説明

キャビンのリヤサイドパネル開閉構造

【課題】座席の左右両側方に前開き状態で開閉自在なリヤサイドパネルを備える作業車両等のキャビンにおいて、前記リヤサイドパネルを開閉させるリンクアーム間の連結隙間に基づくガタによって不快な振動騒音が発生する不具合を解消する。
【解決手段】キャビン5とリヤサイドパネル10,10との間に、所定の開度でのリヤサイドパネル10,10の全開状態を許容し、且つ全開状態に至る途中のリヤサイドパネル10,10の開度を所定の開度で保持する開閉規制具15を設けると共に、当該開閉規制具15に備えるリンクアーム18,20を相互に密着させる弾性体からなる騒音吸収手段22を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタ等の作業車両に設けるキャビンのリヤサイドパネル開閉構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタ等の作業車両のキャビンにおいては、座席の左右両側方に位置するリヤサイドパネルを前開きの開状態となるように開閉自在に設け、更にリヤサイドパネルの全開状態を許容し、且つ全開状態に至る途中の開度でリヤサイドパネルを保持する開閉規制具を設けものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−97852号公報(第4−6頁、図4−図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そして、上述した開閉規制具は、キャビンのルーフ側のフレームから突出する支点軸に一端を回動自在に軸支したフレーム側のリンクアームと、リヤサイドパネル(リヤサイドガラス)の上部に固定したブラケットに一端を回動自在に軸支したリヤサイドパネル側のリンクアームを備え、更にリヤサイドパネル側のリンクアームに形成したスライド孔にフレーム側のリンクアームの先端に突設したピンを挿入し、このピンの先端にワッシャとスナップピンを嵌装することによって両リンクアームをスライド自在に連結している。
【0004】
しかし、リヤサイドパネルの回動軸とフレーム側のリンクアームの回動軸は平行ではなく、当該リヤサイドパネルを前開き状態で開閉させる際、フレーム側のリンクアームとサイドパネル側のリンクアームのスムーズなスライド動作を可能にすべく、両リンクアーム間に所定の連結隙間を設けているが、特にリヤサイドパネルを閉じた状態で作業車両を走行させると、前記両リンクアーム間の連結隙間に基づくガタよって不快な振動騒音が発生するといった不具合を有していた。尚、リヤサイドパネルの回動軸とフレーム側のリンクアームの回動軸を平行に構成した場合でも、両リンクアームのスムーズなスライド動作を可能にするために両リンクアーム間に所定の連結隙間を設ける必要があり、同様に両リンクアームによる振動騒音が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、座席の左右両側方に前開き状態で開閉自在なリヤサイドパネルを備えるキャビンにおいて、前記リヤサイドパネルの全開状態を許容し、且つ全開状態に至る途中の開度でリヤサイドパネルを保持する開閉規制具を設けると共に、当該開閉規制具に騒音を軽減させる騒音吸収手段を設けたことを第1の特徴としている。
【0006】
そして、騒音吸収手段が、開閉規制具に備える一対のリンクアームを相互に密着させる弾性体からなることを第2の特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、リヤサイドパネルの全開状態を許容し、且つ全開状態に至る途中の開度でリヤサイドパネルを保持する開閉規制具を設けると共に、当該開閉規制具に騒音を軽減させる騒音吸収手段を設けたことによって、リヤサイドパネルの開閉規制具から発生する不快な騒音を軽減することができる。
【0008】
そして、請求項2の発明によれば、騒音吸収手段が、開閉規制具に備える一対のリンクアームを相互に密着させる弾性体からなり、この弾性体の圧縮反力を利用して前記一対のリンクアームを相互に密着させ、その連結隙間によるガタを確実に吸収することができるので、開閉規制具から不快な騒音が発生するといった不具合を簡単に、また効果的に解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1〜図3は、キャビンを備える作業車両であるトラクタの側面図、平面図、及び背面図であって、このトラクタ1は、左右の前輪2及び後輪3を有する機体4の後方側にキャビン5を備え、該キャビン5内には、座席6を始め、ステアリングハンドル7、及び各種操作レバーやスイッチ類を配置した運転操縦部8を設けている。
【0010】
そして、キャビン5の前部側には、左右両側方に前開きの開状態となる一対のドア9,9を備えており、オペレータはドア9,9の何れかを開けてキャビン5内に乗り込み、座席6に着座してトラクタ1を運転することができる。
【0011】
また、座席6の左右両側方には、リヤサイドガラスからなる一対のリヤサイドパネル10,10を備えており、このリヤサイドパネル10,10を、キャビン5のリヤ縦支柱11にヒンジ12,12を介して取り付けている。
【0012】
尚、リヤサイドパネル10,10前部側のキャビン内には、ロックハンドル13が設けてあり、このロックハンドル13によって、リヤサイドパネル10,10を全閉状態でロックすることができ、このロックを解除することによってリヤサイドパネル10,10を開くことができるようになっている。
【0013】
そして、図4に示すように、リヤサイドパネル10,10とキャビン5のフレーム14との間には、リヤサイドパネル10,10の開閉規制具15が介設してあり、この開閉規制具15によって、リヤサイドパネル10,10の全開状態(全閉状態から概ね90度)を許容し、且つ全開状態に至る途中の開度で位置決めすることができるように構成している。即ち、リヤサイドパネル10,10は、開閉規制具15よって図5に示す如く半開(中間開)位置Aと、全開位置Bの2段階の開度調節が行えるようになっている。
【0014】
また、キャビン5の上部には、ルーフ16が設けてあり、このルーフ16によって運転操縦部8の上方が覆われている。そして、ルーフ16後部の左右両側は、上述したリヤサイドパネル10,10の上方位置において外側に突出する庇部16a,16aを形成しており、この庇部16a,16aでリヤサイドパネル10,10の上方を覆っている。
【0015】
そして、リヤサイドパネル10,10の半開位置Aでは、リヤサイドパネル10,10の外端部(前端)が、上述した庇部16a,16aの外側端より外側に突出しない開度に設定してあって、リヤサイドパネル10,10を半開位置Aに開いた状態では、当該リヤサイドパネル10,10自体が庇部16a,16aの外側に突出しないようになっている。これにより、リヤサイドパネル10,10の開口部分は、リヤサイドパネル10,10が半開位置Aに開いた状態では、常に庇部16a,16aの下方に位置し、リヤサイドパネル10,10の開口部分からのキャビン5内への雨水等の浸入が防止すると共に、雨天の場合にもリヤサイドパネル10,10を開き、新鮮な空気をキャビン5内に取り込むことができる。
【0016】
また、リヤサイドパネル10,10の半開位置Aにおいては、庇部16a,16aの最外側端が、常にリヤサイドパネル10,10の外側に位置しており、当該庇部16a,16aによって、トラクタ1の周辺に位置する障害物等に半開状態のリヤサイドパネル10,10が直接接触することを防止できるようになっている。
【0017】
尚、リヤサイドパネル10,10を全開状態(全開位置B)とすることによって、当該リヤサイドパネル10,10の開口部分から顔や手を出し、キャビン5の前側のドア9,9を開けることなく座席6に着座した状態で所用を済ませることもできる。例えば、畦際等の狭い場所での運転作業における目視確認や、トラクタ1の周辺にいる人とのコミュニケーションを容易に取るができる。
【0018】
次に、上述したリヤサイドパネル10,10の開閉規制具15について説明する。開閉規制具15は、図6及び図7に示すように、キャビン5のルーフ16側のフレーム14から下方に向け突出する支点軸17に回動自在に軸支したリンクアーム18と、リヤサイドパネル10の上部に固定したブラケット19に一端を回動自在に軸支したリヤサイドパネル10側のリンクアーム20と、支点軸17とブラケット19とに亘って取り付けたガススプリング21を備えている。
【0019】
そして、リヤサイドパネル10側のリンクアーム20に形成したスライド孔20aにフレーム14側のリンクアーム18の先端に突設したピン18aを挿入すると共に、このピン18aの先端に、発泡ウレタン等の弾性体からなる円盤状のスペーサ22をワッシャ23,23で挟んだ状態で嵌装し、更にその外側にスナップピン24を嵌着することにより当該スペーサ22をやや圧縮した状態として、その圧縮反力によって両リンクアーム18,20を上下に密着させた状態でスライド自在に連結している。
【0020】
更に詳しくは、一対のリンクアームであるフレーム14側のリンクアーム18とリヤサイドパネル10側のリンクアーム20は、共に曲げ形成したプレートからなり、上述した弾性体からなる円盤状のスペーサ22の圧縮反力を利用して両リンクアーム18,20を相互に密着させ、両リンクアーム18,20間の隙間に基づく連結ガタを確実に吸収することができるように構成している。即ち、弾性体からなる円盤状のスペーサ22は、トラクタ1を走行させる際、開閉規制具15から不快な振動騒音が発生するといった従来の不具合を軽減するための騒音吸収手段として作用し、特にリヤサイドパネル10,10を閉じた状態でトラクタ1を走行させる際、機体4の振動に伴って両リンクアーム18,20が接当/離間してガタつき、それによって不快な振動騒音が発生することを軽減できるようになっている。
【0021】
また、図8に示すように、リヤサイドパネル10,10の回動軸Y1とフレーム14側のリンクアーム18の回動軸(支点軸17)Y2は平行になっておらず、当該リヤサイドパネル10,10を前開き状態で開閉させる際、フレーム14側のリンクアーム18とサイドパネル10,10側のリンクアーム20のスムーズなスライド動作が行えるように、従来は両リンクアーム18,20間に所定の連結隙間を設けていた。
【0022】
しかしその一方で、リヤサイドパネル10,10を閉じた状態では、リヤサイドパネル10側のリンクアーム20の支点軸P1と、フレーム14側のリンクアーム18とリヤサイドパネル10側のリンクアーム20の連結軸、即ちリンクアーム18の先端に突設したピン18aとが最も近接するようになっており、リヤサイドパネル10,10を閉じた状態でトラクタ1を走行させると、前記両リンクアーム18,20間の連結隙間に基づくガタが最大となって不快な振動騒音が発生するといった不具合を有していた。そこで、本発明は、弾性体からなる円盤状のスペーサ22の圧縮反力を利用して両リンクアーム18,20を相互に常時密着させることによって、当該振動騒音が発生する不具合を軽減できるようにしている。
【0023】
また、ガススプリング21は、シリンダケース21aの端部を支点軸17に、ピストンロッド21bの端部をブラケット19にそれぞれ回動自在に軸支してあり、全閉状態ではリヤサイドパネル10,10を閉方向に付勢し、このガススプリング21の付勢力に抗して所定角度リヤサイドパネル10,10を開くと、ピストンロッド21bの端部が支点越えしてリヤサイドパネル10,10を開方向に付勢するように取り付けている。尚、ロックハンドル13を、キャビン5のフレーム14側のストッパプレート25へ係止することによって、リヤサイドパネル10,10を全閉状態にロックし、且つ当該リヤサイドパネル10,10は、全閉状態において、その前端側がウェザーストリップ26に押し付けられるようになっている。
【0024】
そして、リヤサイドパネル10,10側のリンクアーム20に形成したスライド孔20aは、直線状の長孔であって、このスライド孔20aのブラケット19側の端部に、当該スライド孔20aに対してオフセットした係止孔20bを連続形成してあり、図6に示すリヤサイドパネル10,10の全閉状態においては、リンクアーム18の先端に突設したピン18aがブラケット側のスライド孔20aの端部に、また図9に示すリヤパネル10,10の全開状態においては、リンクアーム18の先端に突設したピン18aが支点軸17側のスライド孔20aの端部に位置するようになっている。
【0025】
上述した構成のリヤサイドパネル10,10の開閉規制具15によれば、先ずこのリヤサイドパネル10,10の全閉状態をロックハンドル13によって解除し、次いでガススプリング21のピストンロッド21bの端部が支点越えするまでリヤサイドパネル10,10を手動で開き、前記ピストンロッド21bの端部が支点越えした以降は、ガススプリング21によりヤサイドパネル10,10が開方向に付勢されるので、当該リヤサイドパネル10,10を自動的に開くことができる。
【0026】
但し、リヤサイドパネル10,10の開側への回動に伴って、図10に示すようにリヤサイドパネル10側のリンクアーム20がブラケット19側の支点軸P1を中心に揺動し、リンクアーム18の先端に突設したピン18aが、ブラケット19側のスライド孔20aの端部にオフセット形成した係止孔20bと係合する。尚、前記リンクアーム20に形成した係止孔20bをピン18aに係合させる方向に付勢する図示しない捩じりスプリングを支点軸P1に設けている。そして、前記係止孔20bにピン18aを係合させることによって、リヤサイドパネル10,10の開方向への揺動が規制されるようになっている。即ち、リヤサイドパネル10,10は、全閉から全開に至る途中おいて前記係止孔20bにピン18aが係合する開度で位置決めされ、図5に示した半開(中間開)位置Aで保持されるようになっている。
【0027】
尚、上述の如くリヤサイドパネル10,10が半開位置Aで保持されている状態では、ガススプリング21はリヤサイドパネル10,10を開方向に付勢しており、この状態でリヤサイドパネル10側のリンクアーム20をリヤサイドパネル10,10の開方向と同じ方向(D矢印方向)に揺動させ、リンクアーム18の先端に突設したピン18aをリヤサイドパネル10,10側のリンクアーム20に形成したスライド孔20a内に移行させると、前記ピン18aはスライド孔20a内をスムーズにスライドするので、リヤサイドパネル10,10は自動的に半開位置Aから全開位置(全開状態)Bまで移行する。
【0028】
以上説明したように、リヤサイドパネル10,10の全閉状態から半開位置Aへの切り替え及び全開位置Bへの切り替えは、リヤサイドパネル10,10の開閉規制具15を介して簡単に行えるようになり、特にリヤサイドパネル10,10を半開位置Aから全開位置Bへ切り替えて位置決めする際は、リヤサイドパネル10側のリンクアーム20のワンタッチ揺動操作のみで簡単に行うことができるので作業性に優れている。
【0029】
また、リヤサイドパネル10,10の全閉状態から半開位置Aへの切り替えも、先ずこのリヤサイドパネル10,10の全閉状態をロックハンドル13によって解除し、次いでガススプリング21のピストンロッド21bの端部が支点越えするまでリヤサイドパネル10,10を手動で開くだけで簡単に行える。この時、ロックハンドル16によるリヤサイドパネル10,10の全閉状態のロック解除だけでは、ガススプリング21がリヤサイドパネル10,10を閉側に付勢しているので、当該ロック解除と共にリヤサイドパネル10,10が急に開くという不具合は起こらない。
【0030】
尚、半開位置Aまたは全開位置Bにあるサイドパネル10,10を閉じるには、オペレータがキャビン5内からロックハンドル13を持って手前側(キャビン側)に引くだけでよく、当該サイドパネル10,10の閉操作も容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】トラクタの側面図。
【図2】トラクタの平面図。
【図3】トラクタの背面図。
【図4】開閉規制具の構成を示すキャビンの斜視図。
【図5】リヤサイドパネルの開度調節位置を示す平面図。
【図6】開閉規制具の構成を示す平面図。
【図7】図6におけるCC断面図。
【図8】リヤサイドパネルの取り付け形態を示す側面図。
【図9】リヤサイドパネルの全開状態を示す要部平面図。
【図10】リヤサイドパネルの半開状態を示す要部平面図。
【符号の説明】
【0032】
5 キャビン
6 座席
10 リヤサイドパネル
15 開閉規制具
18 リンクアーム(フレーム側)
20 リンクアーム(リヤサイドパネル側)
22 騒音振動吸収手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座席(6)の側方に前開き状態で開閉自在なリヤサイドパネル(10,10)を備えるキャビン(5)において、前記リヤサイドパネル(10,10)の全開状態を許容し、且つ全開状態に至る途中の開度でリヤサイドパネル(10,10)を保持する開閉規制具(15)を設けると共に、当該開閉規制具(15)に騒音を軽減させる騒音吸収手段(22)を設けたことを特徴とするキャビンのリヤサイドパネル開閉構造。
【請求項2】
騒音吸収手段(22)が、開閉規制具(15)に備える一対のリンクアーム(18,20)を相互に密着させる弾性体からなる請求項1に記載のキャビンのリヤサイドパネル開閉構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−31944(P2007−31944A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212307(P2005−212307)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】