説明

エンジン制御装置及び方法

【課題】ISC装置のISC弁が開弁状態で固着する等の異常時にエンジン回転数の過度の上昇を防止できること。
【解決手段】吸気通路に設置されたスロットル弁の上流側と下流側を接続する吸気バイパス通路に設置され、アイドリング運転時に吸気バイパス通路を流れる空気流量を調節することでアイドリング回転数を制御するISC装置を備えたエンジンのエンジン制御装置100であって、前記スロットル弁の開度を検出するスロットル開度センサ103と、前記吸気通路の吸気負圧を検出する吸気圧センサ102と、エンジンの出力を制御するコントロールユニット104とを有し、このコントロールユニットは、スロットル開度センサ103にて検出されたスロットル弁の開度が所定範囲内の場合で、且つ吸気圧センサ102にて検出された吸気負圧が閾値よりも小さいときに、ISC装置のISC弁が異常であると判定してエンジン出力抑制制御を実行するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのアイドリング回転数を制御するISC(アイドル回転数制御)装置を備えたエンジンにおけるエンジン制御装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエンジンには、吸気通路に設置されたスロットル弁の上流側と下流側が吸気バイパス通路で接続され、この吸気バイパス通路にISC弁が設置され、このISC弁によりアイドリング運転時の吸気バイパス通路を流れる空気流量を調節して、アイドリング回転数を目標回転数に制御するISC装置を備えたものが知られている。
【0003】
このようなISC装置を備えたエンジンを搭載する車両では、ISC装置におけるISC弁の配線短絡やカーボン付着等によってISC弁が開弁状態で固着することがある。ISC弁が固着した状態では、正常状態(非固着状態)に比べてエンジンへの吸入空気量が増加するため、エンジンのアイドリング回転数が上昇してしまう。その結果、スロットルバルブが全閉であるにも拘らず自動遠心式クラッチが接続されて、車両が意図せず発進する虞がある。
【0004】
そこで、特許文献1に記載のように、スロットル弁の開度とエンジン回転数に基づいた基本空気量を予め算出し、実際に測定したエンジン空気量の測定値が基本空気量を越えているときにISC弁の異常と判定する技術が提案されている。
【0005】
また、特許文献2に記載のように、スロットル弁の開度からスロットル弁を通過する吸入空気量を算出し、機関全体の吸入空気量(測定値)からスロットル弁を通過する吸入空気量を差引くことで、ISC弁を通過する実際の吸入空気量を算出し、この吸入空気量と、ISC弁の設定開度から算出される吸入空気量との間に所定以上の偏差がある場合に、ISC弁の異常を判定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−11648号公報
【特許文献2】特開平8−86266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のような特許文献1及び2に記載の従来技術は、エンジンへの吸入空気量をエアフローセンサで検出する、所謂Lジェトロニック式燃料噴射装置に適用する場合には向いているが、吸入空気圧(吸気負圧)を検出して燃料噴射量を決定するDジェトロニック式燃料噴射装置においては、エアフローセンサを別途設ける必要があるため不向きである。
【0008】
一般に、Lジェトロニック式燃料噴射装置に対し、Dジェトロニック式燃料噴射装置はエアフローセンサが不要なため吸気抵抗の増大を回避できる点でメリットがあると言われている。
【0009】
また、Lジェトロニック式燃料噴射装置では実際の吸入空気量を測定した後に最適な燃料噴射量を決定するのに対し、Dジェトロニック式燃料噴射装置では吸入空気量の変化をもたらす吸気負圧の変化を測定して燃料噴射量を決定するので、スロットル操作に対する出力変化の応答性が良いことも利点の一つになっている。
【0010】
これらのことから、自動二輪車や不整地走行車両にはDジェトロニック式燃料噴射装置が広く採用されており、従って、自動二輪車や不整地走行車両には上記特許文献1または2に記載の従来技術を適用することが困難である。
【0011】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、ISC装置のISC弁が開弁状態で固着する等の異常時にエンジン回転数の過度の上昇を防止できるエンジン制御装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るエンジン制御装置は、吸気通路に設置されたスロットル弁の上流側と下流側を接続する吸気バイパス通路に設置され、エンジンのアイドリング運転時に前記吸気バイパス通路を流れる空気流量を調節することでエンジンのアイドリング回転数を制御するISC装置を備えたエンジンにおけるエンジン制御装置であって、前記吸気通路に設置された前記スロットル弁の開度を検出するスロットル開度センサと、前記吸気通路における前記スロットル弁の下流側の吸気負圧を検出する吸気圧センサと、前記エンジンの出力を制御するコントロールユニットとを有し、前記コントロールユニットは、前記スロットル開度センサにて検出された前記スロットル弁の開度が所定範囲内の場合で、且つ前記吸気圧センサにて検出された吸気負圧が閾値と比較して小さいときに、前記ISC装置のISC弁が異常であると判定して前記エンジンの出力を抑制するエンジン出力抑制制御を実行するよう構成されたことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明に係るエンジン制御方法は、吸気通路に設置されたスロットル弁の上流側と下流側を接続する吸気バイパス通路に設置され、エンジンのアイドリング運転時に前記吸気バイパス通路を流れる空気流量を調節することでエンジンのアイドリング回転数を制御するISC弁を備えたエンジンにおけるエンジン制御方法であって、前記スロットル弁の開度が所定範囲内の場合で、且つ吸気通路におけるスロットル弁下流側の吸気負圧が閾値と比較して小さいときに、前記ISC弁が異常であると判定して前記エンジンの出力を抑制するエンジン出力抑制制御を実行することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るエンジン制御装置及び方法によれば、スロットル弁の開度が所定範囲内の場合で且つ吸気負圧が閾値よりも小さいときに、ISC装置のISC弁が異常であると判定してエンジンの出力を抑制するエンジン出力抑制制御を実行するので、ISC弁が開弁状態で固着する等の異常時にエンジンに供給される吸気流量が減少しない場合にも、エンジン回転数の過度の上昇を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るエンジン制御装置の第1実施形態が適用された不整地走行車両を示す左側面透視図。
【図2】図1の車体フレーム、エンジンユニット及び燃料タンクなどを示す左側面図。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図。
【図4】図2のスロットルボディを示す正面図。
【図5】図2のスロットルボディの断面図。
【図6】図4及び図5のVI−VI線に沿う断面図。
【図7】図2のコントロールユニットなどを備えたエンジン制御装置を示すブロック図。
【図8】図7のコントロールユニットが実行するISC弁異常判定制御を示すフローチャート。
【図9】図7のコントロールユニットが実行するアイドル過回転防止制御を示すフローチャート。
【図10】図2に示すエンジンのクランクスピードの変化を示すグラフ。
【図11】アイドル過回転防止制御の実施を吸気負圧により判定するためのグラフ。
【図12】間引き点火を通常点火と比較して示すタイミングチャート。
【図13】アイドル過回転防止制御を実施した場合と実施しない場合のエンジン回転数の変化を示すグラフ。
【図14】ISC弁の開度(ISC開度)と、吸気バイパス通路を流れる空気流量(ISC空気流量)及び点火間引き割合との関係を示すグラフ。
【図15】本発明に係るエンジン制御装置の第2実施形態を示すブロック図。
【図16】図15のコントロールユニットが実行する吸気圧センサ学習制御を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。但し、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
[I]第1実施形態(図1〜図14)
図1及び図2に示すように、この不整地走行車両1は、例えば鋼管材により略ケージ状に組み立てられた車体フレーム2を備えている。この車体フレーム2は、左右一対のアッパーパイプ3及びロアーパイプ4と、これらのパイプの後端を縦方向に連結する左右一対のリア縦パイプ5と、このリア縦パイプ5とロアーパイプ4の略中央部との間を前後方向に連結する左右一対のリア横パイプ6と、前部でアッパーパイプ3及びロアーパイプ4の間を縦方向に連結する左右一対のフロント縦パイプ7と、このフロント縦パイプ7とアッパーパイプ3の前部との間を前後方向に連結する左右一対のフロント横パイプ8と、上記左右一対の各部材3、4、5、6、7、8の間を連結する図示しない複数のブリッジ部材とを備えている。左右のアッパーパイプ3の前端は、下方に折曲してロアーパイプ4の前端に固定されている。
【0018】
そして、車体フレーム2の前後に、図示しないサスペンション機構を介して左右一対の幅広低圧タイヤ付の前輪11と後輪12が設けられる。これらの前輪11、後輪12間で且つアッパーパイプ3よりも下方に位置して、エンジンユニット14が車体フレーム2の略中央に懸架搭載されている。
【0019】
アッパーパイプ3の後上方には鞍乗型の着座シート15が設置され、その前方に前輪11を操向するためのステアリングハンドル16が設けられ、着座シート15の下方で且つエンジンユニット14の後方に燃料タンク17が設けられている。また、車体フレーム2の最前部付近にはエンジンユニット14の熱交換器(オイルクーラーやラジエーター等)18が設置されている。
【0020】
車体前部には車体フレーム2の前部上方を覆うフロントカバー21が設けられ、このフロントカバー21に、左右の前輪11を覆うフロントフェンダ22が一体または一体的に形成される。また、車体後部には車体フレーム2の後部上方を覆うリアカバー23が設けられ、このリアカバー23に、左右の後輪12を覆うリアフェンダ24が一体または一体的に形成される。尚、これらの部材21〜24は例えば合成樹脂成型品である。
【0021】
エンジンユニット14は、例えばエンジン28とベルト式無段変速式の変速装置29とが一体に構成されたものである。エンジン28は例えば水冷4サイクル単気筒エンジンであり、クランクケース31と、その上面前方に約45度の前傾状態で配置されたシリンダアッセンブリ32とを有して構成される。シリンダアッセンブリ32は、シリンダブロック33の上にシリンダヘッド34が載置されて構成される。
【0022】
エンジンユニット14を構成するシリンダアッセンブリ32、クランクケース31及び変速装置29と燃料タンク17とは、車両側面視で互いに離間することなく順次重なり、且つ略V字状に連なるように配置されており、そのV字形状の内側空間にバッテリ35が配置されている。
【0023】
シリンダアッセンブリ32の後上方で且つ着座シート15の前下方にエンジン吸気系が配置される。このエンジン吸気系は、シリンダヘッド34後面の吸気ポートにインテークパイプ36を介して接続される混合気生成手段としてのスロットルボディ37と、その上方で且つ着座シート15の前方に配置され、吸気管38を介してスロットルボディ37の上流側に接続されるエアクリーナ39とを備える。エアクリーナ39は、車体フレーム2のアッパーパイプ3よりも上方に突出するように配置され、フロントカバー21及びリアカバー23等と同様な材質のクリーナーカバー40によって覆われている。尚、エンジンユニット14のクランクケース31の上部から延びるブリーザホース41がエアクリーナ39に接続されている。
【0024】
スロットルボディ37は、図4及び図5に示すように、内部に形成された吸気通路25を開閉するスロットル弁26を備える。通常運転時には、スロットル弁26の開度に応じてエンジン28の吸気ポートへ供給される空気流量が調節される。また、このスロットルボディ37には、エンジン28の吸気ポートへ向けて燃料を噴射する燃料インジェクタ27が設置されている。
【0025】
一方、エンジンユニット14の排気装置は、図1及び図2に示すように、車幅方向一側(本実施形態においては右側)で、且つ車体フレーム2のアッパーパイプ3よりも下方に配置されている。この排気装置はエキゾーストパイプ42と排気マフラー43とから構成されている。エキゾーストパイプ42は、シリンダヘッド34前面の排気ポート44(図2参照)から一旦前方に延びて右後方に湾曲し、エンジン28の右側を車体フレーム2のアッパーフレーム3の下方に沿って後方に略水平に延び、その下流端に排気マフラー43に接続される。排気マフラー43は、例えば側面視で後輪12の上側で、且つリアフェンダ24(またはリアカバー23)の下方に配置される。
【0026】
図3は図2のIII−III線に沿って展開したエンジンユニット14の横断面である。エンジン28の下部を構成するクランクケース31は、左側ケース47と右側ケース48とが合わせられてなる左右分割式であり、その内部前寄りにクランク軸49が水平且つ車幅方向に指向して配置される。更に、左側ケース47の左側開口面にはケースカバー50が被装されている。
【0027】
また、シリンダブロック33に形成されたシリンダボア51(気筒)内にはピストン52が摺動自在に設けられ、このピストン52がコンロッド53を介してクランク軸49のクランクピン54に連結される。これにより、シリンダボア51内におけるピストン52の往復運動がクランク軸49の回転運動に変換されてエンジン28の出力となる。
【0028】
車両平面視で、シリンダアッセンブリ32の左側面にはカム駆動室58が設けられ、シリンダアッセンブリ32を挟んでカム駆動室58の反対側(右側)に変速装置29が配設される。尚、図3中の符号59は発電用のジェネレータ装置、符号60はエンジン始動用のロープリコイル式スタータ装置である。
【0029】
変速装置29はクランクケース31の右側部、即ち右側ケース48の右側部に設置されたベルトケース61と、このベルトケース61の右側部に被装されたケースカバー62との間の空間内に配置されている。
【0030】
変速装置29は、例えばクランク軸49の右側方に同軸線上に配置されたドライブプーリ軸64と、このドライブプーリ軸64の後方に平行配置されたドリブンプーリ軸65と、ドライブプーリ軸64に軸装されたドライブプーリ66と、ドリブンプーリ軸65に軸装されたドリブンプーリ67と、ドライブプーリ軸64とクランク軸49との間に設けられた自動遠心式クラッチ68と、ドライブプーリ66とドリブンプーリ67間に巻装されたVベルト69と、を備えて構成されている。
【0031】
エンジン28が作動してクランク軸49の回転速度が所定値に達すると、自動遠心式クラッチ68が接続してドライブプーリ軸64及びドライブプーリ66が回転し、この回転がVベルト69を介してドリブンプーリ67及びドリブンプーリ軸65に伝達される。
【0032】
ドライブプーリ66にはウエイトローラー70が内蔵され、ドライブプーリ66の回転速度が速くなるにつれて遠心力の増大に伴いウエイトローラー70が遠心方向に拡張する。これにより、ドライブプーリ66のフェース間隔が狭められて有効プーリ径が大きくなり、反対にドリブンプーリ67のフェース間隔が広がって有効プーリ径が小さくなるため、回転が無段階に変速(増速)される。
【0033】
ドリブンプーリ軸65の回転は、同軸的且つ回転一体に連結されたトランスミッションカウンタ軸72に伝達される。このトランスミッションカウンタ軸72の回転は、複数段のトランスミッションギヤ装置73を経てトランスミッションドライブ軸74に伝達され、更にベベルギヤ軸75及びベベルギヤ装置76を経て、図1に示す前輪駆動用プロペラ軸78と後輪駆動用プロペラ軸79に伝達される。
【0034】
前輪駆動用プロペラ軸78と後輪駆動用プロペラ軸79は、不整地走行車両1の車幅方向中心線上をほぼ水平に車両前後方向に延び、それぞれの前端、後端に前輪差動装置81、後輪差動装置82が連結される。そして、前輪差動装置81と後輪差動装置82から車幅方向に延出する図示しない左右一対のそれぞれのアクスル軸に前輪11、後輪12が連結されている。
【0035】
このように、エンジン28の出力(クランク軸49の回転)は、自動遠心クラッチ68を経て変速装置29により無段階に変速された後、前輪駆動用プロペラ軸78及び後輪駆動用プロペラ軸79等を介して前輪11及び後輪12に伝達される。
【0036】
前記自動遠心クラッチ68は、図3に示すように、クランク軸49の軸端に回転一体に取付けられたクラッチハブ83と、このクラッチハブ83に揺動軸84を介して取付けられたクラッチシュー85と、このクラッチシュー85に作用する遠心力によりクラッチシュー85が係合することで回転されるクラッチハウジング86とを備える。
【0037】
クラッチハウジング86はドライブプーリ軸64に回転一体に設けられ、クラッチシュー85及びクラッチハブ83を介して、クランク軸49の回転をドライブプーリ軸64に伝達可能に構成される。更に、クラッチハウジング86は、ワンウェイクラッチ87を介してクラッチハブ83に連結されている。このワンウェイクラッチ87は、クラッチハブ83からの入力に対してはクラッチハウジング86に回転を伝達せず、クラッチハウジング86からの入力に対してはクラッチハブ83に回転を伝達するように構成されている。
【0038】
スロットル弁26(図5)を開操作してエンジン28のアイドリング状態からエンジン回転数が上昇し、自動遠心クラッチ68のクラッチシュー85が遠心力で拡開してクラッチハウジング86に係合すると、クランク軸49の回転が、クラッチハブ83、クラッチシュー85及びクラッチハウジング86を介してドライブプーリ軸64に伝達される。
【0039】
一方、走行状態からスロットル弁26を全閉操作したような減速時にはエンジン回転数がアイドリング回転数まで低下し、クラッチシュー85に作用する遠心力が設定値よりも小さくなることで自動遠心クラッチ68の係合が断たれる。しかし、ドライブプーリ軸64からのバックトルクは、クラッチハウジング86からワンウェイクラッチ87を介してクラッチハブ83へ伝達され、クランク軸49へ伝達されるためエンジンブレーキが作用する。
【0040】
ところで、図2に示すエンジン28は、アイドリング運転時のエンジン回転数(アイドリング回転数)を目標回転数に制御するために、図4〜図6に示すように、吸気バイパス通路89とISC(Idle Speed Control:アイドル回転数制御)装置90とを備える。これらの吸気バイパス通路89及びISC装置90はスロットルボディ37に設けられる。
【0041】
つまり、吸気バイパス通路89は、図5に示すように、スロットルボディ37の吸気通路25に設置されたスロットル弁26の上流側に上流側ポート89Aが、下流側に下流側ポート89Bが、それぞれISC装置90のハウジング91内を介して連通してスロットルボディ37に形成されたものである。この吸気バイパス通路89により、吸気通路25におけるスロットル弁26の上流側と下流側が接続される。
【0042】
ISC装置90は、ISC弁92がハウジング91内に収容されることで、吸気バイパス通路89に設置されて構成される。ISC弁92は、先端に弁体93を備えた弁棒94を、例えばステッピングモータ95により駆動してその開度を調節するものである。後述のコントロールユニット104がエンジン28のアイドリング運転時にISC弁92の開度を調節することにより、このアイドリング運転時に吸気バイパス通路89を流れる空気流量が調節されて、エンジン28のアイドリング回転数が目標回転数に制御される。尚、図6中の符号96は、コントロールユニット104からステッピングモータ95に駆動信号を送信するためのハーネスを接続するコネクタである。
【0043】
さて、図2に示すように、本実施形態の不整地走行車両1は、ISC装置90のISC弁92がカーボンの付着などによって開弁状態で固着し、アイドリング運転時のエンジン回転数が過度に上昇して自動遠心クラッチ68(図3)が接続され、車両が動き出すことを防止するためにエンジン28を制御するエンジン制御装置100(図7)を有する。このエンジン制御装置100は、クランク角センサ101、吸気圧センサ102、スロットル開度センサ103、及びコントロールユニット104を有して構成される。
【0044】
クランク角センサ101は、図7及び図2に示すようにクランクケース31に設置され、クランク軸49の回転角を検出してエンジン28の回転数を検出するエンジン回転数センサである。また、吸気圧センサ102は、図7及び図4に示すように、スロットルボディ37に一体または別体に取り付けられ、スロットルボディ37の吸気通路25におけるスロットル弁26の下流側で、エンジン28の吸気ポートへ吸入される吸入空気の負圧(吸気負圧)を検出する。更に、スロットル開度センサ103は、スロットル弁26が装着されたスロットル弁軸30の端部に取り付けられて、このスロットル弁26の開度を検出する。
【0045】
図7に示すように、コントロールユニット104及びイグニッションコイル105には、バッテリ35からフューズ107、イグニッションスイッチ108及びエンジンストップスイッチ109を経て電力が供給される。コントロールユニット104は、図2に示すように、燃料タンク17の前方且つバッテリ35の後方で、アッパーパイプ3に設置される。また、イグニッションコイル105は、アッパーパイプ3におけるフロント縦パイプ7の接続部付近に設置される。
【0046】
コントロールユニット104は、図7に示すように、燃料インジェクタ27を制御する燃料噴射制御、イグニッションコイル105に点火信号を出力して点火プラグ106の点火を制御する点火制御、ISC弁92の開度を制御するアイドル回転数制御などの基本制御によりエンジン28を制御するほか、クランク角センサ101、吸気圧センサ102及びスロットル開度センサ103の各検出値に基づくアイドル過回転防止制御としてのエンジン出力抑制制御を実行する。
【0047】
このエンジン出力抑制制御では、コントロールユニット104は、スロットル開度センサ103にて検出されたスロットル弁26の開度が全閉領域となる所定範囲(具体的には全閉状態または開度約1%以下の略全閉状態)の場合で、且つ吸気圧センサ102にて検出された吸気負圧が閾値と比較してこの閾値よりも小さいときに、ISC装置90のISC弁92が例えば開弁状態で固着したなどの異常が発生したと判定して、エンジン28の出力を抑制する。
【0048】
つまり、コントロールユニット104は、後に詳説するが、スロットル開度センサ103にて検出されたスロットル弁26の開度が上述の全閉領域となる所定範囲の場合で、且つ所定時間内に所定幅以上のエンジン回転数の上昇が検出された後、更にエンジン回転数が所定値以上のときに吸気圧センサ102にて検出された吸気負圧を閾値と比較する。そして、この吸気負圧が閾値よりも小さいときに、コントロールユニット104は、ISC装置90のISC弁92が開弁状態で固着したなどの異常が発生したと判定する。
【0049】
ここで、上述の所定時間内に所定幅以上のエンジン回転数の上昇があったか否かを検出するステップは、極微小時間の第1所定時間Δt1内にエンジン回転数の上昇幅を検出する第1エンジン回転数上昇判定ステップと、第1所定時間Δt1よりも長い第2所定時間Δt2内にエンジン回転数の上昇幅を検出する第2エンジン回転数上昇判定ステップとを順次実行するステップである。
【0050】
また、上述のエンジン回転数の所定値は、ISC弁92の正常時におけるエンジン28のアイドリング回転数(例えば1500rpm)よりも高く、且つ自動遠心クラッチ68が係合するときのエンジン回転数(例えば1900rpm)よりも低く設定されたものである。
【0051】
吸気圧センサ102にて検出された吸気負圧が閾値よりも小さいときに、コントロールユニット104は、ISC装置90のISC弁92が異常であると判定するが、この異常を判定してから一定時間経過した後にエンジン28の出力を抑制する制御を実行する。この出力抑制制御は、本実施形態では、エンジン28の連続する複数のサイクルのうち任意のサイクル(例えば1のサイクル)の点火のみを実施し、他のサイクルの点火をカットする(間引く)点火間引き制御である。尚、エンジン28の1サイクルは、順次実施される膨張行程、排気行程、吸気行程、圧縮行程をいう。
【0052】
コントロールユニット104が実行する上述のISC弁92の異常判定制御とエンジン28の出力抑制制御(アイドル過回転防止制御)とを、図8及び図9のフローチャートなどを用いて詳細に説明する。
【0053】
(A)ISC弁92の異常判定制御(図8)
コントロールユニット104は、まず、スロットル弁26の開度が所定開度α(例えば開度1%)以下の状態が所定時間T1(例えば320msec)以上継続したか否かを判定する(S1)。ここでは、スロットル弁26の開度が全閉領域となる所定範囲(具体的には全閉状態または開度約1%以下の略全閉状態)であるか否かを判定するが、所定時間T1以上継続したときに条件を成立させることで、スロットル弁26の瞬間的な全閉または略全閉操作を除外するようにしている。スロットル弁26の短時間の全閉または略全閉操作は車両が走行中に行ない得る通常の操作であり、走行中であるためISC弁92の固着による影響はほとんどなく、エンジン出力抑制制御を実行する必要がない。
【0054】
コントロールユニット104は、次に、第1所定時間Δt1(例えば40ms)におけるエンジン回転数の変化が第1所定値ΔNE1(例えば40rpm)以上であるか否かを判定する(S2)。このステップは、スロットル弁26の開度が上述の全閉領域となる所定範囲であるにも拘らず、エンジン回転数が所定以上の上昇度合いを示すか否かを判定するステップである(第1エンジン回転数上昇判定ステップ)。
【0055】
コントロールユニット104は、次に、第2所定時間Δt2(例えば200ms)におけるエンジン回転数の変化が第2所定値ΔNE2(例えば150rpm)以上であるか否かを判定する(S3)。このステップは、Δt2>Δt1、ΔNE2>ΔNE1とすることで、スロットル弁26の開度が上述の全閉領域となる所定範囲の状態下で、ステップS2よりも長時間におけるエンジン回転数の上昇度合いを判定するステップである(第2エンジン回転数上昇判定ステップ)。
【0056】
本実施形態の不整地走行車両1に搭載されることの多い単気筒大排気量のエンジン28(750cc、500cc等)では、図10に示すように、1サイクルにおけるクランクスピード(ピストン速度)の変化Mが大きいため、ステップS2だけでは、爆発直後の圧縮上死点付近におけるクランクスピードの急激な増加を検出してエンジン回転数の上昇と誤判定してしまう恐れがある。ステップS3を加えることで上記誤判定を回避できる。
【0057】
コントロールユニット104は、次に、エンジン回転数NEが、制御すべき設定範囲内(NE1<NE<NE2:例えばNE1=1,675rpm、NE2=12,000rpm)にあるか否かを判定する(S4)。設定回転数NE1は、自動遠心クラッチ68が係合するよりも前のエンジン回転数を適宜設定すればよい。また、設定回転数NE2は、レブリミットとしての燃料噴射カットが行なわれる下限値とすればよい。この燃料噴射カット中は既にエンジン出力抑制制御が実行されており、設定回転数NE2以上の回転領域ではISC弁92の異常時のエンジン出力抑制制御(本実施形態では点火間引き制御)が不要となるからである。尚、本実施形態では、自動遠心クラッチ68が係合を始める回転数(クラッチイン回転数)は1,900rpmである。
【0058】
コントロールユニット104は、次に、現在のエンジン回転数及び吸気負圧が、その回転数における所定の吸気負圧の範囲内か否かを判定する(S5)。ここで、所定の吸気負圧の範囲は、エンジン回転数を変数として変化する閾値としての吸気負圧値(関数またはテーブル等)に基づいて決定される。具体的には、例えば図11に示すようなエンジン回転数−吸気負圧マップに基づき、この図11の曲線Aを閾値とし、この曲線Aよりも吸気負圧が小さい(低い)範囲を所定の吸気負圧の範囲とする。
【0059】
本実施形態では、ISC弁92が75%の開度で固着した場合に、スロットル弁26が全閉状態の停車中の車両が動きだすことが確認されたため、ISC弁92を75%の開度で固定した場合のエンジン回転数と吸気負圧の関係を示す前記曲線Aを、閾値として図11に示している。コントロールユニット104は、現在のエンジン回転数及び吸気負圧が、図11の曲線Aよりも吸気負圧が大きい(高い)側の領域にあるときには(例えば図11の点X)、ISC弁92が正常または看過できるレベルの低開度固着と判定し、逆に、曲線Aよりも吸気負圧が小さい(低い)側の領域にあるときには(例えば図11の点Y)、ISC弁92が異常または看過できないレベルの高開度固着であると判定する。これは、吸気バイパス通路89の開口面積が大きいほどポンピングロスが少なく、吸気負圧が小さくなって吸気バイパス通路89内を流れる空気流量が増加し、エンジン回転数が上昇するからである。
【0060】
コントロールユニット104は、次に、ステップS5の判定結果がYESになってから一定時間T2が経過したか否かを判定する(S6)。これは、吸気負圧の低下が瞬間的でないことを確認するためである。本実施形態では、一定時間T2は40msec以上としている。
【0061】
コントロールユニット104は、ステップS6の判定結果がYESになったときにISC弁92が異常であると判定し(S7)、その後、図9に示すアイドル過回転防止制御(所謂エンジン出力抑制制御)を実行する。
【0062】
(B)エンジン28の出力抑制制御(図9)
コントロールユニット104は、ステップS11(つまり図8のステップS7)にてISC弁92の異常を判定したときに、判定条件が成立したとしてステップS12へ進む。このステップS12のアイドル過回転防止制御(エンジン出力抑制制御)は、具体的には、図12に示すように、コントロールユニット104がイグニッションコイル105へ出力する点火信号を制御して、エンジン28の連続する7サイクルの点火を失火させ、次のサイクルで1回だけ正規の点火タイミングで点火させる点火間引き制御である。
【0063】
コントロールユニット104は、次に、ステップS12の結果、エンジン回転数が設定回転数NE1(例えば1,675rpm)以下になったか否かを判定する(ステップS13)。このステップS13でYESと判定したときに、コントロールユニット104はアイドル過回転防止制御(点火間引き制御)を終了する。このアイドル過回転防止制御により、図13のようにエンジン回転数の上昇が抑制され、エンジン回転数が、車両が動きだすクラッチイン回転数(例えば1900rpm)未満に規制されるため、ライダーの予期しない不意の発進が確実に防止される。
【0064】
以上のように構成されたことから、本実施の形態によれば、次の効果(1)を奏する。
(1)スロットル開度センサ103にて検出されたスロットル弁26の開度が全閉領域となる所定範囲(具体的には全閉状態または開度約1%以下の略全閉状態)の場合で、且つ吸気圧センサ102にて検出された吸気負圧が閾値よりも小さいときに、ISC装置90のISC弁92が異常であると判定して、エンジン28の出力を抑制するエンジン出力抑制制御(例えば点火間引き制御)を実行する。このため、スロットル弁26が上述の全閉領域となる所定範囲にあるにも拘らず、ISC弁92が開弁状態で固着するなどの異常時にエンジン28に供給される吸気流量が減少しない場合にも、エンジン回転数の過度の上昇を防止できる。従って、このエンジン回転数がクラッチイン回転数未満に抑制される場合には、エンジン28のアイドリング運転時に車両が予期せず発進する事態を防止できる。
【0065】
尚、本第1実施形態においては、吸気負圧の閾値は、ISC弁92が75%の開度で固着した場合のエンジン回転数と吸気負圧の関係(図11の曲線A)のみを示したが、ISC弁92が固着したときのISC弁92の開度(例えば開度75%、開度50%、開度30%)に応じて複数種類を用意してもよい。例えば、ISC弁92が75%、50%、30%でそれぞれ固着したときのエンジン回転数と吸気負圧の関係をそれぞれ第1閾値(図11の曲線A)、第2閾値(図11の曲線B)、第3閾値(図11の曲線C)として設定してもよい。
【0066】
この場合、コントロールユニット104は、エンジン出力抑制制御(アイドル過回転防止制御)を各閾値に対応して異ならせてもよい。つまり、例えば図14に示すように、ISC弁92の開度(ISC開度)が大きいほど、吸気バイパス通路89内を流れる空気流量(ISC空気流量)が増加する。従って、コントロールユニット104は、図11及び図14に示すように、設定範囲(図8のステップS4)内の任意のエンジン回転数における吸気負圧が、第1閾値以下の場合にエンジン28の8サイクル中7サイクルで失火させ、第1閾値を超え第2閾値以下の場合にエンジン28の6サイクル中5サイクルで失火させ、第2閾値を超え第3閾値以下の場合にエンジン28の4サイクル中3サイクルで失火させ、第3閾値を超えている場合にエンジン28の2サイクル中1サイクルで失火させる。このようにして、予想されるISC弁92の固着開度に応じて点火間引きの割合を変化させる点火間引き制御を実施してもよい。
【0067】
[II]第2実施形態(図2、図15、図16)
図15は、本発明に係るエンジン制御装置の第2実施形態を示すブロック図であり、図16は、図15のコントロールユニットが実行する吸気圧センサ学習制御を示すフローチャートである。この第2実施形態において、前記第1実施形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0068】
本第2実施形態におけるエンジン制御装置110のコントロールユニット111は、前記第1実施形態におけるエンジン制御装置100のコントロールユニット104と同様に、燃料噴射制御、点火制御及びアイドル回転数制御などの基本制御と、エンジン出力抑制制御(ISC弁92の異常判定制御及びアイドル過回転防止制御)とを実行するほか、吸気圧センサ学習制御を実行する。
【0069】
この吸気圧センサ学習制御は、図2、図4及び図15に示す吸気圧センサ102により検出された吸気負圧の検出値を補正するように学習して、各不整地走行車両1に設置された吸気圧センサ102の個体差や経年劣化による影響を排除するために実行されるものである。そして、この学習した吸気負圧の値は、前記ISC弁92の異常判定制御のステップS5(図8)における吸気負圧の値として用いられる。
【0070】
つまり、コントロールユニット111は、所定条件成立時に、所定の運転状態下で吸気圧センサ102により検出された吸気負圧の検出値から、この吸気圧センサ102の特性(後述の検出値の変動量δ)を把握し、以後この吸気圧センサ102にて検出された吸気負圧の検出値を前記特性に基づいて補正するよう学習する吸気圧センサ学習制御を、図16に示すように実行する。
【0071】
まず、コントロールユニット111は、所定条件の成立時であるか否か、即ちエンジン28を搭載した不整地走行車両1がメンテナンス状態にあるか否かを判断する(S21)。
【0072】
コントロールユニット111は、図2及び図15に示すように、不整地走行車両1のメンテナンス時に使用される特殊ツール113(例えば、エラーコード読取ツールや短絡用ツール)を差し込むための既存のメンテナンス端子112を具備している。コントロールユニット111は、メンテナンス端子112に特殊ツール113が結合されてメンテナンス端子112が結線状態(特殊ツール113がエラーコード読取ツールの場合には導通状態、特殊ツール113が短絡用ツールの場合には短絡状態)になったことを所定時間Z1(例えば5秒間)以上検知することで、不整地走行車両1がメンテナンス状態にあることを認識する。本実施形態の吸気圧センサ学習制御を不整地走行車両1のメンテナンス時に実行するためである。
【0073】
次に、コントロールユニット111は、図16に示すように、ステップS21でメンテナンス端子112が結線状態にあり、不整地走行車両1がメンテナンス状態にあると判断したときに、エンジン28(図2)が所定のエンジン運転状態下にあるか否かを判断する(S22〜S27)。
【0074】
この所定の運転状態は、エンジン28の暖機状態を示す指標がエンジン28の暖機状態を示していること(S22)、スロットル弁26(図5)が略全閉状態にあること(S23)、エンジン回転数が安定したアイドリング回転状態にあること(S24)、不整地走行車両1の車両速度が所定値以下であること(S25)、吸気負圧がエンジン28のアイドリング運転時の設定値に対し所定範囲内にあること(S26)、及び上述のそれぞれの状態が所定時間Z3継続していること(S27)が、全て成立した状態をいう。
【0075】
ステップS22におけるエンジン28(図2)の暖機状態を示す指標は、エンジン28におけるシリンダブロック33に形成されたウォータジャケット内を流れる水の温度(水温)と、エンジン28の各部位を潤滑する潤滑油の油温と、エンジン28のシリンダブロック33における外壁の温度(機温)と、エアクリーナ39の内側下部における吸気の温度(吸気温)との少なくとも1つ、好ましくは2つ以上である。
【0076】
本第2実施形態では、図2及び図15に示すように、コントロールユニット111は、エンジン28のシリンダブロック33に設置された水温センサ114にて検出される水温が設定値(例えば70℃)以上にあり、且つエアクリーナ39の下部に設置された吸気温センサ115にて検出される吸気温度が所定範囲(例えば35〜45℃)にあることを確認することで、エンジン28が暖機状態にあると判断し、ステップ23へ進む。
【0077】
ステップS23においては、コントロールユニット111は、スロットル開度センサ103にて検出されたスロットル弁26の開度が略全閉状態(開度約1%以下)にあるか否かを判断し、略全閉状態にあると確認したときにステップS24へ進む。
【0078】
ステップS24においては、コントロールユニット111は、一定時間Z2(例えば20秒間)のエンジン回転数が、所定のアイドリング回転数(例えば1500rpm)に対し所定範囲内(例えば±300rpm)にあるか否かを判断し、所定範囲内にある場合に、エンジン回転数が安定したアイドリング回転状態にあると判断して、ステップS25へ進む。
【0079】
ステップS25においては、コントロールユニット111は、図示しない車速センサにて検出される車両速度が所定値(例えば5km/h)以下であるか否かを判断し、以下である場合にステップS26へ進む。
【0080】
このステップS25は、メンテナンス端子112が不整地走行車両1のメンテナンス時以外のときに雨水などによって短絡する場合があり、この場合にステップS22、S23、S24、S26及びS27の条件が成立して、吸気圧センサの検出値の学習(S28)を実行してしまう可能性があるので、これを排除するために設定されたものである。ここで、車両速度の設定値を0km/hとせず、5km/hとしたのは、車速センサのバラツキの影響を排除するためである。
【0081】
ステップS26においては、コントロールユニット111は、吸気圧センサ102が検出する吸気負圧が、エンジン28のアイドリング運転時の設定値(例えば約60kPa)に対し所定範囲(例えば±5kPa)内にあるか否かを判断し、所定範囲内にある場合にステップS27へ進む。このステップS26は、吸気圧センサ102に故障などが生じている場合に、この吸気圧センサ102の検出値の学習(S28)を実行させないために設定されたものである。
【0082】
ステップS27においては、コントロールユニット111は、ステップS21〜S26の全ての条件が成立(YES)した状態が所定時間Z3(例えば30秒間)継続しているか否かを判断し、継続している場合にのみ、ステップS28において吸気圧センサ102の検出値の学習を実行する。
【0083】
コントロールユニット111は、ステップS28における吸気圧センサ102の検出値の学習を次のように実行する。コントロールユニット111は、ステップS27の条件成立時に吸気圧センサ102にて検出された吸気負圧の検出値Kを、不整地走行車両1の工場出荷時におけるアイドリング運転時にこの吸気圧センサ102により検出された吸気負圧の初期値K0と比較して、前記検出値Kの初期値K0に対する変動量(ずれ量)δを求め、この吸気圧センサ102の特性を把握する。そして、コントロールユニット111は、以後この吸気圧センサ102にて検出された吸気負圧の検出値Pを前記特性に基づいて補正するよう学習する。すなわち、コントロールユニット111は、上記変動量δを補正値とし、以後この吸気圧センサ102にて検出された吸気負圧の検出値P1に上記補正値δを加味(加算または減算)することで、この吸気圧センサ102にて検出された吸気負圧の検出値P1から上記変動量δを取り除くよう補正し、正確な吸気負圧の値P2とするよう学習する。
【0084】
このようにして学習した吸気負圧の値P2を、ISC弁92の異常判定制御(図8)におけるステップS5の吸気負圧の値(吸気圧センサ102により検出された吸気負圧)として用いることで、ISC弁92の異常判定を正確に実行することが可能になる。尚、上述の吸気圧センサ学習制御における所定のエンジン運転状態としては、不整地走行車両1の車両速度が所定値以下であること(S25)を除外するものでもよい。
【0085】
以上のように構成されたことから、本第2実施形態においても、コントロールユニット111は、図8及び図9に示すエンジン出力抑制制御(ISC弁92の異常判定制御及びアイドル過回転防止制御)を実行するので、前記第1実施形態の効果(1)と同様な効果を奏するほか、次の効果(2)〜(4)を奏する。
【0086】
(2)コントロールユニット111が、吸気圧センサ102にて検出された検出値を、この吸気圧センサ102の特性(変動量δ)に基づいて補正するよう学習することで、この吸気圧センサ102にて検出された吸気負圧の値を正確な値にできる。この結果、この吸気圧センサ102における車両ごとの個体差や経年劣化の影響を排除でき、ISC弁92の異常判定制御を高精度に実行することができる。
【0087】
(3)コントロールユニット111は、メンテナンス端子112の結線状態を検知することで不整地走行車両1のメンテナンス状態を認識し、このメンテナンス状態において吸気圧センサ学習制御を実行する。この吸気圧センサ学習制御は頻繁に行なう必要がなく、不整地走行車両1のメンテナンス時に行なうことで煩雑さを解消できる。
【0088】
(4)コントロールユニット111は、不整地走行車両1のメンテナンス時に使用される特殊ツール113を差し込むためのメンテナンス端子112の結線状態を確認することで、不整地走行車両1のメンテナンス状態を認識するので、メンテナンス状態確認のために別途スイッチ類を設置する必要がなく、コストの上昇を回避できる。
【0089】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形することができる。
【0090】
例えば、前記第1本実施形態において、エンジン出力抑制制御(アイドル過回転防止制御)として点火間引き制御を実施する場合を述べたが、この点火間引き制御に代えて、またはこの点火間引き制御と併用して、燃料インジェクタ27による噴射間引き制御を実施してもよい。更に、エンジン出力抑制制御(ISC弁92の異常判定制御)に専用の吸気圧センサ102を別途設置してもよい。また、本発明は、不整地走行車両1に限らず、自動二輪車や四輪自動車などにおけるISC装置の制御に適用してもよい。
【符号の説明】
【0091】
25 吸気通路
26 スロットル弁
28 エンジン
37 スロットルボディ
89 吸気バイパス通路
90 ISC装置
92 ISC弁
100 エンジン制御装置
101 クランク角センサ
102 吸気圧センサ
103 スロットル開度センサ
104 コントロールユニット
110 エンジン制御装置
111 コントロールユニット
112 メンテナンス端子
113 特殊ツール
Δt1 第1所定時間
Δt2 第2所定時間
Z3 所定時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路に設置されたスロットル弁の上流側と下流側を接続する吸気バイパス通路に設置され、エンジンのアイドリング運転時に前記吸気バイパス通路を流れる空気流量を調節することでエンジンのアイドリング回転数を制御するISC装置を備えたエンジンにおけるエンジン制御装置であって、
前記吸気通路に設置された前記スロットル弁の開度を検出するスロットル開度センサと、
前記吸気通路における前記スロットル弁の下流側の吸気負圧を検出する吸気圧センサと、
前記エンジンの出力を制御するコントロールユニットとを有し、
前記コントロールユニットは、前記スロットル開度センサにて検出された前記スロットル弁の開度が所定範囲内の場合で、且つ前記吸気圧センサにて検出された吸気負圧が閾値と比較して小さいときに、前記ISC装置のISC弁が異常であると判定して前記エンジンの出力を抑制するエンジン出力抑制制御を実行するよう構成されたことを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記コントロールユニットは、スロットル開度センサにて検出されたスロットル弁の開度が全閉領域となる所定範囲の場合で、且つ所定時間内に所定幅以上のエンジン回転数の上昇が検出された後に吸気圧センサで検出された吸気負圧を閾値と比較するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記コントロールユニットは、スロットル開度センサにて検出されたスロットル弁の開度が全閉領域となる所定範囲の場合で、且つ所定時間内に所定幅以上のエンジン回転数の上昇が検出された後、更にエンジン回転数が所定値以上のときに吸気圧センサで検出された吸気負圧を閾値と比較するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記エンジン回転数の所定値は、ISC弁の正常時におけるエンジンのアイドリング回転数よりも高く、且つ自動遠心クラッチの係合時におけるエンジン回転数よりも低く設定されたことを特徴とする請求項3に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記所定時間内に所定幅以上のエンジン回転数の上昇があったか否かを検出するステップは、微小時間の第1所定時間内にエンジン回転数の上昇幅を検出する第1エンジン回転数上昇判定ステップと、前記第1所定時間よりも長い第2所定時間内にエンジン回転数の上昇幅を検出する第2エンジン回転数上昇判定ステップとを順次実行するステップであることを特徴とする請求項2または3に記載のエンジン制御装置。
【請求項6】
前記エンジン出力抑制制御は、エンジンの連続する複数のサイクルのうち任意数のサイクルの点火のみ実施する点火間引き制御であることを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項7】
前記コントロールユニットはエンジン出力抑制制御を、ISC弁の異常を判定してから一定時間経過した後に実行するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項8】
前記吸気負圧の閾値は、ISC弁が固着したときの前記ISC弁の開度に応じて異なる複数種類が設定され、コントロールユニットは、エンジン出力抑制制御を各閾値に対応して異ならせるよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項9】
前記コントロールユニットは、所定条件成立時に、所定のエンジン運転状態下で前記吸気圧センサにより検出された吸気負圧の検出値から前記吸気圧センサの特性を把握し、この吸気圧センサにて検出された吸気負圧の検出値を前記特性に基づいて補正するよう学習する吸気圧センサ学習制御を実行することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項10】
前記所定条件成立時は、エンジンを搭載した車両がメンテナンス状態にあることを示す条件の成立時であり、吸気圧センサ学習制御が前記メンテナンス時に実行されることを特徴とする請求項9に記載のエンジン制御装置。
【請求項11】
前記コントロールユニットは、車両のメンテナンス時に使用される特殊ツールを差し込むためのメンテナンス端子の結線状態を検知することで、車両のメンテナンス状態を認識するよう構成されたことを特徴とする請求項10に記載のエンジン制御装置。
【請求項12】
前記所定のエンジン運転状態は、エンジンの暖機状態を示す指標が前記エンジンの暖機状態を示していること、スロットル弁が略全閉状態にあること、エンジン回転数が安定したアイドリング回転状態にあること、及び上述のそれぞれの状態が所定時間継続していることが、全て成立した状態であることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項13】
前記所定のエンジン運転状態には、吸気負圧がエンジンのアイドリング運転時の設定値に対し所定範囲にある状態が所定時間継続していることが、追加されることを特徴とする請求項12に記載のエンジン制御装置。
【請求項14】
前記所定のエンジン運転状態には、車両速度が所定値以下にある状態が所定時間継続していることが、追加されることを特徴とする請求項12または13に記載のエンジン制御装置。
【請求項15】
吸気通路に設置されたスロットル弁の上流側と下流側を接続する吸気バイパス通路に設置され、エンジンのアイドリング運転時に前記吸気バイパス通路を流れる空気流量を調節することでエンジンのアイドリング回転数を制御するISC弁を備えたエンジンにおけるエンジン制御方法であって、
前記スロットル弁の開度が所定範囲内の場合で、且つ吸気通路におけるスロットル弁下流側の吸気負圧が閾値と比較して小さいときに、前記ISC弁が異常であると判定して前記エンジンの出力を抑制するエンジン出力抑制制御を実行することを特徴とするエンジン制御方法。
【請求項16】
前記スロットル弁の開度が所定範囲の場合が、前記スロットル弁の開度が全閉領域となる所定範囲の場合であることを特徴とする請求項15に記載のエンジン制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−154321(P2012−154321A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−288662(P2011−288662)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】