説明

ゲート電極が駆動する電界効果型トランジスタおよびそれを有するセンサデバイス

【課題】 ゲート電極が可動な電界効果型トランジスタを提供する。
【解決手段】 半導体層と、前記半導体層内に少なくとも2つの活性領域と、前記活性領域に接するソース電極およびドレイン電極と、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の半導体層の上に絶縁層とゲート電極とを有する電界効果型トランジスタであって、
前記電界効果型トランジスタは前記ゲート電極および前記絶縁層の間に配置される、分子を吸着するための吸着部位を有し、
前記ゲート電極を駆動するための駆動手段を有することを特徴とする電界効果型トランジスタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲート電極が駆動する電界効果型トランジスタおよびそれを有するセンサデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
センサのニーズの多様化に伴い、様々なセンサが提案・実用化に至っている。例えば、酸化物半導体の表面での酸化還元反応による伝導率変化を用いたセンサは、メタン、イソプレン、フロンガス、アルコール等を検出するセンサとして実用化されている。
【0003】
また、ガスの電解電流を計測する定電位電解式センサでは一酸化炭素、硫化水素、ハロゲン、オゾン、窒素酸化物、塩化水素等が検出可能である。また他の検出技術として、表面電位を検出する方式である半導体デバイスを用いた電界効果トランジスタ型のセンサが提案されている。
【0004】
電界効果型トランジスタセンサは、応答が早い、認識部位を変更することで検出対象分子を変更可能、集積化が容易等の特徴を持ち、応用範囲の拡大や低コスト化で期待されている。
【0005】
電界効果型トランジスタセンサは、ゲートの電極もしくは電圧印加部位とチャネル領域との間に、電荷もしくはポテンシャル差が誘起されることによってチャネル内の電荷量が変化する。その変化をチャネルコンダクタンスが変化することによってドレイン電流差を生じさせることを検出原理としている。
【0006】
よって、ゲートの電極もしくは電圧印加部位とトランジスタチャネル間に検出対象分子がアクセスできる構成であることが好ましい。
【0007】
分子サイズ等の制限の少ない流体内成分の検出装置として、電界効果型トランジスタのチャネル領域とゲート電極を離間させ、両者の間に空隙を設けることによってアクセシビリティーを確保した例が、特許文献1に記載されている。
【0008】
この例においては、空隙を自由に検出対象分子が移動できるため検出対象にも制限が少なく、また電解質溶液を用いることなく、気相中に含有されたアルコール成分の測定にも言及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平3−21063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のセンサは、アクセシビリティーを確保するためにゲート部位に空隙が設けられている。設けられた空隙によってゲート部位の容量が減少し、検出感度が低下する。
【0011】
そこで、本発明は、電界効果型トランジスタセンサの感度を低減させずに、流体中の分子を検出する電界効果型トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
よって本発明は、
半導体層と、前記半導体層内に少なくとも2つの活性領域と、前記活性領域に接するソース電極およびドレイン電極と、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の半導体層の上に絶縁層とゲート電極とを有する電界効果型トランジスタであって、
前記電界効果型トランジスタは前記ゲート電極および前記絶縁層の間に配置される、分子を吸着するための吸着部位を有し、
前記ゲート電極を駆動するための駆動手段を有することを特徴とする電界効果型トランジスタを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電界効果型トランジスタが有するゲート電極が駆動することによって、分子が吸着部位に吸着するのを妨げないため、検出感度が高い電界効果型トランジスタを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態に係る電界効果型トランジスタの構成を示した図である。
【図2】第1の実施形態に係る電界効果型トランジスタデバイスの構成を模式的に示した図である。
【図3】第2の実施形態に係る電界効果型トランジスタデバイスによる検出方法を説明する図である。
【図4】ギャップの有無による電界効果型トランジスタの特性変動のシミュレーション結果である。
【図5】第1の実施例に係る電界効果型トランジスタデバイスの作製工程を説明する図である。
【図6】第2の実施例に係る電界効果型トランジスタデバイスによる検出方法の工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、半導体層と、前記半導体層内に少なくとも2つの活性領域と、前記活性領域に接するソース電極およびドレイン電極と、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の半導体層の上に絶縁層とゲート電極とを有する電界効果型トランジスタであって、
前記電界効果型トランジスタは前記ゲート電極および前記絶縁層の間に配置される、分子を吸着するための吸着部位を有し、
前記ゲート電極を駆動するための駆動手段を有することを特徴とする電界効果型トランジスタである。
【0016】
本実施形態に係る電界効果型トランジスタは、ソース電極とドレイン電極の間の半導体層に接する絶縁層を有し、この絶縁層に接する吸着部位を有する電界効果型トランジスタである。
【0017】
本実施形態に係る電界効果型トランジスタが有する吸着部位の上にはゲート電極が配置されている。このゲート電極は上下または左右に駆動する構成となっている。
【0018】
吸着部位に気体中の特定の分子を吸着させる場合には、ゲート電極は吸着部位から離れている。吸着部位に吸着した分子の量を測定する場合には、ゲート電極は吸着部位に接して配置される。
【0019】
吸着させる場合には、ゲート電極が吸着部位から離れているので、気体と吸着部位とが接する面積が大きい。このため、ゲート電極に阻まれることなく気体と吸着部位とが接することができる。
【0020】
一方で、吸着した分子の量を測定する場合には、ゲート電極が吸着部位に接するので容量を損なうことなく測定することができる。このため、感度の高い検出が可能である。
【0021】
本実施形態に係る電界効果型トランジスタは気体と吸着部位が接する面積が大きく、かつ測定時の容量を損なうことがないので、検出の感度が高い。
【0022】
本実施形態に係る電界効果型トランジスタが有する吸着部位は気体中の特定の分子を吸着するものであり、有機膜でも無機膜であってもよい。
【0023】
本実施形態に係る電界効果型トランジスタは、標的分子が有する電荷を検出しても、または標的分子と吸着部位との結合によって生じる電荷を検出してもよい。
【0024】
また、標的分子の吸着によって生じる双極子や、標的分子の有する双極子によるポテンシャル変動もそれぞれ検出可能である。更に、吸着によって誘起される空間電荷や、吸着部位の比誘電率変化等も検出可能である。
【0025】
本実施形態に係る電界効果型トランジスタが有する吸着部位は、センサへの応用の観点から、標的分子に対して選択性を有することが望ましい。選択性は、化学的な親和性や結合、相互作用に因るものでも良いし、物理的な要素であっても良い。
【0026】
標的分子を捕捉した場合の変化は、電荷量の変化であっても良いし、ポテンシャルの変化であっても良いし、その両方であっても良い。
【0027】
本実施形態に係る吸着部位は、抗体、DNA、タンパク質、ペプチド、受容体またはそれに対するリガンド、包接化合物、カリックスアレーン、人工合成分子などの特定の分子と選択的に結合する分子あるいは官能基を有することが好ましい。
【0028】
本実施形態に係る吸着部位は、分子鋳型技術を応用した薄膜であってもよい。その場合は、吸着部位は特定の分子を選択的に吸着する性能に優れるので好ましい。
【0029】
また、吸着部位は薄膜化することが好ましく、より好ましくは10nm以下にすることが好ましい。
【0030】
低分子基板上に固定したり、分子鋳型法により作製した合成高分子層を用いたりすることにより、吸着部位を10nm以下の厚さで形成することが可能である。
【0031】
標的分子の捕捉の観点からは、吸着部位の単位体積当たりの実効表面積が大きいことが好ましい。
【0032】
微細凹凸形状による表面積増大、細孔を有する構造体等も適用可能である。電界効果型トランジスタとして吸着部位の標的分子の信号が検出されるためには、吸着部位は絶縁層に接していても良いし、ゲート電極に接していても良い。
【0033】
(第1の実施形態)
本実施形態に係る電界効果型トランジスタについて図1を用いて説明する。
【0034】
基板101については、電界効果トランジスタを形成しうる材料であれば適用可能である。例えばSiやGe、Cからなる元素半導体、SiGeやGaAs、InP、AlAs、SiC、GaN等の化合物半導体、ZnO、In等の酸化物半導体が挙げられる。
【0035】
基板には、不純物がドープされていてもよく、その不純物の極性は問わない。
【0036】
不純物層や絶縁膜の形成について、公知の半導体プロセスを用いて形成可能である。
【0037】
不純物層1021、1022a、1022bは、基板101をSiとした場合、n型不純物であればP、As、p型不純物であればBのイオン注入で形成可能である。
【0038】
これらの不純物の型や濃度については、基板の型や不純物濃度と併せて考慮し、エンハンスメント型/デプレッション型、しきい値調整等の設計指針に基づいて調整すれば良い。
【0039】
例えばSi基板を用いる場合、通常不純物層1021は1×1017〜1×1018atom/cm、不純物層1022a、1022bは1×1020atom/cm程度の不純物濃度とする。
【0040】
1022aと1022bには、n型チャネル電界効果型トランジスタとする場合n型の不純物を導入し、p型チャネルの場合にはp型不純物を導入する。
【0041】
不純物層1021は、基板不純物濃度と合わせて不純物濃度を合わせこむ。1022aと1022bにn型不純物が導入されている場合、不純物層1021にn型不純物を導入すればデプレッション型となり、p型不純物を導入すればエンハンスメント型となる。
【0042】
1022a、1022bにp型不純物が導入されている場合は逆となり、不純物層1021にp型不純物を導入すればデプレッション型となり、n型不純物を導入すればエンハンスメント型となる。
【0043】
1022aSi以外の材料を基板101に適用した場合、各々n型p型を形成する不純物を導入すれば良い。
【0044】
不純物導入手法としてはイオン注入法でも不純物拡散法等も適用可能である。
【0045】
絶縁層103は、基板101をSiとした場合、SiO層やSiN層、SiON層が適用可能である。絶縁耐性や化学的安定性からは熱酸化等での形成が望ましいが、CVD法で形成される層も適用可能である。その他、電気的な絶縁性が確保されている層であれば適用可能である。化学的物理的に安定な層であればより好適である。
【0046】
ゲート電極105は、チャネルを形成するチャネル不純物層1021の型、濃度等に合わせて材料を選択するのが好ましい。
【0047】
チャネル不純物層1021のフェルミレベルと電極材料の仕事関数によってチャネル不純物層1021内部のバンドベンディングが影響を受けるためである。
【0048】
ゲート電極とチャネルを形成する不純物領域1021との間の空隙形成についてはいくつかの形成法が適用可能である。例えば吸着部位104の形成後、不図示の犠牲層を形成し、その上にゲート電極105を形成し、その後犠牲層を選択除去することによって図1のデバイス構成が得られる。
【0049】
ゲート電極105をチャネル不純物層1021と近接させたり離間させたりすることが標的分子の測定を行う上で好ましい。
【0050】
近接させたり離間させたりする駆動力としては、機械的な応力や、磁気的な反発力、吸引力が適用できる。
【0051】
機械的な応力としては、圧電素子等が適用可能である。
【0052】
また磁気的な反発力や吸引力を用いるためには、ゲート電極105が磁性体であるか、またはゲート電極と連動する駆動部位に磁性構造体を形成しておけばよい。その後外部から適正な磁場を印加することによって近接と離間を調整できる。
【0053】
ゲート電極材料に多孔質体を用いてゲート電極の下に配置されている吸着部位に気体を触れさせる構成も考えられる。この場合、気体の吸着はやや損なわれ、検出感度に影響を与えると考えられるが、気体と常に接触していられかつ、駆動機構が不要なので小型化が見込める。
【0054】
ゲート電極105と、2つのソースドレイン不純物層1022a、1022bに電圧を印加するためにソースドレイン不純物層1022aとソースドレイン不純物層1022b間には電圧源9を接続配線7により接続する。
【0055】
また、ソースドレイン不純物層1022aとゲート電極105間にはゲート−ソース間電圧源8を挿入し、接続配線7にて電気的に接続する。
【0056】
更に、ソースドレイン不純物層1022aは接地する。
【0057】
ここではソースドレイン1022aを接地する構成を一例として説明した。
【0058】
しかし、原理的にはソースドレイン不純物層1022aとソースドレイン不純物層1022bの区別は無く、上記でソースドレイン不純物層1022aとソースドレイン不純物層1022bが入れ替わっても同様に機能する。
【0059】
第1の実施形態をデバイス化し測定を行う際の構成を図2(a)(b)に示す。(a)は平面図(b)のA−A‘部の断面図である。凹部207は基板101を加工し形成する。
【0060】
基板がSiである場合、例えば面方位(100)基板を用いて、KOH溶液でエッチングすることで(111)面でエッチストップし、テーパー形状の凹部が形成される。
【0061】
不純物領域2021と2022a、2022b、絶縁膜203、電極205、懸架膜206は図1で示した構成と同様の材料、プロセスで形成する。不純物領域2022aと2022bにはそれぞれ電位を印加できるようにそれぞれ電気的に接続されたソースドレイン配線209a、209bを形成する。
【0062】
ゲート懸架部206は、標的分子の吸着ステップでは吸着部位と離れ、測定ステップでは近接もしくは接する程度に可塑性を有する材料が好適である。ダイヤフラム材料として用いられるSiN等が好適である。その他構成によっては樹脂材料等も適用可能である。
【0063】
また、電極と不純物層2021の離間距離の再現性を保つためには、基板201とゲート懸架部206が強固に結合されている構成が望ましい。
【0064】
またその際に外部から標的分子がアクセスすることが容易な様に懸架部205上部と下部の空間が隔絶されない様な構成にすることが望ましい。
【0065】
そのため懸架膜206は、図2(b)に示すように凹部207が部分的に露出した構成とする。
【0066】
また、電極205に電位を供給するためのゲート配線208を設ける。図2(b)に示すように懸架膜表面に配線を形成し、懸架膜206に貫通孔を介してゲート配線208を接続することもできる。このようにして第1の実施例に記載のデバイスが作製される。
【0067】
<検出方法>
(第2の実施形態)
本発明による第2の実施形態は
流体内の成分検出及び濃度測定のための検出手法であって、
半導体基板と、前記基板の表面の少なくとも二つの拡散層と、前記基板表面の前記拡散層間に設けられた絶縁層と、
前記絶縁層を前記基板と挟持する位置に設けられた電極と、
前記絶縁層と前記電極間に設けられた検出対象分子を捕捉する吸着部位と
前記電極は、前記基板から空隙を挟むように作製され、
その検出ステップは
前記基板と前記電極との間に生じる空隙に検出対象分子を導入し所定の時間保持する工程
前記電極を前記半導体に近接させる工程
前記拡散層と前記電極に、所定のトランジスタ動作電圧を印加し測定を行う工程
を、この順に順次行うことを特徴とする検出方法である。
【0068】
図3は、測定手順の概念図である。まず、不純物領域3022a、3022b、ゲート電極305を同電位とする様に、スイッチ311、312をonとする。ゲート電極、ソース、ドレインが同電位になるため、それぞれの間に電流は発生しない。
【0069】
本実施形態の説明にはスイッチを用いているが、後述のゲート−ソース間電源309やソース−ドレイン間電源310が電圧可変な電源であれば、スイッチを用いずにその都度電圧を昇降させることも勿論可能である。
【0070】
その後、ゲート電極305をチャネル不純物層3021から離間させる。離間距離は、離間や近接に用いる圧電素子の可動範囲や、先行技術(特許文献1)に記載のゲート−不純物領域間隔から判断される具体的な数値範囲として、具体的には10nm以上であり、より好適には100nm以上である。
【0071】
この例では、吸着部位304は絶縁膜303に接する構造としている。この際に、外部空間が標的分子を含む流体で包含されていれば、外部空間に存在する標的分子310が拡散等によって吸着部位304に到達する。
【0072】
電極305を離間させている時間が制御されていることが、定量的な検出のためには好ましい。露出時間を等しくした状態で複数回計測を行った場合、変動分の差が外部空間の濃度の差に略比例すると考えられるためである。
【0073】
先行件では、常時ギャップが存在し、吸着部位が露出することで時系列的な変動要因の抑制が困難であったが、本実施形態の系では吸着部位の露出を低減、抑制できるために時系列的な変動を低減できる。
【0074】
続いて、ゲート電極305をチャネル不純物層3021に近接させる。
【0075】
また、ギャップ間隔が小さくなることで、近傍の領域に存在する標的分子及び非標的分子のゲート印加に起因するギャップ間での再付着や再分布を低減、抑制できる。
【0076】
続いて、スイッチ311,312をoffとする。ここで、ゲートソース間電源309、ソースドレイン間電源310に好適な電圧を印加しておく。具体的には、ソース−ゲート間電圧は0.1〜15V程度、ソース−ドレイン間電圧は0.1〜5V程度が好適である。
【0077】
スイッチ311,312のoffによって所定の電圧がゲート−ソース間、ソース−ドレイン間に印加され、ドレインに電流が流入する。この電流値を電流系313で計測する。
【0078】
この際に、吸着部位304に吸着した標的分子310の量に応じた変化がドレイン電流変化に反映される。
【0079】
以上の工程を繰り返すことによって、外部空間に存在する流体中の標的分子を検出することが可能である。
【0080】
尚、外部空間が標的分子を含まない流体で包含されている状態で長時間保持することによって、吸着分子を再度吸着部位304から脱離させることも可能である。
【0081】
基板温度を上昇させる等で脱離を促進させることが電界効果型トランジスタの測定再現性の改善や繰り返し利用への適用の観点でより好ましい。
【0082】
ギャップが生じると、電極とチャネル部の距離が広がり、かつ比誘電率の低い材料が電極とチャネル間に挿入されるため、ゲート容量の著しい低下が起こり、結果として電圧に対する電流変化率が大きく減少することを前提としている。
【0083】
この確認のため、今回想定される電界効果型トランジスタデバイスに近い系を用いてデバイスシミュレーションを行い、ギャップの有無による特性変動を検証した。結果を図4に示す。尚、シミュレーション条件は以下の通りである。
シミュレータ:ATLAS(Silvaco社)
ゲート幅 : 1um
ゲート長 : 0.5um
絶縁膜 : 15nm
ギャップ : 無 有 (10nm)
【0084】
図4(a)の結果から明らかなように、ギャップが10nm存在するだけでVG1.0−2.5V付近のドレイン電流が3桁程度低下している。(b)からは、電圧に対する電流の変動を示すS値の電圧依存性が確認できるが、こちらも2−3桁の差となっており、ギャップが存在することによる感度低下を改めて確認できた。
【0085】
本実施形態に係る電界効果型トランジスタは、電圧を印加し、電流特性の変化を取得することでセンシングシステムとして用いることができる。
本実施形態に係るセンシングシステムはセンシング部に電界効果型トランジスタを有する。
【0086】
電圧を印加する電圧印加手段は、公知の電源が挙げられ、直流でも交流でもよい。
【0087】
電流特性を測定するための電流測定手段は、市販の微小電流測定装置等を用いることができる。
【0088】
電圧印加手段と電流測定手段は一体となっていても、それぞれ別となっていてもよいが、一体となっていることが好ましい。
【実施例】
【0089】
(実施例1)
本実施例では、図5を用いて、ゲート電極が可動性を有する電界効果型トランジスタセンサの作製について説明する。
【0090】
抵抗率100Ω・cmのp−型(100)Si基板501上に不図示のSiO2を10nm熱酸化で形成し、トレンチ部5011開口部に相当する部位を通常のリソグラフィによってレジストパターン開口パターニングする。
【0091】
その後、フッ化アンモニウム溶液NHFとフッ酸HFを10:1で混合した緩衝フッ酸への浸漬3minで開口部のSiOを除去しSiを露出させる。レジスト除去後、40%KOH溶液に30sec浸漬する。
【0092】
その結果、SiO開口部に500nmの深さでエッチストップした順テーパー形状のトレンチ5011が形成される。
【0093】
マスクに用いたSiOはフッ化アンモニウム溶液NHFとフッ酸HFを10:1で混合した緩衝フッ酸への浸漬3minで除去される。5011の開口部は、100um平方とする。
【0094】
続いて、LPCVDでSiOを10nm製膜する。
【0095】
その後、Pウェル5023とチャネル不純物層5021を通常のリソグラフィーとイオン注入で形成する。Pウェル5023はBイオンを150KeVのエネルギ、2.0×1013cm−2のドーズで、チャネル不純物層5021はBイオンを20keV、ドーズ量2.0×1012cm−2で形成する。
【0096】
その後、後述の不純物層5022領域が開口するようにレジストでパターニングを行い、Pイオンエネルギ20keV、ドーズ量1.0×1013cm−2で注入することによりソースドレイン不純物層5022が形成される。
【0097】
その後LPCVDを用いてSiNを50nm製膜し、絶縁膜503を形成する。
【0098】
続いて、H2SO4:H2O2=4:1の硫酸加水に5min浸漬することで表面を化学酸化する。
【0099】
その後、LPCVDでポリシリコンを300nm成長し第1犠牲層5041を形成する。
【0100】
続いて電極505を形成する領域に通常のリソグラフィーを用いてレジスト開口パターンを形成する。
【0101】
その後、電子ビーム蒸着を用いて、Fe200nmを形成する。その後、レジストを除去し所謂リフトオフ法でゲート電極505が形成される。
【0102】
レジストを除去後、Siを蒸着法で500um成長し第2犠牲層506を形成する。
【0103】
その後、CMP(化学機械研磨)法で、絶縁層503とゲート電極505が露出するようにし第1犠牲層5041と第2犠牲層506上面を研磨する。研磨時のスラリー等を除去洗浄した後、プラズマ窒化膜を100nm製膜しゲート懸架部507を形成する。
【0104】
その後、ゲート電極505と電気的に接続されるようにコンタクトホールを介して接続された配線508を形成する。
【0105】
これらの工程は通常のリソグラフィーとエッチングで容易に達成可能である。その後、トレンチ501領域が露出するように、かつ電極505を被覆するようにゲート懸架部507をリソグラフィーでパターニング後、反応性イオンエッチングで部分的に窒化膜507を除去する。
【0106】
続いて、ケミカルドライエッチングで第1犠牲層5041と第2犠牲層506上面を除去する。ケミカルドライエッチングの適用により犠牲層以外の損傷を低減しながら等方的に犠牲層を除去可能である。図5bは犠牲層除去後の断面図を示す。
【0107】
その後、(2−Br−2−メチル−N−6−(トリメトキシシリル)ヘキシル)プロパンアミド)トルエン溶液を絶縁膜503に12時間接触させる。
【0108】
次に、窒素雰囲気下において、標的分子とメタクリル酸メチル、ピリジンを溶解させたDMF溶液を接触させ、そこに臭化銅を加えて24時間反応させる。
【0109】
その後、洗浄を行い、標的分子を除去することによって、絶縁膜503上に吸着部位504を形成することができ、センサデバイスが作製される。
【0110】
また、メタクリル酸メチルの官能基を他の官能基に置換することにより、標的物質と吸着部位の結合力を変化させることも可能である。
【0111】
<検出方法>
(実施例2)
本実施例では、図6を用いて、ゲート電極が可動性を有する電界効果型トランジスタセンサを用いて対象分子を検出する検出方法について説明する。
【0112】
図6はセンサデバイスと検出のための回路構成を模式的に示したものである。
【0113】
この図6に記載のセンサデバイスは実施例1のプロセスを用いて作製し、吸着部位604はポリビニルフェノール膜によって形成する。
【0114】
まず、スイッチ623、624をonすることでゲート電極605、ソース不純物層6022a、ドレイン不純物層6022bをそれぞれ同電位とする。
【0115】
ゲート−ソース間電源621には+5V、ソース−ドレイン間電源622には+1Vを印加しておく。尚、本実施例には電圧スイッチを用いているが、後述のゲート−ソース間電源621やソース−ドレイン間電源622が電圧可変な電源であれば、スイッチを用いずにその都度電圧を昇降させることも勿論可能である。
【0116】
その状態で、対象分子であるエタノール610を含むガスを導入し、吸着部位604に吸着させる。その後所定の時間を経たのち、勾配を有する磁場611を印加してゲート電極605を吸着部位604チャネル不純物層6021に近接させる。
【0117】
ゲート懸架部607が100nm厚でかつ開口部長さが100um幅であることから、2Pa程度の圧力が加われば300nm程度のたわみが生じる。
【0118】
ゲート電極605にFeを用いているため、公知のフェライト磁石を近接させることで容易に上記程度の圧力を生じさせることが可能である。
【0119】
駆動手段として磁場611を印加した状態で、スイッチ624、625をoffにする。
【0120】
これによってゲート−ソース間にゲートが+5V、ソース−ドレイン間にドレインが+1Vとなるように電圧が印加される。
【0121】
この後、電流計625に流れる電流をモニタする。ガスを導入しない状態での電流値との比較等によってガス中の標的分子であるエタノール610の濃度に応じた電流の変化が得られた。
【符号の説明】
【0122】
101 基板
1021 チャネル不純物層
1022a ソースドレイン不純物層
1022b ソースドレイン不純物層
103 絶縁膜
104 吸着部位
105 ゲート電極
107 配線
108 ソース−ドレイン間電源
109 ソースゲート間電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層と、前記半導体層内に少なくとも2つの活性領域と、前記活性領域に接するソース電極およびドレイン電極と、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の半導体層の上に絶縁層とゲート電極とを有する電界効果型トランジスタであって、
前記電界効果型トランジスタは前記ゲート電極および前記絶縁層の間に配置される、分子を吸着するための吸着部位を有し、
前記ゲート電極を駆動するための駆動手段を有することを特徴とする電界効果型トランジスタ。
【請求項2】
前記吸着部位は、前記ゲート電極または前記絶縁層と一体となっていることを特徴とする請求項1に記載の電界効果型トランジスタ。
【請求項3】
電圧印加手段と電流測定手段とセンシング部とを有するセンシングシステムであって、
前記センシング部は、請求項1または2に記載の電界効果型トランジスタを有することを特徴とするセンシングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−242172(P2012−242172A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110589(P2011−110589)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】