説明

インダクタおよびインダクタの製造方法

【課題】 従来よりもコア強度および絶縁抵抗が高く、かつコア損失が低いインダクタを提供する。
【解決手段】インダクタ100は非晶質軟磁性粉末と結晶質軟磁性粉末からなる混合粉末と絶縁性材料との混合物が固化されたものを含む成形体1と、成形体1の内部に設けられたコイル2を有している。
混合粉末の混合比は非晶質軟磁性粉末が90〜98mass%、結晶質軟磁性粉末が2〜10mass%であるのが望ましい。これは、結晶質軟磁性粉末の配合比をこれ以上増加させると絶縁抵抗が低下し、コア損失が増加するためであり、また、結晶質軟磁性粉末の配合比をこれ以上減少させると透磁率やコア強度が低下するためである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタおよびその製造方法、トロイダルコアおよびトロイダルコイルを用いたインダクタ、インダクタを用いたチョークコイルおよび電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンやPDA用のCPU(Central Processing Unit)の高性能化に伴った大電流化により、これら電源回路に用いられる素子の電力効率の改善および小型化の要求が強まっている。
【0003】
これらの大電流を要する電源回路にチョークコイルとして用いられるインダクタの磁心には、磁気飽和を起しにくい、高い飽和磁束密度を有する軟磁性金属粉末を成形したコアが用いられている。
【0004】
また近年、素子の小型化要求に伴って、デットスペースの極めて少ない、圧粉磁心とコイル部を一体成形したインダクタが提案されている(特許文献1)。
【0005】
これらの一体成形型インダクタは、高飽和磁束密度を有する軟磁性金属粉末を樹脂バインダーと共に成形することにより、優れた直流重畳特性を示す反面、磁心内部にコイルが配置されるため、一般的な圧粉磁心において成形後に磁気特性を向上させるために行われる高温での熱処理が困難であり、従来の圧粉磁心に比べてコア損失が大きく、電源素子として用いる際の効率が低下するという問題がある。
【0006】
これらの解決手法として結晶磁気異方性を持たず、コア損失が少ない非晶質金属磁性粉末をコアの原料としている手法が提案されている(特許文献2)。
【0007】
しかしながら、一般に非晶質金属は結晶質金属に比べて硬度が著しく高く、圧縮成形時に塑性変形による充填率の向上が望めず透磁率が低くなるという問題がある。
【0008】
加えて非晶質粉末の成型時の変形量が少ないことによって、成形体に生ずる粉末同士の結合が減少するため強度が低下するという問題がある。
【0009】
これらの解決手法として非晶質金属粉末に結晶質金属粉末を混合しコア材とする手法が提案されている(特許文献3、4)。
【0010】
これらの手法では結晶質粉末を非晶質粉末に添加することにより、充填率を向上させ、透磁率を増加させている。
【0011】
さらに、結晶質金属粉末が変形することにより非晶質粉末同士を接着するバインダーの役割を果たすため、コア強度が向上する。
【0012】
【特許文献1】特開2003−309024号公報
【特許文献2】特開2004−22814号公報
【特許文献3】特開2004−197218号公報
【特許文献4】特開2004−363466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、大きな結晶磁気異方性を有する結晶質粉末を非晶質粉末に添加すると、コアの保磁力の増加に伴いコア損失が増大することが懸念される。
【0014】
特許文献3、4の例では非晶質粉末のみで作製した際のコア損失が、結晶質粉末のみで作製したコア損失に対してそれほど小さくないため、結晶質粉末を添加した際の保磁力増加の影響より透磁率の増加の効果が大きく、混合比率によってコア損失を低減しているが、結晶質材に比較して著しく軟磁気特性に優れた非晶質粉末を用いれば、結晶質粉末の添加によってコア損失が大幅に増加することが推測される。
【0015】
また、結晶質粉末を非晶質粉末に添加すると、成形体表面と金型との摩擦で結晶質粉末が過度に変形し、コア表面を導通させ、素子としての絶縁抵抗が低下するという問題があった。
【0016】
本発明は、このような問題点を鑑みてなされたものであり、その課題は、従来よりもコア強度および絶縁抵抗が高く、かつコア損失が低いインダクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決するために、本発明の第1の態様は、磁心と、前記磁心の内部に配置されたコイルと、を有し、前記磁心は、90〜98mass%の非晶質軟磁性粉末と2〜10mass%の結晶質軟磁性粉末の配合比からなる混合粉末と、絶縁性材料との混合物が固化したものを含むことを特徴とするインダクタである。
【0018】
本発明の第2の態様は、90〜98mass%の非晶質軟磁性粉末と2〜10mass%の結晶質軟磁性粉末の配合比からなる混合粉末と、絶縁性材料との混合物の内部にコイルを配置し、前記混合物を固化させる工程を有することを特徴とするインダクタの製造方法である。
【0019】
本発明の第3の態様は、90〜98mass%の非晶質軟磁性粉末と2〜10mass%の結晶質軟磁性粉末の配合比からなる混合粉末と、絶縁性材料との混合物を固化してなることを特徴とするトロイダルコアである。
【0020】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載のトロイダルコアに巻線を施して形成されることを特徴とするインダクタである。
【0021】
本発明の第5の態様は、第1の態様または第4の態様に記載のインダクタを有することを特徴とするチョークコイルである。
【0022】
本発明の第6の態様は、第1の態様または第4の態様に記載のインダクタを有することを特徴とする電源回路である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来よりもコア強度および絶縁抵抗が高く、かつコア損失が低いインダクタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0025】
まず、図1を用いて本実施形態に係るインダクタ100の構造について簡単に説明する。
【0026】
図1に示すように、インダクタ100は後述する非晶質軟磁性粉末と結晶質軟磁性粉末からなる混合粉末と絶縁性材料との混合物が固化されたものを含む成形体1と、成形体1の内部に設けられたコイル2を有している。
【0027】
図1から明らかなように、インダクタ100は一体成形型のインダクタであり、成形体1は磁心部分3を構成し、コイル2の両端は成形体1から露出して端子部分4a、4bを構成している。
【0028】
次に、インダクタ100を構成する各部材について説明する。
【0029】
非晶質軟磁性粉末はインダクタ100のコア損失を低くするために必須の材料であり、例えば、式:(Fe1-aTM100−w−x−y−zSi(但し、不可避不純物が含まれ、TMはCo、Niから選ばれる1種以上、LはAl、V、Cr、Y、Zr、Mo、Nb、Ta、Wから選ばれる1種以上であって、0≦a≦0.98、2≦w≦16原子%、2≦x≦16原子%、0<y≦10原子%、0≦z≦8原子%)で表される組成である。
【0030】
より具体的には、上記組成比率の条件を満たす非晶質Fe−P−B−Nb−Cr粉末、非晶質Fe−Si−B粉末、非晶質Fe−Si−B−Cr粉末等のFe基非晶質粉末、あるいはCo基非晶質粉末が用いられる。
【0031】
結晶質軟磁性粉末は混合粉末の充填率を向上させ、透磁率を増加させるとともに、非晶質軟磁性粉末同士を接着するバインダーの役割を果たすため、必須である。
【0032】
結晶質軟磁性粉末は例えば結晶質Fe−Si−Cr粉末、結晶質カルボニルFe粉末、結晶質Fe−Si粉末、結晶質Fe−Ni粉末、結晶質Fe−Al粉末、結晶質Fe−Si−Al粉末等の結晶質軟磁性粉末が挙げられる。
【0033】
なお、結晶質軟磁性粉末の粒径(平均粒径D50)は1〜5μmであるのが望ましい。これは、平均粒径をこれ以上増加させると渦電流の増大により磁心部分3のコア損失が増大し、結晶質軟磁性粉末のみで作製したコア(磁心部分)に対する優位性が失われるからである。
【0034】
ここで、非晶質軟磁性粉末と結晶質軟磁性粉末からなる混合粉末の混合比は、非晶質軟磁性粉末が90〜98mass%、結晶質軟磁性粉末が2〜10mass%であるのが望ましい。即ち、混合粉末は非晶質軟磁性粉末と結晶質軟磁性粉末からなり、混合粉末全量に対する結晶質軟磁性粉末の添加量が2〜10mass%であるのが望ましい。
【0035】
これは、結晶質軟磁性粉末の配合比をこれ以上増加させると磁心部分3の絶縁抵抗の低下や、コア損失の増加が生じる一方、結晶質軟磁性粉末の配合比をこれ以上減少させると磁心部分3の透磁率やコア強度が低下するためである。
【0036】
絶縁性材料は混合粉末を接着するバインダーとしての役割を果たすものであり、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂などの各種樹脂、あるいは無機ガラスが挙げられる。
【0037】
コイル2は例えば、金属等の導体に絶縁被覆を施したものが用いられる。
【0038】
なお、図1ではインダクタ100を、コイル2を磁心部分3の内部に設けた一体型のインダクタとして構成しているが、磁心部分3をトロイダルコアとし、トロイダルコアにコイル2を巻いてインダクタを構成してもよい。
【0039】
次に、インダクタ100の製造方法について簡単に説明する。
【0040】
まず、水アトマイズ法等を用いて非晶質軟磁性粉末と結晶質軟磁性粉末を作製し、これを前述した混合比率で混合し、混合粉末を得る。
【0041】
次に、得られた混合粉末に絶縁性材料を混合物全量に対して例えば2〜10mass%の割合、好ましくは5mass%の割合で混合し、混合物を得る。
【0042】
次に、金型内にコイル2を配置し、さらに前記の造粒粉(混合物)を金型に充填して加圧成形し、その後、例えば300〜400℃、好ましくは350℃で1時間程度の歪取り熱処理をすることにより、図1に示す一体成形型のインダクタ100が完成する。
【0043】
なお、前述のように、コイル2と磁心部分3を一体成形せず、磁心部分3をトロイダルコアとして構成し、これに巻線を施してインダクタを構成してもよい。
【0044】
このように、本実施形態によれば、インダクタ100が磁心部分3と、前記磁心の内部に配置されたコイル2と、を有し、磁心部分3は、90〜98mass%の非晶質軟磁性粉末と2〜10mass%の結晶質軟磁性粉末の配合比からなる混合粉末と絶縁性材料との混合物が固化したものを含んでいる。
【0045】
そのため、インダクタ100は従来のインダクタよりもコア強度および絶縁抵抗が高く、かつコア損失が低い。
【実施例】
【0046】
次に、具体的な例を挙げ、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0047】
まず、種々の混合比で結晶質軟磁性粉末と非晶質軟磁性粉末が混合されたトロイダルコアおよび一体成形型インダクタを製造した。
【0048】
最初に、結晶質軟磁性粉末と非晶質軟磁性粉末を製造した。
【0049】
まず、結晶質軟磁性粉末として、結晶質Fe-6.5wt%Si-3wt%Cr粉末を水アトマイズ法を用いて作製した後、フルイ分級でそれぞれ平均粒径D50がそれぞれ5.0μm、10.0μm、20.8μm の粉末を、風力分級を用いて1.0μm、2.5μm、の微粉末を得た。
【0050】
これと同様に非晶質軟磁性粉末として非晶質Fe75P12B8Nb3Cr2および非晶質Fe76Si9B13Cr2粉末を水アトマイズ法で作製し、共に平均粒径10.0μmの粉末を得た。
【0051】
次に、パーキンエルマー社製 PYRIS Diamond DSCを用いて昇温速度40℃/minで、作製した非晶質Fe75P12B8Nb3Cr2粉末、非晶質Fe76Si9B13Cr2粉末のDSC(Differential Scanning Calorimetry)曲線を測定した。
【0052】
図2Aに測定したDSC曲線を示す。
【0053】
図2Aに示すように、非晶質Fe75P12B8Nb3Cr粉においては、ガラス転移温度Tgを示す吸熱が471℃に確認されており、この組成が結晶化温度Tx以下にガラス転移温度Tgをもつ金属ガラスであることがわかった。
【0054】
次に、作製した非晶質Fe75P12B8Nb3Cr2粉末と結晶質Fe-6.5wt%Si-3wt%Cr粉末を、種々の割合でV型混連機を用いて十分に混合し、混合粉末を得た。同様に、Fe76Si9B13Cr2粉末についても混合粉末を作製した。
【0055】
次に、得られた混合粉末に絶縁性材料としてフェノール樹脂を全量に対して5mass%の割合で混合し、目開きが500μmのフルイを通すことにより、平均粒径が500μm以下の造粒粉(混合物)を作製した。
【0056】
なお、いずれの粉末の平均粒径D50の測定も、レーザー式粒度分布測定機を用いて行った。
【0057】
作製した造粒粉末(混合物)を外径13mm、内径8mmの金型に充填し、面圧7Ton/cm(7×10Pa)で成形し、高さ5mmのトロイダル形状の成形体とした。
【0058】
得られた成形体に対し、窒素雰囲気中150℃、2時間の硬化処理を行い、さらに窒素雰囲気中、350℃で1時間の歪取り熱処理を施し、トロイダルコアを得た。
【0059】
同様に、10mm角金型中にコイル2を配置し、さらに前記の造粒粉(混合物)を充填し、面圧7Ton/cm(7×10Pa)を加えて図1に示す一体成形型のインダクタ100の形状に成形した。
【0060】
得られた成形体1は、トロイダル形状と同様に、窒素雰囲気中150℃、2時間の硬化処理の後、350℃の温度範囲で1時間の歪取り熱処理を施したのち、端子部分4a、4bを半田処理することにより、面実装インダクタ(インダクタ100、すなわち一体成形型インダクタ)とした。
【0061】
以上の工程により、種々の混合比で結晶質軟磁性粉末と非晶質軟磁性粉末が混合されたトロイダルコアおよび一体成形型インダクタが製造された。
【0062】
次に、作成したコアおよび一体成形型インダクタの物性について調査した。
【0063】
まず、結晶材料である結晶質Fe-6.5wt%Si-3wt%Cr粉末と非晶質材料である非晶質Fe75P12B8Nb3Cr2粉末の混合比によるコアの強度の差を調査した。
【0064】
具体的には、平均粒径が5μmの結晶質Fe-6.5wt%Si-3wt%Cr粉末を、非晶質Fe75P12B8Nb3Cr2に添加して作製したトロイダルコアに対して焼結含油軸受の圧環強さ試験方法(JIS Z2507)に準じた強度試験を行い、圧環強さを評価した。
【0065】
図2Bに結晶質軟磁性粉末の添加量と圧環強さの関係を示す。
【0066】
図2Bに示すように、非晶質軟磁性粉末のみでトロイダルコアを作製した場合の圧環強さは23.1N/mmであった。
【0067】
一方、混合粉末全量に対する結晶質軟磁性粉末の添加量が2mass%の場合、圧環強さは38.5N/mmとなり、非晶質軟磁性粉末のみの場合と比べて1.7倍増加していた。
【0068】
上記の結果から、非晶質軟磁性粉末に対する結晶質軟磁性粉末の添加が有用であることがわかった。なお、さらに添加量を増やすにつれ、圧環強さは増加していた。
【0069】
次に、同様に非晶質軟磁性粉末に対して結晶質軟磁性粉末を添加した際のコア損失を評価した。
【0070】
平均粒径D50が5μmの結晶質Fe-6.5wt%Si-3wt%Cr粉末をFe75P12B8Nb3Cr2(金属ガラス)および非晶質Fe76Si9B13Cr2(金属ガラスではない非晶質材料)に添加して作製したトロイダルコアのコア損失を図3に示す。測定には市販のB−Hアナライザを用い、励磁条件を50mT、300kHzとして行った。
【0071】
図3に示すように、非晶質Fe75P12B8Nb3Cr2粉末のみでトロイダルコアを作製した場合はコア損失が800kW/m、非晶質Fe76Si9B13Cr2粉末のみで作製した場合は1400kW/mを示していた。
【0072】
また、金属ガラスである非晶質Fe75P12B8Nb3Cr2粉末を用いた場合は、金属ガラスではない非晶質材料である非晶質Fe76Si9B13Cr2粉末を用いた場合よりも低いコア損失を示しており、金属ガラスを用いることにより、低いコア損失を実現できることがわかった。
【0073】
一方で、上記したこれらの非晶質粉末に、結晶質軟磁性粉末である結晶質Fe-6.5wt%Si-3wt%Cr粉末を添加した場合は、添加量が増加するに従ってコア損失は増加していった。
【0074】
また、結晶質軟磁性粉末のみでトロイダルコアを作製した場合のコア損失は2500kW/mを示した。
【0075】
上記の結果より、コア損失と結晶質軟磁性粉末の添加量は比例関係にあり、添加量が多くなるとコア損失が増加し非晶質材の利点が失われるため、コア損失の低減という観点からは、混合粉末全量に対する結晶質軟磁性粉末の添加量は少ない方が良いことがわかった。
【0076】
次に同様に結晶質Fe-6.5wt%Si-3wt%Cr粉末を非晶質Fe75P12B8Nb3Cr2粉末に種々の割合で添加して作製した面実装インダクタ(インダクタ100)の50Vでの絶縁抵抗を、菊水電子工業社製絶縁抵抗試験器TOS7200を用いて測定した。結果を図4に示す。
【0077】
図4に示すように、混合粉末全量に対する結晶質Fe-6.5wt%Si-3wt%Cr(結晶質軟磁性粉末)の添加量が10mass%までは3000MΩ以上の高い絶縁抵抗を示すのに対し、添加量が20mass%では80MΩと大幅に低下し、以降も添加量が増加するにつれて絶縁抵抗が低下していった。これは結晶質軟磁性粉末が成形により変形し、電流の導通が生じたと考えられる。
【0078】
ここまでの検討で、コア強度を高め、かつコア損失が低く、回路素子としての十分な絶縁抵抗を示す素子を作製するためには、混合粉末全量に対する結晶質軟磁性粉末の添加量を2〜10mass%以下とするのが望ましいことが示された。
【0079】
次に添加する結晶質軟磁性粉末の粒度の影響を検討した。分級によって作製した平均粒径D50が1.0μm、2.5μm、5.0μm、10.0μm、20.8μmの結晶質Fe-6.5wt%Si-3wt%Cr粉末を非晶質Fe75P12B8Nb3Cr2粉末に対して10mass%の割合で添加し、市販のB−Hアナライザを用いてコア損失(コアロス)を比較した。結果を図5に示す。
【0080】
図5に示すように、平均粒径D50が1.0μm、2.5μm、5.0μmの結晶質Fe-6.5wt%Si-3wt%Cr粉末を添加したコアにおいては、コア損失が900前後と低い値を示すのに対して、平均粒径D50が10.0μm、20.8μmの粉末を添加したコアではコア損失が増大し、結晶質軟磁性粉末のみで作製したコアに対する優位性が失われる。コア損失が増大する原因としては渦電流の増大が考えられる。よって、添加する結晶質軟磁性粉末の平均粒径D50は1.0μmから5.0μmが適当と判断される。
【0081】
以上の検討により、本発明によってコア強度および絶縁抵抗が高く、かつコア損失が低いインダクタが提供可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のインダクタとその製造方法は、チョークコイルや電源回路やその製造に適用できる。
【0083】
なお、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態および実施例に左右されない。当業者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本実施形態に係るインダクタ100の斜視図であって、磁心部分3は外周を点線で表し、内部を透明に描いている。
【図2A】非晶質Fe75P12B8Nb3Cr2粉末と非晶質Fe76Si9B13Cr2粉末のDSC曲線を示す図である。
【図2B】結晶質軟磁性粉末の添加量と圧環強さの関係を示す図である。
【図3】結晶質軟磁性粉末の添加量とコア損失の関係を示す図である。
【図4】結晶質軟磁性粉末の添加量と絶縁抵抗の関係を示す図である。
【図5】結晶質軟磁性粉末の平均粒径D50とコア損失(コアロス)の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0085】
1………成形体
2………コイル
3………磁心部分
4a……端子部分
4b……端子部分
100…インダクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁心と、
前記磁心の内部に配置されたコイルと、
を有し、
前記磁心は、
90〜98mass%の非晶質軟磁性粉末と2〜10mass%の結晶質軟磁性粉末の配合比からなる混合粉末と、絶縁性材料との混合物が固化したものを含むことを特徴とするインダクタ。
【請求項2】
前記結晶質軟磁性粉末は、
平均粒径D50が1〜5μmであることを特徴とする、請求項1記載のインダクタ。
【請求項3】
前記非晶質軟磁性粉末は、式:(Fe1-aTM100−w−x−y−zSi(但し、不可避不純物が含まれ、TMはCo、Niから選ばれる1種以上、LはAl、V、Cr、Y、Zr、Mo、Nb、Ta、Wから選ばれる1種以上であって、0≦a≦0.98、2≦w≦16原子%、2≦x≦16原子%、0<y≦10原子%、0≦z≦8原子%)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載のインダクタ。
【請求項4】
前記非晶質軟磁性粉末は、ガラス転移点を示す金属ガラスであることを特徴とする、請求項3記載のインダクタ。
【請求項5】
前記非晶質軟磁性粉末は、
Co基非晶質粉末であることを特徴とする請求項3に記載のインダクタ。
【請求項6】
前記結晶質軟磁性粉末は、結晶質Fe−Si−Cr粉末、結晶質カルボニルFe粉末、結晶質Fe−Si粉末、結晶質Fe−Ni粉末、結晶質Fe−Al粉末、結晶質Fe−Si−Al粉末のいずれかであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のインダクタ。
【請求項7】
前記絶縁性材料は、
フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、無機ガラスのいずれかを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のインダクタ。
【請求項8】
90〜98mass%の非晶質軟磁性粉末と2〜10mass%の結晶質軟磁性粉末の配合比からなる混合粉末と、絶縁性材料との混合物の内部にコイルを配置し、前記混合物を固化させる工程を有することを特徴とするインダクタの製造方法。
【請求項9】
前記結晶質軟磁性粉末は、
平均粒径D50が1〜5μmであることを特徴とする、請求項8記載のインダクタの製造方法。
【請求項10】
前記非晶質軟磁性粉末は、式:(Fe1-aTM100−w−x−y−zSi(但し、不可避不純物が含まれ、TMはCo、Niから選ばれる1種以上、LはAl、V、Cr、Y、Zr、Mo、Nb、Ta、Wから選ばれる1種以上であって、0≦a≦0.98、2≦w≦16原子%、2≦x≦16原子%、0<y≦10原子%、0≦z≦8原子%)で表されることを特徴とする請求項8または9に記載のインダクタの製造方法。
【請求項11】
前記非晶質軟磁性粉末は、ガラス転移点を示す金属ガラスであることを特徴とする請求項10に記載のインダクタの製造方法。
【請求項12】
前記非晶質軟磁性粉末は、
Co基非晶質粉末であることを特徴とする請求項10に記載のインダクタの製造方法。
【請求項13】
前記結晶質軟磁性粉末は、結晶質Fe−Si−Cr粉末、結晶質カルボニルFe粉末、結晶質Fe−Si粉末、結晶質Fe−Ni粉末、結晶質Fe−Al粉末、結晶質Fe−Si−Al粉末のいずれかであることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載のインダクタの製造方法。
【請求項14】
前記絶縁性材料は、
フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、無機ガラスのいずれかを含むことを特徴とする請求項8〜13のいずれかに記載のインダクタの製造方法。
【請求項15】
90〜98mass%の非晶質軟磁性粉末と2〜10mass%の結晶質軟磁性粉末の配合比からなる混合粉末と、絶縁性材料との混合物を固化してなることを特徴とするトロイダルコア。
【請求項16】
前記結晶質軟磁性粉末は、
平均粒径D50が1〜5μmであることを特徴とする、請求項15記載のトロイダルコア。
【請求項17】
前記非晶質軟磁性粉末は、式:(Fe1-aTM100−w−x−y−zSi(但し、不可避不純物が含まれ、TMはCo、Niから選ばれる1種以上、LはAl、V、Cr、Y、Zr、Mo、Nb、Ta、Wから選ばれる1種以上であって、0≦a≦0.98、2≦w≦16原子%、2≦x≦16原子%、0<y≦10原子%、0≦z≦8原子%)で表されることを特徴とする請求項15または16に記載のトロイダルコア。
【請求項18】
前記非晶質軟磁性粉末は、ガラス転移点を示す金属ガラスであることを特徴とする請求項17に記載のトロイダルコア。
【請求項19】
前記非晶質軟磁性粉末は、
Co基非晶質粉末であることを特徴とする請求項17に記載のトロイダルコア。
【請求項20】
前記結晶質軟磁性粉末は、結晶質Fe−Si−Cr粉末、結晶質カルボニルFe粉末、結晶質Fe−Si粉末、結晶質Fe−Ni粉末、結晶質Fe−Al粉末、結晶質Fe−Si−Al粉末のいずれかであることを特徴とする請求項15〜19のいずれかに記載のトロイダルコア。
【請求項21】
前記絶縁性材料は、
フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、無機ガラスのいずれかを含むことを特徴とする請求項15〜20のいずれかに記載のトロイダルコア。
【請求項22】
請求項15〜21のいずれかに記載のトロイダルコアに巻線を施してなることを特徴とするインダクタ。
【請求項23】
請求項1〜7または請求項22のいずれかに記載のインダクタを有することを特徴とするチョークコイル。
【請求項24】
請求項1〜7または請求項22のいずれかに記載のインダクタを有することを特徴とする電源回路。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−118486(P2010−118486A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290465(P2008−290465)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】