説明

ガラス・セラミックの製造方法及びそのガラス・セラミックの使用

【課題】結晶の大きさおよび結晶相の比率と相組成が予め決定可能及び調整可能なコンデンサ又は高周波フィルタにおける使用に適したガラス・セラミックの製造方法を提供する。
【解決手段】最大直径20〜100nmの強誘電性微結晶が得られガラス・セラミック中の強誘電性微結晶の比率が少なくとも50容積%、ガラス・セラミック中の非強誘電性微結晶の比率が10容積%未満、ガラス・セラミック内に有るポアが0.01容積%未満であり、且つe’・Vmaxの値が少なくとも20(MV/cm)であるガラス・セラミック(ここで、e’は1kHzにおけるガラス・セラミックの比誘電率、Vmaxは絶縁破壊電圧/ガラス・セラミック厚さである)であり、出発ガラスを生成する工程と、該出発ガラスをセラミック化中少なくとも10K/minの加熱又は冷却速度でセラミック化してガラス・セラミックを生ずる工程を含んで成る方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス・セラミックの製造方法に関し、またそのガラス・セラミックの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
微結晶性のBaTiOを含有するガラス・セラミックは、A. Herczogによる論文(Microcrystalline BaTiO3, by Crystallization from Glass, Journal of the American Ceramic Society, Vol. 47, No. 3, March 1964, pages 107 〜 115)に記載されている。この論文によれば出発ガラスを制御加熱により、BaTiO微結晶のみならずBaAlSi微結晶をも含むガラス・セラミックに転換できることが知られている。微結晶の平均粒径は0.2ないし0.8μmの範囲にある。ガラス・セラミックの比誘電率e’は1200未満である。更に、DE1928090から、高比誘電率のガラス・セラミック製品が知られている。
【0003】
強誘電相含有ガラス・セラミック文献Bull. Mater. Sci., Vol. 8, No. 5, December 1986, pages 557 〜 565において、BaTiO微結晶を含有し、比誘電率が0.2〜0.8μmのサブミクロン範囲の微結晶寸法で最大となるガラスセラミックをO. Parkashが記載している。
【0004】
EP0378989A1から、比誘電率が高く、且つ結晶粒界における厚み約0.01〜0.1μmの薄い微結晶絶縁バリアー層で囲まれた寸法範囲約0.5μm〜10.0μmのBaTiO及び/又はSrTiOを基本とする小導電性粒子から成る、焼結ガラス・セラミックが知られている。
【0005】
McCauley他による文献:J. Am. Ceram. Soc., Vol. 81, No. 4, 1998, pages 979 〜987には、BaTiOガラス・セラミックにおける固有サイズ効果が記載されている。
【0006】
E. P. Gorzkowski等による文献:Glass-ceramics of barium strontium titanate for high energy density capacitors, J. Electroceram. 2007, Vol. 18, pages 269 〜 276には、高エネルギー密度コンデンサ用のBa/SrTiO基本のガラス・セラミックが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】DE1928090
【特許文献2】EP0378989A1
【特許文献3】DE100060987A1
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】A. Herczog: “Microcrystalline BaTiO3, by Crystallization from Glass”, Journal of the American Ceramic Society, Vol. 47, No. 3, March 1964, pages 107 〜 115
【非特許文献2】O. Parkash: Bull. Mater. Sci., Vol. 8, No. 5, December 1986, pages 557 〜 565
【非特許文献3】McCauley: J. Am. Ceram. Soc., Vol. 81, No. 4, 1998, pages 979 〜 987
【非特許文献4】E. P. Gorzkowski: “Glass-ceramics of barium strontium titanate for high energy density capacitors”, J. Electroceram. 2007, Vol. 18, pages 269 〜 276
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記先行技術より進み、本発明の目的は結晶の大きさが予め決定可能及び調整可能であり、結晶相の比率と相組成が予め決定可能及び調整可能であり、且つ、特に、コンデンサ又は高周波フィルタにおける使用に適したガラス・セラミックの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、この目的は請求項1により達成される。ガラス・セラミックの製造方法は、最大直径20〜100nmの強誘電性微結晶が得られガラス・セラミック中の強誘電性微結晶の比率が少なくとも50容積%、ガラス・セラミック中の非強誘電性微結晶の比率が10容積%未満、ガラス・セラミック内に有る空隙が0.01容積%未満であり、且つe’・Vmaxの値が少なくとも20(MV/cm)であるガラス・セラミック(ここで、e’は1kHzにおけるガラス・セラミックの比誘電率、Vmaxは絶縁破壊電圧/ガラス・セラミック厚さである)であり、出発ガラスを生成する工程と、該出発ガラスをセラミック化中少なくとも10K/minの加熱又は冷却速度でセラミック化してガラス・セラミックを生ずる工程と、を含んで成る。
【0011】
ペロブスカイト構造の強誘電性微結晶又は本質的に、純又はドープドBaTiO及び/又は純又はドープドBaTiから成る強誘電性微結晶が、本方法により適宜の出発ガラスから得られるようにすると好い。
【0012】
好適な実施態様において、ガラス・セラミック中の比率が>60容積%、特に>70容積%、特に好ましくは>80容積%である強誘電性微結晶が得られる。特に、ガラス・セラミックの比誘電率e’はガラス・セラミック中の強誘電性微結晶の比率を増大することで、増大することができることが分かった。ガラス・セラミックは好ましくは、比誘電率e’が>2000、特に3000を超え、特に好ましくは>5000、更には>10000である。
【0013】
出発ガラスは、ガラス製造における通常の原材料から通例の条件下で溶融され、清澄され、均質化され、条件が調整される。例えば、圧延、延伸又はフローティングにより、出発ガラスの熱間成形を行うことができる。更に、出発ガラスはセラミック化の前に機械的に加工、例えば研削又は研磨しても良い。
【0014】
セラミック化、即ち出発ガラスを対応するガラス・セラミックに転換するに際して、例えば赤外線により、特に、1500℃、特に2000℃、特に好ましくは2400℃を超える色温度の波長赤外線による加熱により得られる、10K/min、特に15K/min、特に好ましくは20K/minを超える加熱速度が用いられる。
【0015】
そのような高加熱速度を可能にする装置又は方法は例えば、DE10060987A1から知られている。
【0016】
セラミック化工程におけるこれ等の高い加熱速度により、特に所望の結晶相、即ち最大直径が20〜100nmであり、ガラス・セラミック中の比率が>50容積%である強誘電性微結晶を得ることができ、従って結果として生ずるガラス・セラミックの特性に影響を及ぼすことができる。例えば加熱速度が10K/min未満であれば、本来的に所望の強誘電性結晶相のみならず、特にガラス・セラミック中の比率が>10容積%に至る増大量の非強誘電性結晶相も得られる。
【0017】
本発明によれば、ガラス・セラミックはコンデンサ、高周波フィルタ、特に可調整高周波フィルタ、超小型電子部品、例えばDRAMチップ又は永久データ記憶装置(永久メモリ素子)の要素をして用いられる。
【0018】
本発明によるガラス・セラミックをコンデンサの要素として用いるとき、それは特にコンデンサの誘電体である。特に、1kv/mmを超える電圧用の高エネルギーコンデンサの場合には、そのコンデンサの誘電体は本発明によるガラス・セラミックから構成される。
【0019】
コンデンサは好ましくは、BaTiO等の強誘電性微結晶及び/又はSrTiO等の非強誘電性微結晶を有する本発明によるガラス・セラミックを含有する。
【0020】
ガラス・セラミックは本発明により、コンデンサの電子的使用の温度範囲に対して、特にその組成、微結晶比率及び大きさとガラス・セラミックのセラミック化を介して最適化することができる。
【0021】
このコンデンサは従って、EIE規格Z5U又はX8Rの温度依存性要求条件を満たす。
【0022】
このコンデンサは又、例えば風力発電所、太陽熱利用発電施設、例えばハイブリッドエンジン、特に車両のエネルギー管理におけるAC変圧器として用いられる。
【0023】
ガラス・セラミックはコンデンサの要素として好ましくは、厚みを20μm<h<10mm、特に50μm<h<5mmの範囲とする。
【0024】
図2に示すように、コンデンサの要素としてガラス・セラミックはスペーシングを、例えば50nm<d<100μmとする構造化接点を有する。そのような接点構造は例えば、湿式化学エッチング及び/又はレーザ加工及び/又はウェーハソーにより導入することができる。ガラス・セラミックは一般に、厚みhが50μm〜5mmである。スペーシングdは、ガラス・セラミックに埋め込まれた上部接点と下部接点間の距離である。スペーシングdは厚みhよりずっと小さくでき、これにより高容量のコンデンサが得られる。
【0025】
圧電性を有する本発明によるガラス・セラミックは、適切に有極された後、センサ又はアクチュエータとして、或いはセンサ又はアクチュエータの要素として用いることができる。
【0026】
熱スイッチ又はサーミスタも同様に、本発明によるガラス・セラミックを含むことができる。
【0027】
本発明によるガラス・セラミックは比誘電率e’が優れた温度依存性を示す、つまり特に、e’の温度依存性は非常に小さい。更に、ガラス・セラミックの破壊電圧/ガラス・セラミック厚み比Vmaxは高い。ガラス・セラミック厚み当たりの破壊電圧とは、特定厚みのガラス・セラミックに電流を流すのに要する、電気破壊又は電圧破壊が生ずる電圧を云う。
【0028】
コンデンサにおける誘電体の重要なパラメタはその破壊電圧、即ちそれを超えると誘電体(この場合、ガラス・セラミック)がその絶縁性を失い、コンデンサの外層の導通が生じる電圧である。
【0029】
強誘電性は、その結晶対称性が極軸を許容する微結晶で生じる。この結果、結晶格子中の異荷電イオンの移動による自然分極が生ずる。だが、圧電材や焦電材と違って、強誘電体の電気分極は電圧の印加により逆転できる。強誘電微結晶はいつでも焦電性でもあり、従って圧電性でもある。従って、強誘電体の分極は高温(強誘電キュリー温度)で消失し、材料はそのとき常誘電性になる。この温度を超えると、比誘電率e’は強磁性磁化率χと似たようにキュリー・ワイスの法則に従う。材料がこの温度下に冷却されると、一般に構造変化(結晶対称性の低下)と同時に相転移が生じ、材料は再び強誘電性となる。外部電場の印加により分極は逆転され、ヒステリシス曲線を辿る。
【0030】
強誘電性微結晶は分域、即ち分極方向が同じな領域を形成する。分極が消失した数原子層では、分極方向が分域毎に変わる。強誘電性分域は厚みが数ナノメータに過ぎない。従って、強誘電体は相転移の近傍では、比誘電率e’が高い。これは、100ないし100000のe’範囲にあり、この強誘電体がコンデンサの材料として特に適していることの理由である。
【0031】
強誘電体は一般に比誘電率e’の温度依存性が強く、これが4K〜300Kの温度範囲で4倍〜20倍の容量変化の惹起を可能にする。
【0032】
セラミック形式の強誘電性誘電体は比誘電率が高いため、容積容量が高いセラミックコンデンサに用いられ、益々電解コンデンサに取って代わっている。後者と比較して、それ等は等価直列抵抗及びインダクタンスが小さいものの、温度依存性、公差及び誘電損率の何れもが高いと云う不都合がある。本発明によるガラス・セラミックを用いることにより、これ等の不都合を大幅に低減できることが分かった。
【0033】
最も良く知られている強誘電体は、チタン酸バリウム:BaTiO又はジルコン酸チタン酸鉛:Pb(ZrTi1−x)O等のペロブスカイト構造を有する微結晶である。更に、次の微結晶も強誘電性である。即ち、タンタル酸ストロンチウム・ビスマス:SrBiTa、チタン酸ビスマス:BiTi12、チタン酸ビスマス・ランタン:Bi4−xLaTi12、チタン酸ニオブ酸ビスマス:BiTiNbO、チタン酸ストロンチウム:SrTiO、チタン酸バリウム・ストロンチウム:BaSr1−xTiO、亜硝酸ナトリウム:NaNO、ペンタ酸バリウム・ヂチタン:BaTiである。
【0034】
本発明のガラス・セラミックは耐化学薬品性が高く、電子的用途では高出力密度においても劣化又は疲労現象を全く示さない。
【0035】
適宜の出発ガラスからセラミック化(熱/時間処理)により製造されたガラス・セラミックは本質的に空隙がないか、即ち空隙が全く無いか、ポアが容積%で0.01以下であり、結晶相がガラス質相で囲まれている。ガラス・セラミックの特性、特に耐電圧破壊性は空隙係数が低いことに依存し、セラミック材料又は焼結ガラス・セラミック(常に残留空隙含量がある)と比較して、記述の優れた特性を齎すことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ガラス・セラミックの出発ガラス試料の熱分析を示す。
【図2】コンデンサの要素としてのガラス・セラミックを示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
実施例
表1に、出発ガラスのガラス組成を示す。出発ガラスの番号(VSM)は以下の通りであり。即ち、31229、30209、31211、30211、30963、31210、30210、B、Cである。
セラミック化出発ガラス、即ち結果として生じたガラス・セラミック(適すれば、表2によるセラミック化番号で示される)が以下に示される比誘電率e’が測定された。
30963:(1KHzにおける)e’=DE1において350
31210:(1KHzにおける)e’=DE3において17、
(1KHzにおける)e’=DE11において38
31229:(1KHzにおける)e’=1100
31229:(1KHzにおける)e’=10000
【0038】
【表1】

【0039】
夫々のサンプルのセラミック化に要する加熱速度及び保持時間が表2に示されている。セラミック化サイクルはDE1〜DE12(型、番号)で示されている。VSMは出発ガラスのサンプル番号を表し、Rは加熱又は冷却速度、Zは夫々の目標温度、Hは保持時間、FCLは夫々の炉特徴ラインである。
【0040】
【表2】

【0041】
これ等の強誘電性微結晶は好ましくは、類別Ba1-xTi1−yである。ここで、Z1はペロブスカイト結晶格子のBa又はTi位置における、Sr、Ce、Ca、Pb等、Z2は同じくZr、Hf等である。ペロブスカイト相を得るためには、セラミック化の温度/時間処理を固守する必要がある。温度を厳密に制御できるようにするため、結晶相転移の潜熱が配慮されなければならない。これは図1に示すように、出発ガラス番号31211の熱分析(DTA)に付いて特定できる。860℃、960℃及び980℃における発熱結晶化ピークが明瞭に分かる。出発ガラスの転移温度は約712℃である。出発ガラスの赤外加熱及び高温計を介した温度制御及び調整により、セラミック化は最も上手くいく。
【0042】
本発明のガラス・セラミックの強誘電性微結晶の最大直径は、好ましくは強誘電ドメインの大きさ程度であり、特には20〜100nm、好ましくは20〜90nm、特に好ましくは20〜80nmの範囲にある。
【0043】
強誘電性微結晶がBaTiOから成る場合、Baは好ましくはSr、Ca、Pbで一部置換(ドープ)でき、及び/又はTiは好ましくはZr,Hf、Yで一部置換(ドープ)しても良い。だが、微結晶はBaの準理論量、且つ/或いはTiの準理論量を含んでも良い。
【0044】
コンデンサに蓄積されるエネルギーEは印加電圧Vの2乗x比誘電率e’に比例する。即ち、E〜e’・Vである。従って、特に高エネルギー用途では、比誘電率e’を高くすると共に、コンデンサの破壊電圧をかなり高くすることが必要である。
【0045】
本発明によれば、値e’・Vmaxは>(20MV/mm)であり、比誘電率e’は好ましくは3000より大、特に5000より大、特に好ましくは10000より大である。
【0046】
更に、そのような用途に対しては、材料の疲労が生じないこと、即ち、e’が多動作サイクルの過程で低下しないこと、或いは電圧破壊が生じないことが重要である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明により出発ガラスからセラミック化されるガラス・セラミックはコンデンサの要素として、特に誘電体として著しく好適である。
【符号の説明】
【0048】
d コンデンサの要素として用いたガラス・セラミックの厚み
h その構造化接点のスペーシング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス・セラミックの製造方法であって、最大直径20〜100nmの強誘電性微結晶が得られガラス・セラミック中の強誘電性微結晶の比率が少なくとも50容積%、ガラス・セラミック中の非強誘電性微結晶の比率が10容積%未満、ガラス・セラミック内に有る空隙が0.01容積%未満であり、且つe’・Vmaxの値が少なくとも20(MV/cm)であるガラス・セラミック(ここで、e’は1kHzにおけるガラス・セラミックの比誘電率、Vmaxは絶縁破壊電圧/ガラス・セラミック厚さである)であり、
出発ガラスを生成する工程と、該出発ガラスをセラミック化中少なくとも10K/minの加熱又は冷却速度でセラミック化してガラス・セラミックを生ずる工程を含んで成る方法。
【請求項2】
得られる強誘電性微結晶がペロブスカイト構造であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
得られる強誘電性微結晶が本質的に、純又はドープドBaTiO及び又は純又はドープドBaTiから成ることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
得られる強誘電性微結晶のガラス・セラミック中の比率が>60容積%、特に>70容積%、特に好ましくは>80容積%であることを特徴とする請求項1〜3の少なくとも1つに記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4の少なくとも1つに記載の方法により製造されたガラス・セラミックの、コンデンサ又は高周波フィルタの構成要素としての使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−242228(P2009−242228A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−38750(P2009−38750)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】