説明

ガスバリア性積層フィルム及びその製造方法

【課題】 酸素ガスや水蒸気に対するガスバリア性に優れたガスバリア性被膜と無機酸化物の蒸着膜との反応性を向上させることにより、優れたガスバリア性を有する、透明で柔軟なガスバリア性積層フィルム及びその製造方法の提供。
【解決手段】 基材フィルムの一方の面に、無機酸化物の蒸着膜を形成し、該蒸着膜の表面に、酸素ガスを含む混合ガスによるグロー放電プラズマ処理を行うことにより、表面自由エネルギーが70dyne以上のプラズマ処理面を形成し、該プラズマ処理面に、アルコキシドとポリビニルアルコール系水溶性樹脂の混合溶液から得られるガスバリア性組成物を加熱乾燥処理して、ガスバリア性塗膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性積層フィルム及びその製造方法に関し、更に詳しくは、酸素ガス、及び水蒸気に対して極めて高いガスバリア性を有し、各種の被包装材を包装するための包装材料として有用な、ガスバリア性積層フィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、飲食品、医薬品、化学薬品、日用品、雑貨品、その他の物品を充填包装するために、種々の包装用材料が、開発され、提案されている。そして、上記の包装用材料には、内容物の変質等を防止するため、主に、酸素ガスあるいは水蒸気に対する遮断性、いわゆる、ガスバリア性が強く求められている。
【0003】
その一つとして、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体などガスバリア性の高分子樹脂材料からなるもの、あるいはプラスチック基材にこれらのガスバリア性の高分子樹脂材料を積層してプラスチック積層フィルムとしたもの、または、最も一般的なバリア性材料として知られるアルミニウム箔を積層して使用したもの、更には、アルミニウム等の金属、またはその酸化物をプラスチックフィルムの片面に蒸着した蒸着フィルムが、ガスバリア性積層材料として開発され、提案されてきた。
【0004】
しかしながら、プラスチック積層フィルムを使用したものは、包装の用途によっては煮沸処理やレトルト処理を行う高温、多湿下では、ガスバリア性が著しく低下することがあり、金属箔又は金属蒸着膜を用いたもの程のガスバリア性が得られないという問題がある。一方、アルミニウム箔を積層したフィルムは優れたガスバリア性積層材料であるが、金属箔のため透明性が劣る等の問題点がある。
【0005】
また、プラスチックフィルムの片面に金属蒸着膜又は酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機酸化物の蒸着膜を設けた構成からなる蒸着フィルムは、透明性をも備えたガスバリア性積層材料であるが、蒸着膜厚が薄い場合には被膜性に劣り、ピンホールが生じやすく、また、蒸着膜厚が厚い場合には屈曲によってクラックが生じやすく、ガスバリア性が低下するなどの問題があった。
【0006】
そこで、ガスバリア性や柔軟性に関する要求に応えるために、無機酸化物の蒸着膜の上にガスバリア性被膜を積層するガスバリア性積層フィルムが提案されている。
例えば、高分子樹脂組成物からなる基材上に、無機化合物からなる蒸着膜を第1層とし、水溶性高分子と、(a)1種以上のアルコキシド及び/又はその加水分解物又は(b)塩化すずの少なくともいずれか1つを含む水溶液、或いは水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を塗布し、加熱乾燥してなるガスバリア性被膜を第2層として積層してなることを特徴とするガスバリア性積層フィルムが提案されている(特許文献1)。
【0007】
しかしながら、上記の積層フィルムは、無機酸化物の蒸着膜の上にガスバリア性被膜を積層することにより、蒸着膜に生じるピンホールやクラックなどを充填、補強することでガスバリア性を向上させるものであって、蒸着膜とガスバリア性被膜との密着性は、必ずしも十分なものとはいえず、高温多湿下においてガスバリア性が低下してしまい、耐水性、防湿性も必ずしも満足できるものとはいえないものであった。
【0008】
一方、無機酸化物の蒸着膜との密着性を向上させ、これにより酸素ガス及び水蒸気などに対するガスバリア性を改良し、更に、透明性、耐熱性、柔軟性、ラミネート強度などに優れたバリア性フィルムとして、基材フィルムの一方の面に、物理気相成長法による無機酸化物の蒸着薄膜を設け、更に、該無機酸化物の蒸着薄膜面に、酸素、窒素、アルゴン、または、ヘリウムの1種ないし2種以上からなるガスによるプラズマ処理面を設け、更にまた、該プラズマ処理面に、エチレン−ビニルアルコール共重合体をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるコ−ティング膜を設けたことを特徴とするバリア性フィルムが提案されている(特許文献2)。
【0009】
しかしながら、上記の密着性改善を施したバリア性フィルムであっても、例えば、酸素透過度は0.5cc/m2・day・atm程度であり、また、水蒸気透過度は0.5g/m2・day程度であり、酸素ガスあるいは水蒸気等に対するガスバリア性は、必ずしも十分なものとは言えず、更なるガスバリア性の向上が望まれているのが実情である。しかしながら、上記のような、透明性や柔軟性を保持しながら、かつ、複雑な多層構造とせずに、更なるガスバリア性を向上させること、特に水蒸気バリア性を2倍以上に向上させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−164591号公報
【特許文献2】特開2000−127285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、酸素ガスや水蒸気に対するガスバリア性に優れたガスバリア性被膜と無機酸化物の蒸着膜との反応性を向上させることにより、通常の環境下は勿論のこと、高温又は多湿下においても、十分な性能を有し、特に、水蒸気透過度が0.3g/m2・day未満となるガスバリア性を達成し、耐水性、防湿性も向上した、優れたガスバリア性を有する、透明で柔軟なガスバリア性積層フィルム及びその製造方法を提供することにある。
さらに、本発明のもう一つの目的は、ガスバリア性、耐水性、防湿性の向上による内容物の保存適性に優れた透明なガスバリア性積層フィルムを使用した包装材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記のような問題点を解決すべく種々研究の結果、プラスチックフィルムからなる基材フィルムに、無機酸化物の蒸着膜を形成する工程と、該蒸着膜に、一般式R1nM(OR2)m(式中、R1、R2は炭素数1〜8の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価である)で表される1種又はそれ以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂と、酸触媒を含有する混合溶液を調整して、ゾルゲル法によって得られるガスバリア性組成物の塗工液を塗布し、コーティング層を形成する工程と、該コーティング層を加熱乾燥処理し、ガスバリア性塗膜を形成する工程と、を有するガスバリア性積層フィルムの製造方法において、前記無機酸化物の蒸着膜を形成する工程と、前記コーティング層を形成する工程との間に、該蒸着膜の表面に、酸素ガスを含む混合ガスによる所定のプラズマ処理を行うことにより、前記ガスバリア性積層フィルムの酸素ガスや水蒸気等に対するガスバリア性が向上することを見出した。
【0013】
また、本発明者は、上記酸素ガスを含む混合ガスによる所定のプラズマ処理を施すことにより、蒸着膜の表面に形成されるプラズマ処理面の表面自由エネルギーが増大すること、さらに、該表面自由エネルギーとガスバリア性積層フィルムのガスバリア性能には相関があり、蒸着膜の表面に形成されるプラズマ処理面の表面自由エネルギーが増大するとともに、ガスバリア性積層フィルムの水蒸気等に対するガスバリア性が向上することを見出した。
【0014】
このガスバリア性の向上は、上記酸素ガスを含む混合ガスによる所定のプラズマ処理を施すことにより、コーティング層に含まれるアルコキシドの加水分解生成物の水酸基と、蒸着膜表面の活性化した酸素が反応して、蒸着膜とコーティング層との密着性がより強固になることによるバリア性向上によるものと考えられる。
【0015】
そして、本発明者は、特に、前記蒸着膜の表面に、表面自由エネルギーが70dyne以上のプラズマ処理面を形成すれば、得られるガスバリア性積層フィルムは高い水蒸気バリア性を発揮することを見出して、本発明を完成したものである。
【0016】
すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、プラスチックフィルムからなる基材フィルムの一方の面に、無機酸化物からなる蒸着膜を形成し、該蒸着膜の表面に、酸素ガスを含む混合ガスによるグロー放電プラズマ処理を行うことにより、表面自由エネルギーが70dyne以上のプラズマ処理面を形成し、該プラズマ処理面に、一般式R1nM(OR2)m(式中、R1、R2は炭素数1〜8の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価である)で表される1種又はそれ以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂と、酸触媒とを含有する混合溶液からゾルゲル法によって得られるガスバリア性組成物の塗工液を塗布してコーティング層を形成し、続いて、該コーティング層を加熱乾燥処理して、ガスバリア性塗膜を形成することを特徴とするガスバリア性積層フィルムの製造方法である。
【0017】
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記酸素ガスを含む混合ガスによるグロー放電プラズマ処理を、前記蒸着膜を形成する工程の直後に、インラインで行うことを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法である。
【0018】
また、本発明の請求項3に係る発明は、前記酸素ガスを含む混合ガスによるグロー放電プラズマ処理が、酸素とアルゴンのガス分圧比が7:3〜9:1からなる混合ガスによるグロー放電プラズマ処理であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法である。
【0019】
また、本発明の請求項4に係る発明は、前記混合ガスによるグロー放電プラズマ処理が、プラズマ出力1000〜2000W、混合ガス圧1×10-3〜1×10-5Torr、処理速度500〜700mm/minで処理することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法である。
【0020】
また、本発明の請求項5に係る発明は、前記無機酸化物からなる蒸着膜が、アルミニウムを蒸着源に用いて電子ビーム(EB)加熱方式による反応真空蒸着法により形成される酸化アルミニウムの蒸着膜であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法である。
【0021】
また、本発明の請求項6に係る発明は、プラスチックフィルムからなる基材フィルムの一方の面に、無機酸化物からなり、表面自由エネルギーが70dyne以上のプラズマ処理面を有する蒸着膜と、一般式R1nM(OR2)m(式中、R1、R2は炭素数1〜8の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価である)で表される1種又はそれ以上のアルコキシドまたは/およびその加水分解物と、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂と、酸触媒とを含有し、加熱乾燥してなるガスバリア性塗膜が、順次積層されていることを特徴とするガスバリア性積層フィルムである。
【0022】
また、本発明の請求項7に係る発明は、前記蒸着膜が、酸化アルミニウムからなる蒸着膜であることを特徴とする請求項6に記載のガスバリア性積層フィルムである。
【0023】
また、本発明の請求項8に係る発明は、前記アルコキシドが、テトラエトキシシランであることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のガスバリア性積層フィルムである。
【0024】
また、本発明の請求項9に係る発明は、前記ポリビニルアルコール系水溶性樹脂が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムである。
【0025】
また、本発明の請求項10に係る発明は、前記酸触媒が、塩酸であることを特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムである。
【0026】
また、本発明の請求項11に係る発明は、前記ガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が、23℃、90%RHの雰囲気下で、酸素透過度0.1cc/m2・day・atm以下であり、かつ40℃、90%RHの雰囲気下で、水蒸気透過度0.15g/m2・day以下であることを特徴とする請求項6乃至請求項10のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムである。
【0027】
また、本発明の請求項12に係る発明は、請求項6乃至請求項11のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムのガスバリア性塗膜上に、ヒートシール性樹脂層を積層したことを特徴とする包装材料である。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るガスバリア性積層フィルムの製造方法は、基材フィルムの一方の面に無機酸化物の蒸着膜と、アルコキシド同士、又はアルコキシドとポリビニルアルコール等の水溶性高分子との重縮合反応により形成されるガスバリア性組成物からなるガスバリア性塗膜の2層を含み、前記蒸着膜の表面に酸素ガスを含む混合ガスによるプラズマ処理を施すことにより、前記蒸着膜の表面改質を達成して、前記蒸着膜と前記ガスバリア性塗膜との反応性を向上させるものであり、前記蒸着膜の表面改質の達成度の指標として、前記蒸着膜の表面に形成されるプラズマ処理面の表面自由エネルギーに着目し、該表面自由エネルギーとガスバリア性との相関を明らかにすることによって、従来よりもバリア性が向上したガスバリア性積層フィルムを得ることができることを示したものである。
特に、本発明に係るガスバリア性積層フィルムの製造方法を用いて、前記蒸着膜の表面に、表面自由エネルギーが70dyne以上の範囲となるプラズマ処理面を形成することにより、水蒸気に対して極めて高いガスバリア性を有するとともに、高温多湿下等の過酷条件においても安定したガスバリア性を維持することができ、耐水性、防湿性が向上した、透明で柔軟なガスバリア性積層フィルムを製造することができた。
【0029】
さらに、本発明のガスバリア性積層フィルムのガスバリア性塗膜上に、ヒートシール性樹脂層を積層した包装材料は、特に、水蒸気に対して極めて優れたガスバリア性を有するとともに、高温多湿下等の過酷条件においても高いガスバリア性を維持し、耐水性、防湿性も向上することから、内容物の保存適性に優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るガスバリア性積層フィルムの層構成の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る無機酸化物の蒸着膜の形成法についてその一例を例示する巻き取り式真空蒸着装置の概略的構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のガスバリア性積層フィルム及びその製造方法について、以下に図面等を用いて詳しく説明する。
図1は、本発明に係るガスバリア性積層フィルムの層構成について、その一例を例示する概略的断面図である。図1に示すように、本発明に係るガスバリア性積層フィルムは、基材フィルム2の一方の面に、無機酸化物の蒸着膜3を設け、更に、該無機酸化物の蒸着膜3の表面に、酸素とアルゴンからなる混合ガスによるプラズマ処理面4を設け、更にまた、該プラズマ処理面4に、アルコキシドまたは/およびその加水分解物とポリビニルアルコール系水溶性樹脂からなるガスバリア性塗膜5を設けた構成からなることを基本構造とするものである。
なお、上記の例は、本発明のガスバリア性積層フィルムの一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
次に、本発明に係るガスバリア性積層フィルムにおいて使用する材料、その製造方法等について説明する。
【0033】
<基材フィルム>
まず、本発明のガスバリア性積層フィルムを構成する基材フィルムとしては、化学的又は物理的強度に優れ、無機酸化物の蒸着膜を形成する条件等に耐え、それら無機酸化物蒸着膜等の特性を損なうことなく良好に保持し得ることができる樹脂のフィルム又はシートを使用することができる。
具体的には、基材フィルムとしては透明な熱可塑性樹脂フィルムが用いられ、その利用される分野の要求性能に従い、適宜選択することができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレンなどのポリエーテル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6などのポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物などのビニル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリエーテルスルフォン;ポリスルフォン;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルケトンケトンなどが使用できる。これらの樹脂は単独重合体であっても共重合体であっても、あるいは1種以上の樹脂を溶融混合してフィルム状に成形したものが用いることができる。
本発明においては、上記の樹脂のフィルム又はシートの中でも、特に、ポリエステル系樹脂、ポリオレフイン系樹脂、又は、ポリアミド系樹脂のフィルム又はシートを使用することが好ましい。
【0034】
本発明において、上記樹脂のフィルム又はシートとしては、公知の成形法が利用できる。具体的には、押出法、Tダイ法、インフレーション法、キャスト成形法等の従前から使用されている製膜法を用いて、上記樹脂を単独あるいは2種以上の樹脂を使用して製膜化する方法等により、フィルム又はシートを製造したもので、このような基材フィルムは未延伸フィルムであっても、1軸又は2軸延伸フィルムであってもよい。さらに、このようなフィルムを2枚以上積層したフィルム又はシートも用いることができる。
延伸方法については、周知のテンター方式、あるいは、チューブラー方式等を利用して1軸又は2軸方向に延伸することができる。
【0035】
本発明において、樹脂のフィルム又はシートの膜厚としては、任意であるが、数μmから300μm位の範囲から選択して使用することができる。
【0036】
基材フィルムは、必要に応じて、フィルムの加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、強度等を改良、改質する目的で、種々のプラスチック配合剤や添加剤等を添加することができ、その添加量としては、ガスバリア性に影響しない範囲で目的に応じて、任意に添加することができる。
【0037】
また、本発明において、基材のフィルム又はシートの表面は、無機酸化物の蒸着膜との密着性等を向上させるために、無機酸化物の蒸着前に基材フィルムの表面に必要に応じて、表面処理を施し、基材フィルムの表面処理後に無機酸化物の蒸着膜を設け、さらに、該無機酸化物の蒸着膜上にガスバリア性塗膜を設けた構成としてもよい。
【0038】
例えば、本発明において、基材のフィルム又はシートは、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品などの物理的又は化学的な処理や、プライマーコート剤層、アンダーコート剤層、アンカーコート剤層、接着剤層、蒸着アンカーコート剤層等の前処理を施して、密着性を改善させることもできる。
【0039】
<無機酸化物蒸着膜>
次に、本発明に係るガスバリア性積層フィルムを構成する無機酸化物の蒸着膜としては、透明性に優れ、非結晶性の酸化アルミニウムの蒸着膜が好ましく、具体的には、式AlOX (ただし、式中、Xは、1〜1.5の数を表す。)で表される酸化アルミニウムの蒸着膜を使用することができる。
ここで、本発明において、上記の酸化アルミニウムの蒸着膜の膜厚としては、5〜400nm、好ましくは、10〜100nmの範囲内で任意に選択して形成することが望ましい。5nmより薄くなると、蒸着膜の被膜としての形成が不十分となり、その結果ガスバリア性を十分に満たすことが困難になり、一方、400nmを超えると柔軟性が低下し、その結果、蒸着膜にクラックが発生しやすくなり、ガスバリア性が低下するからである。
【0040】
次に、基材フィルムの表面に上記の無機酸化物蒸着膜を設ける方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長法を挙げることができる。
本発明の物理気相成長法においては、金属の酸化物を原料とし、これを加熱して樹脂のフィルムないしシートの上に蒸着する真空蒸着法、又は、原料として金属又は金属の酸化物を使用し、酸素を導入して酸化させて樹脂のフィルムないしシートの上に蒸着する酸化反応蒸着法、さらに、酸化反応をプラズマで助成するプラズマ助成式の酸化反応蒸着法等を用いて無機酸化物の蒸着膜を形成することができる。
【0041】
より具体的には、冷却したコーティングドラム上に案内された基材フィルムの上に、アルミニウム等の金属、あるいは、酸化アルミニウム等の金属酸化物等を蒸着源に用いて、酸素ガスを供給しながら、電子ビーム(EB)加熱方式でアルミニウム等の金属、あるいは、酸化アルミニウム等の金属酸化物を蒸発させ、酸化アルミニウム等の蒸着膜を基材フィルム上に形成することができる。
【0042】
次に、本発明における一例として、上記のような酸化アルミニウムの蒸着膜を形成する方法について具体的に説明する。
図2は、本発明に係る酸化アルミニウムの蒸着膜の形成方法についてその一例を例示する巻き取り式真空蒸着装置の概略的構成図である。図2に示すように、まず、巻き取り式真空蒸着装置11の真空チャンバー12の中で、巻き出しロ−ル13から基材フィルム2を引き出し、ガイドロ−ル14、15を介して、冷却したコーティングドラム16に案内する。
そして、蒸着源17として、金属のアルミニウム、あるいは酸化アルミニウム等を使用し、これらをるつぼ18の中に入れ、電子ビーム(EB)加熱によりアルミニウム、あるいは、酸化アルミニウムを蒸発させ、かつ、酸素吹き出し口19より酸素ガス等を噴出させながら、マスク20を介して、コ−ティングドラム16の上に案内された基材フィルム2の外周側の面に、酸化アルミニウムの蒸着膜を成膜し、次いで、該酸化アルミニウムの蒸着膜を形成した基材フィルム2を、ガイドロ−ル14´、15´を介して、巻き取りロ−ル21に巻き取って、本発明に係る酸化アルミニウムの蒸着膜を形成することができるものである。
なお、上記の例示は、その形成法の一例であり、本発明は、この例示により限定されるものではない。
【0043】
<プラズマ処理面>
次に、本発明に係る無機酸化物蒸着膜の表面に形成されるプラズマ処理面について説明する。前記プラズマ処理面は、気体をグロー放電により電離させることにより生じるプラズマガスを利用して表面改質を行なうプラズマ表面処理法等を利用して形成することができる。
使用する気体は、本発明においては、酸素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等を使用することができる。
本発明においては、プラズマ放電処理の際に、酸素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを使用してプラズマ処理を行なうことが好ましく、このようなプラズマ処理により、より低い電圧でプラズマ処理を行なうことが可能であり、これにより、無機酸化物の蒸着薄膜の劣化等を防止して、その表面に、良好にプラズマ処理面を設けることができるものである。
プラズマを発生させる方法としては、例えば、直流グロー放電、高周波放電、マイクロ波放電等を利用して行うことができる。本発明においては、直流グロー放電発生装置を利用する。
【0044】
本発明におけるプラズマ処理は、基材フィルムに無機酸化物の蒸着膜を形成した直後に、インラインで行うことが望ましい。これは例えば、無機酸化物の蒸着膜が酸化アルミニウムの場合、蒸着された直後の酸化アルミニウムの蒸着膜と、プラズマ化した化学的に活性な酸素とが反応し、より緻密な酸化アルミニウムの蒸着膜の形成を可能とするためである。
なお、本発明におけるインラインとは、基材フィルムに無機酸化物の蒸着膜を形成した後、大気に触れさせること無く、真空内にて、基材フィルムを巻き取る前に、プラズマ処理を行うことを言う。これは、例えば、グロー放電プラズマ発生装置を、真空蒸着装置と共に、真空チャンバー内に設けることにより、実施することができる。
具体的には、図2に示すように、冷却したコ−ティングドラム16とガイドロ−ル15′との間にプラズマ処理ユニット22を配置し、酸化アルミニウムの蒸着膜を設けた直後の基材フィルム2の該酸化アルミニウムの蒸着膜表面に、上記のプラズマ処理ユニット22を利用して、酸素ガスとアルゴンガスとの混合ガスプラズマを発生させてプラズマ処理を行って、上記の基材フィルム2に積層された酸化アルミニウムの蒸着膜の表面に、プラズマ処理面を形成することができるものである。
【0045】
なお、本発明においては、プラズマ処理条件が極めて重要であり、その条件によって得られる効果は、全く異なる。
本発明において、プラズマ処理と化学反応に影響する要因としては、ガスの種類、ガスの供給量、プラズマ出力、および、処理時間等を挙げることができる。
本発明におけるプラズマ処理としては、具体的には、酸素ガスとアルゴンガス、またはヘリウムガスとの混合ガスを使用することが望ましく、そして、その酸素ガスとアルゴンガスまたはヘリウムガスとの混合ガスのガス圧としては、1〜1×10-5Torr、より好ましくは、1×10-3〜1×10-5Torrが好ましく、また、酸素ガスとアルゴンガスまたはヘリウムガスとの比率としては、ガス分圧比で酸素ガス:アルゴンガスまたはヘリウムガス=1:10〜10:1の範囲が使用でき、より好ましくは、酸素ガスとアルゴンガスのガス分圧比が7:3〜9:1の範囲が好ましい。
【0046】
これは、上記の酸素ガスとアルゴンガスまたはヘリウムガスとのガス分圧比において、アルゴンガスまたはヘリウムガス分圧が高くなると、プラズマで活性化される酸素分子が少なくなり、アルゴンガスまたはヘリウムガスが還元性ガスとして作用し、無機酸化物の蒸着薄膜面に酸化被膜の形成、あるいは、水酸基等の導入が阻害されると考えられるからである。また、酸素ガスとアルゴンガスまたはヘリウムガスとのガス分圧比において、アルゴンガスまたはヘリウムガス分圧が、上記割合より低くなると、プラズマ反応が安定しなくなり、好ましくない。
【0047】
本発明においては、酸素とアルゴンの分圧比が7:3〜9:1の範囲において、プラズマ処理面の表面自由エネルギーが70dyne以上となる高い値を得ることが出来た。
なお、表面自由エネルギーの値は、後述する所定の条件において、上記プラズマ処理面における水とジヨードメタンの接触角を測定し、その測定した接触角から算出することができる。
【0048】
次に、プラズマ出力としては、0.3〜20kW位、より好ましくは、1000〜2000W位が望ましい。プラズマ出力が、300W未満の場合には、酸素ガスの活性化が低下し、高活性の酸素原子が生成しにくいことから好ましくなく、また、20kWを越えると、プラズマ出力が高すぎるので、無機酸化物の蒸着膜の劣化によりクラック等が発生する傾向になり、ガスバリア性が低下するという問題を引き起こすことから好ましくないものである。
【0049】
また、処理速度としては、100〜1000mm/min位、より好ましくは、500〜700mm/min位が望ましい。100mm/minより遅い場合には、生産性に劣り、1000mm/minより速い場合には、十分な表面改質が施されないからである。
【0050】
なお、本発明において、無機酸化物の蒸着膜の表面に上記のようなプラズマ処理により形成されるプラズマ処理面について、例えば、X線光電子分光装置(Xray Photoelectron Spectroscopy、XPS)、二次イオン質量分析装置(Secondary Ion Mass Spectroscopy、SIMS)等の表面分析装置を用い、深さ方向にイオンエッチングする等して分析する方法を利用して、プラズマ処理部の分析を行うことより、その処理面に薄くて平滑性の高い酸化被膜を形成したプラズマ処理面であること、更に、例えば、水酸基(−OH基)等の官能基が形成されているプラズマ処理面であることを確認することができるものである。
具体的には、X線源として、MgKα1.2、X線出力として15Kv、20mAの測定条件で表面〜10nmのXPS分析を行い、Si、C、O等の元素比を測定して処理状態を確認することができる。
【0051】
また、本発明に係るガスバリア性積層フィルムのプラズマ処理面の表面自由エネルギーは、無機酸化物の蒸着膜表面にプラズマ処理を施してプラズマ処理面を形成する工程の後であって、ガスバリア性組成物の塗工液によるコーティング層を形成する工程の前に、前記プラズマ処理面における水とジヨードメタンの接触角を測定することから求めることができる。
本発明において、前記プラズマ処理面の表面自由エネルギーが70dyne以上であることが、最終的に得られるガスバリア性積層フィルムの水蒸気透過度が0.3g/m2・day未満を達成する高いガスバリア性の観点から好ましく、さらに、75dyne以上であることが望ましい。
【0052】
<ガスバリア性塗膜>
次に、本発明に係るガスバリア性積層フィルムを構成するガスバリア性塗膜について説明する。
本発明のガスバリア性塗膜は、アルコキシドと水溶性高分子を含有するものであり、具体的には、一般式R1nM(OR2)m(式中、Mは金属原子、R1、R2が炭素数1〜8の有機基、nは0以上、mは1以上の整数、n+mはMの原子価を表す)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子を含有する組成物からなる塗工液を、上記無機酸化物の蒸着膜上に塗布し、加熱乾燥処理して形成したものである。
前記塗工液に含まれるアルコキシドは、加水分解、重縮合、それに続く加熱乾燥の処理で、ゾルを経て、固化体であるゲルとなる、いわゆるゾルゲル法によって、溶液中で加水分解、重縮合反応して鎖状或いは三次元樹枝状のポリマーを形成し、乾燥加熱にともなう溶媒等の蒸発によってさらに重合が進行し、高いガスバリア性を持つことになる。
【0053】
上記一般式:R1nM(OR2)mにおける、Mで表される金属原子としては、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウム等が使用でき、好ましくはケイ素である。これらのアルコキシドの用い方としては、単独又は2種以上の異なる金属原子のアルコキシドを同一溶液中に混合して使うこともできる。
【0054】
有機基R1の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等のアルキル基等が挙げられる。また、有機基R2の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基等が挙げられる。同一分子中にこれらアルキル基は同一であっても、異なっていてもよい。
【0055】
アルコキシドの具体例としては、上記一般式:R1nM(OR2)mにおけるnが0であるアルコキシシラン、すなわち、テトラメトキシシランSi(OCH34、テトラエトキシシラン(正珪酸エチル)Si(OC254、テトラプロポキシシランSi(OC374、テトラブトキシシランSi(OC494等や、上記一般式:R1nM(OR2)mにおけるnが1以上であるアルキルアルコキシシラン、すなわち、メチルトリメトキシシランCH3Si(OCH33、メチルトリエトキシシランCH3Si(OC253、ジメチルジメトキシシラン(CH32Si(OCH32、ジメチルジエトキシシラン(CH32Si(OC252等が挙げられる。
【0056】
これらのアルコキシシラン、アルキルアルコキシシランは、単独又は2種以上を混合して用いることもできる。
さらに、アルコキシシランの縮重合物も使用することができ、具体的にはポリテトラメトキシシラン、ポリテトラエメトキシシラン等が挙げられる。
【0057】
また、2種以上のこれらのアルコキシドを混合して用いてもよい。特にアルコキシシランとジルコニウムアルコキシドを混合して用いることによって、得られる積層フィルムの靭性、耐熱性等が向上し、廷伸時のフィルムの耐レトルト性等の低下を回避できる。
また、アルコキシシランとチタニウムアルコキシドを混合して用いることによって、得られる被膜の熱伝導率が低くなり、基材の耐熱性を著しく向上させることができる。
【0058】
本発明においては、上記アルコキシドと共にシランカップリング剤が併用されることが好ましい。シランカップリング剤としては、既知の有機反応性基含有オルガノアルコキシシランが利用できる。特に、エポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好適である。具体的には、例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、及びβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランがある。
このようなシランカップリング剤は2種以上を混合して用いてもよい。このようなシランカップリング剤の使用量は、上記アルコキシシラン100重量部に対して0.1〜20重量部の範囲内である。20重量部以上を使用すると形成される複合ポリマーの剛性と脆性とが大きくなり、複合ポリマー層の絶縁性及び加工性が低下する。
【0059】
また、本発明においては、反応促進のための触媒や、加水分解反応のための水、各組成物が混じり合い易くするための水溶性有機溶媒が適宜用いられる。
本発明においては、ゾルゲル法の触媒として、酸を触媒として用いている。酸はゾルゲル法の触媒、主としてアルコキシドやシランカップリング剤等の加水分解のための触媒として用いられる。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸、ならびに酢酸、酒石酸等の有機酸が用いられる。その使用量は、微量添加することで充分である。
【0060】
本発明においては、水溶性高分子として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどが利用できるが、特に、ポリビニルアルコールを用いることが、ガスバリア性に優れていることから、好ましい。
【0061】
ガスバリア性塗膜形成用の組成物は、有機溶媒を含有することが好ましい。有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等が用いられる。
ポリビニルアルコール等の水溶性高分子は、上記のアルコキシドやシランカップリング剤等を含む塗工液中で溶解した状態であることが好ましく、そのため上記有機溶媒が適宜選択される。
【0062】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、ガスバリア性塗膜の形成方法について、以下に説明する。
まず、上記のアルコキシシラン等のアルコキシド、シランカップリング剤、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂、ゾルゲル法触媒として塩酸、更に、水、有機溶媒を所定の割合で混合してガスバリア性塗膜形成用組成物の塗工液を調製する。ガスバリア性塗膜形成用組成物の塗工液中では次第に重縮合反応が進行する。
【0063】
次いで、基材フィルムの一方の面に設けた無機酸化物蒸着膜のプラズマ処理面の上に、上記のガスバリア性組成物の塗工液を塗布し、加熱処理する。加熱処理により、余分な水や有機溶剤は蒸発し、上記アルコキシド、シランカップリング剤及びポリビニルアルコール系水溶性樹脂の重縮合がさらに進行し、ガスバリア性塗膜が形成される。
【0064】
ガスバリア性塗膜形成用組成物を塗布する方法としては、例えば、グラビアコーター等のロールコート、スプレーコート、スピンコート、ディッピング等の塗装手段により、1回あるいは複数回の塗装で、乾焼膜厚が0.01〜30μm、好ましくは、0.1〜10μmの本発明のガスバリア性塗膜を形成することができる。
【0065】
上記加熱処理は、従来行われている温度条件、150℃〜250℃、好ましくは180℃〜220℃の範囲の温度で、10秒〜10分間、好ましくは20秒〜3分間の範囲で、加熱処理される。
加熱処理によりガスバリア性塗膜内部において、アルコキシド加水分解物と水溶性高分子とが水素結合や化学結合により結合する架橋反応が起こることや、蒸着膜とガスバリア性塗膜とが水素結合や化学結合により強固に密着するなどの変化が塗膜内外で生じると考えられ、ガスバリア性が一層向上する。
さらには、水溶性高分子の膨潤を抑制することができ、水に対する耐性が向上し、結果的に耐水性、防湿性が向上する。
【0066】
<包装材料>
上記のようにして製造した本発明に係るガスバリア性積層フィルムは、例えば、樹脂のフィルム、紙基材、金属素材、合成紙、セロハン、その他の包装材料を構成する包装用基材、ヒートシール性フィルム等と任意に組み合わせて、例えば、通常のラミネート法によりラミネートして種々の積層体を製造し、種々の物品を充填包装するに適した包装袋を製造可能とするものである。
本ガスバリア性積層フィルムを用いた包装材料として、ガスバリア性積層フィルムのガスバリア性塗膜上に、ヒートシール性樹脂層を積層したものについて以下、説明する。
【0067】
<ヒートシール性樹脂層>
ヒートシール性樹脂層を構成するヒートシール性樹脂としては、熱によって溶融し相互に融着し得るものであればよく、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフイン系樹脂、又はこれらの樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマール酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフイン系樹脂等の樹脂の一種ないしそれ以上からなる樹脂のフィルム又はシートを使用することができる。
【0068】
本発明においては、ガスバリア性塗膜上に、例えばラミネート用接着剤層を設け、その上に、上記の樹脂からなるフィルムないしシートをドライラミネートして、ヒートシール性樹脂層を形成することができる。
上記樹脂のフィルム又はシートは、単層ないし多層で使用することができ、また、上記樹脂のフィルム又はシートの厚さとしては、5〜300μm、好ましくは、10〜110μmである。
【実施例】
【0069】
上記の本発明について実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明がこれら実施
例によって限定されるものではない。
各実施例、および比較例において、蒸着膜のプラズマ処理面の表面状態を判断する指標として、プラズマ処理面における水とジヨードメタンの接触角を測定し、該接触角から表面自由エネルギーを算出した。また、得られたガスバリア性積層フィルムについて、ガスバリア性を評価するために、酸素透過度、水蒸気透過度を測定した。
各算出および測定は、以下の要領で実施した。
【0070】
<表面自由エネルギーの算出>
表面自由エネルギーの値は、協和界面科学株式会社製全自動接触角計Drop Master700により20℃、50%RHの条件下で水とジヨードメタンの接触角を測定し、その測定した接触角から解析ソフトウェアFAMASを用いて表面自由エネルギーを算出した。
【0071】
<酸素透過度の測定>
酸素透過度の測定は、得られたガスバリア性積層フィルムを温度23℃、湿度90%RHの条件下で、米国モコン(MOCON)社製の測定機[機種名、オクストラン(OX−TRAN)]を使用し、JIS規格K7126に従い、測定した。
【0072】
<水蒸気透過度の測定>
水蒸気透過度の測定は、得られたガスバリア性積層フィルムを温度40℃、湿度90%RHの条件で、米国モコン(MOCON)社製の測定機[機種名、パーマトラン(PERMATRAN)]を使用して、JIS規格K7129に従い、測定した。
【0073】
(実施例1)
巻き取り式の真空蒸着装置を使用し、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを基材とし、その片面に、アルミニウムを蒸着源に用いて電子ビーム(EB)加熱方式による反応真空蒸着法により、膜厚20nmの酸化アルミニウムの蒸着膜を形成し、次いで、該酸化アルミニウムの蒸着膜形成直後に、該酸化アルミニウムの蒸着膜表面に、インラインでグロー放電プラズマ発生装置を用いて、プラズマ出力1500W、酸素(O2 )とアルゴン(Ar)のガス分圧比がO2:Ar=9:1からなる混合ガスを使用し、混合ガス圧2×10-4Torr、処理速度600mm/minでプラズマ処理を行い、表面自由エネルギーが75dyneのプラズマ処理面を形成した。
【0074】
一方、上記の酸化アルミニウム蒸着膜のプラズマ処理面に塗布する、ガスバリア性塗膜形成用組成物の塗工液については、下記の表1の組成比となるようにして、正珪酸エチル(多摩化学社製)16.00重量部、イオン交換水21.80重量部、イソプロピルアルコール3.90重量部、0.5N規定塩酸水溶液0.50重量部、シランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1.60重量部(東レ・ダウコーニング社製SH6040)からなる組成aの加水分解液に、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製PVA124、けん化度99%、重合度2400)2.30重量部、イソプロピルアルコール2.70重量部、イオン交換水51.20重量部からなる組成bのポリビニルアルコール水溶液を撹拌しながら加え、無色透明のガスバリア性塗膜形成用組成物の塗工液を得た。
【0075】
【表1】

【0076】
そして、上記条件で製造したガスバリア性塗膜形成用組成物の塗工液を、上記した酸化アルミニウム蒸着膜のプラズマ処理面に、グラビアロールコート法により塗布して、次いで、温度200℃で60秒間加熱処理して、厚さ0.2μm(乾操状態)のガスバリア性塗膜を形成して、本発明に係るガスバリア性積層フィルムを得た。
得られたガスバリア性積層フィルムを、上記した各測定装置を用いて、酸素透過度、水蒸気透過度を測定した。その評価結果を表2に示す。
【0077】
(実施例2)
酸化アルミニウムの蒸着膜の表面に、酸素とアルゴンからなる混合ガスを用いてプラズマ処理を施す際に、酸素とアルゴンの分圧比をO2:Ar=7:3として、表面自由エネルギーが72dyneのプラズマ処理面を形成したこと以外は実施例1と同様に処理して、ガスバリア性積層フィルムを得た。
得られたガスバリア性積層フィルムを、上記した各測定装置を用いて、酸素透過度、水蒸気透過度を測定した。その評価結果を表2に示す。
【0078】
(比較例1)
酸化アルミニウムの蒸着膜の表面に、酸素とアルゴンからなる混合ガスを用いてプラズマ処理を施す際における酸素とアルゴンの分圧比をO2:Ar=3:7として、表面自由エネルギーが67dyneのプラズマ処理面を形成したこと以外は実施例1と同様に処理して、ガスバリア性積層フィルムを得た。
得られたガスバリア性積層フィルムを、上記した各測定装置を用いて、酸素透過度、水蒸気透過度を測定した。その評価結果を表2に示す。
【0079】
(比較例2)
酸化アルミニウムの蒸着膜の表面に、酸素とアルゴンからなる混合ガスを用いてプラズマ処理を施す際における酸素とアルゴンの分圧比をO2:Ar=1:9として、表面自由エネルギーが62dyneのプラズマ処理面を形成したこと以外は実施例1と同様に処理して、ガスバリア性積層フィルムを得た。
得られたガスバリア性積層フィルムを上記した各測定装置を用いて、酸素透過度、水蒸気透過度を測定した。その評価結果を表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
表2に示すとおり、酸化アルミニウムの蒸着膜の表面に施す混合ガスによるプラズマ処理において、酸素とアルゴンのガス分圧比の条件を変えることにより、ガスバリア性積層フィルムの酸素及び水蒸気に対するガスバリア性が変化し、特に、酸素とアルゴンのガス分圧比が9:1の場合に高い水蒸気バリア性を得られた。
このガスバリア性の向上は、上記酸素を含む混合ガスによる所定のプラズマ処理を施すことにより、コーティング層に含まれるアルコキシドの加水分解生成物の水酸基と、蒸着膜表面の活性化した酸素が反応して、蒸着膜とコーティング層との密着性がより強固になることによるバリア性向上によるものと考えられる。
【0082】
また、上記、酸素を含む混合ガスによるプラズマ処理を行うことにより、蒸着膜表面に形成されるプラズマ処理面の表面自由エネルギーが向上する。そして、表2に示すとおり、該表面自由エネルギーとガスバリア性積層フィルムのバリア性能には相関があり、表面自由エネルギーが大きいほど、ガスバリア性積層フィルムの水蒸気に対するバリア性は向上する。
すなわち、表面自由エネルギーが67dyne以下の場合には、水蒸気透過度は0.30g/m2・day以上であるが、表面自由エネルギーが72dyneの場合には、水蒸気透過度は0.15g/m2・dayに向上し、さらに、表面自由エネルギーが75dyneの場合には、水蒸気透過度は0.10g/m2・dayにまで達する。
【0083】
上記の結果は、前記表面自由エネルギーを指標にプラズマ処理面を形成することにより、水蒸気等に対し高いバリア性をもつ積層フィルムを安定して製造することが可能なことを示している。すなわち、プラズマ処理の条件は、製造装置の機差や、対象物の材質、大きさ等の影響を受け、その最適条件は変動し易く、各因子と効果の関係を解明することに困難性を伴う場合が多いが、上記のように表面自由エネルギーを指標にプラズマ条件を設定することにより、機差等の影響を排除して、高いバリア性をもつ積層フィルムを安定した品質で製造することができることを示している。
なお、酸素ガスによるプラズマ処理で蒸着膜表面の自由エネルギーが向上するのは、表面の水酸基量が増加することも要因として挙げられる。
【0084】
本発明においては、実施例1及び実施例2に示すように、蒸着膜表面に形成されたプラズマ処理面の表面自由エネルギーが、特に、70dyne以上において、水蒸気透過度が0.3g/m2・day未満となる高い水蒸気バリア性を有するガスバリア性積層フィルムを製造することができた。
【0085】
本発明に係るガスバリア性積層フィルムは、無機酸化物の蒸着膜を保護する保護薄膜としてガスバリア性塗膜が作用し、該無機酸化物の蒸着膜の損傷等によるバリア性の低下等を防止し、かつ、透明性に優れているという効果に加え、無機酸化物の蒸着膜表面に所定のプラズマ処理を施すことによって、蒸着層表面の改質と、蒸着層とガスバリア性塗膜との反応性促進の相乗効果により、酸素ガスや水蒸気等に対するガスバリア性に優れ、かつ、高温多湿下でも優れたガスバリア性を維持でき、従来の蒸着膜からなるガスバリア性積層フィルムでは得られない優れたガスバリア性を得ることができるものである。
【0086】
本発明においては、上記の実施例1及び実施例2に示すように、蒸着膜表面に形成されたプラズマ処理面の表面自由エネルギーが、70dyne以上において、水蒸気透過度が0.3g/m2・day未満となる高い水蒸気バリア性を有するガスバリア性積層フィルムを製造することができた。
また、本発明に係るガスバリア性積層フィルムの製造方法においては、蒸着膜表面に施す酸素を含む混合ガスによるプラズマ処理で形成されたプラズマ処理面の表面自由エネルギーを指標とすることで、容易に別の製造装置等の制御にも展開でき、ガスバリア性積層フィルムの生産性を向上させることができるものである。
また、優れたガスバリア性と柔軟性とを有するので、包装材料として有用であり、特に
食品包装用フィルム、産業資材用フィルムとして好適に使用される。
【符号の説明】
【0087】
1 ガスバリア性積層フィルム
2 基材フィルム
3 蒸着膜
4 プラズマ処理面
5 ガスバリア性塗膜
11 巻き取り式真空蒸着装置
12 真空チャンバー
13 巻き出しロ−ル
14、15 ガイドロ−ル
14´、15´ ガイドロ−ル
16 コ−ティングドラム
17 蒸着源
18 るつぼ
19 酸素吹き出し口
20 マスク
21 巻き取りロ−ル
22 プラズマ処理ユニット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムからなる基材フィルムの一方の面に、
無機酸化物からなる蒸着膜を形成し、
該蒸着膜の表面に、酸素ガスを含む混合ガスによるグロー放電プラズマ処理を行うことにより、表面自由エネルギーが70dyne以上のプラズマ処理面を形成し、
該プラズマ処理面に、一般式R1nM(OR2)m(式中、R1、R2は炭素数1〜8の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価である)で表される1種又はそれ以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂と、酸触媒とを含有する混合溶液からゾルゲル法によって得られるガスバリア性組成物の塗工液を塗布してコーティング層を形成し、
続いて、該コーティング層を加熱乾燥処理して、ガスバリア性塗膜を形成することを特徴とするガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記酸素ガスを含む混合ガスによるグロー放電プラズマ処理を、前記蒸着膜を形成する工程の直後に、インラインで行うことを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記酸素ガスを含む混合ガスによるグロー放電プラズマ処理が、酸素とアルゴンのガス分圧比が7:3〜9:1からなる混合ガスによるグロー放電プラズマ処理であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記混合ガスによるグロー放電プラズマ処理が、プラズマ出力1000〜2000W、混合ガス圧1×10-3〜1×10-5Torr、処理速度500〜700mm/minで処理することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記無機酸化物からなる蒸着膜が、アルミニウムを蒸着源に用いて電子ビーム(EB)加熱方式による反応真空蒸着法により形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項6】
プラスチックフィルムからなる基材フィルムの一方の面に、
無機酸化物からなり、表面自由エネルギーが70dyne以上のプラズマ処理面を有する蒸着膜と、
一般式R1nM(OR2)m(式中、R1、R2は炭素数1〜8の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価である)で表される1種又はそれ以上のアルコキシドまたは/およびその加水分解物と、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂と、酸触媒とを含有し、加熱乾燥してなるガスバリア性塗膜が、
順次積層されていることを特徴とするガスバリア性積層フィルム。
【請求項7】
前記蒸着膜が、酸化アルミニウムからなる蒸着膜であることを特徴とする請求項6に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項8】
前記アルコキシドが、テトラエトキシシランであることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項9】
前記ポリビニルアルコール系水溶性樹脂が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項10】
前記酸触媒が、塩酸であることを特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項11】
前記ガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が、23℃、90%RHの雰囲気下で、酸素透過度0.1cc/m2・day・atm以下であり、かつ、40℃、90%RHの雰囲気下で、水蒸気透過度0.15g/m2・day以下であることを特徴とする請求項6乃至請求項10のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項12】
請求項6乃至請求項11のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムのガスバリア性塗膜上に、ヒートシール性樹脂層を積層したことを特徴とする包装材料。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−201618(P2010−201618A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46204(P2009−46204)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】