説明

インクジェット記録装置

【課題】色材を含むインクと、インクと反応するための処理液とを吐出して記録を行い、記録ヘッドにインクと処理液とが付着したまま固化することが抑えられるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクジェット記録装置は、インクと処理液を吐出する記録ヘッドとを有している。インクジェット記録装置は、記録ヘッドに貯留されたインク及び処理液の増粘を抑える、あるいは記録ヘッドに付着したインク及び処理液を取り除くことのうち、少なくともいずれか一方のために、記録ヘッドに回復処理を行う回復機構を有している。インクジェット記録装置は、処理液の吐出を伴って、インク用吐出口からインクを吐出して記録を行う第一の記録モードと、処理液用吐出口からの処理液の吐出を伴わずに、インクを吐出して記録を行う第二の記録モードとを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出する複数の吐出口を備えた記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の普及に伴い、その周辺機器である記録装置も急速に普及している。中でもインクジェット記録装置は小型化が容易であり、また比較的簡単にカラー記録を行うことができるなどの利点を有しているため、急速に普及している。
【0003】
しかしながら、インクジェット記録装置による記録の際には、主滴よりも小さい液滴であるインクミストが生じ、これが記録ヘッドと記録媒体との間で浮遊することがある。また、吐出されたインク滴が周囲の空気を引っ張りながら飛翔することにより、記録ヘッドと記録媒体との間に気流が発生し、これが記録媒体で反射して上向きの気流が発生することがある。記録ヘッドと記録媒体との間でインクミストが上向きの気流に巻き上げられると、インクミストが記録ヘッド表面に付着する現象が発生する場合がある。インクミストが吐出口の近傍に付着したときに長期間そのままにされると、付着したインクミストが記録ヘッドの表面で増粘し、固化する。インクミストが固化した場合には、これが吐出口を塞いでしまいインクの吐出されない不吐出や、インクが適正な方向へ吐出されないヨレが発生したりすることがある。
【0004】
これらの発生を抑えるために、インクジェット記録装置において、記録領域の外側に記録に関与しない液滴を吐出して吐出口近傍の増粘を抑える予備吐出が行われることがある。また、記録ヘッドの表面に付着したインクをワイパーによって払拭するワイピングが行われることがある。特許文献1には、吐出されるインクの種類に応じて、記録ヘッドの表面を払拭するワイピングの行われるタイミングを変化させるインクジェット記録装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−240177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、インクジェット記録装置においては、記録媒体に着弾させたインク滴について耐擦過性や発色性を向上させたりするために、色材を含有するインクと、処理液とを記録媒体上に吐出するインクジェット記録装置がある。このようなインクジェット記録装置では、記録媒体上にインクと共に処理液を吐出することで、インクと処理液とが接触し、これらの間で化学反応を生じさせる。これにより、インクが記録媒体上で固化し、インクの耐擦過性が向上される。このように、インク滴と共に処理液が記録ヘッドから吐出されると、処理液が細かいミストとなって、記録ヘッドと記録媒体との間で浮遊することがある。このとき、記録ヘッドの表面でインク滴と処理液とが反応し、そこでインク滴及び処理液が固化してその後吐出されるインク滴の着弾精度に影響を与える場合がある。
【0007】
上述したインクジェット記録装置では、インクの種類に応じてワイピングの行われるタイミングが調節されている。しかしながら、色材を有するインクと、インクと接触して反応する処理液とを吐出して記録を行う場合については言及されていない。
【0008】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、色材を含むインクと、インクと反応するための処理液とを吐出して記録を行い、記録ヘッドにインクと処理液とが付着したまま固化することが抑えられるインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のインクジェット記録装置は、色材を含有したインクを吐出するインク用吐出口と、前記インクと接触することで固化する成分を含有した処理液を吐出する処理液用吐出口とを有する記録ヘッドと、前記記録ヘッドに貯留されたインク及び処理液の増粘を抑える、あるいは前記記録ヘッドに付着したインク及び処理液を取り除くことのうち、少なくともいずれか一方のために、前記記録ヘッドに回復処理を行う回復機構とを備え、前記インク用吐出口から記録媒体にインクを吐出して記録を行うと共に、前記処理液用吐出口から処理液を吐出して前記インク用吐出口から吐出されたインクと接触させることで記録媒体上に着弾したインクを固化させることが可能なインクジェット記録装置において、前記処理液用吐出口からの処理液の吐出を伴って、前記インク用吐出口からインクを吐出して記録を行う第一の記録モードと、前記処理液用吐出口からの処理液の吐出を伴わずに、前記インク用吐出口からインクを吐出して記録を行う第二の記録モードと、前記第一の記録モードにより記録が行われるときの回復処理が行われる頻度は、前記第二の記録モードにより記録が行われるときの回復処理が行われる頻度よりも高くなるように、回復処理の行われるタイミングを制御する回復処理制御手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、色材を含んだインク及びインクと反応する処理液を吐出して記録を行う場合に、記録ヘッドの表面でインクと処理液とが付着したまま固化することが抑えられるので、インク滴の着弾精度が高く維持され、記録画像の品質が高く保たれる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の要部について模式的に示した平面図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置における記録ヘッドの搭載されたキャリッジについて示した模式的な斜視図である。
【図3】図1のインクジェット記録装置の制御系のブロック図である。
【図4】図1のインクジェット記録装置によってデューティの高い記録が行われるときに、記録ヘッドと記録媒体との間で生じる気流について説明するための説明図である。
【図5】図1のインクジェット記録装置によってデューティの低い記録が行われるときに、記録ヘッドと記録媒体との間で生じる気流について説明するための説明図である。
【図6】図1のインクジェット記録装置によって記録が行われる際の制御フローについて示したフローチャートである。
【図7】図1のインクジェット記録装置によって記録が行われる際のドットカウントで、インクの吐出数及び処理液の吐出数に乗じられる係数について示したテーブルである。
【図8】比較例のインクジェット記録装置によって記録が行われる際のドットカウントで、インクの吐出数及び処理液の吐出数に乗じられる係数について示したテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置を模式的に示した平面図である。図1において、1は記録媒体の搬送系ユニット(図示せず)を含む各種の機構部を備えた記録装置本体を示している。本実施形態におけるインクジェット記録装置1は、記録ヘッド3を有している。記録ヘッド3がキャリッジ2によって主走査方向に走査可能に形成されており、シリアル型のインクジェット記録装置となっている。また、記録ヘッド3は、色材を含有したインクを吐出するインク用吐出口と、前記インクと接触することで固化する成分を含有した処理液を吐出する処理液用吐出口とを有している。このシリアル型のインクジェット記録装置1は、搬送系ユニットによって記録媒体をY方向へと間欠的に搬送する。記録媒体の搬送方向であるY方向(副走査方向)は、記録ヘッド3が走査を行うX方向(主走査方向)に交差する。本実施形態では、記録媒体の搬送方向は、記録ヘッドの主走査方向に直交する。この記録ヘッドによる主走査方向への走査と記録媒体の搬送とが交互に繰り返されて記録媒体に記録動作が行われる。
【0014】
また、キャリッジ2には、記録ヘッド3が着脱可能に搭載されている。このキャリッジ2が、記録ヘッド3を搭載した状態でX方向に沿って往復移動することで、記録ヘッド3が走査を行う。具体的には、キャリッジ2は、X方向に沿って配置されたガイド軸4に沿って移動可能に支持されている。また、キャリッジ2は、ガイド軸4と略平行に移動する無端ベルト5に固定されている。無端ベルト5は、キャリッジモータ(CRモータ)の駆動力によって往復移動し、それによってキャリッジ2をX方向に往復移動させる。
【0015】
図2は、本発明の一実施形態に係わるキャリッジ2に搭載された記録ヘッド3を模式的に示した斜視図である。記録ヘッド3には、図2に示されるように吐出口形成面21に形成される複数の吐出口20aと、個々の吐出口20aに対応して形成された複数の液路(図示せず)と、複数の液路にインクを供給する共通液室(図示せず)とが形成されている。本実施形態では、複数の記録ヘッド3がキャリッジ2に搭載されている。図2では、3個の別々の記録ヘッド3がキャリッジ2に備え付けられた状態について示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。3個以上の記録ヘッドがキャリッジに取り付けられても良いし、1個または2個の記録ヘッドがキャリッジに取り付けられても良い。本実施形態の各記録ヘッド3には、上記の副走査方向であるY方向に同色のインクが1200dpi(ドット/インチ)の密度で、1280個の吐出口20が配列されており、キャリッジ2は主走査方向であるX方向に往復移動する。色材を含有するインクを吐出する吐出口は、図2の20c部に設けられ、処理液を吐出する吐出口は、両端部である20dに設けられている。このように、インク用吐出口としての吐出口20cから記録媒体にインクを吐出して記録を行うと共に、処理液用吐出口としての吐出口20dから処理液を吐出することが可能に形成されている。そして、本実施形態では、処理液には、吐出口20cから吐出された記録用のインクと接触させることで、インクを固化させると共にインクの色材成分を凝集させることが可能な成分が含有されている。ここでは、処理液は、記録媒体上に着弾したインクの耐擦過性を向上させるために、インクを固化させる。本実施形態では、画像形成時に処理液を使用する場合は、処理液を吐出した後に、色材を含有するインクを吐出することが好ましい。そのため、キャリッジ2の往復の両方向でそれぞれインクを吐出して画像を形成するためには、吐出口列の配置としては、処理液を吐出するための吐出口20dを走査方向の両端部に設けることが好ましい。ただし、一方の端部のみに処理液を吐出する吐出口を設けたとしても、予め処理液を記録媒体に吐出することで、処理液を吐出した後にインクを吐出するように記録を行うことも可能である。また、記録ヘッドが、往復走査のうち往方向走査あるいは復方向走査の一方でのみ記録を行う片方向記録に用いられるものであると限定されれば、一方の端部のみに処理液を吐出する吐出口が設けられても良い。
【0016】
さらに、色材を含有するインクを吐出した後に、着弾したインクを覆うように処理液が吐出されるような、処理液を吐出するための吐出口が形成されても良い。このような記録ヘッドによって記録が行われることにより、記録媒体上に吐出されたインクに処理液が接触し、処理液によってインクを固化させると共にインクを凝集させることが可能である。
【0017】
記録ヘッド3の各液路には、インクを吐出口20から吐出させるための吐出エネルギーを発生させるエネルギー発生素子が配置されている。このエネルギー発生素子として、本実施形態では、インクを局所的に加熱して膜沸騰を起こさせ、その圧力によってインクを吐出させる電気熱変換体が用いられている。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、ピエゾ素子といった電気機械変換素子を用いて、記録ヘッドからインクを吐出することも可能である。なお、以下の説明においては、吐出口20と液路とを含めてノズルと称す。
【0018】
また、キャリッジ2に搭載される記録ヘッド3には、それぞれ異なる色材を含有したインクを収容したインクタンクよりインクが供給される。本実施形態では、インクジェット記録装置1には、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの色材を含有するインクを収容するインクタンクが配置されている。また、それに加え、それぞれのインクと反応することでインクを固化させると共にインクに含有されている色材成分を凝集させる処理液を収容した処理液タンクが備えられている。そして、本体に備えられた各インクタンクからは、それぞれ対応する記録ヘッド3のインク供給口にチューブ(図示せず)で連結されて各記録ヘッドにインクを供給する。
【0019】
図1に示す7は、記録ヘッド3の各吐出口20からのインク吐出性能を良好な状態に保つための回復機構としての回復処理装置を示している。この回復処理装置7は、記録装置本体1の所定の位置に保持固定されている。この回復処理装置7は、吸引回復機構7A,7Bと、これを昇降させる不図示の昇降機構と、インク受容箱8とを備える。また、回復処理装置7は、ワイピングを行うワイピング機構としてのワイピング回復装置9を備えている。回復処理装置7は、記録ヘッド3に貯留されたインク及び処理液の増粘を抑える、あるいは記録ヘッド3に付着したインク及び処理液を取り除くことのうち、少なくともいずれか一方のために、記録ヘッド3に回復処理を行うように構成されている。
【0020】
吸引回復機構7A,7Bは、回復処理の一形態である吸引回復処理を行う。ここで、吸引回復処理とは、記録ヘッド3に形成された複数の吐出口20から強制的にインクを吸引することによって、ノズル内のインクを吐出に適した状態のインクに置き換える処理をいう。これにより、記録ヘッド3に貯留されているインクの増粘が抑えられる。具体的には、この吸引回復機構7A,7Bは、吐出口形成面21(図2参照)をキャップで覆う。また、それと共に、そのキャップに連通する不図示のポンプによってキャップ内に負圧を発生させ、その負圧によって吐出口20から記録ヘッド3に貯留されているインクの一部を強制的に吸引して回収する。なお、各吸引回復機構7A,7Bは、それぞれが3つずつのノズル列群に対して吸引回復処理を行う。
【0021】
また、ワイピング機構としてのワイピング回復装置(ワイピング回復手段)9は、記録ヘッド3の移動経路の端部位置(例えば、記録ヘッドのホームポジション)に上下方向において対向可能な位置に設けられている。ワイピング回復機構9は、記録ヘッドの吐出口形成面21を、ワイピング部材(ブレード)10を用いて払拭するワイピング機構(ワイピング手段)と、このブレード10の駆動部とを備える。ワイピング回復装置9は、記録ヘッド3に付着したインク及び処理液を取り除くために、ブレード10によって、記録ヘッド3におけるインク用吐出口20c及び処理液用吐出口20dの形成された面の払拭を行う。また、回復処理装置7は、記録ヘッドに貯留されているインクの増粘を抑えるために貯留されているインクの記録に関与しない吐出を行う予備吐出機構を有していても良い。予備吐出機構としては、記録ヘッドが予備吐出のために記録に関与しないインク滴を吐出したときに、そのインク滴を受容するための受容手段等を備えていても良い。このように、本実施形態では、回復処理装置7は、吸引回復機構7A、7B、予備吐出機構、及びワイピング回復装置9のうちの少なくとも一つの機能を備えている。また、回復処理装置7の行う回復処理は、吸引回復機構7A、7Bによって行われる吸引回復処理、予備吐出機構によって行われる予備吐出、及びワイピング回復装置9によって行われるワイピングのうちの少なくとも一つである。
【0022】
図3は、本実施形態におけるインクジェット記録装置の記録装置本体1に搭載される制御系(制御手段)の構成を示すブロック図である。図3において、100は主制御部を示している。この主制御部100は、CPU101と、ROM102と、RAM103と、入出力ポート104などを備えている。CPU101は、演算、制御、判別、設定などの処理動作を実行する。ROM102は、CPU101によって実行すべき制御プログラム等を格納している。RAM103は、インクの吐出/非吐出を表す2値の記録データを格納するバッファおよびCPU101による処理のワークエリア等として用いられている。
【0023】
入出力ポート104には、搬送ユニットにおける搬送モータ(LFモータ)112、キャリッジモータ(CRモータ)113、記録ヘッド3、および回復処理装置7などの各駆動回路105,106,107,109が接続されている。さらに、入出力ポート104には、その他のセンサ類が接続されている。センサ類としては、記録ヘッドの温度を検出するヘッド温度センサ(ヘッド温度検出手段)114やキャリッジ2に固定されたホームポジションセンサ110や本体1の使用環境である温度と湿度を検知する温湿度センサ115等がある。また、前記主制御部100はインターフェース回路111を介してホストコンピュータ116に接続されている。
【0024】
117は回復処理装置7によって記録ヘッド3から強制的にインクを排出させた場合に、そのインク量をカウントする回復処理カウンタである。また、118は、記録開始前や記録終了時、記録中に行われる予備吐出をカウントする予備吐出カウンタである。そして、119は、フチ無し記録を行う場合に記録媒体領域外に記録されるインクをカウンタするフチ無しインクカウンタであり、さらに、120は、記録中に吐出するインクをカウントする吐出ドットカウンタである。
【0025】
次に、以上の構成を有するインクジェット記録装置によって実行される記録動作および回復処理方法を説明する。
【0026】
まず、記録動作の概略を説明する。ホストコンピュータ116からインターフェースを介して記録データを受信すると、その記録データはRAM103のバッファに展開される。そして、記録動作が指示されると、不図示の搬送ユニットが作動し、記録媒体を記録ヘッド3との対向位置へと搬送する。ここで、キャリッジ2はガイド軸4に沿って主走査方向(X方向)へと移動する。キャリッジ2の移動に伴って、記録ヘッド3からはインク滴が吐出され、記録媒体に1バンド分の画像が記録される。この後、搬送ユニットにより、記録媒体はキャリッジ2と直交するY方向(副走査方向)に1バンド分だけ搬送される。以上の動作を繰り返すことにより、記録媒体には所定の画像が形成される。
【0027】
なお、キャリッジ2の位置は、キャリッジ2の移動に伴ってエンコーダセンサ110から出力されるパルス信号を主制御部100でカウントすることにより検出される。すなわち、エンコーダセンサ110は、主走査方向に沿って配置されたエンコーダフィルム6(図1参照)に一定の間隔で形成された検出部を検出することによってパルス信号を主制御部100へ出力する。主制御部100はこのパルス信号をカウントすることにより、キャリッジ2の位置を検出する。キャリッジ2のホームポジションおよびその他の位置への移動は、エンコーダセンサ110からの信号に基づいて行われる。
【0028】
そして、一定間隔ごとに回復処理を行う旨の指示が出されると、それに応じて記録装置は回復処理を行う。本実施形態では、ドットカウンタで記録ヘッドによるインクの吐出数がカウントされ、一定のカウント数に到達したときに回復処理が行われる。このとき、後述するように、記録状態に応じてドットカウンタによりカウントされるインクの吐出回数に係数が乗じられる。この係数を調節することで回復処理が行われる頻度が調節される。
【0029】
以下、本実施形態による回復処理の行われる頻度について説明する。本実施形態の記録装置では、処理液の吐出を伴って、インクを吐出して記録を行う記録モード(第一の記録モード)と、処理液の吐出を伴わずに、インクを吐出して記録を行う記録モード(第二の記録モード)を有している。以下、記録が行われる際の、処理液が吐出されるかどうかの記録モード及び記録デューティに応じて、回復処理が行われる頻度について説明する。
【0030】
まず、高デューティ記録が行われる場合について説明する。図4は、本実施形態の記録装置によって高デューティ記録が行われる場合に、記録媒体12上における気流状態を示す模式的な断面図である。
【0031】
記録画像における単位面積当たりのインクの占める割合の大きい高デューティ記録が行われる際には、一般に、同時に用いられる吐出口の数が多い傾向にある。従って、同時に吐出されるインク滴の数が多くなるので、これによって生じるインクミストの量は増える傾向にある。また、同時に吐出されるインク滴の量が多いことから、インクの吐出によって発生する気流も大きくなる。この気流は、インク吐出によって発生したときには記録ヘッド3から記録媒体に向かう下向きの流れであるが、これが記録媒体に到達するとそこで反射して記録媒体から記録ヘッド3に向かう上向きの気流が発生する。高デューティ記録が行われることによりこの気流15が大きくなると、インクミストが上向きの気流15によって舞い上げられ、記録ヘッド3の表面部11に付着するインクミスト量がさらに増加する傾向にある。
【0032】
高デューティ記録の際に、処理液の吐出を伴わずに記録が行われる場合(第二の記録モード)について説明する。このような高デューティ記録が処理液の吐出を伴わずに行われる際には、色材を含有したインクのみが高デューティで吐出される。このとき、発生したインクミストが、記録ヘッド3の表面部11に付着し、これが増粘して増粘物が記録ヘッド3の表面部に生成されることがある。しかしながら、このときに記録ヘッド3の表面部11に生成される増粘物は、処理液が吐出される場合と比べると、表面部11での増粘具合は小さい。この場合、適切なタイミングで回復処理が行われることが求められる。回復処理としては、吸引回復処理、予備吐出、あるいはワイピング等が実施される。
【0033】
一方、処理液の吐出を伴って記録が行われる記録モード(第一の記録モード)が選択された場合には、高デューティ記録が行われながら処理液の吐出を伴って記録が行われるので、比較的多くのインクの吐出と処理液の吐出とが並行して行われることになる。このとき、処理液及びインクの一部がインクミストとなって、記録ヘッド3と記録媒体との間で浮遊する。このときのインク及び処理液の吐出量は、高デューティ記録が行われていることから、比較的高い。また、前述のように高デューティ記録が行われている際には、記録媒体から記録ヘッド3に向かう上向きの気流が比較的大きくなる傾向にあるので、この処理液及びインクによるインクミストが、上向きの気流15により舞い上げられる。このとき、処理液及びインクによるインクミストが、浮遊して気流によって舞い上げられる過程の中でお互いが混合されて接触することがある。処理液としてインクを固化させる成分が含有されている場合、処理液とインクとが接触することで、記録ヘッド3の表面部11でインクが増粘して固化することがある。このように、記録ヘッド3の表面部11にインクと処理液とが混合されて生成された生成物14が付着して固化することがある。この生成物の量は、処理液の吐出を伴った記録が行われる場合、比較的多い。
【0034】
また、記録ヘッド3の表面部11で生成された生成物14は、処理液を伴わずにインクを吐出する場合の表面部11に付着したインクのみによる増粘物に比べて、インクと処理液とが反応することでより強く付着する。そのため、処理液の吐出を伴ってインク滴を吐出して記録を行う場合には、回復処理頻度を多くし、記録ヘッド3の表面部における吐出口周辺に付着した生成物14を頻繁に除去することが求められる。仮に、この生成物14を取り除くために行われる回復処理の頻度が不十分で、回復処理を行うタイミングが遅れてしまうと、生成物14が吐出口を塞いだり、インク滴の着弾精度に影響を及ぼしたりしてしまう。このため、記録の際に、インク滴が吐出口から吐出されない不吐出や、インク滴が所望の記録位置から外れてしまう吐出ヨレを引き起こす可能性がある。このように、この記録条件のときには、回復処理の行われる頻度を比較的高くすることが好ましい。
【0035】
次に、記録画像における単位面積当たりのインクの占める割合の小さい低デューティ記録が行われる場合について説明する。
【0036】
図5は、本実施形態の記録装置により低デューティ記録が行われている場合の、記録媒体12上における気流の状態について示した模式的な断面図である。低デューティ記録が行われる際には、同時にインクを吐出する吐出口の数が少ないので、インクミストの発生する量は少ない。さらに、記録を行うためにインクを吐出する際に発生する気流15は、比較的小さい。そのため、記録ヘッド3の表面部11に付着するインクミスト量は、高デューティ記録が行われる場合よりも比較的少ない。
【0037】
低デューティ記録が行われる場合に、処理液の吐出を伴わない記録モードが選択されて記録が行われる場合には、色材を含有したインクのみ低デューティで吐出される。このため、記録のために吐出されるインクのうち、インクミストとなるインクの量が少ない。従って、記録ヘッドと記録媒体との間で発生するインクミストの量が少なく、記録ヘッド3の表面部11に付着するインクミストの量は比較的少ない。発生するインクミストの量が少ないので、少ない頻度の回復処理で記録ヘッド3の表面部11に付着するインクを除去することが可能である。
【0038】
一方、処理液の吐出を伴って記録が行われる記録モードが選択された場合には、処理液の吐出と色材を含有するインクの吐出とが並行して行われる。従って、処理液及びインクの一部がインクミストとなって記録ヘッド3と記録媒体との間で浮遊し、これらが混合されてお互いに接触する場合がある。これにより、記録ヘッド3の表面部11で、インクと処理液とが接触して生成された生成物14が発生することがある。従って、低デューティ記録のためにインクを吐出した場合であっても、記録が行われる際にインクと一緒に処理液が吐出されるのであれば、高デューティで吐出した場合と同様に処理液を吐出しない場合に比べて回復処理の行う頻度を多くすることが好ましい。
【0039】
しかしながら、低デューティ記録が行われているときは、高デューティ記録が行われる場合よりもインクミストの発生量は少なく、記録媒体から記録ヘッド3に向かう上向きの気流の発生量も少ない。従って、低デューティ記録によって記録が行われる場合は、高デューティ記録のときよりも回復処理の頻度は少なくても良い。回復処理の頻度を少なくすることで、記録を効率的に行うことができ、記録におけるスループットを向上させることができる。
【0040】
なお、本実施形態の記録装置1は、吐出口から吐出されるインクによる記録画像におけるデューティを検出するデューティ検出手段を有している。本実施形態では、記録画像におけるデューティは、ホストコンピュータからインターフェースを介して送られる記録データにより予め検出される。また、記録画像におけるデューティは、記録された画像から検出されることとしても良い。このとき、CPU101等が、記録画像におけるデューティを検出するデューティ検出手段として機能する。ここで検出されたデューティを用いて、吐出ドットカウンタ120によってドットカウント数が算出される際の、カウントされたインクの吐出回数に乗じられる係数が決定される。
【0041】
次に、本実施形態によって実行される回復処理の行われる頻度の調節について説明する。ここでは、回復処理のうち、記録ヘッドの吐出口をキャップで覆い、その状態でキャップを通して記録ヘッド内部のインクを吸引する吸引回復処理が行われる。このときに回復処理が行われる工程のフローについて図6のフローチャートを用いて説明する。図6のフローチャートにおいて、201で記録モードが選択され、普通紙やコート紙など処理液を使用した場合に適した記録媒体が選択された場合は、処理液の吐出を伴う記録動作が行われ、処理液ONの状態に設定される。また、光沢紙などの、処理液を使用しない場合に適した記録媒体が選択された場合は、処理液の吐出を伴わない記録が行われる記録モードが選択され、処理液OFFの状態に設定される。なお、本実施形態では、選択した記録媒体の種類によって、処理液の吐出を伴う記録動作あるいは処理液の吐出を伴わない記録動作のいずれかが選択されることとされているが、本発明はこれに限定されない。ユーザーの指示によって、処理液の吐出を伴う記録モードあるいは処理液の吐出を伴わない記録モードのいずれかが選択されることとしても良いし、他の方法によっていずれかの記録モードが選択されることとしても良い。そして、吐出口から吐出されるインクの吐出回数がカウントされる。このとき、インクだけでなく、処理液の吐出数もカウントすることとしても良い。
【0042】
フローチャートにおいて、処理液ONの状態の場合には、202で処理液及び色材を含有するインクの記録デューティに応じた係数がインクの吐出数に乗じられて、ドットカウント手段としての吐出ドットカウンタ120で算出される。処理液OFFの状態の場合には、203で色材を含有するインクの記録デューティに応じた係数がインクの吐出数に乗じられて吐出ドットカウンタ120で算出される。このように、吐出ドットカウンタ120は、カウントされたインクの吐出回数に、記録条件に応じた係数が乗じられてドットカウント数を算出する。そして、吐出ドットカウンタ120は、処理液の吐出を伴って記録が行われる記録モードにより記録を行うときには、処理液の吐出を伴わない記録モードにより記録を行うときよりも大きな係数が吐出回数に乗じられてドットカウント数を算出する。
【0043】
204で1ライン分の記録データが記録されると205でドットカウンタ処理によって記録データに従って吐出された吐出数がカウントされる。本実施形態では、処理液による吐出数と色材を含有したインクによる吐出数とを合わせた合計の吐出数について、202あるいは203で設定された係数を乗じて、ドットカウンタ数が積算される。このとき、インクジェット記録装置が、インクについての吐出数と処理液についての吐出数をカウントしているのであれば、吐出ドットカウンタ120で乗じられる係数は、インクについての係数と処理液についての係数とが別々に設定されていても良い。206で積算したドットカウンタ数が閾値を超えた場合は、207で回復処理が実施される。このように、吐出ドットカウンタ120によって算出されたドットカウント数が予め設定されている閾値を超えたときに回復処理を行うように、回復処理の行われるタイミングが制御される。
【0044】
処理液の吐出を伴って記録が行われるときの回復処理が行われる頻度は、処理液の吐出を伴わずに記録が行われるときの回復処理が行われる頻度よりも高くなるように回復処理の行われるタイミングが制御される。また、加えて、記録画像のデューティが大きいときには、デューティが小さいときよりも回復処理の行われる頻度が高くなるように、回復処理の行われるタイミングが制御される。このとき、例えば、CPU101、ROM102、RAM103等が、回復処理の行われるタイミングを制御する回復処理制御手段として機能する。
【0045】
そして、その後208でドットカウンタ数はリセットされる。209で次のスキャンデータがある場合は204で引き続き1ライン分の記録データが記録されて、次のスキャンデータがない場合は210で記録を終了する。一方、206で積算したドットカウンタ数が閾値を超えず、209で次のスキャンデータがある場合は204で引き続き1ライン分の記録データが記録される。209で次のスキャンデータがない場合には、210で記録を終了する。
【0046】
回復処理としては、吸引回復処理に限らず、予備吐出やワイピングでも同様の効果が有り、吸引回復処理と予備吐出とワイピングを複合して実行することも可能である。
【0047】
図7に、本実施形態のインクジェット記録装置による記録時に、処理液の吐出を伴うかどうか及び記録デューティに応じて変化する係数について示したテーブルを示す。これらの吐出数に乗じられる係数は、記録によるインク吐出数については吐出ドットカウンタ120で乗じられる。また、予備吐出時の吐出数については、予備吐出カウンタ118で乗じられる。また、テーブルには、その係数が用いられて記録が行われたときに、A0用紙の記録媒体1000枚について記録が行われた後の記録ヘッドの吐出状態についても示している。本実施形態では、記録媒体として普通紙が選択された場合は、処理液の吐出を伴って記録が行われる。従って、この場合には、吐出数に乗じるドットカウンタ係数を、処理液を吐出しない光沢紙が選択された場合のドットカウンタ係数よりも大きくすることで回復処理頻度を多くすることが可能となる。また、処理液の吐出有無に関わらず、記録デューティが高いほど処理液及び色材を含有するインクのドットカウンタ係数は大きくすることで回復処理頻度を多くしている。さらに処理液吐出時に処理液のドットカウンタ係数を色材を含有するインクのドットカウンタ係数より大きくすることで回復処理頻度を多くしている。本実施形態の条件で普通紙及び光沢紙のA0サイズに対して各インク低デューティから高デューティまで使用された画像を1000枚記録して吐出状態を観察した結果、不吐出も吐出ヨレもなく良好な吐出状態で、画像不良を発生することは無かった。
【0048】
一方、図8は、比較例における記録時に、処理液の吐出を伴うかどうか及び記録デューティによって変わる、インク吐出数に乗じられる係数について示したテーブルを示す。比較例では、処理液を吐出するかどうか及び記録デューティに関わらず記録時にはドットカウンタ係数を1にしている。図7と同様の画像を1000枚記録して吐出状態を観察した結果、記録ヘッドの表面部に生成物が堆積して固化しており、不吐出や吐出ヨレが発生して画像不良が生じた。
【0049】
本実施形態のインクジェット記録装置によって記録が行われることにより、処理液の吐出を伴ってインクの吐出が行われることにより記録が行われても、適切なタイミングで回復処理を行うことができる。従って、記録ヘッドにインクと処理液とが接触することによって生成される生成物によってインク吐出が影響を受けることを抑えることができる。従って、記録によって得られる画像の品質が高く保たれる。また、付着した生成物によって記録装置の耐久性が影響を受けることが抑えられ、記録装置の信頼性を向上させることができる。また、処理液の吐出を伴わないときには、回復処理の頻度は少なく制御されるので、記録の効率を向上させることができ、記録のスループットを向上させることができる。
【0050】
なお、本明細書において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わずに用いられる。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または記録媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0051】
また、「記録装置」とは、プリンタ、プリンタ複合機、複写機、ファクシミリ装置などのプリント機能を有する装置、ならびにインクジェット技術を用いて物品の製造を行なう製造装置を含む。
【0052】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものを表すものとする。
【符号の説明】
【0053】
1 インクジェット記録装置
3 記録ヘッド
20 吐出口
20c インク用吐出口
20d 処理液用吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材を含有したインクを吐出するインク用吐出口と、前記インクと接触することで固化する成分を含有した処理液を吐出する処理液用吐出口とを有する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドに貯留されたインク及び処理液の増粘を抑える、あるいは前記記録ヘッドに付着したインク及び処理液を取り除くことのうち、少なくともいずれか一方のために、前記記録ヘッドに回復処理を行う回復機構とを備え、
前記インク用吐出口から記録媒体にインクを吐出して記録を行うと共に、前記処理液用吐出口から処理液を吐出して前記インク用吐出口から吐出されたインクと接触させることで記録媒体上に着弾したインクを固化させることが可能なインクジェット記録装置において、
前記処理液用吐出口からの処理液の吐出を伴って、前記インク用吐出口からインクを吐出して記録を行う第一の記録モードと、
前記処理液用吐出口からの処理液の吐出を伴わずに、前記インク用吐出口からインクを吐出して記録を行う第二の記録モードと、
前記第一の記録モードにより記録が行われるときの回復処理が行われる頻度は、前記第二の記録モードにより記録が行われるときの回復処理が行われる頻度よりも高くなるように、回復処理の行われるタイミングを制御する回復処理制御手段と
を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記回復機構は、前記記録ヘッドに貯留されているインクの増粘を抑えるために貯留されているインクの一部を吸引して回収する吸引回復機構、前記記録ヘッドに貯留されているインクの増粘を抑えるために貯留されているインクの記録に関与しない吐出を行う予備吐出機構、及び前記記録ヘッドに付着したインク及び処理液を取り除くために前記記録ヘッドにおけるインク用吐出口及び処理液用吐出口の形成された面の払拭を行うワイピング機構のうちの少なくとも一つであり、
前記回復処理は、前記吸引回復機構によって行われる吸引回復処理、前記予備吐出機構によって行われる予備吐出、及び前記ワイピング機構によって行われるワイピングのうちの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記インクジェット記録装置は、前記インク用吐出口から吐出される吐出回数をカウントし、カウントされた前記吐出回数に、記録条件に応じた係数が乗じられてドットカウント数を算出するドットカウント手段を有し、
前記回復処理制御手段は、前記ドットカウント手段によって算出された前記ドットカウント数が予め設定されている閾値を超えたときに前記回復処理を行うように、回復処理の行われるタイミングを制御し、
前記ドットカウント手段は、前記第一の記録モードにより記録を行うときには、前記第二の記録モードにより記録を行うときよりも大きな係数を前記吐出回数に乗じて前記ドットカウント数を算出することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記インク用吐出口から吐出されるインクによる記録画像におけるデューティを検出するデューティ検出手段を有し、
前記回復処理制御手段は、前記デューティ検出手段によって検出されたデューティが大きいときには、前記デューティ検出手段によって検出されたデューティが小さいときよりも回復処理の行われる頻度が高くなるように、回復処理の行われるタイミングを制御することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−167921(P2011−167921A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33566(P2010−33566)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】