説明

グリーンシート、これを用いたセラミック電子部品およびその製造方法

【課題】信頼性が向上するグリーンシートおよびこれを用いたセラミックスの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するために、本発明は、ペロブスカイト化合物の一般式をABO3(A、Bは元素、Oは酸素をそれぞれ示す)としたとき、少なくとも元素Aと元素Bからなるとともに元素Aのモル数が元素Bのモル数よりも大きい化合物αと少なくとも元素Bを含む化合物βを用いてなることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリーンシート、これを用いたセラミック電子部品およびその製造方法に関するもので、特に、ペロブスカイト化合物粉末を用いたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のグリーンシートおよびこれを用いたセラミック電子部品の製造方法について説明する。図8は、チタン酸バリウムを用いたグリーンシートおよびこれを用いたセラミック電子部品の製造方法を示すステップ図である。
【0003】
まず、炭酸バリウムと酸化チタンを用意し(図8A、B)、溶媒中にこれら炭酸バリウムと酸化チタン、バインダ、可塑剤等を添加してスラリーを作製し(図8C)、ベースフィルム上に塗布することでシート成形しグリーンシートを作製する(図8D)。このグリーンシートと電極層を積層して脱バイ、仮焼し(図8E)、その後焼成することで炭酸バリウムと酸化チタンの反応が起こりチタン酸バリウムのセラミック電子部品が作製される(図8F)。
【0004】
この製造方法は一般的に反応焼結法とよばれているものである。この反応焼結法は、グリーンシート作製後に仮焼と焼成を一括または分割して行うため、グリーンシート作製前の粒子間で仮焼によりネッキングが発生するということがなく、その結果、粒子の大きさが不均一になることが少ない。そのため、グリーンシートを作製する際均一にシート成形しやすいという利点がある。
【0005】
なお、本発明に関連する先行技術文献情報としては特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開2002−193663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
その一方、上述した反応焼結法の場合、グリーンシートの焼成時に炭酸バリウムと酸化チタンの反応が起こるが、その際、二酸化炭素ガスも発生する。この二酸化炭素ガスの発生はグリーンシートの膨張を引き起こすので得られるセラミックスは焼結性の悪いものになってしまい、その結果、信頼性が低下してしまうという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、信頼性が向上するグリーンシート、これを用いたセラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、本発明は、ペロブスカイト化合物の一般式をABO3(A、Bは元素、Oは酸素をそれぞれ示す)としたとき、少なくとも元素Aと元素Bからなるとともに元素Aのモル数が元素Bのモル数よりも大きい化合物αと少なくとも元素Bを含む化合物βを用いてなるグリーンシートとしたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のグリーンシートによれば、ガス発生によるグリーンシートの膨張がないので得られるセラミックスの焼結性を向上させることができ、その結果、信頼性を向上させることができる。また、焼結性が向上することで誘電率も向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、一実施の形態および図面を用いて、本発明のグリーンシート、これを用いたセラミック電子部品およびその製造方法について説明する。
【0011】
なお、ペロブスカイト化合物(ABO3)としてチタン酸バリウム(BaTiO3)を用いて説明する。ここで、元素AはBa、元素BはTiである。
【0012】
図1は、本発明のグリーンシートを用いたセラミック電子部品の製造方法を示したステップ図、図2は、製造工程におけるグリーンシートの概念図である。
【0013】
まず、少なくとも元素Aと元素Bからなるとともに元素Aのモル数が元素Bのモル数よりも大きい化合物αとしてチタン酸二バリウム(Ba2TiO4)を作製するため、炭酸バリウム(BaCO3)と酸化チタン(TiO2)を混合し仮焼する(図1A)。このとき仮焼温度を高く、例えば、1000℃程度に設定することによりチタン酸二バリウムに残留する不純物、すなわち、炭酸バリウムの残存量を低減することができる。仮焼温度を高くすることで仮に粒子間焼結による粒子成長が発生したとしても、この直後の工程で粉砕処理をしてチタン酸二バリウム粒子を小さくすることも可能である。この粉砕処理は、チタン酸二バリウム粒子に対してなされるものであり、ここでの粉砕処理は最終的に得られるチタン酸バリウムの結晶性に悪影響を及ぼすことはないものである。
【0014】
次に、図2(a)に示すように、作製した化合物αであるチタン酸二バリウム1と、少なくとも元素Bを含む化合物βとしての酸化チタン2を溶媒中で、バインダ、可塑剤等とともに分散させてスラリーを作製しこれをベースフィルム上に塗布してシート成形し、図2(b)に示すグリーンシート3を作製する(図1B)。
【0015】
次にこのグリーンシート3を脱バインダ、仮焼してチタン酸バリウムとする(図1C)。ここでグリーンシートの状態で脱バインダ、仮焼するが、チタン酸二バリウムと酸化チタンからなるスラリーを用いているので二酸化炭素のガス発生はなく、これによる反応中のグリーンシートの膨張がない。したがって、その後の焼成によって焼結性が低下することなく緻密なセラミックスを得ることができる。
【0016】
このときのグリーンシートの状態の変化について図3、図9を用いて説明する。図3、図9はそれぞれ、グリーンシートが仮焼、焼成の工程を経ることでどのように変化していくかを示した概念図であり、図3は、図1に示した製造方法にて作製した、主として、チタン酸二バリウムと酸化チタンからなるグリーンシート、図9は、従来の製造方法にて作製したグリーンシートをそれぞれ示している。
【0017】
図3(a)において、本発明のグリーンシート3は、図3(b)にそれぞれ示すように仮焼によりチタン酸バリウム4となる際、二酸化炭素ガスが発生することはなく、これによる反応中のグリーンシートの膨張は発生しない。そのため、図3(c)に示すように焼成を経て得られたセラミックス5は焼結性が良好である。
【0018】
一方、図9(a)に示す従来のグリーンシート21は、主として炭酸バリウムと酸化チタンからなるため、図9(b)に示すように仮焼によりチタン酸バリウム22となる際、二酸化炭素ガスが発生してしまい、これにより反応中のグリーンシート21が膨張してしまう。そのため、図9(c)に示すように、得られるセラミックス23は焼結不足のものとなってしまい、最悪、形状をとどめることが難しいくらいもろく崩れやすいものとなってしまうものである。
【0019】
さて、図1のグリーンシートの製造方法の説明に戻ると、仮焼して得られたチタン酸バリウム3を焼成することにより図2(c)に示すセラミックス4を得る(図1D)。
【0020】
上述した酸化チタンの形状として、針状、板状、柱状等の形状を有する、いわゆる、異方性形状を有するものを用いることも可能である。以下、図4を用いて説明する。
【0021】
図4は、異方性形状の酸化チタンを用いたときの製造工程におけるグリーンシートの概念図である。
【0022】
図4(a)に示す異方性形状の酸化チタン6とチタン酸二バリウム1をスラリー化しシート成形することにより図4(b)に示すグリーンシート7を作製する。このときグリーンシート7作製時スラリーに剪断応力をかけて成形することによりグリーンシート7の厚み方向に酸化チタン6の短軸方向を揃えることができる。これにより、セラミックスとしての厚み方向の信頼性を向上させることができる。
【0023】
このグリーンシート7を反応焼成することで、図4(c)に示すように、チタン酸バリウムが生成し、かつ、このチタン酸バリウムが配列方向に配向したセラミックス8を得ることができる。
【0024】
また、チタン酸二バリウムも同様に異方性形状を有するものを用いる場合も上述と同様の作用効果を得ることができる。
【0025】
また、酸化チタンとチタン酸二バリウムをともに異方性形状を有するものを用いることで、さらにセラミックスとしての厚み方向の信頼性を向上させることができる。以下、図5を用いて説明する。
【0026】
図5は、酸化チタンとチタン酸二バリウムがともに異方性形状を有するものを用いたときの製造工程におけるグリーンシートの概念図である。
【0027】
図5(a)に示す異方性形状の、酸化チタン6とチタン酸二バリウム9をスラリー化しシート成形することにより図5(b)に示すグリーンシート10を作製する。このときグリーンシート10作製時スラリーに剪断応力をかけて成形することによりグリーンシート10の厚み方向にチタン酸二バリウム9と酸化チタン6の短軸方向を揃えることができる。これにより、セラミックスとしての厚み方向の信頼性をさらに向上させることができる。
【0028】
このグリーンシートを焼成することで、図5(c)に示すように、高配向性を有するセラミックス11を得ることができる。
【0029】
さて、グリーンシートの作製時、スラリーにおけるチタン酸二バリウムと酸化チタンの配合を変えて、前者を主成分とするスラリー、後者を主成分とするスラリーを用いて厚み方向に積層構造になるようにシート成形することも可能である。この場合、作製されるグリーンシートは、チタン酸二バリウムを主成分とする層と酸化チタンを主成分とする層からなる複数層の構造になっている。このように、前者を主成分とするスラリー、後者を主成分とするスラリーとすることにより、それぞれのスラリーが凝集しにくくなり、その結果、作製されるセラミックスの配向性を向上させることができるという作用効果を有する。そして、チタン酸二バリウムと酸化チタンを異方性形状のものを用いれば、チタン酸二バリウムと酸化チタンそれぞれの短軸方向をグリーンシートの厚み方向にさらに揃えることができる。
【0030】
このようにして得られた積層構造のグリーンシートにおいても、仮焼による二酸化炭素ガスの発生はない。
【0031】
図6は、積層構造のグリーンシートが仮焼、焼成の工程を経ることでどのように変化していくかを示した概念図である。
【0032】
図6(a)において、上層12aはチタン酸二バリウムを主成分とし、下層12bが酸化チタンを主成分とする積層構造のグリーンシート12は、図6(b)にそれぞれ示すように仮焼によりチタン酸バリウム13となる際、二酸化炭素ガスが発生することはなく、これによる膨張は発生しない。そのため、図6(c)に示すように焼成を経て得られたセラミックス14は焼結性が良好である。
【0033】
また、図7は、酸化チタンとチタン酸二バリウムがともに異方性形状のものを用い、厚み方向に積層構造になるようにした製造工程におけるグリーンシートの概念図である。
【0034】
図7(a)に示す異方性形状の、酸化チタン6とチタン酸二バリウム9をそれぞれスラリー化しシート成形したものを積層して図7(b)に示すグリーンシート12を作製する。このグリーンシート12を焼成することで、図7(c)に示すように、高い配向性を有するセラミックス14を得ることができる。
【0035】
このように、スラリーにおけるチタン酸二バリウムと酸化チタンの配合を変えて、前者を主成分とするスラリー、後者を主成分とするスラリーを用いて厚み方向に積層構造にしたグリーンシートにおいても同様の作用効果を得ることができるものである。
【0036】
なお、上述した本発明のグリーンシートを用いてセラミック電子部品、例えば、積層セラミックコンデンサを作製する場合は、本発明のグリーンシートと電極層を交互に積層して積層体を作製し、この積層体を、脱バイ、仮焼、焼成の工程を経ることにより作製することができる。このとき電極層は従来から用いられている材料、例えば、ニッケル、銀、パラジウム等を用いることができる。
【0037】
このように本発明のグリーンシートを用いることでセラミック電子部品は、焼結性が向上するのでセラミック電子部品としての誘電率、信頼性を向上させることができる。特に、異方性形状のものを用いたグリーンシートを用いることで誘電率、信頼性のさらなる向上を実現することができる。
【0038】
また、本発明のグリーンシートを用いることのできるセラミック電子部品としては、上述したセラミックコンデンサの他に、圧電センサ、積層アクチュエータ、圧電発振子、圧電フィルタに代表される圧電電子部品、積層インダクタ、ノイズフィルタに代表される磁性電子部品、バンドパスフィルタ、アンテナスイッチモジュール、ワイヤレスランモジュール、ブルートゥースモジュールに代表される高周波モジュール、サーミスタ用電子部品、またはこれらの複合部品が挙げられる。
【0039】
なお、本一実施の形態においては、元素AとしてBaを用いたが、Ca、Srを用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、薄層化に適したペロブスカイト化合物粉末を得ることができるという特徴を有し、特に、小型化が要求されるセラミックデバイス等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施の形態におけるチタン酸バリウム粉末の製造方法を示したステップ図
【図2】同チタン酸バリウム粉末およびこれを用いたセラミックスの製造方法を示す概念図
【図3】本発明のグリーンシートの、製造工程における変化を示した概念図
【図4】同概念図
【図5】同概念図
【図6】同概念図
【図7】同概念図
【図8】従来のチタン酸バリウムの製造方法を示すステップ図
【図9】従来のグリーンシートの、製造工程における変化を示した概念図
【符号の説明】
【0042】
1 チタン酸二バリウム
2 酸化チタン
3 グリーンシート
4 チタン酸バリウム
5 セラミックス
6 異方性形状の酸化チタン
7 グリーンシート
8 セラミックス
9 異方性形状のチタン酸二バリウム
10 グリーンシート
11 セラミックス
12 グリーンシート
12a 上層
12b 下層
14 セラミックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト化合物の一般式をABO3(A、Bは元素、Oは酸素をそれぞれ示す)としたとき、少なくとも元素Aと元素Bからなるとともに元素Aのモル数が元素Bのモル数よりも大きい化合物αと少なくとも元素Bを含む化合物βを用いてなるグリーンシート。
【請求項2】
元素Aは、Ca、Sr、Baから選ばれる請求項1記載のグリーンシート。
【請求項3】
元素Bは、Tiであり、化合物βはTiO2である請求項2記載のグリーンシート。
【請求項4】
元素Aは、Baである請求項3記載のグリーンシート。
【請求項5】
化合物αは、Ba2TiO4である請求項4記載のグリーンシート。
【請求項6】
Ba2TiO4は、異方性形状である請求項5記載のグリーンシート。
【請求項7】
TiO2は、異方性形状である請求項3記載のグリーンシート。
【請求項8】
グリーンシートは、化合物αを主成分とする層と化合物βを主成分とする層を有する請求項1記載のグリーンシート。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一つに記載のグリーンシートを用いたセラミック電子部品。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一つに記載のグリーンシートと電極層を積層して積層体を作製する積層工程と、この積層工程にて作製した積層体を焼成する工程を有するセラミック電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−74631(P2008−74631A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252063(P2006−252063)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】