説明

エポキシ樹脂系組成物及びエポキシ樹脂系薄膜

【課題】高いガラス転移温度(Tg)を有し、かつ耐熱黄変性に優れるエポキシ樹脂系薄膜、このような薄膜を形成できるエポキシ樹脂系組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂と、酸無水物系硬化剤と、下記一般式(1)


[式中、R〜Rは、同一又は異なって、フェニル基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数5〜12のシクロアルキル基を示し、Xは炭素数10〜16の脂肪族モノカルボン酸のアニオン残基を示す。]で表される化合物とを含むエポキシ樹脂系組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体パッケージや発光素子の薄膜封止材、液晶表示装置のような表示装置の表面コーティング等を形成するのに用いられるエポキシ樹脂系組成物、この組成物を硬化させてなるエポキシ樹脂系薄膜、この薄膜で封止された発光素子、エポキシ樹脂系薄膜の形成方法、及びエポキシ樹脂系薄膜の黄変防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、デジタルカメラ、ノート型パソコン等の携帯型電子機器の発展等に代表されるように、半導体素子(トランジスタ・電界効果トランジスタ(FET)、サイリスタ(SCR)、ダイオード(整流器)・光半導体(フォトカプラ・発光ダイオード(LED)・フォトインタラプタ等)等の電子部品は、高密度化、高集積化に伴って、小型化、薄型化の傾向にある。半導体素子を組み合わせた半導体パッケージに関しては、実装面積をとらずに高集積できる手法として、BGA(ボール・グリッド・アレー)、CSP(チップ・サイズ・パッケージ)、COG(チップ・オン・グラス)、COB(チップ・オン・ボード)、MCM(マルチ・チップ・モジュール)、LGA(ランド・グリッド・アレイ)等の手法が開発されている。また、LED光半導体に関しても面実装が可能なチップタイプが開発されている。
【0003】
これらの半導体素子は、それ自身の発熱が大きいため、樹脂封止材としては、作業性、硬化物の電気的特性、機械的特性、接着性、耐水性、耐溶剤性だけでなく、耐熱性にも優れている必要があり、通常、液状エポキシ樹脂が使用される。
【0004】
このような液状エポキシ樹脂の硬化剤としては、粘度が低いために作業性に優れ、多量の充填材が配合できるとともに、電気的特性、機械的特性、耐熱性に優れることから、液状の酸無水物が多用されている。用途に応じてその種類が適宜選択される。例えば、半導体パッケージのエポキシ樹脂封止材用の酸無水物硬化剤としては、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、トリアルキル無水テトラヒドロ無水フタル酸等が使用される。また、チップタイプのLED、光半導体の封止材は透明性が要求されることから、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸のような二重結合を持たない酸無水物が使用される。
【0005】
封止材は、通常、素子が基板上にベア・チップ実装されたのち、ディスペンサー方式や、常圧スクリーン印刷又は真空スクリーン印刷方式で薄膜状(例えば2mm以下)に塗布されたり、ポッティングされたり、半導体素子と基板の隙間に含浸されたりする。さらに、通常は所定期間貯蔵された後に、硬化炉にて硬化が行われる。
【0006】
しかし、従来の酸無水物硬化剤を用いた液状エポキシ樹脂系組成物を硬化させて薄膜とする場合、硬化物のガラス転移温度(Tg)の低下や、クラック発生等の難点がある。また、無色透明性が求められる場合は、高温及び高エネルギーの光照射条件下での黄変(以下「黄変」又は「熱黄変」という)が問題となる。そのため、酸無水物硬化剤を用いたエポキシ樹脂系薄膜を使用できる用途は黄変ないし熱黄変が影響を与えない用途(赤色LED等)に限られており、黄変ないし熱黄変が品質に影響を及ぼす用途(青色や白色LED等)への使用は困難であった。
【0007】
これらの問題を解決するために、不純物の量を特定量以下にしたメチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、又はメチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物とノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物の混合物を硬化剤とするエポキシ樹脂系組成物が提案されている(特許文献1)。しかし、このエポキシ樹脂系組成物は硬化促進剤がイミダゾール系であるためか、初期透明性(即ち、硬化直後のイエローインデックスの値が低く、無色透明であること)や耐熱黄変性(即ち、上記黄変ないし熱黄変を抑制する性質)の点で更に改善が求められている。
【0008】
一方、DBU(1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7)類硬化促進剤やアンモニウム塩系硬化促進剤は硬化性が良い事からLED用途等に広く使用されている。しかし、これらの硬化促進剤を用いたエポキシ樹脂硬化物は、初期無色透明性には比較的に優れるが、耐熱黄変性が悪いと言う難点がある(後述の比較例9及び10参照)。
【0009】
特許文献2は、硬化剤として酸無水物を含み、硬化促進剤としてテトラブチルホスホニウムオクテートを含む液状エポキシ樹脂系組成物は、封止材として用いたときに透明性に優れることを開示している。しかし、この組成物を用いて得られる硬化物(特に薄膜)は、Tgの低下が少ないが、耐熱黄変性の点で必ずしも満足できるものではない(後述の比較例1参照)。
【0010】
また、特許文献3は、硬化剤として酸無水物、硬化促進剤としてテトラアルキルホスホニウムカルボン酸塩を含む光半導体封止用エポキシ樹脂系組成物は無色透明性に優れることを開示しており、特に、好ましいカルボン酸塩として酢酸塩が例示されている。しかし、この酢酸塩をエポキシ樹脂の硬化促進剤として用いて得られる硬化物(特に薄膜)は、Tgの低下が少ないが、耐熱黄変性の改善が必ずしも満足できるものではない(後述の比較例2参照)。
【0011】
また、特許文献4は、硬化剤として酸無水物、硬化促進剤として4級ホスホニウム塩を含む積層板用エポキシ樹脂系組成物は硬化速度が速く成形性に優れることを開示している。該4級ホスホニウム塩のうち、脂肪族モノカルボン酸塩としては、酢酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩が例示されている。しかし、これら酢酸塩、プロピオン酸塩をエポキシ樹脂の硬化促進剤として用いて得られる硬化物、特に薄膜はTgの低下は少ないが、耐熱黄変性が必ずしも満足できるものではなく(後述の比較例2参照)、一方、ステアリン酸塩をエポキシ樹脂の硬化促進剤として用いて得られる硬化物、特に薄膜は、耐熱黄変性は良好であるが、Tgの低下が大きく(後述の比較例6参照)、共に更なる改善が求められる。
【0012】
また、特許文献5には、炭素数8〜18のカルボン酸を含む4級ホスホニウムカルボン酸塩は、エポキシ樹脂の硬化剤および硬化促進剤、難燃剤等として有用であることが開示されている。しかし、同文献は、これらのカルボン酸塩自体及びその製造法を開示するに止まり、エポキシ樹脂との配合物は記載されていない。
【特許文献1】特開2003−2951号公報(請求項1等参照)
【特許文献2】特開平7−196774号公報(請求項1等参照)
【特許文献3】特開2005−325178号公報(段落0021等参照)
【特許文献4】特開平11−158251号公報(段落0015等参照)
【特許文献5】特開昭62−87595号公報(請求項1、表1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、高いガラス転移温度(Tg)を有し、かつ耐熱黄変性に優れるエポキシ樹脂系薄膜、このような薄膜を形成できるエポキシ樹脂系組成物を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討を重ね、次の知見を得た。
【0015】
(i)エポキシ樹脂系組成物による薄膜形成は通常高温で行われるところ、高温では硬化剤の酸無水物が揮発するため、硬化不良を生じて硬化物のガラス転移温度(Tg)が低くなる。実用上十分な耐劣化性及び耐湿性を備えるためには、薄膜のTgが高いことが必要である。高Tgを得るために硬化促進剤の使用量を増やすと、使用時の熱で薄膜が黄変し易くなる。例えば、ディスプレイ表面のコーティング膜とする場合や、白色発光素子の薄膜封止材にする場合には、使用中に黄変しないことが重要である。しかし、高Tgかつ耐熱黄変性に優れるエポキシ樹脂系薄膜は得られていないのが現状である。
【0016】
(ii) エポキシ樹脂と、酸無水物系硬化剤と、下記一般式(1)
【0017】
【化1】

【0018】
[式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれフェニル基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数5〜12のシクロアルキル基を示し、Xは炭素数10〜16の脂肪族モノカルボン酸のアニオン残基を示す。]
で表される化合物とを含むエポキシ樹脂系組成物は、厚さ1mm以下、特に0.4mm以下の薄膜を形成する場合にも、高いTgを有し、かつ耐熱黄変性に優れたものとなる。
【0019】
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、下記のエポキシ樹脂系組成物などを提供するものである。
【0020】
項1 (a)エポキシ樹脂、
(b)酸無水物系硬化剤、及び
(c)下記一般式(1)
【0021】
【化2】

【0022】
[式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれフェニル基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数5〜12のシクロアルキル基を示し、Xは炭素数10〜16の脂肪族モノカルボン酸のアニオン残基を示す。]
で表される化合物
を含むエポキシ樹脂系組成物。
【0023】
項2 一般式(1)で表される化合物の含有量が、エポキシ樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部である上記項1に記載の組成物。
【0024】
項3 一般式(1)において、R〜Rが炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示す上記項1又は2に記載の組成物。
【0025】
項4 一般式(1)において、Xがデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の脂肪族モノカルボン酸のアニオン残基である上記項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【0026】
項5 一般式(1)において、R〜Rの全てがブチル基である上記項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【0027】
項6 エポキシ樹脂が、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ナフタレンジオールジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、及び水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である上記項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【0028】
項7 酸無水物系硬化剤が、3−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物及び4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種である上記項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【0029】
項8 酸無水物系硬化剤の含有量が、エポキシ樹脂中のエポキシ基に対する酸無水物系硬化剤中の酸無水物基の当量比が0.9〜1.2となる量である上記項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【0030】
項9 (a)エポキシ樹脂と、(b)3−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物及び4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸無水物系硬化剤と、(c)テトラブチルホスホニウムデカン酸塩、テトラブチルホスホニウムラウリン酸塩、テトラブチルホスホニウムミリスチン酸塩及びテトラブチルホスホニウムパルミチン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物とを含み、酸無水物系硬化剤の含有量が、エポキシ樹脂中のエポキシ基に対する酸無水物系硬化剤中の酸無水物基の当量比が1〜1.1となる量であるエポキシ樹脂系組成物。
【0031】
項10 エポキシ樹脂系薄膜の黄変を防止する方法であって、エポキシ樹脂の硬化促進剤として下記一般式(1)
【0032】
【化3】

【0033】
[式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれフェニル基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数5〜12のシクロアルキル基を示し、Xは炭素数10〜16の脂肪族モノカルボン酸のアニオン残基を示す。]
で表される化合物を用いる方法。
【0034】
項11 上記項1〜9のいずれかに記載の組成物を基体上に塗布し、塗膜を硬化させて、厚さ1mm以下の薄膜を形成することを特徴とする、エポキシ樹脂系薄膜の形成方法。
【0035】
項12 上記項1〜9のいずれかに記載の組成物を硬化してなる厚さ1mm以下の薄膜。
【0036】
項13 薄膜が発光素子の封止材である上記項12に記載の薄膜。
【0037】
項14 薄膜がディスプレイ用コーティング材である上記項12に記載の薄膜。
【0038】
項15 上記項12に記載の薄膜で封止された発光素子。
【発明の効果】
【0039】
本発明の組成物は、エポキシ樹脂と酸無水物硬化剤と硬化促進剤とを含む組成物であって、硬化促進剤に上記一般式(1)で表される化合物を含む。これにより、この組成物を硬化させて得られる薄膜は、初期透明性に優れ、熱により黄変し難く、かつ高いTgを有するものとなる。
【0040】
発光素子の封止膜や表示装置の硬質コーティング膜には、発光素子、液晶バックライト、プラズマ発光などからもたらされる熱によって黄変し難いことが求められる。本発明のエポキシ樹脂系組成物を硬化させてなる薄膜は、このような用途に好適に使用できる。例えば、白色発光ダイオードはクリアな白色光を持続させるために封止材が黄変しないことが必要であることから、黄変し易い従来のエポキシ樹脂系組成物を用いて薄膜封止することはできなかった。本発明により、エポキシ樹脂系組成物で薄膜封止した白色発光ダイオードが実現した。
【0041】
また、本発明のエポキシ樹脂系組成物は、従来の硬化促進剤を用いたエポキシ樹脂系組成物に比べて臭気が少ないため、使用し易いものである。また、上記一般式(1)で表される化合物は、低温下でも酸無水物硬化剤に溶解し易いため、エポキシ樹脂系組成物を容易に調製できるとともに、低温下で保存できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0043】
本発明のエポキシ樹脂系組成物は、基本的には、エポキシ樹脂、酸無水物系硬化剤及び上記一般式(1)で表される化合物を含む組成物である。
【0044】
エポキシ樹脂
エポキシ樹脂としては、公知のエポキシ樹脂を制限なく使用することができる。特に、エポキシ基を分子中に2個以上含有する液状のエポキシ樹脂が好ましく、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールADジグリシジルエーテル、ナフタレンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールFのジグリシジルエーテルのようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルのようなグリシジルエステル型エポキシ樹脂;3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジエポキサイドのような脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0045】
これらの中でも、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ナフタレンジオールジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、及び水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテルが好ましく、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、及び水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテルがより好ましい。これらのエポキシ樹脂を用いることにより、低粘度のエポキシ樹脂系組成物が得られ、良好な作業性が得られる。
【0046】
エポキシ樹脂は単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0047】
酸無水物系硬化剤
酸無水物系硬化剤としては、公知の酸無水物系硬化剤を制限なく使用することができる。例えば、ヘキサヒドロフタル酸無水物、3−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、1−メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、5−メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、1−メチルナジック酸無水物、5−メチルナジック酸無水物、ナジック酸無水物、フタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、3−メチルテトラヒドロフタル酸無水物、4−メチルテトラヒドロフタル酸無水物、及びドデセニルコハク酸無水物等が挙げられる。
【0048】
中でも、化合物中に二重結合を持たず、揮発し難い酸無水物である、ヘキサヒドロフタル酸無水物、3−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、1−メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、5−メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物が好ましく、3−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物がより好ましい。二重結合を有さず、揮発し難い化合物を用いることにより、高Tgを有し、かつ初期透明性、耐熱黄変性に一層優れたエポキシ樹脂系組成物が得られる。
【0049】
酸無水物系硬化剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0050】
酸無水物系硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂中のエポキシ基に対する酸無水物系硬化剤中の酸無水物基の当量比が0.9〜1.2程度となる量が好ましく、1〜1.1程度となる量がより好ましい。上記範囲であれば硬化反応が十分に進行する。また、上記範囲であれば、透明性、耐熱黄変性に優れる硬化物が得られる。
【0051】
硬化促進剤
本発明のエポキシ樹脂系組成物には、下記一般式(1)
【0052】
【化4】

【0053】
[式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれフェニル基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数5〜12のシクロアルキル基を示し、X-は炭素数10〜16の脂肪族モノカルボン酸、特に飽和脂肪族モノカルボン酸のアニオン残基を示す。]
で表される化合物が硬化促進剤として含まれる。
【0054】
一般式(1)で表される化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0055】
本発明のエポキシ樹脂系組成物は、硬化促進剤が上記一般式(1)で表される化合物であるため、高温で硬化させて薄膜を形成する場合でも、硬化剤が揮発し難く、硬化が十分に行われて高Tgを有する硬化物が得られる。また、この組成物の硬化物は初期透明性に優れ、かつ耐熱黄変性に優れる。
【0056】
さらに、上記一般式(1)で表される化合物は、一般式(1)においてXがより炭素数の小さい脂肪族モノカルボン酸のアニオン残基である化合物に比べて、エポキシ樹脂系組成物とした時の臭気が少なく、また、Xがより炭素数の大きい脂肪族モノカルボン酸のアニオン残基である化合物に比べて常温での溶解性が良く、使用し易いものである。
【0057】
一般式(1)において、R〜Rは、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましく、ブチル基であることがより好ましい。
【0058】
一般式(1)の化合物は、Xが炭素数10〜16の脂肪族モノカルボン酸アニオンであることにより、耐熱黄変性に優れ、臭気がないとともに、酸無水物への溶解性に非常に優れている。Xで表される有機酸アニオンは、特に、直鎖状のデカン酸アニオン(炭素数10)、直鎖状のラウリン酸アニオン(炭素数12)、直鎖状のミリスチン酸アニオン(炭素数14)、直鎖状のパルミチン酸アニオン(炭素数16)であることが好ましく、直鎖状のデカン酸アニオン(炭素数10)、直鎖状のラウリン酸アニオン(炭素数12)であることがより好ましい。
【0059】
一般式(1)で表される化合物の含有量は、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.1〜5重量部程度が好ましく、0.5〜2重量部程度がより好ましい。上記範囲であれば、十分な硬化速度が得られ、初期透明性、耐熱黄変性に優れる硬化物が得られる。
【0060】
その他の成分
本発明のエポキシ樹脂系組成物には、エポキシ樹脂系組成物に添加される公知の添加剤が含まれていてもよい。このような公知の添加剤として、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤のような酸化防止剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤のような紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤のような光安定剤、炭化水素系滑剤、高級脂肪酸系滑剤のような離型剤などが挙げられる。また、エポキシ樹脂以外の樹脂を含むこともできる。
【0061】
上記の添加剤、樹脂などの付加的成分を使用する場合、それらの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲とすればよく、例えば、エポキシ樹脂と硬化剤と硬化促進剤との合計100重量部に対して10重量部以下の範囲であれば含まれていてもよい。
【0062】
エポキシ樹脂系組成物
本発明のエポキシ樹脂系組成物は、前記各成分を混合することにより調製できる。好ましい調製方法として、硬化剤と硬化促進剤とを温度20〜80℃程度で撹拌混合し、得られた均質な混合物に対してエポキシ樹脂を加えて温度20℃〜80℃程度で均一に攪拌、混合する方法を挙げることができる。
【0063】
エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤の各成分は1度に添加してもよく、又は複数回に分けて少しずつ添加しても良い。酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤などのその他の成分、及びエポキシ樹脂以外の樹脂は、硬化剤と硬化促進剤との混合時、エポキシ樹脂の添加前、エポキシ樹脂の添加時、又はその後など任意の時期に添加して混合することができる。
【0064】
上記説明した本発明のエポキシ樹脂系組成物は、比較的高温で硬化させる場合にも、Tgが高く、かつ初期透明性、耐熱黄変性に優れる硬化物が得られる。従って、比較的高温で硬化させる必要がある薄膜形成に特に適したものとなる。
【0065】
エポキシ樹脂系薄膜
上記説明した本発明のエポキシ樹脂系組成物を、例えば、基体上に塗布し、塗膜を硬化させることにより、薄膜、特に、厚さ1mm以下の薄膜を形成することができる。薄膜の厚さは、好ましくは0.4mm以下程度である。また薄膜の厚さの下限値は通常0.01mm程度である。
【0066】
基体としては、特に限定されないが、例えばガラス、セラミック、アルミニウム、CCL(銅張積層板)、耐熱性高分子フィルム等が挙げられる。
【0067】
本発明のエポキシ樹脂系組成物を基体上に塗布する方法としては、従来公知の方法が特に制限されることなく採用でき、例えば、スクリーン印刷やダイコーター、コンマコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーターカーテンコーター、スプレーコーターエアーナイフコーター、リバースコーター、ディップスクイズコーター等公知の方法が例示できる。
【0068】
塗膜の硬化方法は特に限定されず、公知の方法を採用できる。硬化には、密閉式硬化炉、連続硬化が可能なトンネル炉などの従来公知の硬化装置を使用することができる。加熱は、熱風循環、赤外線加熱、高周波加熱などの従来公知の方法で行うことができる。
【0069】
硬化温度及び硬化時間は、80〜250℃程度で30秒〜15時間程度とすることができる。硬化物の内部応力を低減したい場合は、80℃〜130℃程度で0.5時間〜5時間程度の条件で前硬化した後、130〜180℃程度で0.1時間〜15時間程度の条件で後硬化することが好ましい。短時間硬化を目的とする場合は150〜250℃程度で30秒〜30分間程度の条件で硬化することが好ましい。
【0070】
特に、0.01〜1mm程度、特に0.01〜0.4mm程度の薄膜を形成する場合の硬化温度及び硬化時間は、100℃〜130℃程度で0.5〜2時間程度の条件で前硬化した後、130℃〜180℃程度で0.5〜5時間程度の条件で後硬化することが好ましい。
【0071】
なお、本発明のエポキシ樹脂系組成物は、薄膜硬化物の他、厚膜硬化物を形成するための材料として用いることもできる。例えば、本発明の組成物を封止材として使用する場合は、注型法、ポッティング法、ディッピング法、アンダフィル法、印刷法などの公知の方法で封止することができる。例えば砲弾型LED封止材のような厚膜硬化物は、上記エポキシ樹脂系組成物を砲弾型型枠に流し込み、上記方法にて硬化させることにより得ることができる。
【0072】
また、例えば面実装型LED封止材のような薄膜は、スクリーン印刷やディスペンサー方式などの方法により塗布し、上記方法にて硬化させることにより得ることができる。
【0073】
また、例えば表面コーティング材を形成する場合は、上記本発明のエポキシ樹脂系組成物を基体に上記方法で塗布した後、上記方法で硬化させることにより得ることができる。こうして得られる表面コーティング材の厚さも、通常、0.01〜1mm程度、特に0.01〜0.4mm程度とすることが望ましい。
【0074】
本発明のエポキシ樹脂系組成物を硬化させて得られる上記薄膜硬化物は、Tgが高く、初期透明性に優れ、耐熱黄変性に優れる。この薄膜硬化物は、例えば150℃の高温で5日間熱履歴を与えた後でも黄変度が極めて軽微である(後述の実施例参照)。
【0075】
このため、特に面実装タイプの絶縁封止材料として最適であり、BGA(ボール・グリッド・アレー)、CSP(チップ・サイズ・パッケージ)、COG(チップ・オン・グラス)、COB(チップ・オン・ボード)、MCM(マルチ・チップ・モジュール)又はLGA(ランド・グリッド・アレイ)等の面実装タイプの半導体装置の封止材料、チップタイプのLEDのような発光素子又は光半導体等の封止材料等の絶縁材料を始めとして、工業的に広い分野において使用することができる。
【0076】
特に、発光素子の封止材は、発光素子自身からの発熱により黄変し難いことが重要であるため、本発明の組成物は発光素子の薄膜封止材として好適に使用できる。
【0077】
本発明のエポキシ樹脂系組成物を硬化させてなる上記エポキシ樹脂系薄膜で封止された発光素子は、長期使用しても初期の色調が維持される。特に、本発明の薄膜で封止された白色発光素子は、長期使用によっても透明な白色光が維持される有用なものである。
【0078】
また、この薄膜は、透明性、耐熱黄変性に優れることから、各種ガラス基板、自動車部品、液晶表示装置やプラズマディスプレイのような表示装置等の透明ハードコーティング材料としても好適に使用できる。特に、液晶表示装置はバックライトの高熱によって黄変し難いことが重要であるため、本発明の組成物は液晶表示装置のコーティング材として好適に使用できる。このように、本発明の薄膜は、ディスプレイ用のコーティング材としても有用である。
【0079】
本発明では、上述のように、エポキシ樹脂系薄膜の黄変を抑制乃至防止することができる。従って、本発明は、エポキシ樹脂系薄膜を製造する際に、エポキシ樹脂の硬化促進剤として上記一般式(1)で表される化合物を用いることを特徴とするエポキシ樹脂系薄膜の黄変を防止する方法を提供するものでもある。
【実施例】
【0080】
以下、実施例及び試験例を参照して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0081】
物性評価方法
<イエローインデックス(YI)>
本実施例では、各硬化膜を熱処理する前のイエローインデックス(以下、「YI」という)、及び150℃で5日間熱処理した後のYIを測定し、両者の差をΔYIとした。YIは硬化膜の黄色度を示し、この値が小さいほど無色透明性に優れ、値が大きくなるにつれ黄色度が増す。ΔYIは、熱履歴を受けた場合の黄変の程度、即ち耐熱黄変性を示し、この値が小さいほど硬化膜の耐熱黄変性が良好である。本発明においてYIは、ASTM D1925に準拠し、分光測色計を用いて反射率を測定し算出した値である。
【0082】
具体的には、被験試料である液状エポキシ樹脂系組成物を、アルミ箔を敷いた直径68mmの金属製の皿に硬化後の厚みがそれぞれ5mm、1mm及び0.4mmとなるように流し込み、120℃で1時間、更に150℃で3時間硬化した。この円板状硬化物について、片面に上記アルミ箔を接着した状態で、分光測色計(ミノルタ社製、CM−3500d)を用いて反射率を測定した。反射率からのYIの算出はASTM D1925の規定に準じて行った。
【0083】
<ガラス転移温度(Tg)>
上記イエローインデックス(YI)の測定の項に記載の方法にて作成した厚み5mm及び0.4mmの円盤状硬化物のガラス転移温度を、DSC法を用いて、昇温速度20℃/分で測定した。
【0084】
Tgの値が大きいほど、劣化、特に熱による劣化が抑制され、耐湿性に優れた膜となる。
【0085】
<膜厚>
硬化後の膜厚は、クーラントプルーフマイクロメータ(ミツトヨ社製)を用いて測定した。
【0086】
<臭気試験>
10人のパネラーにより、硬化前のエポキシ樹脂系組成物の臭気を硬化促進剤を配合していない場合と比較評価した。評価基準は次の通りである:
○:全員が臭気を感じないと判定
×:5人以上が臭気を感じると判定
実施例1
硬化剤のリカシッドMH-T(新日本理化(株)製;主成分は4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物)(酸無水物当量168)99.9重量部(エポキシ樹脂中のエポキシ基に対して硬化剤中の酸無水物基の当量比が1.1となる量)に、硬化促進剤のテトラブチルホスホニウムデカン酸塩1重量部を加え、60℃で30分加熱後更に攪拌し溶解した後、室温まで冷却し常温で透明液状の硬化剤液を得た。これにエポキシ樹脂のビスフェノールAグリシジルエーテル(東都化成(株)製、エポトートYD−128、エポキシ当量185)100重量部を加え、さらに充分混合して真空脱泡後、常温で液状のエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0087】
実施例2
硬化促進剤のテトラブチルホスホニウムデカン酸塩に代えて、テトラブチルホスホニウムラウリン酸塩を使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0088】
実施例3
硬化促進剤のテトラブチルホスホニウムデカン酸塩に代えて、テトラブチルホスホニウムミリスチン酸塩を使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0089】
実施例4
硬化促進剤のテトラブチルホスホニウムデカン酸塩に代えて、テトラブチルホスホニウムパルミチン酸塩を使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0090】
比較例1
硬化促進剤のテトラブチルホスホニウムデカン酸塩に代えて、テトラブチルホスホニウムオクタン酸塩を使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0091】
比較例2
硬化促進剤のテトラブチルホスホニウムデカン酸塩に代えて、テトラブチルホスホニウム酢酸塩を使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0092】
比較例3
硬化促進剤のテトラブチルホスホニウムデカン酸塩に代えて、テトラブチルホスホニウムヘプタン酸塩を使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0093】
比較例4
硬化促進剤のテトラブチルホスホニウムデカン酸塩に代えて、テトラブチルホスホニウム2−エチルヘキサン酸塩を使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0094】
比較例5
硬化促進剤のテトラブチルホスホニウムデカン酸塩に代えて、テトラブチルホスホニウム3,5,5−トリメチルヘキサン酸塩を使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0095】
比較例6
硬化促進剤のテトラブチルホスホニウムデカン酸塩に代えて、テトラブチルホスホニウムステアリン酸塩を使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0096】
比較例7
リカシッドMH−Tの使用量を90.8重量部(エポキシ樹脂中のエポキシ基に対して硬化剤中の酸無水物基の当量比が1.0となる量)に変更し、硬化促進剤のテトラブチルホスホニウムデカン酸塩に代えてテトラブチルホスホニウムブロマイドを使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0097】
本比較例7において、リカシッドMH−Tの使用量を90.8重量部(エポキシ樹脂中のエポキシ基に対して硬化剤中の酸無水物基の当量比が1.0となる量)に変更した理由は、この使用量の場合に、最も高いTgとなり、かつ透明性が良好であることが予備実験で確認されたためである。リカシッドMH−Tの使用量を実施例1と同じ量(当量比が1.1となる量)にした場合は、本比較例7に比べて、Tg及び透明性が劣る。
【0098】
なお、表1〜3において、テトラブチルホスホニウムブロマイドを「TBPブロマイド」と略記する。
【0099】
比較例8
リカシッドMH−T81.7重量部(エポキシ樹脂中のエポキシ基に対して硬化剤中の酸無水物基の当量比が0.9となる量)に変更し、硬化促進剤のテトラブチルホスホニウムデカン酸塩に代えてテトラフェニルホスホニウムブロマイドを使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0100】
本比較例8において、リカシッドMH−Tの使用量を81.7重量部(エポキシ樹脂中のエポキシ基に対して硬化剤中の酸無水物基の当量比が0.9となる量)に変更した理由は、この使用量の場合に、最も高いTgとなり、かつ透明性が良好であることが予備実験で確認されたためである。リカシッドMH−Tの使用量を実施例1と同じ量(当量比が1.1となる量)にした場合は、本比較例8に比べて、Tg及び透明性が劣る。
【0101】
なお、表1〜3において、テトラフェニルホスホニウムブロマイドを「TPP−PB」と略記する。
【0102】
比較例9
硬化促進剤のテトラブチルホスホニウムデカン酸塩に代えて、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7・オクチル酸塩(U−CAT SA102,サンアプロ社製)を使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。なお、表1〜3において、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7・オクチル酸塩を「DBUオクチル酸塩」と略記する。
【0103】
比較例10
硬化促進剤のテトラブチルホスホニウムデカン酸塩に代えて、テトラブチルアンモニウムブロマイドを使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0104】
実施例1〜4、比較例1〜10のエポキシ樹脂系組成物について、硬化物のTg(5mm厚、0.4mm厚)、硬化直後のイエローインデックス(5mm厚、1mm厚、0.4mm厚)、150℃で5日間熱処理(エージング)後のイエローインデックス(5mm厚、1mm厚、0.4mm厚)、エポキシ樹脂系組成物の臭気を評価した。
【0105】
結果を表1〜3に示す。なお、表1〜3において、「TBP」は、「テトラブチルホスホニウム」を指す。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
上記表1〜3の結果から、次のことが分かる。
【0110】
(a)0.4mm厚さの薄膜において、熱処理後のYIが5以下であり、かつ熱処理前後のΔYIが5以下であれば発光素子や液晶バックライトの発熱によっても黄変せず、これらの用途にも十分使用できるものとなる。
【0111】
この点、比較例1〜7、9〜10は、熱処理後のYIが5より大きく、また比較例1〜5、7、9〜10は熱処理前後のΔYIが5より大きく、熱黄変の点から上記用途への使用は難しい。これに対して、硬化促進剤がテトラブチルホスホニウムの炭素数10〜16の脂肪族モノカルボン酸塩である実施例1〜4のエポキシ樹脂系組成物は、熱処理後のYI及びΔYIが上記範囲であり実用可能な薄膜を形成できることが分かる。
【0112】
(b)また、Tgが高いほど劣化、特に熱による劣化が抑制され、耐湿性に優れた膜となる。薄膜封止材や表示装置のコーティング材として使用する場合は熱劣化し難いことや耐湿性が重要であり、0.4mm厚の膜のTgが140℃以上であり、かつ5mm厚膜のTgと0.4mm厚膜のTgの差(Tg差)が10℃より小さければ、これらの用途にも実用できるものとなる。
【0113】
この点、比較例6及び8はTgが140℃より低く、かつTg差が10℃以上あり、耐熱性の点から上記用途への使用は難しい。これに対して、硬化促進剤がテトラブチルホスホニウムの炭素数10〜16の脂肪族モノカルボン酸塩である実施例1〜4のエポキシ樹脂系組成物は、0.4mm厚の硬化膜のTg及びTg差が上記範囲であり、実用可能な薄膜を形成できることが分かる。
【0114】
(c)また、比較例1〜5及び9で得たエポキシ樹脂系組成物は臭気があるが、実施例1〜4のエポキシ樹脂系組成物は臭気が無く、調製し易いものである。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明のエポキシ樹脂系組成物を硬化させてなる薄膜は、Tgが高く、初期透明性に優れ、高温で熱履歴を与えた後でも黄変の程度が軽微である。このような優れた性能を併せ持つため、工業上の広い分野で使用することができる。特に面実装タイプの絶縁封止材料として最適であり、BGA(ボール・グリッド・アレー)、CSP(チップ・サイズ・パッケージ)、COG(チップ・オン・グラス)、COB(チップ・オン・ボード)、MCM(マルチ・チップ・モジュール)又はLGA(ランド・グリッド・アレイ)等の面実装タイプの半導体装置の封止材料、チップタイプのLED又は光半導体等の封止材料等の絶縁材料として好適に使用できる。
【0116】
また、その硬化薄膜は、各種ガラス基板、自動車部品、表示装置等の透明ハードコーティング材料としても好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エポキシ樹脂、
(b)酸無水物系硬化剤、及び
(c)下記一般式(1)
【化1】

[式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれフェニル基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数5〜12のシクロアルキル基を示し、Xは炭素数10〜16の脂肪族モノカルボン酸のアニオン残基を示す。]
で表される化合物
を含むエポキシ樹脂系組成物。
【請求項2】
一般式(1)で表される化合物の含有量が、エポキシ樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
一般式(1)において、R〜Rが炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示す請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
一般式(1)において、Xがデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の脂肪族モノカルボン酸のアニオン残基である請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
一般式(1)において、R〜Rの全てがブチル基である請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
エポキシ樹脂が、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ナフタレンジオールジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、及び水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
酸無水物系硬化剤が、3−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物及び4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
酸無水物系硬化剤の含有量が、エポキシ樹脂中のエポキシ基に対する酸無水物系硬化剤中の酸無水物基の当量比が0.9〜1.2となる量である請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
(a)エポキシ樹脂と、(b)3−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物及び4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸無水物系硬化剤と、(c)テトラブチルホスホニウムデカン酸塩、テトラブチルホスホニウムラウリン酸塩、テトラブチルホスホニウムミリスチン酸塩及びテトラブチルホスホニウムパルミチン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物とを含み、酸無水物系硬化剤の含有量が、エポキシ樹脂中のエポキシ基に対する酸無水物系硬化剤中の酸無水物基の当量比が1〜1.1となる量であるエポキシ樹脂系組成物。
【請求項10】
エポキシ樹脂系薄膜の黄変を防止する方法であって、エポキシ樹脂の硬化促進剤として下記一般式(1)
【化2】

[式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれフェニル基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数5〜12のシクロアルキル基を示し、Xは炭素数10〜16の脂肪族モノカルボン酸のアニオン残基を示す。]
で表される化合物を用いる方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の組成物を基体上に塗布し、塗膜を硬化させて、厚さ1mm以下の薄膜を形成することを特徴とする、エポキシ樹脂系薄膜の形成方法。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の組成物を硬化してなる厚さ1mm以下の薄膜。
【請求項13】
薄膜が発光素子の封止材である請求項12に記載の薄膜。
【請求項14】
薄膜がディスプレイ用コーティング材である請求項12に記載の薄膜。
【請求項15】
請求項12に記載の薄膜で封止された発光素子。

【公開番号】特開2008−81514(P2008−81514A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259540(P2006−259540)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000191250)新日本理化株式会社 (90)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】