説明

エッチング液およびそれを用いた半導体装置の製造方法

【課題】ゲート絶縁膜の材料としてHf酸化物系のHigh−k膜を用いるとともにゲート電極の材料として金属を用いた場合においても、High−k膜のエッチングの際のゲート電極の損傷を防ぐことが可能なエッチング液およびそれを用いた半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】TiN層31、Poly−Si層32、およびW層33からなるゲート電極30をドライエッチングで形成した後に、エッチング液を用いたウェットエッチングを行うことにより、SiO2層21およびHfSiO層22からなるゲート絶縁膜20を形成する。このエッチング液は、HF分子の解離を抑制する緩衝剤およびpH値を上げるpH調整剤を含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング液およびそれを用いた半導体装置の製造方法に関し、特に、Hf酸化物系のHigh−k膜を用いたゲート絶縁膜材料をエッチングするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスにおけるゲート絶縁膜は永らくSiO2やSiONのようなSi酸化物系の成長膜が使用されてきたが、微細化に伴い、膜の誘電率をより高める必要が出てきた。それゆえに、誘電率が高い、HfSiO(ハフニウムシリケート)やHfAlO(ハフニウムアルミネート)等のHf酸化物系の堆積膜が使用されるようになってきており、Si酸化物系の成長膜をHf酸化物系の堆積膜に置き換えたプロセスの構築が急がれている。このような目的で使用する誘電率が高い膜は、一般的にHigh−k膜(高誘電体膜)と呼ばれる。
【0003】
しかしながら、従来のようにゲート電極の材料としてPoly−Si(多結晶シリコン)を用いて、単純にゲート絶縁膜をSi酸化物系の成長膜からHf酸化物系の堆積膜に置き換えた場合には、Poly−SiとHfSiOとの界面におけるピニング(フェルミ・レベル・ピニング)やPoly−Siの空乏化等、トランジスタ特性を低下させる不具合が生じることが分かっている。この現象の正確なメカニズムは未だ十分に解明されていないが、HfとSiとが混在した組成のゲート絶縁膜がPoly−Siからなるゲート電極に接するときに顕著に現れることが分かっている。非特許文献1には、ゲート電極の材料として、Poly−Siに代えて金属(W、Ti、Ta及びその窒化物等)を用いることにより、このような不具合を解決させたトランジスタの例が開示されている。
【0004】
上記のHf酸化物系の堆積膜は、CVDで形成されるが、従来の成長膜と比較して膜密度が粗いので、トランジスタ性能のリーク電流値が上昇するという不具合があった。また堆積膜は、成長膜とは異なりガス(材料ガス)を使用して成膜を行うので、それに含まれる金属や有機物等の不純物や、成膜中の水分の存在が膜の品質を著しく低下させる要因となり、成膜技術の大きな課題となっていた。その課題の解決策の一つとして、成膜直後にPDA(Post Deposition Annealing:以下、PDAと記述)を800〜1000℃程度で行い焼き締める手法が一般的になりつつある。この手法により、膜密度を高めることができるとともに、不純物や水分をガス化して除去することができるので、上記の不具合は解決できる。
【0005】
しかしながらこの手法は、膜の品質は向上しトランジスタ特性にはよい影響を与えるが、プロセスを構築する際に新たな課題を生むことになった。その課題は、上述したような金属を材料とするメタルゲート電極をドライ法によるエッチングで形成した後に、その直下以外の不要なHigh−k膜をウェット法によりエッチング除去する際に、エッチングレートが低下することである。
【0006】
すなわち、HF(フッ化水素酸)を純水で適度に希釈した希フッ酸は、Hf(ハフニウム)を含むHigh−k膜に対して優れたエッチング特性を示すが、PDAを施した後にはHigh−k膜は、高密度に変化しているので、PDAを施す前と比較してエッチングレートが1/10程度に低下する。それゆえに、上記の不要なHigh−k膜をエッチング除去するためには、より濃度の高い希フッ酸をより長い期間適用する必要がある。
【0007】
特許文献1〜3には、Hfを含むHigh−k膜をエッチング除去する手法の例が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2005−57276号公報
【特許文献2】特開2004−363502号公報
【特許文献3】特開2004−303795号公報
【非特許文献1】芝原健太郎,「ゲート・スタック−メタルとhigh−kの組み合わせを議論」,日経マイクロデバイス,平成17年2月,p.62−65
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のようにゲート電極の材料としてPoly−Siのみを用いていた場合には、濃度の高い希フッ酸を適用しても問題はないが、ゲート電極の材料として金属を用いる場合には、その金属がフッ酸への耐性が低いものである場合には、濃度の高い希フッ酸によりゲート電極がアタックされる。従って、特許文献1〜3には開示されていないが、ゲート電極の側面がサイドエッチされてしまうという問題点があった。
【0010】
本発明はこれらの問題点を解決するためになされたものであり、ゲート絶縁膜の材料としてHf酸化物系のHigh−k膜を用いるとともにゲート電極の材料として金属を用いた場合においても、High−k膜のエッチングの際のゲート電極の損傷を防ぐことが可能なエッチング液およびそれを用いた半導体装置の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るエッチング液は、HF分子を所定の希釈液で希釈させたエッチング液であって、HF分子の希釈液中での解離を抑制する緩衝剤と、pH値を調整するpH調整剤と
を希釈液に添加した。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るエッチング液は、HF分子を所定の希釈液で希釈させたエッチング液であって、HF分子の希釈液中での解離を抑制する緩衝剤と、pH値を調整するpH調整剤と
を希釈液に添加した。従って、ゲート電極が損傷されることを防ぐことができる。また、HF分子を温存しゲート絶縁膜用材料のエッチングを促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1に係るエッチング液を用いたエッチングを示す断面図である。図1(a)には実施の形態1に係るエッチング液を用いてエッチングされた半導体装置が示されている。図1(b)には従来のエッチング液を用いてエッチングされた半導体装置が比較用に示されている。図1(c)には、エッチングの一工程が示されている。
【0014】
図1(a),(b)において、Si基板10(半導体基板)上には、SiO2層21、HfSiO層22、TiN層31、Poly−Si(多結晶シリコン)層32、およびW層33がこの順に積層されている。SiO2層21およびHfSiO層22はゲート絶縁膜20を構成し、TiN層31、Poly−Si層32、およびW層33はゲート電極30を構成している。Si基板10上主面内には、STI(Shallow Trench Isolation:シャロートレンチ分離)−SiO2層11が形成されている。
【0015】
図1(c)に示されるように、Si基板10上に、SiO2層21、HfSiO層22、TiN層31、Poly−Si層32、およびW層33をこの順に積層した後に、所望の形状を有するレジスト40をW層33上に形成する。そして、レジスト40をマスクとして、TiN層31、Poly−Si層32、およびW層33からなる金属層にドライエッチングを行うことにより、ゲート電極30を形成する。そして、レジスト40を除去した後、ゲート電極30をマスクとして、SiO2層21およびHfSiO層22からなる高誘電体膜(High−k膜)に、エッチング液を用いたウェットエッチングを行うことにより、ゲート絶縁膜20を形成する。これにより、図1(a)〜(b)に示されるような半導体装置が形成される。
【0016】
以下、本実施の形態に係るエッチング液の組成について詳細に説明する。
【0017】
希釈フッ酸は、半導体デバイスの製造工程において従来より用いられている薬液であり、所定の希釈液で適度な濃度に希釈して主にSiO2のウェットエッチングに適用されてきた。希釈フッ酸は、新たに導入が検討されているHigh−k材料のHfSiOやHfAlO等に対しても優れたエッチング特性を持ち合わせており適用が可能である。上記の希釈液として純水を用いる場合、HF分子は、下記の式(1)に示されるように、H+イオンとF-イオンとに解離する。
【0018】
【数1】

【0019】
上記の式(1)における解離定数K1は、下記の式(2)で表される。
【0020】
【数2】

【0021】
また、上記の式(1)で生成されたF-は、HFと結合することにより、下記の式(3)に示されるように、HF2-を生成する。
【0022】
【数3】

【0023】
上記の式(3)における解離定数K2は、下記の式(4)で表される。
【0024】
【数4】

【0025】
すなわち、純水中では、HF分子は解離して、F-イオンやHF2-イオンを生成する。従来から知られた、SiO2をエッチングする機能は、このHF2-イオンによるものであり、例えば無水HFガスのようなHF分子の状態では、SiO2をエッチングすることはできない。
【0026】
また、HF2-イオンが生成されることにより、pH値が下がり酸性を示すこととなるので、多くの金属の腐食領域を作ることとなる。金属とSiO2とではエッチングメカニズムは若干異なっている(例えば酸性領域においては、金属は硫酸に腐食されるがSiO2は硫酸には腐食されない)が、HF2-イオンの存在下でエッチングが進行する現象は共通している。よって、ゲート電極30のサイドエッチを低減するためには、HF2-イオンの生成を抑制するとともに、希釈フッ酸を含むエッチング液のpH値をゲート電極30の材料となる金属種の腐食領域外となるように上げることが必要となる。
【0027】
ゲート絶縁膜20のエッチングにおいては、ゲート絶縁膜20がSiO2を含むときにはSiO2に存在するSi−Oボンドが切断され、ゲート絶縁膜20がHfSiOを含むときにはHfSiOに存在するHf−OボンドまたはSi−Oボンドが切断される。すなわち、HfSiOにおいては、Hf−OボンドおよびSi−Oボンドの二種類のボンドが存在するので、いずれか一方のボンドのみを切断することによってもエッチングは行われる。また、これら二種類のボンドのうち、Hf−Oについては、HF分子の状態でも切断が可能である。すなわち、希釈フッ酸中において、式(1)に示されるようなHF分子の解離を抑制することにより、ゲート絶縁膜20中のHf−OボンドをアタックするHF分子をより多く温存するとともに、式(3)に示されるようなゲート電極30中の金属をアタックするHF2-イオンを低減することが可能となる。従って、ゲート電極30のサイドエッチを低減しつつHfSiO層22のエッチングを促進することが可能となる。なお、HF2-イオンを低減することにより、Si−Oボンドへのアタックが抑制されるので、後述するように、Si基板上主面内に形成されたSTI−SiO2層がえぐれることを防ぐことができる。
【0028】
本実施の形態においては、上記のような反応特性を実現するために、エッチング液に次のような二種類の添加剤を含有させることを特徴とする。
【0029】
一つは、HF分子の解離を抑制する緩衝剤である。緩衝剤を含有させることにより、HF分子を温存しHfSiO層22のエッチングを促進するとともに、HF2-イオンを低減しゲート電極30のサイドエッチを抑制することが可能となる。
【0030】
もう一つは、エッチング液のpH値を上げるpH調整剤である。pH値を上げることにより、ゲート電極30の材料となる金属種の腐食を防ぐことが可能となる。
【0031】
図1(a)に示されるように、本実施の形態に係るエッチング液によれば、TiN層31がサイドエッチされたりSTI−SiO2層11がえぐれたりすることはない。一方、図1(b)に示されるように、従来のエッチング液によれば、腐食でTiN層31がサイドエッチされるとともに、HF2-イオンによるSi−OボンドへのアタックでSTI−SiO2層11がえぐれている。
【0032】
このように本実施の形態に係るエッチング液は、HF分子の解離を抑制する緩衝剤および、ゲート電極30の材料となる金属種の腐食領域外にpH値を調整するpH調整剤を含有する。従って、ゲート絶縁膜20の材料としてHf酸化物系のHigh−k膜(HfSiO層22)を用いるとともにゲート電極30の材料として金属(TiN層31等)を用いた半導体装置を製造する場合においても、HF2-イオンによりpH値が上がりゲート電極が損傷(サイドエッチ)されることを防ぐことができる。また、HF分子を温存しHigh−k膜のエッチングを促進することができる。さらに、HF2-イオンによるSi−OボンドへのアタックでSTI−SiO2層11がえぐれることを防ぐことができる。
【0033】
なお、上述においては、ゲート電極30が、酸性領域において腐食されるTiN31層を含む場合に、エッチング液において、pH値を上げることによりTiN層31の腐食領域外となるようにする例について説明した。しかし、これに限らず、例えばゲート電極が、アルカリ性領域において腐食されるAl等を含む場合には、エッチング液において、pH値を下げることによりAl等の腐食領域外となるようにしてもよい。
【0034】
<実施の形態2>
実施の形態1においては、緩衝剤でHF分子の解離を抑制することにより、Hf−OボンドをアタックするHF分子を温存し、HfSiO層22のエッチングを促進している。しかし、Hf−Oボンドへのアタックは、HF分子によるもののみでは必ずしも十分ではない場合がある。この場合には、HfSiO層22のエッチレートが所望のエッチレートに達さないこととなる。
【0035】
実施の形態2に係るエッチング液は、エッチレートをさらに高めるため、HF分子よりHf−Oボンドをアタックする力が強い塩を生成することを特徴とする。すなわち、エッチング液に塩基性物質を含有させ、下記の式(5)に示されるように、この塩基性物質とHF分子とを反応させることにより、上記のような塩を生成させる(なお、下記の式(5)では、塩基性物質として、MOH(Mは1価のアルカリ金属とする)を用いた場合を示している)。
【0036】
【数5】

【0037】
上記の式(5)の反応においては、塩MFの生成に伴い、HF分子は消費され減少していく。しかし、Hf−Oボンドをアタックする力がHF分子より強い塩MFを生成することにより、HfSiO層22のエッチレートを高めることが可能となる。
【0038】
このように本実施の形態に係るエッチング液およびそれを用いた半導体装置の製造方法では、塩基性物質とHF分子とを反応させることにより、Hf−Oをアタックする力がHF分子より強い塩を生成させる。従って、実施の形態1の効果に加えて、HfSiO層22のエッチレートをさらに高めることができるという効果を奏する。
【0039】
なお、上述においては、Hf−Oボンドをアタックする力がHF分子より強い塩MFを生成することでHfSiO層22のエッチレートを高める場合について説明したが、これに限らず、Hf−Oボンドをアタックする力がHF分子より弱い塩MFを生成することでHfSiO層22のエッチレートを低くしてもよい。すなわち、Hf−Oボンドをアタックする力がHF分子とは異なる塩MFを生成することにより、エッチレートを所望の値に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施の形態1に係るエッチング液を用いたエッチングを示す模式図である。
【符号の説明】
【0041】
10 Si基板、11 STI−SiO2層、20 ゲート絶縁膜、21 SiO2層、22 HfSiO層、30 ゲート電極、31 TiN層、32 Poly−Si層、33 W層、40 レジスト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HF分子を所定の希釈液で希釈させたエッチング液であって、
前記HF分子の前記希釈液中での解離を抑制する緩衝剤と、
pH値を調整するpH調整剤と
を前記希釈液に添加したエッチング液。
【請求項2】
請求項1に記載のエッチング液であって、
Hf−Oボンドを切断するための塩を前記HF分子と反応することにより生成する塩基性物質
をさらに前記希釈液に添加したエッチング液。
【請求項3】
半導体基板上に高誘電体膜および金属層を順次に積層する工程と、
所定のマスクを用いて前記金属層をエッチングしゲート電極を形成する工程と、
請求項1又は請求項2に記載のエッチング液を用い前記ゲート電極をマスクとして前記高誘電体膜をエッチングしゲート絶縁膜を形成する工程と
を備える半導体装置の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−115732(P2007−115732A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302593(P2005−302593)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【Fターム(参考)】