説明

カーボンナノチューブカソードの製造方法およびカーボンナノチューブカソード

【課題】CVD法により、より細くかつ均一の膜厚のカーボンナノチューブからなる膜を基板上に形成できるようにする。
【解決手段】基板101上にアルミナからなる第1の層102を形成し、この第1の層102上に触媒金属からなる第2の層103を形成する。これにより、より細くかつ均一の膜厚のカーボンナノチューブからなる層が基板上に形成される。これは、第1の層102に形成される凹凸や空隙に、触媒金属が微細な状態で保持されるためと考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的気相成長法により基板の表面に直径の小さな複数のカーボンナノチューブを形成するカーボンナノチューブカソードの製造方法およびカーボンナノチューブカソードに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、完全にグラファイト化した直径4〜50nm程度で長さ1〜10μm程度の筒状をなしている。このカーボンナノチューブは、グラファイトの単層(グラフェン)が円筒状に閉じた形状と、複数のグラフェンが入れ子構造的に積層し、それぞれのグラフェンが円筒状に閉じた同軸多層構造となっている形状とがある。これら円筒状のグラフェンの中心部分は、空洞となっている。また、先端部は、閉じているものや、折れるなどにより開放しているものもある。
【0003】
このような独特の形状を持つカーボンナノチューブは、特有の電子物性を利用して新規な電子材料やナノテクノロジーへの応用が考えられている。例えば、電子放出のエミッタとして用いることが可能である。固体表面に強い電場をかけると、固体内に電子を閉じこめている表面のポテンシャル障壁が低くなりまた薄くなる。この結果、閉じこめられていた電子が、トンネル効果により固体の外部に放出されるようになる。これらの現象が、電界放出といわれている。
【0004】
この電界放出を観測するためには、107 V/cmもの強い電界を固体表面にかけなければならないが、これを実現するための一手法として先端を鋭く尖らせた金属針を用いることがなされている。このような針を用いて電界をかければ、尖った先端に電界が集中し、必要とされる高電界が得られる。
【0005】
前述したカーボンナノチューブは、先端の曲率半径がnmオーダと非常に鋭利であり、しかも化学的に安定で機械的にも強靱であるなど、電界放出のエミッタ材料として適した物理的性質を有している。
【0006】
例えば、上述したような特徴を有するカーボンナノチューブを大きな面積の基板上に形成することによって、FED(Field Emission Display)などの電子放出源に用いることができる。
【0007】
カーボンナノチューブの製造方法としては、ヘリウムガス中で2本の炭素電極を1〜2mm程度離した状態で直流アーク放電を起こすことで行う電気放電法や、レーザ蒸着法などがある。
【0008】
ところが、これらの製造方法では、カーボンナノチューブの直径や長さを調整しにくく、また、目的とするカーボンナノチューブの収率があまり高くできないという問題があった。また、カーボンナノチューブ以外の多量の非晶質状態の炭素生成物が同時に生成されるため、精製工程を必要とするなど、製造に手間がかかるという問題がある。
【0009】
これらを解消するため、金属基板を用意し、この基板を加熱した状態で基板表面にカーボンソースガスを供給し、基板よりカーボンナノチューブを大量に成長させる方法が提案されている(特許文献1,2参照。)。このような熱化学気相成長(CVD)法によるカーボンナノチューブの製造方法は、金属基板の種類や成長させる時間などにより、形成されるカーボンナノチューブの長さや直径を制御可能としている。
【0010】
なお、出願人は、本明細書に記載した先行技術文献情報で特定される先行技術文献以外には、本発明に関連する先行技術文献を出願時までに発見するには至らなかった。
【特許文献1】特願2000−037672号公報
【特許文献2】特願2003−195325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、カーボンナノチューブを電子放出源として用いる場合、より細いカーボンナノチューブから構成され、膜厚が均一なカーボンナノチューブの膜を用いることで、より低い電圧で安定して電子を放出させることができる。例えば、FEDの電子放出源としてカーボンナノチューブを用いる場合、より細いものを用いることで、低電圧駆動が可能となり、消費電力の省力化の点で好ましい。さらに、膜厚が均一に形成されたカーボンナノチューブの膜を用いることで、局所的な電界集中を防ぐことが可能となり、電界放出の安定化の点で望ましい。
【0012】
従来の熱化学気相成長法によるカーボンナノチューブの製造では、上述したように、金属基板上から直接カーボンナノチューブを生成しており、金属基板中の金属が触媒となってカーボンナノチューブが生成される。このため、カーボンナノチューブの直径は生成温度に依存し、温度が高くなるほど細くなる。例えば、650℃では40nm程度であるが、900℃では10〜20nm程度となる。しかしながら、このように金属基板から直接カーボンナノチューブを生成する方法では、直径10nm以下のカーボンナノチューブを殆ど生成することができなかった。
【0013】
そこで、本発明は上述したような課題を解決するためになされたものであり、より細いカーボンナノチューブから構成され、膜厚が均一なカーボンナノチューブの層を基板上に形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述したような課題を解決するために本発明にかかるカーボンナノチューブカソードの製造方法は、導体からなる基板上にアルミナからなる第1の層を形成する第1のステップと、第1の層の上に触媒金属からなる第2の層を形成する第2のステップと、第1の層および第2の層が形成された基板を配置した反応炉中にカーボンソースガスを導入し、化学的気相成長法により複数のカーボンナノチューブを基板上に成長させる第3のステップとを備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる他のカーボンナノチューブカソードの製造方法は、導体からなる基板上にアルミナからなる第1の層を形成する第1のステップと、第1の層上にモリブデン、タングステン、タンタルおよびクロムの何れかからなる第2の層を形成する第2のステップと、第2の層の上に触媒金属からなる第3の層を形成する第3のステップと、第1〜3の層が形成された基板を配置した反応炉中にカーボンソースガスを導入し、化学的気相成長法により複数のカーボンナノチューブを基板上に成長させる第4のステップとを備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる他のカーボンナノチューブカソードの製造方法は、導体からなる基板上にアルミナからなる第1の層を形成する第1のステップと、前記第1の層の上に触媒金属からなる第2の層を形成する第2のステップと、前記第2の層上にモリブデン、タングステン、タンタルおよびクロムの何れかからなる第3の層を形成する第3のステップと、前記第1〜3の層が形成された前記基板を配置した反応炉中にカーボンソースガスを導入し、化学的気相成長法により複数のカーボンナノチューブを前記基板上に成長させる第4のステップとを備えたことを特徴とする。
【0017】
上記カーボンナノチューブカソードの製造方法において、触媒金属は、鉄、ニッケル、コバルトまたはこれらの合金のいずれかであるようにしてもよい。
【0018】
また、本発明にかかるカーボンナノチューブカソードは、導体からなる基板と、この基板上に形成されたアルミナからなる第1の層と、この第1の層上に形成された触媒金属からなる第2の層と、触媒金属から成長したカーボンナノチューブとを有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかる他のカーボンナノチューブカソードは、導体からなる基板と、この基板上に形成されたアルミナからなる第1の層と、この第1の層上に形成されたモリブデン、タングステン、タンタルおよびクロムの何れかからなる第2の層と、この第2の層上に形成された触媒金属からなる第3の層と、触媒金属から成長したカーボンナノチューブとを有することを特徴とする。
【0020】
また、本発明にかかる他のカーボンナノチューブカソードは、導体からなる基板と、この基板上に形成されたアルミナからなる第1の層と、この第1の層上に形成された触媒金属からなる第2の層と、この第2の層上に形成されたモリブデン、タングステン、タンタルおよびクロムの何れかからなる第3の層と、前記触媒金属から成長したカーボンナノチューブとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アルミナからなる第1の層を基板上に形成することにより、より細いカーボンナノチューブから構成され、膜厚が均一なカーボンナノチューブの層を基板上に形成することが可能となる。これは、第1の層に凹凸や空隙が形成されるので、触媒金属が微細な状態で第1の層に保持されるためと考えられる。
【0022】
また、本発明によれば、アルミナからなる第1の層上にモリブデン、タングステン、タンタルおよびクロムの何れかからなる第2の層を形成することにより、より細いカーボンナノチューブから構成され、膜厚が均一なカーボンナノチューブの膜を密度が低下した均一な状態で基板上に形成することが可能となる。これは、第1の層および第2の層により間隔が広くかつ微細化された凹凸や空隙が形成され、触媒金属が微細な状態で第1の層および第2の層に保持されるとともに、隣接する触媒金属の間隔が広くなるためと考えられる。
【0023】
さらに、本発明によれば、アルミナからなる第1の層上に触媒金属からなる第2の層を形成し、この第2の層上にモリブデン、タングステン、タンタルおよびクロムの何れかからなる第2の層を形成することによっても、より細いカーボンナノチューブから構成され、膜厚が均一なカーボンナノチューブの膜を密度が低下した均一な状態で基板上に形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[第1の実施の形態]
以下、図面を参照して、本発明の第1の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態におけるカーボンナノチューブカソードの製造方法を示す工程図である。
【0025】
まず、導電性を有する材料から構成された基板101を用意し、図1(a)に示すように、基板101の上にアルミナ(Al23)からなる第1の層102を形成する。この第1の層102の膜厚は、凹凸や空隙が形成される程度であればよく、1〜1000nm、望ましくは5〜100nmに形成する。このような第1の層102は、公知の蒸着法、スパッタ法、ディップコート法、スピンコート法などにより形成される。
【0026】
次いで、図1(b)に示すように、第1の層102の上に膜厚0.1〜10nm、望ましくは0.5〜5nmの第2の層103を形成する。第2の層103は、例えば、鉄、ニッケル、コバルトおよびこれらの合金などのカーボンナノチューブ生成の触媒となる金属材料から構成すればよい。このような第2の層103は、公知の蒸着法、スパッタ法、ディップコート法、スピンコート法などにより形成される。
【0027】
次いで、図1(c)に示すように、例えば石英管などから構成された反応炉104内に、第1の層102および第2の層103を形成した基板101を載置し、反応炉104の一方より原料ガスと水素ガス(キャリアガス)を流した状態で、ヒータ105により基板101を加熱する。原料ガスとしては、アセチレン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパンまたはメタンガスなどのC1〜C3の炭化水素ガスを用いればよく、流量は、20〜200sccm程度とすればよい。また、基板101の加熱温度は、700〜1000℃程度とすればよい。
【0028】
以上の化学的気相成長工程を10〜60分間行うことで、図1(d)に示すように、第1の層102上に形成された第2の層103上に、カーボンナノチューブ106が成長する。このとき、第2の層103を形成する触媒金属は、基板101が加熱されることにより溶融して、第1の層102の表面の凹凸や空隙に入り込むと考えられる。この第1の層102の凹凸や空隙の径は1〜10nm程度と微細であるため、触媒金属は、微細な状態で第1の層102に保持される。このような微細な触媒金属各々にカーボンナノチューブ106が成長する。
【0029】
前述したような化学的気相成長法により触媒金属上に成長するカーボンナノチューブの直径は、触媒金属の大きさにより制御される。上述した本実施の形態によれば、化学気相成長法によりカーボンナノチューブを成長させている期間に、第1の層102が備える凹凸や空隙により、第2の層103を構成する触媒金属粒が微細な状態で保持されると考えられる。この結果、本実施の形態では、直径4〜15nm程度のカーボンナノチューブから構成され、膜厚が均一なカーボンナノチューブの層が基板上に形成されるようになる。
【0030】
なお、本実施の形態では、上述したように第1の層102には多数の空隙が形成されており、この空隙を介して基板101と第2の層103を構成する触媒金属との導通がとられるものと思料する。これにより、カーボンナノチューブ106が形成された基板101はFED等の電子放出源として機能することができる。
【0031】
[第2の実施の形態]
次に、本実施の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、上述した第1の実施の形態をより具体的に示したものである。したがって、第1の実施の形態と同等の構成要素については、同じ名称および符号を付し、適宜説明を省略する。
【0032】
まず、本実施の形態では、426合金基板からなる基板101上に、蒸着法によりアルミナからなる厚さ10nmの第1の層102を形成し、この第1の層102上に蒸着法により鉄からなる厚さ3nmの第2の層103を形成した。
【0033】
次いで、第1の層102および第2の層103が形成された基板101を反応炉104内に載置し、水素ガスを1[l/min]を流した状態で基板101を900℃まで加熱した。900℃に達したところで、反応炉104内に一酸化炭素(CO)を0.25[l/min]で30分間流すことにより、第2の層103上に図2に示すようなカーボンナノチューブ106を成長させた。図2は、本実施の形態により生成したカーボンナノチューブの電子顕微鏡写真である。
【0034】
図2に示すように、本実施の形態によれば、直径5〜15nm程度のカーボンナノチューブが高密度に生成された均一な膜厚のカーボンナノチューブの膜が基板101上に形成された。
【0035】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図3は、本発明の第3の実施の形態におけるカーボンナノチューブカソードの製造方法を示す工程図である。なお、本実施の形態において、第1の実施の形態と同等の構成要素については同じ名称および符号を付し、適宜説明を省略する。
【0036】
本実施の形態は、図3(a)に示すように基板101上に第1の層102を形成後、図3(b)に示すように、第1の層102上にモリブデン、タングステン、タンタル、クロムなど触媒金属よりも高融点の材料からなる第3の層107を形成する。この第3の層の膜厚は、第1の層102の凹凸や空隙を全て埋め尽くさない程度であればよく、0.1〜10nm、望ましくは1〜5nmに形成する。このような第3の層107は、公知の蒸着法、スパッタ法、ディップコート法、スピンコート法などにより形成される。
【0037】
次いで、図3(c)に示すように、第3の層107上に第2の層103を形成し、図3(d)に示すように、第1の層102、第3の層107および第2の層103が形成された基板101を反応炉104内に載置し、反応炉104の一方より原料ガスと水素ガス(キャリアガス)を流した状態で、ヒータ105により基板101を加熱する。
【0038】
以上の化学的気相成長工程を10〜60分間行うことで、図3(e)に示すように、第3の層107上に形成された第2の層103上に、カーボンナノチューブ106が成長する。このとき、第2の層103を形成する触媒金属は、第1の層102および第3の層107の凹凸や空隙により微細な状態で保持されていると考えられる。この第3の層107は、凹凸や空隙が形成された第1の層102上に形成されており、第3の層107を構成する材料の粒子の一部が第1の層102の凹凸や空隙に入り込んだ状態となっていると考えられる。このため、本実施の形態において第1の層102および第3の層107に形成される凹凸や空隙は、第1,2の実施の形態の第1の層102に形成される凹凸や空隙と比較して、外形がより細分化されるとともに、隣接する凹凸や空隙の間隔が大きくなっているものと思料する。
【0039】
したがって、第2の層103を形成する触媒金属は、基板101が加熱されると、溶融してより細分化された第3の層107の凹凸や空隙に入り込む。このとき、高融点材料からなる第3の層107は、触媒金属を固定し、触媒金属が移動して凝集することを防ぐ。これにより、触媒金属は、より微細な状態で第1の層102および第3の層107に安定して保持される。結果として、より細いカーボンナノチューブ106が成長し、膜厚が均一なカーボンナノチューブ106の膜が基板101上に形成される。
【0040】
また、隣接する触媒金属の間隔が大きくなるため、基板101上に形成されるカーボンナノチューブ106の膜の密度は、第1の実施の形態の場合よりも低くなり、カーボンナノチューブ106の先端の数量が適度にばらけた状態となる。このような基板101をFEDの電子放出源として用いた場合、各カーボンナノチューブ106の先端に電界集中しやすくなるため、結果として駆動電圧を低くすることが可能となる。
【0041】
なお、本実施の形態では、上述したように第1の層102および第3の層107には多数の空隙が形成されており、この空隙を介して基板101と第2の層103を構成する触媒金属との導通がとられるものと思料する。これにより、カーボンナノチューブ106が形成された基板101はFED等の電子放出源として機能することができる。
【0042】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。本実施の形態は、上述した第3の実施の形態をより具体に示したものである。したがって、第3の実施の形態と同等の構成要素については、同じ名称および符号を付し、適宜説明を省略する。
【0043】
まず、本実施の形態では、426合金基板からなる基板101上に、アルミナからなる厚さ10nmの第1の層102を形成し、この第1の層102上にモリブデン(Mo)からなる厚さ5nmの第3の層107を形成した後、この第3の層107上に鉄からなる厚さ3nmの第2の層103を形成した。なお、第1の層102、第3の層107および第2の層103は、それぞれ蒸着法により形成した。
【0044】
次いで、第1の層102、第3の層107および第2の層103が形成された基板101を反応炉104内に載置し、水素ガスを1[l/min]を流した状態で基板101を800℃まで加熱した。800℃に達したところで、反応炉104内に一酸化炭素(CO)を0.25[l/min]で30分間流すことにより、第2の層103上に図4に示すようなカーボンナノチューブ106を成長させた。図4は、本実施の形態により生成したカーボンナノチューブを平面視した電子顕微鏡写真、図5は、本実施の形態により生成したカーボンナノチューブの断面の電子顕微鏡写真である。
【0045】
図4に示すように、本実施の形態によれば、直径10〜20nm程度のカーボンナノチューブから構成され、第1の実施の形態の場合よりも低密度に生成されたカーボンナノチューブの膜が基板101上に形成された。このカーボンナノチューブの膜は、図5からもよくわかるように、4〜5μm程度の均一の厚さを有し、第1の実施の形態よりも低密度に生成されている。この基板101をFEDの電子放出源として用いたところ、第1の実施の形態の場合よりも低電圧で駆動させることができた。
【0046】
[第5の実施の形態]
次に、本実施の形態の第5の実施の形態について説明する。本実施の形態は、上述した第3の実施の形態をより具体に示したものである。したがって、第3の実施の形態と同等の構成要素については、同じ名称および符号を付し、適宜説明を省略する。
【0047】
まず、本実施の形態では、426合金基板からなる基板101上に、アルミナからなる厚さ10nmの第1の層102を形成し、この第1の層102上にクロム(Cr)からなる厚さ5nmの第3の層107を形成した後、この第3の層107上に鉄からなる厚さ3nmの第2の層103を形成した。なお、第1の層102、第3の層107および第2の層103は、それぞれ蒸着法により形成した。
【0048】
次いで、第1の層102、第3の層107および第2の層103が形成された基板101を反応炉104内に載置し、水素ガスを1[l/min]を流した状態で基板101を900℃まで加熱した。900℃に達したところで、反応炉104内に一酸化炭素(CO)を0.25[l/min]で30分間流すことにより、第2の層103上に図5に示すようなカーボンナノチューブ106を成長させた。図6は、本実施の形態により生成したカーボンナノチューブの電子顕微鏡写真である。
【0049】
図6に示すように、本実施の形態によれば、上述した第2,4の実施の形態よりも細い(直径5〜10nm程度)カーボンナノチューブから構成され、膜厚が均一で、かつ、第1,2の実施の形態の場合よりも低密度に生成されたカーボンナノチューブの膜が基板101上に形成された。このカーボンナノチューブの膜の中には、直径6nm程度のDWNT(Double Wall carbon Nano Tube)も含まれていた。本実施の形態により生成した基板101をFEDの電子放出源として用いた場合も、第1,2の実施の形態の場合よりも低電圧で駆動させることができた。
【0050】
[第6の実施の形態]
次に、本発明の第6の実施の形態について説明する。図7は、本発明の第6の実施の形態におけるカーボンナノチューブカソードの製造方法を示す工程図である。なお、本実施の形態において、第1,3の実施の形態と同等の構成要素については同じ名称および符号を付し、適宜説明を省略する。
【0051】
本実施の形態は、図7(a)に示すように基板101上に第1の層102を形成後、図7(b)に示すように、第1の層102上に第2の層103を形成する。次いで、図7(c)に示すように第2の層103上に第3の層107を形成する。この第3の層107の膜厚は、第2の層103を完全に覆ってしまわない程度であればよく、0.1〜10nm、望ましくは1〜5nmに形成する。
【0052】
次いで、図7(d)に示すように第1の層102、第2の層103および第3の層107が形成された基板101を反応炉104内に載置し、反応炉104の一方より原料ガスと水素ガスを流した状態で、ヒータ105により加熱する。
【0053】
以上の化学的気相成長工程を10〜60分間行うことで、図7(e)に示すように、第2の層103上に形成された第3の層107上に、カーボンナノチューブ106が成長する。このとき、第2の層103を形成する触媒金属は、第1の層102および第3の層107の凹凸や空隙により微細な状態で保持されると考えられる。特に、第2の層103上に第3の層107を形成することによって、第2の層103を形成する触媒金属が高融点材料からなる第3の層107により固定されて凝集しにくくなり、より微細な状態で安定して保持されると考えられる。このため、第2の層103を形成する触媒金属からは、より細いカーボンナノチューブ106が成長し、結果として、基板101上には膜厚が均一なカーボンナノチューブ106の膜が生成されると考えられる。
【0054】
また、第2の層103に第3の層107を形成することにより、第3の層107を構成する材料の粒子の一部が第2の層103を構成する触媒金属とともに第1の層102の凹凸や空隙に入り込んだ状態となっていると考えられる。このため、隣接する触媒金属の間隔が大きくなるので、基板101上に形成されるカーボンナノチューブ106の膜の密度は、第1の実施の形態の場合よりも低くなり、カーボンナノチューブ106の先端の数量が適度にばらけた状態となる。このような基板101をFEDの電子放出源として用いた場合、各カーボンナノチューブ106の先端に電界集中しやすくなるため、結果として駆動電圧を低くすることが可能となる。
【0055】
なお、本実施の形態では、上述したように第1の層102および第3の層107には多数の空隙が形成されており、この空隙を介して基板101と第2の層103を構成する触媒金属との導通がとられるものと思料する。これにより、カーボンナノチューブ106が形成された基板101はFED等の電子放出源として機能することができる。
【0056】
[第7の実施の形態]
次に、本発明の第7の実施の形態について説明する。本実施の形態は、上述した第6の実施の形態をより具体に示したものである。したがって、第6の実施の形態と同等の構成要素については、同じ名称および符号を付し、適宜説明を省略する。
【0057】
まず、本実施の形態では、426合金基板からなる基板101上に、アルミナからなる厚さ10nmの第1の層102を形成し、この第1の層102上に鉄からなる厚さ3nmの第2の層103を形成した後、この第2の層103上にモリブデン(Mo)からなる厚さ5nmの第3の層を形成した。なお、第1の層102、第2の層103および第3の層107は、それぞれ蒸着法により形成した。
【0058】
次いで、第1の層102、第2の層103および第3の層107が形成された基板101を反応炉104内に載置し、水素ガスを1[l/min]を流した状態で基板101を800℃まで加熱した。800℃に達したところで、反応炉104内に一酸化炭素(CO)を0.25[l/min]で30分間流すことにより、第2の層103上にカーボンナノチューブ106を成長させた。
【0059】
本実施の形態においても、直径10〜20nm程度のカーボンナノチューブから構成され、膜厚が均一で、かつ、第1の実施の形態の場合よりも低密度に生成されたカーボンナノチューブの膜が基板101上に形成された。この基板101をFEDの電子放出源として用いたところ、第1の実施の形態の場合よりも低電圧で駆動させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施の形態におけるカーボンナノチューブカソードの製造方法を示す工程図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態により生成したカーボンナノチューブの電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の第3の実施の形態におけるカーボンナノチューブカソードの製造方法を示す工程図である。
【図4】本発明の第4の実施の形態により生成したカーボンナノチューブを平面視した電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の第4の実施の形態により生成したカーボンナノチューブの断面の電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明の第5の実施の形態により生成したカーボンナノチューブの電子顕微鏡写真である。
【図7】本発明の第6の実施の形態におけるカーボンナノチューブカソードの製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0061】
101…基板、102…第1の層、103…第2の層、104…反応炉、105…ヒータ、106…カーボンナノチューブ、107…第3の層。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体からなる基板上にアルミナからなる第1の層を形成する第1のステップと、
前記第1の層の上に触媒金属からなる第2の層を形成する第2のステップと、
前記第1の層および前記第2の層が形成された前記基板を配置した反応炉中にカーボンソースガスを導入し、化学的気相成長法により複数のカーボンナノチューブを前記基板上に成長させる第3のステップと
を備えたことを特徴とするカーボンナノチューブカソードの製造方法。
【請求項2】
導体からなる基板上にアルミナからなる第1の層を形成する第1のステップと、
前記第1の層上にモリブデン、タングステン、タンタルおよびクロムの何れかからなる第2の層を形成する第2のステップと、
前記第2の層の上に触媒金属からなる第3の層を形成する第3のステップと、
前記第1〜3の層が形成された前記基板を配置した反応炉中にカーボンソースガスを導入し、化学的気相成長法により複数のカーボンナノチューブを前記基板上に成長させる第4のステップと
を備えたことを特徴とするカーボンナノチューブカソードの製造方法。
【請求項3】
導体からなる基板上にアルミナからなる第1の層を形成する第1のステップと、
前記第1の層の上に触媒金属からなる第2の層を形成する第2のステップと、
前記第2の層上にモリブデン、タングステン、タンタルおよびクロムの何れかからなる第3の層を形成する第3のステップと、
前記第1〜3の層が形成された前記基板を配置した反応炉中にカーボンソースガスを導入し、化学的気相成長法により複数のカーボンナノチューブを前記基板上に成長させる第4のステップと
を備えたことを特徴とするカーボンナノチューブカソードの製造方法。
【請求項4】
前記触媒金属は、鉄、ニッケル、コバルトまたはこれらの合金のいずれかである
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のカーボンナノチューブカソードの製造方法。
【請求項5】
導体からなる基板と、
この基板上に形成されたアルミナからなる第1の層と、
この第1の層上に形成された触媒金属からなる第2の層と、
前記触媒金属から成長したカーボンナノチューブと
を有することを特徴とするカーボンナノチューブカソード。
【請求項6】
導体からなる基板と、
この基板上に形成されたアルミナからなる第1の層と、
この第1の層上に形成されたモリブデン、タングステン、タンタルおよびクロムの何れかからなる第2の層と、
この第2の層上に形成された触媒金属からなる第3の層と、
前記触媒金属から成長したカーボンナノチューブと
を有することを特徴とするカーボンナノチューブカソード。
【請求項7】
導体からなる基板と、
この基板上に形成されたアルミナからなる第1の層と、
この第1の層上に形成された触媒金属からなる第2の層と、
この第2の層上に形成されたモリブデン、タングステン、タンタルおよびクロムの何れかからなる第3の層と、
前記触媒金属から成長したカーボンナノチューブと
を有することを特徴とするカーボンナノチューブカソード。


【図1】
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【図3】
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【図7】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−216482(P2006−216482A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30226(P2005−30226)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】