス制御弁14の先端部に設けられた不活性ガスを出射するノズルである。16は予備排気室8に取り付けられたイオン液体回収用制御弁、17は試料2に近接して配置された磁石である。
【0022】
図3は走査型電子顕微鏡におけるイオン液体除去の実施例を示す図である。図2と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、9は鏡筒、8は該鏡筒9の側壁に取り付けられた予備排気室、10は鏡筒9に設けられた電子線装置と予備排気室8間を仕切る制御弁である。11は鏡筒9内で試料2に照射される電子線である。
【0023】
18は試料2を保持するための試料ホルダ、2は該試料ホルダ18の上に載置された試料である。15は予備排気室8に取り付けられた排気系制御弁、14は同じく予備排気室8に取り付けられた不活性ガス制御弁、13は不活性ガス制御弁14の先端部に設けられた不活性ガスを出射するノズルである。16は予備排気室8に取り付けられたイオン液体回収用制御弁、17は試料2に近接して配置された磁石である。このように構成された装置を用いて本発明の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0024】
イオンビーム加工装置の真空チャンバ1は排気系制御弁4により真空に保たれている。この状態で、真空チャンバ1内に配置された試料2に対してイオン源3からイオンビームによる加工を行なう。この加工は、試料2の表面を削り、新しい試料面を出すためのものである。
【0025】
加工が終了した試料2に対して真空を保ったまま、イオン液体制御弁5を開き、イオン液体が充填されているイオン液体容器6から供給されるイオン液体が、真空チャンバ1内に設置されたノズル7から試料2に対して塗布される。ただし、イオン液体の種類は試料に対して不活性のものを選択して使用する。このようにすれば、イオン液体をノズルから試料に塗布することで、試料2をイオン液体で被覆することができる。
【0026】
次に、試料表面をイオン液体で覆われた試料2を、真空チャンバ1から取り出し、大気中で電子顕微鏡用試料ホルダにセットする。電子顕微鏡用試料ホルダを利用できるイオンビーム加工装置の場合は、イオンビーム加工装置の真空チャンバ1から試料ホルダを取り出し、そのまま電子顕微鏡にセットする。なお、イオンビーム加工装置から電子顕微鏡の試料室まで自動搬送機構を介して自動搬送するようにすることもできる。本発明によれば、試料全体をイオン液体で被覆して大気中を搬送するので、試料表面が大気に曝されないようにすることができる。
【0027】
図2は透過型電子顕微鏡におけるイオン液体除去の実施例を示す図である。以下、この図を用いて本発明を説明する。透過型電子顕微鏡で試料を観察する際、試料を覆っているイオン液体を除去する場合は、以下の手順で行なう。
1)電子顕微鏡の予備排気室8に、試料2が載せられている試料ホルダ12を図2に示すように挿入する。
2)排気系制御弁15を開いて予備排気室8を真空にする。
3)不活性ガス制御弁14を開き、不活性ガス吹き付けノズル13から出た不活性ガスで試料2を覆っているイオン液体を吹き飛ばして除去する。この実施の形態によれば、イオン液体が塗布された試料に不活性ガスを吹き付けることで、イオン液体を除去することができる。
4)この場合において、磁性イオン液体を用いた場合には、予備排気室8内に設けられた磁石17を利用することで、イオン液体の除去を効率よく行なうことができる。
5)イオン液体が除去されたら、不活性ガス制御弁14を閉じ、予備排気室8を真空にする。
6)電子顕微鏡の鏡筒との間の制御弁10を開いて、試料ホルダ12を鏡筒9内に入れ、電子線11による試料観察を行なう。試料観察の形態としては、試料上に電子線11を照射し、試料2を透過した透過電子線像を観察する透過電子顕微鏡(TEM)等が考えられる。
7)ここで、ノズルの吐出等により除去されたイオン液体は、予備排気室8に設けられたイオン液体回収用制御弁16を開いて回収することができる。
【0028】
図3は走査型電子顕微鏡におけるイオン液体除去の実施例を示す図である。走査型電子顕微鏡で観察を行なう場合、試料2を覆っているイオン液体を除去する手順は以下の通りである。
1)試料ホルダ挿入用の制御弁19を開き、電子顕微鏡の予備排気室8に、試料2が載せられている試料ホルダ18を挿入した後、制御弁19を閉じる。
2)排気系制御弁15を開いて予備排気室8を真空にする。
3)この状態で不活性ガス制御弁14を開き、不活性ガス吹き付けノズル13から不活性ガスを試料2に吹き付け、試料2を覆っているイオン液体を吹き飛ばして除去する。
4)また、磁性イオン液体を用いた場合には、予備排気室8内に設けられた磁石17を利用することで、イオン液体の除去を効率よく行なうことができる。
5)試料2からイオン液体が除去されたら、不活性ガス制御弁14を閉じ、予備排気室8を真空にする。
6)電子顕微鏡の鏡筒9との間の制御弁10を開いて、試料ホルダ18を鏡筒9内に入れ、電子線で2次元走査を行ない観察を行なう。走査型電子顕微鏡付属のディスプレイ(図示せず)には2次電子像又は反射電子像が表示されることになり、オペレータに試料2についての知見を与える。
7)除去されたイオン液体は、予備排気室8に設けられたイオン液体回収用制御弁16を開いて回収することができる。
【0029】
なお、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡で試料を観察する場合、試料がイオン液体に覆われたまま観察を行なう場合は、通常の予備排気を行ない、試料を鏡筒へセットすることになる。
(実施の形態2)
図4はイオンビーム加工装置の第2の実施の形態を示す構成図である。図1と同一のものは、同一の符号を付して示す。図4に示す装置は、図1に示す装置とは異なり、真空チャンバ1内に、イオン液体が充填されたイオン液体容器を設け、加工後の試料をイオン液体容器に浸すようにしたものである。図4において、26がイオン液体容器であり、その中にイオン液体25が入っている。
【0030】
先ず、イオン源3からイオンを出射して、試料2面をエッチングして観察面を出す。この加工が終わった段階で、マニピュレータ(図示せず)により、試料2をイオン液体25に浸す。この結果、その表面がイオン液体に覆われた試料ができあがる。該試料ができあがった後の動作は、(実施例1)で説明したものと同様であるので、その説明は省略する。この実施の形態2によれば、試料2をイオン液体が入った容器中に浸すことにより、試料をイオン液体で被覆することができる。
(実施の形態3)
図5はイオンビーム加工装置の第3の実施の形態を示す構成図である。図1と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、1は真空チャンバ、2は試料、23は該試料2を保持する試料ホルダである。3は試料2にイオンビームを照射するイオン源である。35は真空チャンバ1の側壁部に設けられた排気系制御弁である。36は試料2を保護する試料ホルダキャップである。
【0031】
図6は透過型電子顕微鏡におけるイオン液体除去の他の実施例を示す図である。図2,図5と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、9は鏡筒、8は該鏡筒9の側面に設けられた予備排気室、10は鏡筒9に設けられた制御弁である。11は鏡筒内で照射される電子線である。
【0032】
23は試料ホルダ、2は該試料ホルダ23の先端に取り付けられた試料である。15は予備排気室8に取り付けられた排気系制御弁、14は同じく予備排気室8に取り付けられた不活性ガス制御弁、13は不活性ガス制御弁14の先端部に設けられた不活性ガスを出射するノズルである。16は予備排気室8に取り付けられたイオン液体回収用制御弁、17は試料2に近接して配置された磁石である。36は試料2を覆う、試料ホルダキャップである。該試料ホルダキャップ36はイオン液体で満たされている。
【0033】
即ち、透過型電子顕微鏡用試料ホルダを利用できるイオンビーム加工装置(FIB等)内に、加工後に試料をイオン液体に浸すことが可能な試料ホルダキャップ36が設けてあり、イオンビーム加工装置内で装着できる機構が備わっている(図5)。また、電子顕微鏡の予備排気室に、試料ホルダキャップを取り外す機構が備わっており、試料を覆っているイオン液体を除去する場合に使用するイオン液体除去装置が備わっている(図6)。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0034】
イオンビーム加工装置の真空チャンバ1は排気系(具体的には排気系制御弁35)によって真空に保たれており、真空チャンバ1内に配置された試料2に対して、イオン源3からのイオンビームによる加工を行なう。そして、加工が終了した試料を、真空を保ったまま、イオン液体に浸すことができる試料ホルダキャップ36を試料ホルダ23に取り付ける。
【0035】
イオン液体に浸された試料が載っている透過型電子顕微鏡用試料ホルダ23に装着された試料ホルダキャップ36を、イオンビーム加工装置の真空チャンバ1から取り出す。具体的には、図5に示す試料ホルダ23を引き抜くと、試料ホルダ23は、その先端に試料ホルダキャップ36が付いた状態で引き出される。透過型電子顕微鏡で試料を観察する際、試料2を覆っているイオン液体を除去する場合は、以下の手順で行なう。
1)電子顕微鏡の予備排気室8に、試料2が載せられている試料ホルダ23を装着された試料ホルダキャップ36と共に挿入する。
2)次に排気系制御弁15を開いて予備排気室8を真空にする。
3)次に、図示しないマニピュレータにより試料ホルダキャップ36を取り外す。
4)次に、不活性ガス制御弁14を開き、不活性ガス吹き付けノズル13から出射される不活性ガスで試料2を覆っているイオン液体を吹き飛ばして除去する。
5)また、イオン液体として磁性イオン液体を用いた場合は、予備排気室8内に設けられた磁石17を利用することで、イオン液体の除去を効率よく行なうことができる。
6)次に、イオン液体が除去されたら、不活性ガス制御弁14を閉じ、排気系制御弁15により予備排気室を真空にする。
7)次に、電子顕微鏡の鏡筒9に設けられた制御弁10を開いて、試料ホルダ23を鏡筒9内に入れ、電子線11で試料の透過像を獲得して観察を行なう。
8)除去されたイオン液体は、予備排気室8に設けられたイオン液体回収用制御弁16を開いて回収することができる。
【0036】
なお、この場合において、透過電子顕微鏡で試料2を観察する場合、試料がイオン液体に覆われたまま観察を行なう場合は、上記4)〜6)を省いて観察を行なう。
以上、説明した発明の効果を列挙すれば、以下の通りである。
1)試料搬送時に高真空に保つ必要がなく、イオン液体で試料表面を保護するだけであり、小規模で実現可能である。
2)既存の試料処理装置や試料観察・分析装置に対する変更が少ないため、汎用性が高くなる。
3)イオン液体は、真空中でもほとんど気化しないため、回収が容易であり、コストがかからない。
4)試料処理装置で処理後の試料をイオン液体で保護した状態は長時間存続可能であるため、試料の変質を伴わない保管が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】イオンビーム加工装置の第1の実施の形態を示す構成図である。
【図2】透過電子顕微鏡におけるイオン液体除去の実施例を示す図である。
【図3】走査型電子顕微鏡におけるイオン液体除去の実施例を示す図である。
【図4】イオンビーム加工装置の第2の実施の形態を示す構成図である。
【図5】イオンビーム加工装置の第3の実施の形態を示す構成図である。
【図6】透過型電子顕微鏡におけるイオン液体除去の他の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 真空チャンバ
2 試料
3 イオン源
4 排気系制御弁
5 イオン液体制御弁
6 イオン液体容器
7 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビーム加工装置等の真空中で試料に加工処理を施し、
加工処理が施された試料にイオン液体を塗布し、
イオン液体が塗布された試料を電子顕微鏡等の予備排気室に搬送し、
該予備排気室でイオン液体を除去し、
該イオン液体が除去された試料を電子顕微鏡本体で観察する、
ことを特徴とするイオン液体を用いた試料の処理方法。
【請求項2】
前記加工処理が施された試料にイオン液体を塗布するために、イオン液体をノズルから試料に噴射することを特徴とする請求項1記載のイオン液体を用いた試料の処理方法。
【請求項3】
前記加工処理が施された試料にイオン液体を塗布するために、イオン液体が入った容器の中に試料を浸すようにしたことを特徴とする請求項1記載のイオン液体を用いた試料の処理方法。
【請求項4】
その内部にイオン液体が含まれる試料ホルダキャップを設け、試料をその内部に挿入することで、試料にイオン液体が塗布されるようにしたことを特徴とする請求項1記載のイオン液体を用いた試料の処理方法。
【請求項5】
前記予備排気室に搬送されたイオン液体が塗布された試料に不活性ガスを吹き付けることで、イオン液体を除去するようにしたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のイオン液体を用いた試料の処理方法。
【請求項6】
前記イオン液体は磁性イオン液体であり、前記予備排気室に搬送されたイオン液体が塗布された試料に、磁石を接近させてイオン液体を除去するようにしたことを特徴とする請求項5記載のイオン液体を用いた試料の処理方法。
【請求項7】
イオンビーム加工装置等の真空中で試料に加工処理を施す加工処理手段と、
加工処理が施された試料にイオン液体を塗布する塗布手段と、
イオン液体が塗布された試料を電子顕微鏡等の予備排気室に搬送する搬送手段と、
該予備排気室でイオン液体を除去する除去手段と、
該イオン液体が除去された試料を電子顕微鏡本体で観察する観察手段と、
を有することを特徴とするイオン液体を用いた試料の処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−25656(P2010−25656A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185608(P2008−185608)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】