説明

コンバイン

【課題】異なる旋回状態へ円滑に移行させることができ、且つ、副変速操作と油圧式無段変速装置の可変モ−タの変速操作によっても走行変速が行えるものとして、変速操作性の向上を図る。
【解決手段】油圧式無段変速装置(29)の可変ポンプ(29a)を変速する主変速レバー(60)と、副変速レバー(62)と、車体(2)を旋回させる操向操作具(9)とを設ける。操向操作具(9)の旋回操作に基づいて左右一側の車軸ギヤ(52)を減速させて旋回できるように構成すると共に、操向操作具(9)のスピン旋回操作に基づいて左右一側の車軸ギヤ(52)を逆回転させてスピン旋回できるように構成する。更に油圧式無段変速装置(29)の可変モータ(29b)を変速操作できるように構成して、副変速レバー(62)による副変速ギヤ(35)の変速操作と該可変モータ(29b)の変速操作とが行なえるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンバインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ギヤ連動機構を内装した走行用ミッションケースを設けているコンバイン等において、このミッションケースには、従来では、車体の操向旋回時に入・切させる操向クラッチを設けている操向クラッチ軸に走行ブレーキを連設し、このクラッチ軸の連動下手側に設けた旋回軸にマイルド及びスピン旋回用の旋回クラッチを配設しているものが多く開示されている。(例えば、特許文献1参照。)
【特許文献1】特開平7−274618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、このように、ブレーキ旋回を実行させる走行ブレーキと、マイルド旋回及びスピン旋回を実行させる旋回クラッチとが別軸に配置されていることにより、ギヤ連動機構の構成が比較的複雑になると共に、旋回手法が異なるブレーキ旋回とマイルド旋回,スピン旋回とを連続的に実行させるために面倒な制御を必要とするものであった。
【0004】
そこで、このような走行用ミッションケースにおけるギヤ連動機構の構成と、旋回作用時の面倒な制御について改善を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、車台(11)の下部側に左右一対の走行クローラ(12)を有する走行装置(13)を設け、前記車台(11)にグレンタンク(15)を備える脱穀装置(17)を設けると共に該脱穀装置(17)の前方に刈取装置(23)を昇降自在に設け、前記グレンタンク(15)の前方側に操作席(26)及び操作装置(25)を設けて車体(2)を構成し、前記車台(11)の前部側に走行用ミッションケース(4)を設け、該走行用ミッションケース(4)に油圧式無段変速装置(29)を連動可能に取り付けて、該油圧式無段変速装置(29)の可変ポンプ(29a)の入力プーリ(30)へエンジン(27)からの動力を伝動可能に構成すると共に、該可変ポンプ(29a)によって駆動される可変モータ(29b)を介して走行用ミッションケース(4)の入力軸(34)に伝動するように構成し、前記操作装置(25)部に、前記油圧式無段変速装置(29)の可変ポンプ(29a)を変速調節して車体(2)の前後進の切り替えと変速を行わせる主変速レバー(60)と、前記走行用ミッションケース(4)内の副変速ギヤ(35)を変速操作する副変速レバー(62)と、車体(2)を旋回させる操向操作具(9)とを設けて、該操向操作具(9)の旋回操作に基づいて左右一側の車軸ギヤ(52)に対して左右他側の車軸ギヤ(52)を減速させて旋回できるように構成すると共に、前記操向操作具(9)のスピン旋回操作に基づいて左右一側の車軸ギヤ(52)に対して左右他側の車軸ギヤ(52)を逆回転させてスピン旋回できるように構成し、前記油圧式無段変速装置(29)の可変モータ(29b)を変速操作できるように構成して、前記副変速レバー(62)による走行用ミッションケース(4)内の副変速ギヤ(35)の変速操作と、前記油圧式無段変速装置(29)の可変モータ(29b)の変速操作とを行なえるように構成したことを特徴とするコンバインの構成とする。
【0006】
この構成により、油圧式無段変速装置29からの連動によって、左(又は右)側へ各々緩旋回およびスピン旋回が実行される。
また、副変速操作と前記油圧式無段変速装置29の可変モ−タ29bの変速操作によっても走行変速が行われる。
【発明の効果】
【0007】
この発明によると、油圧式無段変速装置29からの連動によって、左(又は右)側へ各々緩旋回およびスピン旋回を実行でき、走行ミッションの構成を簡素化できて旋回作動時の面倒な制御を改善できると共に、各旋回作動を円滑に移行させることができる。また、副変速レバー62による副変速操作と、走行ミッションを連動する油圧式無段変速装置29の可変モ−タ29bの変速操作とによっても走行変速が行われるため、変速操作の操作性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、この発明の実施例をコンバインについて図面に基づき説明する。
図10はコンバインの全体構成を示すもので、車台11の下部側に土壌面を走行する左右一対の走行クローラ12を張設した走行装置13を配設すると共に、該車台11には、フィードチェン14に挟持搬送して供給される穀稈を脱穀し、この脱穀された穀粒を選別回収して一時貯留するグレンタンク15と、このタンク15に貯留された穀粒を機外へ排出する排穀オーガ16を備えた脱穀装置17を載置し、この脱穀装置17の後端部に排藁処理装置18を装架構成させる。
【0009】
該脱穀装置17の前方に、前端側から未刈穀稈を分草する分草体19と、分草された穀稈を引き起こす引起部20と、引き起こされた穀稈を刈り取る刈刃部21と、この刈り取られた穀稈を掻き込むと共に、搬送途上において扱深さを調節して搬送される穀稈を引き継いで該フィードチェン14へ受け渡しする供給調節搬送部22等を有する刈取装置23を、油圧駆動による刈取昇降シリンダ24により土壌面に対して昇降自在なるよう該車台11の前端部へ懸架構成させる。
【0010】
該刈取装置23の一側にコンバインの操作制御を行う操作装置25と、この操作のための操作席26を設け、この操作席26の後方側には前記グレンタンク15を配置し、下方側にはエンジン27を搭載すると共に、該操作装置25と操作席26を覆うキャビン28を配設する。これら走行装置13,脱穀装置17,刈取装置23,操作装置25,エンジン27,キャビン28等によってコンバインの車体2を構成している。
【0011】
該走行装置13は、車台11の前部側に走行用ミッションケース4を装架しており、図1に示す如く、このミッションケース4の上部側には油圧式無段変速装置29を連動可能に接合し、この無段変速装置29の可変ポンプ29aに軸止した入力プーリ30へ該エンジン27から動力を伝達可能に伝動ベルト等を張設すると共に、この可変ポンプ29aによって一体的に駆動される可変モータ29bに出力ギヤ31を軸止して構成させる。
【0012】
該ミッションケース4のギヤ連動機構は、出力ギヤ31からアイドルギヤ32を介して噛合連動する入力ギヤ33を、第1軸としての入力軸34に軸止すると共に、この入力軸34に、副変速用としてスプライン等により軸摺動可能な二連の低中速駆動ギヤ(副変速ギヤ)35と軸固定の高速駆動ギヤ36とを併設して構成させる。
【0013】
該低中速駆動ギヤ35と各々噛合連動する二連の低中速従動ギヤ37を、第2軸としての副変速軸38に軸遊転して設け、この副変速軸38に、低中速従動ギヤ37に連結して該ギヤ37の軸回転を入・切させる低中速用クラッチ39、及び該高速駆動ギヤ36と噛合連動する高速従動ギヤ40に一体接合して該ギヤ40の軸回転を入・切させる高速用クラッチ41を各々軸止すると共に、この高速用クラッチ41に隣接して副変速駆動ギヤ42を軸止して構成させる。
【0014】
該副変速駆動ギヤ42と噛合連動する副変速従動ギヤ43を、第3軸としてのカウンタ軸44に軸止して設け、このカウンタ軸44に、副変速従動ギヤ43を挟んでカウンタ伝動ギヤ45とブレーキ駆動ギヤ46及びマイルド駆動ギヤ47とを各々軸止して構成させる。
【0015】
該カウンタ軸44のカウンタ伝動ギヤ45と、第4軸としての操向クラッチ軸48のセンター位置に軸止した操向センタギヤ(第2ギヤ)49とを噛合連動させ、この操向センタギヤ49の両面にクラッチ爪49aを設けると共に、該センタギヤ49を挟んだ両側に、各々大径ギヤ3aと小径ギヤ3bとからなる二連の左右の操向クラッチ3を摺動可能に軸遊転して構成させる。
【0016】
該左右の操向クラッチ3は、各々大径ギヤ3aの内側面に該操向センタギヤ49のクラッチ爪49aと噛合接続して動力を入・切するクラッチ爪を設けると共に、該大径ギヤ3aと外側の小径ギヤ3bとの間に、操向クラッチ3をプッシュシリンダ50により摺動させる左右のシフタ51を遊嵌させるシフタ溝3cを設けて構成させる。
【0017】
該操向クラッチ3の小径ギヤ3bと噛合連動する車軸ギヤ52を、第5軸としての左右の車軸53の一端部に各々軸止すると共に、この左右の車軸53の外部への突出他端部に、前記走行クローラ12を駆動する左右の走行スプロケット54を軸止して構成させる。
【0018】
前記カウンタ軸44のブレーキ駆動ギヤ46及びマイルド駆動ギヤ47と各々噛合連動するブレーキ従動ギヤ55及びマイルド従動ギヤ56を設け、このブレーキ従動ギヤ55と一体接合して該ギヤ55の軸回転を入・切させるブレーキ旋回用クラッチ7と、マイルド従動ギヤ56と一体接合して該ギヤ56の軸回転を入・切させるマイルド旋回用クラッチ6とを、第4A軸としての旋回用クラッチ軸5に軸止して構成させる。
【0019】
該旋回用クラッチ軸5の軸端部を前記ミッションケース4の外側壁4aから突出させ、この突出部にスピン旋回用クラッチ8を軸止させると共に、該旋回用クラッチ軸5の適宜位置に旋回用駆動ギヤ57を軸止して構成させる。
【0020】
該旋回用駆動ギヤ57と、4個のデファレンシャルギヤ(ギヤ)1aを組合せ内装する差動ギヤ装置1のデフケース1b外周に固定したデフケースギヤ(ギヤ)1cとを噛合連動させると共に、該デファレンシャルギヤ1aからデフケース1bを貫通して各々左右側へ突出させた、第4B軸としての旋回用制御軸58に左右のデフ出力ギヤ(出力ギヤ)59を軸止し、このデフ出力ギヤ59と前記操向クラッチ3の大径ギヤ3aとを噛合連動して構成させる。
【0021】
図2に示す如く、前記操作装置25の操作パネル25a上の一側に、油圧式無段変速装置29により車体2の前後進の切り替えと主変速を行う主変速レバー60と、前記低中速駆動ギヤ35をリンク機構62aによりシフタ61を作用させて低・中速に変速する副変速レバー62と、車体2の左右操向及び旋回を実行させる操向操作具9としてのパワステレバー9とを配設して構成させる。
【0022】
図3に示す如く、該パワステレバー9の把手部9bにマイルド旋回用クラッチ6とスピン旋回用クラッチ8の作用を各々ON,OFF切り替えする旋回切替スイッチ9aを装着させると共に、該レバー9の下端部に接合する揺動板63のメタル部63aによって該レバー9を左右揺動させることにより各々ONする左右のパワステスイッチ64と、揺動板63によって下方へ押圧される作用板65により作用するパワステリリーフ弁66とを各々配設して構成させる。
【0023】
車体2の直進時に方向自動制御作用を行う際の方向修正感度(方向修正量)を、マイルド旋回用クラッチ6,ブレーキ旋回用クラッチ7,スピン旋回用クラッチ8の切り替えにより、小〜大に変更する感度設定ダイヤル10を該操作装置25の操作パネル25aの一側に配設して構成させる。(図2参照)
なお、前記刈取装置23の左端側及び右端側の分草体19を支持する分草杆19aに各々方向自動制御用の方向センサ67を配設して構成させる。
【0024】
図4に示す如く、油タンク68から油圧ポンプ69により加圧された圧油を分流弁70によって分流し、その一方の分流側を、4ポート・2位置切替えの副変速切替電磁弁71を介し低中速用クラッチ39と高速用クラッチ41とを切替え可能に接続して構成させる。
【0025】
他方の分流側を、4ポート・3位置切替えの方向切替電磁弁72を介し前記左右のプッシュシリンダ50を経てその作動排出側油路pへ、電磁比例弁73と該パワステレバー9の操作により圧力制御を行う前記パワステリリーフ弁66とを接続し、このリリーフ弁66から返油可能に構成させる。
【0026】
更に、該作動排出側油路pから6ポート・3位置切替えの旋回切替電磁弁74を介し、各々マイルド旋回用クラッチ6,ブレーキ旋回用クラッチ7,スピン旋回用クラッチ8へ切替え作動可能に接続させると共に、該方向切替電磁弁72とパワステリリーフ弁66、及び方向切替電磁弁72と前記方向センサ67を各々電気的に接続して構成させる。
【0027】
エンジン27からの動力を、入力プーリ30を介して油圧式無段変速装置29の可変ポンプ29aへ連動し、主変速レバー60の操作によって変速調節した可変ポンプ29aにより可変モータ29bを駆動し、この可変モータ29bの出力ギヤ31からアイドルギヤ32を介して入力軸34に軸止した入力ギヤ33へ伝動させる。
【0028】
該入力軸34に軸回転摺動する二連の低中速駆動ギヤ35を、副変速レバー62によるシフタ61の操作によって摺動させ、副変速軸38に軸遊転する二連の低中速従動ギヤ37との各別の噛合連動によって、連結している低中速用クラッチ39を副変速切替電磁弁71のOFF状態により入りとして各々低速と中速に変速させる。
【0029】
なお、該入力軸34に軸止した高速駆動ギヤ36を、副変速軸38に高速用クラッチ41と一体接合している高速従動ギヤ40との噛合連動によって、該クラッチ41を副変速切替電磁弁71のON状態により入りとして高速に変速させ、これらの低速・中速・高速により副変速としての変速を行わせる。
【0030】
この副変速を行った動力を、該副変速軸38に軸止した副変速駆動ギヤ42からカウンタ軸44に軸止した副変速従動ギヤ43へ、更に、この副変速従動ギヤ43から操向クラッチ軸48のセンター位置に軸止した操向センタギヤ49へ伝動させる。
【0031】
該操向センタギヤ49への伝動により、操向センタギヤ49のクラッチ爪49aと、操向クラッチ軸48に軸遊転する左右の二連操向クラッチ3の大径ギヤ3aのクラッチ爪とを、方向切替電磁弁72の開放状態による左右のプッシュシリンダ50とシフタ51の非作用により各々噛合接続させることにより直進走行を行わせる。
【0032】
左右の操向クラッチ3の小径ギヤ3bから車軸53に軸止した車軸ギヤ52へ伝動を行い、この車軸ギヤ52を介して伝動する左右の走行スプロケット54により各々左右の走行クローラ12を駆動させる。
【0033】
次に、前記カウンタ軸44に軸止したブレーキ駆動ギヤ46から、旋回用クラッチ軸(旋回用軸)5に軸止したブレーキ旋回用クラッチ7に一体接合のブレーキ従動ギヤ55へ伝動させる。
【0034】
この伝動により、例えば、左側へのブレーキ旋回作用を行わせるときは、パワステレバー9を左側へ傾動操作することにより、左のパワステスイッチ64のONによって方向切替電磁弁72が左位置へ切り替わり、左のプッシュシリンダ50を油圧作動させ左の操向クラッチ3を切ると同時に、旋回切替電磁弁74のOFF状態によって、該シリンダ50の作動排出側油路pからの送油によりブレーキ旋回用クラッチ7が入りとなる。
【0035】
該ブレーキ旋回用クラッチ7の入りにより、旋回用クラッチ軸5に軸止した旋回用駆動ギヤ57が駆動され、この旋回用駆動ギヤ57から差動ギヤ装置1のデフケース1b外周に固定したデフケースギヤ1cへ伝動し、デフケースギヤ1cの伝動によりデフケース1bを回動させ、デフケース1bの回動によりデファレンシャルギヤ1aを作用させる。
【0036】
該デファレンシャルギヤ1aの作用により、前記右の操向クラッチ3の大径ギヤ3aにより通常状態で回転駆動される右の旋回用制御軸58に軸止したデフ出力ギヤ59に対し、左の旋回用制御軸58に軸止したデフ出力ギヤ59をデフケース1bの回転変化に対応して出力回転させ、左の操向クラッチ3の大径ギヤ3aへ伝動させる。
【0037】
通常回転の右の操向クラッチ3の大径ギヤ3aから小径ギヤ3bを経た車軸ギヤ52に対し、左の操向クラッチ3の大径ギヤ3aから小径ギヤ3bを経た車軸ギヤ52の回転を停止させることにより、左側へのブレーキ旋回作用を行わせることができる。
【0038】
該差動ギヤ装置1の変速作用は、例えば、左右の旋回用制御軸58を各々X,Yとし、デフケース1bをZとするとき、2Z=X+Yとなるよう変速構成させる。(この変速構成の数値は自由である)
次に、前記カウンタ軸44に軸止したマイルド駆動ギヤ47から、旋回用クラッチ軸5に軸止したマイルド旋回用クラッチ6に一体接合のマイルド従動ギヤ56へ伝動させる。
【0039】
この伝動により、例えば、左側へのマイルド旋回作用を行わせるときは、パワステレバー9を左側へ傾動操作することにより、左のパワステスイッチ64のONによって方向切替電磁弁72が左位置へ切り替わり、左のプッシュシリンダ50を油圧作動させ左の操向クラッチ3を切ると同時に、把手部9bの旋回切替スイッチ9aのマイルド旋回側をONすることによって、旋回切替電磁弁74が右位置に切り替わり、該シリンダ50の作動排出側油路pからの送油によりマイルド旋回用クラッチ6が入りとなる。
【0040】
該マイルド旋回用クラッチ6の入りにより、旋回用クラッチ軸5に軸止した旋回用駆動ギヤ57が駆動され、以下、前記の如きブレーキ旋回作用時と同等の作用行程を経て、通常回転の右の操向クラッチ3の大径ギヤ3aから小径ギヤ3bを経た車軸ギヤ52に対し、左の操向クラッチ3の大径ギヤ3aから小径ギヤ3bを経た車軸ギヤ52の回転を減速させることにより、左側へのマイルド旋回作用を行わせることができる。
【0041】
次に、例えば、左側へのスピン旋回作用を行わせるときは、パワステレバー9を左側へ傾動操作することにより、左のパワステスイッチ64のONによって方向切替電磁弁72が左位置へ切り替わり、左のプッシュシリンダ50を油圧作動させ左の操向クラッチ3を切ると同時に、把手部9bの旋回切替スイッチ9aのスピン旋回側をONすることによって、旋回切替電磁弁74が左位置に切り替わり、該シリンダ50の作動排出側油路pからの送油によりスピン旋回用クラッチ8が入りとなる。
【0042】
該スピン旋回用クラッチ8の入りにより、旋回用クラッチ軸5に軸止した旋回用駆動ギヤ57の駆動をロックし、この旋回用駆動ギヤ57と噛合する差動ギヤ装置1のデフケースギヤ1cによりデフケース1bがロックされ、デファレンシャルギヤ1aの作用によって、前記右の操向クラッチ3の大径ギヤ3aにより通常状態で回転駆動される右の旋回用制御軸58に軸止したデフ出力ギヤ59に対し、左の旋回用制御軸58に軸止したデフ出力ギヤ59を反対方向に出力回転させ、左の操向クラッチ3の大径ギヤ3aへ伝動させる。
【0043】
通常回転の右の操向クラッチ3の大径ギヤ3aから小径ギヤ3bを経た車軸ギヤ52に対し、左の操向クラッチ3の大径ギヤ3aから小径ギヤ3bを経た車軸ギヤ52の回転を逆回転させることにより、左側へのスピン旋回作用を行わせることができる。
【0044】
コンバイン作業では通常ブレーキ旋回による作業が最も多く、マイルド旋回やスピン旋回での作業の頻度は少ないことから、該旋回切替電磁弁74の設定をセンター位置(OFF時)ではブレーキ旋回作用とすることにより、電磁コイルの耐久性の向上及び消費電力を低減することができる。
【0045】
また、直進時に方向自動制御作用を行う際には、方向自動制御モードにおいて方向センサ67の検出信号により方向修正を行うが、この方向修正時に、各々作業条件に適応させて感度設定ダイヤル10の方向修正感度(方向修正量)を、マイルド旋回用クラッチ6,ブレーキ旋回用クラッチ7,スピン旋回用クラッチ8による小・中・大による設定を切り替えることにより、方向自動制御作用における方向修正の操作性を向上させることができる。
【0046】
前記パワステレバー9の左右側への傾動操作により手動方向修正を行うときでも、自動方向修正時と同等の作用を行わせることができる。
また、直進時に方向自動制御作用を行う際の方向修正感度は、大きくは各旋回用クラッチ6,7,8の切り替えにより対応し、各旋回作用別における方向修正量の微調節を、前記プッシュシリンダ50の作動排出側油路pに配置した電磁比例弁73の圧力調整により、精度の高い自動方向修正を行わせることができる。
【0047】
また、前記低中速駆動ギヤ35による副変速操作と、油圧式無段変速装置29の可変モータ29bによる変速操作を、単一の副変速レバー62によって行うよう構成させる。
該副変速レバー62による変速操作は、図5に示す如く、前記操作装置25の操作パネル25aの一側に配置した該レバー62の操作を、支軸83により操作力の出し易い前後方向に長いストロークasとして、操作荷重の重い副変速をリンク機構62aによって切り替えを行うと共に、可変モータ29bの斜板角度を変更する軽い操作を、左右方向の短いストロークbsとして折曲メタル84を介してワイヤリンク62cにより変速させる組合せ変速を行わせる。
【0048】
このような変速の組合せにより、副変速の低速・中速の変速と、可変モータ29bの増速変速を連続して操作することができるから、操作性の向上を図ることができる。
また、図6に示す如く、前記図4に示している基本的な油圧回路において、方向切替電磁弁72から油タンク68へ返油する油路rにブレーキ切替電磁弁75を接続し、このブレーキ切替電磁弁75を適宜位置に設けたブレーキスイッチ76と電気的に接続して構成させる。
【0049】
このような構成により、該ブレーキスイッチ76のONによりブレーキ切替電磁弁75を切り替え油路rをロックしたときは、左右のプッシュシリンダ50を同時に油圧作動させ左右の操向クラッチ3を切ると共に、旋回切替電磁弁74を左位置に切り替え、該シリンダ50の作動排出側油路pからの送油によりスピン旋回用クラッチ8を入りとすることにより、このスピン旋回用クラッチ8を駐車ブレーキとして兼用することができる。
【0050】
なお、この状態で前記入力軸34の外方突出端部に軸止した刈取出力プーリ77の駆動が可能であるから、車体2を停止した状態で前記刈取装置23を作動させて作業を行うとき等に必要であり、作業性を向上させることができる。
【0051】
また、図7に示す如く、前記図1に示している基本的な走行用ミッションケース4において、駐車ブレーキペダル78を支軸78aにより回動自在に支承し、その作用アーム78b側と左右の操向クラッチ3とを同時作用(切り)可能に連結すると共に、同じ作用アーム78b側とスピン旋回用クラッチ8とを作用(ロック)可能に連結して構成させる。
【0052】
このような構成により、該駐車ブレーキペダル78を踏み込むことにより、左右の操向クラッチ3が同時に切りとなると共に、スピン旋回用クラッチ8をメカ的にロックさせることにより、該クラッチ8を駐車ブレーキとして利用することができるから、コスト的にも低減効果がある。
【0053】
また、前記図7に示している走行用ミッションケース4において、このケース4に使用しているミッションオイルを、油圧式無段変速装置29の作動用と各旋回用クラッチ6,7,8の作動用及び低中・高速用クラッチ39,41の作動用として共用使用すると共に、該無段変速装置29の回路の適所にはオイルフィルタ79を設けて構成させる。
【0054】
このような構成により、該ミッションオイルを各油圧源として利用できるから構成を単純化できると共に、該無段変速装置29の回路の適所にサクションフィルタ79aとラインフィルタ79bを介在配置させることにより、該無段変速装置29内へは各フィルタ79a,79bによって濾過された綺麗なオイルを送油することができ、このことがミッションオイル全体を綺麗にし各油圧トラブルを低減させることができる。
【0055】
なお、従来では、該無段変速装置29には専用のオイルタンクを装備し、該無段変速装置29の回路と油圧クラッチの回路には各別にオイルフィルタを設けているため、コスト高であった。
【0056】
また、図8に示す如く、走行用ミッションケース80のギヤ連動機構は、基本的には、前記図1に示している走行用ミッションケース4に準じた構成と同じであり、該旋回用クラッチ軸5に軸止したマイルド旋回用クラッチ6及びブレーキ旋回用クラッチ7についても変更はないが、旋回用クラッチ軸5の該ミッションケース80の外側壁80aから突出させた軸端部に軸止するスピン旋回用クラッチ8に代えて、駐車ブレーキ81を軸止させた部分のみが変更されている。
【0057】
該ミッションケース80を作用させる油圧回路は、図9に示す如く、基本的には、前記図4に示している油圧回路に準じた構成と同じであり、変更されている部分は、該作動排出側油路pから送油される旋回切替電磁弁74に代えて、4ポート・2位置切替えの旋回切替電磁弁82を介し、各々マイルド旋回用クラッチ6,ブレーキ旋回用クラッチ7へ切替え作動可能に接続させる部分のみが変更されている。
【0058】
このような構成により、該旋回切替電磁弁82がOFF状態のときは、ブレーキ旋回用クラッチ7へ送油してブレーキ旋回を行わせる。通常、コンバイン作業ではブレーキ旋回による作業が最も多く、マイルド旋回での作業頻度は少ないことから、ブレーキ旋回側を非通電状態とすることにより、電磁コイルの耐久性の向上及び消費電力を低減することができる。
【0059】
また、前記ミッションケース80において、該旋回用クラッチ軸5の該ケース80の外側壁80aから突出させた軸端部に軸止する駐車ブレーキ81を、前記支軸78aにより回動自在に支承した駐車ブレーキペダル78の作用アーム78bを介して左右の操向クラッチ3を同時作用(切り)可能に連結すると共に、該作用アーム78bと駐車ブレーキ81とを作用(ロック)可能に連結して構成させる。
【0060】
このような構成により、該駐車ブレーキペダル78を踏み込むことにより、左右の操向クラッチ3が同時に切りとなると共に、駐車ブレーキ81をロックさせることができるから、前記差動ギヤ装置1の回転を固定させて制動を行うという簡単な機構で駐車ブレーキとして使用することができる。
【0061】
なお、該ミッションケース80では、マイルド旋回作用とブレーキ旋回作用についてのみ実行可能であり、スピン旋回作用については実行不可能であるが、スピン旋回作用は実行頻度が少ないため実用上余り不便を来すことはない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】走行用ミッションケースのギヤ連動機構の配列状態を示す正面展開線図。
【図2】操作装置の操作パネル上に設けた各レバー類その他の配置状態を示す平面図。
【図3】傾動操作により作用する操向操作具(パワステレバー)の構成を示す正面図。
【図4】副変速及び各旋回用クラッチの切り替えを行う油圧回路を示すブロック図。
【図5】副変速レバーによる副変速の切り替えと油圧モータの変速状態を示す作用図。
【図6】図4に示す油圧回路において駐車ブレーキの切り替え関係を示すブロック図。
【図7】ミッションケースにおいてメカ式駐車ブレーキと潤滑油の状態を示す作用図。
【図8】図1に示すミッションケースにおいてスピン旋回の省略を示す正面展開線図。
【図9】図4に示す油圧回路において旋回切替電磁弁の変更関係を示すブロック図。
【図10】コンバインにおける全体構成を示す側面図。
【符号の説明】
【0063】
2 車体
4 走行用ミッションケース
9 パワステレバー(操向操作具)
11 車台
12 走行クローラ
13 走行装置
15 グレンタンク
17 脱穀装置
23 刈取装置
25 操作装置
26 操作席
27 エンジン
29 油圧式無段変速装置
29a 可変ポンプ
29b 可変モ−タ
30 入力プーリ
34 入力軸
35 低中速駆動ギヤ(副変速ギヤ)
52 車軸ギヤ
60 主変速レバー
62 副変速レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車台(11)の下部側に左右一対の走行クローラ(12)を有する走行装置(13)を設け、前記車台(11)にグレンタンク(15)を備える脱穀装置(17)を設けると共に該脱穀装置(17)の前方に刈取装置(23)を昇降自在に設け、前記グレンタンク(15)の前方側に操作席(26)及び操作装置(25)を設けて車体(2)を構成し、前記車台(11)の前部側に走行用ミッションケース(4)を設け、該走行用ミッションケース(4)に油圧式無段変速装置(29)を連動可能に取り付けて、該油圧式無段変速装置(29)の可変ポンプ(29a)の入力プーリ(30)へエンジン(27)からの動力を伝動可能に構成すると共に、該可変ポンプ(29a)によって駆動される可変モータ(29b)を介して走行用ミッションケース(4)の入力軸(34)に伝動するように構成し、前記操作装置(25)部に、前記油圧式無段変速装置(29)の可変ポンプ(29a)を変速調節して車体(2)の前後進の切り替えと変速を行わせる主変速レバー(60)と、前記走行用ミッションケース(4)内の副変速ギヤ(35)を変速操作する副変速レバー(62)と、車体(2)を旋回させる操向操作具(9)とを設けて、該操向操作具(9)の旋回操作に基づいて左右一側の車軸ギヤ(52)に対して左右他側の車軸ギヤ(52)を減速させて旋回できるように構成すると共に、前記操向操作具(9)のスピン旋回操作に基づいて左右一側の車軸ギヤ(52)に対して左右他側の車軸ギヤ(52)を逆回転させてスピン旋回できるように構成し、前記油圧式無段変速装置(29)の可変モータ(29b)を変速操作できるように構成して、前記副変速レバー(62)による走行用ミッションケース(4)内の副変速ギヤ(35)の変速操作と、前記油圧式無段変速装置(29)の可変モータ(29b)の変速操作とを行なえるように構成したことを特徴とするコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−1574(P2007−1574A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−214709(P2006−214709)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【分割の表示】特願2004−220273(P2004−220273)の分割
【原出願日】平成14年2月19日(2002.2.19)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】