説明

クロップ落下検出方法

【課題】水蒸気やミストが充満する環境下においても、粗バーからのクロップの分離、落下を精度良く容易に検出することができ、また仮にクロップがクロップシュートに引っ掛り、複数のクロップがクロップシュート上に停滞、堆積した場合であってもその状態を早期且つ確実に認識することができるクロップ落下検出方法を得る。
【解決手段】熱間圧延後における粗バー2の先端及び/又は後端に形成された不定形部を切断したクロップ4をクロップシュート5を通じて落下させるに際して、上記クロップシュート5の近傍に、該クロップシュート5の全幅を監視する遠赤外線検出装置7を設け、クロップシュート5を落下してくるクロップ4が放射する遠赤外線を該遠赤外線検出装置7により検出して、該落下してくるクロップの形状を熱画像として出力することにより、クロップの落下を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間粗圧延後の粗バーの先端や後端に形成された不定形部を切断したクロップが、粗バーから正常に分離し、落下したか否かを検出するクロップ落下検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スラブを熱間圧延した粗バーの先端や後端にはクロップと呼ばれる不定形部が形成されるが、このクロップが形成されたままの状態で熱間仕上圧延を行うと、板厚制御に支障を来たし、均一な板厚の鋼板を製造することができない。そのため、粗バーが熱間仕上圧延機に通板される前に、クロップシャーで該粗バーの先端や後端のクロップを切断除去しているのが通常である。
しかしながら、切断したクロップが粗バーから分離せずに粗バーと共に仕上圧延機に噛み込まれ、仕上圧延機のロールが損傷する場合や、切断したクロップが、該クロップを落下させて所定の場所に排出するクロップシュート上で引掛って、該クロップシュート上に多量のクロップが詰まり、クロップの除去が行えない場合があった。そうすると、分離しないクロップやクロップシュートに引っ掛ったクロップ等の除去のため、ラインを一旦休止する必要が生じ、生産効率が著しく低下するという問題があった。
【0003】
このような問題を解消するため、従来は、例えば特許文献1や特許文献2に記載されているように、クロップシュート近傍に高温のクロップが放射する輝度を検出するテレビカメラ(ITVカメラ)を設置して上記クロップシュートを監視し、該テレビカメラが検出した輝度信号に基づいてクロップの落下を確認する方法が取られていた。
しかしながら、上記クロップシャーのブレード(刃)には冷却用の水が常時又は間欠的に噴射されており、その冷却水が通常1000℃以上の温度を有するクロップに接触すると多量の水蒸気が発生すると共に、その水蒸気が大気中で冷やされて粒径0.1μm〜5μmの微細な水滴(以下、「ミスト」という。)が生じ、浮遊する。これらの水蒸気やミストは、可視光を吸収あるいは散乱させて透過率を著しく低下させるため、上記テレビカメラによる輝度信号の検出が正確に行えない場合があった。特に、冬場など露点が高い場合には、テレビカメラ周辺に蒸気が充満しやすいため、可視光の透過率が一層低下してテレビカメラによる輝度検出が行えず、これによってクロップの落下の確認ができないケースが頻発するという問題点があった。
また、特許文献2に記載のものの場合は、クロップの落下判定ロジックや判定のための機器が非常に複雑であり、投資額も高額になる傾向にあった。
【0004】
また、特許文献3には、粗バーからの分離直後の高温のクロップは近赤外線(波長0.7〜2.5μm程度)の放射輝度が大きいこと、及び近赤外線は水蒸気に対する透過率が高いことを利用し、この波長帯を検出する放射温度計を用いてクロップシュートを監視し、この放射温度計が検知したクロップシュートを落下するクロップの温度の跳ね上がり信号により、クロップが正常に切断、分離されたか否かを認識するクロップの自動検出装置が開示されている。この特許文献3に記載されている技術は、上記特許文献1,2のものに比べて、水蒸気が充満する環境であっても、クロップシュートを落下してくるクロップを比較的精度良く検出することができる。
【0005】
しかしながら、この特許文献3のものの場合、クロップがクロップシュートに引っ掛り、複数のクロップがクロップシュート上に停滞、堆積した場合には、その堆積部分の輝度信号は高い値に保たれ、放射温度計による温度の跳ね上がり信号の検出が困難になる可能性があった。
また、近赤外線は水蒸気に対する透過率は可視光に比べると高いものの、光は波長より大きい粒径のミストによって散乱されやすいため、波長帯によってはミストを透過せずに、散乱される傾向にあり、この結果、輝度信号の検出が正確に行えない場合もあった。特に近年では、この引用文献3のもののように、クロップシュートに、クロップがクロップシュート上に引っ掛った場合に該クロップを強制的に押し流す水を噴射する設備を設ける場合がある。この場合において実際に水を噴射すると、その噴射した水がクロップに接触して水蒸気になり、さらには大量のミストに変化することとなるため、輝度信号の検出精度の低下が顕著であった。また最近では、クロップのクロップシュート上での引掛りを未然に防止するため、クロップシュートに定常的に水を流してクロップの落下促進を図る場合があり、この場合にはより多量の水蒸気及びミストが定常的に発生する状況となるため、輝度信号の検出精度が一層低下し、クロップの分離、落下判断ができない可能性があった。
さらに、上記特許文献3の場合、オペレータが跳ね上がり信号を認識することによりクロップが正常に切断、分離されたか否かの判断を行うが、また信号認識に時間がかかる場合もあるため、短時間での判断が必要となるクロップの落下検出には作業負荷が大きくなることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55−71619号公報
【特許文献2】特開平4−4925号公報
【特許文献3】特開2006−122926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の技術的課題は、水蒸気やミストが充満する環境下においても、粗バーからのクロップの分離、落下を精度良く容易に検出することができ、また仮にクロップがクロップシュートに引っ掛り、複数のクロップがクロップシュート上に停滞、堆積した場合であってもその状態を早期且つ確実に認識することができるクロップ落下検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
如上に鑑み、本発明者らは、水蒸気やミストが充満する環境下においても、クロップを精度良く且つ容易に検出するために鋭意検討を重ねた結果、粗バーからの切断直後の高温のクロップは赤外線の放射が強く、その中でも波長が3.5μm〜14μm程度の遠赤外線については、上記近赤外線よりは放射が弱いものの、水蒸気に対する透過率が高いこと、及び光は波長より小さい粒径のミストによって散乱されにくいため、長波長である遠赤外線は粒径0.1μm〜5μmのミストに対する透過率が近赤外線に比べて非常に高いことに着目した。そして、クロップから放射される遠赤外線を検出して、クロップを熱画像として認識することができるようにすることにより、クロップの分離、落下の安定的な検出が可能であることはもちろん、クロップがクロップシュートに引っ掛って、複数のクロップがクロップシュート上に停滞、堆積した場合であってもその状態を容易に認識することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、上記課題を解決するため、本発明のクロップ落下検出方法は、熱間圧延後における粗バーの先端及び/又は後端に形成された不定形部を切断したクロップをクロップシュートを通じて落下させるに際して、該クロップの落下を検出するクロップ落下検出方法において、上記クロップシュートの近傍に、該クロップシュートの全幅を監視する遠赤外線検出装置を設け、クロップシュートを落下してくるクロップが放射する遠赤外線を該遠赤外線検出装置により検出して、該落下してくるクロップの形状を熱画像として出力することにより、クロップの落下を検出することを特徴とする。
【0010】
本発明においては、上記遠赤外線検出装置を、冷却水を循環することにより表面温度及び内部温度を下げる水冷式の保護ケース内に収容し、該保護ケースに設けたゲルマニウム材製の窓部を介して、落下するクロップが放射する遠赤外線を検出することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水蒸気やミストの透過率が高い遠赤外線を検出して、クロップシュートを落下してくるクロップが放射する遠赤外線を該遠赤外線検出装置により検出するようにしているため、水蒸気やミストが充満する環境下においても、クロップを精度良く且つ容易に検出することができる。
さらに、クロップを熱画像として出力して認識することができるようにしたため、クロップがクロップシュートに引っ掛って、複数のクロップがクロップシュート上に停滞、堆積した場合であっても、その状態を早期且つ確実に認識することができ、またクロップの分離、落下判定も一見して行うことができ、きわめて容易である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のクロップ落下検出方法を実施する設備の一実施の形態を模式的に示す側面図である。
【図2】同断面図である。
【図3】本発明のクロップ落下検出方法において用いる保護ケースを模式的に示す断面図である。
【図4】実施例1に係る比較実験に用いた装置を模式的に示す正面図である。
【図5】実施例1の結果を示す写真である。ただし、(a)可視光を検出する方法での画像、(b)近赤外光を検出する方法での画像、(c)本発明に係る方法と同様に遠赤外線を検出して熱画像として出力した画像をそれぞれ示している。
【図6】実施例2の結果を示す写真である。ただし、(a)クロップ落下直後の状態、(b)クロップシュートを滑り落ちていく状態をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るクロップ落下検出方法の一実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1〜図3は本発明の方法の実施に使用される設備を示すものであり、この設備は、テーブルロール1上を通板されてきた粗バー2の先端や後端(尾端)に形成された不定形部を切断する上下一対のクロップシャー3,3と、その切断された不定形部であるクロップ4を落下させて所定の位置に滑り落とすクロップシュート5と、該クロップシュート5から滑り落ちてきたクロップ4を受け止めてその回収に供するクロップ受け6とを備えている。さらに、クロップシュート5の近傍には、該クロップシュート5を監視する1台の遠赤外線検出装置7が配設されている。
【0014】
上記一対のクロップシャー3,3には、不定形部を切断するブレード3aがそれぞれ設けられていて、該ブレード3aに対してはブレード冷却用の冷却水8が噴射ノズル9から連続あるいは間欠的に噴射されている。
上記クロップシュート5は、上記クロップシャー3,3が載置されている床面における粗バーの入側及び出側にそれぞれ開設された上方向きの開口部10と、クロップ4を上記クロップ受け6に滑り落とす傾斜面11aを備えた傾斜部11とを有している。これにより、クロップシャー3,3により切断されたクロップ4を、上記開口部10を通じて傾斜部11に落下させると共に、該傾斜部11を滑り落としてクロップ受け6に至らしめる構成となっている。
また、このクロップシュート5には、水噴射装置12が設けられていて、クロップシュート5の傾斜部11にクロップ4が引っ掛った場合、あるいはクロップ4の引掛りを未然に防ぐ目的で、必要に応じてあるいは常時、傾斜部11における傾斜面11aの上流側から下流側に向けて水12aを噴射して、クロップ4を強制的に下流側、即ちクロップ受けに向けて押し流すことができるようになっている。
【0015】
一方、上記遠赤外線検出装置7は、クロップシュート5の全幅を監視することができ、且つ7.5μm〜13μmの波長帯の遠赤外線を常時検出することができる検出素子を備えた放射温度計を有しており、検出したデータを映像信号として出力するようになっている。その後、外部に設置されたモニター13に送られ、最終的に、遠赤外線検出装置7によって検出されたデータはこのモニター13に熱画像として表示され、オペレータの状況の認識、クロップの分離、落下判断に供される。
これにより、クロップシュート5の幅方向のいずれかの位置を滑り落ちてくるクロップ4の存在及び形状を、熱画像として常時出力し、状況を把握、確認することができる。
【0016】
また、上記遠赤外線検出装置7は、クロップ4の各部の表面温度によってそれぞれ放射される遠赤外線の該遠赤外線検出装置7での照度に応じて、異なる色相や彩度、あるいは明度でモニター13に表示できるように映像信号を出力することが可能となっている。これにより、クロップ4の存在はもちろん、外郭形状までモニター13上で一見して把握することができる。
特に、通常は先に落下してきたクロップは後に落下してきたクロップよりも表面温度が低く、またクロップの周縁部分の表面温度は通常は他の部分に比べて低いため、モニター13に表示されるクロップは外郭部分が他の部分とは異なる色相等で表示され、この結果、複数のクロップが重なりあう場合が生じても、各クロップの全体の温度差や、各部の温度差によってクロップ個別の存在や外郭形状、相互の重なり具合を認識することが可能となる。
なお、この実施の形態においては、上記モニター13として熱画像をカラー表示できるものを採用し、検出した温度に応じた色に色分けして表示できるようにしており、これにより、クロップ表面の温度や、その色分けによってクロップの形状を、オペレータがより確実且つ容易に把握することを可能としている。
【0017】
ここで、クロップ4の落下を検出する手段として上記遠赤外線検出装置7を用いたのは、既に述べたように、粗バーからの切断直後のクロップは未だに1000℃以上の温度を有しているが、このような高温の物体は赤外線の放射が強いためである。さらには、赤外線の中でも、波長3.5μm〜14μm、特に波長7.5μm〜13μm程度の遠赤外線は、近赤外線よりは放射が弱いものの、光は波長より小さい粒径のミストによって散乱されにくい特性があるため、水蒸気はもちろん、ミスト(粒径0.1μm〜5μm程度)に対する透過率が近赤外線に比べて非常に高いためである。
上述のように、上記クロップシャー3,3には常時又は間欠的にブレード用の冷却水8が噴射されており、またクロップシュート5にはクロップを強制的に押し流す水噴射装置12が設けられていて、必要に応じてあるいは常時水12aが噴射されることから、このような水が高温のクロップに接触した場合には、水蒸気が発生し、一部は大気により冷されてミスト化する。
このため、クロップシュート5及びその近傍には水蒸気やミスト14が充満するため、クロップの落下の確実且つ安定的な検出にはこれらの水蒸気やミストの影響を排除する必要がある。
【0018】
そこで、本発明の方法においては、クロップ4の落下を検出する手段として上述のような遠赤外線検出装置7を用い、たとえ放射強度が近赤外線よりも小さくても、水蒸気やミストをきわめて透過しやすい遠赤外線を検出することにより、水蒸気やミストが充満する環境下であってもクロップの落下を精度良く且つ容易に検出することができるようにしている。
なお、この実施の形態の遠赤外線検出装置7においては、7.5μm〜13μmの波長帯の遠赤外線を常時検出することができる検出素子を備えた放射温度計を用いているが、これは、この波長帯の遠赤外線については、粒径0.1μm〜5μm程度のミストに対する透過率が高い値で安定しており、比較的検出し易いためである。
【0019】
ところで、上記遠赤外線検出装置7は、クロップシュート5の全幅を監視することができる位置であって、且つ、クロップシュート5等の各設備からの振動に起因する故障を排除できるような振動の影響を受けない場所、例えば基礎上に設置されている。
また、この遠赤外線検出装置7は、周囲の温度の影響を可及的に抑止する水冷式の保護ケース15中の内部空間に気密に収容された状態で配設されている。
上記保護ケース15は、この実施の形態においては、図3に示すように、二重の周壁の間の空間に冷却水を充填して循環させる構成等、冷却水を循環させて温度を低下させる構成の金属製の筐体16を備えた中空状のものを用いている。そして、筐体16の外周部に設けられた冷却水用の供給口16aから冷却水を供給して排出口16bから排出させることにより、該冷却水を筐体16内で循環させ、保護ケース15全体の表面温度及び中空内の内部温度を下げることができる構成となっている。
【0020】
また、この保護ケース15の軸方向の一端側には、遠赤外線の検出を行うための開口17が設けられていると共に、該開口17には、板状に形成されたゲルマニウム材製の窓部18が、開口17を気密に塞ぐように取付けられている。
上記窓部18にゲルマニウム材を用いたのは、通常のガラスが遠赤外線を透過させないためであり、このようにゲルマニウム材によりこの窓部18を形成することにより、該窓部18を介した遠赤外線検出装置7による遠赤外線の検出を確実に行わせることができる。
なお、上記保護ケース15の軸方向の他端側は、遠赤外線検出装置7から上記モニター13に映像信号を出力するためのコード7aや電源コード7bが、シール材15aを通して気密にそれぞれ導出されている。
【0021】
上記構成の装置を用いて本発明に係るクロップ落下検出方法を実施する場合、テーブルロール1によって粗バー2を通板し、該粗バー2の先端や後端にある不定形部を切断してクロップ4を分離し、クロップシュート5の開口部10から傾斜部11に落下させる。その後、そのクロップ4は、傾斜部111の傾斜面11aを滑り落ちてクロップ受け6まで至ることとなる。
その際、クロップシュート5は遠赤外線検出装置7が全幅にわたって常時監視しており、クロップ4がクロップシュート5を滑り落ちてきた際には、該クロップ4から放射される遠赤外線をこの遠赤外線検出装置7が検出する。そして、その検出した遠赤外線を熱画像として出力し、モニター13にクロップ4の存在及び外郭の形状を表示する。
【0022】
上記遠赤外線検出装置7がクロップシュート5を監視するに際して、クロップシュートや遠赤外線検出装置7の設置位置、及びこれらの近傍においては、クロップシャー3のブレード用の冷却水8や、クロップシュート5に設けられた水噴射装置12からの水12aが高温のクロップ4に接触したことにより生じる水蒸気やミスト14が充満しているが、クロップ4から放射される遠赤外線はこれらの水蒸気やミスト14に透過しやすいため、ほとんど散乱しない。
これにより、遠赤外線検出装置7は水蒸気やミスト14を透過した遠赤外線を確実且つ安定的に検出することができるため、このような水蒸気やミストが充満する環境下においても、クロップの存在及び外郭の形状を熱画像として確実に認識することができる。この結果、粗バー2からのクロップ4の分離、落下を精度良く容易に検出することが可能となり、そのクロップ4の分離、落下に係る判断を迅速且つ確実に行うことができる。
【0023】
また、上記遠赤外線検出装置7は、クロップ4を、該クロップ各部の表面温度に応じて放射される遠赤外線の該遠赤外線検出装置7での照度に応じた色相や彩度、あるいは明度の熱画像として出力し、モニター13に表示させるため、該クロップ4の存在及び外郭形状を容易に認識、把握することができる。これにより、たとえクロップ4がクロップシュート5上で引掛り、複数のクロップが重なり合って堆積するような異常な事態が生じたとしても、個々のクロップの存在を早期に且つ確実に把握することができるため、水噴射装置12からのクロップシュート5への水12aの噴射や噴射量の調整等、異常解消のための早期対応が可能となる。
さらに、クロップ4の分離、落下判定を行うに際しては、オペレータがモニター13に表示された熱画像を観察することから、クロップの分離、落下、あるいはクロップシュート上において複数のクロップが堆積した場合等を一見して判断することができるため、例えば検出された波形を観察するような場合に比べるとオペレータの作業負荷がきわめて小さいという利点がある。
【0024】
また、出力された熱画像に基づいてクロップの形状を把握できることにより、クロップの大きさも把握することができるため、検出結果に基づき、粗バーにおける不定形部の切断位置の事後的な調整の促進を図ることができ、この結果、クロップの大きさ、つまりは切断部分の大きさを極力小さくすることによる歩留まりの向上も可能となる。
【0025】
上記実施の形態においては、遠赤外線検出装置7を1台設置した例について述べたが、この遠赤外線検出装置は2台以上設置してもよく、またその場合には、それぞれ別の位置からクロップシュートを監視するようにすることができる。
さらに、この実施の形態においては、遠赤外線検出装置7に、7.5μm〜13μmの波長帯の遠赤外線を常時検出することができる検出素子を備えた放射温度計を採用しているが、遠赤外線を検出することができれば、この波長帯以外の波長を検出することができる放射温度計を用いることができる。
また、上記実施の形態では、熱画像を表示するモニター13としてカラー表示できるものを採用していたが、クロップの存在や外郭形状等を一見して把握できる熱画像を表示できればモノクロ表示のものを採用してもよい。
【実施例1】
【0026】
本発明の効果を確認するため、本発明に係るクロップ落下検出方法と、本発明に依らない検出方法、即ち、可視光や近赤外線を検出することによりクロップの落下を検出する方法とを用い、それぞれの方法におけるクロップの検出状況を相互比較する実験を行った。
この実施例に係る比較実験においては、クロップの検出を行うクロップシュート及びその近傍の環境を再現するため、図4に示すように、上方が開口した筒状のケース20内に水蒸気を充填した。その上で、該ケース内に表面温度が1100℃の加熱した鋼板21を挿入すると共に、ケース20の上方に可視光、近赤外光、遠赤外光をそれぞれ検出する検出装置22を設置し、ケース20の開口を通して加熱した鋼板を観察した。
また、比較は、可視光、近赤外光については通常のビデオ画像をモニターに表示し、遠赤外光については熱画像をカラー表示のモニターに表示して、上記加熱した鋼板の出力状態を評価した。
なお、この実験の際の上記ケース内の水蒸気については、蒸気圧力0.15MPa、蒸気層の厚さは約700mmであった。さらに、観察対象となる上記加熱した鋼板は、5cm×4cmの矩形状のもので、厚さは4mmであった。
【0027】
各検出装置については、可視光に係る検出装置は、一般的なITVカメラを用い、遠赤外光及び近赤外光を遮断するため、該検出素子の前にガラス製のレンズ及び赤外光遮断フィルタレンズを配設し、検出素子がこれら2つのレンズを通して0.4μm〜0.8μmの波長のみを検出できる状態とした上で、上記ケース内の鋼板の観察を行った。
また、近赤外光に係る検出装置は、赤外線の検出ができるカメラを用い、可視光と遠赤外光を遮断するため、該検出素子の前に可視光遮断フィルタレンズとガラス製のレンズを配置し、検出素子がこれら2つのレンズを通して0.8μm〜3.0μmのみの波長を検出できる状態とした上で、上記ケース内の鋼板の観察を行った。
さらに、遠赤外光に係る検出装置は、上記実施の形態で説明した遠赤外線検出装置と同様の構成のものを用い、可視光を遮断すると共に赤外光(近赤外光、遠赤外光)を透過させるため、該検出素子の前にゲルマニウム材製の窓部(ゲルマニウム材製のレンズ)を配置し、ゲルマニウム材製の窓部(ゲルマニウム材製のレンズ)を透過した赤外光のうち遠赤外光の7.5μm〜13.0μmのみの波長を検出する検出素子で、上記ケース内の鋼板の観察を行った。
なお、可視光、近赤外光に係る検出装置による検出結果は、通常のビデオ画像としてモニターに表示し、遠赤外光に係る検出装置による検出結果は熱画像としてモニターに表示して相互比較した。
【0028】
この実験の結果、可視光の検出による画像は、図5(a)に示すように、ケース内、あるいは上部の開口から漏れ出たミストが視界を遮ってしまい、ケース内の鋼板を全く視認することができなかった。これは、ケース内の水蒸気の一部が冷やされてミスト化すると共に、このミストをほとんど透過しない可視光は該ミストにより散乱したためであると考えられる。
また、近赤外光の検出による画像は、図5(b)に示すように、鋼板の一部の表面温度が高いと思われる部位については、ぼんやりとその存在を確認できるが、鋼板の形状までは視認することはできなかった。これは、ケース内の水蒸気が冷やされてミストが発生し、このミストを透過しない波長帯の近赤外光が該ミストにより散乱される一方で、透過した一部の波長帯の近赤外光が検出されたためであると考えられる。
一方、遠赤外光の検出による熱画像は、図5(c)に示すように、ケース内に充満した水蒸気やミストの存在に関わらず、鋼板をその外郭形状まではっきりと視認することができた。
したがって、本発明のように、クロップが放射する遠赤外線を遠赤外線検出装置により検出して、該クロップの形状を熱画像として出力することにより、水蒸気やミストが充満している環境下でも、クロップの存在及び外郭形状を確実に検出することができることが実証された。
【実施例2】
【0029】
続いて、本発明に係る本発明に係るクロップ落下検出方法を、図1及び図2に示すような設備での導入実験を行い、効果の確認を行った。なお、クロップシャーのブレードには冷却水が定期的に噴射し、また、クロップシュートの傾斜部には水噴射装置によって常時水が噴射、供給した。
この結果、遠赤外線検出装置やクロップシュートの設置やその近傍には水蒸気やミストが充満した環境であったが、図6(a),(b)に示すように、クロップがクロップシュートを滑り落ちていく状況を熱画像で一見して確認することができた。
また、クロップの周縁部分は温度が他の部分との温度差により、クロップの外郭形状をはっきりと視認することができた。
これにより、水蒸気やミストが充満する環境下においても、クロップの存在及び外郭形状を確実に検出することができ、粗バーからのクロップの分離、落下を精度良く容易に検出できることが実証された。
【符号の説明】
【0030】
2 :粗バー
4 :クロップ
5 :クロップシュート
7 :遠赤外線検出装置
14:保護ケース
18:窓部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延後における粗バーの先端及び/又は後端に形成された不定形部を切断したクロップをクロップシュートを通じて落下させるに際して、該クロップの落下を検出するクロップ落下検出方法において、
上記クロップシュートの近傍に、該クロップシュートの全幅を監視する遠赤外線検出装置を設け、クロップシュートを落下してくるクロップが放射する遠赤外線を該遠赤外線検出装置により検出して、該落下してくるクロップの形状を熱画像として出力することにより、クロップの落下を検出することを特徴とするクロップ落下検出方法。
【請求項2】
上記遠赤外線検出装置を、冷却水を循環することにより表面温度及び内部温度を下げる水冷式の保護ケース内に収容し、該保護ケースに設けたゲルマニウム材製の窓部を介して、落下するクロップが放射する遠赤外線を検出することを特徴とする請求項1に記載のクロップ落下検出方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−81503(P2012−81503A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230379(P2010−230379)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】