説明

ガラスセラミック焼結体およびその製造方法並びに配線基板

【課題】熱膨張係数が大きく、開気孔率の低いガラスセラミックス焼結体、およびその製造方法を提供することである。
【解決手段】クォーツ結晶とCeO結晶とガラス相とを主成分とする焼結体からなり、前記主成分が前記クォーツ結晶を40〜65質量%および前記CeO結晶を1〜10質量%含有し、残部を前記ガラス相が占めることを特徴とし、特に、前記主成分の組成割合がSiをSiO換算で50〜70質量%、BaをBaO換算で15〜35質量%、CeをCeO換算で1〜10質量%、BをB換算で1〜8質量%、AlをAl換算で1〜8質量%およびCaをCaO換算で1〜8質量%であることを特徴とするガラスセラミック焼結体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミック焼結体およびその製造方法並びに配線基板に関し、電気素子を実装し、プリント樹脂基板に接続される電子部品に好適に用いられる、実装信頼性に優れたガラスセラミック焼結体、および、その製造方法、並びに、配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子機器等に使用される配線基板は絶縁基板の表面あるいは内部にメタライズ配線層が配設された構造を採用している。また、このような配線基板を用いた回路機器の代表例として、電気素子、特にLSI(大規模集積回路素子)等の半導体集積回路素子を収容した電気素子収納用パッケージが挙げられる。
【0003】
電気素子収納用パッケージは、上面中央部に電気素子を搭載する絶縁基板と、電気素子に接続されて素子の周囲から下面にかけて導出される複数個のメタライズ配線層と、絶縁基板の側面または下面に形成されてメタライズ配線層が電気的に接続される複数個の接続端子と、蓋体とから構成され、絶縁基板上面に蓋体をガラス、樹脂等の封止材を介して接合し、絶縁基板と蓋体とから成る容器内部に半導体を気密に封止することによって形成される。そして、電気素子収納用パッケージは、外部回路基板と複数の接続端子を介して電気的に接続される。
【0004】
電気素子収納用パッケージに用いる絶縁基板として、アルミナやムライト等の焼結体が用いられていたが、これらの焼結体は1200度以上の温度で焼成しなければならないため、1050度程度で溶融するCu、Ag等の低導体抵抗の金属を主成分としたメタライズ配線層を絶縁基板と同時焼成して使用することができなかった。Cu、Ag等の低導体抵抗の金属を主成分としたメタライズ配線層を絶縁基板と同時焼成して使用するために、1050℃以下の低温で焼結が可能であるガラスセラミック焼結体も絶縁基板として用いられるようになってきている。
【0005】
外部回路基板としてはプリント樹脂基板が用いられることが多く、プリント樹脂基板の0〜150℃における熱膨張係数は14〜20×10−6/℃である。電気素子収納用パッケージと外部回路基板との接続信頼性を高めるために、電気素子収納用パッケージの熱膨張係数と外部回路基板の熱膨張係数の差を小さくすることが求められている。すなわち、ガラスセラミック焼結体の熱膨張係数はプリント樹脂基板の熱膨張係数よりも小さいので、ガラスセラミック焼結体の熱膨張係数を大きくすることが要求されている。
【0006】
そこで、全量中にSiをSiO換算で55〜70質量%と、BaをBaO換算で20〜40質量%と、BをB換算で1〜5質量%と、AlをAl換算で1〜8質量%と、ZrをZrO換算で0質量%より多く7質量%以下との割合で含有するガラスセラミック焼結体で、該組成物中にクォーツ結晶を30質量%以上含ませることにより、熱膨張係数11.3〜13.0×10−6/℃と大きくしたガラスセラミック焼結体からなる絶縁基板を用いた配線基板が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開2002−137960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のガラスセラミック焼結体では、熱膨張係数を13.0×10−6/℃程度まで高くできるものの、さらに熱膨張係数を高くしてプリント樹脂基板の熱膨張係数に近づけようとしてクォーツ結晶含有量を増やすと、ガラスセラミック焼結体の焼結性が低下して含水率が高くなり、耐湿信頼性が悪くなるという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、熱膨張係数が大きく、開気孔率の低いガラスセラミックス焼結体を提供することである。また、本発明の他の目的は、熱膨張係数が大きく、開気孔率の低いガラスセラミックス焼結体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のガラスセラミック焼結体は、クォーツ結晶とCeO結晶とガラス相とを主成分とする焼結体からなり、前記主成分が前記クォーツ結晶を40〜65質量%および前記CeO結晶を1〜10量%含有し、残部を前記ガラス相が占めることを特徴としたものである。
【0010】
前記主成分の組成割合が、SiをSiO換算で50〜70質量%、BaをBaO換算で15〜35質量%、CeをCeO換算で1〜10質量%、BをB換算で1〜8質量%、AlをAl換算で1〜8質量%およびCaをCaO換算で1〜8質量%であることが好ましい。
【0011】
ガラスセラミック焼結体は、40〜400℃における熱膨張係数が9〜18×10―6/℃であることを特徴とする請求項1または2記載のガラスセラミック焼結体。
【0012】
本発明のガラスセラミック焼結体の製造方法は、クォーツ結晶からなるフィラー40〜65質量%とCeを含むガラス粉末35〜60質量%とを主成分とする成形体を焼成し、ガラスセラミック焼結体中に1〜10質量%のCeO結晶を生成することを特徴とするものである。
【0013】
前記ガラス粉末は、SiをSiO換算で15〜50質量%、BaをBaO換算で25〜60質量%、CeをCeO換算で1.5〜15質量%、BをB換算で1〜15質量%、AlをAl換算で1〜15質量%およびCaをCaO換算で1〜15質量%の割合で含有することが好ましい。
【0014】
なお、ここでのガラス粉末の組成比は、ガラスセラミック焼結体の原料であるフィラーとガラスの内のガラスの組成比のことであり、ガラスセラミック焼結体全体に対する組成比とは異なる。
【0015】
本発明の配線基板は、前記ガラスセラミック焼結体からなる絶縁基板の表面および内部の少なくとも一方にメタライズ配線層が配設されてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のガラスセラミック焼結体は、クォーツ結晶とCeO結晶とガラス相を主成分とする焼結体で、前記主成分が前記クォーツ結晶を40〜65質量%および前記CeO結晶を1〜10質量%含有し、残部を前記ガラス相が占めることにより、熱膨張係数の大きいクォーツ結晶に加えて熱膨張係数の大きいCeO結晶を含有することによりガラスセラミック焼結体の熱膨張係数を大きくすることができる。また、クォーツ結晶を65質量%以下とすることができるため、クォーツ結晶が多いことによりガラスセラミック焼結体の焼結性が低下することがなく、ガラスセラミックス焼結体の気効率を低くできる。
【0017】
本発明のガラスセラミック焼結体の製造方法は、クォーツ結晶からなるフィラー40〜65%とCeを含むガラス粉末を混合、焼成して、前記ガラスから1〜10質量%のCeO結晶を生成させることにより、フィラーを増やしてガラスセラミック焼結体の焼結性が低下して開気孔率が高くなることなしに、ガラスセラミック焼結体に熱膨張係数の大きいクォーツ結晶と熱膨張係数が大きいCeO結晶とが含有されるようにできるため、ガラスセラミック焼結体の熱膨張係数を大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のガラスセラミック焼結体は、クォーツ結晶とCeO結晶とガラス相とを主成分とする焼結体からなり、前記主成分がクォーツ結晶を40〜65質量%およびCeO結晶を1〜10質量%含有し、残部を前記ガラス相が占めることが重要である。
【0019】
本発明のガラスセラミック焼結体の主成分は、熱膨張係数の大きいクォーツ結晶40〜65質量%に加えて熱膨張係数の大きいCeO結晶1〜10質量%を含有することによりガラスセラミック焼結体の熱膨張係数を大きくすることができる。
【0020】
クォーツ結晶は、ガラスセラミック焼結体の熱膨張係数を大きくするために、さらには45質量%以上、より好適には50質量%以上であることが好ましい。また、クォーツ結晶が65質量%以下にすることにより、焼結に関与しないクォーツ結晶の量が多くなることがなく、ガラスセラミック焼結体の焼結性が良くなり、ガラスセラミック焼結体の開気孔率が低くなる。
【0021】
CeO結晶は、ガラスセラミック焼結体の熱膨張係数を大きくするために、さらには4質量%以上、より好適には5質量%以上であることが好ましい。また、CeO結晶が10質量%より少ないことから、熱膨張係数を大きなクリストバライト等のSiO結晶の析出を阻害することがない。
【0022】
ガラスセラミック焼結体を絶縁基板として用いて、メタライズ配線層を配設して配線基板を作成する場合は、ガラスセラミック焼結体の誘電率を低くすると、電気信号の伝搬速度を容易に速くしたり、配線間のクロストークを容易に減らしたりできるため、誘電率は6.5以下、特に6.0以下、さらに5.5以下であること好ましい。CeO結晶が少ないことによりガラスセラミック焼結体の誘電率は低くなるため、CeO結晶は8質量%以下、特には6質量%以下であることが好ましい。
【0023】
なお、本発明における各結晶の含有比率は、磁器のX線回折測定から各結晶のピーク強度に基づいてリートベルト法(泉富士夫ら 日本結晶学会誌 34(1992)76等参照)によって算出される値を指す。
【0024】
本発明のガラスセラミック焼結体のクォーツ結晶とCeO結晶とガラス相とからなる主成分の組成割合は、SiをSiO換算で50〜70質量%、BaをBaO換算で15〜35質量%、CeをCeO換算で1〜10質量%、BをB換算で1〜8質量%、AlをAl換算で1〜8質量%およびCaをCaO換算で1〜8質量%であることが好ましい。
【0025】
ここで、SiO量が50質量%以上であることにより、ガラスセラミック焼結体の熱膨張係数をさらに容易に高めることができる、また、SiO量が70質量%以下であることにより、1050℃以下の焼成によってガラスセラミック焼結体の開気孔率を低くすることができ、耐水性、耐薬品性、強度等をさらに高くすることが容易になる。SiO量のより望ましい範囲は55〜65質量%である。
【0026】
また、BaO量が15質量%以上であることにより、1050℃以下の焼成によってガラスセラミック焼結体の開気孔率をさらに容易に低くすることができる。また、BaO量が35質量%以下であることにより、ガラスセラミック焼結体の誘電率を容易に低くすることができ、ガラスセラミック焼結体を絶縁基板として用いて、メタライズ配線層を配設して配線基板を作成する場合に、電気信号の伝搬速度をさらに容易に速くしたり、配線間のクロストークをさらに容易に減らしたりすることができる。BaO量のより望ましい範囲は20〜30質量%である。
【0027】
さらに、B量が1質量%以上であることにより、1050℃以下の焼成によってガラスセラミック焼結体の開気孔率をさらに容易に低くすることができる。また、B量が8質量%以下であることにより、ガラスセラミック焼結体の強度を容易に高くしたり、熱サイクルによってガラスセラミック焼結体の強度の低下を容易に少なくしたりできる。B量のより望ましい範囲は4〜6質量%である。
【0028】
さらにまた、Al量が1質量%以上であることにより、ガラスセラミック焼結体の強度を容易に高くしたり、熱サイクルによってガラスセラミック焼結体の強度の低下を容易に少なくしたりできるとともに、ガラスセラミック焼結体の耐薬品性を容易に向上でき、メッキ処理等によってガラスセラミック焼結体の表面から浸食を抑制できる。また、Al量が8質量%以下であることにより、1050℃以下の焼成によってガラスセラミック焼結体の開気孔率を低くするこができる。Al量のより望ましい範囲は3〜6質量%である。
【0029】
またさらに、CaO量が1質量%以上であることにより、1050℃以下の焼成によってガラスセラミック焼結体の開気孔率をさらに容易に低くすることができる。また、CaO量が8質量%以下であることにより、ガラスセラミック焼結体の誘電率を容易に低くすることができ、ガラスセラミック焼結体を絶縁基板として用いて、メタライズ配線層を配設して配線基板を作成する場合に、電気信号の伝搬速度をさらに容易に速くしたり、配線間のクロストークをさらに容易に減らしたりすることができる。CaO量のより望ましい範囲は2〜5質量%である。
【0030】
さらにまた、本発明のガラスセラミック焼結体によれば、上記成分に加えて、ZrをZrO換算で7質量%以下、特に3質量%含有させてもよく、ZrOは、ガラスセラミック焼結体の耐薬品性をさらに容易に向上させ、熱サイクル後のガラスセラミック焼結体の強度低下を強度の低下を容易に少なくできる。
【0031】
またさらに、本発明のガラスセラミック焼結体によれば、上記成分に加えて、MgをMgO換算で10質量%以下、特に2質量%以下、YをY換算で10質量%以下、特に2質量%以下の割合で、これらの少なくとも1種を含有させてもよく、これら成分は、ガラスセラミック焼結体の開気孔率を低くするとともに、ガラスセラミック焼結体中の非晶質相の比率を低減して結晶化を促進する働きをし、結晶化が進むことにより機械的強度をさらに容易に高くできる。
【0032】
ガラスセラミック焼結体を絶縁基板として用いて、メタライズ配線層を配設して配線基板を作成して、プリント樹脂基板からなる外部回路基板と接続して使用する場合には、配線基板の熱膨張係数と外部回路基板の熱膨張係数の差により生じる応力を少なくでき、配線基板と外部回路基板の接続信頼性をより向上させるには、ガラスセラミック焼結体の40〜400℃における熱膨張係数は9〜18×10−6/℃、特に12〜14×10−6/℃が好ましい。
【0033】
なお、本発明における熱膨張係数は、JIS R3102に準拠して測定したものであるが、測定対象物からJIS R3102に定められた寸法の試験片が作成できない場合は、長さを測定する部分の寸法と定められた寸法との差が小さくなるように直方体、または、円柱を測定対象物から切り出し、長さを測定する部分の両端面を研磨により平行にして試験片とすればよい。
【0034】
また、抗折強度、耐薬品性、耐水性、熱伝導率、絶縁抵抗の点で、ガラスセラミック焼結体の相対密度が90%以上、特に95%以上、さらに98%以上であることが望ましい。
【0035】
次に、本発明のガラスセラミック焼結体の製造方法について説明する。なお、以下でガラス成分について述べるが、ガラスの組成比は、ガラスセラミック焼結体の原料であるフィラーとガラスの内のガラスの組成比のことであり、ガラスセラミック焼結体全体に対する組成比とは異なる。
【0036】
まず、Si、Ba、Ce、B、Alが上記の比率で含有されるよう出発原料を調整すればよい。1050℃以下の焼成ではクォーツ結晶はほとんど生成されないため、ガラスセラミック焼結体中にクォーツ結晶を含有させるためには、クォーツ結晶からなるフィラーを用いることが重要である。
【0037】
クォーツ結晶からなるフィラーが少ないとガラスセラミック焼結体の熱膨張係数が低くなるためクォーツ結晶からなるフィラーは40質量%以上とすることが重要であり、45質量%とするのが好ましい。クォーツ結晶以外の出発原料はガラスとフィラーの混合物であっても、ガラスであってもよいが、フィラーの比率は高くなるとガラスセラミック焼結体の焼結性が低くなり、ガラスセラミック焼結体の開気孔率が高くなってしまうため、フィラーの比率が65質量%以下であること重要である。すなわち、クォーツ結晶からなるフィラーの比率が65質量%以下であることが重要である。焼結性を高くするためにはフィラーの比率が60質量%以下であることがより好ましい。すなわち、クォーツ結晶からなるフィラーの比率が60質量%であることがより好ましい。
【0038】
ガラスセラミック焼結体の焼結性を高くするためには、ガラスとしてCeを含むものを用いることが重要である。ガラスセラミック焼結体の焼成中にガラスが軟化流動しフィラーの間をうめていくことにより、出発原料は体積収縮してガラスセラミック焼結体となるが、ガラスのCe成分は、軟化流動時にはガラス成分として働くことにより焼結に寄与し、その後の焼成によりCeO結晶として析出するためて、ガラスセラミック焼結体の熱膨張係数を高くすることができる。
【0039】
ガラス成分としては、例えば平均粒径0.5〜10μmのホウケイ酸亜鉛系ガラス、ホウケイ酸鉛系ガラス、リチウム珪酸系ガラス、PbO系ガラス、ZnO系ガラス、BaO系ガラス等が用いられる他、ガラスセラミック焼結体の熱膨張係数をさらに容易に高くするためには、焼成によりガラス中から珪酸バリウムを析出可能なBaO系結晶化ガラスを使用することが望ましい。
【0040】
なお、BaO系ガラスの具体的な組成としては、低温焼成化、結晶化度の向上の点で、例えば、SiをSiO換算で15〜50質量%と、BaをBaO換算で25〜60質量%と、CeをCeO換算で1.5〜15質量%と、BをB換算で1〜15質量%と、AlをAl換算で1〜15質量%と、CaをCaO換算で1〜15質量%の割合で含有するガラスが望ましい。さらに、上記組成のガラス中にBaO以外のアルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属酸化物、希土類元素酸化物、Sb、Biを総量で5質量%以下、特に3質量%以下の比率で含む場合もある。
【0041】
また、上記ガラス以外または上記ガラスに加えて、リチウム珪酸系ガラス、PbO系ガラス、ZnO系ガラス、ホウケイ酸亜鉛系ガラス、ホウケイ酸鉛系ガラスを用い、珪酸バリウム結晶等をセラミックフィラーとして添加することも可能である。
【0042】
リチウム珪酸系ガラスとしては、LiOを5〜30質量%、特に5〜20質量%の割合で含有するものであり、焼成後に高熱膨張係数を有するリチウム珪酸を析出するものが好適に使用される。また、上記のリチウム珪酸系ガラスとしては、LiO以外にSiOを必須の成分として含むが、SiOはガラス全量中、60〜85質量%の割合で存在し、SiOとLiOとの合量がガラス全量中、65〜95質量%であることがリチウム珪酸結晶を析出させる上で望ましい。また、これらの成分以外に、Al、MgO、TiO、B、NaO、KO、P、ZnO、F等が配合されていてもよい。
【0043】
PbO系ガラスとしては、PbOを主成分とし、さらにB、SiOのうちの少なくとも1種を含有するものであり、焼成後にPbSiO、PbZnSiO等の高熱膨張の結晶相が析出するものが好適に使用される。
【0044】
ZnO系ガラスとしては、ZnOを10質量%以上含有するものであり、焼成後にZnO・Al、ZnO・nB等の高熱膨張係数の結晶相が析出するものが好適に使用される。ZnO成分以外に、SiO(60質量%以下)、Al(60質量%以下)、B(30質量%以下)、P(50質量%以下)、アルカリ土類酸化物(20質量%以下)、Bi(30質量%以下)等が配合されていてもよい。とりわけZnO10〜50質量%−Al10〜30質量%−SiO30〜60質量%から成る結晶性ガラスやZnO10〜50質量%−SiO5〜40質量%−Al0〜15質量%−BaO0〜60質量%−MgO0〜35質量%から成る結晶性ガラスが望ましい。
【0045】
フィラーの成分は、前述のように1050℃以下の焼成温度でガラスセラミック焼結体中にクォーツ結晶を含有させるために、クォーツ結晶が必須であり、その量はガラスセラミック焼結体全体に対して30〜65質量%である。また、フィラーとして珪酸バリウム、BaO、BaCO等の粉末を添加することができる。なお、BaOから珪酸バリウムに変換させるためには、例えば、フィラーとしてクォーツ結晶以外に、非晶質SiO、クリストバライト、トリジマイト等の他のSiO系フィラーとともに添加して、BaOとSiOとを反応させて珪酸バリウムを生成析出させればよい。なお、フィラーの平均粒径0.2〜15μm、特に0.5〜10μmであることが望ましい。
【0046】
その他のフィラー成分としては、上記以外に、Al、MgO、ZrO、フォルステライト(2MgO・SiO)、スピネル(MgO、Al)、ウォラストナイト(CaO・SiO)、モンティセラナイト(CaO・MgO・SiO)、ネフェリン(NaO・Al・SiO)、リチウムシリケート(LiO・SiO)、ディオプサイド(CaO・MgO・2SiO)、メルビナイト(2CaO・MgO・2SiO)、アケルマイト(2CaO・MgO・2SiO)、カーネギアイト(NaO・Al・2SiO)、エンスタタイト(MgO・SiO)、ホウ酸マグネシウム(2MgO・B)、セルシアン(BaO・Al・2SiO)、B・2MgO・2SiO、ガーナイト(ZnO・Al)、CaTiO、BaTiO、SrTiO、TiO、CeO等の他のセラミックフィラーを総量で15質量%以下、特に10質量%以下の割合で添加することもできる。
【0047】
そして、上述した成分からなるガラスとフィラーとの混合物に対して、適当な成形のための有機樹脂バインダーを添加した後、所望の成形手段、例えば金型プレス、冷間静水圧プレス、射出成形、押し出し成形、ドクターブレード法、カレンダーロール法、圧延法等により任意の形状に成形する。
【0048】
次に、上記の成形体の焼成にあたっては、まず、成形のために配合した有機樹脂バインダーを除去する。有機樹脂バインダーの除去は、700℃前後の大気または窒素雰囲気中で行われるが、配線導体層として、例えばCuを用いる場合には、100〜700℃の水蒸気を含有する窒素雰囲気中で行われる。この時、成形体の収縮開始温度は700〜850℃程度であることが望ましく、かかる収縮開始温度をこれより高くすることにより有機樹脂バインダーの除去がより容易になる。
【0049】
焼成は、酸化性雰囲気または非酸化性雰囲気中で行われ、特にガラスセラミック焼結体中のガラスの結晶化度を高くし、磁器中の開気孔率を低くするとともに、特に銅の配線導体層と同時焼成する場合においてもガラスの軟化挙動をCu導体層に近似させて絶縁基板の反りを抑制するために、昇温速度20〜350℃/hr、特に50〜250℃/hr、さらに50〜100℃/hrで、焼成温度800〜1050℃、特に850〜970℃、さらに920〜950℃で、0.5〜5hr、特に1.5〜3hr焼成することによってガラスセラミック焼結体を緻密化でき本発明のガラスセラミック焼結体を作製することができる。CeOは、ガラスの網目構造のネットワークに取り込まれることでガラス化しており、ガラス転移温度以上で焼成することで、ガラスの網目構造の再配列に伴い結晶化する。
【0050】
この時の焼成温度が1050℃を越えるとCu等の配線導体層との同時焼成で導体層が溶融してしまう。なお、Cu等の配線導体と同時焼成する場合には、非酸化性雰囲気中で焼成すればよい。
【0051】
また、本発明のガラスセラミック焼結体は上述したガラスを用いる方法以外にも、上述した各成分の酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の原料を混合して、成形し、焼成する方法、ゾル−ゲル法、水熱合成法等を用いる方法等も適応可能であるが、この場合でも、1050℃以下での焼成によってクォーツ結晶をガラスセラミック焼結体中に含有させるために成形体中にクォーツ粉末を添加することが重要である。
【0052】
このようにして作製された本発明のガラスセラミック焼結体は、40〜400℃における熱膨張係数が9〜18×10−6/℃、特に12〜14×10−6/℃であるために、配線基板やパッケージの絶縁基板として用いた場合、PCボード等のプリント樹脂基板の外部回路基板への実装した際の熱膨張差に起因する熱応力の発生を容易に抑制することができる。
【0053】
次に、前記ガラスセラミック焼結体を絶縁基板として用いた本発明の配線基板を添付図面に基づき具体的に説明する。
【0054】
図1は、本発明の配線基板の好適例である電気素子収納用パッケージを外部回路基板に実装した構造の一例を示す断面図である。
【0055】
図1において、Aは配線基板、Bは外部回路基板である。本発明の配線基板Aは、絶縁基板1とメタライズ配線層2およびメタライズ配線層で形成された電極パッド3で構成されている。
【0056】
なお、メタライズ配線層2は低抵抗導体であるCuまたはAgを主とすることが望ましく、特に純度99%以上の高純度金属導体からなること、さらには微細配線化、低抵抗化の点で金属箔からなることが望ましい。また、絶縁基板1の表面に存在するメタライズ配線層2の表面にはニッケル、銅および金の群から選ばれる少なくとも1層のメッキ層を形成することが望ましい。
【0057】
絶縁基板1には、図に示すように複数の絶縁層1a〜1dを積層したものでもよいし、一体的なバルク体でもよい。また、配線基板Aには、図に示すように電気素子等を実装するキャビティ5が形成されていてもよい。
【0058】
配線基板Aは、例えば、半導体素子等の電気素子6が接着剤を介して接着固定され、ボンディングワイヤー7で電気素子6とメタライズ配線層2が電気的に接続され、蓋体8によりキャビティ内部を気密にして、電気素子6が実装される。
【0059】
さらに、配線基板Aは、例えば、図2に示す多数の接続端子4が設けられており、接続端子4はメタライズ配線層2と電気的に接続されている。この接続端子4は、電極パッド3に対して半田(錫−鉛合金)等のロウ材から成る突起状端子9が取着された構造から成る。突起状端子9外部回路基板のB表層配線10に電気的に接続される。
【0060】
外部回路基板Bは、有機樹脂を含む材料から成るガラスーエポキシ樹脂の複合材料等から構成される絶縁体9の表面に、Cu、Au、Al、Ni、Pb−Sn等の金属から成る配線導体10が被着形成された一般的なプリント樹脂基板である。
【0061】
配線基板Aを外部回路基板Bに実装するには、配線基板Aの絶縁基板1下面の電極パッド3に取着されている半田から成る突起状端子9を外部回路基板Bの配線導体10上に載置当接させ、しかる後、約250〜400℃の温度で加熱することにより、半田等のロウ材から成る突起状端子9自体が溶融し、配線導体10に接合させることによって外部回路基板B上に実装させる。この時、配線導体10の表面には接続端子4とのロウ材による接続を容易に行うためロウ材が被着形成されていることが望ましい。
【0062】
本発明によれば、絶縁基板1が40〜400℃における熱膨張係数が9〜18×10−6/℃のガラスセラミック焼結体からなることによって、PCボード等のプリント樹脂基板の外部回路基板への実装した際の熱膨張差に起因する熱応力の発生を抑制することができる。また、ガラスセラミック焼結体の開気孔率が低いことにより、耐湿信頼性が確保される。
【0063】
接続端子4の構造は図2で示す構造でもよい。に接続端子4として電極パッド3に対して高融点材料から成る球状端子11を低融点ロウ材12によりロウ付けしたものが適用できる。この高融点材料は、ロウ付けに使用される低融点ロウ材12よりも高融点であることが必要で、ロウ付け用の低融点ロウ材12が、例えばPb40質量%−Sn60質量%の低融点半田から成る場合、球状端子11は、例えばPb90質量%−Sn10質量%の高融点半田や、Cu、Ag、Ni、Al、Au、Pt、Fe等の金属により構成される。
【0064】
かかる構成においてはパッケージAの絶縁基板1下面の電極パッド7に取着されている球状端子11を外部回路基板Bの配線導体10に載置当接させ、しかる後、球状端子11を半田等の低融点ロウ材13により配線導体10に当設させて外部回路基板B上に実装することができる。また、低融点ロウ材13としてAu−Sn合金を用いて接続端子4を外部回路基板Bに接続しても良く、さらに上記球状端子11に替えて柱状の端子を用いてもよい。
【実施例】
【0065】
原料として表1に示す組成比率になるようにフィラーとガラス粉末を準備した。ただし、フィラーは平均粒径5μmのクォーツ結晶粉末であり、ガラス粉末は前記クォーツ結晶粉末を含めた原料の全組成の比率が表1のSiO、BaO、CeO、B、Alの比率になるようにSiO、BaCO、CeO、B、Al、からガラスを作製し、平均粒径3μmに粉砕したものである。
【0066】
前記原料粉末に有機樹脂バインダーを添加して、充分に混合した後、得られた混合物を一軸プレス成形により、直径35mm、高さ15mmの円柱形状の成形体を作製した。そして、この成形体を700℃のN+HO雰囲気中で脱バインダー処理し、窒素雰囲気中で100℃/hrで950℃まで昇温し、950℃で1時間キープして焼成して10個のサンプルを作製した。
【0067】
各サンプルのガラスセラミック焼結体に対して、X線回折測定を行い、検出された結晶の同定を行うとともに、リートベルト法によってクォーツ結晶とCeO結晶の量を算出した。
【0068】
また、開気孔率をJIS R1634に準拠して測定した測定した。開気孔率は1%以下を合格とした。
【0069】
さらに、40〜400℃の範囲で熱膨張係数を測定し、さらに、空洞共振器法によって1MHzでの誘電率を測定した。なお、誘電率としては6.5以下が望ましい範囲である。
【0070】
またさらに、蛍光X線で各元素の含有量を測定した。測定結果は原料組成比率と同じであった。
【0071】
また、表1に示す原料粉末に有機樹脂バインダーと溶剤を混合してスラリーを作製し、前記スラリーをドクターブレード法で成形し、厚み300μmのグリーンシートを作製した。前記グリーンシートの表面にCuメタライズペーストをスクリーン印刷法で塗布した。また、グリーンシートの所定箇所にスルーホールを形成しその中にもCuメタライズペーストを充填した。そして、メタライズペーストが塗布されたグリーンシートをスルーホール間で位置合わせしながら6枚積層し圧着して積層体を作製した。そして、前記積層体を700℃のN+HO雰囲気中で脱バインダー処理し、窒素雰囲気中で100℃/hrで950℃まで昇温し、950℃で1時間キープして焼成した。
【0072】
次に、配線基板の下面に設けられた電極パッドに図2に示すようにPb90質量%、Sn10質量%から成る球状半田ボール(球状端子)を低融点半田(ロウ材)(Pb37%−Sn63%)により取着した。なお、接続端子は、1cm当たり30端子の密度で配線基板の下面全体に形成した。
【0073】
そして、この配線基板を、ガラス−エポキシ基板から成る絶縁体の表面に銅箔から成る配線導体が形成された40〜150℃における熱膨張係数が16×10−6/℃のプリント樹脂基板表面に実装した。実装は、プリント樹脂基板の上の配線導体と配線基板の球状端子とを位置合わせし、低融点半田(ロウ材)(Pb37%−Sn63%)によって接続実装した。
【0074】
次に、上記のようにしてパッケージ用配線基板をプリント樹脂基板表面に実装したものを大気の雰囲気で−40℃と125℃の各温度に制御した恒温槽に試験サンプルを15分/15分の保持を1サイクルとして最高1000サイクルまで繰り返した。そして、100サイクル毎にプリント樹脂基板の配線導体とパッケージ用配線基板との電気抵抗を測定し最大1000サイクルまで測定した。電気抵抗が初期値に対して20%以上高くなった場合を不良とし、その結果を表1に示す。なお、結果は、100〜200サイクルの試験後の測定で不良が生じていた場合を200サイクルと表した。
【表1】

【0075】
本発明の試料No.1〜4、10、11、14、15、17および18は、温度サイクル1000回終了時に不良が発生せず、また、開気孔率は1%以下となった。
【0076】
一方、本発明の範囲以外の試料No.5〜9、12、13および16は電気抵抗増加の不良が温度サイクル1000回未満で発生した。これは、ガラスセラミックス焼結体の熱膨張係数が低く、ガラスセラミックス焼結体の熱膨張係数と外部回路基板の熱膨張係数の差による応力が大きくなり不良が発生したか、開気孔率の高いことから判るようにガラスセラミックス焼結体の焼結性が低く、ガラスセラミックス焼結体の強度が低いため、少ない熱応力で不良が発生したものである。
【0077】
本発明の範囲以外の試料No.5〜9、12、13および16に対して、試料No.1〜4、10、11、14、15、17および18は、開気孔率が低く、熱膨張係数が高くなっており、プリント樹脂基板と接続した場合の接続信頼性を高くすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の配線基板を外部回路基板に実装した構造を示す断面図である。
【図2】本発明の配線基板と外部回路基板の実施構造を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0079】
1・・・絶縁基板
1a〜d・・・絶縁層
2・・・メタライズ配線
3・・・電極パッド
4・・・接続端子
5・・・キャビティ
6・・・電気素子
7・・・ボンディングワイヤー
8・・・蓋体
9・・・突起状端子
10・・・表層配線
11・・・絶縁体
12・・・球状端子
13、14・・・低融点ロウ材
A・・・配線基板
B・・・外部回路基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クォーツ結晶とCeO結晶とガラス相とを主成分とする焼結体からなり、前記主成分が前記クォーツ結晶を40〜65質量%および前記CeO結晶を1〜10質量%含有し、残部を前記ガラス相が占めることを特徴とするガラスセラミック焼結体。
【請求項2】
前記主成分の組成割合が、SiをSiO換算で50〜70質量%、BaをBaO換算で15〜35質量%、CeをCeO換算で1〜10質量%、BをB換算で1〜8質量%、AlをAl換算で1〜8質量%およびCaをCaO換算で1〜8質量%であることを特徴とする請求項1記載のガラスセラミック焼結体。
【請求項3】
40〜400℃における熱膨張係数が9〜18×10―6/℃であることを特徴とする請求項1または2記載のガラスセラミック焼結体。
【請求項4】
クォーツ結晶からなるフィラー40〜65質量%とCeを含むガラス粉末35〜60質量%とを主成分とする成形体を焼成し、ガラスセラミック焼結体中に1〜10質量%のCeO結晶を生成することを特徴とするガラスセラミック焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス粉末がSiをSiO換算で15〜50質量%、BaをBaO換算で25〜60質量%、CeをCeO換算で1.5〜15質量%、BをB換算で1〜15質量%、AlをAl換算で1〜15質量%およびCaをCaO換算で1〜15質量%の割合で含有することを特徴とする請求項4記載のガラスセラミック焼結体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3記載のガラスセラミック焼結体からなる絶縁基板の表面および内部の少なくとも一方にメタライズ配線層が配設されてなることを特徴とする配線基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−119288(P2007−119288A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−312583(P2005−312583)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】