説明

エンジン始動装置

【課題】電動スタータとマニュアルスタータとが設けられたエンジンにおいて、電動スタータによるエンジンの始動が繰り返されてバッテリが消耗するのを防止する。
【解決手段】電動スタータによるエンジンの始動が開始されたときにバッテリの残存容量を推定するバッテリ容量監視部53と、エンジンの始動モードが通常始動モードであるときにエンジンのクランキングを行なわせるべくバッテリ32からスタータ・ジェネレータSGに駆動電流を供給する始動時スタータ駆動部52と、バッテリの残存容量が不足しているときにエンジンの始動のためのクランキングをマニュアルスタータ50により行なうべきことを表示する表示部54とを設け、バッテリ容量監視部53により推定されたバッテリの残存容量が不足しているときにスタータ・ジェネレータの駆動を禁止してエンジンの始動モードをマニュアル始動モードに切り換えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置により燃料が供給され、点火装置により点火されるエンジンを始動するエンジン始動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船外機においては、洋上でエンジンを始動することができないと遭難のおそれがあるため、エンジンがスタータモータによりクランキングを行なう電動スタータを備えている場合でも、リコイルスタータやロープスタータ等の、人力を利用してクランキングを行なうマニュアルスタータが併設されていることが多い。雪山で使用されるスノーモビルなど、エンジンを始動できない事態が生じるのを可能な限り回避することが必要とされる乗り物においても同様に、エンジンを始動する装置として、電動のスタータとマニュアルスタータとが併設されることが多い。また小型の自動二輪車においても、電動スタータとキックスタータ等のマニュアルスタータとが併設されることがある。
【0003】
電動スタータとマニュアルスタータとを備えたエンジンにおいては、バッテリの残存容量が十分でなく、電動スタータにより始動操作を行なうと、バッテリの電圧が低下して燃料噴射装置や、点火装置を動作させることができなくなる場合や、バッテリの残存容量が十分でないために電動スタータがエンジンを始動させるために必要な回転速度でクランキングを行なうことができない場合に、リコイルスタータや、キックスタータ等のマニュアルスタータを用いてエンジンを始動させるようにしている。バッテリの残存容量が十分でない場合でも、大電力を消費するスタータモータを駆動せずに、マニュアルスタータを用いてクランキングを行なえば、燃料噴射装置や点火装置を動作させてエンジンを始動できることが多い。電動スタータとマニュアルスタータとを備えたエンジンの始動装置は、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
従来の電動スタータは、エンジンのクランキングを行なうための専用のモータであるスタータモータを備えていたが、スタータモータを用いるとエンジンが大形化するのを避けられない。そこで、エンジンのクランク軸に磁石界磁回転形の回転電機のロータを直結して、この回転電機をスタータモータとして動作させてエンジンを始動させ、エンジンが始動した後は、回転電機を磁石発電機として動作させて、該磁石発電機から電装品を駆動するための電力を得ることが提案されている。このような使い方をする回転電機は、スタータ・ジェネレータと呼ばれている。スタータ・ジェネレータを用いて始動を行なうエンジンにおいても、用途によっては、マニュアルスタータを併設することが必要になることがある。
【特許文献1】特開平6−167263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジンが電動スタータとマニュアルスタータとの双方を備えている場合でも、バッテリの残存容量が少ない状態で、運転者が電動スタータを何度も動作させると、バッテリが消耗していわゆるバッテリ上がりの状態になり、燃料噴射装置や点火装置を動作させることができなくなるため、マニュアルスタータによってもエンジンを始動させることができなくなるという問題が生じる。
【0006】
またエンジンが比較的小形である場合には、電動スタータと併設されたマニュアルスタータによりエンジンを始動させることが可能であるが、排気量が800cc以上もあるようなエンジンをマニュアルスタータで始動させることは困難であった。
【0007】
本発明の目的は、電動スタータとマニュアルスタータとが併設されているエンジンにおいて、バッテリの残存容量が十分でない状態で電動スタータによるエンジンの始動が繰り返されてマニュアルスタータによるエンジンの始動が不可能になる事態が生じるのを防ぐことができるようにしたエンジン始動装置を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、電動スタータによるエンジンの始動が繰り返されてマニュアルスタータによるエンジンの始動が不可能になる事態が生じるのを防ぐとともに、マニュアルスタータによるエンジンの始動を容易にすることができるようにしたエンジン始動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、燃料噴射装置により燃料が供給され、点火装置により点火されるエンジンを始動するエンジン始動装置を対象とする。
本発明に係わるエンジン始動装置は、エンジンの始動時にエンジンのクランク軸を駆動するスタータモータと、人力により駆動されてエンジンを始動させるためのクランキングを行なうマニュアルスタータと、スタータモータに駆動電流を供給するバッテリの残存容量を推定するバッテリ容量監視部と、エンジンの始動モードを通常始動モードとマニュアル始動モードに切り換える始動モード切換部と、始動モードが通常始動モードであるときにエンジンのクランキングを行なわせるべくバッテリからスタータモータに駆動電流を供給する始動時スタータ駆動部と、始動モードがマニュアル始動モードに切り換えられたときにエンジンの始動のためのクランキングをマニュアルスタータにより行なうべきことを表示する表示部とを備えている。
上記始動モード切換部は、エンジンの始動指令が与えられたときに始動モードを通常始動モードとして始動時スタータ駆動部にスタータモータへの駆動電流の供給を開始させた後、バッテリ容量監視部により推定されたバッテリの残存容量を確認して該バッテリの残存容量がスタータモータによりエンジンを始動するために必要な量以上であるときにエンジンの始動モードを通常始動モードのままとし、バッテリ容量監視部により推定されたバッテリの残存容量がエンジンを始動するために必要な量よりも不足しているときにスタータ駆動部によるスタータモータの駆動を禁止してエンジンの始動モードをマニュアル始動モードに切り換えるように構成される。
【0010】
上記のように構成すると、スタータモータの駆動が開始されたときに、先ずバッテリ容量監視部がバッテリの残存容量を推定する。この推定の結果、バッテリの残存容量が十分ある場合には、スタータモータの駆動が継続され、エンジンが始動させられる。またバッテリ容量監視部により、バッテリの残存容量が不足していると判定されたときに、始動モード切換部がスタータモータの駆動を直ちに禁止して始動モードをマニュアル始動モードに切り換えるため、バッテリの過度の消耗が抑えられる。
【0011】
バッテリの残存容量がスタータモータによりエンジンを始動するには不足している場合でも、通常は、マニュアル始動を行えば(スタータモータを駆動しなければ)点火装置及び燃料噴射装置を駆動することはできるため、バッテリを消耗させないようにスタータモータの駆動を中止してマニュアル始動を行えばエンジンを始動させることが可能である。従って、上記のように構成することにより、エンジンを始動することが全く不可能になる事態が生じるのを防ぐことができ、電動スタータと併せてマニュアルスタータを設けたことの利点を活かすことができる。
【0012】
本発明の好ましい態様では、マニュアルスタータによるエンジンのクランキングが行なわれているときに、バッテリの電圧を監視しつつ、バッテリの電圧が点火装置及び燃料噴射装置を動作させるために必要な電圧値を下回らない範囲でスタータモータを駆動してマニュアルスタータによるクランキングをアシストするスタータアシスト部が設けられる。
【0013】
上記のように構成すると、マニュアル始動モードで例えばリコイルスタータのロープを引いてエンジンを始動する際に、スタータモータを駆動して、該スタータモータからもクランキングに必要な駆動力をクランク軸に与えることができるため、エンジンの始動を容易にすることができ、エンジンの排気量がある程度大きい場合(例えば800cc以上である場合)でもマニュアル始動モードでエンジンを始動することが可能になる。マニュアルスタータによる始動操作をアシストする際には、バッテリ電圧を監視して、バッテリ電圧が点火装置及び燃料噴射装置を動作させるために必要な電圧値を下回らない範囲でスタータモータを駆動するので、バッテリが過度に消耗するのを防ぐことができる。
【0014】
本発明の好ましい態様では、マニュアル始動モードによる始動が開始された直後に燃料噴射装置の燃料ポンプの駆動を開始して該燃料ポンプを駆動した時間が設定時間に達したときに始動操作開始後初回の燃料噴射を行なうマニュアル始動モード時燃料噴射制御部と、エンジンの始動が完了するまでの間エンジンのピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置または該ピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置よりも遅れたクランク角位置でエンジンを点火するように点火装置を制御する始動時点火制御部とが設けられる。
【0015】
上記のように、構成すると、マニュアル始動モードによる始動が開始されたときに遅滞なく燃料噴射を行わせることができるため、エンジンの始動性を向上させることができる。
【0016】
始動時のクランキング速度が遅い場合には、エンジンの始動時に初爆を行わせる気筒内のピストンが圧縮行程の上死点に達する前に点火を行わせると、ピストンが圧縮行程の上死点を越えることができずに押し戻され、エンジンの始動に失敗するおそれがある。
これに対し、上記のように、エンジンの始動時に、エンジンのピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置または該ピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置よりも遅れたクランク角位置でエンジンを点火するようにしておくと、クランキング速度が遅い場合に、ピストンが圧縮行程の上死点を越えることができずに押し戻されるのを防ぐことができるため、エンジンの始動を確実に行わせることができる。
【0017】
本発明の好ましい態様では、エンジン始動装置が、磁石界磁を有し、エンジンのクランク軸に直結されたロータと多相の電機子コイルを有するステータと前記ステータ側でロータの磁極の極性を検出してロータの回転角度位置を検出するホールセンサとを備えてホールセンサの検出出力に応じて前記電機子コイルに駆動電流が与えられたときにスタータモータとして動作し、ロータがエンジンにより駆動されたときに発電機として動作するスタータ・ジェネレータと、人力により駆動されてエンジンを始動させるためのクランキングを行なうマニュアルスタータと、スタータ・ジェネレータに駆動電流を供給するバッテリの残存容量を推定するバッテリ容量監視部と、エンジンの始動モードを通常始動モードとマニュアル始動モードに切り換える始動モード切換部と、始動モードが通常始動モードであるときにスタータ・ジェネレータをスタータモータとして動作させてエンジンのクランキングを行なわせるべくホールセンサの出力に応じてバッテリからスタータ・ジェネレータに駆動電流を供給する始動時スタータ駆動部と、始動モードがマニュアル始動モードに切り換えられたときにエンジンの始動のためのクランキングをマニュアルスタータにより行なうべきことを表示する表示部とを備えている。
この場合、始動モード切換部は、エンジンの始動指令が与えられたときに始動モードを通常始動モードとして始動時スタータ駆動部にスタータ・ジェネレータへの駆動電流の供給を開始させた後、バッテリ容量監視部により推定されたバッテリの残存容量を確認して該バッテリの残存容量がスタータ・ジェネレータによりエンジンを始動するために必要な量以上であるときにエンジンの始動モードを通常始動モードのままとし、バッテリ容量監視部により推定されたバッテリの残存容量がエンジンを始動するために必要な量よりも不足しているときにスタータ駆動部によるスタータモータの駆動を禁止してエンジンの始動モードをマニュアル始動モードに切り換えるように構成される。
【0018】
上記のように構成した場合も、バッテリの残存容量が十分ある場合には、スタータ・ジェネレータのスタータモータとしての駆動が継続され、エンジンが始動させられる。またバッテリの残存容量が不足していると判定されたときには、始動モード切換部がスタータ・ジェネレータのスタータモータとしての駆動を直ちに禁止して始動モードをマニュアル始動モードに切り換えるため、バッテリの過度の消耗が抑えられる。従って、エンジンを始動することが全く不可能になる事態が生じるのを防ぐことができ、電動スタータと併せてマニュアルスタータを設けたことの利点を活かすことができる。
【0019】
上記のように、エンジンのクランク軸にロータが直結されたスタータ・ジェネレータを用いる場合も、マニュアルスタータによるエンジンの始動を容易にするため、マニュアルスタータによるエンジンのクランキングが行なわれているときに、バッテリの電圧を監視しつつ、バッテリの電圧が点火装置及び燃料噴射装置を動作させるために必要な電圧値を下回らない範囲でスタータ・ジェネレータをモータとして駆動してマニュアルスタータによるクランキングをアシストするスタータアシスト部を設けるのが好ましい。
【0020】
上記のように、スタータ・ジェネレータを用いる場合も、マニュアル始動モードによる始動が開始された直後に燃料噴射装置の燃料ポンプの駆動を開始して該燃料ポンプを駆動した時間が設定時間に達したときに始動操作開始後初回の燃料噴射を行なうマニュアル始動モード時燃料噴射制御部と、エンジンの始動が完了するまでの間エンジンのピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置または該ピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置よりも遅れたクランク角位置でエンジンを点火するように点火装置を制御する始動時点火制御部とを設けるのが好ましい。
【0021】
上記のようにエンジンにスタータ・ジェネレータが取り付けられる場合には、該スタータ・ジェネレータに設けられているホールセンサの出力から点火装置を制御するために必要なエンジンの回転速度情報とクランク角位置情報とを得るように始動時点火制御部を構成するのが好ましい。
【0022】
一般にエンジンの回転速度情報とクランク角位置情報とを得るための信号を発生する信号源としては、クランク軸とともに回転するロータに設けられたリラクタ(誘導子)と、このリラクタの回転方向の前端側エッジ及び後端側エッジをそれぞれ検出したときに極性が異なるパルスを発生する信号発電子(ピックアップコイル)とからなるパルス信号発生器が用いられているが、このパルス信号発生器は、磁束の時間的な変化を検出してパルスを誘起するものであるため、エンジンの回転速度がきわめて低いときには、しきい値レベル以上のパルス信号を発生することが困難である。
これに対し、ホールセンサは、エンジンの回転速度がきわめて低いときでも(回転速度がゼロのときでも)角度情報を検出できるため、上記のように、マニュアル始動モードでエンジンを始動する際にホールセンサの出力から点火装置を制御するために必要なエンジンの回転速度とクランク角位置とを検出するようにすると、クランキング速度がきわめて低い状態でも点火位置の制御を的確に行なわせて、エンジンの始動性を向上させることができる。
【0023】
本発明の好ましい態様では、始動時スタータ駆動部が、始動指令が与えられたときに一旦クランク軸を始動方向と逆方向に回転させてエンジンのクランキングを行わせた後、該クランク軸を始動方向に回転させてエンジンのクランキングを行うように構成される。
【0024】
上記のように、始動指令が与えられたときに一旦クランク軸を逆回転させるようにすると、始動開始後エンジンで最初に行われる圧縮行程が開始される前に、始動開始後最初に行われる点火に備えて、燃料を噴射する機会を作ることができるため、クランク軸の正回転を開始した後、最初に行われる点火によって燃焼を行わせることができ、エンジンの初爆を早期に行わせて始動性を良好にすることができる。
【0025】
本発明の好ましい態様では、クランク軸を逆方向に回転させて行うクランキングが終了したときに始動操作開始後初回の燃料噴射を行わせる通常始動時燃料噴射制御部が設けられる。
【0026】
本発明の好ましい態様では、エンジンの気筒内のピストンが圧縮行程の上死点に達する前にクランク軸が停止したときに、バッテリの電圧が点火装置及び燃料噴射装置を動作させるために必要な電圧値を下回らない範囲で、エンジンの始動が確認されるまでエンジンを始動させる方向にスタータ・ジェネレータをスタータモータとして駆動し続けるように始動時スタータ駆動部が構成される。
【0027】
上記のように構成しておくと、スタータモータの出力トルクに対してエンジンのクランク軸にかかる最大負荷トルクが過大であるために、気筒内のピストンが圧縮行程の上死点に達する前にクランク軸が停止するか、または停止寸前の状態になったときに、エンジンの圧縮漏れによる圧縮トルクの漸減を利用して、エンジンに圧縮行程を完了させることができるため、エンジンの始動性を向上させることができる。
【0028】
上記バッテリ容量監視部は、バッテリの出力電流を検出する出力電流検出部と、バッテリの電圧を検出するバッテリ電圧検出部と、バッテリの残存容量を推定するためにバッテリ電圧検出部により検出されたバッテリ電圧の検出値と比較すべき判定値を出力電流検出部により検出されたバッテリの出力電流に対して演算する残存容量推定用判定値演算部と、バッテリ電圧検出部により検出されたバッテリ電圧の検出値を判定値と比較して検出されたバッテリ電圧が判定値以上であるときにバッテリの残存容量がエンジンを始動するために必要な量以上であると推定するバッテリ容量推定部とにより構成することができる。
【0029】
本発明の好ましい態様では、エンジンのシリンダヘッドに、各気筒内を外部に連通させるデコンプホールと、このデコンプホールを開閉する制御可能なデコンプバルブとが設けられ、始動モードがマニュアル始動モードに切り換えられたときにデコンプバルブを開き、エンジンの初爆が完了した後にデコンプバルブを閉じるようにデコンプバルブを制御するバルブ制御部が更に設けられる。
【0030】
上記のようにデコンプホールを設けると、ピストンが圧縮行程の上死点に向けて変位していく過程で、気筒内の混合気がデコンプホールを通して抜けるため、エンジンのクランキングを行なうために必要なトルクを小さくすることができ、マニュアルスタータによるエンジンの始動を容易にすることができる。
【0031】
上記デコンプホールは、各気筒内と吸気バルブ及び排気バルブを駆動するカムが配置されたカム室内とを連通させるように設けることが好ましい。
【0032】
一般にエンジンにおいては、ブローバイガス(気筒から漏洩した未燃焼ガス)が溜まるカム室(クランク室に通じている)内が、クランク室に接続されたブローバイガス還元通路、または該カム室に直接接続されたブローバイガス還元通路を通して吸気系に接続されているため、気筒内からカム室内に漏れた未燃焼ガスは吸気系に戻される。そのため、上記のように、デコンプホールをカム室内に連通させておくと、燃焼室からデコンプホールを通して漏れた未燃焼ガスを吸気系を通して再度気筒内に戻して燃焼させることができ、マニュアル始動モードでエンジンを始動する際に未燃焼ガスが排出されるのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明によれば、スタータモータの駆動が開始されたとき、または、スタータ・ジェネレータのスタータモータとしての駆動が開始されたときに、バッテリ容量監視部がバッテリの残存容量を推定して、バッテリの残存容量が十分あると推定された場合にのみスタータモータまたはスタータ・ジェネレータの駆動を継続させ、バッテリ容量監視部により、バッテリの残存容量が不足していると判定されたときには、スタータモータまたはスタータ・ジェネレータの駆動を直ちに禁止するとともに、始動モードをマニュアル始動モードに切換えて、マニュアルスタータにより始動を行わせるようにしたので、バッテリの過度の消耗を抑えて、エンジンを始動することが全く不可能になる事態が生じるのを防ぐことができ、電動スタータと併せてマニュアルスタータを設けたことの利点を活かすことができる。
【0034】
本発明において、マニュアルスタータによるエンジンのクランキングが行なわれているときに、バッテリの電圧を監視しつつ、バッテリの電圧が点火装置及び燃料噴射装置を動作させるために必要な電圧値を下回らない範囲でスタータモータまたはスタータ・ジェネレータを駆動してマニュアルスタータによるクランキングをアシストするスタータアシスト部を設けた場合には、マニュアル始動モードでエンジンを始動する際に、スタータモータまたはスタータ・ジェネレータからもクランキングに必要な駆動力をクランク軸に与えることができるため、エンジンの始動を容易にすることができ、エンジンの排気量がある程度大きい場合でもマニュアル始動モードでエンジンを始動することができる。またマニュアルスタータによる始動操作をアシストする際には、バッテリ電圧を監視して、バッテリ電圧が点火装置及び燃料噴射装置を動作させるために必要な電圧値を下回らない範囲でスタータモータを駆動するので、バッテリが過度に消耗するのを防ぐことができる。
【0035】
本発明において、マニュアル始動モードによる始動が開始された直後に燃料噴射装置の燃料ポンプの駆動を開始して該燃料ポンプを駆動した時間が設定時間に達したときに始動操作開始後初回の燃料噴射を行なうマニュアル始動モード時燃料噴射制御部を設けた場合には、マニュアル始動モードによる始動が開始されたときに遅滞なく燃料噴射を行わせることができるため、エンジンの始動性を向上させることができる。
【0036】
本発明において、エンジンの始動時に、エンジンのピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置または該ピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置よりも遅れたクランク角位置でエンジンを点火するようにした場合には、クランキング速度が遅い場合に、ピストンが上死点を越えることができずに押し戻されるのを防ぐことができるため、エンジンの始動を確実に行わせることができる。
【0037】
本発明において、ホールセンサの出力から点火装置を制御するために必要なエンジンの回転速度とクランク角位置とを検出するようにした場合には、クランキング速度がきわめて低い状態でも、エンジンのクランク角位置情報と回転速度情報とを正確に得ることができるため、始動時の点火位置の制御を的確に行なわせて、エンジンの始動性を向上させることができる。
【0038】
本発明において、エンジンのシリンダに、各気筒内を外部に連通させるデコンプホールとこのデコンプホールを開閉する制御可能なデコンプバルブとを設けて、始動モードがマニュアル始動モードに切り換えられたときにデコンプバルブを開き、エンジンの初爆が完了した後にデコンプバルブを閉じるようにデコンプバルブを制御するようにした場合には、マニュアルスタータによりエンジンのクランキングを行なう際に必要なトルクを小さくすることができるため、マニュアルスタータによるエンジンの始動を容易にすることができる。
【0039】
本発明において、始動指令が与えられたときに一旦クランク軸を逆回転させるようにした場合には、スタータ正転駆動部がスタータモータの正回転を開始した後エンジンで最初に行われる圧縮行程が開始される前に、始動開始後最初に行われる点火に備えて、燃料を噴射する機会を作ることができるため、クランク軸の正回転を開始した後、最初に行われる点火によって確実に燃焼を行わせることができ、エンジンの初爆を早期に行わせて始動性を良好にすることができる。
【0040】
また本発明において、エンジンの始動時に気筒内のピストンが圧縮行程の上死点に達する前にクランク軸が停止した場合に、バッテリの電圧が点火装置及び燃料噴射装置を動作させるために必要な電圧値を下回らない範囲で、エンジンの始動が確認されるまでエンジンを始動させる方向にスタータ・ジェネレータをスタータモータとして駆動し続けるように始動時スタータ駆動部を構成した場合には、スタータモータの出力トルクに対してエンジンのクランク軸にかかる最大負荷トルクが過大であるために、気筒内のピストンが圧縮行程の上死点に達する前にクランク軸が停止するか、または停止寸前の状態になったときに、エンジンの圧縮漏れによる圧縮トルクの漸減を利用して、エンジンが圧縮行程を完了させることができるため、スタータモータの出力トルクに対してエンジンのクランク軸にかかる負荷トルクが過大である場合でも、エンジンの始動を支障なく行わせることができる。従って、過剰な性能を有するスタータモータを用いてコストの上昇を招いたり、装置の大形化を招いたりすることなく、エンジンの始動性を向上させることができる。またスタータモータとして小形のものを用いることができるため、その回転子のイナーシャが過大になってエンジンの加速性能が低下するのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、図1ないし図11を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1は本発明に係わるエンジン始動装置を備えたエンジンシステムの構成を示したものである。同図においてENGは並列2気筒4サイクルエンジンである。このエンジンの1番気筒の燃焼サイクルと2番気筒の燃焼サイクルとの位相差は360°である。1はエンジン本体を示している。エンジン本体1は、内部にピストン100が設けられた2つの気筒101(図面には1番気筒のみを示してある。)と、気筒内のピストン100にコンロッド102を介して連結されたクランク軸103とを有している。
【0042】
図3にも示したように、エンジン本体1は、吸気ポート104と、排気ポート105とを有し、吸気ポート104には吸気管106が接続されている。吸気管106内にはスロットルバルブ107が設けられ、吸気ポート104及び排気ポート105をそれぞれ開閉するように吸気バルブ108及び排気バルブ109が設けられている。エンジン本体のシリンダヘッド110の上部にはカムカバー111が取り付けられ、このカムカバー111の内側に、吸気バルブ108及び排気バルブ109を駆動するカム機構112を収容したカム室113が設けられている。
【0043】
本実施形態では、各気筒101内とカム室113内とを連通させるように、デコンプホール115(図3参照)が設けられている。またデコンプホール115を開閉するために制御可能な電磁弁からなるデコンプバルブ116が設けられ、エンジンの始動時にデコンプバルブ116を開き、エンジンの初爆が行われた後にデコンプバルブ116を閉じるようにデコンプバルブを制御するデコンプバルブ制御部が設けられている。
【0044】
本発明に係わる始動装置は、複数の気筒に対して共通に一つの吸気管が設けられる場合にも適用することができるが、本実施形態では、吸気管104がエンジンの各気筒毎に設けられている。
【0045】
エンジンENGはまた、吸気管106を通して気筒101内に供給する混合気を生成するために燃料を噴射する燃料噴射装置と、気筒101内で圧縮された混合気に点火する点火装置と、クランク軸103を正転方向及び逆転方向に回転駆動し得るスタータモータとを備えている。
【0046】
図示の例では、スロットルバルブ107よりも下流側の吸気管内または吸気ポート内に燃料を噴射するようにインジェクタ(電磁式燃料噴射弁)2が取り付けられている。インジェクタ2は、先端に噴射孔を有するインジェクタボディと、噴射孔を開閉するニードルバルブと、ニードルバルブを駆動するソレノイドとを有する周知のものである。インジェクタボディ内には、燃料タンク3内の燃料4を汲み出す燃料ポンプ5から燃料が供給されている。燃料ポンプ5からインジェクタ2に供給される燃料の圧力は、圧力調整器6により一定に保たれている。インジェクタ2のソレノイドは電子式制御ユニット(ECU)10内に設けられたインジェクタ駆動回路に接続されている。インジェクタ駆動回路は、ECU内で噴射指令信号が発生したときにインジェクタ2のソレノイドに駆動電圧を与える回路である。インジェクタ2は、インジェクタ駆動回路からそのソレノイドに駆動電圧Vinjが与えられている間にバルブを開いて吸気管内に燃料を噴射する。インジェクタに与えられる燃料の圧力が一定に保たれる場合、燃料の噴射量は噴射時間(インジェクタのバルブを開いている時間)により管理される。
【0047】
この例では、インジェクタ2と図示しないインジェクタ駆動回路と、該インジェクタ駆動回路に噴射指令を与える燃料噴射制御部と、燃料ポンプ5とにより燃料噴射装置が構成されている。
【0048】
図1に示されているように、エンジン本体のシリンダヘッドには、各気筒101内の燃焼室に先端の放電ギャップを臨ませた状態で各気筒用の点火プラグ12が取り付けられ、各気筒用の点火プラグは、各気筒用の点火コイル13の二次側に接続されている。各気筒用の点火コイル13の一次側は、ECU10内に設けられた図示しない点火回路に接続されている。
【0049】
点火回路は、点火指令発生部から点火指令が与えられたときに点火コイル13の一次電流I1に急激な変化を生じさせて点火コイル13の二次側に点火用の高電圧を誘起させる回路である。点火プラグ12と、点火コイル13と図示しない点火回路と、該点火回路に点火指令を与える点火指令発生部とにより、エンジンを点火する点火装置が構成されている。点火指令発生部は、エンジンの定常運転時の点火位置を演算して、演算した点火位置が検出されたときに点火指令を発生する定常時点火制御部と、エンジンの始動時に、エンジンを始動させるために適した点火位置で点火指令を発生する始動時点火制御部とにより構成される。
【0050】
図1に示されたエンジンでは、スロットルバルブをバイパスするようにソレノイドにより操作されるISC(Idle Speed Control)バルブ120が設けられている。ECU10内にはISCバルブ120に駆動信号Viscを与えるISCバルブ駆動回路が設けられ、このISCバルブ駆動回路からISCバルブ120に、エンジンのアイドリング回転速度を一定に保つように駆動信号Viscが与えられる。
【0051】
本実施形態では、エンジンの始動時にはスタータモータとして駆動され、エンジンが始動した後はジェネレータ(発電機)として運転される回転電機(スタータジェネレータと呼ばれる。)SGがエンジンに取り付けられ、この回転電機がスタータモータとして用いられる。回転電機SGは、エンジンのクランク軸103に取り付けられたロータ21と、エンジン本体のケース等に固定されたステータ22とからなっている。
【0052】
ロータ21は、カップ状に形成された鉄製のロータヨーク23と、その内周に取り付けられた永久磁石24とからなっていて、この例では、ロータヨーク23の内周に取り付けられた永久磁石24により12極の磁石界磁が構成されている。ロータ21は、そのロータヨーク23の底壁部の中央に設けられたボス部25の内側に形成されたテーパ孔にエンジンのクランク軸103の先端のテーパ部を嵌合させて、ネジ部材によりボス部25をクランク軸103に対して締め付けることによりクランク軸103に取り付けられている。
【0053】
ステータ22は、環状のヨーク26yの外周から18個の突極部26pを放射状に突出させた構造を有するステータ鉄心26と、ステータ鉄心の一連の突極部26pに巻回されて3相結線された電機子コイル27とからなっていて、ステータ鉄心26の各突極部26pの先端の磁極部がロータの磁極部に所定のギャップを介して対向させられている。ロータヨーク23の外周には弧状の突起からなるリラクタrが形成され、エンジンのケース側には、リラクタrの回転方向の前端側エッジ及び後端側エッジをそれぞれ検出して極性が異なるパルスを発生する信号発生器28が取り付けられている。
【0054】
スタータ・ジェネレータSGのステータ側には、3相の各相の電機子コイルに対してそれぞれ設定された検出位置に配置されて、ロータ21の磁石界磁の各磁極の極性を検出するホールIC等のホールセンサ29uないし29wが設けられている。図1においては、3相のホールセンサ29uないし29wがロータヨーク23の外側に配置されているように図示されているが、3相のホールセンサ29uないし29wは、実際にはロータ21の内側に配置されて、ステータ22に対して固定されたプリント基板等に取り付けられている。ホールセンサの設け方は、通常の3相ブラシレスモータにおけるそれと同様である。ホールセンサ29uないし29wは、検出している磁極がN極であるときとS極であるときとでレベルが異なる電圧信号からなる位置検出信号huないしhwを出力する。
【0055】
スタータ・ジェネレータSGの3相の電機子コイルは、配線30uないし30wを通してモータ駆動/整流回路31の交流側端子に接続され、モータ駆動/整流回路31の直流側端子間にバッテリ32が接続されている。モータ駆動/整流回路31は、MOSFETやパワートランジスタなどのオンオフ制御が可能なスイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzにより3相Hブリッジの各辺を構成したブリッジ形の3相インバータ回路(モータ駆動回路)と、該インバータ回路のスイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzにそれぞれ逆並列接続されたダイオードDuないしDw及びDxないしDzにより構成されたダイオードブリッジ3相全波整流回路とを備えた周知の回路である。
【0056】
スタータ・ジェネレータSGをスタータモータとして動作させる際には、ホールセンサ29uないし29wの出力から検出されたロータ21の回転角度位置に応じてインバータ回路のスイッチ素子がオンオフ制御されることにより、バッテリ32からインバータ回路を通して3相の電機子コイル27に所定の相順で転流する駆動電流が供給される。このスタータ・ジェネレータのスタータモータとしての駆動の仕方は、周知の3相ブラシレスモータの駆動の仕方と同一である。
【0057】
またエンジンが始動した後、スタータ・ジェネレータSGをジェネレータとして運転する際には、電機子コイル27から得られる3相交流出力が、モータ駆動/整流回路31内の全波整流回路を通してバッテリ32と、バッテリ32の両端に接続された各種の負荷(図示せず。)とに供給される。このとき、バッテリ32の両端の電圧に応じて、インバータ回路のブリッジの上辺を構成するスイッチ素子またはブリッジ下辺を構成するスイッチ素子が同時にオンオフ制御されることにより、バッテリ32の両端の電圧が設定値を超えないように制御される。例えば、バッテリ32の両端の電圧が設定値以下のときにはインバータ回路のHブリッジを構成するスイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzがオフ状態に保持されてモータ駆動/整流回路31内の整流回路の出力がそのままバッテリ32に印加される。また、バッテリ32の両端の電圧が設定値を超えたときには、インバータ回路のブリッジの3つの下辺(上辺でもよい)をそれぞれ構成する3つのスイッチ素子QxないしQzが同時にオン状態にされることにより、ジェネレータの3相交流出力が短絡されて、バッテリ32の両端の電圧が設定値以下に低下させられる。これらの動作の繰り返しによりバッテリ32の両端の電圧が設定値付近の値に保たれる。
【0058】
また上記のような制御を行う代わりに、バッテリ32からスタータ・ジェネレータSGの電機子コイルに、該電機子コイルの誘起電圧と周波数が等しく、かつ該電機子コイルの無負荷時の誘起電圧に対して所定の位相角を有する交流制御電圧を印加するようにインバータ回路を制御する手段を設けておいて、バッテリの両端の電圧の変化に応じてバッテリ側から電機子コイルに与える交流制御電圧の位相を、電機子コイルの無負荷有機電圧に対して変化させることにより、回転電機の発電出力を増加または減少させて、バッテリ32の両端の電圧を設定された範囲に保つ制御を行なわせることもできる。
【0059】
なおインバータ回路のブリッジの各辺を構成するスイッチ素子としてMOSFETが用いられる場合には、該MOSFETのドレインソース間に形成される寄生ダイオードを上記ダイオードDuないしDw及びDxないしDzとして用いることができる。
【0060】
バッテリ32の状態を検出するため、バッテリ32の両端の電圧を検出するバッテリ電圧検出部33aと、バッテリ32の出力電流を検出する出力電流検出部33bとからなるバッテリ状態検出部33が設けられ、電圧センサ33a及び電流センサ33bからそれぞれ得られる電圧検出信号及び電流検出信号がECU10内のマイクロプロセッサ(MPU)に与えられている。バッテリ状態検出部33は、後記するバッテリ容量監視部の一部を構成する。
【0061】
また図示の例では、ECU10のマイクロプロセッサにエンジンの情報を与えるために、スロットルバルブ107の位置(開度)を検出するスロットルポジションセンサ35と、スロットルバルブ107よりも下流側の吸気管内圧力を検出する圧力センサ36と、エンジンの冷却水温度を検出する冷却水温度センサ37と、エンジンに吸入される空気の温度を検出する吸気温度センサ38とが設けられている。
【0062】
上記のように、本実施形態ではスタータ・ジェネレータSGのロータをエンジンのクランク軸に直結して、エンジンの始動時にはこのスタータ・ジェネレータをスタータモータとして用い、エンジンが始動した後はこのスタータ・ジェネレータをジェネレータとして用いるが、以下に記載するエンジン始動装置についての説明では、スタータ・ジェネレータSGをスタータモータとして動作させる際の制御を対象とするので、便宜上このスタータ・ジェネレータSGを単にスタータモータと呼ぶこともある。
【0063】
本実施形態では、エンジンENGを始動するために、スタータ・ジェネレータにより構成される電動スタータの他に、人力により駆動されて前記エンジンを始動させるためのクランキングを行なうマニュアルスタータ50が設けられている。マニュアルスタータ50は、ロープを手で引くことによりクランキングを行なうリコイルスタータや、キックペダルを足で踏むことによりクランキングを行なうキックスタータからなっていて、運転者の手または足により操作されてエンジンのクランキングを行なう。
【0064】
図2を参照すると、図1に示されたシステムの電気的な構成がブロック図で示されている。ECU10は、マイクロプロセッサ(MPU)40と、点火回路41と、インジェクタ駆動回路42と、ISCバルブ駆動回路43と、モータ駆動/整流回路31の温度を検出する温度センサ44と、マイクロプロセッサ40から与えられる指令に応じてモータ駆動/整流回路31のインバータ回路のスイッチ素子に駆動信号を与えるコントロール回路45と、デコンプバルブ116に駆動電流を与えるデコンプバルブ駆動回路46と、所定個数のインターフェース回路I/Fとを備えている。
【0065】
マイクロプロセッサ40は、ROMに記憶された所定のプログラムを実行させることにより、エンジンを制御するために必要な各種の制御部を構成する。図示の例では、マイクロプロセッサにエンジンの情報を与えるために、スロットルポジションセンサ35から得られるスロットルポジション信号Sa、圧力センサ36から得られる吸気管内圧力検出信号Sb、冷却水温度センサ37から得られる冷却水温検出信号Sc及び吸気温度センサ38から得られる吸気温度検出信号SdがECU10内のマイクロプロセッサにインターフェース回路I/Fを通して入力されている。またホールセンサ29uないし29wの出力信号huないしhwと、信号発生器28の出力Spと、電圧センサ33a及び電流センサ33bからそれぞれ得られる電圧検出信号及び電流検出信号とが所定のインターフェース回路I/Fを通してマイクロプロセッサ40に入力されている。
【0066】
そして、ECU10内の点火回路41から点火コイル13に一次電流I1が供給され、ECU10内のインジェクタ駆動回路42からインジェクタ2に駆動電圧Vinjが与えられている。またコントロール回路45からモータ駆動/整流回路31のインバータ回路の6個のスイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzにそれぞれ駆動信号(スイッチ素子をオン状態にするための信号)SuないしSw及びSxないしSzが与えられている。
【0067】
図2において、47はバッテリ32の出力電圧が入力された電源回路である。電源回路47は、バッテリ32の出力電圧を降圧して安定化することにより、ECU10の各部に供給する電源電圧を出力する。
【0068】
本実施形態において、マイクロプロセッサ40が構成する各種の制御部を含むエンジン始動装置の構成を図4に示した。図4において、51はエンジンの始動モードを通常始動モード(スタータモータによりエンジンの始動を行うモード)とマニュアル始動モード(マニュアルスタータによりエンジンを始動するモード)に切り換える始動モード切換部、52は、始動モードが通常始動モードであるときにスタータ・ジェネレータSGをスタータモータとして動作させてエンジンのクランキングを行なわせるべくホールセンサ29u〜29wの出力に応じてバッテリ32からスタータ・ジェネレータSGに駆動電流を供給する始動時スタータ駆動部、53は、スタータ・ジェネレータSGに駆動電流を供給するバッテリ32の残存容量を推定するバッテリ容量監視部、54は、始動モードがマニュアル始動モードに切り換えられたときにエンジンの始動のためのクランキングをマニュアルスタータ50により行なうべきことを表示する表示部である。
【0069】
上記始動モード切換部51は、エンジンの始動指令が与えられたときに始動モードを通常始動モードとして始動時スタータ駆動部52にスタータ・ジェネレータへの駆動電流の供給を開始させた後、バッテリ容量監視部53により推定されたバッテリの残存容量を確認して該バッテリの残存容量がスタータ・ジェネレータSGによりエンジンを始動するために必要な量以上であるときにエンジンの始動モードを通常始動モードのままとし、バッテリ容量監視部53により推定されたバッテリの残存容量がエンジンを始動するために必要な量よりも不足しているときにスタータ駆動部52によるスタータモータの駆動を禁止してエンジンの始動モードをマニュアル始動モードに切り換えるように構成されている。
【0070】
バッテリ容量監視部53は、バッテリ32の出力電圧と出力電流(バッテリから負荷に流す駆動電流)とを検出して、バッテリの残存容量を推定する処理を行なう部分である。バッテリの残存容量を推定する方法としては種々の方法が知られており、本発明においては、任意の方法でバッテリの残存容量を推定すればよいが、本実施形態では、バッテリ電圧とバッテリの出力電流とバッテリの残存容量との間の関係からバッテリの残存容量を推定する。そのため、本実施形態で用いるバッテリ容量監視部53は、バッテリの両端の電圧を検出するバッテリ電圧検出部33aと、バッテリ32の出力電流を検出する出力電流検出部33bと、バッテリの残存容量を推定するためにバッテリの電圧の検出値と比較すべき判定値を出力電流検出部33bにより検出されたバッテリの出力電流に対して演算する残存容量推定用判定値演算部と、バッテリ電圧検出部により検出されたバッテリの電圧の検出値を上記判定値と比較して検出されたバッテリ電圧が判定値以上であるときにバッテリの残存容量がエンジンを始動するために必要な量以上であると推定し、検出されたバッテリ電圧が上記判定値未満であるときにバッテリの残存容量がエンジンを始動するために必要な量未満である(バッテリの容量が不足している)と推定するバッテリ容量推定部とにより構成される。上記バッテリ容量監視部53の構成要素の内、残存容量推定用判定値演算部及びバッテリ容量推定部は、マイクロプロセッサ40により構成される。
【0071】
また始動時スタータ駆動部52は、始動モードが通常始動モードであるときに、エンジン始動時のクランキングパターンに応じて、スタータ・ジェネレータを所定の方向に回転させるべく、ホールセンサ29u〜29wにより検出されるロータの回転角度位置に応じて所定の相順で転流する駆動電流をスタータ・ジェネレータSGの三相の電機子コイルに流すように、モータ駆動/整流回路31を構成するスイッチ素子に駆動信号を供給してスタータ・ジェネレータのロータを回転させる。スタータ・ジェネレータをスタータモータとして駆動する際の駆動の仕方は3相ブラシレスモータの駆動方法と同様である。
【0072】
エンジンの始動時のクランキングパターン(クランク軸の回転のさせかた)としては、始動指令が与えられたときに最初からクランク軸を始動方向(エンジンの正回転方向)に回転させるパターンと、始動指令が与えられたときに一旦クランク軸を始動方向とは逆の方向に回転させてからクランク軸の回転方向を反転させて、クランク軸を始動方向に回転させるパターンとが知られている。本発明においては、これらいずれのクランキングパターンで通常始動時のクランキングを行なわせても良いが、本実施形態では、始動指令が与えられたときに最初からクランク軸を始動方向(正方向)に回転させるものとする。
【0073】
表示部54は、バッテリ容量監視部53により、スタータ・ジェネレータによりエンジンを始動させるには、バッテリの容量が不足していると推定されたときに、マニュアルスタータ50を用いてエンジンを始動すべきことを何らかの手段で表示する部分である。マニュアルスタータ50を用いてエンジンを始動すべきことを表示する手段としては、バッテリの容量が不足しているときにLED(発光ダイオード)等の発光表示手段を発光させる手段や、液晶ディスプレイなどのディスプレイに、マニュアルスタータによりエンジンを始動することを指示するメッセージを表示する手段や、マニュアルスタータを用いてエンジンを始動すべきべきことを音声で表示する手段を用いることができる。
【0074】
また図4において、55は、始動モードが通常始動モード(スタータモータによりエンジンの始動を行うモード)であるときに、インジェクタ2と燃料ポンプ5とインジェクタ駆動回路42とにより構成される燃料噴射装置56を制御する通常始動時燃料噴射制御部、57は始動モードがマニュアル始動モードであるときに燃料噴射装置56を制御するマニュアル始動時燃料噴射制御部である。
【0075】
通常始動時燃料噴射制御部55は、始動指令が与えられた直後に燃料噴射装置56の燃料ポンプ5の駆動を開始した後、燃料ポンプを駆動した時間が設定時間に達したと時にインジェクタ駆動回路42に噴射指令信号Vinjを与えて始動操作開始後初回の燃料噴射を行なわせた後、所定の燃料噴射開始位置(通常は吸気行程が開始されるクランク角位置の直前の位置)が検出される毎にインジェクタ駆動回路に噴射指令信号を与えて燃料噴射を行なわせる。
【0076】
マニュアル始動時燃料噴射制御部57は、始動モードがマニュアル始動モードに切り換えられている状態で、マニュアルスタータ50が操作されてマニュアル始動が開始された直後に燃料噴射装置の燃料ポンプの駆動を開始して該燃料ポンプを駆動した時間が設定時間に達したときに始動操作開始後初回の燃料噴射を行ない、以後所定の燃料噴射開始位置が検出される毎にインジェクタ駆動回路に噴射指令信号を与えて燃料噴射を行なわせるように構成される。
【0077】
また58は、エンジンの始動時に、点火コイル13と点火回路41とにより構成される点火装置59を制御する始動時点火制御部、60はマニュアル始動時にスタータ・ジェネレータをモータとして駆動してマニュアルスタータによるクランキングをアシスト(補助)するスタータアシスト部、61は、マニュアル始動時にデコンプバルブ116を制御するバルブ制御部である。
【0078】
始動時点火制御部58は、エンジンの始動操作が開始された後、エンジンの始動が完了するまでの間、エンジンのピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置または該ピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置よりも遅れたクランク角位置でエンジンを点火するように点火装置を制御する。
【0079】
図1に示されたパルス信号発生器28は、エンジンの回転速度が約100r/min程度ないとしきい値以上のレベルを有するパルス信号を発生することができない。これに対し、スタータ・ジェネレータ内に設けられているホールセンサ29u〜29wは、回転速度がきわめて低いときでもクランク角情報を検出することができる。そのため、本実施形態では、マニュアルスタータによる始動時にもエンジンのクランク角情報と回転速度情報とを支障なく得ることができるようにするため、上記始動時点火制御部58、通常始動時燃料噴射制御部55及びマニュアル始動時燃料制御部57がスタータ・ジェネレータ内に設けられているホールセンサ29u〜29wの出力から制御に必要なエンジンの回転速度情報とクランク角位置情報とを得るように構成される。
【0080】
本実施形態においては、エンジンの始動時にも定常運転時にも、スタータジェネレータスタータ・ジェネレータに設けられている3相のホールセンサ29uないし29wが出力する検出信号からクランク角情報を得ることを基本とし、ホールセンサの出力から検出される回転角度位置が、エンジンのいずれのクランク角位置に対応するかを識別するためにのみ信号発生器28の出力パルスを用いている。
【0081】
スタータ・ジェネレータのロータとして12極(6対極)の磁石ロータが用いられる場合に、3相のホールセンサ29uないし29wとしてホールICを用いると、センサ29uないし29wがそれぞれ発生する位置検出信号huないしhwの波形は、図5の(C)ないし(E)のようになり、クランク角が10°変化する毎に位置検出信号huないしhwのいずれかが、高レベル(Hレベル)から低レベル(Lレベル)への変化または低レベルから高レベルへの変化を示す。本実施形態では、これらの位置検出信号huないしhwのHレベル及びLレベルをそれぞれ「1」及び「0」で表して、位置検出信号のレベルのパターンの変化から、10°の区間を1区間として一連の区間を検出し、これらの区間がエンジンのいずれのクランク角位置に対応するかを、信号発生器28の出力パルスを用いて識別する。
【0082】
本実施形態では、始動時に信号発生器28ができるだけ波高値が高いパルスを発生することができるようにするために、ピストンが下死点付近にあるとき、即ちエンジンの負荷トルクが比較的軽い区間にあるときに信号発生器28がリラクタrを検出してパルスを発生するようにしている。具体的には、図5(B)に示すように、2番気筒の圧縮行程の上死点前200°の位置及び160°の位置で信号発生器28がリラクタrの回転方向の前端側エッジ及び後端側エッジをそれぞれ検出して、正極性のパルスSp1及び負極性のパルスSp2を発生するように、信号発生器28が配置されている。
【0083】
信号発生器28が出力するパルスSp1及びSp2から、ホールセンサの出力パターンの変化により検出される一連の区間がそれぞれエンジンのいずれのクランク角位置に対応するかを識別する。図示の例では、図5の一番下に示したように、信号発生器28がパルスSp1を発生した直後に検出される10°の区間(位置検出信号hu,hv,hwのパターンが0,1,1となった位置から0,0,1となる位置までの区間)に「20」の区間番号をつけ、以後ホールセンサの出力のパターンが切り替わる毎に、区間番号を1ずつ増減させて、クランク軸が2回転する間に検出される72個の区間に1ないし72の区間番号をつけるようにしている。
【0084】
ホールセンサの出力のパターンの変化から検出される一連の区間とエンジンの現在のクランク角位置との関係を一度識別することができれば、以後はホールセンサの出力のパターンが切り替わる毎に区間番号を増減させることにより、各区間とエンジンのクランク角位置との対応関係を維持することができる。
【0085】
スタータアシスト部60は、マニュアルスタータ50によるエンジンのクランキングが行なわれているときに、バッテリ容量検出部53からバッテリ電圧の情報を得て、バッテリ32の電圧を監視しつつ、バッテリ電圧が点火装置59及び燃料噴射装置56を動作させるために必要な電圧値を下回らない範囲でスタータ・ジェネレータSGをモータとして駆動してマニュアルスタータ50によるエンジンのクランキングをアシストするように構成される。
【0086】
バルブ制御部61は、始動モードがマニュアル始動モードに切り換えられている状態で、マニュアルスタータ50が操作されてマニュアル始動モードによる始動が開始されたときに、デコンプバルブ116を開き、エンジンの始動が完了した時にデコンプバルブ116を閉じるようにデコンプバルブ116を制御する。
【0087】
この例では、スタータ・ジェネレータSGと、マニュアルスタータ50と、始動モード切換部51と、始動時スタータ駆動部52と、バッテリ容量監視部53と、表示部54と、通常始動時燃料噴射制御部57と、始動時点火制御部58と、スタータアシスト部60と、バルブ制御部61とにより、エンジン始動装置62が構成されている。
【0088】
エンジン始動装置62の各構成要素の内、ハードウェアの形で用意される部分以外の部分は、図1及び図2に示されたECU10に設けられたマイクロプロセッサ40に所定のプログラムを実行させることにより構成される。ECU10内のマイクロプロセッサはまた、エンジンの定常運転時に燃料噴射装置56を制御する定常運転時燃料噴射制御部71と、エンジンの定常運転時に点火装置59を制御する定常運転時点火制御部72等、エンジンを運転するために必要な制御を行なう各種の手段を構成する。
【0089】
また本実施形態では、エンジンが始動した後は、スタータ・ジェネレータを磁石発電機として動作させてその発電出力によりバッテリ32を充電するため、スタータ・ジェネレータからバッテリ32に供給する充電電流を制御するバッテリ充電回路73が設けられている。
【0090】
図4に示したエンジン始動装置62において、図示しないキースイッチの操作等により始動指令が与えられると、始動モード切換部51が先ず始動モードを通常始動モードとする。このとき始動時スタータ駆動部52がスタータ・ジェネレータをスタータモータとして駆動するために、スタータ・ジェネレータSGに駆動電流を供給する。これによりスタータ・ジェネレータが回転し、エンジンのクランク軸が正回転方向に回転する。スタータ・ジェネレータのスタータモータとしての駆動が開始されると、先ずバッテリ容量監視部53がバッテリ32の残存容量を推定する。この推定の結果、バッテリの残存容量が十分である場合には、スタータ・ジェネレータのスタータモータとしての駆動が継続される。スタータ・ジェネレータによるクランキングが開始されると、通常始動時燃料噴射制御部55が燃料ポンプ5の駆動を開始し、燃料ポンプを駆動した時間が一定時間に達したときにインジェクタ駆動回路42に噴射指令信号を与える。これによりインジェクタ2から燃料が噴射し、エンジンの吸気管内に燃料が噴射される。通常始動時燃料噴射制御部55は、以後ホールセンサの出力から所定の燃料噴射開始位置が検出される毎にインジェクタ駆動回路42に噴射指令信号を与えてインジェクタから燃料を噴射させる。
【0091】
エンジンのクランク角位置が始動時の点火位置よりも進角した位置に設定された通電開始位置に達すると、マイクロプロセッサ40が点火回路41に通電開始信号を与える。このとき点火回路41は、バッテリ32から点火コイル13に一次電流を流す。次いでエンジンのクランク角位置が始動時の点火位置に一致したことが検出されると、マイクロプロセッサが点火回路41に点火信号を与える。このとき点火回路41は、点火コイル13に流していた一次電流を遮断し、点火コイル13の二次コイルに点火用の高電圧を誘起させる。これによりエンジンの気筒に取り付けられた点火プラグで火花が生じ、エンジンが点火される。この点火により初爆が行なわれるとエンジンが始動し、クランク軸が加速する。
【0092】
本実施形態のように、始動指令が与えられたときに最初からクランク軸を正回転させてクランキングを行なわせる場合には、始動指令が与えられた後、クランク軸の1回転目で最初に圧縮行程を迎える気筒に対しては、混合気を供給できないため、その気筒で点火を行わせても燃焼(初爆)を行わせることはできないが、クランク軸の2回転目で圧縮行程が行われる気筒に対しては、適当な区間で初回の燃料噴射を行わせることにより、気筒内に混合気を供給することができるため、クランク軸の回転角度位置が、始動開始後クランク軸の2回転目で圧縮行程を迎える気筒の点火位置として適した位置で点火を行わせることにより、エンジンの始動を支障なく行わせることができる。
【0093】
本実施形態では、エンジンの各気筒の始動時の点火位置が、各気筒内のピストンが圧縮行程の上死点に達するクランク角位置(上死点位置という。)、または該上死点位置よりも僅かに遅れたクランク角位置に設定されている。また後記するように、本実施形態では、エンジンの始動時の点火位置で最初の点火を行なった後、短い時間間隔で繰り返し点火を行なう多重点火を行なって、エンジンの初爆を確実に行なわせるようにしている。マイクロプロセッサは、エンジンの回転速度からエンジンの始動が完了したことを検出したときに、始動モードを終了して、エンジンの制御モードを定常時のモードに移行させる。
【0094】
始動指令が与えられたときに、スタータ・ジェネレータをモータとして駆動してエンジンのクランキングを開始した後、バッテリ容量監視部53により、バッテリ32の残存容量が不足していると推定されたときには、始動モード切換部がスタータ・ジェネレータのスタータモータとしての駆動を直ちに禁止して始動モードをマニュアル始動モードに切り換える。このように、エンジンのクランキングを開始した後、バッテリの容量が不足していると推定されたときには、直ちにスタータ・ジェネレータの駆動を中止するため、バッテリの過度の消耗が抑えられる。このとき、始動モード切換部51は、始動モードをマニュアル始動モードに切り換え、表示部54がLEDを発光させるなどの手段により、エンジンの始動をマニュアルスタータにより行なうべきことを表示する。
【0095】
バッテリの残存容量がスタータモータによりエンジンを始動するには不足している場合でも、通常は、マニュアル始動を行えば点火装置59及び燃料噴射装置56を駆動することはできるため、バッテリを過度に消耗させないようにスタータ・ジェネレータのスタータモータとしての駆動を中止してマニュアル始動を行わせれば、エンジンを始動させることが可能である。従って、本発明のように構成することにより、エンジンを始動することが全く不可能になる事態が生じるのを防ぐことができ、電動スタータと併せてマニュアルスタータを設けたことの利点を活かすことができる。
【0096】
表示部51がエンジンの始動をマニュアルスタータにより行なうべきことを表示したときには、運転者がリコイルスタータなどのマニュアルスタータ50を操作してエンジンを始動させるためのクランキングを行なう。マニュアル始動が開始されると、マニュアル始動時燃料噴射制御部57が燃料噴射装置56の燃料ポンプ5の駆動を開始し、該燃料ポンプを駆動した時間が設定時間に達したときに始動操作開始後初回の燃料噴射を行なわせる。マニュアル始動時燃料噴射制御部57は、以後所定の燃料噴射開始位置が検出される毎にインジェクタ駆動回路42に噴射指令信号Vinjを与えて燃料噴射を行なわせる。
【0097】
また本実施形態では、マニュアルスタータ50によるエンジンのクランキングが行なわれているときに、スタータアシスト部60が、バッテリ32の電圧を監視しつつ、バッテリ電圧が点火装置及び燃料噴射装置を動作させるために必要な電圧値を下回らない範囲でスタータ・ジェネレータをモータとして駆動してマニュアルスタータによるクランキングをアシストする。従って、クランキングを行なうために運転者がマニュアルスタータに加える操作力が軽減されるとともに、クランキング速度が向上し、エンジンの始動性が向上する。
【0098】
マニュアルスタータによりクランキングを行なっている過程で、エンジンのクランク角位置が、始動時の点火位置に一致すると、始動時点火制御部58が点火動作を行なわせる。これにより初爆が行なわれるとエンジンが始動する。
【0099】
本実施形態において、図4に示したエンジン始動装置62の各部を構成するためにマイクロプロセッサ40に実行させるプログラムのアルゴリズムを示すフローチャートを図6ないし図10に示した。
【0100】
マイクロプロセッサ40は、その電源が確立した後、ホールセンサ29uないし29wの出力信号のパターンが切り替わる毎に(区間番号が変わる毎に)図6に示したタスク処理を実行する。図6の処理が開始されると、先ずステップS1で、始動モードがマニュアル始動モードであるか否かの判定([Starter Mode]=Emergency?)を行なう。マイクロプロセッサの電源が確立したときには、始動モードが通常始動モードとなっている。そのため、ステップS1ではマニュアル始動モードではないと判定され、ステップS2に移行する。ステップS2では、始動モードを通常始動モードとしてスタータ・ジェネレータをスタータモータとして駆動すべくスタータ・ジェネレータSGに駆動電流を供給する。
【0101】
ステップS1で始動モードがマニュアル始動モードであると判定されたときには、ステップS3に移行して、制御モードがエンジンストールモード(エンジン停止時のモード)であるか否かの判定([System Mode]=Enst Mode?)を行なう。その結果エンジンストールモードであると判定されたとき(エンジンが停止していると判定されたとき)には、ステップS4に進んで、スタータ・ジェネレータに設けられているホールセンサの出力パルスから検出されたエンジンの回転速度(運転者がマニュアルスタータによりクランキングを行なった際の回転速度)がマニュアル始動判定速度以上であるか否かの判定([Hall_Rev]≧<Manual Start?)を行なう。マニュアル始動判定速度は、マニュアルスタータによるエンジンの始動を開始したことを判定する回転速度である。
【0102】
ステップS4で回転速度がマニュアル始動判定速度に達していないと判定されたときには、以後何もしないでこの処理を終了する。ステップS4で回転速度がマニュアル始動判定速度に達していると判定されたときには、ステップS5に進んで制御モードをマニュアル始動モードに切り換える処理([System Mode]=Manual Start)を行なう。次いでステップS6で燃料ポンプの駆動を開始し、ステップS7でデコンプバルブ116を開いてこの処理を終了する。
【0103】
ステップS3で現在の制御モードがエンジンストールモードでない(エンジンが回転している)と判定されたときには、ステップS8に移行して、エンジンの回転速度が完爆判定速度(エンジンの初爆が完了したことを判定するための回転速度)に達したか否かを判定する処理([EG_Rev]≧<FP_Wait>?)を行なう。その結果、エンジンの回転速度が完爆判定速度に達していないと判定されたとき(エンジンの初爆が未だ完了していないと判定されたとき)には、ステップS9に進んで、燃料ポンプを所定の時間以上駆動したか否かを判定する処理([FP Drive]≧<FP_Wait>?)を行なう。この判定の結果、燃料ポンプを所定の時間以上駆動していないと判定されたときには、以後何もしないでこの処理を終了する。ステップS9で燃料ポンプを所定の時間以上駆動したと判定されたときには、ステップS10に進んで始動用の初回の燃料噴射は終了したか否かの判定(First Injection=ON?)を行い、始動用の初回の燃料噴射が終了していないと判定されたときにステップS11に進んで始動用の初回の燃料噴射を実行するための処理を行なう。始動用の初回の燃料噴射を実行する処理は、インジェクタ駆動回路42に所定の時間幅を有する噴射指令信号Vinjを与える処理である。ステップS10で始動用の初回の燃料噴射が終了していると判定されたときには以後何もしないでこの処理を終了する。
【0104】
図6の処理のステップS8でエンジンの回転速度が完爆判定速度に達している(エンジンの初爆が完了している)と判定されたときには、ステップS12に進んで制御モードを完爆モードに切り換える処理([System Mode]=EG Running)を行う。次いでステップS13で始動モードを通常モードに切り換える処理([Start Mode]=Normal)を行い、ステップS14でデコンプバルブを閉じた後この処理を終了する。
【0105】
マイクロプロセッサはまた、図7のタスク処理を微小時間間隔で繰り返し実行して、バッテリの残存容量を推定する処理等を行なう。図示のアルゴリズムによる場合には、先ずステップS101で始動モードが通常始動モードであるか否かを判定する。始動指令が与えられたときには、最初始動モードが通常始動モードとされる。ステップS101で始動モードが通常始動モードではないと判定されたときには、以後何もしないでこの処理を終了する。ステップS101で始動モードが通常始動モードであると判定されたときには、次いでステップS102でスタータ・ジェネレータがスタータモータとして駆動されているか否かを判定する。その結果スタータ・ジェネレータがスタータモータとして駆動されていないと判定されたときには、以後何もしないでこの処理を終了する。ステップS102でスタータ・ジェネレータがスタータモータとして駆動されていると判定されたときには、ステップS103で、電流検出部33bが検出しているスタータ・ジェネレータの駆動電流(バッテリの出力電流)Crnt_Motorを読み込み、ステップS104で電圧検出部33aが検出しているバッテリ電圧Volt_Bttを読み込む。次いでステップS105でモータの駆動電流Crnt_Motorから判定値V_Batt_Lowを演算し、ステップS106でバッテリ電圧Volt_Bttと判定値V_Batt_Lowとを比較して、バッテリの残存容量の推定を行なう。この処理では、バッテリ電圧Volt_Bttが判定値V_Batt_Low以上であるときにバッテリの残存容量がスタータ・ジェネレータによりエンジンを始動するのに充分な容量であると推定し、バッテリ電圧Volt_Bttが判定値V_Batt_Low未満であるときにバッテリの残存容量がスタータ・ジェネレータによりエンジンを始動するのには不足していると推定する。
【0106】
駆動電流Crnt_Motorから判定値 V_Batt_Lowを演算することができるようにするため、駆動電流(バッテリの出力電流)Crnt_Motorと、バッテリ電圧Volt_Bttと、スタータ・ジェネレータによりエンジンを始動する際に必要なバッテリの残存容量との間の関係を予め実験により求めて、その実験結果に基づいて、駆動電流が種々の値をとるときに、バッテリの残存容量がスタータ・ジェネレータによりエンジンを始動するために必要な大きさを有しているか否かを判定するためにバッテリ電圧Volt_Bttと比較すべき判定値V_Batt_Lowと駆動電流Crnt_Motorとの間の関係を与えるマップを作成しておく。そして、読み込んだ駆動電流Crnt_Motorに対してこのマップを検索して補間演算を行なうことにより、判定値V_Batt_Lowを演算する。
【0107】
ステップS106でバッテリの残存容量がスタータ・ジェネレータによりエンジンを始動するのに充分な容量であると推定されたときには、以後何もしないでこの処理を終了することにより、通常始動モードを維持する。ステップS6でバッテリの残存容量がスタータ・ジェネレータによりエンジンを始動するのには不足していると推定されたときには、ステップS107に進んで始動モードをマニュアル始動モードに切り換え、ステップS108でスタータ・ジェネレータのスタータモータとしての駆動を停止させてこの処理を終了する。
【0108】
図6及び図7に示したアルゴリズムによる場合には、図6のステップS1と、図7のステップS101,S107及びS108とにより、始動モード切換部51が構成される。また図7のステップS102,S103〜S106によりバッテリ容量監視部53が構成され、図6の処理のステップS2により始動時スタータ駆動部52が構成される。更に、図6のステップS2により、通常始動時燃料噴射制御部55が構成され、ステップS4,S5,S6,S8,S9,S10及びS11によりマニュアル始動時燃料噴射制御部57が構成される。
【0109】
図8ないし図10は、始動時点火制御部58を構成するためにマイクロプロセッサが実行する処理のアルゴリズムを示している。図8の処理は、制御モードが始動モードであるときに、点火コイルへの一次電流の通電を開始する位置(通電開始位置)が検出されたとき及び点火位置が検出されたときに実行される始動時点火制御処理である。この例では、始動時の点火位置を圧縮行程の上死点位置とし、通電開始位置を圧縮行程の上死点位置よりも10°進角した位置としている。
【0110】
始動モードにおいて、ホールセンサの出力パルスから、エンジンのクランク角位置が各気筒の圧縮行程の上死点位置に達したことが検出されると、図8の処理が開始される。図8の処理が開始されると、ステップS201で、図6の処理のステップS11で行なわれる始動用燃料噴射が完了しているか否かを判定する。その結果、始動用燃料噴射が完了していないと判定されたときには、以後何もしないでこの処理を終了する。ステップS201で始動用燃料噴射が完了していると判定されたときには、ステップS202で始動モードがマニュアル始動モードであるか否かを判定する。その結果、マニュアル始動モードでないと判定されたときには、ステップS203に進んでスタータ・ジェネレータの制御モードが始動正転駆動モード(クランク軸を正回転させる方向にスタータ・ジェネレータを駆動するモード)であるか否かを判定する。その結果始動正転駆動モードでないと判定されたときには、以後何もしないでこの処理を終了する。ステップS202で始動モードがマニュアル始動モードであると判定されたとき、及びステップS203でスタータ・ジェネレータの制御モードが始動正転駆動モードであると判定されたときには、ステップS204に進んで、現在のクランク角位置が通電開始位置であるか否かを判定する。この判定の結果、現在のクランク角位置が通電開始位置であると判定されたときには、ステップS205に進んで、点火コイルへの一次電流の通電を開始する処理を開始した後この処理を終了する。
【0111】
ステップS204で現在のクランク角位置が通電開始位置でないと判定されたときには、ステップS206に進んで、現在のクランク角位置が点火位置(圧縮行程の上死点位置)であるか否かを判定する。その結果、現在のクランク角位置が点火位置であると判定されたときには、ステップS207に進んで点火コイルの一次コイルへの通電が行なわれているか否かを判定する。その結果、点火コイルの一次コイルへの通電が行なわれていないと判定されたときには、以後何もしないでこの処理を終了する。ステップS207で点火コイルの一次コイルへの通電が行なわれていると判定されたときには、ステップS208に進んで点火実行処理(点火コイルへの一次電流の通電を停止させる処理)を行ってクランク角位置が圧縮行程の上死点位置にある気筒で点火動作を行なわせる。次いでステップS209で多重点火実行許可フラグをセットし、ステップS210で点火コイル通電再開タイマをセットする。
【0112】
図8の処理のステップS206で現在のクランク角位置が点火位置でないと判定されたときには、ステップS211に進んで現在のクランク角位置が多重点火停止位置であるか否かを判定し、現在のクランク角位置が多重点火停止位置でない場合(多重点火を行なうことが許可されたクランク角位置である場合)には、以後何もしないでこの処理を終了する。ステップS211で現在のクランク角位置が多重点火停止位置であると判定されたときには、ステップS212に進んで多重点火実行許可フラグをクリアした後、この処理を終了する。
【0113】
図9の処理は、各気筒の圧縮行程の上死点位置で最初の点火を行なった後、クランク角位置が所定の範囲にある間に多重点火を行なわせるために、通電再開タイマが所定の通電再開時間を計測する毎に実行される通電再開タイマ割り込み処理である。この処理が開始されると、ステップS301で多重点火許可フラグがセットされているか否かを判定し、多重点火許可フラグがセットされていない場合には、以後何もしないでこの処理を終了する。
【0114】
ステップS301で多重点火許可フラグがセットされていると判定されたときには、ステップS302に進んで点火コイルへの一次電流の通電を開始させ、次いでステップS303で、現在の時刻から次の多重点火を行なう時刻までの間の時間を点火タイマにセットして、該点火タイマにセットした時間の計測を開始させる。
【0115】
上記点火タイマがセットされた時間の計測を完了すると(多重点火位置を検出すると)図10の点火タイマ割り込みルーチンが実行される。この割り込みルーチンでは、ステップS401を実行して点火コイルの一次電流を遮断する処理を行ない、多重点火を行なわせる。この多重点火は、各気筒の圧縮行程の上死点位置で初回の点火が行なわれた後、クランク角位置が多重点火を停止させる位置として設定されたクランク角位置に達して、図8の処理のステップS212で多重点火許可フラグがクリアされるまでの間に、通電再開タイマが計測する時間間隔で繰り返し実行される。
【0116】
マイクロプロセッサ40は、エンジンの回転速度からエンジンの始動が完了したことを確認した後に、制御モードを定常運転モードに切り換えて、定常運転時の点火位置を制御する定常運転時燃料噴射制御部71と定常運転時点火制御部72とを構成するための処理を行なう。
【0117】
定常運転モードでは、定常運転時燃料噴射制御部71及び定常運転時点火制御部72を構成するための処理を実行する。定常運転時燃料噴射制御部71は、各種の制御条件に対して所定の空燃比を得るために必要な燃料噴射量を演算し、吸気行程開始直前のクランク角位置などの適宜の噴射開始位置で、演算した量の燃料を噴射するために必要な信号幅を有する噴射指令をインジェクタ駆動回路42に与える。
【0118】
また定常運転時点火制御部72は、各種の制御条件に対してエンジンの点火位置を演算する点火位置演算部と、演算された点火位置を検出するための部とを備えていて、点火位置演算部が演算した点火位置を検出したときに点火回路に点火指令信号を与えて点火動作を行わせる。点火位置演算部は、クランク軸が予め定めた基準クランク角位置から点火位置まで現在の回転速度で回転するのに要する時間を、点火位置検出用計時データとして演算する。そして、予め定めた基準クランク角位置(区間番号)が検出されたときに演算された点火位置検出用計時データの計測を開始し、この計時データの計測が完了したときに点火回路41に点火指令信号を与えて点火動作を行わせる。マイクロプロセッサはまた、エンジンのアイドル回転速度を一定に保つようにISCバルブ駆動回路43からISCバルブ120に駆動電圧Viscを与えて、該ISCバルブを制御する。
【0119】
図11は、マニュアル始動モードでエンジンを始動させる際にスタータ・ジェネレータをモータとして駆動してマニュアルスタータによるクランキングをアシストする場合に微小時間間隔で実行させる処理で、この処理は前記の実施形態における図6の処理に相当する。
【0120】
図11の処理は、図6の処理にステップS15ないしS17を追加したもので、その他の点は図6の処理と全く同様である。図11の処理では、ステップS10で始動用の初回の燃料噴射が終了していると判定されたときにステップS15を実行して、バッテリ電圧が所定の設定電圧(点火装置及び燃料噴射装置を動作させるために必要な最低電圧)よりも高いか否かを判定する。その結果、バッテリ電圧が設定電圧よりも高いと判定されたときには、ステップS16を実行することによりスタータ・ジェネレータのスタータモータとしての駆動を開始させてマニュアルスタータによるクランキングをアシストする。ステップS15でバッテリ電圧が設定電圧よりも高くないと判定されたときには、ステップS17に進んでスタータ・ジェネレータの駆動を停止させる。その他の点は図6の処理と同様である。
【0121】
図11のアルゴリズムによる場合には、ステップS15ないしS17によりスタータアシスト部60が構成される。
【0122】
上記の実施形態では、エンジンの始動時にスタータ・ジェネレータを最初から正方向に回転させるクランキングパターンでクランキングを行うように、始動時スタータ駆動部52を構成したが、エンジンの始動指令が与えられたときにスタータ・ジェネレータを一旦逆方向に回転させてクランク軸を始動方向と逆方向に回転させた後、スタータ・ジェネレータの回転方向を反転させてクランク軸を始動方向に回転させるクランキングを行なわせるように始動時スタータ駆動部52を構成してもよい。この場合、通常始動時燃料噴射制御部55は、クランク軸を逆方向に回転させて行うクランキングが終了したときに始動操作開始後初回の燃料噴射を行わせ、以後所定の燃料噴射開始位置が検出される毎に燃料噴射を行わせるように構成しておく。
【0123】
通常エンジンが停止した際には、特定の気筒内のピストンが圧縮行程の下死点付近に位置した状態にある。エンジンの始動開始時にクランク軸を逆方向に回転させて行うクランキングは、エンジンの停止時に該エンジンの正転時の圧縮行程の下死点付近に停止した状態にあった特定の気筒内のピストンが、エンジンの正転時の吸気行程に相当する区間内に位置した状態になるか、または該正転時の吸気行程に相当する区間を通り過ぎた状態になるまでエンジンのクランク軸を逆回転させるように行なうのが好ましい。
【0124】
上記のように、始動指令が与えられたときに一旦クランク軸を逆回転させるようにすると、スタータモータが正回転を開始した後エンジンで最初に行われる圧縮行程が開始される前に、始動開始後最初に行われる点火に備えて、燃料を噴射する機会を作ることができるため、クランク軸の正回転を開始した後、最初に行われる点火によって確実に燃焼(初爆)を行わせることができる。従って、エンジンの初爆を早期に行わせて始動性を良好にすることができ
る。
【0125】
上記始動時スタータ駆動部52は、エンジンの気筒内のピストンが圧縮行程の上死点に達する前にクランク軸が停止したときに、バッテリの電圧が点火装置及び燃料噴射装置を動作させるために必要な電圧値を下回らない範囲で、エンジンの始動が確認されるまでエンジンを始動させる方向にスタータ・ジェネレータをスタータモータとして駆動し続けるように構成するのが好ましい。
【0126】
スタータモータの出力トルクが、エンジンの圧縮行程でクランク軸にかかる最大負荷トルク(圧縮トルク)よりも小さい場合、始動開始後、圧縮行程においてピストンが上死点に向けて上昇していく過程で、圧縮トルクとフリクショントルクとの和がモータの出力トルクを超えるとモータが停止する。しかしながら、一般に4サイクルエンジンにおいては、ピストンが圧縮行程の上死点に向けて上昇していく過程で、ピストンリングや吸排気バルブから僅かな圧縮漏れが生じるため、圧縮トルクとフリクショントルクとに打ち勝つことができずにスタータモータが停止した後もスタータモータを駆動し続けると、圧縮漏れによる圧縮トルクの漸減に伴ってピストンがゆっくりと上昇していき、クランク軸が微速で回転する。ピストンが圧縮行程の上死点の手前にある圧縮トルク最大位置(通常は圧縮行程の上死点前30°附近の位置)を越えると、スタータモータにかかる負荷が軽くなるため、クランク軸は速度を上げて回転し始め、ピストンは容易に圧縮行程の上死点を越え、圧縮行程が完了する。
【0127】
従って、エンジンの気筒内のピストンが圧縮行程の上死点に達する前にクランク軸が停止したときに、エンジンの始動が確認されるまでエンジンを始動させる方向にスタータ・ジェネレータをスタータモータとして駆動し続けるように構成しておくと、過剰な性能を有するスタータモータを用いてコストの上昇を招いたり、装置の大形化を招いたりすることなく、エンジンの始動性を向上させることができる。またスタータモータとして小形のものを用いることができるため、その回転子のイナーシャが過大になってエンジンの加速性能が低下するのを防ぐことができる。
【0128】
上記の実施形態では、スタータ・ジェネレータをスタータモータとして駆動することにより、エンジンを始動するようにしたが、エンジンのクランク軸に磁石界磁形のロータが取り付けられた回転電機を磁石発電機としてのみ用い、電動スタータを構成するスタータモータを、磁石発電機とは別個に設ける場合にも本発明を適用することができる。
【0129】
上記の実施形態では、並列2気筒4サイクルエンジンを始動する場合を例にとったが、単気筒4サイクルエンジンや、3気筒以上の多気筒4サイクルエンジンを始動する場合にも本発明を適用することができるのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明に係わる始動装置を適用するエンジンシステムのハードウェアの構成を示した構成図である。
【図2】図1に示したシステムの電気的な構成を示したブロック図である。
【図3】図1に示されたエンジンの要部を示した断面図である。
【図4】本発明に係わるエンジン始動装置の構成を示したブロック図である。
【図5】本発明の実施形態で用いる信号発生器の出力パルスの波形とホールセンサの出力信号の波形とを模式的に示した波形図である。
【図6】本発明の実施形態において始動モード切換部とマニュアル始動時燃料噴射制御部とを構成するためにマイクロプロセッサが実行する処理のアルゴリズムを示したフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態においてバッテリ容量監視部を構成するためにマイクロプロセッサが実行する処理のアルゴリズムを示したフローチャートである。
【図8】本発明の実施形態において、始動時点火制御部を構成するためにマイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムの一例を示したフローチャートである。
【図9】本発明の実施形態において、多重点火を行なわせるためにマイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムの一例を示したフローチャートである。
【図10】本発明の実施形態において多重点火を行なう際に実行される点火タイマ割り込み処理を示したフローチャートである。
【図11】本発明の他の実施形態において、始動モード切換部とマニュアル始動時燃料噴射制御部とスタータアシスト部とを構成するためにマイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0131】
1 エンジン本体
100 ピストン
101 シリンダ
ENG エンジン
スタータ・ジェネレータ 回転電機(スタータモータ)
2 インジェクタ
10 ECU
12 点火プラグ
13 点火コイル
40 マイクロプロセッサ
50 マニュアルスタータ
51 始動モード切換部
52 始動時スタータ駆動部
53 バッテリ容量監視部
54 表示部
55 通常始動時燃料噴射制御部
56 燃料噴射装置
57 マニュアル始動時燃料噴射制御部
58 始動時点火制御部
59 点火装置
61 バルブ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射装置により燃料が供給され、点火装置により点火されるエンジンを始動するエンジン始動装置であって、
前記エンジンの始動時に前記エンジンのクランク軸を駆動するスタータモータと、
人力により駆動されて前記エンジンを始動させるためのクランキングを行なうマニュアルスタータと、
前記スタータモータに駆動電流を供給するバッテリの残存容量を推定するバッテリ容量監視部と、
前記エンジンの始動モードを通常始動モードとマニュアル始動モードに切り換える始動モード切換部と、
前記始動モードが通常始動モードであるときに前記エンジンのクランキングを行なわせるべく前記バッテリから前記スタータモータに駆動電流を供給する始動時スタータ駆動部と、
前記始動モードがマニュアル始動モードに切り換えられたときに前記エンジンの始動のためのクランキングを前記マニュアルスタータにより行なうべきことを表示する表示部とを具備し、
前記始動モード切換部は、前記エンジンの始動指令が与えられたときに始動モードを通常始動モードとして前記始動時スタータ駆動部に前記スタータモータへの駆動電流の供給を開始させた後、前記バッテリ容量監視部により推定されたバッテリの残存容量を確認して該バッテリの残存容量が前記スタータモータにより前記エンジンを始動するために必要な量以上であるときに前記エンジンの始動モードを通常始動モードのままとし、前記バッテリ容量監視部により推定された前記バッテリの残存容量が前記エンジンを始動するために必要な量よりも不足しているときに前記スタータ駆動部による前記スタータモータの駆動を禁止して前記エンジンの始動モードをマニュアル始動モードに切り換えるように構成されているエンジン始動装置。
【請求項2】
前記マニュアルスタータによるエンジンのクランキングが行なわれているときに、前記バッテリの電圧を監視しつつ、前記バッテリの電圧が前記点火装置及び燃料噴射装置を動作させるために必要な電圧値を下回らない範囲で前記スタータモータを駆動して前記マニュアルスタータによるクランキングをアシストするスタータアシスト部を備えている請求項1に記載のエンジン始動装置。
【請求項3】
前記マニュアル始動モードによる始動が開始された直後に前記燃料噴射装置の燃料ポンプの駆動を開始して該燃料ポンプを駆動した時間が設定時間に達したときに始動操作開始後初回の燃料噴射を行なうマニュアル始動モード時燃料噴射制御部と、
前記エンジンの始動が完了するまでの間前記エンジンのピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置または該ピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置よりも遅れたクランク角位置で前記エンジンを点火するように前記点火装置を制御する始動時点火制御部と、
を備えた請求項1または2に記載のエンジン始動装置。
【請求項4】
燃料噴射装置により燃料が供給され、点火装置により点火されるエンジンを始動するエンジン始動装置であって、
磁石界磁を有し、前記エンジンのクランク軸に直結されたロータと多相の電機子コイルを有するステータと前記ステータ側で前記ロータの磁極の極性を検出して前記ロータの回転角度位置を検出するホールセンサとを備えて前記ホールセンサの検出出力に応じて前記電機子コイルに駆動電流が与えられたときにスタータモータとして動作し、前記ロータが前記エンジンにより駆動されたときに発電機として動作するスタータ・ジェネレータと、
人力により駆動されて前記エンジンを始動させるためのクランキングを行なうマニュアルスタータと、
前記スタータ・ジェネレータに駆動電流を供給するバッテリの残存容量を推定するバッテリ容量監視部と、
前記エンジンの始動モードを通常始動モードとマニュアル始動モードに切り換える始動モード切換部と、
前記始動モードが通常始動モードであるときに前記スタータ・ジェネレータをスタータモータとして動作させて前記エンジンのクランキングを行なわせるべく前記ホールセンサの出力に応じて前記バッテリから前記スタータ・ジェネレータに駆動電流を供給する始動時スタータ駆動部と、
前記始動モードがマニュアル始動モードに切り換えられたときに前記エンジンの始動のためのクランキングを前記マニュアルスタータにより行なうべきことを表示する表示部とを具備し、
前記始動モード切換部は、前記エンジンの始動指令が与えられたときに始動モードを通常始動モードとして前記始動時スタータ駆動部に前記スタータ・ジェネレータへの駆動電流の供給を開始させた後、前記バッテリ容量監視部により推定されたバッテリの残存容量を確認して該バッテリの残存容量が前記スタータ・ジェネレータにより前記エンジンを始動するために必要な量以上であるときに前記エンジンの始動モードを通常始動モードのままとし、前記バッテリ容量監視部により推定された前記バッテリの残存容量が前記エンジンを始動するために必要な量よりも不足しているときに前記スタータ駆動部による前記スタータモータの駆動を禁止して前記エンジンの始動モードをマニュアル始動モードに切り換えるように構成されているエンジン始動装置。
【請求項5】
前記マニュアルスタータによるエンジンのクランキングが行なわれているときに、前記バッテリの電圧を監視しつつ、前記バッテリの電圧が前記点火装置及び燃料噴射装置を動作させるために必要な電圧値を下回らない範囲で前記スタータ・ジェネレータをモータとして駆動して前記マニュアルスタータによるクランキングをアシストするスタータアシスト部を備えている請求項4に記載のエンジン始動装置。
【請求項6】
前記マニュアル始動モードによる始動が開始された直後に前記燃料噴射装置の燃料ポンプの駆動を開始して該燃料ポンプを駆動した時間が設定時間に達したときに始動操作開始後初回の燃料噴射を行なうマニュアル始動モード時燃料噴射制御部と、
前記エンジンの始動が完了するまでの間前記エンジンのピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置または該ピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置よりも遅れたクランク角位置で前記エンジンを点火するように前記点火装置を制御する始動時点火制御部を備えている請求項4または5に記載のエンジン始動装置。
【請求項7】
前記始動時点火制御部は、前記ホールセンサの出力から前記点火装置を制御するために必要なエンジンの回転速度情報とクランク角位置情報とを得るように構成されている請求項6に記載のエンジン始動装置。
【請求項8】
前記始動時スタータ駆動部は、前記始動指令が与えられたときに一旦前記クランク軸を始動方向と逆方向に回転させて前記エンジンのクランキングを行わせた後、該クランク軸を始動方向に回転させて前記エンジンのクランキングを行うように構成されている請求項4ないし7のいずれか1つに記載のエンジン始動装置。
【請求項9】
前記クランク軸を逆方向に回転させて行うクランキングが終了したときに始動操作開始後初回の燃料噴射を行わせる定常始動時燃料噴射制御部が設けられている請求項8に記載のエンジン始動装置。
【請求項10】
前記始動時スタータ駆動部は、前記エンジンの気筒内のピストンが圧縮行程の上死点に達する前にクランク軸が停止したときに、前記バッテリの電圧が前記点火装置及び燃料噴射装置を動作させるために必要な電圧値を下回らない範囲で、エンジンの始動が確認されるまでエンジンを始動させる方向に前記スタータ・ジェネレータをスタータモータとして駆動し続けるように構成されている請求項8または9に記載のエンジン始動装置。
【請求項11】
前記バッテリ容量監視部は、前記バッテリの出力電流を検出する出力電流検出部と、前記バッテリの電圧を検出するバッテリ電圧検出部と、前記バッテリの残存容量を推定するために前記バッテリ電圧検出部により検出されたバッテリ電圧の検出値と比較すべき判定値を前記出力電流検出部により検出されたバッテリの出力電流に対して演算する残存容量推定用判定値演算部と、前記バッテリ電圧検出部により検出されたバッテリ電圧の検出値を前記判定値と比較して検出されたバッテリ電圧が判定値以上であるときに前記バッテリの残存容量が前記エンジンを始動するために必要な量以上であると推定するバッテリ容量推定部とを備えている請求項1ないし10のいずれか1つに記載のエンジン始動装置。
【請求項12】
前記エンジンは、各気筒内を外部に連通させるデコンプホールをシリンダヘッドに備えるとともに、前記デコンプホールを開閉する制御可能なデコンプバルブが設けられ、前記始動モードがマニュアル始動モードに切り換えられたときに前記デコンプバルブを開き、前記エンジンの初爆が完了した後に前記デコンプバルブを閉じるように前記デコンプバルブを制御するバルブ制御部が更に設けられている請求項1ないし8のいずれか一つに記載のエンジン始動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−24540(P2009−24540A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186767(P2007−186767)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】