説明

オーディオ装置の過電流保護回路

【課題】 比較的に簡単かつ安価な構成でありながらも、確実な過電流保護を実現することができ、しかも当該過電流保護状態においてもスピーカから音声情報を出力するというオーディオ装置本来の機能を維持することができる過電流保護回路を提供する。
【解決手段】 オーディオ装置10のいずれかの部分に短絡等の異常が生じ、その部分に過電流が発生したり、スピーカ等の負荷が過負荷になったりすると、スイッチングトランス30の1次巻線30aに流れる電流Ibが増大する。この電流Ibの増大は、カレントトランス34によって検出され、その検出結果に基づいて、過電流判定回路36が、過電流の発生を認識する。そして、過電流判定回路36は、リミッタ回路14の動作を有効化する。これによって、パワーアンプ回路16に入力されるオーディオ信号Saの振幅が制限され、当該パワーアンプ回路16の電力消費量が減って、過電流保護状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオ装置の過電流保護回路に関し、特に、オーディオ信号を増幅してスピーカが接続される出力端子から出力させる増幅回路を備えたオーディオ装置において、当該増幅回路を過電流から保護する、オーディオ装置の過電流保護回路に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の過電流保護回路として、従来、例えば特許文献1に開示されたデジタルアンプ(D級増幅回路)用のものがある。この従来技術によれば、オーディオ信号を入力する入力手段と、この入力手段から入力されたオーディオ信号のボリウムを調整するボリウム調整手段と、ローパスフィルタが備えるインダクタに流れる電流値を検出する検出手段と、が設けられている。そして、入力手段から入力されたオーディオ信号の信号レベルと、ボリウム調整手段によって調整されたボリウムと、検出手段によって検出された電流値と、に基づいて、判別手段が、過電流の発生の有無を判別し、当該過電流が発生したと判別されると、保護手段が、デジタルアンプを保護する。具体的には、デジタルアンプのMOS(Metal-Oxide Semiconductor)−FET(Field Effect Transistor)をスイッチングさせるための駆動回路へのPWM(Pulse
Width Modulation)信号の入力を遮断したり、ローパスフィルタの出力側に設けられた出力リレーを開くことによってスピーカへのオーディオ信号の出力を遮断したり、或いは電源回路の電源出力を遮断したりする。
【0003】
【特許文献1】特開2006−94148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の従来技術では、過電流が発生したときに、スピーカから音声情報が全く出力されなくなる、つまりオーディオ装置本来の機能が完全に停止してしまう、という問題がある。この問題は、例えば多数の人間に音声情報を伝達するいわゆるパブリックアドレス(Public Address;以下、PAと言う。)システム用途において、致命的である。また、上述の如く、判別手段は、入力手段から入力されたオーディオ信号の信号レベル、ボリウム調整手段によって調整されたボリウム、および検出手段によって検出された電流値、という複数の事象に基づいて、過電流の発生の有無を判別するため、その構成が複雑になる。現に従来技術では、判別手段の具体例としてマイコン(マイクロコンピュータ)が開示されており、つまりハードウェアのみならずソフトウェア(プログラム)をも必要とする複雑かつ高価な構成とされている。さらに、この判別手段が拠りどころとする複数の事象は、いずれもオーディオ信号に関係するものばかりであり、よって、当該オーディオ信号に関係しない部分に起因して過電流が発生した場合には、これを適確に検出することができず、ひいてはデジタルアンプを保護することができない、つまり確実な過電流保護を実現することができない、という問題もある。
【0005】
そこで、本発明は、従来よりも簡単かつ安価な構成でありながら、確実な過電流保護を実現することができ、しかも当該過電流保護状態においてもスピーカから音声情報を出力するというオーディオ装置本来の機能を維持することができる過電流保護回路を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、本発明の過電流保護回路は、オーディオ信号を電力増幅してスピーカが接続される出力端子から出力させる増幅回路を備えたオーディオ装置において、当該オーディオ装置を駆動させるための電源電力を生成するスイッチング電源回路を具備することを、前提とする。そして、この前提の下、当該スイッチング電源回路のスイッチングトランスの1次巻線に流れる電流を検出する電流検出手段と、この電流検出手段による検出結果に基づいてスイッチングトランスの1次巻線に過電流が流れているか否かを判定する過電流判定手段と、この過電流判定手段によって過電流が流れていると判定されたとき増幅回路に入力されるオーディオ信号の信号レベルを制限するレベル制限手段と、をさらに具備することを特徴とするものである。
【0007】
即ち、本発明では、オーディオ信号が増幅回路に入力される。そして、この増幅回路によって電力増幅されたオーディオ信号は、出力端子を介して、スピーカに入力される。これにより、スピーカからオーディオ信号に従う音声情報が出力される。なお、増幅回路を含むオーディオ装置を駆動させるための電源電力は、スイッチング電源回路によって生成される。ここで、今、オーディオ装置のいずれかの部分に短絡等の異常が生じることによって、その部分に過電流が流れる、とする。すると、当然に、スイッチング電源回路にとっては過負荷状態となるので、当該スイッチング電源回路のスイッチングトランスの1次巻線にも過電流が流れる。このスイッチングトランスの1次巻線に流れる電流は、電流検出手段によって検出される。そして、この電流検出手段による検出結果に基づいて、過電流判定手段が、当該1次巻線に過電流が流れているか否かを判定する。つまり、過電流判定手段は、電流検出手段による検出結果(スイッチングトランスの1次巻線に流れる電流)という1つの事象のみを拠りどころとして、オーディオ装置全体にわたって過電流の発生の有無を判定する。そして、この過電流判定手段によって過電流が発生したと判定されると、レベル制限手段が、増幅回路に入力されるオーディオ信号の信号レベルを制限し、詳しくはゼロよりも大きい所定レベルにまで制限する。これによって、増幅回路の電力消費量が減り、過電流が抑制されて、過電流保護状態となる。ただし、過電流保護状態となっても、増幅回路にはレベル制限されたオーディオ信号が入力され続けるので、スピーカの出力音量は小さくなるものの、スピーカから音声情報を出力するというオーディオ装置本来の機能は維持される。
【0008】
なお、本発明において、レベル制限手段は、オーディオ信号の信号レベルを徐々に制限するものであってもよい。具体的には、数秒程度の時間を掛けて連続的または段階的に当該信号レベルを制限するものであってもよい。このようにすれば、スピーカの出力音量も徐々に小さくなるので、非保護状態から過電流保護状態に切り替わったときに、当該スピーカの出力音量が小さくなることによって聴取者に与える違和感(不快感)を緩和することができる。
【0009】
また、本発明におけるスイッチングトランスは、複数の2次巻線を有するもの、換言すれば複数の出力系統を有するもの、であってもよい。このように複数の出力系統が存在する場合であっても、いずれかの出力系統に過電流が発生したときには、これを適確に捉えることができ、ひいては確実な過電流保護を実現することができる。
【0010】
さらに、本発明では、レベル制限手段によってオーディオ信号の信号レベルが制限されてもなお過電流が流れ続けるとき、スイッチング電源回路の動作を停止させる停止手段を、備えてもよい。このようにすれば、当該過電流が流れ続けることによるスイッチング電源回路(詳しくはスイッチングトランスの1次側回路)の故障を確実に防止することができる。なお、ここで言うスイッチング電源回路の動作を停止させるとは、例えば当該スイッチング電源回路を構成するスイッチング素子のスイッチング動作を停止させることを言う。また、スイッチング電源回路の動作を停止させる前に、増幅回路へのオーディオ信号の入力を完全に遮断(ミュート)してもよい。
【0011】
本発明は、特にPAシステム用途に有効である。即ち、PAシステム用途において、多数の人間に音声情報が伝達されている最中に過電流が生じたとしても、その音声情報を最後まで伝達する、という当該PAシステムとしての役割を成就させることができる。
【発明の効果】
【0012】
上述したように、本発明は、過電流判定手段を具備しており、この過電流判定手段は、電流検出手段による検出結果という1つの事象のみを拠りどころとして、オーディオ装置全体にわたって過電流の発生の有無を判定する。従って、複数の事象を拠りどころとして過電流の発生の有無を判別する上述の従来技術に比べて、本発明によれば、当該過電流判定手段を含む過電流保護回路全体を簡単かつ安価に構成することができる。また、従来技術では、オーディオ信号に関係しない部分に起因して発生した過電流についてはこれを適確に検出することができないが、本発明によれば、オーディオ装置のいずれの部分に起因するのかに拘らず全ての過電流を適確に捉えることができ、ひいては確実な過電流保護を実現することができる。さらに、従来技術では、過電流保護状態になるとスピーカから音声情報が全く出力されなくなるが、本発明によれば、過電流保護状態となってもスピーカから音声情報が出力され続ける。つまり、本発明によれば、従来よりも簡単かつ安価な構成でありながら、確実な過電流保護を実現することができ、しかも過電流保護状態においてもスピーカから音声情報を出力するというオーディオ装置本来の機能を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の一実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係るオーディオ装置10は、図示しない音源からオーディオ信号Saが入力される入力増幅回路としてのバッファアンプ回路12を備えている。そして、このバッファアンプ回路12による増幅後のオーディオ信号Saは、制限手段としてのリミッタ回路14を介して、出力増幅回路としてのパワーアンプ回路16に入力される。パワーアンプ回路16は、リミッタ回路14経由で入力されたオーディオ信号Saを電力増幅して、出力端子18から出力させる。従って、出力端子18に図示しないスピーカが接続されることによって、当該スピーカからオーディオ信号Saに従う音声情報が出力される。なお、パワーアンプ回路16は、D級増幅回路であってもよいし、A級やB級等の他形式の増幅回路であってもよい。また、スピーカは、直接、出力端子18に接続されてもよいし、図示しないスピーカラインを介して、当該出力端子18に接続されてもよい。
【0015】
これらのバッファアンプ回路12,リミッタ回路14およびパワーアンプ回路16を含む負荷回路は、スイッチング電源回路20から直流の電源電力が供給されることによって駆動する。
【0016】
具体的には、スイッチング電源回路20は、電源プラグ22から入力される商用交流電力を全波整流するダイオードブリッジ回路24を有している。このダイオードブリッジ回路24によって全波整流された電力は、平滑回路26によって平滑された後、高周波スイッチング回路28に入力される。高周波スイッチング回路28は、2つのスイッチング素子、例えばNチャネル型のMOS−FET(以下、単にFETと言う。)28aおよび28b、を有しており、これらのFET28aおよび28bが図示しないスイッチング制御回路から与えられるスイッチング制御信号に従ってそれぞれスイッチング動作することで、平滑回路26による平滑後の直流電力を高周波電力に変換する。そして、この高周波電力は、スイッチングトランス30の1次巻線30aに入力される。
【0017】
なお、平滑回路26は、2つのコンデンサ26aおよび26bを有しており、このうちの一方のコンデンサ26aは、ダイオードブリッジ回路24の一方の出力端子と当該ダイオードブリッジ回路24の共通端子との間に接続されている。そして、他方のコンデンサ26bは、ダイオードブリッジ回路24の他方の出力端子と当該共通端子との間に接続されている。さらに、高周波スイッチング回路28を構成する一方のFET28aのソース端子と、当該高周波スイッチング回路28を構成する他方のFET28bのドレイン端子とが、互いに接続されている。そして、一方のFET28aのドレイン端子は、ダイオードブリッジ回路24の一方の出力端子に接続されており、他方のFET28bのソース端子は、当該ダイオードブリッジ回路24の他方の出力端子に接続されている。また、スイッチングトランス30の1次巻線30aは、後述するカレントトランス34の1次巻線34aと共に、FET28aのソース端子およびFET28bのドレイン端子間の接続点と、ダイオードブリッジ回路24の共通端子と、の間に、直列に接続されている。
【0018】
スイッチングトランス30は、N(N;複数)個の2次巻線30b,30b,…を有しており、これらの2次巻線30b,30b,…には、それぞれの巻数(厳密には1次巻線30aとの巻線比)に応じた電圧V1,V2,…,VNの変圧後高周波電力が発生する。そして、これらの変圧後高周波電力は、それぞれ図示しない直流化回路によって直流電力に再変換された後、上述のバッファアンプ回路12,リミッタ回路14およびパワーアンプ回路16を含む負荷回路に適宜供給される。
【0019】
ところで、本実施形態に係るオーディオ装置10は、自身のいずれかの部分に短絡等の異常が生じることによって過電流が流れたとき、これを適確に検出して、当該過電流から自身を保護する、特にパワーアンプ回路16を保護する、という過電流保護機能を、備えている。そして、この過電流保護機能を実現するべく、上述したカレントトランス34が設けられている。
【0020】
即ち、カレントトランス34は、スイッチングトランス30の1次巻線30aに流れる電流Iaを検出するための電流検出手段であり、それゆえに、上述の如く当該スイッチングトランス30の1次巻線30aにこのカレントトランス34の1次巻線34aが直列に接続されている。そして、カレントトランス34の2次巻線34bには、電流Iaに応じた大きさの電流Ibが誘起され、この2次巻線34bに誘起された電流Ibは、過電流判定手段としての過電流判定回路36に入力される。
【0021】
ここで、今、オーディオ装置10のいずれかの部分に異常が生じることによって、その部分に過電流が流れる、とする。すると、当然に、スイッチング電源回路20にとっては過負荷状態となるので、スイッチングトランス30の1次巻線30aおよびカレントトランス34の1次巻線34aに流れる電流Iaが増大する。そして、この電流Iaの増大に伴い、カレントトランス34の2次巻線34bに誘起される電流Ibも増大する。過電流判定回路36は、この電流Ibが或る閾値以上に増大したことをもって、オーディオ装置10のいずれかの部分に過電流が発生したと判定する。そして、リミッタ回路14の動作を有効化するべく、リミッタ制御信号Scを生成する。
【0022】
リミッタ回路14は、その動作が有効化されることで、自身に入力されるオーディオ信号Saの振幅Vppを、例えば図2に破線αで示すような振幅Vpp’に制限し、この振幅制限後のオーディオ信号Saをパワーアンプ回路16に入力する。この結果、パワーアンプ回路16の電力消費量が減り、当該パワーアンプ回路16が過電流から保護される。なお、この過電流保護状態になっても、パワーアンプ回路16には振幅制限されたオーディオ信号Saが入力され続けるので、スピーカの出力音量は小さくなるものの、スピーカから音声情報を出力するというオーディオ装置10本来の機能は維持される。
【0023】
図3を参照して、過電流判定回路36の詳細を説明する。同図に示すように、この過電流保護回路36は、カレントトランス34の2次巻線34bに並列に接続されたコンデンサ50と抵抗器52とを有している。このうちのコンデンサ50は、カレントトランス34の2次巻線34bに誘起される電流Ibに含まれるノイズ(ヒゲノイズ)を除去するためのものであり、その容量は、例えば数[pF]〜数百[pF]程度と比較的に小さい。一方、抵抗器52は、カレントトランス34の2次巻線34bの両端間に適当な大きさの電圧を発生させるための言わば安定化抵抗である。
【0024】
カレントトランス34の2次巻線34bの両端間に発生した電圧は、抵抗器54とダイオード56とから成る半波整流回路(厳密にはクリップ回路)58に入力される。このため、カレントトランス34の2次巻線34bの一端は、抵抗器54の一端に接続されており、当該抵抗器54の他端は、ダイオード56のカソード端子に接続されている。そして、カレントトランス34の2次巻線34bの他端は、ダイオード56のアノード端子に接続されている。
【0025】
半波整流回路58によって半波整流された電圧は、フォトカプラ60内の発光ダイオード62に順方向で印加される。このため、上述のダイオード56のカソード端子に、発光ダイオード62のアノード端子が接続されており、当該ダイオード56のアノード端子に、発光ダイオード62のカソード端子が接続されている。
【0026】
一方、フォトカプラ60内のフォトトランジスタ64のコレクタ端子は、電流制御用の抵抗器66を介して、プラスの安定化電源ライン、例えば+5[V]ライン、に接続されている。なお、この+5[V]ラインに供給される+5[V]の電源電力は、上述したスイッチングトランス30のいずれかの2次巻線30aに接続された直流化回路によって生成される。
【0027】
フォトトランジスタ64のコレクタ端子は、さらに別の抵抗器68を介して、PNP型トランジスタ70のベース端子にも接続されている。そして、このフォトトランジスタ64のエミッタ端子は、基準電位としての接地電位に接続されている。
【0028】
トランジスタ70は、そのベース端子に接続された上述の抵抗器(いわゆるベース抵抗器)68と共に、スイッチング回路72を構成する。具体的には、当該トランジスタ70のエミッタ端子は、+5[V]ラインに接続されている。そして、コレクタ端子は、別の抵抗器74を介して、接地電位に接続されている。また、当該コレクタ端子は、さらに別の抵抗器76を介して、オペアンプ78のマイナス入力端子に接続されている。
【0029】
オペアンプ78は、上述の抵抗器76と共に、積分回路80を構成する。このため、オペアンプ78のマイナス入力端子は、帰還抵抗器82を介して、当該オペアンプ78の出力端子に接続されている。また、帰還抵抗器82に対して並列に、比較的に容量の大きい、例えば数[μF]〜数百[μF]程度の、コンデンサ84が接続されている。そして、オペアンプ78のプラス入力端子は、接地電位に接続されている。そして、このオペアンプ78(積分回路80)の出力信号が、上述したリミッタ制御信号Scとして、リミッタ回路14に与えられる。
【0030】
このように構成された過電流判定回路36によれば、過電流が発生して、カレントトランス34の2次巻線34bに流れる電流Ibが上述した或る閾値以上に増大すると、フォトカプラ60内の発光ダイオード62が十分な光度で発光して、当該フォトカプラ60内のフォトトランジスタ64がオンする。なお、厳密に言うと、発光ダイオード62は、半波整流回路58による半波整流後の電圧に応じて間欠的(高周波的)に発光するので、フォトトランジスタ64もまた間欠的にオンする(高周波数でオン/オフを繰り返す)。ただし、次に説明するように、フォトトランジスタ64の後段には時定数の大きい積分回路80が設けられているので、当該フォトトランジスタ64を含むフォトカプラ60としては、それほど応答性の良いもの、言い換えれば高性能または高価なもの、を採用する必要はない。
【0031】
上述の如くフォトトランジスタ64がオンすると、スイッチング回路72を構成するトランジスタ70もまたオンする。これにより、当該スイッチング回路72の出力信号(トランジスタ70のコレクタ端子の電位)が、接地電位と略同じ“L(ロー)”レベルから概ね+5[V]の“H(ハイ)”レベルに変化し、このレベル変化した信号が、積分回路80に入力される。そして、この積分回路80の入力信号の変化に伴い、当該積分回路80の出力信号が、抵抗器76の抵抗値とコンデンサ84の容量とで決まる時定数に従う時間を掛けて、高電位から低電位に変化する。この高電位および低電位は、抵抗器76および82の各抵抗値の比率と、オペアンプ78の電源電圧と、によって決まる。そして、この積分回路80の出力信号が、上述の如くリミッタ制御信号Scとして、リミッタ回路14に与えられる。
【0032】
従って、リミッタ回路14は、リミッタ制御信号Scの電位が高いときには、バッファアンプ回路12から入力されるオーディオ信号Saの振幅Vppを制限することなく、そのまま出力する。そして、当該リミッタ制御信号Scの電位が低くなると、その動作が有効化され、オーディオ信号Saの振幅Vppを上述した振幅Vpp’まで制限して、出力する。このとき、オーディオ信号Saの振幅Vppが当該Vpp’にまで制限されるのに、上述の積分回路80の時定数に応じた時間だけ掛かる。よって、これに伴い、スピーカの出力音量もまた、徐々に小さくなる。
【0033】
以上のように、本実施形態によれば、スイッチングトランス30の1次巻線30aに流れる電流Iaという1つの事象を拠りどころとしつつ、オーディオ装置10全体にわたって過電流の発生の有無を把握することができる。従って、複数の事象を拠りどころとして過電流の発生の有無を判別する上述の従来技術に比べて、当該過電流の把握を担う過電流判定回路36を簡単かつ安価に構成することができる。
【0034】
また、従来技術では、オーディオ信号に関係しない部分に起因して発生した過電流についてはこれを確実に検出することができないが、本実施形態によれば、オーディオ装置10のいずれの部分に起因するのかに拘らず全ての過電流を適確に捉えることがきる。例えば、スイッチングトランス30の各2次巻線30b,30b,…に繋がるいずれの出力系統において過電流が生じた場合でも、これを適確に捉えることができる。よって、従来よりも確実な過電流保護を実現することができる。
【0035】
さらに、従来技術では、過電流保護状態になるとスピーカから音声情報が全く出力されなくなるが、本実施形態によれば、過電流保護状態となってもスピーカから音声情報が出力され続ける。つまり、オーディオ装置10本来の機能を維持することができる。これは、オーディオ装置10がPAシステム用である場合に、特に有益である。
【0036】
また、非保護状態から過電流保護状態に切り替わったときに、スピーカの出力音量は小さくなるが、その際、当該出力音量は徐々に小さくなる。従って、この切り替わり時に、スピーカの出力音量が小さくなることによって聴取者が受ける違和感が緩和される。
【0037】
なお、本実施形態で説明した内容は、飽くまでも本発明の一具体例であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0038】
例えば、リミッタ回路14に代えて、VCAVoltage Controlled
Amplifier)回路を採用してもよい。この場合、オーディオ信号Saは、図4に点線βで示すように、相似的に振幅制限されるので、リミッタ回路14を採用する場合に比べて、スピーカの出力音の再現性がよい。
【0039】
また、電流検出手段としてカレントトランス34を採用したが、これに限らない。例えば、スイッチングトランス30の1次巻線30aと直列に抵抗器を設け、この抵抗器による電圧降下を検出することで、当該1次巻線30aに流れる電流Iaを検出してもよい。勿論、これ以外の構成により電流検出手段を実現してもよい。ただし、無駄な電力損失を抑えるという観点では、本実施形態のようにカレントトランス34を採用した方が有益である。
【0040】
さらに、上述の如くパワーアンプ回路16に入力されるオーディオ信号Saの振幅Vppが制限されても、なお過電流が流れ続ける場合には、スイッチング電源回路20(詳しくはスイッチングトランス30の1次側回路)の破壊を招く恐れがあるので、これを防止するべく、例えば図5に示すような非常停止回路100を設けてもよい。
【0041】
即ち、非常停止回路100は、カレントトランス102と異常検出回路104とを備えている。カレントトランス102は、上述したカレントトランス34と同様、スイッチングトランス30の1次巻線30aに流れる電流Iaを検出するためのものであり、それゆえに、当該カレントトランス102の1次巻線102aは、カレントトランス34の1次巻線34aおよびスイッチングトランス30の1次巻線30aと直列に接続されている。そして、このカレントトランス102の2次巻線102bは、異常検出回路104に接続されており、つまり、当該カレントトランス102の2次巻線102bに誘起された電流Icは、異常検出回路104に入力される。
【0042】
異常検出回路104には、過電流判定回路36からリミッタ制御信号Saも入力されている。異常検出回路104は、このリミッタ制御信号Saからリミッタ回路14が有効化されているな否かを判断すると共に、上述の電流Icからスイッチングトランス30の1次巻線30aに過電流が流れているか否かを判断する。そして、リミッタ回路14が有効化されているにも拘らず一定期間(例えば1秒間〜2秒間程度)にわたって過電流が流れていると判断すると、スイッチング電源回路20を含むオーディオ装置10全体が自然復帰不可能な異常状態にあると見なして、非常停止信号Seを生成する。この非常停止信号Seは、上述したスイッチング制御回路に供給される。
【0043】
スイッチング制御回路は、非常停止信号Seの供給を受けて、FET28aおよび28bのスイッチング動作を停止させる。これによって、スイッチング電源回路20の動作が停止されて、当該スイッチング電源回路20を含むオーディオ装置10全体が確実に保護される。つまり、本実施形態における過電流保護機能に加えてこの非常停止回路100を設けることで、より安全性を高めることができる。
【0044】
なお、図5の構成では、リミッタ回路14が有効化された後に過電流が流れているか否かを検出するために別のカレントトランス102を設けたが、元からあるカレントトランス34の検出結果を利用してもよい。また、FET28aおよび28bのスイッチング動作を停止させるのとは別の方法、例えばスイッチングトランス30の1次巻線30a側の線路を開放することによって、スイッチング電源回路20の動作を停止させてもよい。さらに、スイッチング電源回路20の動作を停止させる前に、パワーアンプ回路16へのオーディオ信号Saを入力を完全に遮断してもよい。
【0045】
そして、図1に示したスイッチング電源回路20の構成や、図2に示した過電流判定回路36の構成についても、これらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態の概略構成を示す図である。
【図2】図1におけるリミッタ回路の動作を説明するための図解図である。
【図3】図1における過電流判定回路の具体的な構成を示す電気回路図である。
【図4】図1におけるリミッタ回路に代えてVCA回路が採用された場合の当該VCA回路の動作を示す図解図である。
【図5】図1に非常停止回路を付加した図である。
【符号の説明】
【0047】
10 オーディオ装置
14 リミッタ回路
16 パワーアンプ回路
18 出力端子
20 スイッチング電源回路
30 スイッチングトランス
30a 1次巻線
34 カレントトランス
36 過電流判定回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーディオ信号を電力増幅してスピーカが接続される出力端子から出力させる増幅回路を備えたオーディオ装置において、
上記オーディオ装置を駆動させるための電源電力を生成するスイッチング電源回路と、
上記スイッチング電源回路のスイッチングトランスの1次巻線に流れる電流を検出する電流検出手段と、
上記電流検出手段による検出結果に基づいて上記1次巻線に過電流が流れているか否かを判定する過電流判定手段と、
上記過電流判定手段によって上記過電流が流れていると判定されたとき上記増幅回路に入力される上記オーディオ信号の信号レベルを制限するレベル制限手段と、
を具備することを特徴とする、オーディオ装置の過電流保護回路。
【請求項2】
上記レベル制限手段は上記オーディオ信号の信号レベルを徐々に制限する、請求項1に記載のオーディオ装置の過電流保護回路。
【請求項3】
上記スイッチングトランスは複数の2次巻線を有する、請求項1または2に記載のオーディオ装置の過電流保護回路。
【請求項4】
上記レベル制限手段によって上記オーディオ信号の信号レベルが制限されてもなお上記過電流検出手段によって上記過電流が流れていると判定されたとき上記スイッチング電源回路の動作を停止させる停止手段をさらに備える、請求項1ないし3のいずれかに記載のオーディオ装置の過電流保護回路。
【請求項5】
上記オーディオ装置はパブリックアドレスシステム用である、請求項1ないし4のいずれかに記載のオーディオ装置の過電流保護回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−244554(P2008−244554A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78596(P2007−78596)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000223182)ティーオーエー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】