説明

エポキシ樹脂組成物及びそれらの製造方法

低いオリゴマー含量を有するシクロヘキシル基含有グリシジルエーテルを含有するエポキシ樹脂組成物を製造する方法は、一般式(I)[ここで、−X−は、−CR2−、−CO−、−O、−S−、−SO2−を表し、Rは、互いに独立してH、C1-6−アルキル、C3-6−シクロアルキルを表し、前記基中で1つ又はそれ以上のHはハロゲンにより置き換えられていてよく、R′は、互いに独立してC1-4−アルキル、ハロゲンを表し、nは、互いに独立して0、1、2又は3である]で示される化合物を環水素化し、その後、前記ヒドロキシル基を、エピクロロヒドリンと、薄膜型蒸発缶又は短行程蒸発缶中で150〜270℃の範囲内の温度及び0.001〜1mbarの範囲内の圧力で反応させることによって得ることができる組成物を蒸留することによって行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低いオリゴマー含量を有するエポキシ樹脂組成物の製造方法、前記方法により得ることができるエポキシ樹脂組成物及び例えば光安定及び屋外暴露安定な塗料及びコーティングもしくはプラスチックにおける及び電子工業における、それらの使用並びにそれらを用いて製造されたLEDs(発光ダイオード類)又は光学レンズに関する。
【0002】
脂環式エポキシ樹脂組成物は、電子工業の多くの分野において、コーティング材料、封止材料又はシール材料(Beschichtungs-, Verkapselungs- oder Dichtungsmaterialien)として使用される。前記組成物は、芳香族化合物を殆ど含有しないか又は含有しないので、これらはしばしば光安定及び黄変安定である。しばしば、エポキシ樹脂組成物は、ビスフェノールAから出発して、エピクロロヒドリンと反応させ、その後水素化することによって製造される。この種の方法は、例えば、欧州特許出願公開(EP-A)第1 270 633号明細書及び欧州特許出願公開(EP-A)第0 402 743号明細書に記載されている。
【0003】
また、まず最初にビスフェノールAを水素化して、その後エピクロロヒドリンと反応させることも可能である。この種の反応は、例えば、欧州特許出願公開(EP-A)第0 597 806号明細書に記載されている。
【0004】
特開(JP-A)2000-143769号公報には、エポキシド含有化合物の製造方法が同様に開示されており、前記方法の場合に水素化ビスフェノールAを液体エピクロロヒドリンと、第四級アンモニウム塩及び固体アルカリ金属水酸化物の存在で、撹拌しながら20〜70℃の範囲内の温度で反応させる。
【0005】
ビスフェノールAをエピクロロヒドリンと反応させ、引き続き水素化することによって得られた生成物が、しばしば、エレクトロニクス用途のための生成物純度の要件を満たすのに対し、これは、ビスフェノールAを水素化し、引き続きエピクロロヒドリンと反応させる常用の方法により製造された生成物には、当てはまらない。しかしながら、最初の方法によるエポキシ樹脂組成物の製造は、後に挙げた方法よりも、本質的により費用がかかる。
【0006】
本発明の課題は、エレクトロニクス用途に必要な性質を有する、シクロヘキシル基含有グリシジルエーテルを含有するエポキシ樹脂組成物を製造する経済的な方法を提供することである。特にLEDsの製造のためには、エポキシ樹脂組成物が無色であるべきであり、(遊離)塩素をごく僅かに含有するか又は含有せず、かつ低い粘度並びに低い副生物の割合を有するべきである。
【0007】
前記課題は、本発明によれば、一般式(I)
【化1】

[式中、
−X−は、−CR2−、−CO−、−O、−S−、−SO2−を表し、
Rは、互いに独立してH、C1-6−アルキル、C3-6−シクロアルキルを表し、前記基中で1つ又はそれ以上のHは、ハロゲンにより置き換えられていてよく、
R′は、互いに独立してC1-4−アルキル、ハロゲンを表し、
nは、互いに独立して0、1、2又は3である]で示される化合物を環水素化し(Kern-Hydrierung)、
その後、前記ヒドロキシル基を、エピクロロヒドリンと、
薄膜型蒸発缶又は短行程蒸発缶(Kurzwegverdampfern)中で150〜270℃の範囲内の温度及び0.001〜1mbarの範囲内の圧力で反応させることによって得ることができる組成物を蒸留することによる、低いオリゴマー含量を有するシクロヘキシル基含有グリシジルエーテルを含有するエポキシ樹脂組成物を製造する方法によって解決される。
【0008】
さらに、前記課題は、前記の方法によって得ることができる、低いオリゴマー含量を有するエポキシ樹脂組成物によって解決される。
【0009】
さらに、前記課題は、一般式(II)
【化2】

[式中、
−X−は、−CR2−、−CO−、−O、−S−、−SO2−を表し、
Rは、互いに独立してH、C1-6−アルキル、C3-6−シクロアルキルを表し、前記基中で1つ又はそれ以上のHは、ハロゲンにより置き換えられていてよく、
R′は、互いに独立してC1-4−アルキル、ハロゲンを表し、
nは、互いに独立して0、1、2又は3である]で示される化合物をベースとする低いオリゴマー含量を有するエポキシ樹脂組成物により解決され、前記組成物は、
前記組成物の全質量を基準とし、かつゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される、
一般式(II)の化合物の0.5〜1.12倍の分子量を有する化合物の割合が、少なくとも60質量%であり、
一般式(II)の化合物の1.12〜1.53倍の分子量を有する化合物の割合が、30質量%未満であり、かつ
一般式(II)の化合物の1.53〜2.53倍の分子量を有する化合物の割合が、2.5質量%未満である
ことにより特徴付けられる。
【0010】
本発明は、電子工業用のコーティング材料、封止材料及びシール材料における前記エポキシ樹脂組成物の使用及びそれらを用いて製造されたLEDs及び光学レンズにも関する。
【0011】
本発明によれば、ビスフェノールAを環水素化し、その後エピクロロヒドリンと反応させた反応生成物を、薄膜型蒸発缶又は短行程蒸発缶中で蒸留することにより、前記生成物がエレクトロニクス用途に適しているように精製できることが見出された。これまで、エピクロロヒドリンとの前記反応生成物の蒸留は、実施不可能であるとみなされていた。特に、前記蒸留の際の熱負荷に基づいて、エレクトロニクス用途の要件を満たす、極めて良好な純度及び低い塩素含量を有する生成物を得ることができることは想定されていなかった。
【0012】
本発明によれば、前記蒸留は、薄膜型蒸発缶又は短行程蒸発缶中で実施される。双方の場合に、薄膜蒸留が実施され、前記蒸留の場合に操作圧の低下によって、沸騰温度のかなりの低下が達成される。薄膜型蒸発缶の場合に、好ましくは、粗生成物は、より低沸点の成分が蒸発を開始するまで、外側から加熱される管の内面上で加熱される。前記蒸気は、引き続き、凝縮器中で凝結する(niedergeschlagen)。単純な薄膜型蒸発缶の場合に、この凝縮器はできるだけ前記蒸発缶のできるだけすぐそばに配置されているが、それに反して短行程蒸発缶の場合に、この凝縮器はそれどころか前記蒸発缶ジャケットの内部にある。常用の薄膜型蒸発缶は、約1mbarの最小圧力で、短行程蒸発缶は約0.001mbarの最小圧力で操作されることができる。
【0013】
薄膜型蒸発缶又は短行程蒸発缶中では、滞留時間は極めて短い。この時間はしばしば数秒間に過ぎない。
【0014】
薄膜型蒸発缶の場合に、蒸発すべき生成物は、外側から加熱される円筒形の管の内部表面上で下向きに流れる。前記液膜は、その際にワイパー系により絶えず混合され、こうして蒸発すべき混合物中での均質性が達成される。前記留出物の凝縮は、真空系を接続した外側にある凝縮器中で行われる。典型的には、薄膜型蒸発缶に上から生成物が装入され、前記生成物は内壁上で下向きに流れ、かつワイパーによって移動される。前記留出物は、頂部を経て除去され、かつ凝縮器中で凝縮される。蒸留残留物は、前記薄膜型蒸発缶の底部で取り出される。蒸発缶と凝縮器との間の結合管路を備えた構造設計によって、達成可能な減圧は、約1mbarに制限されている。
【0015】
短行程蒸留(Kurzweg-Destillation)は、できるだけ低い温度及び短い滞留時間で蒸留することを可能にする。前記短行程蒸留は、薄膜型蒸発缶の場合と同じように、減圧下での連続プロセスである。
【0016】
ここでも、前記蒸発は、加熱され、ワイピングされた膜から行われる。薄膜型蒸発缶と比較して明らかにより低い短行程蒸発缶中の最小圧は、内側にある凝縮器によって前記蒸気が極めて短い経路を進みさえすればよいことによって達成される。同時に、前記蒸気の流れ断面積は、前記蒸発缶面と同じ大きさである。これにより、蒸発缶面と凝縮器との間での低い圧力損失のみが存在するに過ぎない。短行程蒸留のための典型的な圧力範囲は、"中真空(Feinvakuum)"、すなわち、約0.001〜1mbarである。それゆえ、必要な温度が、短い滞留時間の場合に、前記生成物の熱的損傷とならない程度に低下されることができる。
【0017】
前記蒸発缶内部の凝縮器の配置により、蒸発缶と凝縮器との間の結合管路としての蒸気管が省かれる。低い圧力が使用可能な場合に、蒸気は極めて大きな体積を有し、この蒸気管は大きな断面積の場合ですら極めて高い速度をまねく。これは、例えば薄膜型蒸発缶の前記圧力範囲を制限する。
【0018】
短行程蒸留の場合に、好ましくは円筒形の管の内部で薄い膜からの蒸発が行われ、その場合に前記蒸発缶壁は、二重ジャケットを介して外側から加熱される。前記膜は、ワイピング系を介して絶えず混合され、それにより、半径方向の濃度勾配(Konzentrationsgrad)は大幅に回避される。前記凝縮器は、前記蒸発缶の内部に存在する。それにより、蒸気を進ませなければならない経路は極端に短い。蒸発缶と凝縮器との間の距離が、前記分子の平均自由行程のオーダーである場合には、分子蒸留とも呼ばれる。ガス空間中の平均自由行程は、その場合にしばしばcmの範囲内である。本発明によれば、好ましくは、この種の分子蒸留が実施される。前記分子蒸留は、真空下又は減圧下での短行程蒸留としても定義されることができる。
【0019】
適した薄膜型蒸発缶及び短行程蒸発缶は、工業的に入手可能である。例えば、適した薄膜型蒸発缶及び短行程蒸発缶は、VTA, Verfahrenstechnische Anlagen GmbH, D-94469 Deggendorfから購入することができる。
【0020】
本発明によれば、150〜270℃の範囲内の温度及び0.001〜1mbarの範囲内の圧力で蒸留される。一実施態様によれば、温度はその場合に160〜250℃の範囲内であってよい。
【0021】
好ましくは、短行程蒸留又は分子蒸留が実施され、その場合に圧力は0.003〜0.3mbar、特に0.005〜0.2mbarである。
【0022】
好ましい一実施態様によれば、その場合に、150〜230℃、好ましくは170〜210℃の範囲内の温度、及び0.005〜0.2mbar、特に0.007〜0.1mbarの範囲内の圧力で、操作される。特に有利な生成物は、200℃未満、特に190℃未満の温度で得られることができる。
【0023】
本発明により使用される組成物を蒸発させるための薄膜型蒸発缶又は短行程蒸発缶の装置設計は、当業者により行われる。
【0024】
本発明による方法は、シクロヘキシル基含有グリシジルエーテルを含有するエポキシ樹脂組成物の製造に利用され、ここで、前記エポキシ樹脂組成物は低いオリゴマー含量を有する。好ましくは、本発明によるエポキシ樹脂組成物は、残留芳香族化合物をごく僅かに含有するか又は含有しない。好ましくは、芳香族化合物の最大量は、前記エポキシ樹脂組成物を基準として、5質量%、特に3質量%である。特に好ましくは、前記組成物は芳香族化合物不含である。
【0025】
本発明による蒸留により、前記組成物の塩素含量は、著しく低下されることができる。通常、ビスフェノールAを水素化し、その後エピクロロヒドリンと反応させた後に得られるエポキシ樹脂組成物は、ビスフェノール上のハロゲン置換基を考慮しないで、約5質量%の全塩素を含有する。25℃での絶対粘度(dynamische Viskositaet)は、2000mPasを上回り、通例2200mPasを上回る。色数(Apha)は、通常、22〜28の範囲内である。
【0026】
本発明による方法により、絶対粘度は、2000mPas未満に、好ましくは1200mPas未満(25℃で)に低下されることができる。塩素含量(全塩素)は、最大3質量%、好ましくは2.5質量%及びそれ未満、特に1.5質量%及びそれ未満の低い値に減少されることができる。例えば、4.9質量%から1.3質量%への減少が行われることができる。全塩素含量は、その場合に、Schoenigerによる方法を用いて測定され、かつR及びR′中の考えられるハロゲン置換基を含まないが、しかしながらこれらは好ましくは存在しない。
【0027】
絶対粘度は、好ましくは1000〜1300mPas、特に1100〜1200mPasに低下されることができる。それゆえ、前記短行程蒸発は、より低い粘度及びより低い塩素含量を有する留出物をもたらす。
【0028】
本発明による蒸留の場合に、留出物の割合は、好ましくは25〜90質量%、特に好ましくは40〜90質量%、殊に55〜86質量%である。その際、留出物の割合は、前記短行程蒸発缶もしくは薄膜型蒸発缶の相応する操作により調節されることができる。
【0029】
本発明による方法において、一般式(I)
【化3】

[式中、
−X−は、−CR2−、−CO−、−O、−S−、−SO2−を表し、
Rは、互いに独立してH、C1-6−アルキル、C3-6−シクロアルキルを表し、前記基中で1つ又はそれ以上のHは、ハロゲンにより置き換えられていてよく、
R′は、互いに独立してC1-4−アルキル、ハロゲンを表し、
nは、互いに独立して0、1、2又は3である]で示される化合物を環水素化し、その後、前記ヒドロキシル基をエピクロロヒドリンと反応させることによって得ることができる組成物が蒸留される。
【0030】
一般式(I)の化合物は、−X−が−CR2−、−CO−又は−O−を表すそのような化合物から好ましくは選択されている。Rは、その場合に好ましくはH又はC1-3−アルキルを表し、ここで1つ又はそれ以上のHは、ハロゲンにより置き換えられていてよい。ハロゲンは、ここで好ましくはフッ素である。nは、好ましくは0の値を有し、かつR′中でハロゲンはフッ素を表す。
【0031】
特に好ましくは、一般式(I)の化合物中で、Xは−CH2−、−C(CH32−、−C(CF32−、−CO−又は−O−を表し、nは0の値を有し、かつヒドロキシル基は、それぞれp位にある。特に好ましくは使用される一般式(I)の化合物は、ビスフェノールA及びビスフェノールFである。
【0032】
前記化合物の水素化は、その場合に、知られた方法により行われることができる。適した方法及び触媒については、例えば特開(JP-A)2000-143769号公報及び欧州特許出願公開(EP-A)第0 597 806号明細書が指摘されることができる。適した触媒は、さらに、欧州特許出願公開(EP-A)第0 402 743号明細書、欧州特許出願公開(EP-A)第1 270 633号明細書、米国特許(US)第6,060,611号明細書、欧州特許出願公開(EP-A)第0 814 098号明細書に記載されている。適した水素化触媒は、そのうえ、米国特許(US)第5,530,147号明細書、特開(JP-A)2003-12659号公報、米国特許(US)第6,756,453号明細書、国際公開(WO)第2004/009526号、特開(JP-A)2002-249488号公報、特開(JP-A)2002-338559号公報、特開(JP-A)2002-338561号公報及び国際公開(WO)第03/103830号に記載されている。シクロヘキシル基含有グリシジルエーテルの典型的な基本構造については、欧州特許出願公開(EP-A)第1 270 633号明細書、欧州特許出願公開(EP-A)第0 597 806号明細書及び特開(JP-A)2000-143769号公報が指摘されることができる。その際に、ビスフェノールAを水素化し、その後エピクロロヒドリンと反応させた生成物組成物が、ビスフェノールAをエピクロロヒドリンと反応させ、その後蒸留した生成物組成物とは異なることが顧慮されるべきである。ビスフェノールAを水素化し、その後エピクロロヒドリンと反応させることにより得られるエポキシ樹脂は、例えばLeuna Harzeから名称Epilox(登録商標)P2200で入手可能である。類似の製品は、Hexionから名称Eponex(登録商標)1510で入手可能である。Hexion製の製品Eponex 1510は、例えば213g/当量のエポキシド当量値、4.9%の全塩素含量、23 Aphaの色数、25℃での2290mPasの絶対粘度、25℃での2100mm2/sの動粘度及び25℃での1.090g/mlの密度を有する。
【0033】
この出発混合物は、本発明によれば、留出物の割合が25〜90質量%、好ましくは55〜86質量%であるように蒸留される。工業的方法において、特に、207〜240℃の温度及び0.02〜0.13mbarの圧力で操作される。この場合に、4.9%から1.3%への塩素含量の低下及び2290mPasから1100〜1200mPasへの絶対粘度の低下が可能である。
【0034】
前記留出物は、特に、出発混合物よりも明らかにより低いオリゴマーの割合を有する。
【0035】
前記留出物は、無色であり、塩素を殆ど含有しないか又は含有せず、低い粘度を示し、かつ低い副生物の割合を有する。それゆえ、これらは、電子工業用のコーティング材料、封止材料及びシール材料において特に有利に使用されることができる。特に好ましくは、これらは、LEDsの封止に使用されることができる。この種の用途は、例えば、特開(JP-A)2000-143769号公報、欧州特許出願公開(EP-A)第0 597 806号明細書及び特に欧州特許出願公開(EP-A)第1 270 633号明細書及び米国特許(US)第6,060,611号明細書にも記載されている。低い粘度により、これらはこれらの用途において特に良好に加工可能であるので、バブルフリーで完全なコーティング及び封止が可能である。透明性、特に無色性により、これらは光学的用途に極めて好適である。極めて低い塩素含量により、金属成分の酸化は確実に回避される。
【0036】
本発明は、前記の方法により得ることができる、低いオリゴマー含量を有するエポキシ樹脂組成物にも関する。これらの組成物は、以下にさらにより詳細に特徴付けられる。前記エポキシ樹脂組成物は、その場合に、前記ビスフェノール化合物を連続的に水素化し、その後、前記ヒドロキシル基をエピクロロヒドリンと反応させ、その後短行程蒸留することによって製造される。
【0037】
好ましくは、本発明により製造されるエポキシ樹脂組成物は、一般式(I)の化合物を水素化し、その後、前記ヒドロキシル基をエピクロロヒドリンと反応させ、並びにその後短行程蒸発させることにより得ることができる、組成物の蒸留による低いオリゴマー含量を有するシクロヘキシル基含有グリシジルエーテルを含有するエポキシ樹脂組成物の製造方法に由来するものである。
【0038】
その場合に、前記0.5〜1.12倍の分子量を有する化合物の割合は、好ましくは少なくとも70質量%、特に少なくとも80質量%であるのに対し、前記1.12〜1.53倍の分子量を有する化合物の割合は、好ましくは20質量%未満、好ましくは15質量%未満である。一般式(II)の化合物の1.53〜2.53倍の分子量を有する化合物の割合は、好ましくは1.5質量%未満、特に0.5質量%未満である。これらの値は、特に170〜210℃のジャケット温度及び0.007〜0.01mbarの圧力の場合に当てはまる。工業的規模での207〜238℃のジャケット温度及び0.03〜0.11mbarの範囲内の圧力での反応の場合に、一般式(II)の化合物の0.5〜1.12倍の分子量を有する化合物の割合は、特に好ましくは少なくとも70質量%、一般式(II)の化合物の1.12〜1.53倍の分子量を有する化合物の割合は、好ましくは26質量%未満であり、かつ一般式(II)の化合物の1.53〜2.53倍の分子量を有する化合物の割合は、2.3質量%未満である。
【0039】
水素化ビスフェノールAのビスグリシジルエーテルについては、340g/molの分子量の場合に、180〜380g/mol、380〜520g/mol及び520〜860g/molの相応する範囲への区分となる。
【0040】
前記組成物の質量分布はその際に、ゲル浸透クロマトグラフィーにより決定される。その際に次の条件が遵守される:
GPC測定条件
固定相:PSS GmbH社のスチレンジビニルベンゼンゲルカラムPSS SDV 5本[1×E2Å//3×E4Å//1E5Å](各300×8mm)(温度調節:35℃)
移動相:THF(流量:1.2ml/min)
校正:Polymer Laboratories製のPS-校正キットを用いるMG 500〜5 000 000g/mol
オリゴマー範囲内:エチルベンゼン/1,3−ジフェニルブタン/1,3,5−トリフェニルヘキサン/1,3,5,7−テトラフェニルオクタン/1,3,5,7,9−ペンタフェニルデカン
評価限界:180g/mol
検出:RI(屈折率)Waters 410
UV(254nmで)Spectra Series UV 100。
【0041】
蒸留のために使用される混合物、例えばEponex(登録商標) 1510は、GPC図中で、400〜500g/molの範囲内及び520〜700g/molの範囲内の2つの強いピークを示す。蒸留後に、520〜700g/molの範囲内のピークは本質的により小さく、しばしば最大で、400〜500g/molの範囲内のピークの高さの3分の1である。そのために、本質的に大きくなったピークが300〜400g/molの範囲内に含まれている。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】装入物(a)及び2つの留出物(b、c)についてのGPC分布を示す図。
【0043】
蒸留前の生成物に対する蒸留後の前記生成物の主な相違は、520〜700g/molの範囲内の際立ったピークが小さなショルダーになり、ひいてはもはや個々のピークにならないことにある。
【0044】
前記主生成物が同じものであるのに対し、副生物スペクトルは変わる。特殊な副生物は、いわば前記方法の指紋を表し、かつ前記生成物は、これまでの方法により得られる生成物とは、特にまず最初にエピクロロヒドリンと反応させ、その後水素化することにより得られる生成物に比べても、相違する。有利な特性スペクトルにより、本発明による組成物は、塗料における及び電子工業における全ての用途、例えばコーティング材料、封止材料、注型材料又はシール材料に適している。前記組成物は、光安定であり、特にUV安定であり、かつ黄変する傾向がなく、かつ固有色を殆ど有しないか又は固有色を有しない。
【0045】
本発明は、前記のように、エポキシ樹脂組成物を、場合により硬化された形で、含有するか又はこれからなるシール材料及び/又は封止材料を有するLEDにも関する。さらに、本発明は、相応する材料から製造された光学レンズに関する。
【0046】
本発明は、以下の例によってより詳細に説明される。
【0047】
例1
装入物として、水素化ビスフェノールAを基礎とする、Hexion製の水素化ビスグリシジルエーテルEponex(登録商標) 1510を使用した。蒸留を、短行程蒸留もしくは分子蒸留として、170〜210℃の範囲内の温度及び0.007〜0.01mbarの範囲内の圧力で実施した。
【0048】
170℃のジャケット温度及び0.01mbarの圧力並びに53.2%の留出物の割合の場合に、180〜380g/molの範囲内の生成物の割合が、50.42%から86.62%に高められたのに対し、380〜520g/molの範囲が、35.65%から13.01%に、520〜860g/molの範囲が13.15%から0.38%に及び860〜1500g/molの範囲が0.74%から0.02%に低下した。
【0049】
詳細には、次の結果が得られた(前記のようなGPC分析):
【表1】

【0050】
より高い蒸留温度の場合に、全塩素及び粘度は上昇する。図1には、装入物(a)、170℃での留出物(b)及び200℃での留出物(c)についてのモル質量分布(D)が示されている。積分として、相対W (log M) [ ]が示されている。
【図1(a)】

【図1(b)】

【図1(c)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

[式中、
−X−は、−CR2−、−CO−、−O、−S−、−SO2−を表し、
Rは、互いに独立してH、C1-6−アルキル、C3-6−シクロアルキルを表し、前記基中で1つ又はそれ以上のHはハロゲンにより置き換えられていてよく、
R′は、互いに独立してC1-4−アルキル、ハロゲンを表し、
nは、互いに独立して0、1、2又は3である]で示される化合物を環水素化し、
その後、前記ヒドロキシル基を、エピクロロヒドリンと、
薄膜型蒸発缶又は短行程蒸発缶中で150〜270℃の範囲内の温度及び0.001〜1mbarの範囲内の圧力で反応させることによって得られる組成物を蒸留することによって、低いオリゴマー含量を有するシクロヘキシル基含有グリシジルエーテルを含有するエポキシ樹脂組成物を製造する方法。
【請求項2】
短行程蒸発缶中での蒸発を0.003〜0.3mbarの範囲内の圧力で行う、請求項1記載の方法。
【請求項3】
蒸留を150〜230℃の範囲内の温度で0.005〜0.2mbarの範囲内の圧力下に実施する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
一般式(I)の化合物中で、Xが−CH2−、−C(CH32−、−C(CF32−、−CO−又は−O−を表し、nが0の値を有し、かつヒドロキシル基がそれぞれp−位にある、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
留出物の割合が、蒸留に使用される組成物を基準として、25〜90質量%である、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法により得られる、低いオリゴマー含量を有するエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
一般式(II)
【化2】

[式中、
−X−は、−CR2−、−CO−、−O、−S−、−SO2−を表し、
Rは、互いに独立してH、C1-6−アルキル、C3-6−シクロアルキルを表し、前記基中で1つ又はそれ以上のHは、ハロゲンにより置き換えられていてよく、
R′は、互いに独立してC1-4−アルキル、ハロゲンを表し、
nは、互いに独立して0、1、2又は3である]で示される化合物をベースとする低いオリゴマー含量を有するエポキシ樹脂組成物であって、前記組成物の全質量を基準とし、かつゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される、
一般式(II)の化合物の0.5〜1.12倍の分子量を有する化合物の割合が少なくとも60質量%であり、
一般式(II)の化合物の1.12〜1.53倍の分子量を有する化合物の割合が30質量%未満であり、かつ
一般式(II)の化合物の1.53〜2.53倍の分子量を有する化合物の割合が2.5質量%未満であることを特徴とする、低いオリゴマー含量を有するエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
エポキシ樹脂組成物の絶対粘度が2000mPas未満である、請求項6又は7記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
塗料及び電子工業用のコーティング材料、封止材料及びシール材料における、請求項6から8までのいずれか1項記載のエポキシ樹脂組成物の使用。
【請求項10】
エポキシ樹脂組成物をLEDsの封止に使用する、請求項9記載の使用。
【請求項11】
シール材料及び/又は封止材料を有し、請求項7又は8のいずれか1項記載の又は請求項1から7までのいずれか1項記載の方法により得られるエポキシ樹脂組成物を、未硬化形又は硬化された形で含有する、LED。
【請求項12】
請求項7又は8のいずれか1項記載の又は請求項1から7までのいずれか1項記載の方法により得られた、未硬化形又は硬化された形のエポキシ樹脂組成物を含有する材料から製造された光学レンズ。

【公表番号】特表2010−511758(P2010−511758A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539716(P2009−539716)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【国際出願番号】PCT/EP2007/063100
【国際公開番号】WO2008/068205
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】