説明

ガラス基板の製造方法および製造設備

【課題】ランニングコストや設備投資の増大、さらにはガラス基板の生産性低下を極力招くことなく、ガラス基板の有効面を効果的に清浄化することができる技術を提供する。
【解決手段】搬送されるガラス基板Gの有効面に対し、洗浄液21を供給しつつ、洗浄ヘッド15を回転させながら押し当てることにより、ガラス基板Gの有効面に付着した異物を取り除く洗浄工程において、洗浄ヘッド15または洗浄ヘッド15を保持する第1保持部材13の少なくとも一方の膨張収縮を利用して、ガラス基板Gに対する洗浄ヘッド15の接触圧を調整する。具体的には、洗浄ヘッド15がある程度摩耗したときに、洗浄液21の供給温度を上昇させて、洗浄ヘッド15または第1保持部材13の少なくとも一方を熱膨張させ、洗浄ヘッド15の摩耗によって低下したガラス基板Gに対する洗浄ヘッド15の接触圧を再度高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の製造方法および製造設備に関し、より詳しくは、ガラス基板の表面に付着した各種異物を取り除くための洗浄工程を含むガラス基板の製造方法および製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ(FPD)用のガラス基板や太陽電池用のガラス基板を製造する際には、その製造ラインの最終段階等において、ガラス基板の製造過程でガラス基板の表面(より詳しくは、表面のうち電子機能素子等が形成される領域。以下「有効面」という)に付着した微小なガラス片や塵芥等の異物を取り除くための洗浄処理が実行される。これにより、ガラス基板の有効面が清浄化され、後工程等においてガラス基板の有効面上に電子機能素子等を精度良く形成することが可能となる。
【0003】
例えば下記の特許文献1には、ガラス基板の有効面を清浄化するための具体的手段が記載されている。詳述すると、ガラス基板の有効面に対し、洗浄液を供給しつつ、研磨部材(ガラス基板との接触面がラッピングフィルムあるいはサンドペーパーなどの研磨フィルムで構成されたもの)を回転させながら押し当て、その状態でガラス基板を面方向に平行移動させることにより、ガラス基板の有効面に付着した異物を取り除く異物除去処理を実行し、さらに必要に応じて、超音波洗浄処理や乾燥を実行するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−122097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、洗浄液を供給しつつ、研磨部材を回転させながらガラス基板に押し当てれば、ガラス基板の有効面に異物が強固に付着していたとしてもこの異物を効果的に取り除くことができるというメリットがある一方で、ガラス基板の有効面に小キズ等が形成され易くなる。FPDのより一層の高画質化(高精細化)や太陽電池の発電能力向上が進展している近時の実情に鑑みると、従前許容されていたような小キズであっても許容されない場合があることから、ガラス基板の有効面に小キズが形成されると、ガラス基板が使用不能になるというような重大問題が生じ得る。そのため、ガラス基板の有効面を清浄化するためにガラス基板に押し当てるものとして、比較的軟質の弾性材料で形成されたもの(以下「洗浄ヘッド」という)を使用することが多くなっている。
【0006】
洗浄ヘッドを回転させながらガラス基板に押し当てることによってガラス基板の有効面に付着した異物を取り除く洗浄処理は、洗浄液の介在下で実行されるものの、洗浄ヘッドとガラス基板との摺動接触が繰り返されるのに伴って相対的に軟質の洗浄ヘッドが徐々に摩耗する。洗浄ヘッドが所定量摩耗することによって、ガラス基板に対する洗浄ヘッドの接触代(接触圧)が小さくなると、洗浄能力が低下し、所定の表面品質を具備したガラス基板を得ることが難しくなる。そのため、所定の表面品質を具備したガラス基板を安定的に得るためには、洗浄ヘッドが所定量摩耗した時点で、ガラス基板に対する洗浄ヘッドの接触圧を回復するために何らかの対策を講じる必要がある。
【0007】
ガラス基板に対する洗浄ヘッドの接触圧を回復(所定値に維持)するための具体的手段として、洗浄ヘッドが使用限界に達する程度に摩耗しないまでも、洗浄ヘッドの摩耗がある程度進行し、所定の接触圧が得られなくなった時点で洗浄ヘッドを新品に交換することが考えられる。しかしながら、このようにすると、ランニングコストが増大することに加え、洗浄ヘッドを交換する都度、洗浄装置を停止する必要がある。この種のガラス基板の製造ラインは、ガラス基板に対する種々の加工や上記の洗浄処理が連続的に実行される連続ラインであることから、洗浄ヘッドを交換する都度洗浄装置を停止したのでは、ガラス基板の生産性が著しく低下するという問題がある。そこで、本願発明者らは、ガラス基板に対する個々の洗浄ヘッドの進退移動量をメカ的に調整可能とすることにより、ガラス基板に対する洗浄ヘッドの接触圧を自動で所定値に維持する、という手段の採用を試みた。しかしながら、かかる手段では、洗浄装置の駆動系や制御系の複雑化が避けられず、多額の設備投資が必要となる。特に近年、ガラス基板の大型化が急速に進展しており、これに伴って洗浄装置も大型化している(洗浄装置に設けるべき洗浄ヘッドの個数が増大している)ことから、コスト面で大きな問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、ランニングコストや設備投資の増大、さらにはガラス基板の生産性低下を極力招くことなく、ガラス基板の有効面を効果的に清浄化することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、搬送されるガラス基板の有効面に対し、洗浄液を供給しつつ、弾性材料で形成された洗浄ヘッドを回転させながら押し当てることにより、ガラス基板の有効面に付着した異物を取り除く洗浄工程を含むガラス基板の製造方法であって、洗浄工程では、洗浄ヘッドまたは洗浄ヘッドを保持する保持部材の少なくとも一方の膨張収縮を利用して、ガラス基板に対する洗浄ヘッドの接触圧を調整することを特徴とする。なお、ここでいう「ガラス基板の有効面」とは、ガラス基板の表面のうち、後工程等において電子機能素子等が形成される領域のことをいう。
【0010】
上記のように、本発明では、ガラス基板の有効面の洗浄処理を実行する際に必須の構成である、洗浄ヘッドまたはこれを保持する保持部材の少なくとも一方の膨張収縮を利用して、すなわち、温度変化に伴う、洗浄ヘッドおよび/または保持部材の厚み変動を利用してガラス基板に対する洗浄ヘッドの接触圧を調整するようにした。この場合、個々の洗浄ヘッドおよび/またはこれを保持する保持部材として、洗浄処理が実行される温度条件(温度環境)下で適宜膨張収縮するものを選択使用することにより、ガラス基板に対する洗浄ヘッドの接触圧を適正値に保つことができる。そのため、個々の洗浄ヘッドの進退移動量を自動調整するような複雑かつ高額な駆動機構を洗浄装置に設けることなく、有効面が清浄化された高品質のガラス基板を得ることができる。また、この場合、洗浄処理が実行される温度環境の上限値(洗浄ヘッドの使用限界)に達するまで洗浄ヘッドを有効利用することができるので、洗浄ヘッドの交換頻度を少なくしてランニングコストの増大やガラス基板の生産性低下を抑制することができる。
【0011】
上記構成において、洗浄ヘッドまたは保持部材の少なくとも一方を膨張収縮させる(ガラス基板に対する洗浄ヘッドの接触圧を調整・回復する)ために採り得る具体的手段の一例として、洗浄液の供給温度を変化させることが考えられる。
【0012】
このようにすれば、ガラス基板の洗浄処理を実行する際に必須の構成である洗浄液を加熱可能に貯留しておき、ガラス基板に向けて供給する洗浄液を適宜加熱するだけでガラス基板に対する洗浄ヘッドの接触圧を所定値に調整する(回復させる)ことができる。そのため、洗浄装置の複雑化を招くことなく、有効面を効果的に清浄化することができる。なお、洗浄液の供給温度は、ガラス基板に対する洗浄ヘッドの接触圧に基づいて変化させることができる。このようにすれば、ガラス基板に対する洗浄ヘッドの接触圧を適正値に保った状態で洗浄処理を実行することができる。
【0013】
上記構成を好ましく適用し得る具体的なシチュエーションとしては、洗浄ヘッドの摩耗が進行したとき、が考えられる。すなわち、洗浄ヘッドの摩耗が進行した場合には、これに伴って洗浄液の供給温度を上昇させれば良い。
【0014】
洗浄液の供給温度は、40〜60℃の範囲内、より好ましくは45〜55℃の範囲内で可変とすることができる。
【0015】
洗浄液の供給温度が低過ぎると、洗浄ヘッドの摩耗が進行した際に洗浄ヘッドおよび/または保持部材を膨張させることができず、洗浄液の供給温度を高め過ぎると、洗浄液に接触した洗浄ヘッドの摩耗が却って進行し易くなる。従って、洗浄液の供給温度は、40〜60℃の範囲内、より好ましくは45〜55℃の範囲内で可変としておく。
【0016】
ガラス基板に対する洗浄ヘッドの接触圧を調整するために採り得る手段としては、上記した洗浄液の供給温度を変化させる手段に替えて、もしくはこれに加えて、保持部材に加熱手段を連結し、この加熱手段の設定温度を変化させることが考えられる。かかる構成において、加熱手段の設定温度は、ガラス基板に対する洗浄ヘッドの接触圧の検出値に基づいて変化させることができる。また、かかる構成において、洗浄ヘッドの摩耗が進行した際には、これに伴って加熱手段の設定温度を上昇させれば良い。
【0017】
以上に述べた本発明に係るガラス基板の製造方法は、ガラス基板が、フラットパネルディスプレイ(FPD)用のガラス基板であるときに好ましく適用することができる。
【0018】
また、上記の目的は、ガラス基板の有効面に対し、洗浄液を供給しつつ、弾性材料で形成された洗浄ヘッドを回転させながら押し当てることにより、ガラス基板の有効面に付着した異物を取り除く洗浄装置を備えたものであって、洗浄装置が、洗浄ヘッドまたは洗浄ヘッドを保持する保持部材の少なくとも一方の膨張収縮を利用して、ガラス基板に対する洗浄ヘッドの接触圧を調整するように構成されていることを特徴とするガラス基板の製造設備によっても達成される。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、ランニングコストや設備投資の増大、さらにはガラス基板の生産性低下を極力招くことなく、ガラス基板の有効面を効果的に清浄化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るガラス基板の製造方法を実施する際に使用するガラス基板の製造設備の一部を概念的に示す側面図である。
【図2】図1中のA−A線矢視断面図である。
【図3】(a)図は、洗浄部材の拡大正面図、(b)図は、(a)図中のB−B線矢視断面図を含む洗浄装置の要部概念図である。
【図4】他の実施形態に係る洗浄装置の要部概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1および図2に、本発明に係るガラス基板の製造方法を実施する際に使用する製造設備の一部を概念的に示す。同図に示す製造設備は、矩形状を呈するフラットパネルディスプレイ(FPD)用のガラス基板Gを上流側から下流側(図1においては、図中左側から右側)に向けて縦姿勢で搬送する搬送装置1と、搬送装置1の搬送経路上に配設された洗浄装置10とを備える。なお、図示は省略するが、洗浄装置10の上流側には、ガラス基板Gに対して種々の加工を施す加工装置等が設けられている。
【0023】
搬送装置1は、ガラス基板Gの下辺に沿って一列に並べて設けられた下部搬送ローラ2の組(列)と、ガラス基板Gの上辺に沿って一列に並べて設けられた上部搬送ローラ3の組(列)とを主要部として構成されている。下部搬送ローラ2および上部搬送ローラ3は、双方共に、断面V字状を呈してガラス基板Gの鉛直方向端部を保持したローラ体と、ローラ体が外嵌された回転軸とを備える。本実施形態において、下部搬送ローラ2は、回転軸が図示外の駆動源からの駆動力を受けて回転駆動される駆動ローラであって、回転軸とローラ体とが共回りするように構成されているのに対し、上部搬送ローラ3は、回転軸とローラ体とが空転状態で共回りするように構成されている。そして、上下のローラ体のV溝内でガラス基板Gの鉛直方向端部が保持された状態で下部搬送ローラ2が回転駆動されるのに伴って、ガラス基板Gが上流側から下流側に搬送される。
【0024】
洗浄装置10は、上流側に設けられた各種加工工程を経ることによってガラス基板Gの表面および裏面(有効面)に付着した微小なガラス片や塵芥等の異物を取り除くための洗浄処理を実行するものであり、ガラス基板Gの表面側および裏面側にそれぞれ複数配置された洗浄部材11を主要部として構成される。洗浄部材11の配置態様は、ガラス基板Gの有効面内で洗浄されない部位が生じないように設定され、本実施形態では、ガラス基板Gの搬送方向(水平方向)で隣り合う洗浄部材11が高さ位置を相互に異ならせて(互い違いに)配置されている。より詳しく延べると、本実施形態の洗浄装置10は、洗浄部材11をガラス基板Gの搬送方向と直交する方向(鉛直方向)に沿って複数配置してなる洗浄部材11の列を、水平方向に沿って所定間隔で複数配置することで主要部が構成されており、かつ水平方向で隣り合う洗浄部材11の列においては、各洗浄部材11の高さ位置を相互に異ならせている。もちろん、洗浄部材11の配置態様はガラス基板Gの有効面内で洗浄されない部位が生じない限りにおいて任意に設定することができ、例えば、複数の洗浄部材11を不規則に配置するようにしても良い。
【0025】
次に、各洗浄部材11の構成について、図3(a)(b)も参照しながら詳述する。
【0026】
洗浄部材11は、ガラス基板Gと対向配置された洗浄ヘッド15と、洗浄ヘッド15を保持する保持部材とを主要部として備えており、洗浄ヘッド15をガラス基板Gの有効面に押し付ける前進位置と、洗浄ヘッド15をガラス基板Gから離間して位置させる後退位置との間を往復動可能で、かつ回転可能に構成されている。保持部材は、洗浄ヘッド15を直接的に保持する第1保持部材13と、第1保持部材13を保持する(洗浄ヘッド15を間接的に保持する)第2保持部材14とからなる。このような構成を備えた洗浄部材11は軸部材18の先端に取り付け固定されており、軸部材18は、これに取り付け固定される洗浄部材11をガラス基板Gに対して接離移動させる(上記の二位置間で往復移動させる)図示外のシリンダーや、洗浄部材11を回転駆動させるモータMを組み合わせて構成される駆動手段に連結されている。
【0027】
洗浄ヘッド15は、線膨張係数が高く、温度変化に伴って膨張収縮し易い軟質の弾性体、例えばフェルト状の繊維成形体、スポンジ状の発泡樹脂成形体、あるいはスポンジ状の発泡ゴム成形体等で円環状に形成されている。洗浄ヘッド15のうちガラス基板Gとの対向面(接触面)には、径方向に延びた放射状の凹溝16が円周方向に複数(図示例では10本)設けられている。
【0028】
第1保持部材13は、ゴム材料、樹脂材料、あるいは熱可塑性エラストマー等の弾性材料で円環状に形成され、本実施形態では、線膨張係数が比較的高く、温度変化に伴って膨張収縮し易いクロロプレンゴムで円環状に形成されている。ゴム材料としては、クロロプレンゴム以外にも、一般的に入手可能なものであれば特に限定なく使用することができるが、その中でも、ニトリルゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム等、クロロプレンゴムと同様に線膨張係数が比較的高いものを好ましく使用することができる。洗浄ヘッド15と第1保持部材13の厚みを比較すると、本実施形態では、洗浄ヘッド15が相対的に薄肉に形成され、第1保持部材13が相対的に厚肉に形成されている。
【0029】
第2保持部材14は、金属材料、特に熱伝導率の高いアルミニウム合金やステンレス鋼等の金属材料で円盤状に形成されており、その中心部近傍領域には、洗浄液供給孔17が複数個(図示例では6個)穿設されている。洗浄液供給孔17には、洗浄液21を貯留してなる洗浄液貯留槽20から延びる配管19が接続されており、洗浄処理の実行中には、洗浄液21が、配管19および洗浄液供給孔17を介してガラス基板Gの有効面に対して供給(吐出)されるようになっている。なお、本実施形態では、軸部材18が筒状のパイプ材で構成されて、その内周に配管19の先端部が挿通されている。洗浄液貯留槽20は、洗浄液21を加熱状態で貯留することができるような加熱機能を備えたものとされ、洗浄液21を、40〜60℃、より好ましくは45〜55℃の温度範囲で供給・吐出することができるように構成されている。
【0030】
また、この洗浄装置10は、ガラス基板Gに対する洗浄ヘッド15の接触圧(接触代)を検出し、この検出した接触圧に基づいて洗浄液貯留槽20による洗浄液21の加熱温度を調整するための検出制御手段22を具備する。検出制御手段22は、洗浄部材11(軸部材18)を回転駆動させるモータMの電流値を検出することによって、ガラス基板Gに対する洗浄ヘッド15の接触圧を間接的に検出する。すなわち、洗浄処理が繰り返し実行されるのに伴って洗浄ヘッド15が摩耗し、ガラス基板Gに対する洗浄ヘッド15の接触圧が低下すると、これに伴ってモータMの回転トルクが低下し、モータMの駆動電流値が小さくなる。そして、モータMの駆動電流値が所定値よりも小さくなったことを検出制御手段22が検出すると、検出制御手段22は、洗浄液21の加熱温度を上昇させるべく、洗浄液貯留槽20に向けて信号を出力する。
【0031】
洗浄装置10は、主に以上の構成を具備しており、次のようにしてガラス基板Gの有効面の洗浄処理を実行する。
【0032】
ガラス基板Gが洗浄工程(洗浄装置10の対向領域)に搬入されると、洗浄装置10のうち、最も上流側にある洗浄部材11の列が回転しながら前進位置に移動し、洗浄部材11の洗浄ヘッド15がガラス基板Gの表面および裏面(有効面)に押し付けられて洗浄処理が開始される。洗浄処理の実行中、各洗浄部材11に設けられた洗浄液供給孔17からガラス基板Gの有効面に対して洗浄液21が連続的に供給・吐出される。従って、洗浄部材11(洗浄ヘッド15)とガラス基板Gとの間に十分量の洗浄液21が介在した状態でガラス基板G有効面の洗浄処理が実行される。なお、洗浄処理の開始段階においては、供給される洗浄液21の温度は、上記した温度範囲(40〜60℃、より好ましくは45〜55℃)の下限値に設定されている。以降、ガラス基板Gが下流側に徐々に搬送されるのに伴って、各洗浄部材11の洗浄液供給孔17から洗浄液21が供給されつつ、洗浄部材11の列が回転しながら順次後退位置から前進位置に移動し、ガラス基板Gの有効面の洗浄処理を実行する。
【0033】
洗浄処理の実行中、検出制御手段22はガラス基板Gに対する洗浄ヘッド15の接触圧(ここではモータMの駆動電流値)を常に検出しており、ガラス基板Gに対する洗浄ヘッド15の接触圧が所定値よりも小さくなったことを検出制御手段22が検出し、その検出信号が洗浄液貯留槽20に入力されると、洗浄液貯留槽20内に貯留された洗浄液21が加熱される。そして、洗浄液供給孔17からは、より高温の洗浄液21が供給・吐出される。供給されるより高温の洗浄液21に洗浄ヘッド15および第1保持部材13が接触すると、温度変化に伴って膨張収縮し易い材料で形成された洗浄ヘッド15および/または第1保持部材13が熱膨張する。このようにして洗浄ヘッド15および/または第1保持部材13が熱膨張すると、ガラス基板Gに対する洗浄ヘッド15の接触圧が高まり(接触圧が所定値に回復し)、ガラス基板Gの有効面の洗浄処理が所望の態様で実行される。このとき、ガラス基板Gに対する洗浄部材11の相対位置は変化しない。
【0034】
以降、ガラス基板Gに対する洗浄ヘッド15の接触圧が所定値よりも小さくなる毎に、洗浄液21の加熱温度を一層上昇させることによって洗浄ヘッド15および/または第1保持部材13の膨張量を一層増大させ、ガラス基板Gに対する洗浄ヘッド15の接触圧を所定値に回復させる。そして、洗浄液21の加熱温度の上限値に達した以降に、ガラス基板Gに対する洗浄ヘッド15の接触圧が所定値よりも小さくなると、洗浄装置10を停止し、洗浄ヘッド15の交換作業を実施する。
【0035】
以上で説明したように、本発明では、ガラス基板Gの有効面を洗浄する際に必須の構成である、洗浄ヘッド15またはこれを保持する保持部材(第1保持部材13)の少なくとも一方の膨張収縮を利用して、すなわち、温度変化に伴う、洗浄ヘッド15および/または第1保持部材13の厚み変動を利用してガラス基板Gに対する洗浄ヘッド15の接触圧を調整するようにした。この場合、個々の洗浄ヘッド15および/またはこれを保持する第1保持部材13として、洗浄処理が実行される温度条件(温度環境)下で適宜膨張収縮するものを選択使用することにより、ガラス基板Gに対する洗浄ヘッド15の接触圧を適正値に保つことができる。そのため、個々の洗浄ヘッド15の進退移動量を段階的に自動調整するような複雑かつ高額な駆動機構を洗浄装置10に設けることなく、ガラス基板Gの有効面の洗浄処理を適切に実行し、有効面が清浄化された高品質のガラス基板Gを得ることができる。また、このようにすれば、洗浄処理が実行される温度環境の上限値(洗浄ヘッド15の使用限界)に達するまで洗浄ヘッド15を有効利用することができるので、洗浄ヘッド15の交換頻度を少なくしてランニングコストの増大やガラス基板Gの生産性低下を抑制することができる。
【0036】
また、本実施形態では、洗浄液21の供給(吐出)温度を変化させることによって、すなわち洗浄処理に必須の構成である洗浄液21を有効利用することによって、洗浄ヘッド15および/または第1保持部材13の少なくとも一方を膨張させ、ガラス基板Gに対する洗浄ヘッド15の接触圧を調整・回復するようにした。そのため、洗浄装置10の複雑化を招くことなく、ガラス基板Gの有効面を効果的に清浄化することができる。
【0037】
なお、供給する洗浄液21の温度範囲を40〜60℃、より好ましくは45〜55℃に設定したのは、洗浄液21の供給温度が低過ぎると、洗浄ヘッド15の摩耗が進行した際に洗浄ヘッド15および/または第1保持部材13を膨張させることができず、洗浄液21の供給温度を高め過ぎると、洗浄液21に接触した洗浄ヘッド15の摩耗が却って進行し易くなるからである。
【0038】
また、洗浄部材11の回転中心近傍に設けた洗浄液供給孔17から洗浄液21を供給するようにしたことに加え、洗浄ヘッド15のガラス基板Gとの接触面に放射状の凹溝16を複数設けたので、供給・吐出された洗浄液21は、遠心力の影響を受けることによって凹溝16を伝って径方向外側に拡散する。また、各洗浄部材11にこのような構成を採用したことにより、洗浄部材11の回転中心から供給・吐出された洗浄液21を、隣接する洗浄部材11でも有効利用することができるので、洗浄ヘッド15および/または第1保持部材13を効率的に膨張させることができ、洗浄効果が一層高まる。
【0039】
以上では、ガラス基板Gの洗浄処理中に供給する洗浄液21の温度を変化させることによって、洗浄ヘッド15および/または第1保持部材13を膨張させ、ガラス基板Gに対する洗浄ヘッド15の接触圧を調整・回復するようにしたが、ガラス基板Gに対する洗浄ヘッド15の接触圧を回復させるためには、他の手段を採用することも可能である。例えば、図4に示すように、洗浄ヘッド15を保持する保持部材のうち、金属製の第2保持部材14を加熱するための加熱手段23をさらに設け、この加熱手段23による第2保持部材14の加熱を利用して、第1保持部材13を膨張させることも可能である。加熱手段23による第2保持部材14の加熱温度は、検出制御手段22により検出されたガラス基板Gに対する洗浄ヘッド15の接触圧(モータMの駆動電流値)に基づいて調整することができる。なお、このような加熱手段23を設ける場合、洗浄液貯留槽20は、必ずしも加熱機能を備えたものとする必要はない。
【0040】
また、以上では、各洗浄部材11の回転中心近傍に設けた洗浄液供給孔17から洗浄液21を供給するようにしたが、洗浄液21は、別途設けた洗浄液供給装置から供給するようにしても構わない。
【0041】
また、本発明は、垂直姿勢で搬送されるガラス基板Gの洗浄処理を実行する場合のみならず、鉛直方向に対して若干量傾斜した姿勢で搬送されるガラス基板Gの洗浄処理を実行する場合にも好ましく適用することができる他、横姿勢(水平姿勢)で搬送されるガラス基板Gの洗浄処理を実行する場合にも好ましく適用することができる。なお、ガラス基板Gを、垂直姿勢あるいは水平姿勢の何れで搬送するかは、種々の要因を考慮して適宜選択される。すなわち、製造(搬送)されるガラス基板Gの板厚が薄く、搬送中におけるガラス基板Gの自重による撓みを可及的に防止したい場合や、製造設備(洗浄装置10)の設置スペースに制約があるような場合(省スペース化を図る場合)には垂直姿勢でガラス基板Gを搬送するのが望ましい。一方、洗浄液21を均一に(効率的に)供給したいような場合には、水平姿勢でガラス基板Gを搬送するのが望ましい。
【0042】
また、以上では、ガラス基板Gの表面および裏面の双方を同時に洗浄する場合に本発明を適用したが、本発明は、ガラス基板Gの一面のみを洗浄する場合にも好ましく適用することができる。ガラス基板Gの一面のみを洗浄する場合に本発明を適用する場合には、ガラス基板Gの一面に洗浄部材11が押し付けられるのに伴ってガラス基板Gに大きな撓みが生じないように、ガラス基板Gの他面側に、ガイドローラ等の撓みを防止する部材を配置しておく。
【0043】
また、以上では、フラットパネルディスプレイ(FPD)用のガラス基板Gの洗浄処理を実行するに際して本発明を適用する場合について説明を行ったが、本発明は、有効面における異物付着が問題となるその他のガラス基板G、例えば太陽電池用のガラス基板Gの洗浄処理を実行する場合にも好ましく適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 搬送装置
10 洗浄装置
11 洗浄部材
13 第1保持部材(保持部材)
14 第2保持部材(保持部材)
15 洗浄ヘッド
16 凹溝
17 洗浄液供給孔
20 洗浄液貯留槽
21 洗浄液
22 検出制御装置
23 加熱手段
G ガラス基板
M モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送されるガラス基板の有効面に対し、洗浄液を供給しつつ、弾性材料で形成された洗浄ヘッドを回転させながら押し当てることにより、前記ガラス基板の有効面に付着した異物を取り除く洗浄工程を含むガラス基板の製造方法であって、
前記洗浄工程では、前記洗浄ヘッドまたは前記洗浄ヘッドを保持する保持部材の少なくとも一方の膨張収縮を利用して、前記ガラス基板に対する前記洗浄ヘッドの接触圧を調整することを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記洗浄液の供給温度を変化させることにより、前記洗浄ヘッドまたは前記保持部材の少なくとも一方を膨張収縮させる請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄ヘッドの摩耗が進行するのに伴って、前記洗浄液の供給温度を上昇させる請求項2に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄液の供給温度を、40〜60℃の範囲内で可変とした請求項2又は3に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記洗浄ヘッドの回転中心近傍から前記洗浄液を供給する請求項1〜4の何れか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記保持部材に加熱手段を連結し、該加熱手段の設定温度を変化させることにより、前記保持部材を膨張収縮させる請求項1〜5の何れか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記洗浄ヘッドの摩耗が進行するのに伴って、前記加熱手段の設定温度を上昇させる請求項6に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項8】
前記ガラス基板が、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板であるときに適用される請求項1〜7の何れか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項9】
搬送されるガラス基板の有効面に対し、洗浄液を供給しつつ、弾性材料で形成された洗浄ヘッドを回転させながら押し当てることにより、前記ガラス基板の有効面に付着した異物を取り除く洗浄装置を備えたガラス基板の製造設備であって、
前記洗浄装置が、前記洗浄ヘッドまたは前記洗浄ヘッドを保持する保持部材の少なくとも一方の膨張収縮を利用して、前記ガラス基板に対する前記洗浄ヘッドの接触圧を調整するように構成されていることを特徴とするガラス基板の製造設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−213748(P2012−213748A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81959(P2011−81959)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】