説明

サスペンション装置

【課題】ストローク長と車両への搭載性をともに満足させることが可能なサスペンション装置を提供することである。
【解決手段】上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段は、直動部材1と回転部材2とを有して直動部材1の直線運動を回転部材2の回転運動に変換する運動変換機構Tと、上記回転部材2に連結されるロータ3を有するモータMと、上記直動部材1に連結される流体圧ダンパDとを備えたサスペンション装置Sにおいて、流体圧ダンパDをロータリダンパとして、ダンパロータ11のハウジング10に対する回転の際にハウジング10に対するダンパロータ11の回転を抑制する減衰力を発揮するよう設定され、ダンパロータ11を直動部材1に当該直動部材1の直線運動により回転するよう連結したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに生じる電磁力で上記車体と車軸との相対移動を抑制するサスペンション装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のサスペンション装置としては、螺子軸と螺子軸に回転自在に螺合されるボール螺子ナットとボール螺子ナットに連結されるモータとを備えて、車両における車体と車軸との間に介装されていて、モータが発生するトルクで螺子軸の直線運動を抑制することで減衰力を発揮し、車体振動を抑制するようにしている。
【0003】
しがたって、このサスペンション装置の場合、減衰力発生源であるモータのトルクを直線方向に作用させるべき減衰力に変換するために、螺子軸とボール螺子ナットとで構成される運動変換機構を備えており、このボール螺子ナットをモータのロータへ連結している(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
このようにサスペンション装置にあっては、従来の油圧緩衝器と異なり、モータのロータやボール螺子ナットといった回転系の慣性質量が大きく、特に、高周波振動入力時に回転系の慣性により電磁緩衝器が伸縮しづらくなって車体への振動伝達を効果的に絶縁することができなくなって、車両における乗り心地を損なうという危惧があるため、螺子軸に直列に油圧ダンパを連結して、高周波振動については油圧ダンパがこれを吸収して車体への高周波振動の伝達を絶縁するようにしている。つまり、油圧ダンパを介装することでモータと運動変換機構のみのサスペンション装置では対処しきれなかった高周波振動に対しても良好な振動絶縁を達成することができることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−91030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、油圧ダンパは、単筒型ダンパでも複筒型ダンパでもよいとされているが、詳細には、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されるとともにシリンダ内に伸側室と圧側室を区画するピストンと、一端がピストンに連結されるとともにシリンダ内に移動自在に挿入されるピストンロッドとを備えていて、シリンダに対してピストンが上下方向へ移動して伸側室から圧側室へ、あるいは、圧側室から伸側室へ移動する作動油の流れに減衰弁で抵抗を与えて減衰力を発揮するようになっている。
【0007】
このような、テレスコピック型の油圧ダンパは、最伸長および最収縮を規制するストッパを設ける必要もあって、油圧ダンパをサスペンション装置に組み込むと、どうしてもストロークに寄与できない長さが相当に発生し、サスペンション装置全体が長くなる。そして、車両への搭載性を優先してサスペンション装置を短くするとストローク長が足りなくなる問題が発生し、ストローク長を優先するとサスペンション装置が長くなりすぎて車両への搭載性が悪化するという問題が生じることになる。
【0008】
そこで、本発明は、上記の不具合を勘案して創案されたものであって、その目的とするところは、ストローク長と車両への搭載性をともに満足させることが可能なサスペンション装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段は、直動部材と回転部材とを有して直動部材の直線運動を回転部材の回転運動に変換する運動変換機構と、上記回転部材に連結されるロータを有するモータと、上記直動部材に連結される流体圧ダンパとを備えたサスペンション装置において、流体圧ダンパは、ハウジングと、ハウジング内に回転自在に挿入されるダンパロータと、ダンパロータの外周に設けたベーンでハウジング内に区画した一方室と他方室と、一方室と他方室とを連通する減衰通路とを備え、ダンパロータのハウジングに対する回転の際にハウジングに対するダンパロータの回転を抑制する減衰力を発揮するように設定され、ダンパロータを直動部材に当該直動部材の直線運動により回転するよう連結したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のサスペンション装置にあっては、流体圧ダンパがダンパロータの回転時に当該回転を抑制する減衰力を発揮するロータリダンパとされていて、ダンパロータの回転方向でダンパストロークを確保することができるから、流体圧ダンパの全長をテレスコピック型ダンパよりも短くすることができ、装置全体におけるストローク長さを確保しても全長の長大化を防ぐことができ、ストローク長と車両への搭載性をともに満足させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施の形態におけるサスペンション装置の縦断面図である。
【図2】一実施の形態における流体圧ダンパの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1に示すように、一実施の形態におけるサスペンション装置Sは、直動部材としての螺子軸1と螺子軸1に回転自在に螺合される回転部材としてのボール螺子ナット2とを備えた運動変換機構Tと、運動変換機構Tにおけるボール螺子ナット2に連結されるロータ3を備えたモータMと、螺子軸1の下端に連結される流体圧ダンパDとを備えて構成されている。
【0013】
このサスペンション装置Sは、この実施の形態の場合、モータMに連結される環状のエアチャンバ7と、流体圧ダンパDの外周に設けたエアピストン8と、エアチャンバ7とエアピストン8とに架け渡される筒状のダイヤフラム9とで画成されるエア室Gによって懸架ばねとして機能するエアばねASを外周側に備えている。
【0014】
そして、このサスペンション装置Sは、モータMを車両の車体へ連結し、流体圧ダンパDの下端を車両の車軸へ連結することで、車両の車体と車軸との間に介装することができるようになっている。すなわち、このサスペンション装置Sにあっては、基本的には、図示しない車両の車体と車軸との間に介装するにあたり、モータMを車体へ流体圧ダンパDを車軸へと連結するようにして介装されるようになっていて、減衰力を発揮するのみならずアクチュエータとしても機能することで車体の振動を抑制することができるようになっている。
【0015】
また、流体圧ダンパDは、サスペンション装置Sに入力される高周波振動を吸収する目的で設けられており、運動変換機構TおよびモータMにおける回転系の慣性で高周波振動に対して螺子軸1とボール螺子ナット2とが図1中上下方向となる直動方向へ相対移動しづらくなるのを補助して車体振動の抑制を良好ならしめる。
【0016】
モータMは、図1に示すように、フレーム30と、フレーム30内に固定したステータコア31と、ステータコア31に巻回される巻線32と、フレーム30内に回転自在に収容された筒状のロータ3と、ロータ3の外周に装着されてステータコア31に対向する磁石33とを備えて構成されており、ボール螺子ナット2を回転自在に保持するとともにエアチャンバ7に連結される筒状のケース34内に収容されて固定されている。
【0017】
したがって、このモータMにあっては、巻線32に通電して周方向に回転磁界を発生させることで、磁石33を吸引してロータ3を回転駆動することができる、ブラシレスモータとして構成されている。
【0018】
なお、このモータMの場合、モータM内をも上述のエアばねASのエア室Gの一部として機能させるため、ケース34とモータMのフレーム30との間は、密にシールされている。
【0019】
ロータ3は、筒状であって、内方には、螺子軸1の挿通が許容されていて、螺子軸1の直線方向の運動を妨げないようになっている。
【0020】
螺子軸1は、図1に示すように、モータ側螺子部1aと、モータ側螺子部1aの下方側に連結されるダンパ側螺子部1bとを備えていて、ともに、その外周に螺旋状の螺子溝1c,1dが形成されるとともに、モータ側螺子部1aの外周には、軸線に沿って、すなわち、螺子軸1の直線運動方向に沿って、直線状のスプライン溝1eが形成されている。
【0021】
他方、ナットたるボール螺子ナット2は、内部構造は周知であるので詳細には図示しないが、筒状のナット本体2aの内周に設けた螺子軸1のモータ側螺子部1aの外周に形成の螺子溝1cに対向する螺旋状の通路と、筒状本体内に設けられ上記通路の両端を連通する循環路と、該通路および循環路に収容されるとともに螺子溝1cを走行する複数のボールと、各ボール間に介装されるスペーサとを備えて構成され、各ボールは、上記ループ状に形成された通路と循環路を循環することができるようになっている。なお、本実施の形態では、ナットをボール螺子ナット2として螺子軸1の円滑な直線運動を実現するようにしているが、単に、螺子軸1の螺子溝1cに螺合する螺子山を備えたナットとしてもよい。
【0022】
このボール螺子ナット2は、ケース34の内周に設けた段部34aとケース34の内周に螺合する固定ナット37とで挟持されてケース34内周に固定されるボールベアリング38を介してケース34に回転自在に保持されている。なお、ボールベアリング38のボール38aがボール螺子ナット2のナット本体2aの外周に形成された環状溝2bを走行するようになっており、ボール螺子ナット2自体がボールベアリング38の内輪として機能するとともに、ケース34にボールベアリング38の外輪38bを固定することでボール螺子ナット2をケース34に固定することが可能となっている。
【0023】
また、このケース34は、ボール螺子ナット2のほかに、ボールスプラインナット39を保持している。このボールスプラインナット39は、ボール螺子ナット2の回転駆動によって螺子軸1を直線運動させるため、螺子軸1の回り止めとして機能するものである。ボールスプラインナット39は、周知であるので詳細には図示しないが、筒状の本体と、本体内周に設けた螺子軸1の外周に設けたスプライン溝1eに対向する直線状の通路と、本体内に設けられ上記通路の両端を連通する循環路と、該通路および循環路に収容されるとともにスプライン溝1eを走行する複数のボールと、各ボール間に介装されるスペーサとを備えて構成され、各ボールは、上記ループ状に形成された通路と循環路を循環することができるようになっていて、螺子軸1はボールスプラインナット39に対して図1中上下方向となる軸方向への移動は許容されるものの、周方向への回転が阻止される。
【0024】
したがって、ボール螺子ナット2を回転駆動すると、螺子軸1は、ボールスプラインナット39によって回り止めされるので、図1中上下方向へ直線運動することになり、逆に、螺子軸1を直線運動させると、ボール螺子ナット2を回転運動させることができる。なお、螺子軸1の回り止めは、ボールスプラインナット39以外にも、たとえば、螺子軸1にキー溝を設け、ケース34側にキー溝内に挿入されるキーを設けるようにして行うこともできる。
【0025】
戻って、ボール螺子ナット2は、上記ロータ3と弾性を備えるカップリング4を介して連結されている。サスペンション装置Sに振動が入力されて、螺子軸1が図1中上下方向へ駆動されることを考えた場合、螺子軸1によってボール螺子ナット2が回転駆動され、ボール螺子ナット2の回転がモータMのロータ3に伝達されるが、ロータ3とボール螺子ナット2の回転速度に差が生じても、カップリング4が弾性変形してこの回転速度差を一端吸収するようになっている。
【0026】
したがって、慣性が大きいロータ3とボール螺子ナット2が互いに相手方の回転速度の急峻な変化に追随しにくくても、カップリング4で回転速度差を吸収することができ、サスペンション装置Sにおける回転系であるロータ3とボール螺子ナット2の慣性によって螺子軸1の円滑な直線運動を阻害しないようになっている。なお、上記したところでは、螺子軸1を直動部材としているが、ボール螺子ナット2を直動部材とし、螺子軸1をモータMに連結される回転部材としてもよい。また、運動変換機構Tは、螺子軸1とボール螺子ナット2とで構成されているが、螺子山を備えたナットと螺子軸や、ラックアンドピニオンで構成することも可能である。
【0027】
つづいて、流体圧ダンパDは、図1および図2に示すように、ロータダンパとされていて、途中に大径なダンパシェル10aを備えた有底筒状のハウジング10と、ハウジング10内に回転自在に挿入されるとともに螺子軸1の挿通を許容する筒状のダンパロータ11と、ダンパロータ11の外周に設けたベーン12でハウジング10のダンパシェル10a内に区画した一方室13と他方室14と、一方室13と他方室14とを連通する減衰通路15とを備えて構成されている。流体圧ダンパDは、ハウジング10に対してダンパロータ11が回転する際に、当該ダンパロータ11の回転を抑制する減衰力を発揮するものである。
【0028】
そして、この流体圧ダンパDにおけるダンパロータ11にナット体としてのボール螺子ナット16を周方向に回転不能に取り付け、当該ナット体としてのボール螺子ナット16を上記運動変換機構Tの螺子軸1に回転自在に螺合させることで、流体圧ダンパDと螺子軸1とを連結している。
【0029】
より詳細には、ハウジング10は、筒部10bと、筒部より大径なダンパシェル10aと、有底筒状の底部10cとを備えており、ダンパシェル10aの上端を筒部10bの下端外周に設けたフランジ10dへ、ダンパシェル10aの下端を底部10cの外周に設けたフランジ10eへ取り付けることで、これらが一体となってハウジング10を形成している。また、ハウジング10の図1中上端は、エアピストン8の下端に連結されており、エアピストン8には、ボール螺子ナット2を保持するケース34の外周を転動する複数のボールを備えたベアリング25が取り付けられており、ベアリング25によりケース34がエアピストン8に対して径方向へ位置決められて、ケース34の上下方向へのスムーズな運動が保証されるとともに、サスペンション装置Sへの横力に対して流体圧ダンパDが螺子軸1に対して軸ぶれすることがないようになっていて、螺子軸1とボール螺子ナット16でのガタの発生を防止している。
【0030】
ダンパシェル10aは、この場合、図2に示すように、内周に扇状の凹部10fを備えていて、凹部10f以外の内周面をダンパロータ11の外周面に摺接させている。また、ダンパシェル10aは、上記したように、その上下端がフランジ10d,10eによって挟まれた格好で筒部10bと底部10cに固定されていて、上記凹部10fの上下端は、フランジ10d,10eによって閉塞されている。そして、ダンパロータ11に設けたベーン12は、凹部10f内に挿入されており、その先端がダンパシェル10aの凹部10fの円弧状の内面に摺接し、上下端は、それぞれ、フランジ10d,10eに摺接していて、ベーン12は、凹部10f内を一方室13と他方室14とに区画していて、これら一方室13および他方室14内には作動油等の流体が充填されている。
【0031】
また、ダンパロータ11は、筒部10bの内周に設けた環状の軸受17と、底部10c内に設けた環状の軸受18によって回転自在に軸支されており、ダンパロータ11をハウジング10に対して一方へ回転させると、一方室13を拡大する一方、他方室14を縮小させ、ダンパロータ11をハウジング10に対して反対方向へ回転させると、一方室13を縮小する一方、他方室14を拡大させることができるようになっている。そして、ダンパロータ11は、ベーン12が凹部10fの左右の側面に当接するまで、図2中、時計回りおよび反時計回りへ回転することができるようになっている。
【0032】
さらに、ダンパシェル10aには、一方室13と他方室14を連通する通路15aと通路15aの途中に設けた減衰弁15bとでなる減衰通路15を設けてある。ダンパロータ11のハウジング10に対する回転に伴って、流体は、一方室13と他方室14のうち拡大側から一方室13と他方室14の縮小側へ減衰通路15を介して移動するが、流体圧ダンパDは、この流体の流れに減衰弁15bで抵抗を与えることで、一方室13と他方室14に差圧を生じさせて、ダンパロータ11のハウジング10に対する回転を抑制する減衰力をするようになっている。なお、一方室13を圧縮する際の減衰力と他方室14を圧縮する際の減衰力の大きさを違える場合には、たとえば、通路を2つ以上用意しておき、一部の通路を一方室13から他方室14へ向かう流体の流れのみを許容する一方通行の通路として減衰弁を設け、残りの通路を他方室14から一方室13へ向かう流体の流れのみを許容する一方通行の通路として減衰弁を設け、これら減衰弁の流体の流れに与える抵抗を異ならしめればよい。また、減衰弁15bとしては、通路15aのように双方向流れを許容する場合、具体的には、たとえば、チョークやオリフィスといった常時通路を開放している弁を用いればよく、通路を二つ以上用意して、通路を一方通行に設定する場合には、常時開放型の弁以外にもリーフバルブ、ポペット弁等といった種々の弁を採用することができる。さらに、この通路15aは、ダンパシェル10a内に設けたアキュムレータ15cに接続されていて、流体の温度変化による体積変化を当該アキュムレータ15cで補償するとともに、一方室13および他方室14内を加圧し気泡の発生を阻止して流体圧ダンパDが適切に減衰力を発生することができるようになっている。
【0033】
そして、このダンパロータ11とハウジング10との間には、ばね部材としてのねじりばね20が介装されていて、ダンパロータ11は、ベーン12がハウジング10の凹部10fに対して周方向に中立位置に位置決めている。なお、中立位置は、ばね部材がダンパロータ11をハウジング10に対して周方向に位置決めする位置であり、必ずしもベーン12を回転可能範囲の中央に配置させる位置でなくともよい。
【0034】
上記ねじりばね20は、具体的には、ダンパロータ11の内周に固定されてダンパロータ11の径方向へ伸びるロータ側固定部としての腕20aと、ハウジング10の底部10cに固定されるハウジング側固定部としての腕20bと、腕20aと腕20bとを繋ぐねじりばね部20cとを備えて構成されており、ねじりばね部20cが捩じられると、ダンパロータ11をハウジング10に対して中立位置へ戻そうとする附勢力を発揮するようになっている。ねじりばね20は、螺子軸1のストローク範囲に干渉しないように、図1中下方側に設けてあり、サスペンション装置Sの伸縮に伴って螺子軸1の下端が上下方向へ移動するが、螺子軸1と衝突しないようになっている。なお、ねじりばね部20cは、上記したようにトーションバー状としてもよいし、コイルばね状としてもよい。このように、流体圧ダンパDがロータリダンパとされることで、ダンパロータ11をハウジング10に対して位置決める附勢力を発揮するばね部材にねじりばね20を使用することができ、一つのばね部材でダンパロータ11をハウジング10に対して中立位置に位置決めできる。また、ばね部材におけるねじりばね部20cがコイルばね状とされる場合には、コイルばね状のねじりばね部20cの内径を螺子軸1の挿通を許容する径に設定しておけば、サスペンション装置Sの伸縮に伴ってダンパロータ11内に出入りする螺子軸1との干渉の心配がなく、よりサスペンション装置Sのストローク長さを稼ぐことができる。
【0035】
ボール螺子ナット16は、上記ハウジング10の上端内周に設けたボールベアリング26を介してハウジング10に対し回転自在とされている。具体的には、ハウジング10内には、ボールベアリング26の外輪26bが固定され、ボール螺子ナット16の外周には環状溝16aが形成され、外輪26bと環状溝16aボール26aが走行するようになっており、ボール螺子ナット16自体がボールベアリング26の内輪として機能するようになっている。そして、このボール螺子ナット16は、上述のダンパロータ11と弾性なカップリング21を介して連結されていて、ダンパロータ11とともにボール螺子ナット16も回転することができるようになっている。
【0036】
カップリング21は、ダンパロータ11とボール螺子ナット16の回転速度に差が生じても弾性変形することによってこの回転速度差を一端吸収するので、流体圧ダンパDに高周波振動が入力されても螺子軸1に急峻な速度変化を緩和することができる。
【0037】
なお、上記したところでは、ベーン12が一つであったが、ダンパシェル10aの内周に複数の凹部を設ける場合には、凹部の数と同数のベーン12をダンパロータ11に設けて、凹部内を各ベーン12で一方室と他方室に区画するようにしてもよい。その場合、ダンパシェル10a内に一方室同士と他方室同士を接続する通路を設けるか、あるいはダンパロータ11の一部を中実として、中実部に一方室同士と他方室同士を接続する通路を設けるようにすればよい。
【0038】
上述のように構成された流体圧ダンパDは、上記ボール螺子ナット16を螺子軸1のダンパ側螺子部1bに回転自在に螺合することで、螺子軸1に連結される一方、ハウジング10の図1中下端に設けたブラケット19を介して車両における車軸あるいは車軸を支持する部材へ連結される。なお、この実施の形態では、螺子軸1は、その途中にストッパ22を容易に設けるために、モータ側のボール螺子ナット2が螺合されるモータ側螺子部1aとボール螺子ナット16が螺合されるダンパ側螺子部1bとの二つの螺子部を備えてモータ側螺子部1aの下端にダンパ側螺子部1bを螺子締結しているが、モータ側螺子部1aとダンパ側螺子部1bを一つの螺子軸で構成することも可能である。また、ストッパ22は、流体圧ダンパD内への螺子軸1の最侵入位置を規制していて、ねじりばね20との干渉を防止するとともに、モータM内への螺子軸1の最侵入位置を規制するものである。また、サスペンション装置Sの全体の最収縮は、ハウジング10の上端に連結される環状のクッションストッパ23と、ケース34の下端に設けたストッパ受24とで規制される。
【0039】
上述のように構成されたサスペンション装置Sは、モータMのロータ3がボール螺子ナット2に連結されていて、ボール螺子ナット2内に螺子軸1が螺合されているので、モータMの出力するトルクで螺子軸1を直線方向に駆動することが可能であり、また、螺子軸1の直線運動をモータMのトルクで抑制することもでき、アクチュエータとしても減衰力を発揮するダンパとしても機能することができる。
【0040】
また、螺子軸1が流体圧ダンパDに対して図1中上下方向となる直線方向へ移動すると、螺子軸1に螺合されているボール螺子ナット16がダンパロータ11とともに回転し、ベーン12が凹部10f内で回転する。このダンパロータ11の回転によって流体圧ダンパDは、当該ダンパロータ11の回転を抑制する減衰力を発揮するので、螺子軸1の流体圧ダンパDに対する直線方向の移動が抑制されることになる。
【0041】
この流体圧ダンパDは、サスペンション装置Sに入力される高周波振動を吸収する目的で設けられており、運動変換機構TおよびモータMにおける回転系の慣性で高周波振動に対して運動変換機構Tが伸縮しづらくなるのを助けて、高周波振動を吸収して、車体振動の抑制を良好ならしめる。
【0042】
そして、このサスペンション装置Sにあっては、流体圧ダンパDがダンパロータ11の回転時に当該回転を抑制する減衰力を発揮するロータリダンパとされていて、ダンパロータ11の回転方向でダンパストロークを確保することができるから、流体圧ダンパDの全長である図1中上下長さをテレスコピック型ダンパよりも短くすることができ、装置全体におけるストローク長さを確保しても全長の長大化を防ぐことができ、ストローク長と車両への搭載性をともに満足させることができる。
【0043】
また、この場合、ダンパロータ11が筒状であって直動部材としての螺子軸1の挿入を許容していて流体圧ダンパDが螺子軸1に干渉しないので、サスペンション装置Sの全長の長大化をより一層防止することができ、ストローク長の確保と車両への搭載性を高次元で両立できる。
【0044】
さらに、ハウジング10とダンパロータ11との間にばね部材としてのねじりばね20を介装するようにして、ダンパロータ11をハウジング10に対して中立位置に位置決めていて、ばね部材としてのねじりばね20は、ダンパロータ11の位置を中立位置へ復帰させるように附勢力を発揮することから、ベーン12が凹部10fの側面に当接した状態のままその位置に維持されることがなく、高周波振動を吸収できなくなったり、車両における乗り心地を悪化させたりする事態を回避でき、サスペンション装置Sの信頼性を向上させることができる。
【0045】
なお、ばね部材は、ねじりばねに限定されるものではなく、上記した構成の他、一方室13と他方室14に収容されて、凹部10fの側面とベーン12との間に介装されてベーン12に附勢力を作用させてダンパロータ11を中立位置へ位置決めするものであってもよい。ただし、上記したように、ばね部材をねじりばね20として、ダンパロータ11の内周とハウジング10の底部に腕20a,20bを固定するようにしておくことで、ねじりばね20の交換を簡単におこなうことができるので、メンテナンス性が向上し、ばね乗数の異なるねじりばねへの交換も簡単となる。
【0046】
また、上記したところでは、ダンパロータ11にボール螺子ナット16を取り付けてナット体としているが、ダンパロータ11そのものをボール螺子ナットとしてダンパロータ11の内周にナット体を設ける構成とされてもよく、また、螺子軸1側に螺子山を設け、ダンパロータ11の内周に螺子山を設けてダンパロータ11そのものをナットとして機能させるようにしてもよい。さらに、運動変換機構Tがラックアンドピニオンである場合、ラックの下端に螺子軸を設けてこれにダンパロータ側に設けたナット体を回転自在に螺合するとしてもよい。
【0047】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、緩衝器に利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 直動部材としての螺子軸
1a モータ側螺子部
1b ダンパ側螺子部
1c,1d 螺子溝
1e スプライン溝
2 回転部材としてのボール螺子ナット
2a ナット本体
2b 環状溝
3 ロータ
4,21 カップリング
7 エアチャンバ
8 エアピストン
9 ダイヤフラム
10 ハウジング
10a ダンパシェル
10b 筒部
10c 底部
10d,10e フランジ
10f 凹部
11 ダンパロータ
12 ベーン
13 一方室
14 他方室
15 減衰通路
15a 通路
15b 減衰弁
15c アキュムレータ
16 ナット体としてのボール螺子ナット
16a 環状溝
17,18 軸受
19 ブラケット
20 ばね部材としてのねじりばね
20a,20b 腕
20c ねじりばね部
22 ストッパ
23 クッションストッパ
24 ストッパ受
25 ベアリング
26,38 ボールベアリング
26a,38a ボール
26b,38b 外輪
30 フレーム
31 ステータコア
32 巻線
33 磁石
34 ケース
34a 段部
37 固定ナット
39 ボールスプラインナット
AS エアばね
D 流体圧ダンパ
G エア室
M モータ
T 運動変換機構
S サスペンション装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直動部材と回転部材とを有して直動部材の直線運動を回転部材の回転運動に変換する運動変換機構と、上記回転部材に連結されるロータを有するモータと、上記直動部材に連結される流体圧ダンパとを備えたサスペンション装置において、流体圧ダンパは、ハウジングと、ハウジング内に回転自在に挿入されるダンパロータと、ダンパロータの外周に設けたベーンでハウジング内に区画した一方室と他方室と、一方室と他方室とを連通する減衰通路とを備え、ダンパロータのハウジングに対する回転の際にハウジングに対するダンパロータの回転を抑制する減衰力を発揮するように設定され、ダンパロータを直動部材に当該直動部材の直線運動により回転するよう連結したことを特徴とするサスペンション装置。
【請求項2】
ダンパロータは、筒状であって内周への直動部材の挿入を許容することを特徴とする請求項1に記載のサスペンション装置。
【請求項3】
ハウジングとダンパロータとの間にダンパロータをハウジングに対して中立位置に位置決めるとともにダンパロータの中立位置からの回転を抑制する附勢力を発揮するばね部材を介装したことを特徴とする請求項1または2に記載のサスペンション装置。
【請求項4】
上記直動部材を螺子軸として上記回転部材をナット部材とし、上記ダンパロータにナット体を設けて、当該ナット体を上記螺子軸に回転自在に螺合して螺子軸に流体圧ダンパを連結したことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のサスペンション装置。
【請求項5】
ダンパロータは筒状であって、ばね部材は、ダンパロータの内周に固定されてダンパロータの径方向へ伸びるロータ側固定部と、ハウジングに固定されるハウジング側固定部と、ロータ側固定部とハウジング側固定部とを繋ぐねじりばね部とを備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−166651(P2012−166651A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28330(P2011−28330)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】