説明

オイル劣化判定装置

【課題】エンジンに循環供給されるオイルの劣化を検知するに際して、特別なセンサを用いることなく、オイルを循環供給する電動式ポンプに関する計測データにより、オイルの劣化を判定するオイル劣化判定装置を得る。
【解決手段】オイルの交換直後のエンジン駆動時に電動式ポンプを一定回転数で運転した時の駆動電流の電流値を計測し電流初期値として記憶する電流初期値記憶手段1と、オイル交換から所定時間経過後のエンジン駆動時に電動式ポンプを一定回転数で運転した時の駆動電流の電流値をデータとして計測するポンプ駆動時電流値計測手段2と、電流初期値と計測した電流値とを比較する比較手段3と、比較手段3により比較した電流値の差が所定値以上である場合にオイルの粘性が低下したと判定する判定手段4とを具備して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの各部に対して循環供給されるオイルの劣化を判定する装置に関し、特に、オイルの粘度等を直接的に検知するセンサ等を用いることなく、オイルを循環供給する電動式ポンプに関する計測データにより、エンジンに循環供給されるオイルの劣化を判定するオイル劣化判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車や自動二輪車のエンジンのシリンダー壁面や軸受け等に循環供給されるエンジンオイルは、走行するにしたがって劣化するので、走行距離若しくは使用期間を目安に新しいオイルに交換することが推奨されている。
【0003】
すなわち、エンジンオイルは、一般的には、走行距離を記録し所定距離走行した際に交換したり(走行距離積算方法)、エンジンオイルの状態を常時センサで検知し、センサにより劣化が確認された場合に交換する(センサ検知方法)ことが行われていた。具体的には、特許文献1や特許文献2に示されるように、エンジンオイルの状態を粘度や非誘電率等のオイルの物性的な性質から判断し、劣化が生じた場合にオイル交換することが行われていた。
【特許文献1】特開平3−26855号公報
【特許文献2】特表2003−524169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンオイルの劣化は、渋滞路での走行が多い、又は、高回転領域での使用が多い等のエンジンの使用状況、即ち走行モードによる影響を大きく受ける。
【0005】
したがって、上述の走行距離積算方法によると、ユーザーによって走行モードが異なるので、エンジンオイルの交換時期に余裕をもたせることが必要であった。
【0006】
また、上述のセンサ検知方法によると、エンジンオイルと接触する位置にオイルの物性的な性質から劣化を検知するためのセンサを設置する必要があるので、構造が複雑になるとともにコスト上昇につながる。
【0007】
本発明の目的は、エンジンに循環供給されるオイルの劣化を検知するに際して、特別なセンサを用いることなく、オイルを循環供給する電動式ポンプに関する計測データにより、オイルの劣化を判定するオイル劣化判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため請求項1の発明は、エンジンにオイルを循環供給する電動式ポンプの計測データにより、前記エンジンに循環供給されるオイルの劣化を判定する装置であって、初期値記憶手段と、ポンプ駆動時データ計測手段と、比較手段と、判定手段とを具備する点に第1の特徴がある。
【0009】
初期値記憶手段は、前記電動式ポンプを一定回転数で運転した時の駆動電流の電流値を計測し電流初期値として記憶するものである。
【0010】
ポンプ駆動時データ計測手段は、前記電流初期値の記憶時から所定時間経過後のエンジン駆動時に前記電動式ポンプを一定回転数で運転した時の駆動電流の電流値をデータとして計測するものである。
【0011】
比較手段は、前記電流初期値と前記所定時間経過後に計測した電流値とを比較するものである。
【0012】
判定手段は、前記比較手段により比較した電流値の差が所定値以上である場合に前記オイルの粘性が低下したと判定するものである。
【0013】
請求項2の発明は、エンジンにオイルを循環供給する電動式ポンプの計測データにより、前記エンジンに循環供給されるオイルの劣化を判定する装置であって、初期値記憶手段と、ポンプ駆動時データ計測手段と、比較手段と、判定手段とを具備する点に第2の特徴がある。
【0014】
初期値記憶手段は、前記電動式ポンプを一定電流で運転した時の電動式ポンプの回転数を計測し回転数初期値として記憶するものである。
【0015】
ポンプ駆動時データ計測手段は、前記回転数初期値の記憶時から所定時間経過後のエンジン駆動時に前記電動式ポンプを一定電流で運転した時の電動式ポンプの回転数をデータとして計測するものである。
【0016】
比較手段は、前記回転数初期値と前記所定時間経過後に計測した回転数とを比較するものである。
【0017】
判定手段は、前記比較手段により比較した回転数の差が所定値以上である場合に前記オイルの粘性が低下したと判定するものである。
【0018】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のオイル劣化判定装置において、前記判定手段により前記オイルの粘性が低下したと判定した場合にオイルの粘性低下を示す表示および音の発生のうち少なくとも一方を行う警告手段を備えた点に第3の特徴がある。
【0019】
請求項4の発明は、請求項1又は請求項2に記載のオイル劣化判定装置において、前記ポンプ駆動時データ計測手段によるデータの計測は、所望の一定間隔毎に行うよう構成した点に第4の特徴がある。
【0020】
請求項5の発明は、請求項4に記載のオイル劣化判定装置において、ポンプ駆動時データ計測手段により一定間隔毎に計測された各データを記録するデータ記録手段と、データ記録手段に記憶された各データからオイルの交換時期を算出するオイル交換時期算出手段とを備えた点に第5の特徴がある。
【0021】
請求項6の発明は、請求項1記載のオイル劣化判定装置において、前記電流初期値が、前記オイルの交換直後に計測し、記憶されるものである点に第6の特徴がある。
【0022】
請求項7の発明は、請求項1記載のオイル劣化判定装置において、前記回転数初期値が、前記オイルの交換直後に計測し、記憶されるものである点に第7の特徴がある。
【発明の効果】
【0023】
第1、第6の特徴を有する本発明によれば、電動式ポンプを一定回転数で運転した時の駆動電流の電流値を初期電流値と比較することでエンジンオイルの劣化状態を判断するので、特別なセンサを使用することなく適切にオイルの交換時期を判定することができる。
【0024】
第2、第7の特徴を有する本発明によれば、電動式ポンプを一定電流で運転した時の回転数を回転数初期値と比較することでエンジンオイルの劣化状態を判断するので、特別なセンサを使用することなく適切にオイルの交換時期を判定することができる。
【0025】
第3の特徴を有する本発明によれば、オイルの粘性が低下したと判定した場合に表示を行う又は音を発生する警告手段を備えることにより、オイルが劣化したことを使用者に知らせることができる。
【0026】
第4の特徴を有する本発明によれば、データの計測を所望の一定間隔毎に行うことで、一定時間毎にオイルの劣化状態を判定することができる。
【0027】
第5の特徴を有する本発明によれば、オイル交換時期算出手段において一定間隔毎に計測された各データからオイルの交換時期を算出することにより、使用者にオイルの交換時期を予め知らせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図1は本発明のオイル劣化判定装置が装着された自動二輪車のシステム概略構成図であり、図2は本発明の一実施形態に係るオイル劣化判定装置の概略ブロック図である。実施形態に示すオイル劣化判定装置は、自動二輪車のエンジンに対して循環供給されるオイルの劣化を判定する装置である。
【0029】
図1において、自動二輪車は、エンジン10に連結される自動マニュアル変速機(以下、「AMT」という)20と、AMT20のツインクラッチ制御及びエンジン10へのオイルの循環供給を兼用する油圧装置40と、AMT20の制御を行うAMT制御ユニット60を備えている。
【0030】
オイル劣化判定装置は、油圧装置40のオイル循環供給用として使用される電動式ポンプ41の電流値や回転数を計測した計測データをAMT制御ユニット60へ入力し、オイルの劣化を判定するように構成されている。
【0031】
油圧装置40に使用される電動式ポンプ41は、エンジンに連結して駆動されることでエンジンの回転数に応じて供給量が左右されるオイルポンプと異なり、電動式ポンプ41の駆動電流によりオイルの循環供給量を制御できるので、エンジンが高回転領域に達した場合においても過剰供給されることなくエンジンオイルの循環量を適正に維持することが可能となる。
【0032】
エンジン10は、シリンダブロック11内の複数のピストン12の往復運動により回転するクランク軸13を有し、エンジン10の出力軸であるクランク軸13にはプライマリ駆動ギヤ31が結合されている。
【0033】
AMT20は、ツインクラッチを有する自動変速機であり、多段の変速ギヤ21、第1クラッチ22、第2クラッチ23、シフトドラム24、及びシフト制御モータ25を備えている。変速ギヤ21を構成する多数のギヤは、主軸26、カウンタ軸27、及び変速ギヤ出力軸28に結合又は遊嵌されている。主軸26は内主軸26aと外主軸26bからなり、内主軸26aは第1クラッチ22と結合され、外主軸26bは第2クラッチ23と結合されている。
【0034】
主軸26及びカウンタ軸27には、それぞれ主軸26及びカウンタ軸27の軸方向に変位可能なドグクラッチ(図示せず)が設けられ、これらドグクラッチ及びシフトドラム24に形成されたカム溝(図示せず)にはそれぞれシフトフォーク29の端部が係合している。
【0035】
エンジン10のクランク軸13に結合されたプライマリ駆動ギヤ31は、AMT20のプライマリ従動ギヤ32に噛合され、このプライマリ従動ギヤ32は、第1クラッチ22を介して内主軸26aに連結され、第2クラッチ23を介して外主軸26bに連結されている。第1クラッチ22及び第2クラッチ23は、油圧装置40で内主軸26a又は外主軸26bとの連結状態が制御されるように構成している。
【0036】
カウンタ軸27には駆動スプロケット35が結合されており、この結合スプロケット35は駆動チェーン(図示せず)を介して自動二輪車の後車輪の従動スプロケットに連結されている。
【0037】
AMT20内には、プライマリ従動ギヤ31の外周に対向配置されたエンジン回転数センサ36と、一次減速された内主軸26aに結合されたギヤの外周に対向配置された車速センサ37と、シフトドラム24によるシフト位置を検出するギヤポジションセンサ38が設置されている。
【0038】
油圧装置40は、オイルタンク42と、オイルタンク42内のオイルを第1クラッチ22及び第2クラッチ23に給送するための管路43と、オイルをエンジン10の各部に給送するため管路43に対して分岐する管路44を有することで、AMT20のツインクラッチ制御用とエンジン10への循環供給用を兼用するように構成されている。
【0039】
管路43及び管路44に対しては電動式ポンプ41が設けられ、オイルタンク42のオイルをクラッチ側及びエンジン側に供給可能にしている。また、管路43及び管路44における油圧が一定値以上にならないように、レギュレータ45を介してオイルをオイルタンクに戻す戻り管路46が設けられている。
【0040】
電動式ポンプ41は、駆動電流値に応じてポンプの回転数が変化することで、オイルの供給量が定まるように構成されている。また、電動式ポンプ41には、駆動電流の電流値及びポンプ回転数が検出できるデータ計測装置47が装着されている。
【0041】
電動式ポンプ41の下流側には、第1クラッチ22及び第2クラッチ23に個別に油圧をかけることができる二つの圧力室を有する構造のバルブ55が接続されている。また、バルブ55の各圧力室には戻り管路48がそれぞれ接続されている。
【0042】
エンジン10側には戻り管路49が接続され、エンジン各部にオイルが循環供給されるようになっている。
【0043】
管路43には、オイルの温度を検出する油温センサ50と、オイルの圧力を検出する油圧センサ51が設けられている。電動式ポンプ41と油圧センサ51との間の管路43には、循環するオイルの汚れを除去するためのオイルフィルタ52が設けられている。
【0044】
オイルタンク42の底面側には、タンク内のオイル量を検知する油量検知センサ53が設けられ、オイルタンク42のオイルが空になること及び最充填されることを検知することでオイル交換時が行われたことを判断できるようになっている。
【0045】
AMT制御ユニット60には、自動変速(AT)と手動変速(MT)との切り換えを行うモードスイッチ61とシフトアップ(UP)又はシフトダウン(DN)を指示するシフトセレクタスイッチ62が接続されるとともに、上述したエンジン回転数センサ36,車速センサ37,ポジションセンサ38により得られた車速、エンジン回転数、ギヤポジションからの情報、及びスロットル側に設けたスロットルセンサ(図示せず)からのスロットル開度等の情報が入力される。
【0046】
AMT制御ユニット60は、マイクロコンピュータ(CPU)を備え、上記各センサやスイッチの出力信号に応じて予定の手順で動作し、バルブ55及びシフト制御モータ25を制御し、車速、エンジン回転数、ギヤポジション、スロットル開度等の運転状態に応じて第1クラッチ22及び第2クラッチ23を制御してAMT20の変速ギヤを自動的に切り換えるとともに、電動式ポンプ41のデータ計測装置47からの電流値や回転数の計測データ、管路43に設けた油温センサ50から油温をそれぞれ検出してオイル劣化の判定を行うように構成されている。
【0047】
上記構成において、油圧装置40の管路43及び管路44では、電動式ポンプ41が駆動されることでバルブ55に油圧がかかり、油圧が上昇した場合にはレギュレータ45のバネ45aを押圧して戻り管路46にオイルが流れることで、油圧が上限値を超えないように制御されている。また、管路43及び管路44の油圧は、バルブ制御系統及びエンジン潤滑系統の双方に十分な圧力がかかる値となるように、電動式ポンプ41による供給量及びレギュレータ45により戻し管路46に戻す圧力の上限値が設定されている。
【0048】
AMT制御ユニット60からの指示によりバルブ55が開かれると油圧は第1クラッチ22又は第2クラッチ23に印加されてプライマリ従動ギヤ32が第1クラッチ22又は第2クラッチ23を介して内主軸26a又は外主軸26bに連結される。バルブ55が閉じ油圧の印加が停止されると、第1クラッチ22及び第2クラッチ23に内蔵されている戻りばね(図示せず)で内主軸26a及び外主軸26bとの連結を遮断する方へ付勢される。
【0049】
シフト制御モータ25は、AMT制御ユニット60からの指示に従ってシフトドラム24を回動させる。シフトドラム24が回動すると、シフトドラム24の外周に形成されたカム溝の形状に従ってシフトフォーク29がシフトドラム24の軸方向に変位し、ドグクラッチを移動させてカウンタ軸27及び主軸26上のギヤの噛み合わせ変え、変速ギヤ21をシフトアップ又はシフトダウンさせる。
【0050】
AMT制御ユニット60は、モードスイッチ61が「AT」に切り替わっているときには、車速,エンジン回転数,ギヤポジション,スロットル開度等の運転状態に応じて第1クラッチ22及び第2クラッチ23を制御してAMT20の変速ギヤ21のシフトアップ及びシフトダウンを自動的に行い、モードスイッチ61が「MT」に切り替わっているときは、運転者によるセレクタスイッチ62のシフトアップ及びシフトダウン操作に従って第1クラッチ22及び第2クラッチ23が作動し、変速ギヤ21がシフトアップ又はシフトダウンする。
【0051】
次に、AMT制御ユニット60におけるオイル劣化判定に関する構成について、図2のブロック図を参照しながら説明する。
【0052】
オイル劣化判定装置は、電動式ポンプ41に装着されたデータ計測装置47の計測データによりオイルの劣化を判定する装置であり、電動式ポンプ41の駆動電流の電流初期値を記憶する電流初期値記憶手段(初期値記憶手段)1aと、電動式ポンプ41の駆動電流の電流値を計測するポンプ駆動時電流値計測手段(ポンプ駆動時データ計測手段)2aと、電流初期値と計測された電流値とを比較する比較手段3と、比較手段3により比較した電流値の差が所定値以上である場合にオイルの粘性が低下したと判定する判定手段4を有している。
【0053】
電流初期値記憶手段1aは、油量検知センサ53でオイルタンク42からオイルが抜かれ、再度オイルが入れられたことを検知した場合(オイル交換後)において、エンジン駆動時に電動式ポンプ41の駆動電流の電流値をデータ計測装置47で計測し、この値を電流初期値として記憶するものである。
【0054】
オイルは劣化すると粘度が低下し、循環供給させるために必要な電動式ポンプ41の駆動電流が小さくなるので、その電流値を測定することによりオイルの粘度の変化を検知しようとするものである。
【0055】
電動式ポンプ41の電流値の測定は、エンジン駆動時に電動式ポンプ41の回転数が一定回転数であり、且つ、油温センサ50で検知された油温が所定の温度である時に計測する。電動式ポンプ41が一定回転数で駆動されているかどうかは、電動式ポンプ41に設置したデータ計測装置47に設けた回転数検出装置により検知するようになっている。
【0056】
ポンプ駆動時電流値計測手段2aは、オイル交換から所定時間経過後のエンジン駆動時に電動式ポンプ41を一定回転数で運転し、且つ、前記初期電流値の計測時と同じ油温である時の駆動電流の電流値をデータとして計測するものである。電動式ポンプ41が一定回転数で駆動されているかどうかは、電動式ポンプ41に設置したデータ計測装置47に設けた回転数検出装置により検知するようになっている。油温センサ50による油温が初期電流値の計測時と等しい時に電流値を計測するのは、油温によりオイルの粘度が変化する場合があり、オイルの劣化状態をより正確に検出するためである。すなわち、電動式ポンプ41の電流初期値と電流値の計測値に対して、オイル劣化以外の要因を排除することで、両電流値の変化にオイルの劣化を正確に反映させることができる。
【0057】
また、ポンプ駆動時電流値計測手段2aによるデータの計測は、所望の一定間隔毎に行うように設定できるように構成されている。所望の一定間隔毎とは、エンジンオイル交換時からの期間が、内在されたクロックにより管理され、例えば使用者が設定した期間毎、又は予め設定された期間毎(例えば10日毎)に計測が可能なようにする。
【0058】
比較手段3は、電流初期値記憶手段1aに記憶された電流初期値と、ポンプ駆動時電流値計測手段2aで計測された電流値とを比較するものである。
【0059】
判定手段4は、比較手段4により比較した電流値の差が予め記憶された所定値以上である場合に、オイルの粘性が低下したと判定し、判定手段4に接続された警告装置5に対して信号として出力する。警告装置5は、メーター6内に設けられた発光素子や液晶等を用いて視覚的に表示する表示手段で構成されている。
【0060】
警報装置5では、入力された信号により、メーター6内の表示手段(モニターランプ)を点灯させて、使用者にオイルが劣化していることを知らせる。また、表示手段による点灯表示に代えて、または点灯表示とともに警告音を発生するような音発生装置であってもよい。
【0061】
また、ポンプ駆動時電流値計測手段2aにより一定間隔毎に計測された各データを記録するデータ記録手段を有するようにしてもよい。データ記録手段に記憶された各データと電流初期値記憶手段1aに記憶された電流初期値は、オイル交換時期算出手段7にそれぞれ出力され、予め記憶されたオイルの劣化時期を求める関数を使用してオイル交換が必要である劣化状態に達するまでの期間(オイルの交換時期)を算出する。
【0062】
算出されたオイル交換時期は、例えばメーター6内の表示装置8に表示することで使用者に知らせることができる。
【0063】
また、油量検知センサ53でオイルタンクからオイルが抜かれた際に、ポンプ駆動時電流値計測手段2aのデータ記録手段に記憶された各計測データ、及び、電流初期値記憶手段1aに記録された電流初期値はリセットされるようになっている。
【0064】
図3は、本発明の他の実施形態に係るオイル劣化判定装置の概略ブロック図である。
【0065】
すなわち、図2の例では、電流初期値記憶手段1aにより電動式ポンプの駆動電流の電流初期値を記憶し、ポンプ駆動時電流値計測手段2aにより電動式ポンプの駆動電流の電流値を計測するようにしたが、図3の例ではこれらに代えて、回転数初期値記憶手段(初期値記憶手段)1bと、ポンプ駆動時回転数計測手段(ポンプ駆動時データ計測手段)2bを設けている。図3において、図2と同一構成をとる部分については同一符号を付している。
【0066】
回転数初期値記憶手段1bは、油量検知センサ53でオイルタンク42からオイルが抜かれ、再度オイルが入れられたことを検知した場合(オイル交換後)におけるエンジン駆動時に、電動式ポンプ41を一定電流で運転し、油温センサ50による油温が所定の温度である時の電動式ポンプ41の回転数を計測して回転数初期値として記憶する。
【0067】
ポンプ駆動時回転数計測手段2bは、電動式ポンプ41を一定電流で運転し、油温センサ50による油温が回転数初期値の計測時と同じ温度である時の電動式ポンプ41の回転数をデータとして計測する。
【0068】
オイルは劣化すると粘度が低下し、循環供給させるために必要な電動式ポンプ41の回転数が増大するので、その回転数を測定することによりオイルの粘度の変化を検知しようとするものである。
【0069】
電動式ポンプ41の回転数の測定は、エンジン駆動時に電動式ポンプ41の駆動電流値が一定電流値であり、且つ、油温センサ50で検知された油温が一定の温度である時に計測することで、電動式ポンプ41の回転数初期値と駆動時の回転数の計測値に対して、オイル劣化以外の要因を排除して両回転数の変化にオイルの劣化を正確に反映させている。
【0070】
比較手段3では回転数初期値と駆動時の回転数とを比較し、比較手段4により比較した回転数の差が所定値以上である場合にオイルの粘性が低下したと判定するように構成されている。
【0071】
電動式ポンプ41の駆動時に駆動電流が一定電流であるかどうかについては、電動式ポンプ41に設置したデータ計測装置47に設けた電流検出装置により検知するようになっている。
【0072】
上記実施形態では、電動式ポンプ41がツインクラッチ制御用とエンジンへの循環供給用の電動式ポンプを兼用するように構成したが、それぞれ専用の電動式ポンプを個別に設ける構成でもよい。この場合、AMT制御ユニット60のオイル判定装置へ出力するデータを計測する回転数検出装置や電流検出装置であるデータ計測装置47は、エンジン循環供給用の電動式ポンプ側に設置する。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、エンジンオイルの劣化を検知するためにオイルと接触する特別なセンサを使用することなく、電動式ポンプの電流値や回転数を検出し初期値と比較することで、オイル状態を検知してオイルの劣化を判定できるので、オイルの物性を検出するセンサの設置を不要とし、構造の簡略化及びコスト軽減が図れるオイル劣化判定装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施形態に係るオイル劣化判定装置を兼用する変速機制御装置のシステム構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るオイル劣化判定装置の概略ブロック図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係るオイル劣化判定装置の概略ブロック図である。
【符号の説明】
【0075】
1a…電流初期値記憶手段(初期値記憶手段)、 1b…回転数初期値記憶手段(初期値記憶手段)、 2a…ポンプ駆動時電流値計測手段(ポンプ駆動時データ計測手段)、 2b…ポンプ駆動時回転数計測手段(ポンプ駆動時データ計測手段)、 3…比較手段、 4…判定手段、 5…警告装置、 7…オイル交換時期算出手段、 8…表示装置、 10…エンジン、 20…自動マニュアル変速機(AMT)、 21…変速ギヤ、 22…第1クラッチ、 23…第2クラッチ、 24…シフトドラム、 25…シフト制御モータ、 26…主軸、 27…カウンタ軸、 28…変速ギヤ出力軸、 29…シフトフォーク、 40…油圧装置、 55…バルブ、 41…電動式ポンプ、 47…データ計測装置、 50…油温センサ、 60…AMT制御ユニット、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにオイルを循環供給する電動式ポンプの計測データにより、前記エンジンに循環供給されるオイルの劣化を判定する装置であって、
前記電動式ポンプを一定回転数で運転した時の駆動電流の電流値を計測し電流初期値として記憶する初期値記憶手段と、
前記電流初期値の記憶時から所定時間経過後のエンジン駆動時に前記電動式ポンプを一定回転数で運転した時の駆動電流の電流値をデータとして計測するポンプ駆動時データ計測手段と、
前記電流初期値と前記所定時間経過後に計測した電流値とを比較する比較手段と、
前記比較手段により比較した電流値の差が所定値以上である場合に前記オイルの粘性が低下したと判定する判定手段とを具備したことを特徴とするオイル劣化判定装置。
【請求項2】
エンジンにオイルを循環供給する電動式ポンプの計測データにより、前記エンジンに循環供給されるオイルの劣化を判定する装置であって、
前記電動式ポンプを一定電流で運転した時の電動式ポンプの回転数を計測し回転数初期値として記憶する初期値記憶手段と、
前記回転数初期値の記憶時から所定時間経過後のエンジン駆動時に前記電動式ポンプを一定電流で運転した時の電動式ポンプの回転数をデータとして計測するポンプ駆動時データ計測手段と、
前記回転数初期値と前記所定時間経過後に計測した回転数とを比較する比較手段と、
前記比較手段により比較した回転数の差が所定値以上である場合に前記オイルの粘性が低下したと判定する判定手段とを具備したことを特徴とするオイル劣化判定装置。
【請求項3】
前記判定手段により前記オイルの粘性が低下したと判定した場合にオイルの粘性低下を示す表示および音の発生のうち少なくとも一方を行う警告手段を備えた請求項1又は請求項2に記載のオイル劣化判定装置。
【請求項4】
前記ポンプ駆動時データ計測手段によるデータの計測は、所望の一定間隔毎に行うよう構成した請求項1又は請求項2に記載のオイル劣化判定装置。
【請求項5】
前記ポンプ駆動時データ計測手段により一定間隔毎に計測された各データを記録するデータ記録手段と、
前記データ記録手段に記憶された各データからオイルの交換時期を算出するオイル交換時期算出手段とを具備する請求項4に記載のオイル劣化判定装置。
【請求項6】
前記電流初期値が、前記オイルの交換直後に計測し、記憶されるものであることを特徴とする請求項1記載のオイル劣化判定装置。
【請求項7】
前記回転数初期値が、前記オイルの交換直後に計測し、記憶されるものであることを特徴とする請求項2記載のオイル劣化判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−203916(P2009−203916A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47761(P2008−47761)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】