説明

シグマデルタ変調器およびフラクショナル周波数シンセサイザ

【課題】出力信号の増加および減少の振幅を小さくする。
【解決手段】入力信号をシグマデルタ変調した出力信号を出力するシグマデルタ変調器であって、直列に接続された複数の累算器と、それぞれの累算器が出力する比較結果信号に基づいて、出力信号を生成する出力信号生成部とを備え、それぞれの累算器は、入力される信号の値を積分し、積分値が基準値以上となった場合に、所定の値の比較結果信号を出力すると共に、積分値から比較結果信号の値を減算し、初段の累算器には、入力信号の値が入力され、他の累算器には、前段の累算器の積分値が入力され、少なくとも一つの累算器は、積分値の波形の所定の高周波成分を除去するローパスフィルタを有するシグマデルタ変調器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シグマデルタ変調器およびフラクショナル周波数シンセサイザに関する。特に本発明は、入力信号をシグマデルタ変調した出力信号を出力するシグマデルタ変調器およびフラクショナル周波数シンセサイザに関する。
【背景技術】
【0002】
電圧制御発振器、分周器、位相比較器およびローパスフィルタを備え、設定された周波数の発振信号を出力する周波数シンセサイザが知られている。さらに、分周器における分周比を、複数の累積器を有するシグマデルタ変調器の出力信号により切り替えるフラクショナル周波数シンセサイザが知られている(例えば特許文献1、2、3参照。)。フラクショナル周波数シンセサイザは、基準クロック周波数の小数点以下の精度の倍数で表された周波数の発振信号を出力することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−260791号公報
【特許文献2】特開2001−298363号公報
【特許文献3】米国特許第6844836号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シグマデルタ変調器は、累算器の段数を増加すると、ノイズシェーピング特性の傾きを大きくするが、出力信号の振幅が大きくなる。従って、累積器の段数の多いシグマデルタ変調器を用いたフラクショナル周波数シンセサイザは、分周比の変化範囲が大きくなり、分周信号と基準クロックとの位相誤差が大きくなる。
【0005】
位相誤差が大きくなる結果、累算器の段数が多いシグマデルタ変調器を備えるフラクショナル周波数シンセサイザは、位相比較器のリニアリティの影響を受け、かえって発振信号の周波数の近傍のノイズが大きくなってしまっていた。
【0006】
そこで本発明は、上記の課題を解決することのできるシグマデルタ変調器およびフラクショナル周波数シンセサイザを提供することを目的とする。この目的は特許請求の範囲における独立項に記載の特徴の組み合わせにより達成される。また従属項は本発明の更なる有利な具体例を規定する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1形態においては、入力信号をシグマデルタ変調した出力信号を出力するシグマデルタ変調器であって、直列に接続された複数の累算器と、それぞれの校正値累算器が出力する比較結果信号に基づいて、校正値出力信号を生成する出力信号生成部とを備え、それぞれの校正値累算器は、入力される信号の値を積分し、積分値が基準値以上となった場合に、所定の値の校正値比較結果信号を出力すると共に、校正値積分値から校正値比較結果信号の値を減算し、初段の校正値累算器には、校正値入力信号の値が入力され、他の校正値累算器には、前段の校正値累算器の校正値積分値が入力され、少なくとも一つの校正値累算器は、校正値積分値の波形の所定の高周波成分を除去するローパスフィルタを有するシグマデルタ変調器を提供する。
【0008】
本発明の第2形態においては、与えられる制御電圧のレベルに応じた周波数の発振信号を出力する電圧制御発振器と、校正値発振信号を、設定される分周比で分周する分周器と、校正値分周器に設定すべき校正値分周比の小数部分を示す入力信号に基づいて、校正値分周器における分周比を切り替えるシグマデルタ変調器と、校正値分周器が分周した校正値発振信号と、与えられる基準信号との位相差に応じたレベルの校正値制御信号を生成する位相比較器とを備え、校正値シグマデルタ変調器は、直列に接続された複数の累算器と、それぞれの校正値累算器が出力する比較結果信号に基づいて、校正値出力信号を生成する出力信号生成部とを有し、それぞれの校正値累算器は、入力される信号の値を積分し、積分値が基準値以上となった場合に、所定の値の校正値比較結果信号を出力すると共に、校正値積分値から校正値比較結果信号の値を減算し、初段の校正値累算器には、校正値入力信号の値が入力され、他の校正値累算器には、前段の校正値累算器の校正値積分値が入力され、少なくとも一つの校正値累算器は、校正値積分値の波形の所定の高周波成分を除去するローパスフィルタを有するフラクショナル周波数シンセサイザを提供する。
を提供する。
【0009】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
図1は、本実施形態に係るフラクショナル周波数シンセサイザ10の構成を示す。フラクショナル周波数シンセサイザ10は、例えば基準発振器から出力された基準周波数frefの基準信号が入力されるとともに、小数点以下の精度で表された設定値Qがユーザまたは外部機器等により設定される。そして、フラクショナル周波数シンセサイザ10は、基準周波数frefを設定値Q倍した周波数の発振信号を出力する。
【0012】
フラクショナル周波数シンセサイザ10は、電圧制御発振器12と、分周器14と、整数部分設定部16と、小数部分設定部18と、シグマデルタ変調器20と、位相比較器22と、LPF24とを備える。電圧制御発振器12は、制御電圧を入力する。そして、電圧制御発振器12は、与えられる制御電圧のレベルに応じた周波数の発振信号を出力する。分周器14は、電圧制御発振器12により出力される発振信号が入力され、当該発振信号を、設定される設定分周比Pで分周する。
【0013】
整数部分設定部16は、設定値Qにおける整数部分を抽出して記憶する。そして、整数部分設定部16は、抽出した整数部分を、分周器14に設定すべき分周比の整数部分を示す入力信号Iとしてシグマデルタ変調器20に対して出力する。小数部分設定部18は、設定値Qにおける小数部分を抽出して記憶する。そして、小数部分設定部18は、抽出した小数部分を、分周器14に設定すべき分周比の小数部分を示す入力信号Xとしてシグマデルタ変調器20に対して出力する。
【0014】
シグマデルタ変調器20は、分周器14に設定すべき分周比の整数部分を示す入力信号Iおよび分周器14に設定すべき分周比の小数部分を示す入力信号Xに基づいて、分周器14における分周比を切り替える。より詳しくは、シグマデルタ変調器20は、分周比の小数部分を示す入力信号Xをシグマデルタ変調することにより、整数値で表される出力信号を生成する。さらに、シグマデルタ変調器20は、シグマデルタ変調された出力信号と分周比の整数部分を示す入力信号Iとを加算することにより、設定分周比Pを生成する。そして、シグマデルタ変調器20は、設定分周比Pに応じて分周器14の分周比を切り替える。
【0015】
位相比較器22は、分周器14が分周した発振信号と、与えられる基準信号との位相差に応じたレベルの制御信号を生成する。すなわち、位相比較器22は、発振信号を設定分周比Pにより分周した分周信号と基準信号との位相誤差を算出し、算出した位相誤差に応じたレベルの制御信号を出力する。LPF24は、位相比較器22から出力された制御信号を所定の時定数でローパスフィルタリングして、高域が除去された制御信号を電圧制御発振器12に対して出力する。すなわち、LPF24は、平均化された位相誤差に応じた制御信号を電圧制御発振器12に対して出力する。
【0016】
このようなフラクショナル周波数シンセサイザ10は、小数点以下の精度で表された設定値Qをシグマデルタ変調した設定分周比Pにより、分周器14における分周比を切り替える。従って、フラクショナル周波数シンセサイザ10によれば、基準周波数frefの小数点以下の精度の倍数で表された周波数の発振信号を出力することができる。
【0017】
図2は、本実施形態に係るシグマデルタ変調器20の構成を示す。シグマデルタ変調器20は、入力信号をシグマデルタ変調した出力信号を出力する。シグマデルタ変調器20は、分周器14に設定すべき分周比の小数部分を示す入力信号Xおよび分周器14に設定すべき分周比の整数部分を示す入力信号Iを入力して、シグマデルタ変調した設定分周比Pを出力する。
【0018】
シグマデルタ変調器20は、複数の累算器(アキュムレータ)30と、出力信号生成部32と、整数部分加算器34とを有する。複数の累算器30は、それぞれが直列に接続される。図2には、一例として、3個の累算器30を有するシグマデルタ変調器20を示すが、本実施形態におけるシグマデルタ変調器20は、2個または4個以上の累算器30を有してよい。それぞれの累算器30は、入力される信号の値を積分し、積分値が基準値以上となった場合に、所定の値の比較結果信号を出力すると共に、積分値から比較結果信号の値を減算する。
【0019】
また、複数の累算器30のうち初段の累算器30には、分周器14に設定すべき分周比の小数部分を示す入力信号Xの値が入力される。また、複数の累算器30のうち初段以外の他の累算器30には、前段の累算器30の積分値が入力される。他の累算器30は、一例として、前段の累算器30における積分値が基準値以上となった場合には、比較結果信号の値を減算した後の積分値を前段の累算器30から入力し、前段の累算器30における積分値が基準値より小さい場合には、基準値より小さい当該積分値を前段の累算器30から入力してよい。一例として、前段の累算器30が例えば比較結果信号として桁あふれ信号を出力する場合、他の累算器30には、桁あふれ信号を出力した場合における、桁あふれした値を入力してよい。すなわち、他の累算器30には、一例として、前段の累算器30における積分値と比較結果信号との誤差(量子化誤差)を入力してよい。
【0020】
それぞれの累算器30は、一例として、0以上1未満の値の信号を入力し、入力した値をクロック毎に順次に累算して積分値を生成してよい。さらに、それぞれの累算器30は、一例として、積分値が1以上となった場合に、値が1の比較結果信号を出力し、積分値が0未満の場合に、値が0の比較結果信号を出力してよい。そして、それぞれの累算器30は、一例として、順次出力される積分値が1以上となった場合には、比較結果信号の値である1を積分値から減算してよい。
【0021】
より具体的な構成の一例として、それぞれの累算器30は、累算レジスタ42と、加算部44と、比較部46と、減算部48とを含んでよい。累算レジスタ42は、入力した値を1クロック分遅延して出力する。累算レジスタ42は、一例として、例えば分周器14により出力された分周信号がクロックとして供給されてよい。加算部44は、入力される信号の値に、累算レジスタ42に格納された値に応じた値を加算して、積分値を出力する。
【0022】
比較部46は、加算部44から出力された積分値と、基準値とを比較し、加算部44から出力された積分値が基準値以上となった場合に、所定の値の比較結果信号を出力する。比較部46は、一例として、加算部44から出力された積分値と1とを比較し、加算部44から出力された積分値が1以上となった場合に値が1の比較結果信号を出力し、加算部44から出力された積分値が1未満の場合に値が0の比較結果信号を出力してよい。減算部48は、比較部46に入力された積分値から、比較部46が出力した比較結果信号の値を減じ、累算レジスタ42に格納する。
【0023】
このような構成における初段の累算器30の加算部44には、分周器14に設定すべき分周比の小数部分を示す入力信号Xの値が入力される。また、初段以外の他の累算器30の加算部44には、前段の累算器30における減算部48から出力された積分値が入力される。
【0024】
以上のような複数の累算器30のうちの初段の累算器30は、整数値で値が表されるとともに時間平均した場合に入力信号Xの値に略一致する比較結果信号を出力することができる。さらに、初段以外の累算器30は、時間平均した場合に前段の累算器30における量子化誤差の積分値に略一致する比較結果信号を出力する。これにより、初段以外の累算器30のそれぞれによれば、前段の累算器30における量子化誤差の累積速度に応じた周期で所定の値(例えば1)となる比較結果信号を出力することができる。さらに、初段以外の累算器30は、前段の累算器30における量子化誤差を積分して比較結果信号を生成するので、前段における累算器30の比較結果信号が基準値(例えば1)となる周期以下の周期で比較結果信号を出力する。従って、初段以外の累算器30は、後段になるに従って、基準値(例えば1)となる周期が短くなる比較結果信号を出力することができる。
【0025】
また、それぞれの累算器30のうち、少なくとも一つの累算器30は、積分値の波形の所定の高周波成分を除去するローパスフィルタ36を含む。一例として、それぞれの累算器30のうち最終段の累算器30は、ローパスフィルタ36を有し、他の累算器30は、ローパスフィルタ36を有さなくてよい。このようなローパスフィルタ36を含む累算器30によれば、前段の累算器30において生じた量子化誤差の累積速度に対する出力する比較結果信号の応答速度を、遅くすることができる。
【0026】
より具体的な構成の一例として、ローパスフィルタ36は、第1乗算部52と、第2乗算部54と、フィルタ内加算部56とを含んでよい。第1乗算部52は、当該ローパスフィルタ36を含んだ累算器30が有する累算レジスタ42が格納した値に、第1の係数を乗算して加算部44に入力する。第2乗算部54は、当該ローパスフィルタ36を含んだ累算器30が有する累算レジスタ42が格納した値に第2の係数を乗算して出力する。ここで、第2の係数は、0より大きく1未満の値αであり、第1の係数は、1から第2の係数αを減算した値(1−α)であってよい。例えば、第1の係数および第2の係数は、当該ローパスフィルタ36を含むループ経路において信号が発振をせず安定する値であることが好ましく、例えばともに0.5であってよく、また、一方が0.75、他方が0.25であってもよい。
【0027】
フィルタ内加算部56は、当該ローパスフィルタ36を含んだ累算器30が有する減算部48が出力する値に、第2乗算部54が出力する値を加算して、累算レジスタ42に格納する。以上の構成のローパスフィルタ36によれば、累算レジスタ42と協働して1次のIIR(Infinite Impulse Response)フィルタによるローパスフィルタを形成することができる。
【0028】
なお、ローパスフィルタ36は、2次以上のIIRフィルタであってもよい。また、ローパスフィルタ36は、IIRフィルタに代えて、FIR(Finite Impulse Response)であってもよい。また、ローパスフィルタ36は、第1乗算部52および第2乗算部54に代えて、累算レジスタ42が格納した値から予め定められた定数を減算して加算部44に入力する第1減算部と、累算レジスタ42が格納した値から予め定められた定数を減算してフィルタ内加算部56に入力する第2減算部とを含んでよい。さらに、シグマデルタ変調器20において、複数の累算器30がローパスフィルタ36を含んでよい。この場合において、複数の累算器30は、例えば当該累算器30の段数に応じて、それぞれ異なるフィルタ構成のローパスフィルタ36を含んでよい。
【0029】
出力信号生成部32は、それぞれの累算器30が出力する比較結果信号に基づいて、出力信号を生成する。出力信号生成部32は、一例として、初段以外の累算器30から出力された比較結果信号をそれぞれ微分した微分信号を、初段の累算器30から出力された比較結果信号に加算することにより、出力信号を生成してよい。
【0030】
この場合において、出力信号生成部32は、一例として、初段以外の累算器30から出力されたそれぞれの比較結果信号に対して、対応する累算器30における段数が大きいほどより微分回数を多くして微分してよい。出力信号生成部32は、一例として、初段以外の累算器30から出力されたそれぞれの比較結果信号に対して、対応する累算器30における段数から1を引いた回数分の微分をしてよい。すなわち、出力信号生成部32は、2段目の累算器30に対しては比較結果信号に対して1回(2−1回)微分をした1回微分信号を生成し、3段目の累算器30に対しては比較結果信号に対して2回(3−1回)微分をした2回微分信号を生成し、4段目の累算器30に対しては比較結果信号に対して3回(3−1回)微分をした3回微分信号を生成してよい。そして、出力信号生成部32は、これらの複数の微分信号を、初段の累算器30から出力された比較結果信号に加算した出力信号を生成してよい。
【0031】
より具体的な構成の一例として、出力信号生成部32は、最終段以外の累算器30のそれぞれに対応して設けられた出力信号生成部内加算器60と、初段以外の累算器30のそれぞれに対応して設けられた微分回路62とを含んでよい。出力信号生成部内加算器60のそれぞれは、対応する累算器30から出力された比較結果信号と、1つ後段の累算器30に対応する微分回路62から出力された微分信号とを加算した加算信号を出力する。
【0032】
最終段の微分回路62は、対応する最終段の累算器30から出力された比較結果信号を微分した微分信号を出力する。すなわち、最終段の微分回路62は、対応する最終段の累算器30から出力された比較結果信号の変化量を示す微分信号を出力する。最終段以外の微分回路62は、対応する出力信号生成部内加算器60から出力された加算信号を微分した微分信号を出力する。すなわち、最終段以外の微分回路62は、対応する出力信号生成部内加算器60から出力された加算信号の変化量を示す微分信号を出力する。
【0033】
微分回路62は、一例として、微分回路内レジスタ64と、微分回路内減算器66とを含んでよい。微分回路62は、入力した信号を1クロック分遅延する。微分回路内レジスタ64は、入力した信号から、微分回路内レジスタ64により1クロック分遅延した信号を減算する。これにより微分回路62によれば、最終段以外の場合には対応する出力信号生成部内加算器60から出力された加算信号微分し、最終段の場合には対応する累算器30から出力された比較結果信号を微分することできる。
【0034】
そして、初段の出力信号生成部内加算器60は、加算信号を当該出力信号生成部32の出力信号として出力する。これにより出力信号生成部32によれば、累算器30のそれぞれから出力された比較結果信号のそれぞれを、当該比較結果信号を出力した累算器30の段数に応じた回数分微分して、初段の累算器30から出力された比較結果信号に加算することができる。
【0035】
整数部分加算器34は、出力信号生成部32から出力された出力信号と、分周器14に設定すべき分周比の整数部分を示す入力信号Iとを加算する。そして、整数部分加算器34は、加算結果を設定分周比Pとして分周器14に対して出力する。
【0036】
以上のようなシグマデルタ変調器20によれば、平均化した場合にユーザ等により設定された小数点以下の精度の設定値Qと略一致する設定分周比Pを出力することができる。従って、このようなシグマデルタ変調器20を備えるフラクショナル周波数シンセサイザ10によれば、基準周波数frefを設定値Q倍した周波数の発振信号を出力することができる。
【0037】
さらに、シグマデルタ変調器20によれば、2段目以降の累算器30から出力された比較結果信号を微分した微分信号を出力信号に加算する。これにより、シグマデルタ変調器20によれば、初段から最終段の1つ前までのそれぞれの累算器30における量子化誤差の累積速度に応じた周期で設定分周比Pを増減させることができる。また、2段目以降の累算器30は、後段になるに従って短い周期の比較結果信号を出力する。これにより、シグマデルタ変調器20によれば、内部に有する累算器30の段数が増えるほど、より高周波数で設定分周比Pを増減させことができる。
【0038】
さらに、また、出力信号生成部32は、2段目以降の累算器30から出力された比較結果信号を、当該比較結果信号を出力した累算器30の段数に応じた回数分微分して微分信号を生成する。これにより、出力信号生成部32は、より後段の累算器30から出力された比較結果信号を微分した微分信号の振幅を、より大きくすることができる。以上により、シグマデルタ変調器20によれば、低周波数領域における位相ノイズを小さくし、高周波数領域に位相ノイズを移すというノイズシェーピングの効果を発揮することができる。
【0039】
これに加えて、シグマデルタ変調器20は、2段目以降の少なくとも一つの累算器30(例えば最終段の累算器30)がローパスフィルタ36を有するので、対応する累算器30から出力される比較結果信号の応答速度を遅くすることができる。これにより、シグマデルタ変調器20によれば、2段目以降の対応する累算器30(例えば最終段の累算器30)の影響により、大きくなった設定分周比P(すなわち、出力信号)の増加および減少の振幅を小さくすることができる。
【0040】
このような設定分周比Pの振幅の小さいシグマデルタ変調器20を備えることにより、フラクショナル周波数シンセサイザ10によれば、分周器14から出力される分周信号の変動を抑えることができるので、位相比較器22における位相誤差を小さくすることができる。この結果、フラクショナル周波数シンセサイザ10によれば、LPF24のループ帯域を低くすることなく高次のシグマデルタ変調を用いて分周比を切り替えることができる。
【0041】
図3は、累算器30の量子化ノイズがホワイトノイズであると仮定した場合における、シグマデルタ変調器20によって発生する位相ノイズに対する周波数特性の一例を示す。なお、図3において、Aはいずれもがローパスフィルタ36を含まない3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器の特性、Bはいずれもがローパスフィルタ36を含まない4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器の特性、Cは最終段にローパスフィルタ36を含む4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20の特性を示す。
【0042】
ここで、いずれもがローパスフィルタ36を含まない3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器におけるNTF(Noise Transfer Function)は、(1−Z−1となる。いずれもがローパスフィルタ36を含まない4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器におけるNTFは、(1−Z−1となる。さらに、最終段にローパスフィルタ36を含む4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20におけるNTFは、(1−Z−1/(1−α×Z−1)となる。図3は、このようなNTFに応じた位相ノイズの周波数特性を示す。
【0043】
図3のAおよびCを比較すると、3MHz以下の周波数における位相ノイズは、いずれもがローパスフィルタ36を含まない3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器よりも、最終段にローパスフィルタ36を含む4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20の方が小さい。すなわち、3MHz以下の周波数においては、最終段にローパスフィルタ36を含む4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20は、特性が良い。
【0044】
また、図3のBおよびCを比較すると、4MHzより大きい周波数における位相ノイズは、いずれもがローパスフィルタ36を含まない4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器よりも、最終段にローパスフィルタ36を含む4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20の方が小さい。すなわち、4MHzより大きい周波数においては、最終段にローパスフィルタ36を含む4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20は、特性が良い。
【0045】
図4は、電圧制御発振器12から出力された発振信号に含まれる位相ノイズの周波数特性の測定結果の一例を示す。なお、図4に示すA、BおよびCは、図3のA、B、Cと同様のシグマデルタ変調器を有するフラクショナル周波数シンセサイザの特性を示す。
【0046】
A、BおよびCを比較すると、発信信号に含まれる300kHz以下の周波数における位相ノイズは、いずれもがローパスフィルタ36を含まない3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器を備えるフラクショナル周波数シンセサイザが最も小さい。これは、いずれもがローパスフィルタ36を含まない3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器の設定分周比Pの振幅が最も小さいことによる影響であると考えられる。
【0047】
これに対して、発信信号に含まれる300kHzから1.5MHzまでの周波数における位相ノイズは、最終段にローパスフィルタ36を含む4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20を備えるフラクショナル周波数シンセサイザ10が最も小さい。すなわち、300kHzから1.5MHzまでにおいては、最終段にローパスフィルタ36を含む4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20を備えるフラクショナル周波数シンセサイザ10は、特性が良い。さらに、300kHz以下の周波数における位相ノイズも、最終段にローパスフィルタ36を含む4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20を備えるフラクショナル周波数シンセサイザ10は、いずれもがローパスフィルタ36を含まない3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器を備えるフラクショナル周波数シンセサイザとほぼ同等である。
【0048】
300kHzから1.5MHzまでのシグマデルタ変調器の特性は、図3に示すように、いずれもがローパスフィルタ36を含まない4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器の位相ノイズが最も小さい。これに反して、最終段にローパスフィルタ36を含む4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20を備えるフラクショナル周波数シンセサイザ10の発振信号に含まれる位相ノイズが小さいのは、設定分周比Pの振幅が小さいことによる影響であると考えられる。以上のようにフラクショナル周波数シンセサイザ10によれば、発振信号の周波数の近傍の位相ノイズを小さくするように特性を改善することができる。
【0049】
図5は、ローパスフィルタ36を含まない3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器の設定分周比Pの一例を示す。図6は、ローパスフィルタ36を含まない3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器を備えるフラクショナル周波数シンセサイザの位相誤差の一例を示す。図7は、最終段がローパスフィルタ36を含む3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20の設定分周比Pの一例を示す。図8は、最終段がローパスフィルタ36を含む3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20を備えるフラクショナル周波数シンセサイザ10の位相誤差の一例を示す。
【0050】
図5を参照すると、ローパスフィルタ36を含まない3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器から出力される設定分周比Pの増減の振幅は、一例として、30±3であった。また、図7を参照すると、最終段がローパスフィルタ36を含む3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20の設定分周比Pの増減の振幅は、一例として、30±2であった。このように、シグマデルタ変調器20によれば、設定分周比Pの増減の振幅が小さくなった。
【0051】
また、図6および図8を比較すると、位相誤差の振幅は、いずれもがローパスフィルタ36を含まない3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器を備えるフラクショナル周波数シンセサイザよりも、最終段がローパスフィルタ36を含む3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20を備えるフラクショナル周波数シンセサイザ10の方が小さい。このように、フラクショナル周波数シンセサイザ10によれば、位相誤差を小さくすることができる。
【0052】
図9は、ローパスフィルタ36を含まない4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器の設定分周比Pの一例を示す。図10は、ローパスフィルタ36を含まない4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器を備えるフラクショナル周波数シンセサイザの位相誤差の一例を示す。図11は、最終段がローパスフィルタ36を含む4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20の設定分周比Pの一例を示す。図12は、最終段がローパスフィルタ36を含む4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20を備えるフラクショナル周波数シンセサイザ10の位相誤差の一例を示す。
【0053】
図9を参照すると、ローパスフィルタ36を含まない4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器から出力される設定分周比Pの増減の振幅は、一例として、30±7であった。また、図11を参照すると、最終段がローパスフィルタ36を含む4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20の設定分周比Pの増減の振幅は、一例として、30±4であった。このように、シグマデルタ変調器20によれば、設定分周比Pの増減の振幅を小さくすることができる。
【0054】
また、図10および図12を比較すると、位相誤差の振幅は、いずれもがローパスフィルタ36を含まない4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器を備えるフラクショナル周波数シンセサイザよりも、最終段がローパスフィルタ36を含む4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20を備えるフラクショナル周波数シンセサイザ10の方が小さい。このように、フラクショナル周波数シンセサイザ10によれば、位相誤差を小さくすることができる。
【0055】
図13は、本実施形態の変形例に係るシグマデルタ変調器20の構成を示す。本変形例に係るシグマデルタ変調器20は、図2に示した同一符号の部材と略同一の構成および機能を採るので、以下相違点を除き説明を省略する。
【0056】
本変形例において、初段以外の他の累算器30の加算部44には、前段の累算器30における累算レジスタ42から積分値が入力される。すなわち、初段以外の他の累算器30のそれぞれは、前段の累算器30に信号が入力した時刻から1クロック分遅延した時刻に対応する積分値を入力する。また、最終段以外の累算器30のそれぞれは、更に、遅延部70を含む。遅延部70のそれぞれは、比較部46から出力された比較結果信号を遅延して後段の出力信号生成部32に対して出力する。
【0057】
ここで、最終段以外の累算器30のそれぞれに含まれる遅延部70は、当該シグマデルタ変調器20が備える複数の累算器30の数から、対応する累算器30の段数を減算したクロック数分、比較結果信号を減算する。一例として、シグマデルタ変調器20が3個の累算器30を有する場合であれば、初段の累算器30に含まれる遅延部70は、2クロック(=3−1クロック)分比較結果信号を遅延し、2段目の累算器30に含まれる遅延部70は、1クロック(=3−2クロック)分比較結果信号を遅延する。これにより、複数の累算器30のそれぞれは、他の累算器30とタイミングを同期した比較結果信号を出力信号生成部32に対して出力することができる。
【0058】
以上のようなシグマデルタ変調器20も、図2に示した回路と同様の効果を得ることができる。従って、図13のシグマデルタ変調器20を備えることにより、フラクショナル周波数シンセサイザ10によれば、ノイズシェーピングの傾きを大きくするとともに、発振信号の周波数の近傍の位相ノイズを小さくすることができる。
【0059】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態に係るフラクショナル周波数シンセサイザ10の構成を示す。
【図2】本発明の実施形態に係るシグマデルタ変調器20の構成を示す。
【図3】累算器30の量子化ノイズがホワイトノイズであると仮定した場合における、シグマデルタ変調器20により発生する位相ノイズに対する周波数特性を示す。
【図4】電圧制御発振器12から出力された発振信号に含まれる位相ノイズの周波数特性の測定結果を示す。
【図5】ローパスフィルタ36を含まない3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器の設定分周比Pの一例を示す。
【図6】ローパスフィルタ36を含まない3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器を備えるフラクショナル周波数シンセサイザの位相誤差の一例を示す。
【図7】最終段がローパスフィルタ36を含む3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20の設定分周比Pの一例を示す。
【図8】最終段がローパスフィルタ36を含む3段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20を備えるフラクショナル周波数シンセサイザ10の位相誤差の一例を示す。
【図9】ローパスフィルタ36を含まない4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器の設定分周比Pの一例を示す。
【図10】ローパスフィルタ36を含まない4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器を備えるフラクショナル周波数シンセサイザの位相誤差の一例を示す。
【図11】最終段がローパスフィルタ36を含む4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20の設定分周比Pの一例を示す。
【図12】最終段がローパスフィルタ36を含む4段の累算器30を有するシグマデルタ変調器20を備えるフラクショナル周波数シンセサイザ10の位相誤差の一例を示す。
【図13】本実施形態の変形例に係るシグマデルタ変調器20の構成を示す。
【符号の説明】
【0061】
10 フラクショナル周波数シンセサイザ
12 電圧制御発振器
14 分周器
20 シグマデルタ変調器
16 整数部分設定部
18 小数部分設定部
22 位相比較器
24 LPF
30 累算器
32 出力信号生成部
34 整数部分加算器
36 ローパスフィルタ
42 累算レジスタ
44 加算部
46 比較部
48 減算部
52 第1乗算部
54 第2乗算部
56 フィルタ内加算部
60 出力信号生成部内加算器
62 微分回路
64 微分回路内レジスタ
66 微分回路内減算器
70 遅延部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号をシグマデルタ変調した出力信号を出力するシグマデルタ変調器であって、
直列に接続された複数の累算器と、
それぞれの前記累算器が出力する比較結果信号に基づいて、前記出力信号を生成する出力信号生成部と
を備え、
それぞれの前記累算器は、
入力される信号の値を積分し、積分値が基準値以上となった場合に、所定の値の前記比較結果信号を出力すると共に、前記積分値から前記比較結果信号の値を減算し、
初段の前記累算器には、前記入力信号の値が入力され、
他の前記累算器には、前段の前記累算器の前記積分値が入力され、
少なくとも一つの前記累算器は、前記積分値の波形の所定の高周波成分を除去するローパスフィルタを有する
シグマデルタ変調器。
【請求項2】
最終段の前記累算器が、前記ローパスフィルタを有し、他の前記累算器は、前記ローパスフィルタを有さない
請求項1に記載のシグマデルタ変調器。
【請求項3】
それぞれの前記累算器は、
累算レジスタと、
前記入力される信号の値に、前記累算レジスタに格納された値に応じた値を加算して、前記積分値を出力する加算部と、
前記積分値と、前記基準値とを比較し、前記積分値が前記基準値以上となった場合に、所定の値の前記比較結果信号を出力する比較部と、
前記比較部に入力された前記積分値から、前記比較部が出力した前記比較結果信号の値を減じ、前記累算レジスタに格納する減算部と
を有し、
前記ローパスフィルタは、
前記累算レジスタが格納した値に第1の係数を乗算して前記加算部に入力する第1の乗算部と、
前記累積レジスタが格納した値に第2の係数を乗算して出力する第2の乗算部と、
前記減算部が出力する値に、前記第2の乗算部が出力する値を加算して、前記累積レジスタに格納するフィルタ内加算部と
を有する請求項2に記載のシグマデルタ変調器。
【請求項4】
与えられる制御電圧のレベルに応じた周波数の発振信号を出力する電圧制御発振器と、
前記発振信号を、設定される分周比で分周する分周器と、
前記分周器に設定すべき前記分周比の小数部分を示す入力信号に基づいて、前記分周器における分周比を切り替えるシグマデルタ変調器と、
前記分周器が分周した前記発振信号と、与えられる基準信号との位相差に応じたレベルの前記制御信号を生成する位相比較器と
を備え、
前記シグマデルタ変調器は、
直列に接続された複数の累算器と、
それぞれの前記累算器が出力する比較結果信号に基づいて、前記出力信号を生成する出力信号生成部と
を有し、
それぞれの前記累算器は、
入力される信号の値を積分し、積分値が基準値以上となった場合に、所定の値の前記比較結果信号を出力すると共に、前記積分値から前記比較結果信号の値を減算し、
初段の前記累算器には、前記入力信号の値が入力され、
他の前記累算器には、前段の前記累算器の前記積分値が入力され、
少なくとも一つの前記累算器は、前記積分値の波形の所定の高周波成分を除去するローパスフィルタを有する
フラクショナル周波数シンセサイザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−98859(P2008−98859A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276826(P2006−276826)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【特許番号】特許第3914257号(P3914257)
【特許公報発行日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(390005175)株式会社アドバンテスト (1,005)
【Fターム(参考)】