説明

インプリントモールドおよびインプリントモールド製造方法

【課題】インプリント法において、モールドパターン破壊を低減するインプリントモールドおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のインプリント用モールドは、凹凸状パターンの少なくとも凹部の角をラウンド形状にしたことを特徴とすることにより、インプリントにおけるモールド離型時に、モールド材料中の応力集中を緩和することが出来る。このため、モールドパターンの破壊を低減することが可能となる。特に、高アスペクト比のパターン転写であってもモールドパターン破壊を低減することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリントモールドおよびインプリントモールド製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、微細なパターンの形成方法として、インプリント法(もしくはナノインプリント法)と呼ばれる非常に簡易であるが大量生産にも向く、微細なパターンを忠実に転写可能な技術が提案されている(非特許文献1参照)。ここで、インプリント法とナノインプリント法に厳密な区別はないが、ナノメーターオーダーのものをナノインプリント法と呼び、その他のマイクロメーターオーダーのものをインプリント法と呼ぶことが多い。ここでは、両者併せて全てをインプリント法と呼ぶことにする。
【0003】
インプリント法は、最終的に転写すべきパターンのネガポジ反転像に対応するパターンが形成されたモールド(テンプレートという場合もある)と呼ばれる金型を、樹脂に型押しし、その状態で樹脂を硬化させることで、パターン転写を行うものである。熱により樹脂を硬化させる熱インプリント法(非特許文献1、非特許文献2参照)、紫外線により樹脂を硬化させる光インプリント法(特許文献1参照)、などが提案されている。
【0004】
インプリント法において、モールドと基板上に生成した樹脂パターンとの離型性は極めて重要である。プレスの後(図1(a))、モールドと樹脂を引き離す工程に際して、モールドと樹脂の付着や摩擦により、モールドパターンの大部分が折れたり(図1(b))、モールドパターンの一部分が折れたり(図1(c))することで、モールドパターンが樹脂に突き刺さり、モールドパターンが破壊される現象が起こることがある。これは、モールドまたは樹脂の表面エネルギーが大きい(付着力が大きい)ため起こると考えられる。
【0005】
上述したモールドパターンの破壊を避けるために、表面エネルギーの小さいフッ素ポリマーを離型剤としてモールド表面に形成し、モールドと樹脂との離型性を向上させる方法が提案されている(非特許文献2参照)。
【0006】
一方、フォトリソグラフィや電子線リソグラフィに用いられるレジスト材料において、より高感度のレジスト材料として、化学増幅型レジストが提案されている(特許文献2参照)。ポジ型化学増幅型レジストの場合、一般的には、アルカリ可溶性樹脂と、溶解抑止剤(または、前記樹脂に導入されたアルカリ不溶性保護基)と、酸発生剤とを含有する組成物である。未露光の状態では溶解抑止剤がアルカリ可溶性樹脂の溶解性を抑えているが、露光によって酸発生剤が酸を発生し、前記酸が溶解抑止剤を分解する。
【0007】
ポジ型化学増幅型レジストを用いた場合、裾引き(フッティング)という現象が起こり、パターン不良となることが知られている。このような裾引きが起こる原因としては、酸発生剤から発生した酸が失活することが挙げられ、具体的には、(1)基板を塩基性化合物の雰囲気に曝すこと(特許文献3参照)、(2)HMDS処理によって発生するアンモニアが基板表面に残存すること(特許文献4参照)、(3)孤立電子対を有する原子が基板表面に存在すること(特許文献5参照)、(4)レジスト直下の下地が荒れた状態であること(特許文献6参照)、等がある。上述した文献では、いずれも裾引き現象を抑制するために様々な方法が提案されている。
【特許文献1】特開2000−194142号公報
【特許文献2】特開平6−27673号公報
【特許文献3】特開平7−245252号公報
【特許文献4】特開平9−218516号公報
【特許文献5】特開平10−69097号公報
【特許文献6】特開2006−287236号公報
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.、vol.67、1995年、P 3314
【非特許文献2】「ナノインプリント技術徹底解説」、Electric Journal、2004年11月22日、P20−38
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のようにモールド表面に離型層を形成し、樹脂との付着力を下げたとしても、付着力が完全にゼロにはならない。特に、高アスペクト比(パターン深さ/パターン幅の値が大きい)のパターンでは、モールドの溝とそこに充填された樹脂の接触面積が大きくなるため、付着力がモールド材料の破壊応力を上回ると、モールドパターンの破壊が生じる。例えば、図2(a)に示すように、アスペクト比が異なるパターンを有するモールドでインプリントした場合、図2(b)に示すように高アスペクト比のパターンほど、離型時にモールドが破壊し、樹脂にモールドの凸部が突き刺さったまま取り残されてしまう。この現象は、光インプリントでも熱インプリントでも見られる現象であるが、概ねアスペクト比が3以上で顕著になる。
【0009】
このようなモールドパターンの破壊は、転写パターンの欠陥となってしまい、モールドパターンに忠実な転写パターンを得ることが出来ない。また、パターンの欠けたモールドは、モールドパターンの欠陥となるため、その後、繰り返しインプリントに用いることが出来ないという問題がある。
【0010】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたもので、インプリント法において、モールドパターン破壊を低減するインプリントモールドおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討を重ね、数値シミュレーション及び実験結果から、図3に示すように、モールド離型時のモールドパターンの破壊は、モールドパターン内部のコーナー付近(応力集中箇所4)に、応力が集中するため発生することを見出した。
【0012】
上述の知見より、モールドパターン内部のコーナー付近に応力が集中することを防ぐインプリントモールドとして、凹凸パターンにおける凹部の角がラウンド形状であることを特徴とするインプリントモールドを提案する。また、ポジ型化学増幅型レジストの裾引き現象を積極的に活用し、凹凸パターンにおける凹部の角がラウンド形状であるインプリントモールドを製造する方法も併せて提案する。
【0013】
請求項1に記載の本発明は、基板上に凹凸パターンが形成され、前記基板の少なくとも表面が酸失活性を有し、前記凹凸パターンにおける凹部の角がラウンド形状であることを特徴とするインプリントモールドである。
なお、本明細書において、「酸失活性」とは、酸(プロトン:H)をトラップし、酸触媒としての機能を失活させる性質と定義する。
【0014】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載のインプリントモールドであって、凹凸パターンに、アスペクト比が3以上のパターンを含むことを特徴とするインプリントモールドである。
【0015】
請求項3に記載の本発明は、基板上に凹凸パターンが形成されたインプリントモールドの製造方法であって、少なくとも基板表面を、酸失活性を有した表面に処理する工程と、前記基板上に、ポジ型化学増幅レジストを塗布する工程と、前記ポジ型化学増幅レジストのパターニングを行う工程と、パターニングを行った前記ポジ型化学増幅レジスト側から、基板にエッチング処理を行う工程とを備えたことを特徴とするインプリントモールド製造方法である。
【0016】
請求項4に記載の本発明は、請求項3に記載のインプリントモールド製造方法であって、基板が多層基板であることを特徴とするインプリントモールド製造方法である。
【0017】
請求項5に記載の本発明は、請求項3または4のいずれかに記載のインプリントモールド製造方法であって、酸失活性を有した表面に処理する工程は、塩基性化合物を含む環境下に基板を暴露する工程であることを特徴とするインプリントモールド製造方法である。
【0018】
請求項6に記載の本発明は、請求項3または4のいずれかに記載のインプリントモールド製造方法であって、酸失活性を有した表面に処理する工程は、孤立電子対を有する原子を基板表面にドープする工程であることを特徴とするインプリントモールド製造方法である。
【0019】
請求項7に記載の本発明は、請求項3または4のいずれかに記載のインプリントモールド製造方法であって、酸失活性を有した表面に処理する工程は、基板表面に空孔を有するポーラス膜を形成する工程であることを特徴とするインプリントモールド製造方法である。
【0020】
請求項8に記載の本発明は、請求項3または4のいずれかに記載のインプリントモールド製造方法であって、酸失活性を有した表面に処理する工程は、基板表面に空孔を有するポーラス膜を形成する工程であることを特徴とするインプリントモールド製造方法である。
なお、本明細書において、「ポーラス膜」とは、空孔すなわち膜表面の凹部中に、酸をトラップし、酸を失活させる機能を示す膜であり、表面状態が荒れた膜をも含むものとして定義する。
【発明の効果】
【0021】
本発明のインプリントモールドは、凹凸状パターンの少なくとも凹部の角をラウンド形状にしたことを特徴とすることにより、インプリントにおけるモールド離型時に、モールド材料中の応力集中を緩和することが出来る。このため、モールドパターンの破壊を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明のインプリント用モールドについて、説明を行う(図4)。
【0023】
本発明のインプリントモールドは、
基板上に凹凸パターンが形成され、
前記基板の少なくとも表面が酸失活性を有し、
凹凸パターンにおける凹部の角がラウンド形状であること
を特徴とするインプリントモールドである。
【0024】
本発明のインプリントモールドは、凹凸状パターンの少なくとも凹部の角をラウンド形状とすることにより、インプリントにおけるモールド離型時に、モールド材料中の応力集中を緩和することが出来る。このため、モールドのパターン破壊を低減することが可能となる。特に、高アスペクト比のパターン転写であってもモールドパターン破壊を低減することが可能となる。よって、転写パターン欠陥の低減、モールドの長寿命化も可能となり、インプリント法における良好な転写パターン形成と大幅なコストダウンが期待出来る。
【0025】
基板に用いる基板材料としては、特に限定されず、例えば、基板材料として、シリコン、酸化シリコン、炭化シリコン、ニッケル、アルミ、アルミナ、チタン、クロム、石英ガラス、珪ホウ酸ガラス、ダイヤモンドなどを用いても良い。このため、本発明のインプリントモールドは、特定のインプリント法に限定されず、熱可塑性樹脂にパターン転写する熱インプリント法、光硬化性樹脂にパターン転写する光インプリント法、熱や光を必要としないHSQ(Hydrogen Silses Quioxane)にパターン転写する室温インプリント法、金属やガラスへ直接パターン転写する直接インプリント法など、それぞれに適する基板材料を選択することが出来る。
【0026】
このとき、少なくとも基板表面が酸失活性を示すように、表面処理が為されている。これにより、後述するポジ型化学増幅レジストのパターニングを行う工程において、ポジ型化学増幅レジスト内の酸発生剤から発生した酸を失活させ、レジストパターンに裾引きを起こすことが出来る。
【0027】
また、酸失活性を示す基板材料で構成された基板を用いることが好ましい。酸失活性を示す材料で構成されることで、後述する表面処理の工程を簡略化することが出来る。酸失活性を示す材料としては、例えば、CrN、AlN、TiN、SiN、BPSG、SOGなど、孤立電子対を有する原子を含む材料などが挙げられる。
【0028】
以下、本発明のインプリントモールド製造方法について図5〜10を用いて説明を行う。
【0029】
本発明のインプリントモールド製造方法は、
少なくとも基板表面を、酸失活性を有した表面に処理する工程と、
前記基板上に、ポジ型化学増幅レジストを塗布する工程と、
前記ポジ型化学増幅レジストのパターニングを行う工程と、
パターニングを行った前記ポジ型化学増幅レジスト側から、基板にエッチング処理を行う工程と
を備えたことを特徴とする(図5)。
【0030】
<酸失活性を有した表面に処理する工程>
まず、基板を用意し(図5(a))、少なくとも基板表面を、酸失活性を有した表面に処理する(図5(b))。
【0031】
このとき、基板として、前述した基板材料を積層した多層基板を用いても良い。多層基板を用いることで、後述するエッチングを行う工程において、酸失活性を示す層をエッチングすることにより、モールド表面が酸失活性を示さないインプリントモールドを製造することが出来る。例えば、多層基板として、石英上にCrが積層された多層基板を用いても良い。
【0032】
また、基板が前述した酸失活性を示す基板材料で構成されている場合、基板表面を、酸失活性を有した表面に処理する工程を省略しても良い。
【0033】
また、酸失活性を有した表面に処理する工程として、多層基板の最表面が酸失活性を示す基板材料で構成されるように、基板最表面に酸失活性を示す基板材料の層を形成しても良い(図6)。
【0034】
多層基板の最表面が酸失活性を示す基板材料で構成されている場合、酸失活性を示す基板材料の層の膜厚により、後述するレジストパターンの裾引き形状が制御可能となる。
【0035】
酸失活性を示す基板材料の層形成としては、均一な膜厚形成が出来ればよく、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)、PVD(Physical Vapor Deposition)、コーティング法、電気めっき法などを用いて良い。図6には一例として、CVDを用いた場合の図を示す。
【0036】
また、酸失活性を有した表面に処理する工程は、基板を、塩基性化合物を含む環境下に暴露する工程であることが好ましい(図7)。ここで、塩基性化合物とは、酸を失活させる化合物のことであり、例えば、アンモニア、アミンなどが挙げられる。
【0037】
このとき、塩基性化合物の濃度と暴露時間によって、基板表面に付着する塩基性化合物の量が決定するため、塩基性化合物の濃度と暴露時間によって、後述するレジストパターンの裾引き形状が制御可能となる。
【0038】
また、酸失活性を有した表面に処理する工程は、基板表面にHMDS処理を行う工程であることが好ましい(図8)。
【0039】
HMDS処理とは、基板とレジストの密着性を向上させるために行う表面処理であり、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)を塗布する処理である。HMDSは基板表面付近で加水分解反応を起こし、OH基の水素原子がトリメチルシリル基(Si(CH)に置換されて、基板表面はOH基の濃度が高い親水性の状態から疎水性の状態に変化する。これにより、基板とレジストの密着性を向上させることが出来る。また、同時にHMDSの加水分解によってアンモニア(NH)が発生し、これにより酸を失活させることが出来る。
【0040】
また、酸失活性を有した表面に処理する工程は、孤立電子対を有する原子を基板表面にドープする工程であることが好ましい(図9)。基板表面付近に孤立電子対を有する原子が存在すると、酸はこれらの原子にトラップされ、酸は失活することになる。孤立電子対を有する原子としては、例えば、窒素原子、ボロン原子、リン原子などが挙げられる。
【0041】
このとき、ドープする方法としては、例えば、イオン注入装置、イオン拡散装置などを用いても良い。基板表面の孤立電子対を有する原子の濃度により、後述するレジストパターンの裾引き形状が制御可能となる。
【0042】
また、酸失活性を有した表面に処理する工程は、基板表面に空孔を有するポーラス膜を形成する工程であることが好ましい(図10)。ここで、ポーラス膜とは、空孔すなわち膜表面の凹部中に、酸をトラップし、酸を失活させる機能を示す膜であり、表面状態が荒れた膜をも含むものとする。レジスト直下の下地が荒れた状態であることで、酸を失活させることが出来る。
【0043】
このとき、ポーラス膜の形成方法としては、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)、スパッタリング法、蒸着法などを用いても良い。成膜中の基板温度を低くしたり、成膜中に希ガスを導入したりすることでポーラス膜を形成することが出来る。
【0044】
<基板上に、ポジ型化学増幅レジストを塗布する工程>
<ポジ型化学増幅レジストのパターニングを行う工程>
次に、酸失活性を示す基板表面にポジ型化学増幅レジストを塗布し(図5(c))、ポジ型化学増幅レジストのパターニングを行う(図5(d))。
【0045】
一般的に、ポジ型化学増幅レジストは、アルカリ可溶性樹脂、酸発生剤(PAG:photochemical acid generator)および溶媒を含有する組成物であり、反応の経路によって脱保護反応タイプや解重合タイプなど、様々なものが提案されている。
ポジ型化学増幅レジストのパターン形成は、図11に示すように、基板上(図11(a))へのレジストコート(図11(b))、電子ビームや光による所望のパターン露光(図11(c))、露光後ベーク(PEB:Post Exposure Bake)(図11(d))、および現像(図11(e))という工程により行われる。
【0046】
電子ビームや光による所望のパターン露光において、露光光によってレジスト中の酸発生剤から酸(プロトン:H)を発生し、露光後ベーク(PEB)によって酸が拡散し、酸が触媒(もしくは開始剤)となって、露光部の分子構造を変える。酸は、一つの反応で消費されることなく、連続して次の反応に使用される。このように、酸の拡散と増幅が行われるために、従来のポジ型レジストと比べ、ポジ型化学増幅レジストは、感度が飛躍的に大きいものとなる。最終的に、アルカリ現像液でウェット処理することによってレジストの露光領域のみを溶解・除去し、所望のパターンを形成することが出来る。
【0047】
このとき、反応の触媒となる酸が失活すると、パターンの溶解性が著しく低下することが知られている。つまり、何らかの理由で、レジスト中に酸の濃度勾配が存在すると、低濃度の部分で溶解性が低下する。
【0048】
本発明のインプリントモールド製造方法では、酸失活性を示す基板表面にポジ型化学増幅レジストを塗布し、パターニングを行う。これにより、基板表面において酸が失活し、酸の濃度勾配が生まれ、レジストパターンが裾引き形状となる。よって、後述するエッチング処理を行う工程において、裾引き形状を有したレジストパターンをエッチングマスクとして、基板に、異方性エッチングを行うことで、レジストパターンの裾引き形状を反映した凹凸パターン形状を形成することが出来る。このため、凹凸パターンにおける凹部の角がラウンド形状であるインプリントモールドを製造することが可能となる。
このとき、レジストパターンの裾引き形状を制御することで、製造されるインプリントモールドの凹部の角のラウンド形状を制御することが出来る。
【0049】
ポジ型化学増幅レジストとしては、酸発生剤を含むものであればよく、適宜公知のものを用いて良い。
【0050】
また、ポジ型化学増幅レジストの塗布方法としては、均一な膜厚形成が出来ればよく、適宜公知のものを用いて良い。
【0051】
また、ポジ型化学増幅レジストのパターニングとしては、選択したポジ型化学増幅レジストに応じて適宜公知の方法を用いて良い。
【0052】
<基板にエッチング処理を行う工程>
次に、裾引き形状を有したレジストパターンをエッチングマスクとして、基板に、異方性エッチングを行うことで、レジストパターンの裾引き形状を反映した凹凸パターン形状を形成する(図5(e))。
【0053】
このとき、エッチング処理は、異方性エッチング(垂直エッチング)であればよく、例えば、ドライエッチングを好適に用いることが出来る。
ドライエッチングを用いる場合、ICP型ドライエッチング装置、RIE型ドライエッチング装置、ECR型ドライエッチング装置、マイクロ波型ドライエッチング装置、並行平板型ドライエッチング装置、ヘリコン派型ドライエッチング装置などのドライエッチング装置を用いても良い。
【0054】
ドライエッチングに用いるガスとしては、選択した基板材料に応じて適宜選択して良い。例えば、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン族の原子を含むガス(CF、CHF、C、C、C、SF、Cl、BCl、HCl、HBr、I)の単体もしくは混合ガスを、基板材料に応じて用いても良い。また、エッチング形状や対レジスト選択比の調整のために、O、N、H、Ar、He等のガスを添加しても良い。
【0055】
例えば、シリコンを基板材料としドライエッチングを行う場合、フッ素、塩素、臭素などを含むガスを用いることが好ましい。
また、アルミ、クロム、及び、その酸化物、窒化物を基板材料としドライエッチングを行う場合、塩素を含むガスを用いることが好ましい。
また、SiOを含む材料を基板材料としドライエッチングを行う場合、フッ素、塩素などを含むガスを用いることが好ましい。
【0056】
また、レジストパターンが残存した状態で、エッチング処理を止めた場合、残存したレジストパターンの剥離を行ってもよい(図5(f))。
【0057】
レジストパターンの剥離方法としては、例えば、酸素プラズマアッシング、UVオゾン洗浄、硫酸を用いたRCA洗浄などを用いても良い。
【0058】
基板として多層基板を用意した場合、層数の数だけエッチング工程を繰り返しても良い。これにより、酸失活性を示す層をエッチングすることによって、モールド表面が酸失活性を示さないインプリントモールドを製造することが出来る。例えば、石英上にCrが積層された多層基板の場合、Crのドライエッチングを実施した後に、石英のドライエッチングを行うことで、レジストパターンの裾引き形状を、最終的な石英上の凹凸パターンの凹部の角のラウンド形状として、反映することが出来る。
【0059】
以上より、本発明のインプリントモールドを製造することが出来る。
また、本発明のポジ型化学増幅レジストの裾引き現象を活用したインプリントモールド製造方法を実施することが出来る。
【実施例】
【0060】
<実施例1>
熱インプリント用のインプリントモールドとして、Siモールドを製造した。インプリントモールドの製造方法を図5に示す。
【0061】
まず、インプリントモールドの基板として、4インチシリコンウェハを用意した(図5(a))。
【0062】
次に、基板表面を酸失活性に処理する工程として、アンモニア暴露試験装置(リソテック社製)にて、シリコンウェハをアンモニア環境に曝し、表面にアンモニア層を形成した(図5(b))。
ここで、アンモニア暴露試験装置は、導入するNとNHの混合比によって、アンモニア濃度を0.2〜50ppbでコントロールできる。本実施例では、裾引き形状を得るために、比較的高い濃度の30ppbとした。
【0063】
次に、シリコンウェハに、ポジ型化学増幅レジスト(FEP171/富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ社製)を500nm厚コートし(図5(c))、電子線描画装置(日本電子製)を用いて、ポジ型化学増幅レジストに、100〜400nmのテストラインパターン描画し、ベーク(PEB)とアルカリ現像により裾引き形状を有するレジストパターンを形成した(図5(d))。このときの条件は、描画時のドーズを10μC/cm、現像時間を1分とした。
【0064】
次に、ICPドライエッチング装置を用いた異方性ドライエッチングによって、基板上に、深さ1000nmの凹凸パターンを形成した(図5(e))。異方性エッチングの条件は、Cl流量30sccm、O流量5sccm、Ar流量80sccm、圧力2Pa、ICPパワー400W、RIEパワー130Wとした。
【0065】
次に、Oプラズマアッシング(条件:O流量500sccm、圧力30Pa、RFパワー1000W)によってレジストを剥離し、Siモールドを製造した(図5(f))。
【0066】
<実施例2>
実施例1と同様にSiモールドを製造した。ただし、基板表面を酸失活性に処理する工程として、イオン注入装置(アルバック社製)により、イオン化した窒素原子をドープした。イオン注入条件は、加速電圧10kV、イオン電流5mAとし、最終的なドーズ量を5x10の12乗 個/cmとした。
【0067】
<実施例3>
実施例1と同様にSiモールドを製造した。ただし、基板表面を酸失活性に処理する工程として、塩基性の基板材料であるSiNからなる層を形成した。このとき、プラズマCVD装置(アネルバ社製)により、SiN層を10nm厚形成した。成膜条件は、導入ガスSiH/H/NH、基板温度400度、RFパワー500Wとした。
【0068】
<実施例4>
実施例1と同様にSiモールドを製造した。ただし、基板表面を酸失活性に処理する工程として、基板表面上にポーラス膜を成膜した。このとき、基板表面に、高周波マクネトロンスパッタリング装置(アルバック社製)によりポーラスシリコンの表層膜を約10nm厚で成膜した。成膜条件は、成膜時の圧力は5Paとし、基板温度は常温、RFパワー300W、成膜時間10秒とした。
【0069】
<実施例5>
実施例1から4で作成したSiモールドと、表面処理を行わずに作製したSiモールドの、凹凸パターンの底部の角の曲率半径を走査電子顕微鏡(SEM)の写真から測定した。
また、Siモールドを同一条件で熱インプリント法を実施し、モールドパターン破壊の発生するアスペクト比(パターンの深さ/パターンの開口幅の値)を調べた。
【0070】
以下、実施した熱インプリント法について図12を用いて説明する。
まず、熱インプリント前にSiモールドのパターン面には、離型剤としてフッ素系表面処理剤EGC−1720(住友スリーエム社製)を浸漬処理した(図12(a))。
次に、インプリントの対象となる転写基板として、4インチシリコン基板を用意し、シリコン基板上に熱可塑性樹脂PMMA(ポリメタクリル酸メチル)を350nm厚でコートした(図12(b))。
次に、上記Siモールドを、熱可塑性樹脂PMMAに、熱インプリントし(図12(c))、Siモールドを離型した(図12(d))。
このとき、熱インプリント条件は、基板及びモールド温度110℃、プレス圧力10MPa、保持時間1分とした。
【0071】
表1にインプリントに使用したSiモールドのパターンのアスペクト比と樹脂パターンの転写結果を示す。
【0072】
【表1】

【0073】
また、表2にはこれらのSiモールドの凹部の角の曲率半径とモールドパターン破壊の発生するアスペクト比を示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表1、表2より、実施例1〜4の処理方法にて、Siモールドの凹部の角をラウンド形状に処理したSiモールドは、角部の曲率半径がおよそ15〜135nmとなり、アスペクト比が約6まではインプリントによってモールドパターン破壊が生じないが、従来の製造方法によるSiモールドは、凹部の角の曲率半径がおよそ4nmであり、アスペクト比が約3でもインプリントでモールドパターン破壊が生じた。
【0076】
以上より、モールドパターンの凹部の角をラウンド形状にすることによって、インプリントにおけるモールド離型時に、モールド材料中の応力集中を緩和することができるため、モールドパターン破壊を低減することが示された。
【0077】
<実施例7>
基板材料として石英を用いて、実施例1〜4と同様にインプリントモールドを作製し、パターン凹部の角のラウンド形状処理を実施し、光インプリントを実施し、評価を行った。その結果、Siモールドによる熱インプリントと同様に、モールドパターン凹部の角の曲率半径が大きいほど、モールドパターン破壊がなく、高アスペクト比の樹脂パターンが転写できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のインプリント用モールドは、微細なパターン形成を必要とする広範な分野に応用可能であり、例えば、半導体集積回路、拡散板や導光板等のディスプレイ部材、ハードディスクやDVD等の高密度記録メディア、DNAチップなどのバイオチップ、回折格子やホログラムなどの光学部品、等々の様々なパターン形成に利用することが期待出来る。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】モールドを離型した際にモールドの一部が欠けて樹脂中に取り残される従来課題を示す工程断面図である。
【図2】高アスペクト比のパターンほど離型時にモールドが欠けやすいという従来課題を示す工程断面図である。
【図3】モールド離型の際にモールド材料内部の応力集中するコーナー付近を示す断面図である。
【図4】本発明のインプリント用モールドを示す断面図である。
【図5】本発明のインプリントモールド製造方法を示す工程断面図である。
【図6】基板表面の処理方法の一例を示す工程断面図である。
【図7】基板表面の処理方法の一例を示す工程断面図である。
【図8】基板表面の処理方法の一例を示す工程断面図である。
【図9】基板表面の処理方法の一例を示す工程断面図である。
【図10】基板表面の処理方法の一例を示す工程断面図である。
【図11】ポジ型化学増幅レジストのパターン形成工程を示す工程断面図である。
【図12】熱インプリント法によるパターン形成工程を示す工程断面図である。
【符号の説明】
【0080】
1……基板
2……樹脂
3……転写基板
4……応力集中箇所
5……本発明のインプリントモールド
6……ラウンド形状の凹部
7……表面処理部
8……ポジ型化学増幅レジスト
9……密閉環境
10……ポーラス膜
11……インプリントモールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に凹凸パターンが形成され、
前記基板の少なくとも表面が酸失活性を有し、
前記凹凸パターンにおける凹部の角がラウンド形状であること
を特徴とするインプリントモールド。
【請求項2】
請求項1に記載のインプリントモールドであって、
凹凸パターンに、アスペクト比が3以上のパターンを含むこと
を特徴とするインプリントモールド。
【請求項3】
基板上に凹凸パターンが形成されたインプリントモールドの製造方法であって、
少なくとも基板表面を、酸失活性を有した表面に処理する工程と、
前記基板上に、ポジ型化学増幅レジストを塗布する工程と、
前記ポジ型化学増幅レジストのパターニングを行う工程と、
パターニングを行った前記ポジ型化学増幅レジスト側から、基板にエッチング処理を行う工程と
を備えたことを特徴とするインプリントモールド製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のインプリントモールド製造方法であって、
基板が多層基板であること
を特徴とするインプリントモールド製造方法。
【請求項5】
請求項3または4のいずれかに記載のインプリントモールド製造方法であって、
酸失活性を有した表面に処理する工程は、塩基性化合物を含む環境下に基板を暴露する工程であること
を特徴とするインプリントモールド製造方法。
【請求項6】
請求項3または4のいずれかに記載のインプリントモールド製造方法であって、
酸失活性を有した表面に処理する工程は、基板表面にHMDS処理を行う工程であること
を特徴とするインプリントモールド製造方法。
【請求項7】
請求項3または4のいずれかに記載のインプリントモールド製造方法であって、
酸失活性を有した表面に処理する工程は、孤立電子対を有する原子を基板表面にドープする工程であること
を特徴とするインプリントモールド製造方法。
【請求項8】
請求項3または4のいずれかに記載のインプリントモールド製造方法であって、
酸失活性を有した表面に処理する工程は、基板表面に空孔を有するポーラス膜を形成する工程であること
を特徴とするインプリントモールド製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−142915(P2008−142915A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329345(P2006−329345)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】