説明

ガスタンク及びガスタンクの製造方法

【課題】繊維強化層の強度を維持しつつ、ライナを透過したガスを好適に排出するガスタンクを提供する。
【解決手段】ガスタンク2は、ライナ10と、当該ライナ10に設けられた口金11、12と、ライナ10と口金11、12の外周面を覆う繊維強化樹脂層13を有している。ライナ10及び口金11、12と、繊維強化樹脂層13との間には、複数のパイル30からなるパイル層20が設けられている。パイル層20は、口金11、12と繊維強化樹脂層13との間からガスタンク2の外部に通じている。ライナ10を透過したガスは、パイル層20を通ってガスタンク2の外部に排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタンク及びガスタンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の車両に搭載される燃料電池システムには、燃料ガスの供給源として高圧ガスタンクが用いられている。
【0003】
この種のガスタンクは、略楕円体状のライナ(内容器)と、当該ライナの両端に設けられた口金と、ライナと口金の外周面を覆う繊維強化層を有している。この繊維強化層は、例えばライナと口金の外周面に、フィラメントワインディング法により熱硬化性樹脂が含浸された繊維が巻き付けられることにより形成されている。
【0004】
ところで、上記ガスタンクに高圧のガスが封入されると、ガスの一部がライナを透過し、繊維強化層内に滞留することがある。繊維強化層内にガスが滞留すると、例えばガスタンクに対するガスの流入出によりライナの内圧が変化した際に、当該ライナの内圧と繊維強化層内の滞留ガスの圧力との圧力差によりライナが変形する恐れがある。
【0005】
そこで、繊維強化層内の滞留ガスを排出するために、繊維強化層内に微細な空隙を形成したり(特許文献1参照)、繊維強化層の厚み方向に貫通孔を形成する(特許文献2参照)ことが提案されている。また、他に口金と繊維強化層の間に連通孔を形成する(特許文献3の図6参照)ことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−174700号公報
【特許文献2】特開2008−261414号公報
【特許文献3】特開2009−243660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の特許文献1や特許文献2ように繊維強化層に空隙や貫通孔を形成した場合、繊維強化層の強度が低下する恐れがある。また、特許文献3のように口金と繊維強化層の間にのみ連通孔を形成する場合、ライナから漏れた滞留ガスを適切に排出することは難しい。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、繊維強化層の強度を維持しつつ、ライナを透過したガスを好適に排出できるガスタンクと、その製造方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明は、ライナと、当該ライナに設けられた口金と、前記ライナと前記口金の外周面を覆う繊維強化層を有するガスタンクであって、前記ライナ及び口金と、前記繊維強化層との間には、複数のパイルからなるパイル層が設けられ、前記パイル層は、前記口金と前記繊維強化層との間からガスタンクの外部に通じている。
【0010】
本発明によれば、ライナ及び口金と繊維強化層との間にパイル層が形成され、そのパイル層がガスタンクの外部に通じているため、ライナを透過したガスがパイル層から外部に排出される。これにより、繊維強化層の強度を維持しつつ、ライナを透過したガスを好適に排出できる。
【0011】
前記パイルの表面には、前記繊維強化層に含有される樹脂が前記パイル層に浸透するのを抑制するためのフィルムがコーティングされていてもよい。
【0012】
前記パイルは、前記ライナ及び前記口金の外周面に植毛されていてもよい。
【0013】
前記パイルは、特定方向に向けて植毛されていてもよい。
【0014】
前記パイルは、前記パイル層の前記ガスタンクの外部に通じる部分に向くように植毛されていてもよい。
【0015】
別の観点による本発明は、ガスタンクの製造方法であって、ライナと当該ライナに設けられた口金の外周面にパイルを植毛してパイル層を形成する工程と、前記パイル層の外周面に繊維を巻き付けて繊維強化層を形成する工程と、を有する。
【0016】
前記ガスタンクの製造方法において、前記パイルの表面には、前記繊維強化層に含有される樹脂が前記パイル層に浸透するのを抑制するためのフィルムがコーティングされていてもよい。
【0017】
前記ガスタンクの製造方法において、前記パイルは、前記ライナ及び前記口金の外周面に植毛されていてもよい。
【0018】
また、前記パイルは、特定方向に向けて植毛されていてもよい。
【0019】
また、前記パイルは、前記パイル層の前記ガスタンクの外部に通じる部分に向くように植毛されていてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、繊維強化層の強度を維持しつつ、ライナを透過したガスを好適に排出できるので、ガスタンクの強度を向上し、またガスタンクの寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ガスタンクを搭載した燃料電池自動車の模式図である。
【図2】ガスタンクの構成の概略を示す縦断面図である。
【図3】ガスタンクの壁構造を示す拡大縦断面図である。
【図4】パイルを植毛した状態を示す説明図である。
【図5】パイルにフィルムをコーティングした状態を示す説明図である。
【図6】パイルを斜めに植毛した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係るガスタンクを搭載した燃料電池自動車1の模式図である。
【0023】
燃料電池自動車1には、例えば3つのガスタンク2が車体のリア部に搭載されている。ガスタンク2は、燃料電池システム3の一部を構成し、ガス供給ライン4を通じて各ガスタンク2から燃料電池5に燃料ガスが供給可能になっている。ガスタンク2に貯留される燃料ガスは、可燃性の高圧ガスであり、例えば水素ガスである。なお、ガスタンク2は、燃料電池自動車1のみならず、電気自動車、ハイブリッド自動車などの車両のほか、各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボットなど)や定置設備(住宅、ビル)にも適用できる。
【0024】
図2に示すようにガスタンク2は、略楕円体状の樹脂製のライナ10と、ライナ10の長手方向の両端部に設けられた口金11、12と、ライナ10及び口金11、12の外周面を覆う繊維強化樹脂層13を有している。
【0025】
ライナ10及び口金11、12と、繊維強化樹脂層13との間には、パイル層20が形成されている。パイル層20は、ライナ10及び口金11、12の外周面のほぼ全体、つまり繊維強化樹脂層13の内周面の全体を覆うように形成され、口金11、12と繊維強化樹脂層13との間からガスタンク2の外部に通じている。
【0026】
図3は、図2に示すガスタンク2の壁面断面の一部分Aを拡大した部分拡大図である。図3に示すようにパイル層20は、円柱状の多数の微細なパイル30によって形成されている。パイル30は、例えば樹脂製の短繊維により形成され、例えば1mm程度の長さ、10μm程度の太さを有している。なお、パイル30の長さは、繊維強化樹脂層13の硬化前の樹脂がパイル層20に浸透するので、その分長く設定されていてもよい。
【0027】
パイル層20は、例えば図4に示すように多数のパイル30をライナ10及び口金11、12の外周面に植毛することによって形成されている。ライナ10及び口金11、12の外周面に接着材層40を形成し、パイル30は、静電気植毛技術を用いて接着材層40に植毛されている。
【0028】
繊維強化樹脂層13は、フィラメントワイディング(FW)法によりパイル層20の外周面に、熱硬化性の樹脂が含浸された繊維が巻かれて形成されている。なお、繊維強化樹脂層13の樹脂として、例えばエポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、又は不飽和ポリエステル樹脂などが用いられている。また、繊維としては、例えば炭素繊維が用いられている。
【0029】
ガスタンク2の製造工程においては、ライナ10と口金11、12の外周面にパイル30を植毛してパイル層20が形成され、その後パイル層20の外周面に繊維を巻き付けて繊維強化樹脂層13が形成される。
【0030】
以上のように構成されたガスタンク2によれば、例えば図3に示すようにガスタンク2に封入された高圧のガスがライナ10を透過した場合、当該ガスがパイル層20内のパイル30の隙間を通って、図2に示すようにガスタンク2の両端部の口金11、12と繊維強化樹脂層13との間から外部に流出する。よって、ライナ10を透過したガスは、繊維強化樹脂層13内に滞留することなくガスタンク2の外部に適切に排出される。また、パイル層20は、繊維強化樹脂層13と別に設けられているので、繊維強化樹脂層13の強度は維持される。
【0031】
パイル30は、ライナ10及び口金11、12の外周面に植毛されているので、通気性の高いパイル層20を好適かつ簡単に形成できる。
【0032】
なお、以上の実施の形態で記載したパイル30の表面には、例えば図5に示すように樹脂フィルム50がコーティングされていてもよい。かかる場合、当該樹脂フィルム50により、繊維強化樹脂層13内の樹脂がパイル30を通じてパイル層20内に浸透するのを抑制できる。よって、パイル層20の厚みや隙間を十分に確保でき、パイル層20からのガスの排出を適切かつ確実に行うことができる。
【0033】
また、以上の実施の形態では、パイル30がライナ10及び口金11、12の外周面に対し垂直に植毛されていたが、例えば図6に示すようにパイル層20のパイル30は、特定方向に向けて斜めに植毛されていてもよい。かかる場合、例えばパイル30は、パイル層20のガスタンク2の外部に通じる端部B側に向くように植毛されていてもよい。この場合、例えば図1においてガスタンク2の左半分のパイル層20のパイル30が口金11側に向けられ、右半分のパイル層20のパイル30が口金12側に向けられる。パイル30が向いている方向にガスが流れやすくなるため、パイル層20に流入したガスを外部に通じる端部Bの方向に効果的に流すことができる。なお、パイル30の植毛の方向は、ガスを流す方向に応じて適宜変更してもよい。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0035】
例えば上記実施の形態におけるガスタンク2の繊維強化樹脂層13の層の数や材料の種類は任意に選択できる。また、パイル層20は、必ずしもライナ10と口金11、12の外周面の全面に形成されている必要はなく、一部に形成されていてもよい。また、上記実施の形態において、パイル層20が、両方の口金11、12からガスタンク2の外部に通じていたが、片側の口金からのみ外部に通じていてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 燃料電池自動車
2 ガスタンク
10 ライナ
11、12 口金
13 繊維強化樹脂層
20 パイル層
30 パイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナと、当該ライナに設けられた口金と、前記ライナと前記口金の外周面を覆う繊維強化層を有するガスタンクであって、
前記ライナ及び口金と、前記繊維強化層との間には、複数のパイルからなるパイル層が設けられ、
前記パイル層は、前記口金と前記繊維強化層との間からガスタンクの外部に通じている、ガスタンク。
【請求項2】
前記パイルの表面には、前記繊維強化層に含有される樹脂が前記パイル層に浸透するのを抑制するためのフィルムがコーティングされている、請求項1に記載のガスタンク。
【請求項3】
前記パイルは、前記ライナ及び前記口金の外周面に植毛されている、請求項1又は2に記載のガスタンク。
【請求項4】
前記パイルは、特定方向に向けて植毛されている、請求項3に記載のガスタンク。
【請求項5】
前記パイルは、前記パイル層の前記ガスタンクの外部に通じる部分に向くように植毛されている、請求項4に記載のガスタンク。
【請求項6】
ガスタンクの製造方法であって、
ライナと当該ライナに設けられた口金の外周面にパイルを植毛してパイル層を形成する工程と、
前記パイル層の外周面に繊維を巻き付けて繊維強化層を形成する工程と、を有する、ガスタンクの製造方法。
【請求項7】
前記パイルの表面には、前記繊維強化層に含有される樹脂が前記パイル層に浸透するのを抑制するためのフィルムがコーティングされている、請求項6に記載のガスタンクの製造方法。
【請求項8】
前記パイルは、前記ライナ及び前記口金の外周面に植毛されている、請求項6又は7に記載のガスタンクの製造方法。
【請求項9】
前記パイルは、特定方向に向けて植毛されている、請求項8に記載のガスタンクの製造方法。
【請求項10】
前記パイルは、前記パイル層の前記ガスタンクの外部に通じる部分に向くように植毛されている、請求項9に記載のガスタンクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−180892(P2012−180892A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43980(P2011−43980)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】