説明

エンジンの制御装置

【課題】成層燃焼を実行するエンジンにおいて、点火プラグの破損を防止することを目的とする。
【解決手段】エンジン1を備えたハイブリッドシステム2は、断熱性能を高めたシリンダヘッド13により区画された燃焼室11内に、燃料を噴射する第1燃料噴射弁16と、燃焼室11内の燃料に点火する点火プラグ17と、ECU25トを備え、ECU25による制御では、エンジン1の始動時に、点火プラグ17の温度が所定値以上である場合、第1燃料噴射弁16からの噴射を中止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンにおける燃料の燃焼形態として、気筒内へ直接、燃料を噴射することにより、点火時点において点火プラグ近傍だけに着火性の良好な混合気を形成し、気筒内全体として燃料が希薄な混合気の燃焼を可能にする成層燃焼が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1の筒内噴射式火花点火内燃機関は、圧縮工程において燃料を噴射し、点火プラグ近傍に混合気を形成して成層燃焼を実施する。この内燃機関において、始動時に触媒暖機のため排気ガス温度を高めるときには、圧縮上死点近傍において強い貫徹力の燃料を噴射し、点火プラグによる点火時期を膨張行程中期とする。これにより、筒内全体への噴霧の拡散を抑え、点火プラグ近傍へ混合気を形成し、成層燃焼を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−36461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、成層燃焼は、点火プラグ近傍に燃料を噴射するため、点火プラグに燃料の噴霧が衝突することがある。点火プラグが高温である場合、高温の点火プラグに噴霧が衝突すると、点火プラグを構成する碍子に大きな熱衝撃がかかり、碍子が破損することが考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、成層燃焼を実行するエンジンにおいて、点火プラグの破損を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決する本発明のエンジンの制御装置は、燃焼室内に燃料を噴射する第1燃料噴射弁と、前記燃焼室内の燃料に点火する点火プラグと、前記点火プラグの温度が所定値以上である場合、前記第1燃料噴射弁からの噴射を中止する制御手段と、を備えたことを特徴とする。これにより、高温の点火プラグに燃料噴霧が衝突することが防がれるため、点火プラグの破損を防止することができる。
【0008】
上記のエンジンの制御装置において、前記制御手段は、前記点火プラグの温度が所定値以上の場合、前記燃焼室内へ供給される吸気が流通する吸気通路に設けられた第2燃料噴射弁から燃料を噴射させることとしてもよい。これにより、燃焼室内へ供給される混合気は燃焼室内で拡散するため、点火プラグに燃料が衝突することを防ぐことができる。これにより、点火プラグの破損を防止できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、高温の点火プラグに燃料が衝突することを防ぐことにより、成層燃焼を実行するエンジンにおいて、点火プラグの破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】エンジンを組み込んだハイブリッドシステムを搭載した車両を示した説明図である。
【図2】エンジンの燃焼室を示した説明図である。
【図3】シリンダヘッドとシリンダブロックを示した概略構成図である。
【図4】クランク角度に応じた燃焼室の熱伝達率および表面積割合を示した説明図である。
【図5】エンジンの始動時の燃料噴射についての制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための一形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
本発明の実施例1について図面を参照しつつ説明する。図1は本発明のエンジン1を組み込んだハイブリッドシステム2を搭載した車両100を示した説明図である。ハイブリッドシステム2はエンジン1とともに、モータ3を備えている。ハイブリッドシステム2は、動力分配機構4によりエンジン1の出力を車輪5及びジェネレータ6へ分配し、車輪5へ動力を伝達するとともに、バッテリー7への充電を可能とする。また、ハイブリッドシステム2は、エンジン1とモータ3とを併用して車輪5へ動力を伝達することもできる。さらに、ハイブリッドシステム2は、ECU(Electronic Control Unit)25を備え、エンジン1やモータ3を制御する。
【0013】
図2は、エンジン1に複数形成された燃焼室11の1つを示した説明図である。エンジン1は、ピストン12、シリンダヘッド13、シリンダブロック14を備えている。シリンダブロック14の内側にはシリンダライナ15が設けられており、シリンダライナ15に沿ってピストン12が摺動する。エンジン1の燃焼室11は、ピストン12、シリンダヘッド13、シリンダライナ15により区画されて形成されている。シリンダヘッド13には、燃焼室11内に燃料を噴射する第1燃料噴射弁16と、燃焼室11内の燃料の混合気に点火する点火プラグ17とが設けられている。また、シリンダヘッド13には、燃焼室11内へ吸気を供給する吸気ポート18、排気ポート19が形成されている。吸気ポート18に接続する吸気通路20に、吸気通路20を流れる吸気へ燃料を噴射する第2燃料噴射弁21が設けられている。
【0014】
図3は、エンジン1のシリンダヘッド13とシリンダブロック14を示した概略構成図である。シリンダヘッド13、シリンダブロック14には冷却水が流通する第1ウォータジャケット22aと第2ウォータジャケット22bが形成されている。第1ウォータジャケット22aは、シリンダヘッド13のうち、点火プラグ17周辺と、排気ポート19が形成された側の部分に冷却水を流通させるとともに、シリンダブロック14のうち、排気ポート19が形成された側の部分に冷却水を流通させる。
【0015】
第2ウォータジャケット22bは、シリンダヘッド13のうち、吸気ポート18が形成された側の部分に冷却水を流通させるとともに、シリンダブロック14のうち、吸気ポート18が形成された側の部分に冷却水を流通させる。
【0016】
第1ウォータジャケット22a、第2ウォータジャケット22bのそれぞれは、シリンダブロック14側から冷却水が流入し、シリンダヘッド13側へ冷却水が流出する縦流しの構造を有している。また、エンジン1の出力を取り出す側をリア側として、第1ウォータジャケット22a、第2ウォータジャケット22bのそれぞれは、エンジン1のフロント側から冷却水が流入し、リア側から冷却水が流出する構造になっている。また、エンジン1には第2ウォータジャケット22bを流通する冷却水の流量を調整する調整弁23が設けられている。
【0017】
また、エンジン1は、点火プラグ17の温度を検出する温度センサ24を備えている。ECU25は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、入出力ポートを双方向バスで接続した公知の形式のディジタルコンピュータからなり、エンジン1を含むハイブリッドシステム2の制御のために設けられている各種センサや作動装置と信号をやり取りしてハイブリッドシステム2を制御する。本実施例においては、ECU25と温度センサ24とが電気的に接続されており、温度センサ24の出力信号、すなわち、検出される点火プラグ17の温度に基づいて、以降で述べる制御を実行する。また、第1燃料噴射弁16、第2燃料噴射弁21、調整弁23のそれぞれが、ECU25と電気的に接続されており、ECU25からの作動信号により、動作する。
【0018】
次に、本実施例のエンジン1の特徴について説明する。エンジン1は、始動時に第1燃料噴射弁16から燃料を噴射することにより、点火プラグ17近傍に混合気を形成することにより、燃焼室全体での混合比を低減する成層燃焼を行う。さらに、エンジン1はシリンダヘッド13を断熱して、冷却損失を低減するとともに、ノッキングを改善する。
【0019】
ここで、エンジン1の冷却損失について説明する。図4はクランク角度に応じた燃焼室の熱伝達率および表面積割合を示した説明図である。図4に示すように、熱伝達率は圧縮行程上死点付近で高まることがわかる。そして表面積割合については、圧縮行程上死点付近でシリンダヘッド13とピストン12の表面積割合が大きくなることがわかる。したがって、冷却損失は、シリンダヘッド13の温度の影響が大きく現われる。反対に、燃焼室11の内壁温度が上昇することにより、ノッキングが誘発される。
【0020】
エンジン1は冷却損失を低減する目的で、調整弁23により、第2ウォータジャケット22bへ供給する冷却水の流量を低減し、シリンダヘッド13、及びシリンダブロック14の吸気ポート18側の冷却を抑制する。これにより、シリンダヘッド13の冷却が抑制されるので、冷却損失が減少する。一方、第1ウォータジャケット22aへ供給される冷却水量は変わらないため、排気ポート19側の冷却能力が維持される。構造上、排気ガスが通過する排気ポート19は、高温になる。排気ポート19側への冷却水の供給により、高温になりがちな排気ポート19側が冷却され、燃焼室11の内壁温度の上昇が防がれてノッキングの発生を抑制する。このようにエンジン1では、第2ウォータジャケット22bへの冷却水の供給を低減し、シリンダヘッド13の冷却を抑制してシリンダヘッド13の断熱性を高めている。このため、シリンダヘッド13は高温の状態で維持される。
【0021】
また、エンジン1はハイブリッドシステム2へ組み込まれているため、モータ3のみの駆動時には停止している。従って、エンジン1は、一旦始動した後に停止し、再度、始動する際に、エンジン1自体の暖機が完了している場合がある。以下では、このような再始動時の燃料噴射についての制御について説明する。図5はエンジン1の始動時の燃料噴射についての制御のフローチャートである。以下、図5を参照しつつ説明する。
【0022】
この制御はECU25により処理され、エンジン1が始動する際に開始される。ECU25はステップS1において、エンジン1が高温の状態で始動するか否かを判断する。エンジン1が高温の状態である場合、以降の制御処理を行う。エンジン1の温度は、例えば、シリンダヘッド13やシリンダブロック14の温度、または、冷却水の温度に基づいて取得することができる。また、エンジン1の温度は、燃焼室11内の温度と相関関係のある情報に基づいて取得することとしてもよい。エンジン1が高温の状態であるとの判断は次のようにすることができる。例えば、エンジン1が暖機を完了している場合、エンジン1が高温の状態であると判断することができる。ECU25はステップS1において、YESと判断する場合、すなわち、エンジン1が高温の状態で始動すると判断する場合、ステップS2へ進む。
【0023】
ECU25はステップS2において、プラグ温度Tが所定値T以上か否かを判断する。ECU25は温度センサ24から点火プラグ17の温度、すなわち、プラグ温度Tを取得し、所定値Tと比較する。所定値Tは、燃料噴射時の燃料の温度、噴射量との関係で、点火プラグ17を構成する碍子が熱衝撃により破損しない程度の温度である。ECU25はYESと判断する場合、すなわち、プラグ温度Tが所定値T以上であると判断する場合、ステップS3へ進む。
【0024】
ECU25はステップS3において、成層燃焼を中止する。成層燃焼は、第1燃料噴射弁16による筒内噴射により実現される。したがって、成層燃焼を中止するとは、第1燃料噴射弁16からの燃料噴射を中止することである。すなわち、ECU25はエンジン1の始動時に、点火プラグ17の温度(プラグ温度T)が所定値T以上である場合、第1燃料噴射弁16からの噴射を中止する。ここでの条件として、点火プラグ17は高温であるため、点火プラグ17よりも低温の燃料が衝突した場合には、点火プラグ17に熱衝撃が生じる。ところが、上記の通り、第1燃料噴射弁16からの噴射が中止されるので、燃料が点火プラグ17に衝突することが防がれる。これにより、点火プラグ17における熱衝撃が防がれるため、点火プラグ17を構成する碍子の破損が防止される。
【0025】
ECU25はステップS3の次にステップS4へ進む。ECU25はステップS4において、均質燃焼を実行する。すなわち、ECU25は、点火プラグ16の温度が所定値T以上の場合、第2燃料噴射弁21から燃料を噴射させる。これにより、吸気ポート18において混合気が生成される。この場合、燃焼室11に供給された混合気は燃焼室11内で拡散するため、燃料が点火プラグ17へ衝突することが防がれ、熱衝撃による点火プラグ17の碍子の破損が防止される。ECU25はステップS4の処理を終えるとリターンとなる。
【0026】
一方、ECU25はステップS1において、NOと判断する場合、すなわち、エンジン1が高温の状態で始動しないと判断する場合、ステップS4へ進む。また、ECU25はステップS2において、NOと判断する場合、すなわち、プラグ温度Tが所定値T未満であると判断する場合、ステップS4へ進む。
【0027】
ECU25はステップS5において、成層燃焼を実行する。すなわち、第1燃料噴射弁16から燃料を噴射し、エンジン1を始動する。これにより、効率よくエンジン1を始動できる。ECU25はステップS5の処理を終えるとリターンとなる。
【0028】
以上のように、シリンダヘッド13の断熱性能を高め、熱効率を高めたエンジン1において、高温状態で始動する場合、点火プラグ17の温度Tを検出し、温度Tが所定値Tよりも高い場合、燃焼室11への直接噴射を停止する。これにより、点火プラグ17に燃料が衝突することが防がれ、点火プラグ17の破損を防止する。
【0029】
上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、さらに本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。例えば、本発明のエンジンの制御装置は、ハイブリッドシステムに限られず、上記の制御を行うエンジンの制御装置であればよい。
【0030】
また、上記の実施例では、シリンダヘッド13、及びシリンダブロック14の吸気ポート18側の冷却を抑制することにより、エンジン1の冷却損失を低減するが、特に、この構成に限定されるものではない。上記の構成は、シリンダヘッド13における熱の移動量がシリンダブロック14における熱の移動量に対して少なくなるようにシリンダヘッド13を断熱化する構成であればよい。例えば、シリンダヘッド13の燃焼室11に露出した部分に断熱部材を配置することにより、シリンダヘッド13を燃焼室11から断熱する構造を有することができる。この断熱部材として、例えば、シリンダヘッド13を構成する材料よりも熱伝導率の小さい部材を選択できる。これにより、シリンダヘッド13はシリンダブロック14よりも熱の移動量が減少し、シリンダヘッド13における冷却損失を低減できる。また、他の例として、シリンダブロック14からシリンダヘッド13への熱伝導を防ぐ構成であってもよい。例えば、シリンダヘッド13のシリンダブロック14側の面に断熱部材を配置することにより、シリンダブロック14からシリンダヘッド13への熱伝導を防ぎ、シリンダヘッド13における熱の移動量がシリンダブロック14における熱の移動量に対して少なくすることができる。これにより、シリンダヘッド13における冷却損失を低減できる。また、これらの構成は、互いに組み合わせてもよいし、上記実施例で述べた構成と組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 エンジン
2 ハイブリッドシステム
11 燃焼室
12 ピストン
13 シリンダヘッド
14 シリンダブロック
15 シリンダライナ
16 第1燃料噴射弁
17 点火プラグ
20 吸気通路
21 第2燃料噴射弁
25 ECU(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室内に燃料を噴射する第1燃料噴射弁と、
前記燃焼室内の燃料に点火する点火プラグと、
前記エンジンの始動時に、前記点火プラグの温度が所定値以上である場合、前記第1燃料噴射弁からの噴射を中止する制御手段と、
を備えたことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記点火プラグの温度が所定値以上の場合、前記燃焼室内へ供給される吸気が流通する吸気通路に設けられた第2燃料噴射弁から燃料を噴射させることを特徴とした請求項1記載のエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−180813(P2012−180813A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45723(P2011−45723)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】