説明

オイルポンプ

【課題】所望のオイル吐出率を確保すると共に、異常振動の発生を防止できるオイルポンプを提供するものである。
【解決手段】吐出工程におけるオイル収納空間70や吐出通路20のオイルが過大圧力にならない場合に、吐出通路20と吸入通路16や空気排出通路18とも一方とを弁部材30とスプリングとによって遮断する。オイル収納空間70や吐出通路20のオイルが過大圧力になった場合に、その過大圧力がスプリング32に抗して弁部材30を移動させ、吐出通路20と吸入通路16や空気排出通路18と連絡することによって、過大圧力を吸入通路16や空気排出通路18に分散する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関等の潤滑油を吐出するためのオイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関等の潤滑油を吐出するオイルポンプの構造は特許文献1等に知られており、この従来既知のオイルポンプ(トロコイドポンプ)を図6乃至図8に示す。オイルポンプ50は、第一ケーシング52と、第二ケーシング54と、それら第一ケーシング52と第二ケーシング54とに挟まれた空間内に回転自在な筒状のアウターロータ56と、そのアウターロータ56の内部で回転自在しながらそのアウターロータ56も回転させるインナーロータ58とを有する。
【0003】
図7に示すように、筒状のアウターロータ56は、その内壁に例えば5個の凸部60と凹部62とを有するものである。このアウターロータ56は、ケーシング52に形成された円筒内壁64の中心点Pを中心に、円筒内壁64に摺接しながら回転可能する。インナーロータ58は駆動軸66に固定されるもので、その駆動軸66の中心点Qを中心に回転する。インナーロータ58の外壁には、アウターロータ56の5個の凸部60と噛み合う例えば4個の突起部68を有している。アウターロータ56の内壁とインナーロータ58の外壁との間には、幾つかのオイル収納空間70が形成される。駆動軸66の回転によって、インナーロータ58とアウターロータ56とが図7で時計方向(矢印方向)に回転し、それに伴ってインナーロータ58とアウターロータ56とによって形成されるオイル収納空間70は形状と容積を変えながら時計方向に回転移動する。
【0004】
図6及び図8に示すように、アウターロータ56とインナーロータ58の一方の側面に配置されるケーシング52には、オイルを吸入するための吸入通路72と、オイルに混入する空気を排出するための空気排出通路74と、エンジン潤滑用にオイルを吐出する吐出通路76とが形成されている。これら吸入通路72と空気排出通路74と吐出通路76とは、前記オイル収納空間70と連絡するように設定されている。オイル収納空間70に収容されるオイルには空気が混入することがあるため、オイルに混入する空気は空気排出通路74より排出するが、その空気排出通路74を吐出通路76よりも上方に配置する。
【0005】
次に、オイルポンプ50の動作について説明する。図9に示すように、吸入通路72と連絡するオイル収納空間70にオイルが導入される。オイルを導入したオイル収納空間70は、インナーロータ58の2個の突起部68とアウターロータ56の2個の凸部60とが接触した状態となって閉鎖された空間となり、インナーロータ58とアウターロータ56と共に時計回りに移動する。時計回りに移動する閉鎖されたオイル収納空間70は、その後、図10に示す位置まで移動して、空気排出通路74と連絡する。
【0006】
図10の状態では、空気排出通路74はオイル収納空間70の上位と連絡しており、オイル収納空間70内のオイルに混入された空気は空気排出通路74を通って外部に排出される。その後は吐出工程に入り、インナーロータ58とアウターロータ56とオイル収納空間70とが更に時計回りに移動して、図11に示すようにオイル収納空間70が吐出通路76と連絡し、オイルは吐出通路76からエンジン等に向けて吐出される。
【0007】
【特許文献1】特開2002−339874号公報(第3−5頁、第2−9図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のオイルポンプでは、ケーシング52とインナーロータ58やアウターロータ56との接合面にはある程度の隙間(吹抜け)があり、その吹抜けを介して吐出通路76側のオイルがオイル吸入通路72や空気排出通路74に若干は漏れるようなものとなっていた。即ち、ケーシング52とインナーロータ58やアウターロータ56との接合箇所同士の寸法精度は比較的ラフなものとなっていた。
【0009】
一方、吐出通路76におけるオイルの吐出圧力は、エンジン側の通路抵抗により発生するが、オイルの温度やエンジン回転数等によって変動する。このため、吐出通路76からオイル吸入通路72や空気排出通路74へのオイルの吹抜けがあると、吐出通路76からのオイルの吐出圧力が減少して、吐出通路76からエンジンに向かうオイル吐出率が変動し、所望のオイル吐出量が得られないという不具合が生じることが危惧される。
【0010】
ここで、オイル吐出率を変動させないために、吐出通路76とオイル吸入通路72や空気排出通路74との間の吹抜けを防止する仕切りを設ける(ケーシング52とインナーロータ58やアウターロータ56との接合面の隙間を狭くする)ことが考えられる。しかし、吐出通路76とオイル吸入通路72や空気排出通路74との間に仕切りを設けるようにすると、空気排出通路74と連絡した後の吐出工程において、オイル収納空間70内で圧縮されるオイルは、吹抜けを介してオイル吸入通路72や空気排出通路74に逃げることができなくなり、その結果、オイル収納空間70のオイル圧が過大となって、オイルポンプ50に異常振動が発生することが予想される。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みてなされたもので、所望のオイル吐出率を確保すると共に、異常振動の発生を防止できるオイルポンプを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係るオイルポンプは、ケーシングと、前記ケーシング内に備えられるものであってオイル収納空間を有するオイル移動手段と、オイルを外部に吐出するための吐出通路と、その吐出通路以外のものであって外部と連絡する外部連絡通路とを有するオイルポンプにおいて、吐出工程における前記オイル収納空間や前記吐出通路の圧力が所定の過大圧力にならない場合に前記オイル収納空間や前記吐出通路と前記外部連絡通路とを遮断すると共に、吐出工程における前記オイル収納空間や前記吐出通路の圧力が所定の過大圧力になった場合に前記オイル収納空間や前記吐出通路と前記外部連絡通路とを連絡する圧力調整手段を備えるようにしたものである。
【0013】
本発明はまた、前記外部連絡通路がオイルを吸入する吸入通路とオイルに含まれる空気を外部に排出する空気排出通路との少なくとも一つから成り、前記吸入通路か前記空気排出通路の少なくとも一つと前記吐出通路とを連絡空間を介して連絡し、前記圧力調整手段で前記連絡空間を開閉するようにしたものである。本発明は、前記圧力調整手段が、前記連絡空間を開閉するための弁部材と、前記連絡空間を閉じる方向に前記弁部材を付勢する付勢手段とから成るものである。本発明は更に、前記外部連絡通路が一方を前記ケーシングと前記オイル移動手段との間の接合箇所と連絡し他方を外部と連絡するオイル排出通路としたものである。本発明は、前記圧力調整手段が、前記オイル排出通路を開閉するための弁部材と、前記オイル排出通路を閉じる方向に前記弁部材を付勢する付勢手段とから成るものである。
【0014】
第一実施形態では、オイル収納空間や吐出通路のオイル圧が過大圧力にならない場合には、吐出通路と吸入通路や空気排出通路とを弁部材とスプリングとによって遮断し、吐出通路から吸入通路や空気排出通路への吹抜けを防止する。オイル収納空間や吐出通路のオイル圧が過大圧力になった時には、その過大圧力がスプリングに抗して弁部材を移動して、吐出通路と吸入通路や空気排出通路とを連絡する。これによって、オイル収納空間や吐出通路の過大圧力を外部に逃して、オイルポンプに発生が予想される異常振動を未然に防止することができる。
第二実施形態では、吐出通路とオイル吸入通路や空気排出通路との間の吹抜けを防止する仕切りを設ける(ケーシングとインナーロータやアウターロータとの接合面の隙間を狭くする)。オイル収納空間や吐出通路のオイル圧が過大圧力にならない場合には、オイル排出通路の内部に収容される弁部材とスプリングとによって、そのオイル排出通路を遮断する。オイル収納空間や吐出通路のオイル圧が過大圧力になった時には、その過大圧力がスプリングに抗して弁部材を移動してオイル排出通路を開き、過大圧力をオイル排出通路から外部に逃す。これによって、吐出通路が過大圧力になることを防いで、オイルポンプに発生が予想される異常振動を未然に防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るオイルポンプによれば、吐出工程でオイルが過大圧力になった場合に、圧力調整手段を介してオイルを吐出通路以外の箇所に逃すので、オイルポンプでの過大圧力が作用する箇所をなくすことができる。これによって、オイルポンプに発生が予想される異常振動を未然に防止することができる。
圧力調整手段を設けることによって、吐出通路からの吐出圧力を過大な圧力とならないようにすることができるので、オイル循環システムの途中にリリーフ弁を備える場合には、リリーフ弁を省略してコストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、オイルポンプにおいて所望のオイル吐出率を確保すると共に異常振動の発生を防止するようにするものである。次に本発明を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は本発明に係るオイルポンプの要部断面図、図2は図1のA−A線断面図である。図1及び図2において、図6乃至図8と同一符号は同一部材を示す。オイルポンプ10は第一ケーシング12と第二ケーシング14とを有し、それら第一ケーシング12と第二ケーシング16との間にオイル移動手段としてのアウターロータ56とインナーロータ58とを回転自在に備えるものである。なお、オイル移動手段は、アウターロータ56とインナーロータ58に限るものではない。第一ケーシング12には、オイルを吸入するための外部連絡通路としての吸入通路16と、オイルに混入した空気を排出するための外部連絡通路としての空気排出通路18と、オイルを吐出する吐出通路20とが形成されている。空気排出通路18は吐出通路20よりも上位に配置される。第一ケーシング12には外側に向けて突出する筒状の突状部22と、その筒状の突状部22の内部空間24とが形成される。その内部空間24は、吐出通路20と連絡しており、更に吸入通路16と空気排出通路18のうちの少なくとも一つと連絡している。
【0018】
内部空間24には、吐出通路20と、吸入通路16と空気排出通路18のうちの少なくとも一つとを連絡または遮断する圧力調整手段26が備えられている。圧力調整手段26は、筒状で一端に端面28を有する弁部材30と、その弁部材30の端面28をインナーロータ58(場合によってはアウターロータ56)の側面に接触させる付勢手段としてのスプリング32とから成る。
【0019】
通常の状態(図1の状態)では、スプリング32によって弁部材30の端面28をインナーロータ58等に接触させ、弁部材30によって吐出通路20と吸入通路16や空気排出通路18とを遮断し、吹抜けを防止している。この通常の状態では、スプリング32によって弁部材30の端面28をインナーロータ58等へ押圧することで、弁部材30の端面28とインナーロータ58等との接合箇所におけるオイルの吹抜けを無くしている。このようにスプリング32によって、弁部材30の端面28とインナーロータ58との互いの接触面を押圧しているので、その接触面の表面を精度の高いものにしなくても吹抜けを防止することができる。
【0020】
オイルの吐出工程(図10の状態から図11の状態に至る中間の状態、あるいは図11の状態)においては、オイル収納空間70の容積が圧縮され、そこに収納されているオイルの圧力が過大になる場合がある。このように、吐出工程においてオイルの圧力が過大圧力になると、弁部材30の端面28とインナーロータ58等との間にオイルが入り込み、スプリング32に抗して弁部材30を図1で右方向に移動させる。
【0021】
この結果、図3に示すように、弁部材30の端面28とインナーロータ58等の側面との間に連絡空間36が現れ、この連絡空間36を介して、吐出通路20は吸入通路16と空気排出通路18との少なくとも1つと連絡する。この結果、吐出工程でオイル収納空間70に過大圧力が発生するとしても、この過大圧力は吸入通路16と空気排出通路18との少なくとも1つに逃れるため、吐出工程において発生する過大圧力による異常振動を防止することができる。
【実施例2】
【0022】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。図4は本発明に係る他のオイルポンプの要部断面図、図5は図4のB−B線断面図である。図4及び図5において、図1乃至図3と同一符号は同一部材を示す。この第二実施形態においては、第一ケーシング12に外部連絡通路としてのオイル排出通路38を形成する。このオイル排出通路38の一端は、アウターロータ56やインナーロータ58の側面と第一ケーシング12との接合箇所39と連絡し、他端は外部即ちオイル戻し通路(図示せず)と連絡する。このオイル排出通路38の途中にリリーフ弁である圧力調整手段40を備える。圧力調整手段40は、オイル排出通路38に形成される弁座42と、その弁座42に着座する弁部材としてのボールバルブ44と、そのボールバルブ44を弁座42に着座させる方向に付勢する付勢手段としてのスプリング46とから成る。なお、リリーフ弁の構成はこれに限るものではない。
【0023】
吐出工程におけるオイル収納空間70や吐出通路20の圧力が過大圧力にならない状態においては、スプリング46によってボールバルブ44は弁座42に着座し、オイル排出通路38は閉じられている。図4及び図5において、オイル排出通路38の形成位置は、吐出通路20と直接連絡する位置としたが、それに代えて吐出通路20と空気排出通路74との間の吐出通路20とは直接連絡しない位置(図5のオイル排出通路38の位置よりやや上方の位置)にしても良い。
【0024】
この第二実施形態においては、オイル吐出率を変動させないために、吐出通路20と吸入通路16や空気排出通路18との間の吹抜けを防止する仕切りを設ける(第一ケーシング12とインナーロータ58やアウターロータ56との接合面の隙間を狭くする)。吐出工程(図10から図11までの間の状態か、図11の状態)において、オイル収納空間70の容積が圧縮されてオイルの圧力が過大となった場合には、この過大圧力のオイルは、インナーロータ58やアウターロータ56の側面と第一ケーシング12との対面箇所から、オイル排出通路38に入り込む。このオイル排出通路38に入り込んだ過大圧力は、スプリング46に抗してボールバルブ44を弁座42から離してオイル排出通路38を開き、過大圧力をオイル排出通路38から外部に逃す。このように、吐出工程において発生する過大圧力をオイル排出通路38から外部に逃すことで、オイルポンプに発生していた異常振動を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るオイルポンプの一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】過大圧力によって図1の弁体が移動した状態を示す要部断面図である。
【図4】本発明に係るオイルポンプの他の実施形態を示す断面図である。
【図5】図4のB−B線の要部断面図である。
【図6】従来のオイルポンプの縦断面図である。
【図7】図6のC−C断面図である。
【図8】図6のD−D断面図である。
【図9】オイルを収容したオイル収納空間が吸入通路と連絡した状態を示す説明図である。
【図10】オイルを収容したオイル収納空間が空気排出通路と連絡した状態を示す説明図である。
【図11】オイルを収容したオイル収納空間が吐出通路と連絡した状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0026】
10 オイルポンプ
12 ケーシング
16 吸入通路
18 空気排出通路
20 吐出通路
26 圧力調整手段
30 弁部材
32 スプリング
36 連絡空間
38 オイル排出通路
39 接合箇所
40 圧力調整手段
44 ボールバルブ
46 スプリング
56 アウターロータ
58 インナーロータ
70 オイル収納空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、前記ケーシング内に備えられるものであってオイル収納空間を有するオイル移動手段と、オイルを外部に吐出するための吐出通路と、その吐出通路以外のものであって外部と連絡する外部連絡通路とを有するオイルポンプにおいて、吐出工程における前記オイル収納空間や前記吐出通路の圧力が所定の過大圧力にならない場合に前記オイル収納空間や前記吐出通路と前記外部連絡通路とを遮断すると共に、吐出工程における前記オイル収納空間や前記吐出通路の圧力が所定の過大圧力になった場合に前記オイル収納空間や前記吐出通路と前記外部連絡通路とを連絡する圧力調整手段を備えたことを特徴とするオイルポンプ。
【請求項2】
前記外部連絡通路がオイルを吸入する吸入通路とオイルに含まれる空気を外部に排出する空気排出通路との少なくとも一つから成り、前記吸入通路か前記空気排出通路の少なくとも一つと前記吐出通路とを連絡空間を介して連絡し、前記圧力調整手段で前記連絡空間を開閉することを特徴とする請求項1記載のオイルポンプ。
【請求項3】
前記圧力調整手段が、前記連絡空間を開閉するための弁部材と、前記連絡空間を閉じる方向に前記弁部材を付勢する付勢手段とから成ることを特徴とする請求項2記載のオイルポンプ。
【請求項4】
前記外部連絡通路が一方を前記ケーシングと前記オイル移動手段との間の接合箇所と連絡し他方を外部と連絡するオイル排出通路としたことを特徴とする請求項1記載のオイルポンプ。
【請求項5】
前記圧力調整手段が、前記オイル排出通路を開閉するための弁部材と、前記オイル排出通路を閉じる方向に前記弁部材を付勢する付勢手段とから成ることを特徴とする請求項4記載のオイルポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−348750(P2006−348750A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−279532(P2003−279532)
【出願日】平成15年7月25日(2003.7.25)
【出願人】(000177612)株式会社ミクニ (332)
【Fターム(参考)】