説明

ガラス溶着方法

【課題】 信頼性の高いガラス溶着体を製造することができるガラス溶着方法を提供する。
【解決手段】 入熱量変化領域R1において入熱量を漸増させる。このため、エッジ部分E1及び入熱量変化領域R1において、ガラス層3やガラス基板40,50にクラックが生じることが防止される。しかも、入熱量変化領域R1に照射領域を初めて通過させるときに、照射領域の移動速度を漸減させる。これにより、入熱量変化領域R1において溶融再固化領域M1が末広がり状に形成される。この入熱量変化領域R1に照射領域を再度通過させることにより、有効部分同士を確実に封止できる。さらに、入熱量変化領域R2に照射領域を通過させるときに入熱量を減少させる。このため、別のガラス層3に照射領域を進入させるときに、エッジ部分E1においてガラス層3やガラス基板40,50にクラックが生じることが防止される。よって、信頼性の高いガラス溶着体を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状の溶着予定領域に沿ったレーザ光の照射によって、ガラス部材同士が溶着されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野のガラス溶着方法として、複数の環状のガラス層を介して互いに重ね合わされた第1及び第2のガラス基板を用意し、各ガラス層にレーザ光を照射することによって第1のガラス基板と第2のガラス基板とを溶着し、ガラス層ごとに第1及び第2のガラス基板を切断して複数のガラス溶着体を製造する方法が特許文献1に記載されている。このガラス溶着方法では、ガラス層上の所定の照射開始位置においてレーザ光をオンにしてレーザ光の照射を開始し、レーザ光がガラス層を一周して照射開始位置を再度通過した後に、このガラス層上の所定の照射終了位置においてレーザ光をオフにしてレーザ光の照射を終了し、一のガラス層から別のガラス層にレーザ光の照射を移行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7425166号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のガラス溶着方法では、レーザ光の照射開始位置や照射終了位置においてガラス層等にクラックが生じたり、ガラス層による封止が不十分となったりする場合があり、結果としてガラス溶着体の信頼性が損なわれるおそれがある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、信頼性の高いガラス溶着体を製造することができるガラス溶着方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のガラス溶着方法は、環状の溶着予定領域に沿ったレーザ光の照射によって、第1のガラス部材と第2のガラス部材とが溶着されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法であって、第1のガラス部材に対応する第1の部分を複数含む第1のガラス基板に対し、第1の部分ごとに溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材を含むガラス層を配置する第1の工程と、第2のガラス部材に対応する第2の部分を複数含む第2のガラス基板を、第1の部分のそれぞれと第2の部分のそれぞれとがガラス層を介して対向するように第1のガラス基板に重ね合わせる第2の工程と、溶着予定領域に沿ってガラス層にレーザ光を照射することにより、対向する第1の部分と第2の部分とを溶着する第3の工程と、を備え、第3の工程では、溶着予定領域のうちの一の溶着予定領域に沿ってレーザ光の照射領域を相対的に移動させた後、溶着予定領域のうちの別の溶着予定領域に沿って照射領域を相対的に移動させ、第3の工程では、一の溶着予定領域内に設定された第1の領域に照射領域を初めて通過させるとき、レーザ光の照射によるガラス層への入熱量を当該第1の領域において漸増させ、第1の領域に照射領域を再び通過させた後、別の溶着予定領域の手前に設定された第2の領域に照射領域を通過させるとき、入熱量を当該第2の領域において減少させ、第3の工程では、第1の領域に照射領域を初めて通過させるとき、照射領域の相対的な移動速度を当該第1の領域において漸減させることを特徴とする。
【0007】
このガラス溶着方法では、一の溶着予定領域に沿ってレーザ光の照射領域を相対的に移動させるに際し、レーザ光によるガラス層への入熱量を漸増させる。このため、照射領域をガラス層に進入させるときに、その進入位置となるガラス層のエッジ部分及び第1の領域において、入熱過多や温度の急上昇に起因してガラス層や第1及び第2のガラス部材にクラックが生じることが防止される。しかも、第1の領域に照射領域を初めて通過させるときに、照射領域の移動速度を漸減させる。これにより、第1の領域において、レーザ光の照射によって溶融して再固化するガラス層の溶融再固化領域が、第1の領域の始点から終点に向かって徐々に大きくなるような末広がり状に形成される。このような第1の領域に照射領域を再度通過させることにより、第1及び第2の部分を確実に封止することができる。さらに、第1の領域に照射領域を再度通過させた後に第2の領域に照射領域を通過させるときに、入熱量を減少させる。このため、別のガラス層に照射領域を進入させるときに、その進入位置となる別のガラス層のエッジ部分において、入熱過多に起因して別のガラス層や第1及び第2のガラス部材にクラックが生じることが防止される。よって、このガラス溶着方法によれば、信頼性の高いガラス溶着体を製造することができる。
【0008】
ここで、第3の工程では、第1の領域に照射領域を初めて通過させるとき、レーザ光の出力を当該第1の領域において略一定に維持することが好ましい。この場合、各溶着領域に沿ってレーザ光を照射する上で、レーザ光の出力の制御の複雑化が避けられる。また、レーザ光の出力を変更することに伴うレーザ光源への負荷が低減される。
【0009】
或いは、第3の工程では、第1の領域に照射領域を初めて通過させるとき、レーザ光の出力を当該第1の領域において漸増させることが好ましい。この場合、第1の領域において、末広がり状の溶融再固化領域がより確実に形成される。
【0010】
また、第2の領域は、その一部が一の溶着予定領域内に位置するように設定されており、第3の工程では、第1の領域に照射領域を再び通過させた後、第2の領域に照射領域を通過させるとき、入熱量を当該第2の領域において漸減させることが好ましい。この場合、レーザ光の照射領域をガラス層から退出させるときに、その退出位置となるガラス層のエッジ部分では入熱量が比較的小さくなるので、当該エッジ部分において入熱過多に起因してガラス層や第1及び第2のガラス部材にクラックが生じることが防止される。
【0011】
さらに、第2の領域は、その全部が一の溶着予定領域内に位置するように設定されており、第3の工程では、第1の領域に照射領域を再び通過させた後、第2の領域に照射領域を通過させるとき、入熱量を当該第2の領域において漸減させることが好ましい。この場合、レーザ光の照射領域をガラス層から退出させるときに、その退出位置となるガラス層のエッジ部分では入熱量が一層小さくなるので、当該エッジ部分において入熱過多が起こり、それに起因してガラス層や第1及び第2のガラス部材にクラックが生じることがより確実に防止される。
【0012】
また、第3の工程では、第1の領域に照射領域を再び通過させた後、第2の領域に照射領域を通過させるとき、照射領域の相対的な移動速度を当該第2の領域において漸増させることが好ましい。この場合、第2の領域において、レーザ光の出力の変更に依らずに、入熱量を漸減させることができるので、レーザ光の出力を変更することに伴うレーザ光源への負荷が低減される。また、第2の領域において照射領域の移動速度を漸増させるので、ガラス溶着体の製造におけるタクトタイムの短縮化が図られる。
【0013】
さらに、第1のガラス基板及び第2のガラス基板から、溶着された第1の部分及び第2の部分を切り出し、複数のガラス溶着体を得る第4の工程を更に備えることが好ましい。これにより、第1のガラス部材と第2のガラス部材とが溶着されたガラス溶着体が複数得られる。
【0014】
また、本発明の溶着方法は、環状の溶着予定領域に沿ったレーザ光の照射によって、第1のガラス部材と第2のガラス部材とが溶着されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法であって、第1のガラス部材に対し、溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材を含むガラス層を配置する第1の工程と、第2のガラス部材を、ガラス層を介して第1のガラス部材に重ね合わせる第2の工程と、溶着予定領域に沿ってガラス層にレーザ光を照射することにより、第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着する第3の工程と、を備え、第3の工程では、溶着予定領域に沿ってレーザ光の照射領域を相対的に移動させ、第3の工程では、溶着予定領域内に設定された第1の領域に照射領域を初めて通過させるとき、レーザ光の照射によるガラス層への入熱量を当該第1の領域において漸増させ、第3の工程では、第1の領域に照射領域を初めて通過させるとき、照射領域の相対的な移動速度を当該第1の領域において漸減させることを特徴とする。
【0015】
このガラス溶着方法によれば、上述したように、ガラス層や第1及び第2のガラス部材にクラックが生じることを防止することができると共に、第1及び第2の部分を確実に封止することができるので、信頼性の高いガラス溶着体を製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、信頼性の高いガラス溶着体を製造することができるガラス溶着方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態のガラス溶着方法によって製造されたガラス溶着体の斜視図である。
【図2】図1に示されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図3】図1に示されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図4】図1に示されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【図5】図1に示されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための部分拡大図である。
【図6】図1に示されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するためのタイムチャートである。
【図7】図1に示されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図8】溶融再固化領域及び未溶融領域の形状を説明するための部分拡大図である。
【図9】レーザ光の照射領域における温度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1に示されるように、ガラス溶着体1は、溶着予定領域Rに沿うように配置されたガラス層3を介して、ガラス部材4とガラス部材5とが溶着されたものである。ガラス部材4,5は、例えば、無アルカリガラスからなる熱さ0.7mmの矩形板状の部材であり、溶着予定領域Rは、ガラス部材4,5の外縁に沿うように矩形環状に設定されている。ガラス層3は、例えば、低融点ガラス(バナジウムリン酸系ガラス、鉛ホウ酸ガラス等)からなる層であり、溶着予定領域Rに沿うように矩形環状に設定されている。ガラス溶着体1は、有機ELディスプレイであり、溶着予定領域Rの内側に形成された発光素子領域が、ガラス部材4,5及びガラス層3によって外部雰囲気から封止されている。
【0020】
次に、環状の溶着予定領域Rに沿った溶着用レーザ光Lの照射によって、上述したガラス溶着体1を製造するためのガラス溶着方法について説明する。まず、図2に示されるように、マトリックス状(ここでは2行3列)に配置された有効部分(第1の部分)41〜46を含むガラス基板40を準備する。各有効部分41〜46は、ガラス部材4に対応している。そして、有効部分41〜46ごとに環状に溶着予定領域Rを設定する。
【0021】
続いて、ディスペンサやスクリーン印刷等によってフリットペーストを塗布することにより、有効部分41〜46ごとに溶着予定領域Rに沿うようにガラス基板40の表面40aにペースト層6を配置する。フリットペーストは、例えば、低融点ガラスからなる粉末状のガラスフリット(ガラス粉)2、酸化鉄等の無機顔料であるレーザ光吸収性顔料(レーザ光吸収材)、酢酸アミル等である有機溶剤、及びアクリル等の樹脂成分であるバインダが混練されたものである。
【0022】
続いて、ペースト層6を乾燥させて有機溶剤を除去し、ペースト層6を加熱してバインダを除去することにより、ガラス基板40の表面40aにガラス層3を固着させる。更に、ガラス層3を加熱してガラスフリット2を溶融・再固化させることにより、ガラス基板40の表面40aに、レーザ光吸収性顔料を含むガラス層3を定着させる。続いて、ガラス基板40の表面40aに、有効部分41〜46を包囲するように接着層7を配置する。接着層7は、例えば紫外線硬化樹脂からなり、ガラス基板40の外縁に沿って矩形環状に形成されている。
【0023】
続いて、図3に示されるように、マトリックス状(ここでは2行3列)に配置された有効部分(第2の部分)51〜56を含むガラス基板50を準備する。各有効部分51〜56は、ガラス部材5に対応しており、各有効部分51〜56には、発光素子領域が形成されている。そして、有効部分41〜46のそれぞれと有効部分51〜56のそれぞれとがガラス層3を介して対向するようにガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせる。
【0024】
続いて、接着層7を紫外線の照射によって硬化させ、ガラス基板40とガラス基板50との間の空間(有効部分41〜46と有効部分51〜56とで挟まれる空間)を接着層7によって外部雰囲気から封止する。なお、ガラス基板40とガラス基板50との重ね合わせ、及び、接着層7による封止は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で実施される。
【0025】
続いて、溶着予定領域Rに沿ってガラス層3にレーザ光Lを照射することにより、互いに対向する有効部分41〜46と有効部分51〜56とを溶着する(以下、この工程を「溶着工程」という。溶着においては、ガラス層3が溶融し、ガラス基板40,50(ガラス部材4,5)が溶融しない場合もある)。図4に示されるように、溶着工程では、有効部分41,51に対応する溶着予定領域Rから有効部分46,56に対応する溶着予定領域Rまで連続してレーザ光Lを走査していく。つまり、一の溶着予定領域Rに沿ってレーザ光Lの照射領域を相対的に移動させた後、別の溶着予定領域Rに沿って照射領域を相対的に移動させるといったように、各溶着予定領域Rに沿って照射領域を相対的に移動させる。このとき、一の溶着予定領域Rから別の溶着予定領域Rに照射領域を移動させる際には、レーザ光Lをオンにしたままとする。なお、レーザ光Lを照射する順序は、例えば、有効部分41,51に対応する溶着予定領域Rから時計回りに設定される。
【0026】
ここで、有効部分41,51に着目して、溶着工程についてより詳細に説明する。溶着工程では、まず、図5に示されるように、ガラス基板40,50外の所定の位置Sにおいてレーザ光Lをオンにした後に、有効部分41,51に対応するガラス層3の角部C1から当該ガラス層3にレーザ光Lの照射領域を進入させる。このとき、ガラス層3の角部C1のエッジ部分E1が、照射領域の進入位置となる。その後、レーザ光Lの照射領域を、角部C2、角部C3、角部C4の順に時計回りに移動させていき、角部C1を再び通過させた後に角部C2においてガラス層3から退出させる。このとき、ガラス層3の角部C2のエッジ部分E2が照射領域の退出位置となる。その後、レーザ光Lの照射領域を、有効部分42,52に対応する別のガラス層3の角部C1のエッジ部分E1から当該ガラス層3に進入させた後、同様にして照射領域を移動させていく。
【0027】
溶着予定領域Rには、ガラス層3の一辺上において、レーザ光の照射によるガラス層3への入熱量を変化させる入熱量変化領域(第1の領域)R1及び入熱量変化領域(第2の領域)R2が設定されている。入熱量変化領域R1は、ガラス層3の角部C1と角部C2との間に位置しており、入熱量変化領域R2は、入熱量変化領域R1と角部C2との間に位置している。この溶着工程では、レーザ光Lの照射領域を入熱量変化領域R1に初めて通過させるときには、照射領域の相対的な移動速度を漸減させることで入熱量を漸増させる。また、入熱量変化領域R1に照射領域を再び通過させた後に、入熱量変化領域R2に照射領域を通過させるときには、照射領域の相対的な移動速度を漸増させることにより入熱量を漸減させる。
【0028】
より具体的には、図6に示されるように、時刻T0においてレーザ光Lをオンにした後、レーザ光Lの出力をP1、照射領域の移動速度をV1として、時刻T1においてエッジ部分E1からガラス層3に照射領域を進入させる。そして、照射領域が入熱量変化領域R1の始点に初めて到達する時刻T2において、レーザ光Lの出力をP1で一定に維持したまま、照射領域の移動速度の漸減を開始し、照射領域が入熱量変化領域R1の終点に初めて到達する時刻T3において、照射領域の移動速度の漸減を終了する。これにより、時刻T2から時刻T3の間において、レーザ光Lの出力がP1で一定に維持されつつ照射領域の移動速度が当初のV1からV2に減少する。その結果、入熱量変化領域R1において入熱量が漸増されて、照射領域の温度が徐々に上昇して融点を上回る。
【0029】
その後、レーザ光Lの出力をP1、照射領域の移動速度をV2に維持したまま、時刻T4から時刻T5にかけて再び入熱量変化領域R1に照射領域を通過させる(即ち、入熱量を維持したまま、入熱量変化領域R1にオーバーラップしてレーザ光Lを照射する)。そして、照射領域が、再び入熱量変化領域R1を通過した後に入熱量変化領域R2の始点に到達する時刻T6において、レーザ光Lの出力をP1で一定に維持したまま、照射領域の移動速度の漸増を開始する。その後、照射領域が入熱量変化領域R2の終点に到達する時刻T7において、照射領域の移動速度の漸増を終了する。これにより、時刻T6から時刻T7の間において、レーザ光Lの出力がP1で一定に維持されつつ照射領域の移動速度がV2からV1に上昇する。その結果、入熱量変化領域R2において入熱量が漸減され、照射領域の温度が徐々に下降して融点を下回る。そして、時刻T8において、ガラス層3のエッジ部分E2から照射領域を退出させる。その後、時刻T9において、別のガラス層3のエッジ部分E1から当該ガラス層3に照射領域を進入させて、照射領域が入熱量変化領域R1を始めて通過する時刻T10から時刻T11の間に、再び移動速度を漸減させる。
【0030】
なお、速度V1は、レーザ光Lの出力がP1であるとき、ガラス層3が溶融する入熱量をガラス層3に与えない程度の速度であり、速度V2は、同じくレーザ光Lの出力がP1であるとき、ガラス層3を溶融させて有効部分同士を溶着させるのに十分な入熱量をガラス層3に与えられる程度の速度である。
【0031】
以上のようにして、互いに対向する有効部分41〜46と有効部分51〜56とを溶着した後に、図7に示されるように、ガラス基板40,50から溶着された有効部分41〜46と有効部分51〜56とのセットを切り出して、複数(ここでは6セット)のガラス溶着体1を得る。
【0032】
以上説明したように、ガラス溶着体1を製造するためのガラス溶着方法においては、一の溶着予定領域Rに沿ってレーザ光Lの照射領域を相対的に移動させるに際し、入熱量変化領域R1においてレーザ光Lによるガラス層3への入熱量を漸増させる。このため、照射領域をガラス層3に進入させるときに、その進入位置となるガラス層3のエッジ部分E1及び入熱量変化領域R1において、入熱過多や温度の急上昇に起因してガラス層3やガラス基板40,50にクラックが生じることが防止される。
【0033】
また、上述したガラス溶着体1を製造するためのガラス溶着方法においては、レーザ光Lの照射領域を比較的大きい移動速度V1で溶着予定領域Rに進入させた後に、入熱量変化領域R1に照射領域を初めて通過させるときに照射領域の移動速度をV2まで漸減させ、ガラス層3への入熱量を漸増させて溶着を開始する。
【0034】
一般に、照射領域を所定の移動速度で移動させた場合、その照射領域の温度分布は、図9の実線で示されるようなプロファイルとなる。これに対して、照射領域を上記所定の移動速度よりも小さい移動速度で移動させた場合には、その照射領域の温度分布は、図9の破線で示されるように、比較的なだらかなプロファイルとなる。
【0035】
したがって、入熱量変化領域R1において照射領域の移動速度をV1からV2へ漸減させることにより、ガラス層3の溶融領域が、ガラス層3の幅方向の中心部から徐々に広がっていくこととなる。これにより、図8(a)に示されるように、入熱量変化領域R1における溶融再固化領域M1が、その幅が入熱量変化領域R1の始点から終点にかけて徐々に大きくなるような末広がり状に形成される。このとき、溶融再固化領域M1の外形は、ガラス層3の幅方向の中心に向かって凸となる。このため、入熱量変化領域R1の始点近傍では未溶融領域M2が占める割合が増加する。このような入熱量変化領域R1に対して、入熱量が比較的大きい状態で(レーザ光Lの出力をP1、照射領域の移動速度をV2とした状態で)照射領域を再び通過させることにより、有効部分同士を確実に溶着して封止することができる。
【0036】
さらに、入熱量変化領域R1に照射領域を再度通過させた後に入熱量変化領域R2に照射領域を通過させるときに、ガラス層3への入熱量を漸減させる。このため、一のガラス層3から照射領域を退出させた後に別のガラス層3に照射領域を進入させるときに、その進入位置となる別のガラス層3のエッジ部分E1における入熱量が比較的小さくなる。一般に、ガラス層のエッジ部分は他の部分に比べて放熱性が低いが、この場合には、上述したように別のガラス層3のエッジ部分E1では入熱量が比較的小さくなるので、当該エッジ部分E1において、入熱過多に起因してガラス層3やガラス基板40,50にクラックが生じることが防止される。
【0037】
しかも、このガラス溶着方法においては、入熱量変化領域R2の全部が、一の溶着予定領域R内に位置するように設定されている。このため、レーザ光Lの退出位置であるガラス層3のエッジ部分E2では、ガラス層3への入熱量が十分に小さくなる。その結果、ガラス層3のエッジ部分E2において、入熱過多に起因してガラス層3やガラス基板40,50にクラックが生じることを防止できる。よって、このガラス溶着方法によれば、信頼性の高いガラス溶着体を製造することができる。
【0038】
さらに、このガラス溶着方法においては、入熱量変化領域R1及び入熱量変化領域R2における入熱量の漸増及び漸減を、レーザ光Lの出力を一定に維持しつつ照射領域の移動速度を変更して行う。このため、各溶着予定領域Rに沿ってレーザ光Lを照射する上で、レーザ光Lの出力の制御の複雑化が避けられると共に、レーザ光Lの出力を変更することに伴うレーザ光源への負荷が低減される。しかも、入熱量変化領域R2において照射領域の移動速度を漸増させるので、ガラス溶着体1の製造におけるタクトタイムを短縮できる。さらには、レーザ光Lをオンにしたまま、一の溶着予定領域Rから別の溶着予定領域Rへ照射領域を移動させるので、レーザ光Lのオン・オフを繰り返すことに起因してレーザ光源へ負荷がかかることを防止できる。
【0039】
ここで、溶着予定領域(ガラス層)上の所定の照射開始位置でレーザ光をオンにしてピーク出力での照射を開始する場合、図8(b)に示されるように、照射開始位置近傍の照射開始領域R3において、溶融再固化領域M3が照射開始位置から急激に広がって形成される。このため、照射開始領域R3においては、溶融再固化領域M3が大部分を占めており、未溶融領域M4が僅かしか形成されない。このため、照射開始領域R3に再度レーザ光の照射領域を通過させても、有効部分同士の溶着が十分に行われない場合がある。また、このガラス溶着方法では、複数のガラス溶着体を製造する場合に、レーザ光のオン・オフを繰り返し行う必要があり、レーザ光源に対する負荷が大きくなる。したがって、上述したガラス溶着体1を製造するためのガラス溶着方法が特に有意となる。
【0040】
なお、上述したガラス溶着体1を製造するためのガラス溶着方法においては、入熱量変化領域R2の全部が溶着予定領域R内に位置するものとしたが、これに限らず、例えば、その一部が溶着予定領域R内に位置するように設定してもよい。この場合においても、レーザ光Lの退出位置であるガラス層3のエッジ部分E2では、ガラス層3への入熱量が十分に小さくなる。
【0041】
或いは、入熱量変化領域R2は、入熱量変化領域R1よりも照射領域の進行方向前方であって、別の溶着予定領域Rの手前の位置に設定されていればよい。このように入熱量変化領域R2が別の溶着予定領域Rの手前の位置に設定されていれば、別のガラス層3に照射領域を進入させるときに、その進入位置となる別のガラス層3のエッジ部分E1において、入熱過多に起因して別のガラス層3やガラス基板40,50にクラックが生じることが防止される。
【0042】
また、上述したガラス溶着体1を製造するためのガラス溶着方法においては、入熱量変化領域R1に初めて照射領域を通過させる際に、レーザ光Lの出力をP1に一定に維持しつつ照射領域の移動速度を漸減させることで入熱量を漸増させるものとしたが、これに限らない。例えば、入熱量変化領域R1に初めて照射領域を通過させる際には、照射領域の移動速度を漸減させつつレーザ光Lの出力を漸増させて入熱量を漸増させてもよい。
【0043】
この場合、溶融再固化領域M1が末広がり状の形状により確実に形成されると共に、溶融再固化領域M1の外形がガラス層3の幅方向内側に向かって一層凸となるように形成される。したがって、入熱量変化領域R1に照射領域を再び通過させることにより、有効部分同士をより一層確実に溶着して封止することができる。
【0044】
なお、上記のように、入熱量変化領域R1に初めて照射領域を通過させる際に、照射領域の移動速度を漸減させつつレーザ光Lの出力を漸増させて入熱量を漸増させた場合には、入熱量変化領域R1に照射領域を再び通過させた後に入熱量変化領域R2に照射領域を通過させる際に、照射領域の移動速度を漸増させつつレーザ光Lの出力を漸減させることが好ましい。
【0045】
また、上述したガラス溶着体1を製造するためのガラス溶着方法では、入熱量変化領域R1に照射領域を通過させた後に入熱量変化領域R2に照射領域を通過させるときには、当該入熱量変化領域R2内において入熱量を減少させればよく、漸減に限らない。
【0046】
また、速度V1は、ガラス基板40とガラス基板50との間に配置される物体のうちの最も融点が低い物体に対して、その物体が融点以上となるような入熱量をその物体に与えない程度の速度とすることが好ましい。この場合には、レーザ光の空走時(即ち、照射領域が溶着予定領域R以外の領域を移動するとき)において、レーザ光の照射による熱的なダメージを軽減できる。
【0047】
また、上述したガラス溶着体1を製造するためのガラス溶着方法では、ガラス層3を加熱してガラスフリット2を溶融・再固化させることにより、ガラス基板40の表面40aに、レーザ光吸収性顔料を含むガラス層3を定着させたが、ガラス基板40に対するガラス層3の配置は、これに限定されない。一例として、ガラス基板40に対するガラス層3の配置は、ペースト層6を乾燥させて有機溶剤を除去し、ペースト層6を加熱してバインダを除去することにより、ガラス基板40の表面40aにガラス層3を固着させるだけでもよい。
【0048】
さらに、本実施形態においては、ガラス溶着体1を製造するためのガラス溶着方法を、ガラス基板上に有効部分が複数設定される、所謂多面取りの場合について説明したが、本発明に係るガラス溶着方法は、一対の有効部分同士を溶着して一つのガラス溶着体を製造する場合にも好適に適用できる。
【符号の説明】
【0049】
1…ガラス溶着体、3…ガラス層、4…ガラス部材(第1のガラス部材)、5…ガラス部材(第2のガラス部材)、40…ガラス基板(第1のガラス基板)、41〜46…有効部分(第1の部分)、50…ガラス基板(第2のガラス基板)、51〜56…有効部分(第2の部分)、R…溶着予定領域、R1…入熱量変化領域(第1の領域)、R2…入熱量変化領域(第2の領域)、L…レーザ光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の溶着予定領域に沿ったレーザ光の照射によって、第1のガラス部材と第2のガラス部材とが溶着されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法であって、
前記第1のガラス部材に対応する第1の部分を複数含む第1のガラス基板に対し、前記第1の部分ごとに前記溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材を含むガラス層を配置する第1の工程と、
前記第2のガラス部材に対応する第2の部分を複数含む第2のガラス基板を、前記第1の部分のそれぞれと前記第2の部分のそれぞれとが前記ガラス層を介して対向するように前記第1のガラス基板に重ね合わせる第2の工程と、
前記溶着予定領域に沿って前記ガラス層に前記レーザ光を照射することにより、対向する前記第1の部分と前記第2の部分とを溶着する第3の工程と、を備え、
前記第3の工程では、前記溶着予定領域のうちの一の溶着予定領域に沿って前記レーザ光の照射領域を相対的に移動させた後、前記溶着予定領域のうちの別の溶着予定領域に沿って前記照射領域を相対的に移動させ、
前記第3の工程では、前記一の溶着予定領域内に設定された第1の領域に前記照射領域を初めて通過させるとき、前記レーザ光の照射による前記ガラス層への入熱量を当該第1の領域において漸増させ、前記第1の領域に前記照射領域を再び通過させた後、前記別の溶着予定領域の手前に設定された第2の領域に前記照射領域を通過させるとき、前記入熱量を当該第2の領域において減少させ、
前記第3の工程では、前記第1の領域に前記照射領域を初めて通過させるとき、前記照射領域の相対的な移動速度を当該第1の領域において漸減させることを特徴とするガラス溶着方法。
【請求項2】
前記第3の工程では、前記第1の領域に前記照射領域を初めて通過させるとき、前記レーザ光の出力を当該第1の領域において略一定に維持することを特徴とする請求項1記載のガラス溶着方法。
【請求項3】
前記第3の工程では、前記第1の領域に前記照射領域を初めて通過させるとき、前記レーザ光の出力を当該第1の領域において漸増させることを特徴とする請求項1記載のガラス溶着方法。
【請求項4】
前記第2の領域は、その一部が前記一の溶着予定領域内に位置するように設定されており、
前記第3の工程では、前記第1の領域に前記照射領域を再び通過させた後、前記第2の領域に前記照射領域を通過させるとき、前記入熱量を当該第2の領域において漸減させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のガラス溶着方法。
【請求項5】
前記第2の領域は、その全部が前記一の溶着予定領域内に位置するように設定されており、
前記第3の工程では、前記第1の領域に前記照射領域を再び通過させた後、前記第2の領域に前記照射領域を通過させるとき、前記入熱量を当該第2の領域において漸減させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のガラス溶着方法。
【請求項6】
前記第3の工程では、前記第1の領域に前記照射領域を再び通過させた後、前記第2の領域に前記照射領域を通過させるとき、前記照射領域の相対的な移動速度を当該第2の領域において漸増させることを特徴とする請求項4又は5記載のガラス溶着方法。
【請求項7】
前記第1のガラス基板及び前記第2のガラス基板から、溶着された前記第1の部分及び前記第2の部分を切り出し、複数の前記ガラス溶着体を得る第4の工程を更に備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載のガラス溶着方法。
【請求項8】
環状の溶着予定領域に沿ったレーザ光の照射によって、第1のガラス部材と第2のガラス部材とが溶着されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法であって、
前記第1のガラス部材に対し、前記溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材を含むガラス層を配置する第1の工程と、
前記第2のガラス部材を、前記ガラス層を介して前記第1のガラス部材に重ね合わせる第2の工程と、
前記溶着予定領域に沿って前記ガラス層に前記レーザ光を照射することにより、前記第1のガラス部材と前記第2のガラス部材とを溶着する第3の工程と、を備え、
前記第3の工程では、前記溶着予定領域に沿って前記レーザ光の照射領域を相対的に移動させ、
前記第3の工程では、前記溶着予定領域内に設定された第1の領域に前記照射領域を初めて通過させるとき、前記レーザ光の照射による前記ガラス層への入熱量を当該第1の領域において漸増させ、
前記第3の工程では、前記第1の領域に前記照射領域を初めて通過させるとき、前記照射領域の相対的な移動速度を当該第1の領域において漸減させることを特徴とするガラス溶着方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−31033(P2012−31033A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173880(P2010−173880)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】