説明

サスペンション用フレキシャー基板、サスペンション、ヘッド付サスペンション、およびハードディスクドライブ

【課題】 本発明は、配線がより微細化、あるいは高密度化される場合でも、フライングリード部の配線強度を確保して断線を効果的に防止しつつ、外部端子との接続信頼性も確保することができるサスペンション用フレキシャー基板、サスペンション、ヘッド付サスペンション、およびハードディスクドライブを提供することを目的とするものである。
【解決手段】 フライングリード部の配線表裏面が露出したサスペンション用フレキシャー基板において、フライングリード部の開口端縁部において配線に加わる力を、配線の平面方向や厚さ方向に分散させる構成にした開口を形成することで、応力の集中を緩和させて、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接続端子部の強度に優れたサスペンション用フレキシャー基板、サスペンション、ヘッド付サスペンション、およびハードディスクドライブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットの普及等によりパーソナルコンピュータの情報処理量の増大や情報処理速度の高速化が要求されてきており、それに伴って、パーソナルコンピュータに組み込まれているハードディスクドライブ(HDD)も大容量化や情報伝達速度の高速化が必要となってきている。
【0003】
ハードディスクドライブは磁気記録媒体である磁気ディスク、それを高速回転させるスピンドルモータ、磁気ディスクに対して情報を読取または書込する磁気ヘッド、それを高精度に保持しつつ移動させるための各部品、これらの駆動制御回路および信号処理回路などによって構成されている。
【0004】
そして、このハードディスクドライブに用いられる磁気ヘッドを支持している磁気ヘッドサスペンションと呼ばれる部品も、従来の金ワイヤ等の信号線を接続するタイプから、ステンレスのばねに直接銅配線等の信号線が形成されている、いわゆるワイヤレスサスペンションと呼ばれる配線一体型(フレキシャー)に移行しつつある。
【0005】
ここで、通常、配線には、磁気ヘッドや外部回路と電気的に接続するための接続端子部が形成されているが、従来、この接続端子部の表面には、電気的接続を良好に行うために、Ni(ニッケル)やAu(金)などの金属めっき層が形成されている。
【0006】
また、このような接続端子部として、近年、電子・電気機器の高密度化および小型化に対応すべく、導体パターンの片面だけではなく、両面を露出して利用するいわゆるフライングリードが普及しつつある。
【0007】
図5は、フライングリードの構成の一例を例示する説明図であり、(a)は概略平面図を、(b)は(a)におけるD−D断面図を示す。
図5に示すように、SUS等からなる金属支持基板41と、その支持基板41の上に形成される第1絶縁層42と、その第1絶縁層42の上に形成される配線43と、その配線43を被覆する第2絶縁層44とを備えたサスペンション基板において、フライングリードとして形成される接続端子部は、金属支持基板41および第1絶縁層42を開口して、配線43の裏面を露出させるとともに、第2絶縁層44を開口して配線43の表面を露出させ、通常、その露出させた配線43の両面に、金属めっき層45を設けることにより形成される。
そして、このようなフライングリードとして形成される接続端子部は、例えば、ボンディングツールなどを用いて、超音波振動を加えることにより、外部端子と接続される。
【0008】
しかし、このようなフライングリードとして形成される接続端子部では、配線43の両面が露出しているので、超音波が伝達されやすく、超音波振動による接合には適している反面、物理的強度が弱く、第1絶縁層42および第2絶縁層44の開口の端縁部、すなわち第1絶縁層42および第2絶縁層44とフライングリード部の配線43が交差する部分において配線43に応力が集中して、配線43が断線しやすいという不具合がある。
【0009】
そこで、図6に示すように、第1絶縁層42および第2絶縁層44とフライングリード部の配線43が交差する部分において配線43の幅を太くする事により、強度を確保するサスペンション基板が提案されている(特許文献1)。
【0010】
また、図7に示すように、フライングリード部の配線43の露出面の片面に絶縁膜42を形成した構成とし、この絶縁膜42によりフライングリード部の配線43を補強して、切れ難くする方法も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−31915号公報
【特許文献2】特開2006−31764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載されているような、フライングリード部の開口端縁部において配線の幅を太くする方法では、配線の間隔を狭める事ができず、微細化に不利である。また、配線の間隔を狭める事ができないことから、今後、配線数がより増える場合には、配線間の絶縁信頼性を保つ事ができないという不具合もある。
【0013】
また、特許文献2に記載されているような、フライングリード部の配線の露出面の片面に絶縁膜を形成し、この絶縁膜により配線を補強して切れ難くする方法では、外部端子との接続に際し、ボンディングツールを用いて超音波振動を加える場合に、ボンディングツールと配線の間には絶縁膜が存在するため、配線には超音波振動が直接伝わらず、外部端子との接続強度を確実に保つという接続信頼性に問題が残る。
【0014】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、配線がより微細化、あるいは高密度化される場合でも、フライングリード部の配線強度を確保して断線を効果的に防止しつつ、外部端子との接続信頼性も確保することができるサスペンション用フレキシャー基板、サスペンション、ヘッド付サスペンション、およびハードディスクドライブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、種々研究した結果、フライングリード部の配線の表裏両面が露出した構造であっても、開口端縁部において配線に加わる力を、配線の平面方向や厚さ方向に分散させることで、応力の集中を緩和させて、配線の断線を防止できることを見出して本発明を完成したものである。
【0016】
すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、金属支持基板上に形成された第1の絶縁層の上に、磁気ヘッドと外部回路とを電気的に接続するための接続端子部を有する複数の配線が形成され、前記複数の配線を被覆するように第2の絶縁層が形成されているサスペンション用フレキシャー基板において、前記配線は、前記接続端子部の少なくとも一方において前記配線の表裏両面が露出するように、前記金属支持基板および前記第1の絶縁層が開口された第1の開口部と、前記第2の絶縁層が開口された第2の開口部が形成されており、前記配線と交差する前記第1の開口部の開口端縁部および前記第2の開口部の開口端縁部が、前記配線の長手方向に対して斜め方向に形成されていることを特徴とするサスペンション用フレキシャー基板である。
【0017】
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記配線と交差する前記第1の開口部の開口端縁部の位置と、前記配線と交差する前記第2の開口部の開口端縁部の位置とが、前記配線の表裏面で相違することを特徴とする請求項1に記載のサスペンション用フレキシャー基板である。
【0018】
また、本発明の請求項3に係る発明は、前記第1の開口部の前記配線の長手方向における開口幅の大きさが、前記第2の開口部の前記配線の長手方向における開口幅の大きさと相違することにより、前記配線と交差する前記第1の開口部の開口端縁部の位置と、前記配線と交差する前記第2の開口部の開口端縁部の位置とが前記配線の表裏面で相違することを特徴とする請求項2に記載のサスペンション用フレキシャー基板である。
【0019】
また、本発明の請求項4に係る発明は、前記第1の開口部の前記配線の長手方向における開口幅の中心位置が、前記第2の開口部の前記配線の長手方向における開口幅の中心位置と相違することにより、前記配線と交差する前記第1の開口部の開口端縁部の位置と、前記配線と交差する前記第2の開口部の開口端縁部の位置とが前記配線の表裏面で相違することを特徴とする請求項2〜3のいずれかに記載のサスペンション用フレキシャー基板である。
【0020】
また、本発明の請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のサスペンション用フレキシャー基板を含むことを特徴とするサスペンションである。
【0021】
また、本発明の請求項6に係る発明は、請求項5に記載のサスペンションと、前記サスペンションに実装された磁気ヘッドスライダとを有することを特徴とするヘッド付サスペンションである。
【0022】
また、本発明の請求項7に係る発明は、請求項6に記載のヘッド付サスペンションを含むことを特徴とするハードディスクドライブである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、配線と交差する絶縁層の開口端縁部の角度や位置を工夫することにより、配線に加わる応力を平面方向や厚さ方向に分散させることができ、応力の集中を緩和させて、配線の断線を防止することができる。そして、本発明によれば、フライングリード部の開口端縁部において配線の幅を太くすることを要しないため、本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板は、配線の微細化や高密度化にも適している。
【0024】
また、本発明によれば、外部端子との接続に際し、ボンディングツールを用いて超音波振動を加える場合に、フライングリード部の配線は両面が露出した構造であるため、超音波振動を、絶縁膜によって阻害されることなく、配線に直接伝えることができるため、確実な端子接続が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板の全体像を例示する概略平面図である。
【図2】本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板のフライングリード部の構成の一例を例示する説明図であり、(a)は概略平面図を、(b)は(a)におけるA−A断面図を示す。
【図3】本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板のフライングリード部の構成の他の例を例示する説明図であり、(a)は概略平面図を、(b)は(a)におけるB−B断面図を示す。
【図4】本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板のフライングリード部の構成の他の例を例示する説明図であり、(a)は概略平面図を、(b)は(a)におけるC−C断面図を示す。
【図5】従来のフライングリード部の構成の一例を例示する説明図であり、(a)は概略平面図を、(b)は(a)におけるD−D断面図を示す。
【図6】従来のフライングリード部の構成の他の例を例示する説明図であり、(a)は概略平面図を、(b)は(a)におけるE−E断面図を示す。
【図7】従来のフライングリード部の構成の他の例を例示する説明図であり、(a)は概略平面図を、(b)は(a)におけるF−F断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のサスペンション用フレキシャー基板について詳細に説明する。
【0027】
[サスペンション用フレキシャー基板]
図1は、本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板の全体像を例示する概略平面図である。図1に示されるサスペンション用フレキシャー基板1は、その先端近傍に磁気ヘッドを実装するためのジンバル部2を有しており、ジンバル部2には磁気ヘッドと電気的に接続するための接続端子部3が形成されている。
一方、サスペンション用フレキシャー基板1の末端近傍には外部回路と接続するための接続端子部であるフライングリード部4が形成されており、接続端子部3とフライングリード部4を電気的に接続するように配線5a〜5dが形成されている。
【0028】
1.第1の実施形態
次に本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板のフライングリード部の構成について説明する。
図2は、本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板のフライングリード部の構成の一例を例示する説明図であり、(a)は概略平面図を、(b)は(a)におけるA−A断面図を示す。
【0029】
図2(b)に示すように、本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板は、SUS等からなる金属支持基板11aと、その支持基板11aの上に形成される第1絶縁層12aと、その第1絶縁層12aの上に形成される配線14aと、その配線14aを被覆する第2絶縁層15aとを備えており、そのフライングリード部では、金属支持基板11aおよび第1絶縁層12aを開口して、配線14aの裏面を露出させるとともに、第2絶縁層15aを開口して配線14aの表面を露出させ、通常、その露出させた配線14aの両面には、金属めっき層16aが設けられている。
【0030】
ここで、本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板の製造方法には、Cu(銅)などの導体層をエッチングして配線を形成するサブトラクティブ法や、めっき法でCu(銅)などの導体からなる配線を形成するアディティブ法など、いずれの方法も用いることができるが、図2においては、配線の微細化に好適なめっき法で配線を形成する例を示しており、配線14aと第1絶縁層12aの間にシード層13aが形成されている。
【0031】
そして、図2(a)に示すように、本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板の第1の実施形態においては、フライングリード部において複数の配線14aの両面が露出するように、金属支持基板11aおよび第1絶縁層12aには第1開口部21aが形成され、第2絶縁層15aには第2開口部22aが形成されており、配線14aと交差する第1開口部21aの開口端縁部、および第2開口部22aの開口端縁部が、配線14aの長手方向に対して斜め方向に形成されている。
【0032】
このような構成とすることにより、配線と配線上下の絶縁層の開口端縁部とが略直角に交わる従来のフライングリードに比べ、本発明に係る第1の実施形態のフライングリードにおいては、配線と配線上下の絶縁層の開口端縁部との接触部位が増えることになる。
例えば、開口端縁部が、配線14aの長手方向に対して45度の角度で形成されている場合、配線に接触する開口端縁部の長さは、直角に交わる場合の約1.4倍になる。
【0033】
すなわち、本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板の第1の実施形態においては、配線と配線上下の絶縁層の開口端縁部との接触部位を増やすことで、配線に加わる応力を配線の平面方向に分散させて、応力の集中を緩和し、配線の断線を防止することができるものである。
【0034】
また、本発明によれば、従来のようにフライングリード部の開口端縁部において配線の幅を太くすることを要しないため、本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板は、配線の微細化や高密度化にも適している。
【0035】
また、本発明によれば、外部端子との接続に際し、ボンディングツールを用いて超音波振動を加える場合に、フライングリード部の配線は両面が露出した構造であるため、超音波振動を、絶縁膜によって阻害されることなく、配線に直接伝えることができるため、確実な端子接続が可能である。
【0036】
本発明において、配線14aの長手方向に対する配線上下の絶縁層の開口端縁部の角度は、上述のような効果を奏する範囲であれば用いることができ、特に限定されないが、例えば30度〜80度の範囲である。また、開口端縁部の形状は直線に限られず、曲線であっても良い。
【0037】
2.第2の実施形態
次に、本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板の第2の実施形態について説明する。
図3は、本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板のフライングリード部の構成の他の例を例示する説明図であり、(a)は概略平面図を、(b)は(a)におけるB−B断面図を示す。なお、上述の図2の例と同様に、図3においても、めっき法で配線を形成する例を示している。
【0038】
図3に示すように、本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板の第2の実施形態においては、第1の実施形態に加えて、第1開口部21bの配線14bの長手方向における開口幅の大きさが、第2開口部22bの配線14bの長手方向における開口幅の大きさと相違していることにより、配線14bと交差する第1開口部21bの開口端縁部の配線14bの裏面における平面上の位置と、配線16bと交差する第2開口部22bの開口端縁部の配線14bの表面における平面上の位置とが配線14bの表裏面で相違する構成になっている。
すなわち、第2の実施形態においては、配線上下の絶縁層の開口端縁部が、配線の長手方向に対して斜め方向に形成されており、さらに、配線上下の絶縁層の開口端縁部の位置が、外側、あるいは内側に向かってずれている、いわゆる段違い構成になっている。
【0039】
このような構成とすることにより、本発明に係る第2の実施形態のフライングリードにおいては、上述の第1の実施形態における効果に加えて、配線上下の絶縁層の開口端縁部の位置がずれているため、開口端縁部の配線に加わる応力を、配線の厚さ方向に分散させて、応力の集中を緩和し、さらに効果的に配線の断線を防止することができる。
【0040】
例えば、図3において、第2絶縁層15bの第2開口部22bの開口端縁部で配線14bが受ける力に対しては、配線14bの下にある第1絶縁層12bが配線14bを補強するように作用するため、本発明に係る第2の実施形態のフライングリードにおいては、配線上下の絶縁層の開口端縁部が、配線の両面において同じ平面位置に設けられている従来のフライングリードに比べ、配線14bが第2開口部22bの開口端縁部で断線することをより効果的に防止できる。
【0041】
本発明において、配線14bと交差する第1開口部21bの開口端縁部の平面位置と、配線14bと交差する第2開口部22bの開口端縁部の平面位置とのずれ量は、上述のような効果を奏する範囲であれば用いることができ、特に限定されないが、例えば5μm〜30μmの範囲である。また、上記のずれ量は、開口の一方の端縁部(例えば、配線の先端側)と他方の端縁部(例えば、配線の末端側)とで、同じであっても良く、異なっていても良い。
【0042】
なお、図3においては、配線の上側の開口部の開口幅が下側の開口部よりも大きい形態を例示しているが、本発明においては、配線の上側の開口部の開口幅が下側の開口部よりも小さい形態であっても良い。
【0043】
3.第3の実施形態
次に、本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板の第3の実施形態について説明する。
図4は、本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板のフライングリード部の構成の他の例を例示する説明図であり、(a)は概略平面図を、(b)は(a)におけるC−C断面図を示す。なお、上述の図2の例と同様に、図4においても、めっき法で配線を形成する例を示している。
【0044】
図4に示すように、本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板の第3の実施形態においては、第1の実施形態に加えて、第1開口部21cの配線14cの長手方向における開口幅の中心の平面上の位置が、第2開口部22cの配線14cの長手方向における開口幅の中心の平面上の位置と相違していることにより、配線14cと交差する第1開口部21cの開口端縁部の平面位置と、配線14cと交差する第2開口部22cの開口端縁部の平面位置とが相違する構成になっている。
【0045】
すなわち、第3の実施形態においても、配線上下の相応する絶縁層の開口端縁部の位置がずれている、いわゆる段違い構成になっている。
ただし、上述の第2の実施形態においては、例えば、配線の上側の開口部が外側の方向に、配線の下側の開口部が内側の方向にずれていたのに対し、この第3の実施形態においては、例えば、配線の上側の開口部が配線末端の方向(図4において右方向)に、配線の下側の開口部が配線先端の方向(図4において左方向)にずれた形態になっている。
【0046】
なお、この第3の実施形態においては、上述の第1の実施形態を包含する形態の他に、上述の第2の実施形態を包含する形態であっても良い。すなわち、第3の実施形態においても、配線上下の絶縁層の開口部の配線の長手方向の開口幅の大きさは相違していても良い。
【0047】
このような構成とすることにより、本発明に係る第3の実施形態のフライングリードにおいては、上述の第1の実施形態における効果に加えて、配線上下の絶縁層の開口端縁部の位置がずれているため、上述の第2の実施形態における効果と同様に、開口端縁部の配線に加わる応力を、配線の厚さ方向に分散させて、応力の集中を緩和し、さらに効果的に配線の断線を防止することができる。
【0048】
例えば、図4において、第2絶縁層15cの第2開口部22cの配線末端側(図4における右側)の開口端縁部で配線14cが上側から受ける力に対しては、配線14cの下にある第1絶縁層12cが配線14cを補強し、一方、第1絶縁層12cの第1開口部21cの配線先端側(図4における左側)の開口端縁部で配線14cが下側から受ける力に対しては、配線14cの上にある第2絶縁層15cが配線14cを補強するように作用するため、本発明に係る第3の実施形態のフライングリードにおいては、配線上下の絶縁層の開口端縁部が配線の両面において同じ平面位置に設けられている従来のフライングリードに比べて、配線14cが開口端縁部で断線することをより効果的に防止できる。
【0049】
本発明において、配線14cと交差する第1開口部21cの開口端縁部の平面位置と、配線14cと交差する第2開口部22cの開口端縁部の平面位置とのずれ量は、上述のような効果を奏する範囲であれば用いることができ、特に限定されないが、例えば5μm〜30μmの範囲である。また、上記のずれ量は、開口の一方の端縁部(例えば、配線の先端側)と他方の端縁部(例えば、配線の末端側)とで、同じであっても良く、異なっていても良い。
【0050】
なお、図4においては、配線の上側の開口部が配線末端の方向(図4における右側方向)にずれた形態を例示しているが、本発明においては、配線の上側の開口部が配線先端の方向(図4における左側方向)にずれた形態であっても良い。
【0051】
次に、本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板について、構成ごとに説明する。
[金属支持基板]
金属支持基板11a、11b、11cの材料としては、ばね性および導電性を有していれば特に限定されるものではないが、例えばSUS、42アロイ、銅、銅合金等を挙げることができ、中でもSUSが好ましい。上記金属支持基板11a、11b、11cの厚さは、例えば12μm〜76μmの範囲内であり、中でも14μm〜25μmの範囲内であることが好ましい。
【0052】
[第1絶縁層]
次に、本発明に係る第1絶縁層について説明する。第1絶縁層12a、12b、12cの材料としては、所望の絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばポリイミド等を挙げることができる。また、第1絶縁層12a、12b、12cの材料は、感光性材料であっても良く、非感光性材料であっても良い。また、第1絶縁層12a、12b、12cの厚さは、例えば5μm〜20μmの範囲内、中でも8μm〜12μmの範囲内であることが好ましい。
【0053】
[シード層]
シード層13a、13b、13cは、配線14a、14b、14cを電解めっき法により形成するために、第1絶縁層12a、12b、12cの上に形成されるものである。シード層13a、13b、13cの形成方法、材料等は、公知の技術を用いることができ、特に限定されるものではない。例えば、Cr、Ni、Cuをスパッタ成膜することにより形成することができる。
本発明においては、例えば、下層にCr単体、若しくはNi−Crを10〜60nmの厚さで成膜し、上層にCuを50〜200nmの厚さで成膜してシード層13a、13b、13cとすることができる。
【0054】
[配線]
配線14a、14b、14cは、所望の導電性を有するものであれば、特に限定されるものではない。配線14a、14b、14cの材料としては、通常、Cuが用いられる。
配線14a、14b、14cの厚さとしては、例えば4μm〜18μmの範囲内、中でも5μm〜15μmの範囲内であることが好ましい。配線の厚さが小さすぎると、充分な低インピーダンス化を図ることができない可能性があり、配線の厚さが大きすぎると、サスペンション用フレキシャー基板の剛性が高くなり過ぎる可能性があるからである。
【0055】
配線14a、14b、14cの線幅としては、例えば10μm〜200μmの範囲内である。配線の線幅が小さすぎると、所望の導電性を得ることができない可能性があり、配線の線幅が大きすぎると、サスペンション用フレキシャー基板の充分な高密度化を図ることができない可能性があるからである。
【0056】
[第2絶縁層]
次に、本発明に用いられる第2絶縁層15a、15b、15cについて説明する。電気信号の減衰や配線の腐食による劣化を抑制するため、配線14a、14b、14cは第2絶縁層15a、15b、15cで覆われている。ただし、サスペンション用フレキシャー基板の反りの発生を抑制するために、第2絶縁層15a、15b、15cは必要な部位にのみ形成されていることが好ましい。
【0057】
第2絶縁層15a、15b、15cの材料としては、特に限定されず、公知の材料を使うことができ、例えばポリイミドを挙げることができる。また、第2絶縁層15a、15b、15cの材料は、感光性材料であっても良く、非感光性材料であっても良い。第2絶縁層15a、15b、15cの厚さは、例えば3μm〜30μmの範囲内であることが好ましい。
【0058】
[金属めっき層]
金属めっき層16a、16b、16cは、接続端子部3やフライングリード部4における配線14a、14b、14cの露出表面に形成され、磁気ヘッドや外部回路との電気的接続の向上や、露出する配線の腐食からの保護を目的とするものである。
金属めっき層16a、16b、16cは、電解めっき法により形成され、その材料としては、サスペンション用フレキシャー基板の端子部を形成し得るものであれば、特に制限されることなく使用することができ、例えば、Cu(銅)、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)、Au(金)などが用いられる。
また、金属めっき層16a、16b、16cは、多層として形成してもよく、例えば、電解Niめっきと電解Auめっきとを順次実施して、下層にNi、上層にAuの多層構造とすることができる。Ni層の厚さは、例えば、0.1〜3μm程度であり、Au層の厚さは、例えば、1〜5μm程度である。
【0059】
[サスペンション用フレキシャー基板の製造方法]
次に、本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板の製造方法について説明する。
本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板は、上述の各構成材料を用いて、従前公知の方法を利用することにより製造することができる。
例えば、本発明に係る第1の実施形態のような開口端縁部が斜めの開口部(図2に示す略平行四辺形の開口部)は、矩形の開口パターンを有していた従前のフォトマスクに替えて、略平行四辺形の開口パターンを有するフォトマスクを用いて表面側(第2絶縁層側)と裏面側(第1絶縁層側)のそれぞれの面をフォト製版することで形成することができる。
【0060】
また、本発明に係る第2および第3の実施形態のような開口端縁部がずれている、いわゆる段違い構成は、表面側用フォトマスクと裏面側用フォトマスクとで開口パターンが同一のパターンを有していた従前のフォトマスクに替えて、表面側用フォトマスクと裏面側用フォトマスクとで開口パターンの大きさや位置が相違するパターンを有するフォトマスクを用いて表面側と裏面側のそれぞれの面をフォト製版することで形成することができる。
【0061】
[サスペンション]
次に、本発明に係るサスペンションについて説明する。
本発明に係るサスペンションは、上述したサスペンション用フレキシャー基板を有し、通常は、さらにロードビームを有する。サスペンション用フレキシャー基板については、上述した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。また、ロードビームは、一般的なサスペンションに用いられるロードビームと同様のものを用いることができる。
【0062】
本発明に係るサスペンションにおいては、上述したサスペンション用フレキシャー基板を用いることで、配線がより微細化、あるいは高密度化される場合でも、フライングリード部の配線強度を確保して断線を効果的に防止しつつ、外部端子との接続信頼性も確保することができる。
【0063】
[ヘッド付サスペンション]
次に、本発明に係るヘッド付サスペンションについて説明する。本発明に係るヘッド付サスペンションは、上述したサスペンションと、該サスペンションに実装された磁気ヘッドスライダとを有するものである。
サスペンションについては、上述した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。また、磁気ヘッドスライダは、一般的なヘッド付サスペンションに用いられる磁気ヘッドスライダと同様のものを用いることができる。
【0064】
本発明に係るヘッド付サスペンションにおいては、上述したサスペンションを用いることで、配線がより微細化、あるいは高密度化される場合でも、フライングリード部の配線強度を確保して断線を効果的に防止しつつ、外部端子との接続信頼性も確保することができる。
【0065】
[ハードディスクドライブ]
次に、本発明に係るハードディスクドライブについて説明する。本発明に係るハードディスクドライブは、上述したヘッド付サスペンションを含むことを特徴とするものである。
【0066】
本発明に係るハードディスクドライブは、少なくともヘッド付サスペンションを有し、通常は、さらにヘッド付サスペンションがデータの書き込みおよび読み込みを行うディスク、ディスクを回転させるスピンドルモータ、ヘッド付サスペンションに接続されたアーム、およびヘッド付サスペンションの磁気ヘッドスライダを移動させるボイスコイルモータを有する。ヘッド付サスペンションについては、上述した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。また、その他の部材についても、一般的なハードディスクドライブに用いられる部材と同様のものを用いることができる。
【0067】
本発明によれば、上述したヘッド付サスペンションを用いることで、より信頼性の高いハードディスクドライブとすることができる。
【0068】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と、実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる場合であっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
金属支持基板11aに厚さ20μmのSUSを用い、第1絶縁層12aに厚さ10μmのポリイミドを用い、シード層13aとして、下層にCrを30nmの厚さでスパッタ成膜し、上層にCuを100nmの厚さでスパッタ成膜した多層膜を用い、配線14aには、電解めっき法で形成した厚さ10μmのCuを用い、第2絶縁層15aには、厚さ17μmの感光性ポリイミドを用い、金属めっき層16aには、下層に厚さ0.15μmのNi、上層に厚さ3μmのAuを電解めっき法により形成した多層膜を用いて、フライングリード部が図2に示すような構成の本発明に係る第1の実施形態のサスペンション用フレキシャー基板を得た。
なお、配線14aの線幅は100μm、各配線間の隙間の幅は100μmとして形成し、配線14aと交差する第1開口部21aの開口端縁部および第2開口部22aの開口端縁部は、いずれも配線14aの長手方向に対して60度の角度で斜め方向に形成した。
【0070】
(実施例2)
実施例1と同じ材料を用いて、フライングリード部が図3に示すような構成の本発明に係る第2の実施形態のサスペンション用フレキシャー基板を得た。
なお、配線14bの線幅は100μm、各配線間の隙間の幅は100μmとして形成し、配線14bと交差する第1開口部21bの開口端縁部および第2開口部22bの開口端縁部は、いずれも配線14bの長手方向に対して60度の角度で斜め方向に形成し、配線14bと交差する第1開口部21bの開口端縁部の平面位置と、配線14bと交差する第2開口部22bの開口端縁部の平面位置とのずれ量は、配線の先端方向、末端方向のいずれも20μmに形成した。
【0071】
(実施例3)
実施例1と同じ材料を用いて、フライングリード部が図4に示すような構成の本発明に係る第3の実施形態のサスペンション用フレキシャー基板を得た。
なお、配線14cの線幅は100μm、各配線間の隙間の幅は100μmとして形成し、配線14cと交差する第1開口部21cの開口端縁部および第2開口部22cの開口端縁部は、いずれも配線14cの長手方向に対して60度の角度で斜め方向に形成し、配線14cと交差する第1開口部21cの開口端縁部の平面位置と、配線14cと交差する第2開口部22cの開口端縁部の平面位置とのずれ量は、配線の先端方向、末端方向のいずれも20μmに形成した。
【0072】
実施例1〜3の本発明に係るサスペンション用フレキシャー基板においては、フライングリード部の配線は両面が露出した構造であるため、外部端子との接続に際し、超音波振動を配線に直接伝えることができ、確実な端子接続が可能であった。
また、配線に加わる応力を平面方向や厚さ方向に分散して、応力の集中を緩和させることができるため、外部端子との接続に際し、配線の断線は生じなかった。
【符号の説明】
【0073】
1 サスペンション用フレキシャー基板
2 ジンバル部
3 接続端子部
4 フライングリード部
5a、5b、5c、5d 配線
11a、11b、11c 金属支持基板
12a、12b、12c 第1絶縁層
13a、13b、13c シード層
14a、14b、14c 配線
15a、15b、15c 第2絶縁層
16a、16b、16c 金属めっき層
21a、21b、21c 第1開口部
22a、22b、22c 第2開口部
41・・・金属支持基板
42・・・第1絶縁層
43・・・配線
44・・・第2絶縁層
45・・・金属めっき層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属支持基板上に形成された第1の絶縁層の上に、磁気ヘッドと外部回路とを電気的に接続するための接続端子部を有する複数の配線が形成され、前記複数の配線を被覆するように第2の絶縁層が形成されているサスペンション用フレキシャー基板において、
前記配線は、前記接続端子部の少なくとも一方において前記配線の表裏両面が露出するように、前記金属支持基板および前記第1の絶縁層が開口された第1の開口部と、前記第2の絶縁層が開口された第2の開口部が形成されており、
前記配線と交差する前記第1の開口部の開口端縁部および前記第2の開口部の開口端縁部が、
前記配線の長手方向に対して斜め方向に形成されていることを特徴とするサスペンション用フレキシャー基板。
【請求項2】
前記配線と交差する前記第1の開口部の開口端縁部の位置と、
前記配線と交差する前記第2の開口部の開口端縁部の位置とが、
前記配線の表裏面で相違することを特徴とする請求項1に記載のサスペンション用フレキシャー基板。
【請求項3】
前記第1の開口部の前記配線の長手方向における開口幅の大きさが、前記第2の開口部の前記配線の長手方向における開口幅の大きさと相違することにより、
前記配線と交差する前記第1の開口部の開口端縁部の位置と、
前記配線と交差する前記第2の開口部の開口端縁部の位置とが前記配線の表裏面で相違することを特徴とする請求項2に記載のサスペンション用フレキシャー基板。
【請求項4】
前記第1の開口部の前記配線の長手方向における開口幅の中心位置が、前記第2の開口部の前記配線の長手方向における開口幅の中心位置と相違することにより、
前記配線と交差する前記第1の開口部の開口端縁部の位置と、
前記配線と交差する前記第2の開口部の開口端縁部の位置とが前記配線の表裏面で相違することを特徴とする請求項2〜3のいずれかに記載のサスペンション用フレキシャー基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のサスペンション用フレキシャー基板を含むことを特徴とするサスペンション。
【請求項6】
請求項5に記載のサスペンションと、前記サスペンションに実装された磁気ヘッドスライダとを有することを特徴とするヘッド付サスペンション。
【請求項7】
請求項6に記載のヘッド付サスペンションを含むことを特徴とするハードディスクドライブ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−198402(P2011−198402A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62520(P2010−62520)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】