エンジンの空燃比制御装置
【課題】過濃側空燃比でフィードバック制御を行う場合に、コストの高騰を招くことなく目標空燃比を精度高く実現できるようにする。
【解決手段】燃料供給手段としての燃料噴射弁5、エンジン運転状態検出手段としてのエンジン回転数センサ14及び排気管圧力センサ15、空燃比情報検出手段、電子制御ユニット10Aを備えており、電子制御ユニット10Aが、空燃比情報検出手段による空燃比情報を基にしてエンジン運転状態検出手段によるエンジン負荷情報を用いながら目標空燃比を実現するための燃料噴射量を決定した後、燃料噴射弁5に駆動信号を出力して主に過濃側空燃比でフィードバック制御を行う空燃比制御装置1Aにおいて、その空燃比情報検出手段を排気温度センサ11として、検知した排気温度情報を基に所定の導出方法によりそのときの空燃比を推定しながら制御に使用することを特徴とするものとした。
【解決手段】燃料供給手段としての燃料噴射弁5、エンジン運転状態検出手段としてのエンジン回転数センサ14及び排気管圧力センサ15、空燃比情報検出手段、電子制御ユニット10Aを備えており、電子制御ユニット10Aが、空燃比情報検出手段による空燃比情報を基にしてエンジン運転状態検出手段によるエンジン負荷情報を用いながら目標空燃比を実現するための燃料噴射量を決定した後、燃料噴射弁5に駆動信号を出力して主に過濃側空燃比でフィードバック制御を行う空燃比制御装置1Aにおいて、その空燃比情報検出手段を排気温度センサ11として、検知した排気温度情報を基に所定の導出方法によりそのときの空燃比を推定しながら制御に使用することを特徴とするものとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの空燃比制御装置に関し、殊に、産業用エンジンにおいて過濃側空燃比でフィードバック制御を行うための空燃比制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃料供給システムにおいては、検出されたエンジン運転状態のデータを基に空燃比制御装置が最適な空燃比を実現する燃料噴射量を決定して、燃料噴射弁等の燃料供給手段を介しエンジンに燃料を供給することにより、空燃比のフィードバック制御を行うことが一般に行われている。
【0003】
図8はこのような空燃比フィードバックシステムを実行するための空燃比制御装置1Eの構成の一例を示しており、吸気通路3に配設された吸気管圧力センサ15、エンジン2に付設されたエンジン回転数センサ14及びエンジン温度センサ13等による検出信号が入力された電子制御ユニット10Cが、これらの各種情報を基に目標空燃比を実現するための燃料噴射量を算出し、燃料噴射弁駆動信号にして燃料噴射弁5に出力することにより空燃比の制御を行っている。
【0004】
しかしながら、製品のバラツキ、経時劣化、外乱等の様々な要因により、目標空燃比と実際の空燃比との間には誤差が生じることが知られている。そのため、この誤差を補正する目的で、特開平7−208139号公報に記載の空燃比制御装置のように排気通路にO2センサを配設したり、特開平10−288075号公報に記載され前述した空燃比制御装置1Eのように排気通路4に空燃比センサ12を配設したりして、検知した実際の空燃比を基に制御を実行する場合が多い。
【0005】
図9は、そのような空燃比制御装置による制御ブロック図を示しており、吸入空気量を基に算出(C1)した基本噴射パルス情報Tpに、空燃比センサ又はO2センサによる空燃比情報A/Fを基に算出(C4)した補正量αを乗じ、これに他の補正量K1,K2を乗じ又は加算して、最終パルス幅Tiにして燃料噴射弁5に出力することにより、空燃比フィードバック制御を行っている。
【0006】
図10はO2センサ及び空燃比センサの出力特性を示すグラフであり、O2センサでは理論空燃比付近で大きく電圧が変化し、空燃比センサでは空燃比に応じてリニアに近い特性を示しているが、三元触媒を用いて排気を浄化する自動車においては触媒浄化効率が最も高い理論空燃比付近で制御を行うため、O2センサ、空燃比センサのいずれを用いても目標空燃比の実現は可能である。
【0007】
一方、発電機や芝刈り機等に用いられる比較的小排気量の産業用エンジンにおいては、エンジンの保護及び安定性の確保に加えてコスト面による要請から、触媒浄化装置を用いずに理論空燃比よりも過濃側に制御することで排気中の窒素酸化物を低減することが行われている。ところが、過濃側空燃比では感度の問題でO2センサを使用することができずリニアな出力特性を持つ空燃比センサを使用することになるため、システムコストの高騰を招く結果となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−208139号公報
【特許文献2】特開平10−288075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、過濃側で空燃比のフィードバック制御を行う場合に、コストの高騰を招くことなく目標空燃比を精度高く実現できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、燃料供給手段、エンジン運転状態検出手段、空燃比情報検出手段、電子制御ユニットを備えており、その電子制御ユニットが、空燃比情報検出手段による空燃比情報を基にしてエンジン運転状態検出手段によるエンジン負荷情報を用いながら目標空燃比を実現するための燃料噴射量を決定した後、燃料供給手段に駆動信号を出力して主に過濃側空燃比でフィードバック制御を行う空燃比制御装置において、その空燃比情報検出手段は排気温度センサであり、検知した排気温度情報を基に所定の導出方法によりそのときの空燃比を推定しながら制御に使用する、ことを特徴とするものとした。
【0011】
排気温度は、燃焼効率が最も高い理論空燃比付近が最も高く空燃比が過濃になるとほぼリニアに低下する傾向があることが知られており、空燃比との間に相関性が見られることから、これを用いて比較的容易に空燃比を推定することができるため、空燃比情報検出手段に排気温度センサを用いることにより、過濃側空燃比でフィードバック制御を行う場合に高価な空燃比センサを用いることなく高精度な制御を行えるようになる。
【0012】
また、この空燃比制御装置において、その排気温度情報を基にした空燃比の導出は、対象エンジンについて複数のエンジン運転状態における排気温度とそのときの空燃比の情報を取得した結果を基に予め求めて電子制御ユニットの記憶手段に格納しておいた、排気温度と空燃比の関係を表すマップ又は数式を用いて行われることを特徴としたものとすれば、電子制御ユニットの処理負担を過大にすることなく、短時間で空燃比を正確に推定できるものとなる。
【0013】
さらに、上述した空燃比制御装置において、そのフィードバック制御は、エンジン回転数情報及び複数のエンジン負荷情報を基に、目標とする空燃比で運転したときの排気温度を2次元内挿補間又は多項近似式から推定算出して目標温度とし、この目標温度に収束するように燃料供給量を調整しながら行われる、ことを特徴としたものとすれば、的確なフィードバック制御を容易に実現できるものとなる。
【0014】
この場合、エンジン温度検出手段が設けられて、検知しているエンジン温度情報を基に1次元内挿補間又は多項近似式によりエンジン暖機レベルを推定計算し、算出した目標温度に加算又は減算して目標温度を補正する、ことを特徴としたものとすれば、高精度なフィードバック制御が実現できるものとなる。
【0015】
さらにまた、上述した目標温度を算出する方式の空燃比制御装置において、目標空燃比により異なる排気温度を1次元内挿補間又は多項近似式により算出し、算出した目標温度に加算又は減算して目標温度を補正する、ことを特徴としたものとすれば、より精度の高いフィードバック制御が実現できるものとなる。
【0016】
加えて、上述した目標温度を算出する方式の空燃比制御装置において、エンジン回転数情報及びエンジン負荷情報を基に、2次元内挿補間又は多項近似式を用いて算出した時定数を用い、算出した目標温度に1次遅れ+むだ時間系に同定した応答遅れ処理を行う、ことを特徴としたものとすれば、一層精度の高いフィードバック制御が実現できるものとなる。
【0017】
また加えて、上述した目標温度を算出する方式の空燃比制御装置において、算出した目標温度が所定の温度よりも低い場合は暖機中と判断し、フィードバック制御の実行を禁止することを特徴としたものとすれば、種々のエンジン運転状況に対応可能なものとなり、さらに加えて、上述した目標温度を算出する方式の空燃比制御装置において、検知しているエンジン回転数情報において回転変動が所定の基準よりも大きい場合は、エンジンが失火していると判断してフィードバック制御の実行を禁止するようにしても種々のエンジン運転状況に対応しやすいものとなる。
【0018】
さらに加えて、上述した空燃比制御装置において、その燃料供給手段が電子制御ユニットにより操作されるアクチュエータ作動式の燃料流量調整部を備えた電子制御気化器であることを特徴としたものとしても、燃料供給手段が燃料噴射弁である場合と同様の機能を発揮するものとなる。
【発明の効果】
【0019】
空燃比情報検出手段に排気温度センサを用いた本発明によると、過濃側で空燃比フィードバック制御を行う場合に、コストの高騰を招くことなく目標空燃比を精度高く実現できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明における実施の形態の空燃比制御装置の構成を示す配置図である。
【図2】図1の空燃比制御装置による制御ブロック図である。
【図3】図1の制御におけるフィードバック処理の詳細を示す制御ブロック図である。
【図4】図1の空燃比制御装置による空燃比フィードバック制御の動作例を示すグラフである。
【図5】図1の空燃比制御装置の応用例の構成を示す配置図である。
【図6】図1の空燃比制御装置の応用例の構成を示す配置図である。
【図7】図1の空燃比制御装置の応用例の構成を示す配置図である。
【図8】従来例の空燃比制御装置の構成を示す配置図である。
【図9】図8の空燃比制御装置による制御ブロック図である。
【図10】O2センサ及び空燃比センサの出力特性を示すグラフである。
【図11】排気温度度と空燃比の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。尚、本実施の形態の制御対象であるエンジンは、発電機や芝刈り機等の比較的小排気量のエンジンであって一般に産業用エンジンと呼ばれるものを想定しており、空燃比を過濃側でフィードバック制御することにより触媒浄化装置を使用せずに排気中の窒素酸化物等の有害物質を低減する方式を想定している。
【0022】
図1は、本実施の形態の空燃比制御装置1Aの構成を示すものであり、その構成は図8に記載した従来例と基本的に共通しているが、図8の排気通路4に配設した高価な空燃比センサ12の代わりに、比較的安価な排気温度センサ11が配設されて検出信号を電子制御ユニット10Aに出力し、この電子制御ユニット10Aが排気温度情報を基に空燃比を推定するようになっている点が特徴となっている。
【0023】
即ち、空燃比と排気温度の関係は概ね図11に示すような傾向があり、理論空燃比近くで温度が最も高く、空燃比が過濃になればなるほど温度が低下するため、主な使用帯域が過濃側の産業用エンジンであるエンジン2の空燃比制御に関し、この傾向を利用して検知
した排気温度を基に電子制御ユニット1A内で演算して実施するものとした。
【0024】
図2の制御ブロック図を参照しながらそのフィードバック制御の概要を説明すると、排気温度センサ11(P4)で検出された排気温度情報(Texh)と、目標空燃比情報(TargetAF)、エンジン回転数情報(RPM)、吸入空気量情報(Qa)、エンジン温度センサ13(P5)で検出されたエンジン温度情報(Teng)、センサ故障情報(OBD)等のエンジン運転状態情報を主な入力情報として推定計算するブロック(C6)に入力し、空燃比フィードバック補正係数(α)を算出する。
【0025】
この補正係数(α)を従来の方式と同様に基本噴射パルス幅(Tp)に乗ずることにより、プログラムに大きな変更を加えることなく的確な空燃比のフィードバック制御を実現可能としている。また、このようにして排気温度を基に空燃比を推定してフィードバック補正係数を算出するブロック(C6)は、図3の詳細な制御ブロック図に示すように、先ず、ある吸入空気量情報(Qa)とエンジン回転数情報(RPM)の元で目標空燃比にて運転したときの基本排気温度(Texbs)を算出する。
【0026】
この基本排気温度(Texbs)に関しては予め試験を行い、各エンジン回転数、各エンジン負荷条件による複数のエンジン運転状態の元で実施してそれぞれ排気温度を記録しておき、その結果から基本排気温度(Texbs)を算出する際には、エンジン回転数情報(RPM)と付加情報(Qa)から2次元内挿補間(以下「マップ補間」という)により求める(C6−1)又は多項近似式により算出する。
【0027】
これに対し、エンジン周辺温度の影響分を補正するため、エンジン温度情報(Teng)から1次元内挿補間(以下「テーブル補間」という)により求められた値、及び目標空燃比が小変更になった場合も考慮して、同様に目標温度からテーブル補間して求めた値を温度補正値(Texcr)として求め(C6−2)、基本排気温度(Texbs)に加算(C6−3)する(状況によってはマイナス(−)の補正値を加算する場合もある)。
【0028】
これに、吸入空気量情報(Qa)とエンジン回転数情報(RPM)を基にマップ補間等により時定数を求め、これに一次遅れ系のフィルタ処理(C6−4)を施すことにより、過渡変化を考慮した目標排気温度(Texd)を算出する。この目標排気温度(Texd)から実測した排気温度(Texh)を減算(C6−5)して偏差(Terr)を算出し、これがゼロになるようにフィードバック制御部(C6−6)にて空燃比フィードバック係数(α)を算出する。このフィードバック制御部のアルゴリズムは一般的な空燃比フィードバック制御に用いられるPI制御やPID制御で構成することができ、偏差(Terr)がプラスのときは増量、マイナスのときは減量する演算を行う。
【0029】
また、排気温度は筒内で正常燃焼したときの反応を想定して今回の制御に利用しているため、正常に燃焼しなかった場合や故障判定(OBD)を行った際には、フィードバック制御を禁止(FBstop)する機能を有している。これには、エンジン回転数情報(RPM)よりもサイクル変動が大きい場合は失火判定(C6−7)機能、回転変動と偏差情報(Terr)情報から判断する過剰な過濃空燃比を境に過濃側と希薄側(リーン)で逆特性となるため(図11参照)排気温度(Texh)の変化と温度の偏差情報(Terr)から制御方向を判断してリーン判定(C6−9)する機能、暖機中は排気温度が充分に上がらなかったり目標空燃比の変動が大きかったりする場合もあるため目標温度(Texd)が低い場合に暖機判定(C6−10)する機能を有しており、これらを総て理論和(OR)(C6−11)条件でフィードバック制御を禁止(FBstop)する機能を有している。
【0030】
また、フィードバック制御禁止の際には、補正係数なし(α=1.0)に固定するが、
リーン判定(C6−9)に起因して禁止した場合は、補正係数を増量側(例えばα=1.25)とし、過濃による燃焼不安定判定(C6−8)を行った場合には、補正係数をデフォルト値(例えばα=1.0)にリセットするようになっており、空燃比制御の収束性を向上させる機能が付与されている。
【0031】
次に、図3に加えて図4の動作例のグラフを用いながら本実施の形態による作用を説明すると、エンジン始動(0801)後、実測排気温度(Texh)及び上述の計算方法により求めた目標排気温度(Texd)は共に上昇するが、目標排気温度(Texd)が所定値以下であるために暖機中と判断(C6−10)し、フィードバック制御を禁止(FBstop)する。
【0032】
その後、温度が上昇して暖機判定(C6−10)が働かなくなる(FBstop=0)と、フィードバック制御が開始(0802)され、この例の場合は、目標排気温度(Texd)よりも実測排気温度(Texh)が低いため、目標空燃比(TargetAF)よりも実空燃比(AF)が濃いと判断し、フィードバック制御(C6−6)により補正係数(α)を徐々に減らし、目標排気温度(Texd)と排気温度(Texh)との差がゼロになるまでこの動作が続くことにより、空燃比目標値に収束する。
【0033】
次に、加速により運転条件が変更になる(0803)と、基本温度マップ(C6−1)や応答遅れ処理(C6−4)により目標排気温度(Texd)は徐々に高い値へと変化する。これに対し、実測排気温度(Texh)は更に高い値を示したことで空燃比は目標よりも薄いと判断してフィードバック制御(C6−6)により補正係数(α)を徐々に増やし、前述と同様に偏差(Terr)がゼロになるように調整して空燃比を目標値に収束させている。
【0034】
そして、減速してエンジンの運転条件を変更(0804)すると、前述と同様に目標空燃比(Texd)はゆっくりと変化して低い値になり、これに対し、実測排気温度(Texh)は更に低いために空燃比が濃いと判断し、フィードバック制御により補正係数(α)が減算され、やがて目標空燃比に収束する。
【0035】
その後、エンジンの運転条件を変更したとき(0805)、目標排気温度(Texd)がさらに低くなっているが実測排気温度(Texh)がさらに低いため、前述のロジックにより空燃比が濃いと判断し、フィードバック制御にて補正係数(α)を減らす動作を行う。しかし、このとき実際には燃料噴射弁5の劣化等が原因で、空燃比が理論空燃比よりも薄い状態(逆特性状態)になっていたため、補正係数(α)を減量することによりさらに実空燃比(AF)が薄くなり、実測排気温度(Texh)がさらに低下する傾向を示す。
【0036】
この状態が長く続くと、前述したロジック(図3参照)のリーン判定(C6−9)が機能し、フィードバック制御を一次禁止(FBstop=1)状態にしてフィードバック制御の補正係数(α)を濃い状態(α=1.25)にリセットする。これにより、実際の空燃比は理論空燃比よりも濃い状態に戻る。その後、フィードバック制御を再開(0806)するが、実際の空燃比は理論空燃比よりも濃い状態なので正特性として通常通りの空燃比制御が機能し、目標空燃比に収束させている。その条件も変更(0807)されるが、このフィードバック制御の機能が続いて目標空燃比に収束させており、良好な空燃比制御機能が得られていることが分かる。
【0037】
以下に、図5乃至図7を用いて、図1の空燃比制御装置1Aの応用例について説明する。図5を参照して、この空燃比制御装置1Bは、図1の空燃比制御装置1Aの燃料供給手段である燃料噴射弁5を電子制御気化器8Aにしたものである。その構成は、排気温度セ
ンサ11の出力信号を電子制御ユニット10Bに入力(H)し、内部で演算した補正係数(α)の情報を基に、出力(L)ポートを介して電子制御気化器8Aに駆動信号を入力し、その燃料流量調整用のアクチュエータ8aを制御するようになっている。
【0038】
このアクチュエータ8aは、ロータリーソレノイドやリニアソレノイド等の電磁アクチュエータであり、電子制御ユニット10BからPWM信号(ON/OFF通電時間割合制御信号)を出力することで励磁され、時間開口面積を制御するようになっている。また、これは気化器メイン燃料通路に設けられたオリフィス(燃料計量部)をバイパスする形で設けたサブ燃料通路中に設置されており、これをPWM信号で操作することにより燃料流量を自由に可変制御できるようになっている。
【0039】
電子制御ユニット10B内の内部処理に関しては、前述した排気温度から空燃比を推定してフィードバックするブロック(C6)(図2参照)をそのまま使用し、補正係数(α)に見合ったPWMのオン・オフ・デューティー比率をアクチュエータに出力することにより、前述した燃料噴射システムの空燃比フィードバック制御と同様の制御を実現している。
【0040】
また、エンジン負荷情報に関しては、従来から使用されてきた吸気管圧力センサ15を用いる以外に、電子制御気化器8Aに設けたスロットル開度センサ8dを利用しても良い。さらに、エンジン回転数情報に関してもエンジン回転数センサ14が装着されていない場合は、マグネット点火装置16の点火出力を電子制御ユニット10Bに取り込む(K)ことにより、エンジン回転数情報の検知が可能になる。尚、電子制御気化器の燃料流量調整用アクチュエータとして、リニアソレノイド以外にステップモータを利用した同様のシステムも存在するが、この場合もオン・オフ・デューティー信号をステップ数に見立てて制御することにより、同様の効果が得られるのは言うまでもない。
【0041】
図6は他の応用例としての空燃比制御装置1Cを示すものであり、この例も前述した図5の空燃比制御装置1Bとほぼ同様の構成であるが、電子制御気化器8Bの燃料流量制御方法を、フロート空隙部分にかかる気圧をアクチュエータ8bで調整することにより空燃比制御を行うものである。尚、このアクチュエータ8bは、小型の往復動式エアーポンプであってリニアソレノイドアクチュエータの一種であるが、この空燃比制御装置1Cに上述と同様の制御方法を適用することにより、同様に精度高い空燃比のフィードバック制御が実現される。
【0042】
図7はさらに他の応用例としての空燃比制御装置1Dを示すものであり、これも上述した図5の空燃比制御装置1Bとほぼ同様の構成であるが、電子制御気化器8Cの燃料流量制御方法をメイン燃料通路よりも上流側に設けたチョークバルブ9を作動させるアクチュエータ8cで調整することにより空燃比制御を行う例である。このアクチュエータ8cは、ロータリーソレノイド又はステップモータからなり、この空燃比制御装置1Dに上述と同様の制御方法を適用することにより、同様に精度高い空燃比のフィードバック制御が実現される。
【0043】
以上、述べたように、空燃比センサの代わりに排気温度センサを用い空燃比を推定しながら制御を行うものとした本発明により、安価なシステムにて過濃域による空燃比のフィードバック制御を的確に行えるものとなった。
【符号の説明】
【0044】
1A,1B,1C,1D 空燃比制御装置、2 エンジン、3 吸気通路、4 排気通路、5 燃料噴射弁、7 スロットルバルブ、8A,8B,8C 電子制御気化器、8a,8b,8c アクチュエータ、9 チョークバルブ、10A,10B 電子制御ユニッ
ト、11 排気温度センサ、13 エンジン温度センサ、14 エンジン回転数センサ、15 吸気管圧力センサ、16 マグネット点火装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの空燃比制御装置に関し、殊に、産業用エンジンにおいて過濃側空燃比でフィードバック制御を行うための空燃比制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃料供給システムにおいては、検出されたエンジン運転状態のデータを基に空燃比制御装置が最適な空燃比を実現する燃料噴射量を決定して、燃料噴射弁等の燃料供給手段を介しエンジンに燃料を供給することにより、空燃比のフィードバック制御を行うことが一般に行われている。
【0003】
図8はこのような空燃比フィードバックシステムを実行するための空燃比制御装置1Eの構成の一例を示しており、吸気通路3に配設された吸気管圧力センサ15、エンジン2に付設されたエンジン回転数センサ14及びエンジン温度センサ13等による検出信号が入力された電子制御ユニット10Cが、これらの各種情報を基に目標空燃比を実現するための燃料噴射量を算出し、燃料噴射弁駆動信号にして燃料噴射弁5に出力することにより空燃比の制御を行っている。
【0004】
しかしながら、製品のバラツキ、経時劣化、外乱等の様々な要因により、目標空燃比と実際の空燃比との間には誤差が生じることが知られている。そのため、この誤差を補正する目的で、特開平7−208139号公報に記載の空燃比制御装置のように排気通路にO2センサを配設したり、特開平10−288075号公報に記載され前述した空燃比制御装置1Eのように排気通路4に空燃比センサ12を配設したりして、検知した実際の空燃比を基に制御を実行する場合が多い。
【0005】
図9は、そのような空燃比制御装置による制御ブロック図を示しており、吸入空気量を基に算出(C1)した基本噴射パルス情報Tpに、空燃比センサ又はO2センサによる空燃比情報A/Fを基に算出(C4)した補正量αを乗じ、これに他の補正量K1,K2を乗じ又は加算して、最終パルス幅Tiにして燃料噴射弁5に出力することにより、空燃比フィードバック制御を行っている。
【0006】
図10はO2センサ及び空燃比センサの出力特性を示すグラフであり、O2センサでは理論空燃比付近で大きく電圧が変化し、空燃比センサでは空燃比に応じてリニアに近い特性を示しているが、三元触媒を用いて排気を浄化する自動車においては触媒浄化効率が最も高い理論空燃比付近で制御を行うため、O2センサ、空燃比センサのいずれを用いても目標空燃比の実現は可能である。
【0007】
一方、発電機や芝刈り機等に用いられる比較的小排気量の産業用エンジンにおいては、エンジンの保護及び安定性の確保に加えてコスト面による要請から、触媒浄化装置を用いずに理論空燃比よりも過濃側に制御することで排気中の窒素酸化物を低減することが行われている。ところが、過濃側空燃比では感度の問題でO2センサを使用することができずリニアな出力特性を持つ空燃比センサを使用することになるため、システムコストの高騰を招く結果となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−208139号公報
【特許文献2】特開平10−288075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、過濃側で空燃比のフィードバック制御を行う場合に、コストの高騰を招くことなく目標空燃比を精度高く実現できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、燃料供給手段、エンジン運転状態検出手段、空燃比情報検出手段、電子制御ユニットを備えており、その電子制御ユニットが、空燃比情報検出手段による空燃比情報を基にしてエンジン運転状態検出手段によるエンジン負荷情報を用いながら目標空燃比を実現するための燃料噴射量を決定した後、燃料供給手段に駆動信号を出力して主に過濃側空燃比でフィードバック制御を行う空燃比制御装置において、その空燃比情報検出手段は排気温度センサであり、検知した排気温度情報を基に所定の導出方法によりそのときの空燃比を推定しながら制御に使用する、ことを特徴とするものとした。
【0011】
排気温度は、燃焼効率が最も高い理論空燃比付近が最も高く空燃比が過濃になるとほぼリニアに低下する傾向があることが知られており、空燃比との間に相関性が見られることから、これを用いて比較的容易に空燃比を推定することができるため、空燃比情報検出手段に排気温度センサを用いることにより、過濃側空燃比でフィードバック制御を行う場合に高価な空燃比センサを用いることなく高精度な制御を行えるようになる。
【0012】
また、この空燃比制御装置において、その排気温度情報を基にした空燃比の導出は、対象エンジンについて複数のエンジン運転状態における排気温度とそのときの空燃比の情報を取得した結果を基に予め求めて電子制御ユニットの記憶手段に格納しておいた、排気温度と空燃比の関係を表すマップ又は数式を用いて行われることを特徴としたものとすれば、電子制御ユニットの処理負担を過大にすることなく、短時間で空燃比を正確に推定できるものとなる。
【0013】
さらに、上述した空燃比制御装置において、そのフィードバック制御は、エンジン回転数情報及び複数のエンジン負荷情報を基に、目標とする空燃比で運転したときの排気温度を2次元内挿補間又は多項近似式から推定算出して目標温度とし、この目標温度に収束するように燃料供給量を調整しながら行われる、ことを特徴としたものとすれば、的確なフィードバック制御を容易に実現できるものとなる。
【0014】
この場合、エンジン温度検出手段が設けられて、検知しているエンジン温度情報を基に1次元内挿補間又は多項近似式によりエンジン暖機レベルを推定計算し、算出した目標温度に加算又は減算して目標温度を補正する、ことを特徴としたものとすれば、高精度なフィードバック制御が実現できるものとなる。
【0015】
さらにまた、上述した目標温度を算出する方式の空燃比制御装置において、目標空燃比により異なる排気温度を1次元内挿補間又は多項近似式により算出し、算出した目標温度に加算又は減算して目標温度を補正する、ことを特徴としたものとすれば、より精度の高いフィードバック制御が実現できるものとなる。
【0016】
加えて、上述した目標温度を算出する方式の空燃比制御装置において、エンジン回転数情報及びエンジン負荷情報を基に、2次元内挿補間又は多項近似式を用いて算出した時定数を用い、算出した目標温度に1次遅れ+むだ時間系に同定した応答遅れ処理を行う、ことを特徴としたものとすれば、一層精度の高いフィードバック制御が実現できるものとなる。
【0017】
また加えて、上述した目標温度を算出する方式の空燃比制御装置において、算出した目標温度が所定の温度よりも低い場合は暖機中と判断し、フィードバック制御の実行を禁止することを特徴としたものとすれば、種々のエンジン運転状況に対応可能なものとなり、さらに加えて、上述した目標温度を算出する方式の空燃比制御装置において、検知しているエンジン回転数情報において回転変動が所定の基準よりも大きい場合は、エンジンが失火していると判断してフィードバック制御の実行を禁止するようにしても種々のエンジン運転状況に対応しやすいものとなる。
【0018】
さらに加えて、上述した空燃比制御装置において、その燃料供給手段が電子制御ユニットにより操作されるアクチュエータ作動式の燃料流量調整部を備えた電子制御気化器であることを特徴としたものとしても、燃料供給手段が燃料噴射弁である場合と同様の機能を発揮するものとなる。
【発明の効果】
【0019】
空燃比情報検出手段に排気温度センサを用いた本発明によると、過濃側で空燃比フィードバック制御を行う場合に、コストの高騰を招くことなく目標空燃比を精度高く実現できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明における実施の形態の空燃比制御装置の構成を示す配置図である。
【図2】図1の空燃比制御装置による制御ブロック図である。
【図3】図1の制御におけるフィードバック処理の詳細を示す制御ブロック図である。
【図4】図1の空燃比制御装置による空燃比フィードバック制御の動作例を示すグラフである。
【図5】図1の空燃比制御装置の応用例の構成を示す配置図である。
【図6】図1の空燃比制御装置の応用例の構成を示す配置図である。
【図7】図1の空燃比制御装置の応用例の構成を示す配置図である。
【図8】従来例の空燃比制御装置の構成を示す配置図である。
【図9】図8の空燃比制御装置による制御ブロック図である。
【図10】O2センサ及び空燃比センサの出力特性を示すグラフである。
【図11】排気温度度と空燃比の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。尚、本実施の形態の制御対象であるエンジンは、発電機や芝刈り機等の比較的小排気量のエンジンであって一般に産業用エンジンと呼ばれるものを想定しており、空燃比を過濃側でフィードバック制御することにより触媒浄化装置を使用せずに排気中の窒素酸化物等の有害物質を低減する方式を想定している。
【0022】
図1は、本実施の形態の空燃比制御装置1Aの構成を示すものであり、その構成は図8に記載した従来例と基本的に共通しているが、図8の排気通路4に配設した高価な空燃比センサ12の代わりに、比較的安価な排気温度センサ11が配設されて検出信号を電子制御ユニット10Aに出力し、この電子制御ユニット10Aが排気温度情報を基に空燃比を推定するようになっている点が特徴となっている。
【0023】
即ち、空燃比と排気温度の関係は概ね図11に示すような傾向があり、理論空燃比近くで温度が最も高く、空燃比が過濃になればなるほど温度が低下するため、主な使用帯域が過濃側の産業用エンジンであるエンジン2の空燃比制御に関し、この傾向を利用して検知
した排気温度を基に電子制御ユニット1A内で演算して実施するものとした。
【0024】
図2の制御ブロック図を参照しながらそのフィードバック制御の概要を説明すると、排気温度センサ11(P4)で検出された排気温度情報(Texh)と、目標空燃比情報(TargetAF)、エンジン回転数情報(RPM)、吸入空気量情報(Qa)、エンジン温度センサ13(P5)で検出されたエンジン温度情報(Teng)、センサ故障情報(OBD)等のエンジン運転状態情報を主な入力情報として推定計算するブロック(C6)に入力し、空燃比フィードバック補正係数(α)を算出する。
【0025】
この補正係数(α)を従来の方式と同様に基本噴射パルス幅(Tp)に乗ずることにより、プログラムに大きな変更を加えることなく的確な空燃比のフィードバック制御を実現可能としている。また、このようにして排気温度を基に空燃比を推定してフィードバック補正係数を算出するブロック(C6)は、図3の詳細な制御ブロック図に示すように、先ず、ある吸入空気量情報(Qa)とエンジン回転数情報(RPM)の元で目標空燃比にて運転したときの基本排気温度(Texbs)を算出する。
【0026】
この基本排気温度(Texbs)に関しては予め試験を行い、各エンジン回転数、各エンジン負荷条件による複数のエンジン運転状態の元で実施してそれぞれ排気温度を記録しておき、その結果から基本排気温度(Texbs)を算出する際には、エンジン回転数情報(RPM)と付加情報(Qa)から2次元内挿補間(以下「マップ補間」という)により求める(C6−1)又は多項近似式により算出する。
【0027】
これに対し、エンジン周辺温度の影響分を補正するため、エンジン温度情報(Teng)から1次元内挿補間(以下「テーブル補間」という)により求められた値、及び目標空燃比が小変更になった場合も考慮して、同様に目標温度からテーブル補間して求めた値を温度補正値(Texcr)として求め(C6−2)、基本排気温度(Texbs)に加算(C6−3)する(状況によってはマイナス(−)の補正値を加算する場合もある)。
【0028】
これに、吸入空気量情報(Qa)とエンジン回転数情報(RPM)を基にマップ補間等により時定数を求め、これに一次遅れ系のフィルタ処理(C6−4)を施すことにより、過渡変化を考慮した目標排気温度(Texd)を算出する。この目標排気温度(Texd)から実測した排気温度(Texh)を減算(C6−5)して偏差(Terr)を算出し、これがゼロになるようにフィードバック制御部(C6−6)にて空燃比フィードバック係数(α)を算出する。このフィードバック制御部のアルゴリズムは一般的な空燃比フィードバック制御に用いられるPI制御やPID制御で構成することができ、偏差(Terr)がプラスのときは増量、マイナスのときは減量する演算を行う。
【0029】
また、排気温度は筒内で正常燃焼したときの反応を想定して今回の制御に利用しているため、正常に燃焼しなかった場合や故障判定(OBD)を行った際には、フィードバック制御を禁止(FBstop)する機能を有している。これには、エンジン回転数情報(RPM)よりもサイクル変動が大きい場合は失火判定(C6−7)機能、回転変動と偏差情報(Terr)情報から判断する過剰な過濃空燃比を境に過濃側と希薄側(リーン)で逆特性となるため(図11参照)排気温度(Texh)の変化と温度の偏差情報(Terr)から制御方向を判断してリーン判定(C6−9)する機能、暖機中は排気温度が充分に上がらなかったり目標空燃比の変動が大きかったりする場合もあるため目標温度(Texd)が低い場合に暖機判定(C6−10)する機能を有しており、これらを総て理論和(OR)(C6−11)条件でフィードバック制御を禁止(FBstop)する機能を有している。
【0030】
また、フィードバック制御禁止の際には、補正係数なし(α=1.0)に固定するが、
リーン判定(C6−9)に起因して禁止した場合は、補正係数を増量側(例えばα=1.25)とし、過濃による燃焼不安定判定(C6−8)を行った場合には、補正係数をデフォルト値(例えばα=1.0)にリセットするようになっており、空燃比制御の収束性を向上させる機能が付与されている。
【0031】
次に、図3に加えて図4の動作例のグラフを用いながら本実施の形態による作用を説明すると、エンジン始動(0801)後、実測排気温度(Texh)及び上述の計算方法により求めた目標排気温度(Texd)は共に上昇するが、目標排気温度(Texd)が所定値以下であるために暖機中と判断(C6−10)し、フィードバック制御を禁止(FBstop)する。
【0032】
その後、温度が上昇して暖機判定(C6−10)が働かなくなる(FBstop=0)と、フィードバック制御が開始(0802)され、この例の場合は、目標排気温度(Texd)よりも実測排気温度(Texh)が低いため、目標空燃比(TargetAF)よりも実空燃比(AF)が濃いと判断し、フィードバック制御(C6−6)により補正係数(α)を徐々に減らし、目標排気温度(Texd)と排気温度(Texh)との差がゼロになるまでこの動作が続くことにより、空燃比目標値に収束する。
【0033】
次に、加速により運転条件が変更になる(0803)と、基本温度マップ(C6−1)や応答遅れ処理(C6−4)により目標排気温度(Texd)は徐々に高い値へと変化する。これに対し、実測排気温度(Texh)は更に高い値を示したことで空燃比は目標よりも薄いと判断してフィードバック制御(C6−6)により補正係数(α)を徐々に増やし、前述と同様に偏差(Terr)がゼロになるように調整して空燃比を目標値に収束させている。
【0034】
そして、減速してエンジンの運転条件を変更(0804)すると、前述と同様に目標空燃比(Texd)はゆっくりと変化して低い値になり、これに対し、実測排気温度(Texh)は更に低いために空燃比が濃いと判断し、フィードバック制御により補正係数(α)が減算され、やがて目標空燃比に収束する。
【0035】
その後、エンジンの運転条件を変更したとき(0805)、目標排気温度(Texd)がさらに低くなっているが実測排気温度(Texh)がさらに低いため、前述のロジックにより空燃比が濃いと判断し、フィードバック制御にて補正係数(α)を減らす動作を行う。しかし、このとき実際には燃料噴射弁5の劣化等が原因で、空燃比が理論空燃比よりも薄い状態(逆特性状態)になっていたため、補正係数(α)を減量することによりさらに実空燃比(AF)が薄くなり、実測排気温度(Texh)がさらに低下する傾向を示す。
【0036】
この状態が長く続くと、前述したロジック(図3参照)のリーン判定(C6−9)が機能し、フィードバック制御を一次禁止(FBstop=1)状態にしてフィードバック制御の補正係数(α)を濃い状態(α=1.25)にリセットする。これにより、実際の空燃比は理論空燃比よりも濃い状態に戻る。その後、フィードバック制御を再開(0806)するが、実際の空燃比は理論空燃比よりも濃い状態なので正特性として通常通りの空燃比制御が機能し、目標空燃比に収束させている。その条件も変更(0807)されるが、このフィードバック制御の機能が続いて目標空燃比に収束させており、良好な空燃比制御機能が得られていることが分かる。
【0037】
以下に、図5乃至図7を用いて、図1の空燃比制御装置1Aの応用例について説明する。図5を参照して、この空燃比制御装置1Bは、図1の空燃比制御装置1Aの燃料供給手段である燃料噴射弁5を電子制御気化器8Aにしたものである。その構成は、排気温度セ
ンサ11の出力信号を電子制御ユニット10Bに入力(H)し、内部で演算した補正係数(α)の情報を基に、出力(L)ポートを介して電子制御気化器8Aに駆動信号を入力し、その燃料流量調整用のアクチュエータ8aを制御するようになっている。
【0038】
このアクチュエータ8aは、ロータリーソレノイドやリニアソレノイド等の電磁アクチュエータであり、電子制御ユニット10BからPWM信号(ON/OFF通電時間割合制御信号)を出力することで励磁され、時間開口面積を制御するようになっている。また、これは気化器メイン燃料通路に設けられたオリフィス(燃料計量部)をバイパスする形で設けたサブ燃料通路中に設置されており、これをPWM信号で操作することにより燃料流量を自由に可変制御できるようになっている。
【0039】
電子制御ユニット10B内の内部処理に関しては、前述した排気温度から空燃比を推定してフィードバックするブロック(C6)(図2参照)をそのまま使用し、補正係数(α)に見合ったPWMのオン・オフ・デューティー比率をアクチュエータに出力することにより、前述した燃料噴射システムの空燃比フィードバック制御と同様の制御を実現している。
【0040】
また、エンジン負荷情報に関しては、従来から使用されてきた吸気管圧力センサ15を用いる以外に、電子制御気化器8Aに設けたスロットル開度センサ8dを利用しても良い。さらに、エンジン回転数情報に関してもエンジン回転数センサ14が装着されていない場合は、マグネット点火装置16の点火出力を電子制御ユニット10Bに取り込む(K)ことにより、エンジン回転数情報の検知が可能になる。尚、電子制御気化器の燃料流量調整用アクチュエータとして、リニアソレノイド以外にステップモータを利用した同様のシステムも存在するが、この場合もオン・オフ・デューティー信号をステップ数に見立てて制御することにより、同様の効果が得られるのは言うまでもない。
【0041】
図6は他の応用例としての空燃比制御装置1Cを示すものであり、この例も前述した図5の空燃比制御装置1Bとほぼ同様の構成であるが、電子制御気化器8Bの燃料流量制御方法を、フロート空隙部分にかかる気圧をアクチュエータ8bで調整することにより空燃比制御を行うものである。尚、このアクチュエータ8bは、小型の往復動式エアーポンプであってリニアソレノイドアクチュエータの一種であるが、この空燃比制御装置1Cに上述と同様の制御方法を適用することにより、同様に精度高い空燃比のフィードバック制御が実現される。
【0042】
図7はさらに他の応用例としての空燃比制御装置1Dを示すものであり、これも上述した図5の空燃比制御装置1Bとほぼ同様の構成であるが、電子制御気化器8Cの燃料流量制御方法をメイン燃料通路よりも上流側に設けたチョークバルブ9を作動させるアクチュエータ8cで調整することにより空燃比制御を行う例である。このアクチュエータ8cは、ロータリーソレノイド又はステップモータからなり、この空燃比制御装置1Dに上述と同様の制御方法を適用することにより、同様に精度高い空燃比のフィードバック制御が実現される。
【0043】
以上、述べたように、空燃比センサの代わりに排気温度センサを用い空燃比を推定しながら制御を行うものとした本発明により、安価なシステムにて過濃域による空燃比のフィードバック制御を的確に行えるものとなった。
【符号の説明】
【0044】
1A,1B,1C,1D 空燃比制御装置、2 エンジン、3 吸気通路、4 排気通路、5 燃料噴射弁、7 スロットルバルブ、8A,8B,8C 電子制御気化器、8a,8b,8c アクチュエータ、9 チョークバルブ、10A,10B 電子制御ユニッ
ト、11 排気温度センサ、13 エンジン温度センサ、14 エンジン回転数センサ、15 吸気管圧力センサ、16 マグネット点火装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料供給手段、エンジン運転状態検出手段、空燃比情報検出手段、電子制御ユニットを備えており、前記電子制御ユニットが、前記空燃比情報検出手段による空燃比情報を基にして前記エンジン運転状態検出手段によるエンジン負荷情報を用いながら目標空燃比を実現するための燃料噴射量を決定した後、前記燃料供給手段に駆動信号を出力して主に過濃側空燃比でフィードバック制御を行う空燃比制御装置において、前記空燃比情報検出手段は排気温度センサであり、検知した排気温度情報を基に所定の導出方法でそのときの空燃比を推定しながら制御に使用することを特徴とする空燃比制御装置。
【請求項2】
前記排気温度情報を基にした空燃比の導出は、対象エンジンについて複数のエンジン運転状態における排気温度とそのときの空燃比の情報を取得した結果を基に予め求めて前記電子制御ユニットの記憶手段に格納しておいた、前記排気温度と前記空燃比の関係を表すマップ又は数式を用いて行われることを特徴とする請求項1に記載した空燃比制御装置。
【請求項3】
前記フィードバック制御は、エンジン回転数情報及び複数のエンジン負荷情報を基に、目標とする空燃比で運転したときの排気温度を2次元内挿補間又は多項近似式から推定算出して目標温度とし、該目標温度に収束するように燃料供給量を調整しながら行われることを特徴とする請求項1または2に記載した空燃比制御装置。
【請求項4】
エンジン温度検出手段が設けられて、検知しているエンジン温度情報を基に1次元内挿補間又は多項近似式によりエンジン暖機レベルを推定計算し、算出した前記目標温度に加算又は減算して該目標温度を補正することを特徴とする請求項3に記載した空燃比制御装置。
【請求項5】
前記目標空燃比により異なる排気温度を1次元内挿補間又は多項近似式により算出し、算出した前記目標温度に加算又は減算して該目標温度を補正することを特徴とする請求項3又は4に記載した空燃比制御装置。
【請求項6】
前記エンジン回転数情報及びエンジン負荷情報を基に、2次元内挿補間又は多項近似式を用いて算出した時定数を用い、算出した前記目標温度に1次遅れ+むだ時間系に同定した応答遅れ処理を行うことを特徴とする請求項3,4又は5に記載した空燃比制御装置。
【請求項7】
算出した前記目標温度が所定の温度よりも低い場合は暖機中と判断して前記フィードバック制御の実行を禁止することを特徴とする請求項3,4,5または6に記載した空燃比制御装置。
【請求項8】
検知している前記エンジン回転数情報において回転変動が所定の基準よりも大きい場合は、エンジンが失火していると判断して前記フィードバック制御の実行を禁止することを特徴とする請求項3,4,5,6又は7に記載した空燃比制御装置。
【請求項9】
前記燃料供給手段は、前記電子制御ユニットにより操作されるアクチュエータ作動式の燃料流量調整部を備えた電子制御気化器であることを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7又は8に記載した空燃比制御装置。
【請求項1】
燃料供給手段、エンジン運転状態検出手段、空燃比情報検出手段、電子制御ユニットを備えており、前記電子制御ユニットが、前記空燃比情報検出手段による空燃比情報を基にして前記エンジン運転状態検出手段によるエンジン負荷情報を用いながら目標空燃比を実現するための燃料噴射量を決定した後、前記燃料供給手段に駆動信号を出力して主に過濃側空燃比でフィードバック制御を行う空燃比制御装置において、前記空燃比情報検出手段は排気温度センサであり、検知した排気温度情報を基に所定の導出方法でそのときの空燃比を推定しながら制御に使用することを特徴とする空燃比制御装置。
【請求項2】
前記排気温度情報を基にした空燃比の導出は、対象エンジンについて複数のエンジン運転状態における排気温度とそのときの空燃比の情報を取得した結果を基に予め求めて前記電子制御ユニットの記憶手段に格納しておいた、前記排気温度と前記空燃比の関係を表すマップ又は数式を用いて行われることを特徴とする請求項1に記載した空燃比制御装置。
【請求項3】
前記フィードバック制御は、エンジン回転数情報及び複数のエンジン負荷情報を基に、目標とする空燃比で運転したときの排気温度を2次元内挿補間又は多項近似式から推定算出して目標温度とし、該目標温度に収束するように燃料供給量を調整しながら行われることを特徴とする請求項1または2に記載した空燃比制御装置。
【請求項4】
エンジン温度検出手段が設けられて、検知しているエンジン温度情報を基に1次元内挿補間又は多項近似式によりエンジン暖機レベルを推定計算し、算出した前記目標温度に加算又は減算して該目標温度を補正することを特徴とする請求項3に記載した空燃比制御装置。
【請求項5】
前記目標空燃比により異なる排気温度を1次元内挿補間又は多項近似式により算出し、算出した前記目標温度に加算又は減算して該目標温度を補正することを特徴とする請求項3又は4に記載した空燃比制御装置。
【請求項6】
前記エンジン回転数情報及びエンジン負荷情報を基に、2次元内挿補間又は多項近似式を用いて算出した時定数を用い、算出した前記目標温度に1次遅れ+むだ時間系に同定した応答遅れ処理を行うことを特徴とする請求項3,4又は5に記載した空燃比制御装置。
【請求項7】
算出した前記目標温度が所定の温度よりも低い場合は暖機中と判断して前記フィードバック制御の実行を禁止することを特徴とする請求項3,4,5または6に記載した空燃比制御装置。
【請求項8】
検知している前記エンジン回転数情報において回転変動が所定の基準よりも大きい場合は、エンジンが失火していると判断して前記フィードバック制御の実行を禁止することを特徴とする請求項3,4,5,6又は7に記載した空燃比制御装置。
【請求項9】
前記燃料供給手段は、前記電子制御ユニットにより操作されるアクチュエータ作動式の燃料流量調整部を備えた電子制御気化器であることを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7又は8に記載した空燃比制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−226328(P2011−226328A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94878(P2010−94878)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]