説明

シートモールディングコンパウンド及びその成形方法

【課題】成形サイクルアップ及び成形品の外観向上を容易に図ること。
【解決手段】ゲルタイムの異なる少なくとも2種類のSMCシート4,5の間に少なくとも1枚の不織布6を挟み込んで加熱積層成形してなるシートモールディングコンパウンド3である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば洗い場パン、浴槽エプロン、壁パネル等に用いられるSMC及びその成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、SMC(シートモールディングコンパウンド)を金型を用いて高温高圧で成形してFRP(繊維強化プラスチック)成形品を製造する方法において、FRP成形品の成形保圧時間(ゲル化開始から硬化完了までの硬化時間)を速めるために、金型の温度アップや、SMCの硬化材の増量などの方法が行なわれているが、このような方法では、FRP成形品の外観に艶むら不良を誘発し易いという課題を有していた。
【0003】
また、SMC材料が流動性を失い、粘性が急激に上昇するまでの時間(以下「ゲルタイム」と称する)を速めることができる速硬化性SMCが例えば特許文献1において知られている。
【0004】
ところが、上記特許文献1に見られる速硬化性のSMCにおいては、単にゲルタイムを速めるものであるために、SMCが金型内でプレスされ流動が完了する前にゲル化が開始されてしまい、結果、FRP成形品の外観に艶むら等の欠陥が発生するという課題を有していた。
【特許文献1】特開2005−154458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、成形サイクルアップを図ることができると共に成形品の外観向上を容易に図ることができるシートモールディングコンパウンド及びその成形方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1の発明は、ゲルタイムの異なる少なくとも2種類のSMCシート4,5の間に少なくとも1枚の不織布6を挟み込んで加熱積層成形してなることを特徴としている。
【0007】
このような構成とすることで、金型高温1側にゲルタイムの長いSMCシート4を載置してプレス成形することで、SMC材料を製品端部まで確実にしかも短時間で充填できるようになる。しかもゲルタイムの異なるSMCシート間に不織布6を挟み込んだことにより、表面のゲルタイムの長いSMC材料中に、成形圧力で裏面のゲルタイムの短いSMC材料が混ざり混んでしまうことを不織布6によって防止できるので、ゲルタイムの短いSMC材料がSMC積層体の最表面まで染み出すことがなくなり、これにより表面のゲルタイムの長いSMC材料が金型内で流動が完了する前にゲル化が始まることがない。従って、成形保圧時間を短くできると共に、FRP成形品の外観に艶むら不良の発生を防止できるようになる。
【0008】
また請求項2の発明は、上記ゲルタイムの長いSMCシート4のゲルタイムを50〜100秒とし、ゲルタイムの短いSMCシート5のゲルタイムを30〜50秒としたものであり、この場合、ゲルタイムを30秒よりも短くすると、硬化材量が増えてコストがかかり、逆に、ゲルタイムを100秒よりも長くすると成形時間がかかり、同じくコストが高くなることから、ゲルタイムを上記数値範囲内に設定するのが望ましい。
【0009】
また請求項3の発明は、上記不織布6の目付けを50g/m以上にしたものであり、この場合、表面のゲルタイムの長いSMC材料と、裏面のゲルタイムの短いSMC材料とが成形圧力で混ざり混んでしまうのを防止する効果が容易に得られる。
【0010】
また請求項4の発明は、ゲルタイムの異なる少なくとも2種類のSMCシート4,5を用い、ゲルタイムの長いSMCシート4とゲルタイムの短いSMCシート5との間に少なくとも1枚の不織布6を挟み込んで得られるSMC積層体を、ゲルタイムの長いSMCシート4が金型高温1側、ゲルタイムの短いSMCシート5が金型低温2側にそれぞれ位置するように、両金型面間に載置してプレス成形することを特徴としている。
【0011】
また請求項5の発明は、ゲルタイムの異なる少なくとも2種類のSMCシート4,5を用い、ゲルタイムの長いSMCシート4を両外側にそれぞれ配置し、ゲルタイムの短いSMCシート5を内側に配置すると共にゲルタイムの長いSMCシート4とゲルタイムの短いSMCシート5との間に不織布6を挟み込んで得られるSMC積層体を、両外側のゲルタイムの長いSMCシート4が金型高温1側と金型低温2側とにそれぞれ位置するように、両金型面間に載置してプレス成形することを特徴としている。
【0012】
上記請求項4又は請求項5の構成を採用することにより、製品面となる金型高温1側にゲルタイムの長いSMCシート4を載置してプレス成形することで、SMC材料を製品端部まで確実に充填できるようになり、成形保圧時間の短縮化、及び、艶むらの発生防止効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ゲルタイムの異なる少なくとも2種類のSMCシートの間に少なくとも1枚の不織布を挟み込んで加熱積層成形することにより、SMC材料を製品端部まで確実にしかも短時間で充填できるものであり、成形保圧時間を短縮させることができるものであり、さらに不織布によってSMC材料の混ざり込みを防いで成形品の外観に艶むら不良の発生を防止できるものであり、結果、成形サイクルアップを図ることができると共に成形品の外観向上を容易に図ることができるシートモールディングコンパウンド及びその成形方法を提供できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明する。
【0015】
本実施形態のシートモールディングコンパウンド3は、図1に示すように、ゲルタイムの異なる少なくとも2種類のSMCシート4,5の間に少なくとも1枚の不織布6を挟み込んで加熱積層成形して得られる。
【0016】
上記SMCシートとしては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮材、硬化材、重合禁止材、充填材、増粘材及び繊維強化材を配合してなる繊維強化成形材料であって、シート状に形成してなるものである。なおSMCシートとして柄入りSMC、柄なしSMCのいずれであってもよい。
【0017】
ここで、上記ゲルタイムの長いSMCシート4のゲルタイムを50〜100秒とし、ゲルタイムの短いSMCシート5のゲルタイムを30〜50秒とするのが望ましい。例えば、SMCシートのゲルタイムの調整は、硬化材の量と重合禁止材の量の調整により行なうことができる。なお硬化材等を選択使用することによってゲルタイムを調整する技術は、従来技術で説明した特開2005−154458号公報等により公知であり、詳細な説明は省略する。ここにおいて上記ゲルタイムを30秒よりも短くすると、硬化材量が増えてコストがかかり、逆に、ゲルタイムを100秒よりも長くすると成形時間がかかり、同じくコストが高くなる。従って、ゲルタイムを上記数値範囲内に設定するのが望ましい。なお、ゲルタイムの測定はキュラストメータ(硬化特性試験機)を用いて行なう。
【0018】
上記SMCシート間に挟み込まれる不織布6は、例えばガラス製、樹脂製などが広く使用されるが、ここでは目付けが50g/m以上のポリエステル製不織布6が好適に用いられる。不織布6は、表面のゲルタイムの長いSMC材料と、裏面のゲルタイムの短いSMC材料とが成形圧力で混ざり混んでしまうことを防止する役目を果たす。なお、不織布6は1枚に限らず、2枚以上の不織布6をSMCシート間に挟み込むことも可能である。
【0019】
ここで図1においては、ゲルタイムの長いSMCシート4とゲルタイムの短いSMCシート5との間に1枚の不織布6を挟み込んで得られるSMC積層体を、ゲルタイムの長いSMCシート4が金型高温1側、ゲルタイムの短いSMCシート5が金型低温2側にそれぞれ位置するように、両金型面間に載置してプレス成形する場合の一例を示している。なおSMCシートの数は2枚に限らず、3枚以上であってもよく、不織布6の数も1枚に限らず2枚以上であってもよいものであり、要は、金型高温1側にゲルタイムの長いSMCシート4を配置し、金型低温2側にゲルタイムの短いSMCシート5を配置し、その間に不織布6を挟み込んだ構造であれば、SMCシート及び不織布6の数は適宜設計変更自在である。
【0020】
また図2では、ゲルタイムの長いSMCシート4を両外側にそれぞれ配置し、ゲルタイムの短いSMCシート5を内側に配置すると共にゲルタイムの長いSMCシート4とゲルタイムの短いSMCシート5との間に不織布6を挟み込んで得られるSMC積層体を、両外側のゲルタイムの長いSMCシート4が金型高温1側と金型低温2側とにそれぞれ位置するように、両金型面間に載置してプレス成形する場合の一例を示している。なおSMCシートの数は3枚に限らず、4枚以上であってもよく、不織布6の数も1枚に限らず2枚以上であってもよいものであり、要は、金型高温1側及び金型低温2側にそれぞれゲルタイムの長いSMCシート4を配置し、その間にゲルタイムの短いSMCシート5を挟み、ゲルタイムの長いSMCシート4とゲルタイムの短いSMCシート5との間に不織布6を挟み込んだ構造であれば、SMCシート及び不織布6の数は適宜設計変更自在である。
【0021】
しかして、製品面となる金型高温1側にゲルタイムの長いSMCシート4を載置してプレス成形することで、SMC材料を製品端部まで確実にしかも短時間で充填できるようになり、成形保圧時間を短縮できるようになる。しかも、ゲルタイムの異なるSMCシート間に不織布6を挟み込んだことにより、表面のゲルタイムの長いSMC材料中に、成形圧力で裏面のゲルタイムの短いSMC材料が混ざり混んでしまうことを不織布6によって防止できるので、ゲルタイムの短いSMC材料がSMC積層体の最表面まで染み出すことがなくなり、これにより表面のゲルタイムの長いSMC材料が金型内で流動が完了する前にゲル化が始まることがない。つまり、製品の裏面側に位置するゲルタイムの短いSMCシート5の材料流動が仮りに乱れても、表面側の材料流動はその影響を受けることがないため、FRP成形品の外観に艶むら不良を発生させることがなく、流れ不足による未充填やかすれ等の欠陥の発生もなくなり、この結果、成形保圧時間を短縮させて成形サイクルアップを図ることができると共に艶むら等をなくして外観向上を容易に図ることができるものである。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0023】
(実施例1)
図1(a)のように、ゲルタイムの長いSMCシート4を金型高温1側に位置させ、中央に不織布6を挟み込み、ゲルタイムの短いSMCシート5を金型低温2側に位置させた状態両金型面間に載置してプレス成形して、図1(b)に示すFRP成形品を得た。成形条件として、金型高温1側を150℃、金型低温2側を140℃、圧力を100kgf/cmとした。FRP成形品として、長さ1200mm、幅450mm、高さ30mmの浴槽エプロンを得た。そして、最小保圧時間と成形品の表面状態とを観察したところ、成形保圧時間が250秒で、製品端部まで樹脂が充填し、外観に艶むら不良もないことが確認された。
【0024】
(実施例2)
図2(a)のようにゲルタイムの長い一方のSMCシート4を金型高温1側に位置させ、ゲルタイムの長い他方のSMCシート4を金型低温2側に位置させ、中央にゲルタイムの短いSMCシート5を位置させ、このゲルタイムの短いSMCシート5の両側にそれぞれ不織布6を挟み込んだSMC積層体を、両金型面間に載置してプレス成形して、図2(b)に示すFRP成形品を得た。成形条件として、金型高温1側を150℃、金型低温2側を140℃、圧力を100kgf/cmとした。他の条件は実施例2と同様とした。そして、最小保圧時間と成形品の表面状態とを観察したところ、成形保圧時間が270秒で、製品端部まで樹脂が充填し、外観に艶むら不良もないことが確認された。
【0025】
(比較例1)
ゲルタイムが60秒の1枚のSMCシート7を金型高温1側と金型低温2側との間でプレス成形した(図3(a))。
【0026】
(比較例2)
ゲルタイムが40秒の1枚のSMCシート8を金型高温1側と金型低温2側との間でプレス成形した(図3(b))。
【0027】
(比較例3)
ゲルタイムが60秒のSMCシート7,8を金型高温1側に配置し、ゲルタイムが40秒のSMCシートを金型低温2側に配置して、両金型面間でプレス成形した(図3(c))。
【0028】
上記実施例1、2、及び、比較例1〜3に用いたSMCのゲルタイムと成形時の保圧時間の測定結果と、成形品表面の状態を観察した結果を合わせて、以下の表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
上記表1の結果から、実施例1、2では、ゲルタイムを変えることなく、成形保圧時間を短縮することができた。また、成形品の外観は端部まで充填性がよく、艶むらの発生もなく、良好であることが確認できた。
【0031】
本発明により得られるFRP成形品は、洗い場パン、浴槽エプロン、壁パネルのような水廻り住宅建材以外に、自動車部品等にも広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態であり、(a)はゲルタイムの長いSMCシートとゲルタイムの短いSMCシートとの間に1枚の不織布を挟み込んで得られるSMC積層体を、ゲルタイムの長いSMCシートが金型高温側、ゲルタイムの短いSMCシートが金型低温側にそれぞれ位置するように、両金型面間に載置してプレス成形する場合の一例を示す模式図であり、(b)は(a)により得られたFRP成形品の模式図である。
【図2】本発明の他の実施形態であり、(a)はゲルタイムの長いSMCシートを両外側にそれぞれ配置し、ゲルタイムの短いSMCシートを内側に配置すると共にゲルタイムの長いSMCシートとゲルタイムの短いSMCシートとの間に不織布を挟み込んで得られるSMC積層体を、両外側のゲルタイムの長いSMCシートが金型高温側と金型低温側とにそれぞれ位置するように、両金型面間に載置してプレス成形する場合の一例を示す模式図であり、(b)は(a)により得られたFRP成形品の模式図である。
【図3】(a)〜(c)は比較例1、比較例2、比較例3を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0033】
1 金型高温側
2 金型低温側
3 シートモールディングコンパウンド
4 ゲルタイムの長いSMCシート
5 ゲルタイムの短いSMCシート
6 不織布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルタイムの異なる少なくとも2種類のSMCシートの間に少なくとも1枚の不織布を挟み込んで加熱積層成形してなることを特徴とするシートモールディングコンパウンド。
【請求項2】
上記ゲルタイムの長いSMCシートのゲルタイムを50〜100秒とし、ゲルタイムの短いSMCシートのゲルタイムを30〜50秒としたことを特徴とする請求項1記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項3】
上記不織布の目付けを50g/m以上としたことを特徴とする請求項1又は2記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項4】
ゲルタイムの異なる少なくとも2種類のSMCシートを用い、ゲルタイムの長いSMCシートとゲルタイムの短いSMCシートとの間に少なくとも1枚の不織布を挟み込んで得られるSMC積層体を、ゲルタイムの長いSMCシートが金型高温側、ゲルタイムの短いSMCシートが金型低温側にそれぞれ位置するように、両金型面間に載置してプレス成形することを特徴とするシートモールディングコンパウンドの成形方法。
【請求項5】
ゲルタイムの異なる少なくとも2種類のSMCシートを用い、ゲルタイムの長いSMCシートを両外側にそれぞれ配置し、ゲルタイムの短いSMCシートを内側に配置すると共にゲルタイムの長いSMCシートとゲルタイムの短いSMCシートとの間に不織布を挟み込んで得られるSMC積層体を、両外側のゲルタイムの長いSMCシートが金型高温側と金型低温側とにそれぞれ位置するように、両金型面間に載置してプレス成形することを特徴とするシートモールディングコンパウンドの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−266530(P2008−266530A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114717(P2007−114717)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(505154956)松下電工バス&ライフ株式会社 (306)
【Fターム(参考)】