説明

サンプリングクロック同期装置、ディジタルコヒーレント受信装置およびサンプリングクロック同期方法

【課題】受信品質の向上を図る。
【解決手段】サンプリングクロック同期装置は、A/Dコンバータ、フィルタ部およびサンプリング同期化部を備える。A/Dコンバータは、サンプリングクロックにもとづいて、アナログ/ディジタル変換を行う。フィルタ部は、A/Dコンバータから出力された、スペクトル狭窄化を受けている信号に対して、スペクトル狭窄化の特性と逆特性のフィルタ特性で、スペクトル狭窄化による帯域制限を補償する。サンプリング同期化部は、スペクトル狭窄化の補償後の信号から、サンプリングクロックの位相ずれを検出して、サンプリングクロックの位相を調整し、サンプリングタイミングの同期をとる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプリングクロックの同期を行うサンプリングクロック同期装置、ディジタルコヒーレント受信を行うディジタルコヒーレント受信装置およびサンプリングクロックの同期を行うサンプリングクロック同期方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットトラフィックの増大により、基幹網のさらなる大容量化が望まれており、大容量・長距離伝送を実現するための技術として、ディジタルコヒーレント受信技術(Digital Coherent Receiver Technology)が注目されている。
【0003】
コヒーレント受信は、受信した光信号と、受信器の局部発振光とをミキシングして、受信光信号の電界情報(光の位相および強度)を電気信号に変換した後に復調する受信技術である。コヒーレント受信を行うことにより、雑音耐力を大幅に向上させることが可能になる。
【0004】
また、ディジタルコヒーレント受信は、抽出した電界情報の電気信号を、A/Dコンバータで量子化してディジタル信号に変換し、ディジタル信号処理によって復調を行うものである。
【0005】
一般に、光ファイバ通信で発生する波長分散や偏波モード分散等の波形歪みは、分散補償モジュールといった光学部品を用いて歪み補償が行われていた。これに対し、ディジタルコヒーレント受信では、波形歪みをディジタル信号処理で補償する。
【0006】
したがって、ディジタルコヒーレント受信を用いることにより、波形歪み補償用の光学部品が不要となるので、光学部品が持っていた光損失がなくなり、コストも低減できる等のメリットがある。
【0007】
また、ディジタル信号処理による波形歪み補償は、理論的には、通常の光学部品の補償能力の限界を超えての補償が可能であるため、波形歪み耐力を大幅に向上させることが可能になる。
【0008】
従来技術として、波形歪みを補償する等化器で、サンプリング位相ずれを抑制する技術が提案されている。また、伝送路上で帯域制限を受けた光信号の伝送劣化を抑制する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−235896号公報
【特許文献2】特開2010−147532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
基幹網を構築する光伝送システムでは、異なる複数の波長を多重化して伝送を行う波長多重技術(WDM:Wavelength Division Multiplexing)を用いている。
光ファイバ伝送路上に設けられた光中継器では、光中継増幅を行う光増幅器だけでなく、光フィルタを備えている。光フィルタによって波長分波、波長合波の処理が行われることで、各光中継器において、通信要求に応じた任意の波長チャネルの挿入・分岐が可能になる。
【0011】
一方、光フィルタでフィルタリングされた光信号は、信号スペクトルの狭窄化を受ける。このため、光中継器が多く配置される光ネットワークでは、光ファイバを伝送する光信号は、多段に渡って光フィルタを透過することになるので、信号スペクトルの狭窄化が顕著となる。
【0012】
このようなスペクトル狭窄化は信号品質の劣化をもたらすだけでなく、光信号の変調周波数成分が減少するため、光信号の変調周波数とA/Dコンバータのサンプリングクロック周波数を同期させるために必要な、サンプリングクロックずれ検出回路の感度を低下させ、光信号のジッタおよびワンダの耐力の低下により受信品質が劣化するといった問題があった。
【0013】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、ジッタおよびワンダの耐力を高めて、受信品質の向上を図ったサンプリングクロック同期装置を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明の他の目的は、ジッタおよびワンダの耐力を高めて、受信品質の向上を図ったディジタルコヒーレント受信装置を提供することである。
さらに、本発明の他の目的は、ジッタおよびワンダの耐力を高めて、受信品質の向上を図ったサンプリングクロック同期方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、サンプリングクロック同期装置が提供される。サンプリングクロック同期装置は、サンプリングクロックにもとづいて、アナログ/ディジタル変換を行うA/Dコンバータと、前記A/Dコンバータから出力された、スペクトル狭窄化を受けている信号に対して、前記スペクトル狭窄化の特性と逆特性のフィルタ特性で、前記スペクトル狭窄化による帯域制限を補償するフィルタ部と、前記スペクトル狭窄化の補償後の信号にもとづいて、前記サンプリングクロックの位相ずれを検出して、サンプリングタイミングの同期をとるサンプリング同期化部とを備える。
【発明の効果】
【0016】
受信品質の向上を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】サンプリングクロック同期装置の構成例を示す図である。
【図2】光伝送システムの構成例を示す図である。
【図3】狭窄化前の光信号のスペクトルを示す図である。
【図4】狭窄化後の光信号のスペクトルを示す図である。
【図5】多段に接続された光フィルタを透過した際のスペクトル狭窄化を示す図である。
【図6】強度変調された光信号の送信波形および受信波形を示す図である。
【図7】ディジタルコヒーレント受信装置の構成例を示す図である。
【図8】光ハイブリッド回路の構成例を示す図である。
【図9】スペクトル狭窄化の特性を示す図である。
【図10】ディジタルフィルタの特性を示す図である。
【図11】ディジタルフィルタ特性の他の形状例を示す図である。
【図12】スペクトル狭窄化の特性を示す図である。
【図13】ディジタルフィルタの特性を示す図である。
【図14】サンプリングクロック同期装置の構成例を示す図である。
【図15】ディジタルコヒーレント受信装置の構成例を示す図である。
【図16】ディジタルフィルタの特性を示す図である。
【図17】ディジタルフィルタ特性の他の形状例を示す図である。
【図18】ディジタルフィルタ特性の他の形状例を示す図である。
【図19】ディジタルフィルタの特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1はサンプリングクロック同期装置の構成例を示す図である。サンプリングクロック同期装置1は、A/Dコンバータ1a、フィルタ部1bおよびサンプリング同期化部1cを備える。
【0019】
A/Dコンバータ1aは、サンプリングクロックにもとづいて、アナログ/ディジタル変換を行う。フィルタ部1bは、A/Dコンバータ1aから出力された、スペクトル狭窄化を受けている信号に対して、スペクトル狭窄化の特性と逆特性のフィルタ特性で、スペクトル狭窄化による帯域制限を補償する。
【0020】
サンプリング同期化部1cは、スペクトル狭窄化の補償後の信号にもとづいて、サンプリングクロックの位相ずれを検出して、サンプリングクロックの位相を調整し、サンプリングタイミングの同期をとる。
【0021】
次にサンプリングクロック同期装置1が適用される光伝送システムについて説明する。図2は光伝送システムの構成例を示す図である。光伝送システム3は、光送信局31、光受信局32、光中継器(光中継局)33−1〜33−nおよび光送受信装置34−1〜34−nを備え、WDM伝送を行うシステムである。
【0022】
光送信局31、光受信局32、光中継器33−1〜33−nおよび光送受信装置34−1〜34−nは、光ファイバ伝送路Fで接続される。光送信局31は、光送信部31a−1〜31a−nおよび波長多重部31bを含む。光中継器33−1〜33−nは、光増幅器33aおよび光フィルタ33bを含む。
【0023】
光送信局31において、光送信部31a−1〜31a−nは、互いに異なる波長λ1〜λnの光信号を送信する。波長多重部31bは、波長λ1〜λnの光信号を多重化し、波長多重光であるWDM信号を生成して、光ファイバ伝送路Fから送出する。
【0024】
光中継器33−1〜33−nにおいて、光増幅器33aは、受信したWDM信号を増幅する。光フィルタ33bは、波長分波・合波のフィルタリング処理を行う。すなわち、増幅後のWDM信号に対して、波長分波のフィルタリング処理を行い、通信要求に応じて、所定の波長チャネルの光信号を、トリビュタリ側の光送受信装置34−1〜34−nへ分岐する。
【0025】
または、通信要求に応じて、光送受信装置34−1〜34−nから挿入された所定の波長チャネルの光信号を、光中継されてきたWDM信号に対して合波するフィルタリング処理を行う。
【0026】
なお、図1に示したサンプリングクロック同期装置1は、例えば、光受信局32および光送受信装置34−1〜34−n内の光受信部に配置される。また、上記の光伝送システム3は、一例としてライン状のトポロジとしたが、リング、メッシュ等の任意のネットワークトポロジでも構築される。
【0027】
次に信号スペクトルの狭窄化について説明する。図3は狭窄化前の光信号のスペクトルを示す図である。スペクトルs1は、例えば、光伝送システム3の光送信部31a−1〜31a−nから出力される光信号のスペクトル狭窄化前のスペクトルの形状を示している。
【0028】
図4は狭窄化後の光信号のスペクトルを示す図である。スペクトルs2は、スペクトルs1の光信号が光中継器で中継され、光中継器内の光フィルタ33bでフィルタリングされた後のスペクトルの形状を示している。
【0029】
光信号のスペクトルs1は、光フィルタ33bを透過すると、光フィルタ33b自身の帯域s0により、斜線領域の帯域が削られて、スペクトルが狭窄化する。
図5は多段に接続された光フィルタ33bを透過した際のスペクトル狭窄化を示す図である。実際の光フィルタ33b自身の帯域s0の形状は、完全な矩形型形状ではなくエッジ部分が曲線形状であり、光中継器33−1〜33−nに配置される光フィルタ33b毎にばらつく場合もある。
【0030】
このため、光フィルタが多段に接続された場合の仮想的な光フィルタ透過帯域幅は、帯域s0−1のように光フィルタの多段接続数が多くなるにつれて次第に狭くなる傾向を持つ。
【0031】
したがって、多くの光フィルタ33bを透過するほど、光信号のスペクトルの帯域が多く除去され、光信号のスペクトル帯域はより細くなる。
次にスペクトル狭窄化により、光信号変調周波数とA/Dコンバータのサンプリングクロックとの位相ずれを検出する回路の検出感度が低下し、検出感度の低下によりディジタルコヒーレント受信のジッタおよびワンダの耐力が低下して、受信品質が劣化する理由について説明する。上述したように、ディジタルコヒーレント受信では、受信光信号と、局部発振光(以下、局発光と呼ぶ)とをミキシングして、受信光信号の電界情報を抽出し、抽出した電界情報の電気信号を、A/Dコンバータで量子化してディジタル信号に変換する。
【0032】
ここで、A/Dコンバータには、サンプリングクロック源からサンプリングクロックが供給され、A/Dコンバータで量子化するタイミングは、サンプリングクロック周波数によって決まる。
【0033】
このとき、受信光信号の変調周波数(光信号の搬送波に、数十Gb/sのデータを変調させるときの周波数)と、サンプリングクロック周波数とを一致させることが重要となる。
【0034】
このため、受信光信号の変調周波数と、サンプリングクロック周波数との位相ずれを検出して、検出した位相ずれ量にもとづいて、サンプリングタイミングの同期をとる必要がある。サンプリングタイミングの同期方法としては、位相ずれ検出結果にもとづいて、A/Dコンバータのサンプリングクロック周波数を調整する方法や、ディジタル信号処理により信号位相を調整する方法があるが、本発明ではそれらの構成に限定されるものではない。
【0035】
そして、サンプリングタイミングの同期をとった信号に対して、ディジタルコヒーレント検波処理を施して、受信データの復調を行うことにより、送信側や伝送路上で生じたジッタやワンダに追従することができ、安定した受信性能を実現することが可能になる。
【0036】
上記のように、ディジタルコヒーレント受信では、受信光信号の変調周波数と、サンプリングクロック周波数との位相ずれ検出が行われる。しかし、図4、図5で示したような、スペクトル狭窄化がある場合、サンプリング位相ずれ検出の感度が低下して、正確な位相ずれ量を検出できなくなる。
【0037】
感度の低下について図6を用いて説明する。図6は強度変調された光信号の送信波形および受信波形を示す図である。送信波形s11は、スペクトル狭窄化前の状態のアイパターンを示しており、受信波形s12は、スペクトル狭窄化が生じている状態のアイパターンを示している。
【0038】
送信波形s11では、スペクトル狭窄化がないので、アイの立ち上がり、立ち下がりのエッジ部分も急峻であり、アイの開口度も大きい。これに対し、受信波形s12のように、スペクトル狭窄化がある場合は、変調された信号の高周波成分が除去されるので、アイの立ち上がり、立ち下がりのエッジ部分がなまってしまい、アイの開口度が小さくなっている。
【0039】
サンプリングタイミング同期を行うための位相ずれ検出方法として、例えばエッジを検出することにより信号位相の検出を行う。そのため、スペクトル狭窄化によってエッジ部分の急峻性が低減してなまってくると、サンプリング位相ずれ検出の感度が低下し、精度よくジッタ、ワンダに追従することができなくなってしまう。また、光フィルタの透過数に依存した受信スペクトルの変化による検出感度のばらつきも発生することになる。図6では説明を容易にするため強度変調方式の例について説明したが、位相変調および多値変調、例えばBPSK、QPSK、16QAM等や、直行分割多重方式(OFDM)を用いた場合も同様である。 このように、スペクトル狭窄化がある信号に対して、ディジタルコヒーレント受信を行うと、ジッタおよびワンダの耐力が低下してしまい、受信品質が劣化してしまう。
【0040】
本技術は、これらの点に鑑みてなれたものであり、スペクトル狭窄化がある信号を受信しても、ジッタおよびワンダの耐力を高めて、サンプリングクロック位相ずれ検出を精度よく行い、受信性能を向上させたサンプリングクロック同期装置およびディジタルコヒーレント受信装置を提供するものである。
【0041】
次にサンプリングクロック同期装置1が適用される光受信装置として、ディジタルコヒーレント受信装置を挙げて、ディジタルコヒーレント受信装置の構成および動作について以降詳しく説明する。
【0042】
図7はディジタルコヒーレント受信装置の構成例を示す図である。ディジタルコヒーレント受信装置10は、局発光源11、光ハイブリッド回路12、O/E部13−1〜13−4、サンプリングクロック源14、A/Dコンバータ15−1〜15−4、ディジタルフィルタ16、位相調整部17、サンプリング位相ずれ検出部18およびディジタルコヒーレント検波部19を備える。
【0043】
なお、図1のサンプリングクロック同期装置1の構成要素との対応関係は、A/Dコンバータ1aは、A/Dコンバータ15−1〜15−4に対応し、フィルタ部1bは、ディジタルフィルタ16に対応する、また、サンプリング同期化部1cは、位相調整部17とサンプリング位相ずれ検出部18の両機能に対応する。なお、サンプリング位相を調整する方法としてサンプリングクロック周波数を制御する方法でもよい。そのため、位相調整部17がない構成、もしくは位相調整回路とサンプリングクロック周波数制御を組み合わせる構成でもよい。
【0044】
局発光源11は、局発光を自走出力する。光ハイブリッド回路12は、伝送されてきた受信光信号と、局発光とをミキシングして、受信光信号の電界情報(光の位相および強度)に対応した4つの電気信号(詳細は図8で後述する)を出力する(光ハイブリッド回路12の構成は図8で後述する)。
【0045】
O/E部13−1〜13−4は、電界情報をアナログの電気信号に変換する。サンプリングクロック源14は、A/Dコンバータのサンプリングタイミングを決定するサンプリングクロックを出力する。A/Dコンバータ15−1〜15−nは、受信したサンプリングクロックのサンプリングタイミングで、電界情報を含むアナログ信号を量子化し、ディジタル信号に変換して出力する。
【0046】
ディジタルフィルタ16は、A/Dコンバータ15−1〜15−nから出力された、スペクトル狭窄化を受けている信号に対して、サンプリングクロックの位相ずれ検出の感度低下を抑制するためのフィルタ制御を施す。
【0047】
具体的には、スペクトル狭窄化による帯域制限を補償する周波数特性を有し、周波数オフセットにもとづいて、帯域が制限された周波数成分を補償するフィルタリング処理を行う(詳細は後述する)。
【0048】
なお、ディジタルフィルタ16は、位相調整部17の前段または後段のいずれに配置してもよい。また、ディジタルフィルタ16は、波長分散等の波長歪みを補償するフィルタと共用する構成にしてもよい。
【0049】
位相調整部17は、サンプリング位相ずれ検出部18から送信された位相ずれ量にもとづいて、変調周波数に対するサンプリングクロック周波数の位相調整を行って、サンプリングタイミングの同期をとる。サンプリング位相ずれ検出部18は、受信光信号の変調周波数と、サンプリングクロック周波数との位相ずれを検出し、検出した位相ずれ量の結果を位相調整部17へ出力する。
【0050】
ディジタルコヒーレント検波部19は、サンプリングタイミングの同期がとられた信号を検波して、受信データの復調を行って出力する。また、受信光信号の搬送波周波数と局発光の周波数とのずれ(周波数オフセット)をモニタしており、検出した周波数オフセットをディジタルフィルタ16へフィードバックする。
【0051】
ここで、ディジタルコヒーレント検波の概要について説明する。局発光に位相ゆらぎがなく、受信光信号にも位相ゆらぎがない場合(位相変調であれば、変調される分の位相だけ回転しているが、それ以外の位相ゆらぎが全くない場合)を考える。
【0052】
このとき、受信光信号の搬送波周波数と局発光の周波数とを一致させる。すると、光ハイブリッド回路12内では、受信光信号と局発光とが干渉して、互いの位相が一致すれば強め合って1となり、互いの位相がπずれていれば弱め合って0となることで、光ハイブリッド回路12からベースバンド信号が出力される。
【0053】
このように、受信光信号と局発光とに位相ゆらぎがなく、周波数を一致させた受信光信号と局発光とを干渉させて生成したベースバンド信号から検波を行う方式をホモダイン検波と呼ぶ。
【0054】
ディジタル化する以前のコヒーレント受信でホモダイン検波を行う場合、位相ゆらぎを検知し、検知した位相ゆらぎを局発光源にフィードバックして、周波数の一致を図っていた。
【0055】
これに対し、ディジタルコヒーレント受信による検波では、受信光信号と局発光との位相ゆらぎや、受信光信号の搬送波周波数のずれを、ディジタルコヒーレント検波部19のディジタル処理で補償することができる。
【0056】
よって、ディジタルコヒーレント検波部19が、受信光信号と局発光との位相および周波数の同期をとるので、局発光源11も自走でよい。また、波長分散や偏波モード分散等の波形歪みについても、ディジタルコヒーレント検波部19内でのディジタル処理によって補償されてもよい。
【0057】
次に光ハイブリッド回路12について説明する。図8は光ハイブリッド回路12の構成例を示す図である。光ハイブリッド回路12は、偏波ダイバーシティ型の90°ハイブリッド回路であり、偏波ビームスプリッタ(PBS:Polarization Beam Splitter)12a−1、12a−2、90°ハイブリッド回路12b−1、12b−2を含む。
【0058】
PBS12a−1は、受信光信号の互いに直交している偏波状態の光を2分岐し、一方の偏波ビームa1を90°ハイブリッド回路12b−1へ送信し、他方の偏波ビームa2を90°ハイブリッド回路12b−2へ送信する。
【0059】
また、PBS12a−2は、局発光の互いに直交している偏波状態の光を2分岐し、一方の偏波ビームb1を90°ハイブリッド回路12b−1へ送信し、他方の偏波ビームb2を90°ハイブリッド回路12b−2へ送信する。
【0060】
なお、偏波ビームa1と偏波ビームb1との偏波は一致しており、偏波ビームa2と偏波ビームb2との偏波は一致している。
90°ハイブリッド回路12b−1では、偏波ビームa1と偏波ビームb1とをミキシングして、一方の偏波状態におけるI(実部:In phase)成分を出力する。また、偏波ビームa1と、偏波ビームb1の位相を90°遅延させたビームとをミキシングして、一方の偏波状態におけるQ(虚部:Quadrature phase)成分を出力する。
【0061】
90°ハイブリッド回路12b−2では、偏波ビームa2と偏波ビームb2とをミキシングして、他方の偏波状態におけるI成分を出力する。また、偏波ビームa2と、偏波ビームb2の位相を90°遅延させたビームとをミキシングして、他方の偏波状態におけるQ成分を出力する。
【0062】
光ハイブリッド回路として、例えば、90°ハイブリッド回路12b−1単体の2入力端子へ、光信号と局発光とをそれぞれ直接入力してミキシングし、I、Qを出力させる構成とすることもできる。
【0063】
しかし、この場合には、光信号と局発光との偏波状態を合わせる制御が別途必要となる(偏波が一致している光同士をミキシングしないと、ビートを打たないので、I、Qが出力されない)。
【0064】
一方、上記の光ハイブリッド回路12のような偏波ダイバーシティ型の構成にすることにより、各偏波状態における、受信光信号の光の位相および強度の電界情報を効率よく抽出することができる。
【0065】
次にディジタルフィルタ16について説明する。ディジタルフィルタ16のフィルタ特性は、伝送された光信号が受けるスペクトル狭窄化の特性に対して逆特性となる形状を有する。
【0066】
なお、スペクトル狭窄化は、主に光中継器内の光フィルタを透過することにより生じるが、光フィルタ透過に限るものでなく、伝送中の様々な要因によって生じる。例えば、送信器、受信器のアナログ電気帯域が伝送信号の帯域に対して狭い場合にもスペクトル狭窄化は生じる。
【0067】
したがって、どの箇所でスペクトル狭窄化が生じたかについては関係なく、ディジタルフィルタ16の入力段までに信号が受けたスペクトル狭窄化を対象にして補償するものである。
【0068】
図9はスペクトル狭窄化の特性を示す図である。横軸は周波数、縦軸は強度であり、周波数オフセットがない状態の場合を示している。信号スペクトルに対して、例えば、スペクトル狭窄化特性c0が図に示す位置にあるとする。スペクトル狭窄化特性c0の内側領域が通過帯域である。
【0069】
このようなスペクトル狭窄化特性c0によって、帯域が制限された信号が補償されずに入力すると、サンプリング位相ずれ検出部18では、上述した理由から、高精度にサンプリング位相ずれを検出することができない。
【0070】
図10はディジタルフィルタ16の特性を示す図である。横軸は周波数、縦軸は強度であり、周波数オフセットがない状態の場合を示している。ディジタルフィルタ特性c1は、スペクトル狭窄化特性c0の逆特性となっている。ディジタルフィルタ特性c1で示される放物線の外側が通過領域である。
【0071】
図11はディジタルフィルタ特性の他の形状例を示す図である。横軸は周波数、縦軸は強度であり、周波数オフセットがない状態の場合を示している。ディジタルフィルタ特性c3は、ノイズ除去性も考慮して、スペクトル狭窄化を受けている信号に対して、図に示すような、信号帯域外の高周波側を除去する構成でもよい。
【0072】
このような特性にすることにより、スペクトル狭窄化特性c0のエッジ近傍の帯域を補償することができる。このため、補償後の信号でサンプリング位相ずれ検出を行うことにより、ジッタおよびワンダの耐力を高めて、サンプリング位相ずれ検出の感度を高めることができ、受信品質の向上を図ることが可能になる。
【0073】
図12はスペクトル狭窄化の特性を示す図である。横軸は周波数、縦軸は強度であり、周波数オフセットがある状態の場合を示している。周波数オフセットΔfがある場合、信号スペクトルおよびスペクトル狭窄化特性c0が、中心周波数からΔfだけ高周波側にずれた状態として光ハイブリッド回路出力の電界情報として抽出される。
【0074】
図13はディジタルフィルタ16の特性を示す図である。横軸は周波数、縦軸は強度であり、周波数オフセットがある状態の場合を示している。ディジタルフィルタ特性c1の中心周波数は、周波数オフセットΔf分高周波側にずれた場所で、スペクトル狭窄化特性の逆特性となっている。
【0075】
このように、周波数オフセットがある場合は、ディジタルフィルタ特性c1の中心周波数を、ディジタルコヒーレント検波回路で検出された周波数オフセット分適応的にシフトして、ディジタルフィルタ16で補償する周波数成分を周波数オフセット量に応じて可変する。これにより、周波数オフセット量に応じて、スペクトル狭窄化による帯域削減を適切に補償することが可能になる。なお、周波数オフセット量を局発光源へフィードバックし周波数オフセット自体を補償する方法もある。
【0076】
次に他の実施の形態について説明する。図14はサンプリングクロック同期装置の構成例を示す図である。サンプリングクロック同期装置1−1は、A/Dコンバータ1a、フィルタ部2、サンプリング同期化部1cを備える。なお、サンプリング位相を調整する方法としてサンプリングクロック周波数を制御する方法でもよい。そのため、位相調整部17がない構成、もしくは位相調整回路とサンプリングクロック周波数制御を組み合わせる構成でもよい。A/Dコンバータ1aとサンプリング同期化部1cの動作は、図1で説明した内容と同じである。
【0077】
フィルタ部2は、A/Dコンバータ1aから出力された、スペクトル狭窄化を受けている信号に対して、スペクトル狭窄化の通過帯域の中から所定帯域を抽出するフィルタ特性を有している。すなわち、サンプリング同期化部1cでサンプリングクロックの位相ずれ検出を行うために必要な所定の帯域を抽出するフィルタリングを行う。
【0078】
次にサンプリングクロック同期装置1−1が適用される光受信装置として、ディジタルコヒーレント受信装置の構成および動作について詳しく説明する。
図15はディジタルコヒーレント受信装置の構成例を示す図である。ディジタルコヒーレント受信装置10−1は、局発光源11、光ハイブリッド回路12、O/E部13−1〜13−4、サンプリングクロック源14、A/Dコンバータ15−1〜15−4、位相調整部17、サンプリング位相ずれ検出部18、ディジタルコヒーレント検波部19およびフィルタ部20を備える。
【0079】
なお、図7で示した装置との差異は、ディジタルコヒーレント受信装置10−1では、A/Dコンバータ15−1〜15−4と位相調整部17との間にディジタルフィルタがなく、位相調整部17とディジタルコヒーレント検波部19との間にフィルタ部20が配置されている点である。それ以外の構成は同様なので、フィルタ部20について説明する。
【0080】
フィルタ部20は、ディジタルフィルタ21およびレベル制御部22を含み、A/Dコンバータ15−1〜15−4から出力された、スペクトル狭窄化を受けている信号に対して、サンプリングクロックの位相ずれ検出の感度低下を抑制するためのフィルタ制御を施す。
【0081】
ディジタルフィルタ21は、スペクトル狭窄化の通過帯域の中の、後段のサンプリング位相ずれ検出部18において位相ずれ検出を行うのに必要な所定帯域を通過させるフィルタ特性を有する。
【0082】
レベル制御部22は、ディジタルフィルタ21から出力されたレベルが一定レベルとなるように増幅する。例えば、図の場合、ディジタルフィルタ21から出力された4本の出力信号に対して、4本の出力信号のレベルの自乗和が一定レベルとなるような増幅制御を行う。レベル制御部22は必須の構成ではなく、ディジタルフィルタに固定利得を持たせる構成でもよい。レベル制御部22を備えることにより、例えば通過中継器数が異なる光信号を受信した場合のスペクトル狭窄率の変動によるサンプリング位相ずれ感度のばらつきを補償することができる。
【0083】
次にディジタルフィルタ21について説明する。図16はディジタルフィルタ21の特性を示す図である。横軸は周波数、縦軸は強度であり、周波数オフセットがない状態の場合を示している。なお、スペクトル狭窄化特性c0の状態は、図9と同じである。
【0084】
ディジタルフィルタ特性c2は、スペクトル狭窄化特性c0の通過帯域に対して、後段のサンプリング位相ずれ検出部18で位相ずれ検出を行うのに必要な所定帯域のみを通過させる特性を有する。例えば、サンプリング位相ずれ検出部18では、信号の主に高周波成分によって位相ずれ検出を行う場合、信号の直流成分は、ほとんどノイズとなり感度を低下させる原因となる。
【0085】
したがって、ディジタルフィルタ特性c2は、具体的には、スペクトル狭窄化で通過した帯域の中から、高周波帯域を抽出するバンドパスフィルタ特性となっている(ディジタルフィルタ特性c2の内側が通過帯域)。このようなフィルタ特性にして、スペクトル狭窄化の通過帯域の中から高周波帯域を抽出し、抽出された高周波成分を含む信号から、サンプリング位相ずれ検出を行う。
【0086】
これにより、サンプリング位相ずれ検出部18の感度を高めることによりジッタおよびワンダの耐力を高めて、受信品質の向上を図ることが可能になる。
図17、図18はディジタルフィルタ特性の他の形状例を示す図である。横軸は周波数、縦軸は強度であり、周波数オフセットがない状態の場合を示している。上記では、バンドパスフィルタ特性としたが、例えば、ハイパスフィルタ特性にして高周波成分を抽出してもよいし、サンプリング位相ずれ検出方式によっては、図10に示すような主信号成分が透過できる形状でもよい。また、図17、図18に示すように、透過帯域が2つある形状でもよい。
【0087】
図19はディジタルフィルタ21の特性を示す図である。横軸は周波数、縦軸は強度であり、周波数オフセットがある状態の場合を示している。なお、周波数オフセットがあるときのスペクトル狭窄化特性c0の状態は、図12と同じである。
【0088】
受信信号成分が周波数オフセットによりΔf分高周波側にずれているような場合、高周波帯域を抽出するディジタルフィルタ特性c2の中心周波数を、周波数オフセットがないときのディジタルフィルタ特性c2の中心周波数から、周波数オフセットのΔf分高周波側にずらす。
【0089】
このように、周波数オフセットがある場合は、ディジタルフィルタ特性c2の中心周波数をディジタルコヒーレント検波部で検出した周波数オフセット分適応的にシフトして、ディジタルフィルタ21で補償する周波数成分を周波数オフセット量に応じて可変する。
【0090】
これにより、周波数オフセット量に対応して、サンプリング位相ずれ検出に必要な所定帯域を適切に抽出することが可能になる。なお、周波数オフセット量を局発光源へフィードバックし周波数オフセット自体を補償する方法もある。
【0091】
以上、実施の形態を例示したが、実施の形態で示した各部の構成は同様の機能を有する他のものに置換することができる。また、他の任意の構成物や工程が付加されてもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 サンプリングクロック同期装置
1a A/Dコンバータ
1b フィルタ部
1c サンプリング同期化部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプリングクロックにもとづいて、アナログ/ディジタル変換を行うA/Dコンバータと、
前記A/Dコンバータから出力された、スペクトル狭窄化を受けている信号に対して、前記スペクトル狭窄化の特性と逆特性のフィルタ特性で、前記スペクトル狭窄化による帯域制限を補償するフィルタ部と、
前記スペクトル狭窄化の補償後の信号にもとづいて、前記サンプリングクロックの位相ずれを検出して、サンプリングタイミングの同期をとるサンプリング同期化部と、
を備えるサンプリングクロック同期装置。
【請求項2】
前記フィルタ部は、前記スペクトル狭窄化の特性に周波数オフセットが生じている場合は、前記周波数オフセットの量に応じて、前記フィルタ特性の中心周波数を適応的にシフトすることを特徴とする請求項1記載のサンプリングクロック同期装置。
【請求項3】
サンプリングクロックにもとづいて、アナログ/ディジタル変換を行うA/Dコンバータと、
前記A/Dコンバータから出力された、スペクトル狭窄化を受けている信号に対して、所定帯域のみを透過するフィルタ特性を有するフィルタ部と、
抽出された前記所定帯域の信号にもとづいて、前記サンプリングクロックの位相ずれを検出して、サンプリングタイミングの同期をとるサンプリング同期化部と、
を備えるサンプリングクロック同期装置。
【請求項4】
前記フィルタ部は、前記スペクトル狭窄化の特性に周波数オフセットが生じている場合は、前記周波数オフセットの量に応じて、前記フィルタ特性の中心周波数を適応的にシフトすることを特徴とする請求項3記載のサンプリングクロック同期装置。
【請求項5】
受信光信号と、局部発振光とをミキシングして、前記受信光信号の電界情報を出力する光ハイブリッド回路と、
前記電界情報を電気のアナログ信号に変換する光電変換部と、
サンプリングクロックにもとづいて、前記アナログ信号のディジタル変換を行うA/Dコンバータと、
前記サンプリングクロックの位相ずれを検出して、サンプリングタイミングの同期をとるサンプリング同期化部と、
前記A/Dコンバータから出力された、スペクトル狭窄化を受けている信号に対して、前記サンプリングクロックの位相ずれ検出の感度低下を抑制するフィルタ制御を施すフィルタ部と、
受信データ検波を行うディジタルコヒーレント検波部と、
を備えることを特徴とするディジタルコヒーレント受信装置。
【請求項6】
前記フィルタ部は、前記A/Dコンバータからの出力信号に対して、前記スペクトル狭窄化の特性と逆特性のフィルタ特性で、前記スペクトル狭窄化による帯域制限を補償する前記フィルタ制御を行うことを特徴とする請求項5記載のディジタルコヒーレント受信装置。
【請求項7】
前記ディジタルコヒーレント検波部は、前記受信光信号の搬送波周波数と、前記局部発振光の周波数との周波数オフセットを検出し、
前記フィルタ部は、前記周波数オフセットの量に応じて、前記フィルタ特性の中心周波数を適応的にシフトすることを特徴とする請求項6記載のディジタルコヒーレント受信装置。
【請求項8】
前記フィルタ部は、前記A/Dコンバータからの出力信号に対して、所定帯域のみを透過するフィルタ特性による前記フィルタ制御を行うことを特徴とする請求項5記載のディジタルコヒーレント受信装置。
【請求項9】
前記ディジタルコヒーレント検波部は、前記受信光信号の搬送波周波数と、前記局部発振光の周波数との周波数オフセットを検出し、
前記フィルタ部は、前記周波数オフセットの量に応じて、前記フィルタ特性の中心周波数を適応的にシフトすることを特徴とする請求項8記載のディジタルコヒーレント受信装置。
【請求項10】
サンプリングクロックにもとづいて、スペクトル狭窄化を受けているアナログ信号をディジタル信号に変換し、
前記ディジタル信号に対して、前記スペクトル狭窄化の特性と逆特性のフィルタ特性で、前記スペクトル狭窄化による帯域制限を補償し、
前記スペクトル狭窄化の補償後の信号にもとづいて、前記サンプリングクロックの位相ずれを検出して、サンプリングタイミングの同期をとることを特徴とするサンプリングクロック同期方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−160888(P2012−160888A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18847(P2011−18847)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人情報通信研究機構、「ユニバーサルリンク技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】