説明

エンジンの始動時制御装置

【課題】高温再始動時に、スロットル弁下流のエアチャンバに充満されている水蒸気が気筒に吸入されても、空燃比がリッチ化せず、失火発生が防止されて、良好な始動性を得ることができるようにする。
【解決手段】雨滴センサ38で降水状態と判定すると(S30)、車速Sとスロットル開度θthとエンジン回転数Neと吸気温度Tarとに基づき走行状態が、スロットル弁5a下流のエアチャンバ4に結露の発生する環境否かを調べ(S31〜S34)、結露の発生する環境と判定した場合、次回の再始動時が高温再始動のときは、スロットル弁5aの開度を増加させて、吸入空気量を増量して、空燃比のリッチ化を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロットル弁下流のボリューム室に水蒸気が充満している高温状態にあっても、空燃比のリッチ化を防止して良好な再始動性を得ることのできるエンジンの始動時制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スロットル弁下流に、インタクーラ等、容量の比較的大きなボリューム室を備えるエンジンでは、雨天時等、高湿度の環境条件下で走行を継続させると、ボリューム室の壁面に結露による水滴が付着する。高負荷運転直後にエンジンを停止させると、ボリューム室の壁面に付着されている水滴が、エンジンからの輻射熱により蒸発し、この水蒸気がボリューム室に充満する。
【0003】
ボリューム室内に水蒸気が充満されている状態で再始動を行うと、この水蒸気が気筒に吸い込まれるため、相対的に、気筒に供給される空気量が少なくなる。その結果、空燃比がリッチとなり、失火の原因になる。
【0004】
例えば特許文献1(特開昭58−74856号公報)には、吸気通路内を通過する空気の湿度を検知し、この湿度情報に基づいて燃料噴射量を補正する技術が開示されている。
【0005】
又、特許文献2(特開2002−256932号公報)には、エンジン停止直後の輻射熱により気化された壁面付着燃料が、再始動時に気筒に供給されて空燃比がオーバリッチとなることを防止するため、高温再始動時には、スロットル弁をバイパスするバイパス通路に介装されているアイドル制御弁の弁開度を大きくし、吸入空気量を増量させて始動時の空燃比を適正化する技術が開示されている。
【特許文献1】特開昭58−74856号公報
【特許文献2】特開2002−256932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されている技術では、通常運転時における吸気通路を通過する空気の湿度を検知しているに過ぎないため、ボリューム室に既に発生しており、エンジン始動により気筒へ吸入される水分(水蒸気)を検出することは出来ない。
【0007】
又、特許文献2に開示されている技術では、エンジン始動時における壁面付着燃料の蒸発率を、直前のエンジン停止時の冷却水温と始動時の冷却水温及び吸気温度に基づいて燃料を推定しているが、ボリューム室はエンジン本体から比較的離れた位置に配設されているため、冷却水温の変化から蒸発率を推定することは出来ない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、高温再始動時にスロットル弁下流のボリューム室に水蒸気が充満されており、これが気筒に吸入されても、空燃比のリッチ化による失火発生を防止し、良好な始動性を得ることのできるエンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明は、エンジン温度を検出するエンジン温度検出手段と、空燃比を可変設定する空燃比可変手段と、外気中の水分を検出する水分検出手段と、走行状態を検出する走行状態検出手段と始動時空燃比を演算する空燃比演算手段とを備えるエンジンの始動時制御装置において、前記空燃比演算手段に、前記水分検出手段で検出した外気中の水分と前記走行状態検出手段で検出した走行状態とに基づき、該走行状態がスロットル弁下流のボリューム室に結露が発生する環境か否かを判定する結露発生判定手段と、エンジン温度検出手段で検出したエンジン停止直前のエンジン温度と再始動時のエンジン温度とに基づき高温再始動か否かを判定する高温再始動判定手段と、前回のエンジン運転時に前記結露発生判定手段で結露発生と判定し、且つ前記高温再始動判定手段で高温再始動と判定したとき、前記空燃比をリーン補正する補正値を設定する空燃比補正値設定手段と、エンジン温度に基づいて設定した基本空燃比設定値を、前記空燃比補正値設定手段で設定した補正値で補正して始動時空燃比を設定する始動時空燃比設定手段とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エンジン停止前の外気中の水分と走行状態とに基づき、スロットル弁下流のボリューム室に結露が発生する環境にあると判断した場合、その後の再始動が高温再始動の場合は、ボリューム室に充満している水蒸気による空燃比のリッチ化を防止するため、空燃比をリーン補正するようにしたので、高温再始動時にスロットル弁下流のボリューム室に充満している水蒸気が気筒に吸入されても、空燃比がリッチ化することが無く、従って、失火発生を防止することができて、良好な始動性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1にエンジンの全体概略構成図、図2に電子制御系の回路構成図を示す。
【0012】
先ず、図1に基づいてエンジンの全体構成について説明する。同図の符号1はエンジン本体であり、本実施形態においては水平対向型4気筒ガソリンエンジンが示されている。このエンジン本体1のシリンダブロック1aの左右両バンクには、シリンダヘッド2がそれぞれ設けられ、各シリンダヘッド2に吸気ポート2aと排気ポート2bとが気筒毎に形成されている。
【0013】
エンジン本体1の吸気系としては、シリンダヘッド2の各吸気ポート2aにインテークマニホルド3が連通され、このインテークマニホルド3に、各気筒の吸気通路が集合する、ボリューム室としてのエアチャンバ4を介して、 空燃比を可変設定する空燃比可変手段としてのスロットル弁5aを介装するスロットルチャンバ5が連通されている。更に、スロットルチャンバ5の上流側に吸気管6を介してエアクリーナ7が取り付けられ、このエアクリーナ7がエアインテークチャンバ8に連通されている。又、スロットル弁5aはスロットルアクチュエータ10に連設されており、後述する電子制御装置(ECU)40からの駆動信号に基づいて開閉動作される電子制御スロットル装置(ETC)を構成している。
【0014】
又、インテークマニホルド3の各気筒の吸気ポート2aの直上流側に、インジェクタ11が気筒毎に配設され、この各インジェクタ11が燃料供給路12を介して燃料タンク13に連通されている。燃料タンク13には、インタンク式の燃料ポンプ14が設けられており、燃料ポンプ14からの燃料が、燃料供給路12に介装された燃料フィルタ15を経てインジェクタ11及びプレッシャレギュレータ16に圧送され、プレッシャレギュレータ16から燃料タンク13にリターンされてインジェクタ11への燃料圧力が所定に調圧される。又、各気筒毎に点火プラグ17が配設されており、各点火プラグ17にイグナイタ19が接続されている。
【0015】
一方、エンジン本体1の排気系としては、シリンダヘッド2の各排気ポート2bに連通するエキゾーストマニホルド20の集合部に排気管21が連通され、この排気管21に触媒22が介装されてマフラ23に連通されている。
【0016】
次に、エンジン運転状態を検出する各種センサ類について説明する。吸気管6のエアクリーナ7の直下流に、吸入空気量を計測する吸入空気量センサ24aと吸入空気の温度を計測する吸気温センサ24bとを一体に内蔵する吸入空気量・吸気温計測ユニット24が介装されている。又、スロットルチャンバ5に設けられたスロットル弁5aに、スロットル弁5aの開度を検出するスロットル開度センサ25が連設されている。
【0017】
又、エンジン本体1のシリンダブロック1aにノックセンサ26が取り付けられると共に、シリンダブロック1aの左右バンクを連通する冷却水通路27に、エンジン温度を間接的に検出するエンジン温度検出手段としての冷却水温センサ28が臨まされている。更に、触媒22の上流に排気センサの一例であるO2センサ29が臨まされている。
【0018】
又、エンジン本体1のクランクシャフト30に軸着するクランクロータ31の外周に、クランク角を検出するクランク角センサ32が対設され、更に、クランクシャフト30に対して1/2回転するカムシャフト33に連設するカムロータ34に、現在の燃焼行程気筒、燃料噴射対象気筒や点火対象気筒を判別する気筒判別センサ35が対設されている。
【0019】
次に、図2に基づき、エンジン本体1を制御する電子制御系の構成について説明する。インジェクタ11、イグナイタ19,スロットル弁5a等のアクチュエータ類に対する制御量の演算や制御信号の出力、すなわち、燃料噴射制御、点火時期制御、アイドル回転数制御等のエンジン制御は、図2に示す電子制御装置(ECU)40によって行われる。
【0020】
ECU40は、CPU41、ROM42、RAM43、バックアップRAM44、カウンタ・タイマ群45、及びI/Oインターフェイス46がバスラインを介して互いに接続されるマイクロコンピュータを中心として構成され、各部に安定化電源を供給する定電圧回路47、I/Oインターフェイス46に接続される駆動回路48及びA/D変換器49等の周辺回路が内蔵されている。尚、カウンタ・タイマ群45は、各種のソフトウエアカウンタ・タイマとして用いられる。
【0021】
定電圧回路47は、電源リレー50の第1のリレー接点を介してバッテリ51に接続されると共に、直接、バッテリ51に接続されており、イグニッションスイッチ52がONされて電源リレー50の接点が閉になるとECU40内の各部へ電源を供給する一方、イグニッションスイッチ52のON,OFFに拘らず、常時、バックアップRAM44にバックアップ用の電源を供給する。更に、バッテリ51には、燃料ポンプリレー53のリレー接点を介して燃料ポンプ14が接続されている。尚、電源リレー50の第2のリレー接点には、バッテリ51から各アクチュエータに電源を供給する電源線が接続されている。
【0022】
I/Oインターフェイス46の入力ポートには、イグニッションスイッチ52、ノックセンサ26、クランク角センサ32、気筒判別センサ35、車速を検出する車速センサ36、及びフロントガラス等に付着する雨滴から降水を代表とする外気中の水分を検出する水分検出手段としての雨滴センサ38等が接続されている。尚、水分検出手段は、雨滴センサ38に限らず、ワイパスイッチで代用することも可能であり、或いは車外湿度を検出する湿度センサを採用しても良い。但し、湿度センサはA/D変換器49に接続する。尚、各センサ24a,24b,25,32,36で、走行状態を検出する走行状態検出手段を構成している。
【0023】
更に、このI/Oインターフェイス46の入力ポートには、A/D変換器49を介して、吸入空気量センサ24a、スロットル開度センサ25、冷却水温センサ28、O2センサ29、吸気温センサ24b、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ37等が接続されると共に、バッテリ電圧VBが入力されてモニタされる。一方、I/Oインターフェイス46の出力ポートには、電源リレー50、燃料ポンプリレー53の各リレーコイル、スロットル弁5a、及び、インジェクタ11等が駆動回路48を介して接続されると共に、イグナイタ19が接続されている。
【0024】
CPU41では、ROM42に記憶されている制御プログラムに従って、I/0インターフェイス46を介して入力されるセンサ・スイッチ類からの検出信号、及びバッテリ電圧等を処理し、RAM43に格納される各種データ、及びバックアップRAM44に格納されている各種学習値データ、ROM42に記憶されている固定データ等に基づき、燃料噴射量、点火時期に対する駆動信号のデューティ比等を演算し、スロットル開度制御、燃料噴射制御、点火時期制御、アイドル回転数制御等のエンジン制御を行う。
【0025】
ECU40は、始動時空燃比を演算する空燃比演算手段としての機能を有し、再始動自おいて、前回のエンジン運転時に結露発生と推定し、且つ今回のエンジン始動が高温再始動と判定されたときは、エアチャンバ4内が水蒸気で充満しており、その水蒸気が気筒に吸入されることによる空燃比のリッチ化を防止するため、スロットル弁5aの開度を増加させ吸入空気量を増量して、空燃比をリーン補正する制御を行う。
【0026】
ECU40によって実行される始動時制御は、具体的には、図3〜図8に示すフローチャートに従って処理される。
【0027】
図3は始動時冷却水温取得ルーチンであり、イグニッションスイッチ52がONされて、ECU40に電源が投入されたとき、1回のみ実行される。このルーチンでは、ステップS10で、冷却水温センサ28で検出した現在の冷却水温TWNを、今回のイグニッションスイッチ52をONしたときの始動時水温STARTTWとしてRAM43に記憶し(STARTTW←TWN)、ルーチンを終了する。尚、この始動時水温STARTTWは、後述する始動時スロットル開度補正係数設定ルーチンにおいて読込まれる。
【0028】
又、図4に示すエンジン停止時冷却水温取得ルーチンは、所定クランク角毎に実行される。すなわち、このルーチンでは、ステップS20で、冷却水温センサ28で検出した現在の冷却水温TWNを、停止時水温LASTTWとしてバックアップRAM44に格納し(LASTTW←TWN)、ルーチンを抜ける。尚、この停止時水温LASTTWは、後述する始動時スロットル開度補正係数設定ルーチンにおいて読込まれる。又、この停止時水温LASTTWは、最新の冷却水温TWNにて順次更新されるため、イグニッションスイッチ52をOFFしたときは、エンジン停止直前の冷却水温TWNが停止時水温LASTTWとして格納される。
【0029】
又、エンジン始動後、所定時間経過すると、図5に示す結露状態判定処理ルーチンが所定演算周期(例えば1[sec])毎に実行される。
【0030】
このルーチンでは、先ず、ステップS30で、雨滴センサ38からの信号に基づき降水状態かどうかを判定する。雨滴センサ38はフロントガラスに付着する雨滴を監視しており、ECU40では、この雨滴センサ38からの信号に基づき降水状態にあるか否かを判定する。そして、降水状態にあると判定したときはステップS31へ進む。又、降水状態に無いと判定したときはステップS39へ分岐する。尚、雨滴センサ38に代えてワイパスイッチを採用している場合は、ワイパスイッチがONされて、その状態が設定時間以上継続されているとき降水状態と判定する。又、雨滴センサ38に代えて湿度センサを採用する場合は、湿度センサで検出した湿度と予め設定したしきい値とを比較し、湿度がしきい値を越えている場合、降水状態(高湿度状態)と判定する。
【0031】
その後、ステップS31へ進むと、このステップS31〜S37で、走行状態が結露の発生する環境にあるか否かを調べる。
【0032】
すなわち、ステップS31では、車速センサ36で検出した車速Sを読込み、予め設定されている結露判定車速Soと比較する。結露はエアチャンバ4の内壁面が露点温度以下となることにより発生する。エアチャンバ4は走行時においては走行風により冷却されるため、エアチャンバ4が露点温度以下となる走行風の発生する車速を予め実験などから求め、これを結露判定車速Soとして設定する。
【0033】
そして、S<Soのときは、エアチャンバ4の壁面が露点温度以下となる可能性が無いため、ステップS39へ分岐する。又、S≧Soのときは、エアチャンバ4が露点温度以下まで冷却される可能性があるため、ステップS32へ進む。
【0034】
ステップS32では、スロットル開度センサ25で検出したスロットル開度θthと予め設定した結露判定用スロットル開度θthoとを比較する。又、ステップS33では、クランク角センサ32から出力される所定クランク角毎のクランク角パルスに基づき求めたエンジン回転数Neと予め設定した結露判定用エンジン回転数Neoとを比較する。
【0035】
上述したようにエアチャンバ4の内壁面が露点温度以下になると結露が発生する。このエアチャンバ4の内壁面は吸入空気により冷却される。吸気流量が一定の場合、吸気流速が速ければ冷却効率は高くなり、又、吸気流速が一定の場合、吸気流量が多ければ冷却効率は高くなる。結露判定用スロットル開度θthoと結露判定用エンジン回転数Neoは、上述した関係に基づき予め実験等から求めた結露の発生が予測できる吸気流量、及び吸気流速に基づいて設定されている。
【0036】
そして、ステップS32でθth≧θthoと判定され、且つ、ステップS33でNe≧Neと判定された場合、ステップS34へ進む。又、ステップS32でθth<θthoと判定され、或いは、ステップS33でNe<Neoと判定された場合、ステップS39へ分岐する。
【0037】
ステップS34へ進むと、吸気温センサ24bで検出した吸気温Tarと結露判定用吸気温度Taroとを比較する。尚、車両に外気温センサが搭載されている場合は、吸気温センサ24bに代えて、外気温センサで検出した外気温を適用しても良い。
【0038】
空気の飽和水蒸気量は吸気温度(外気温)と共に上昇するため、降水状態であっても吸気温度(外気温)が低い場合、エアチャンバ4の内壁に結露は発生し難い。結露判定用吸気温度Taroは、予め実験などから結露の発生しない吸気温度(外気温)を求めて設定されている。
【0039】
そして、Tar≧Taroと判定されたときは、ステップS35へ進み、Tar<Taroと判定されたときは、ステップS39へ分岐する。
【0040】
ステップS30〜S34の判定条件を全て満足してステップS35へ進むと、タイマカウンタのカウント値Cをインクリメントし(C←C+1)、ステップS36へ進み、吸入空気量センサ24aで検出した吸入空気量Qに基づき、判定基準値Coを設定する。この判定基準値Coは、外界が降水状態で、且つ結露の発生する走行条件が継続しており、エアチャンバ4に付着する水滴の量が、高温再始動時に空燃比に影響を及ぼす程の水蒸気となるまでの時間に相当する値であり、予め実験等により吸入空気量Qとその積算時間(判定基準値Co)との関係を調べ、テーブルデータとして格納されている。
【0041】
次いで、ステップS37へ進み、タイマカウンタのカウント値Cが判定基準値Coに達したか否かを調べ、C<Coのときは、そのままルーチンを抜ける。一方、C≧Coのとき、ステップS38へ進み、結露判定フラグFをセットして(F←1)、ルーチンを抜ける。尚、ステップS30〜S37での処理が結露発生判定手段に相当する。
【0042】
一方、ステップS30〜S34の何れかからステップS39へ進むと、タイマカウンタのカウント値Cをクリアし(C←0)、ステップS40で結露判定フラグFをクリアして(F←0)、ルーチンを抜ける。尚、結露判定フラグFの値は、バックアップRAM44に記憶され、次回の始動時に読込まれる。
【0043】
又、イグニッションスイッチ52をONすると、図6に示す始動時制御ルーチンが所定時間(例えば10[msec])毎に実行される。このルーチンでは、先ず、ステップS50で、イグニッションスイッチ52がONか否かを調べる。そして、イグニッションスイッチ52がONのときは始動操作中であると判断し、ステップS53へジャンプする。又、イグニッションスイッチ52がOFFのときは、ステップS51へ進み、エンジン回転数Neが0か否か、すなわちエンジン停止状態にあるか否かを調べる。そして、Ne>0のエンジン稼働中のときは、ステップS52へ進み、Ne=0の停止中のときはルーチンを抜ける。
【0044】
ステップS52では、エンジン回転数Neと始動時のエンジン回転数Ne(例えば600[rpm])とを比較し、Ne≦Nestの始動中と判定したときは、ステップS53へ進む。又、Ne>Nestの始動後と判定したときは、ルーチンを抜け、通常時制御へ移行する。
【0045】
そして、ステップS53へ進むと、このステップS53以降で、始動時処理が実行される。先ず、ステップS53では、エンジン始動時のスロットル弁5aを通過する吸気の基本流量を定める基本空燃比設定値としての始動時基本スロットル開度THSTAを、冷却水温TWNに基づくテーブルを参照して設定する。図のステップS53中に示すように、始動時基本スロットル開度THSTAは、始動時の冷却水温TWNが低いほど大きな値に設定され、冷却水温TWNが高くなるに従い小さな値に設定される。
【0046】
次いで、ステップS54で、高温再始動時に、始動時基本スロットル開度THSTAを補正して吸入空気量を増加させるための始動時スロットル開度補正係数THSTARTを読込む。この始動時スロットル開度補正係数THSTARTは、図7に示す始動時スロットル弁開度補正係数設定ルーチンで設定される。尚、始動時スロットル弁開度補正係数設定ルーチンについては後述する。
【0047】
その後、ステップS55へ進むと、始動時基本スロットル開度THSTAに始動時スロットル開度補正係数THSTARTを乗算し、スロットル弁5aの開度を制御するための最終的な、始動時空燃比としての始動時スロットル開度DTHを算出する(DTH←THSTA・THSTART)。そして、ステップS56で、始動時スロットル開度DTHをセットし、ルーチンを抜ける。尚、この始動時制御ルーチンが始動時空燃比設定手段に相当する。
【0048】
この始動時スロットル開度DTHに相当する駆動信号が、スロットルアクチュエータ10へ出力されて、スロットル弁5aの開度が制御される。尚、スロットル弁5aの上流と下流とがバイパス通路で連通されており、このバイパス通路にアイドル制御(ISC)弁が介装されているエンジンでは、始動時スロットル開度DTHで、ISC弁の開度を制御するようにしても良い。
【0049】
次に、図7に示す始動時空燃比補正係数設定ルーチンについて説明する。このルーチンは、所定演算周期(例えば、40[msec])毎に実行される。
【0050】
先ず、ステップS61で、バックアップRAM44に格納されている、停止時水温LASTTWから、現在の始動時水温STARTTWを減算して、始動時差温ΔLTTWを算出する(ΔLTTW←LASTTW−STARTTW)。
【0051】
続く、ステップS62で、停止時水温LASTTWが判定しきい値KILSTTWH(例えば、80[℃])以下か否かを調べる。判定しきい値KILSTTWHは、前回、高温状態下においてエンジン停止したか否かを判断するための値であり、LASTTW≦KILSTTWHの場合は、高温状態前のエンジン停止であると判定し、ステップS68へ分岐し、始動時スロットル開度補正係数THSTARTを、初期値である1.0に設定して(THSTART←1.0)、ルーチンを抜ける。
【0052】
又、ステップS62において、LASTTW>KILSTTWHの高温状態下でのエンジン停止と判定したときは、ステップS63へ進み、始動時差温ΔLTTWと判定しきい値ΔLTTWoとを比較する。この判定しきい値ΔLTTWoは、今回のエンジン始動が、高温状態からの再始動か否かを判定する値であり、本実施形態では、ΔLTTWo=3[℃]に設定されている。
【0053】
そして、ΔLTTW>ΔLTTWoの場合は、高温再始動では無いと判定し、ステップS68へ分岐し、始動時スロットル開度補正係数THSTARTを1.0に設定して(THSTART←1.0)、ルーチンを抜ける。又、ΔLTTW≦ΔLTTWoの場合は、高温再始動と判定し、ステップS64へ進む。
【0054】
ステップS64では、バックアップRAM44に記憶されている結露判定フラグFの値を参照し、F=1の結露有りの場合は、ステップS65へ進む。又、F=0の結露無しの場合は、ステップS68へ進み、始動時スロットル開度補正係数THSTARTを1.0に設定して(THSTART←1.0)、ルーチンを抜ける。
【0055】
ステップS65では、始動時差温ΔLTTWに基づいて第1補正係数テーブルTB1を補間計算付で参照して第1の補正係数THSTT1を設定する(THSTT1←TB1(ΔLTTW))。第1の補正係数THSTT1は、高温再始動時において、前回のエンジン停止時からの冷却水温TWNの変化に基づいて、スロットル弁5aの開度を調整して吸入空気量を増加させることで、エアチャンバ4内の水蒸気が気筒に供給される際の空燃比のリッチ化を補償する係数である。より詳細には、スロットル弁5aの制御量のベース値となる始動時基本スロットル開度THSTAに対して、エアチャンバ4内の水蒸気が気筒に流入することによる空燃比のリッチ化を補償することのできる増量率である。
【0056】
図8に第1補正係数テーブルTB1の特性図を示す。この第1の補正係数THSTT1は、始動時差温ΔLTTWをパラメータとして予め実験等により求めたものである。始動時差温ΔLTTWが小さい場合、エンジン停止から高温再始動までの時間が短いため、エアチャンバ4内の水蒸気発生率は低いため、初期値である1.0に設定される。一方、エンジン停止後の経過時間と共に冷却水温は低下するが、その間、エアチャンバ4内の水蒸気発生率は増加するため、始動時差温ΔLTTWの増加に従い空燃比のリッチ化を補償すべく、第1の補正係数THSTT1は大きな値に設定される。しかし、エンジン停止後から再始動までの経過時間が長く、始動時差温ΔLTTWが比較的大きな値、すなわち、エアチャンバ4内の空気温度が低下すると、露点も低下するため水蒸気発生率が低下し、水蒸気は水滴に戻る。従って、気筒に吸入される水蒸気量は少なくなり、第1の補正係数THSTT1の値は次第に初期値(1.0)に戻される。
【0057】
その後、ステップS66へ進むと、吸気温センサ24bで検出した吸気温Tarに基づいて第2補正係数テーブルTB2を補間計算付で参照し、第2の補正係数THSTT2を設定する(THSTT2←TB2(Tar))。第1の補正係数THSTT1が水温差に基づく補正係数であるのに対し、第2の補正係数THSTT2は吸気温に基づく補正係数である。この第2の補正係数THSTT2は、吸気温Tarをパラメータとして予め実験等により、スロットル弁5aの制御量のベース値となる始動時基本スロットル開度THSTAに対し、エアチャンバ4内の水蒸気が気筒に流入することによる空燃比のリッチ化を補償することのできる増量率である。
【0058】
図9に第2補正係数テーブルTB2の特性図を示す。同図に示すように、本実施形態では、エンジンの特性上、第2の補正係数THSTT2を一定値(=1.0)として設定している。従って、簡易的には、第2の補正係数THSTT2を省略することも可能であるが、予め設定しておくことで、設計変更等によりエンジン特性が変化した場合にも、柔軟に対応することが出来る。
【0059】
次いで、ステップS67へ進むと、第1の補正係数THSTT1と第2の補正係数THSTT2とを乗算して始動時スロットル開度補正係数THSTARTを設定し(THSTART←THSTT1・THSTT2)、ルーチンを抜ける。尚、この始動時スロットル開度補正係数設定ルーチンが、空燃比補正値設定手段に相当する。
【0060】
このように、本実施形態によれば、高温再始動時に、エアチャンバ4内の水蒸気が気筒に吸入されても、スロットル弁5aの開度が増加されて、吸入空気量が増量され、空燃比がリーン補正される。その結果、空燃比のオーバリッチが防止されて、失火発生が未然に防止され、良好な始動性を得ることが出来る。
【0061】
しかも、前回のエンジン停止時の冷却水温(停止時水温)LASTTWと再始動時の冷却水温(始動時水温)STARTTWとの差温(始動時差温)ΔLTTW(、及び吸気温Tar)に基づいて、エアチャンバ4内の水蒸気発生率を推定しているため、再始動時のエンジン状態に適応してスロットル弁5aの開度を適正に制御することが出来る。尚、始動時の燃料噴射制御は、従来通りであるため説明を省略する。
【0062】
又、本実施形態では、始動時におけるスロットル弁5aの開度をエアチャンバ4内の水蒸気発生率に応じて増量することで、空燃比を適正化しているが、スロットル弁5aの開度と燃料噴射量との双方を調整することで、空燃比の適正化を図るようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】エンジンの全体概略構成図
【図2】電子制御系の回路構成図
【図3】始動時冷却水温取得ルーチンを示すフローチャート
【図4】エンジン停止時冷却水温取得ルーチンを示すフローチャート
【図5】結露状態判定処理ルーチンを示すフローチャート
【図6】始動時制御ルーチンを示すフローチャート
【図7】始動時スロットル弁開度補正係数設定ルーチンを示すフローチャート
【図8】第1補正係数テーブルTB1の特性図
【図9】第1補正係数テーブルTB1の特性図
【符号の説明】
【0064】
1…エンジン本体、
4…エアチャンバ、
5a…スロットル弁、
10…スロットルアクチュエータ、
24a…吸入空気量センサ、
24b…吸気温センサ、
25…スロットル開度センサ、
28…冷却水温センサ、
36…車速センサ、
37…アクセル開度センサ、
38…雨滴センサ、
ΔLTTW…始動時差温、
ΔLTTWo…判定しきい値、
θth…スロットル開度、
θtho…結露判定用スロットル開度、
C…カウント値、
Co…判定基準値、
DTH…始動時スロットル開度、
F…結露判定フラグ、
KILSTTWH…判定しきい値、
LASTTW…停止時水温、
Ne…エンジン回転数、
Neo…結露判定用エンジン回転数、
Q…吸入空気量、
S…車速、
STARTTW…始動時水温、
So…結露判定車速、
THSTA…始動時基本スロットル開度、
THSTART…始動時スロットル開度補正係数、
THSTT1,THSTT2…補正係数、
TWN…冷却水温、
Tar…吸気温、
Taro…結露判定用吸気温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン温度を検出するエンジン温度検出手段と、空燃比を可変設定する空燃比可変手段と、外気中の水分を検出する水分検出手段と、走行状態を検出する走行状態検出手段と始動時空燃比を演算する空燃比演算手段とを備えるエンジンの始動時制御装置において、
前記空燃比演算手段に、
前記水分検出手段で検出した外気中の水分と前記走行状態検出手段で検出した走行状態とに基づき、該走行状態がスロットル弁下流のボリューム室に結露が発生する環境か否かを判定する結露発生判定手段と、
エンジン温度検出手段で検出したエンジン停止直前のエンジン温度と再始動時のエンジン温度とに基づき高温再始動か否かを判定する高温再始動判定手段と、
前回のエンジン運転時に前記結露発生判定手段で結露発生と判定し、且つ前記高温再始動判定手段で高温再始動と判定したとき、前記空燃比をリーン補正する補正値を設定する空燃比補正値設定手段と、
エンジン温度に基づいて設定した基本空燃比設定値を、前記空燃比補正値設定手段で設定した補正値で補正して始動時空燃比を設定する始動時空燃比設定手段と
を備えていることを特徴とするエンジンの始動時制御装置。
【請求項2】
前記走行状態検出手段は、車速とスロットル開度とエンジン回転数と吸気温とに基づき走行状態が結露の発生する環境にあるか否かを調べる
ことを特徴とする請求項1記載のエンジンの始動時制御装置。
【請求項3】
前記結露発生判定手段は、吸入空気量検出手段で検出した吸入空気量に基づき計測時間を設定し、該計測時間の間、前記走行状態が結露の発生する環境を維持しているとき、結露発生と判定する
ことを特徴とする請求項1或いは2記載のエンジンの始動時制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−85180(P2009−85180A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259070(P2007−259070)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】