説明

スクリーン印刷機およびスクリーン印刷機用のスキージ

【課題】 構成を複雑にすることなく、スクリーン版の版離れを確実かつスムースにすることができるとともにさらにスクリーン版の版離れ角度を一定にすることができるスクリーン印刷機を提供する。
【解決手段】 スクリーン印刷機10は被印刷物4を載置する印刷台12と、被印刷物上に被印刷物と所定間隔を空けて配置され磁性材料を用いて形成されたスクリーン版16と、スクリーン版を被印刷物に向けて押圧しながらスクリーン版上を移動するスキージ20と、を備えている。スキージは、スクリーン版を押圧する押圧部26と、押圧部の印刷時における移動方向後方に配置され磁石30を保持する磁石保持部28と、を有している。磁石は磁石保持部のスクリーン版に対面する側に保持され、これにより、印刷時のスクリーン版の版離れ角度θが一定となるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスクリーン印刷機およびスクリーン印刷機用のスキージに係り、とりわけ、スクリーン版の版離れ角度を一定にすることができるスクリーン印刷機およびスクリーン印刷機用のスキージに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スクリーン印刷機は、被印刷物上の所望の場所に塗工液を印刷(転写または配置)することに用いられる。そして、今日においては、スクリーン印刷機は、紙面への活字や図形の印刷に限られず、エレクトロニクス分野を始めとする様々な分野で用いられるようになっている。
【0003】
図10に従来のスクリーン印刷機11の概略を示す。スクリーン印刷機11は、被印刷物4を載置する印刷台12と、印刷台12上の被印刷物4上に被印刷物4との間に所定間隔を空けて配置されたスクリーン版16と、スクリーン版16上を移動するスキージ21と、を備えている。
【0004】
スクリーン版16は、その外縁をスクリーン版張設部18に張設、すなわち張った状態で保持されている。また、スクリーン版16には、スクリーン版16上から被印刷物4上に塗工液(インキまたはインキに相当するペースト状物体)2を通過させるための吐出孔が、所望の印刷パターンに対応して設けられている。スキージ21は、移動方向に直交する幅方向に沿って延びる略平板状のスキージ本体23と、スキージ本体23を保持するスキージフォルダ22と、を有している。
【0005】
このようなスクリーン印刷機で所望の印刷パターンを被印刷物に印刷する場合、スキージがスクリーン版を押圧してスクリーン版を被印刷物に線状に当接させるとともに、スクリーン版上を移動する。このとき、スクリーン版上であってスキージの移動方向前方に配置された塗工液はスキージの移動およびスクリーン版の被印刷物への当接にともない、スクリーン版の吐出孔に充填されるとともに被印刷物に接触する。そして、スキージが通過すると、スクリーン版は自らの張力によって被印刷物から離間、すなわち、版離れし、このとき、スクリーン版の吐出孔に充填された塗工液は被印刷物上に配置されたままスクリーン版から分離し、被印刷物上に所望のパターンが印刷(転写)される。
【0006】
このようなスクリーン印刷機の印刷精度を向上させるため、様々な改良がなされている(例えば、特許文献1および2)。
【特許文献1】特開平8−34110号公報
【特許文献2】特開2000−43234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、スクリーン印刷機に用いられる塗工液は通常ある程度の粘性を有している。この塗工液の粘性により、塗工液を介して被印刷物に接触したスクリーン版が、スキージの通過直後に被印刷物から離れ(版離れ)しないことがある。この場合、スクリーン版の版離れ速度が大きく変動し、塗工液の飛び散りまたはパターンの剥がれ等が生じてしまい、精度よく所望のパターンを印刷することができないという不具合が生じる。
【0008】
また、図11(a),(b),(c)に示すように、仮にスクリーン版の版離れがスムースに行われたとしても、印刷時におけるスキージ後方でのスクリーン版の版離れ角度θ(スクリーン版と被印刷物とがなす角度)はスキージの移動にともなって徐徐に小さくなっていく(θs>θc>θe)。この版離れ角度の変化によって、スクリーン版の版離れ引き上げ力、またこれにともなって版離れ速度が変動し、これにより、被印刷物に印刷されるパターンの厚み(塗工液の転写量)が均一にならないという不具合が生じる。
【0009】
さらに、既存のスクリーン印刷機を簡単に改造することによって、このような不具合点を解消することができれば好都合である。
【0010】
上述した特許文献1においては、スクリーン版を被印刷物から引き上げるための外力(磁力等)印加手段をさらに備えたスクリーン印刷機が開示されている。しかしながら、このようなスクリーン印刷機においては、外力印加手段自体の構成が複雑となり、またスクリーン印刷機の制御方法も変更する必要が生じてくる。したがって、既存のスクリーン印刷機を改造して用いることは困難である。また、版離れ角度を一定にすることについて、検討されていない。
【0011】
また、特許文献2に開示されたスクリーン印刷機は、スキージの位置に対応して印刷台が傾斜することにより、版離れ角度を一定にすることができるようになっている。すなわち、このスクリーン印刷機においては、スキージの位置を検出し、またそれにともなって印刷台の傾斜を制御しなければならない。このため、スクリーン印刷機が複雑化かつ大型化し、スクリーン印刷機の製造コストも高価になる。また、既存のスクリーン印刷機を改造して用いることも困難である。そもそも、塗工液の粘着力によりスクリーン版のスムースな版離れを確保することができない虞もある。
【0012】
このように開示された技術を用いて上述した不具合点を完全に解消することは困難である。
【0013】
本発明はこのような点を考慮してなされたものであり、構成を複雑にすることなく、スクリーン版の版離れを確実かつスムースにすることができるとともにさらにスクリーン版の版離れ角度を一定にすることができ、これにより、所望のパターンを精度よく印刷することができるスクリーン印刷機およびスクリーン印刷機用のスキージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、被印刷物を載置する印刷台と、印刷台上の被印刷物上に被印刷物と所定間隔を空けて配置され、磁性材料を用いて形成されたスクリーン版と、スクリーン版を被印刷物に向けて押圧しながらスクリーン版上を移動するスキージと、を備えたスクリーン印刷機であって、スキージは、スクリーン版を押圧する押圧部と、押圧部の印刷時における移動方向後方に配置され磁石を保持する磁石保持部と、を有し、磁石は磁石保持部のスクリーン版に対面する側に保持され、これにより、印刷時のスクリーン版の版離れ角度が一定となるようにしたことを特徴とするスクリーン印刷機である。このような本発明によれば、構成を複雑にすることなくスクリーン版の版離れを確実かつスムースにすることができるとともに、さらにスクリーン版の版離れ角度を一定にすることができる。これにより、所望のパターンを精度よく印刷することができる。また、既存のスクリーン印刷機を簡単に改造することによってこのような印刷精度の高いスクリーン印刷機を得ることができる。
【0015】
このようなスクリーン印刷機において、押圧部と磁石保持部とが一体に形成されていることが好ましい。この場合、スクリーン印刷機の構成をさらに簡易化することができ、スクリーン印刷機の取り扱いも容易である。また、この場合、押圧部と磁石保持部との間であってスクリーン版に対面する側に空隙が設けられていることが好ましい。この場合、必要以上にスクリーン版を擦り付けてしまうことを防止し、スクリーン版を損傷してしまうことを抑制することができる。
【0016】
このようなスクリーン印刷機において、磁石保持部は移動方向に直交する幅方向に沿って磁石を保持するようにしてもよい。また、この場合、複数の磁石が幅方向に沿って間隔を空けて配置されるようにしてもよい。
【0017】
このようなスクリーン印刷機において、磁石保持部は移動方向に沿って離間した第1保持部および第2保持部において磁石を保持するようにしてもよい。また、この場合、第1保持部および第2保持部において、複数の磁石が移動方向に直交する幅方向に沿って間隔を空けて配置されるようにしてもよい。
【0018】
このようなスクリーン印刷機において、磁石のスクリーン版に対面する面に保護膜が形成されていることが好ましい。この場合、磁石がスクリーン版を擦り付けて損傷してしまうことを抑制することができる。
【0019】
本発明は、被印刷物を載置する印刷台と、印刷台上の被印刷物上に被印刷物と所定間隔を空けて配置され、磁性材料を用いて形成されたスクリーン版と、を備えたスクリーン印刷機に用いられるスキージであって、スクリーン版を被印刷物に向けて押圧しながらスクリーン版上を移動するスキージにおいて、スクリーン版を押圧する押圧部と、押圧部の印刷時における移動方向後方に配置され磁石を保持する磁石保持部と、を備え、磁石は磁石保持部のスクリーン版に対面する側に保持され、これにより、印刷時のスクリーン版の版離れ角度が一定となるようにしたことを特徴とするスクリーン印刷機用のスキージである。このような本発明によれば、簡単な構成からなるスキージにより、磁性材料を用いて形成されたスクリーン版を備えるスクリーン印刷機の版離れを確実かつスムースにすることができるとともに、さらにスクリーン版の版離れ角度を一定にすることができる。これにより、スクリーン印刷機の印刷精度を向上させることができる。また、このようなスキージを既存のスクリーン印刷機に容易に適用することができる。
【0020】
このようなスキージにおいて、押圧部と磁石保持部とが一体に形成されていることが好ましい。この場合、スキージの構成をさらに簡易化することができ、スクリーン印刷機全体の取り扱いも容易である。また、この場合、押圧部と磁石保持部との間であってスクリーン版に対面する側に空隙が設けられていることが好ましい。この場合、必要以上にスクリーン版を擦り付けてしまうことを防止し、スクリーン版を損傷してしまうことを抑制することができる。
【0021】
このようなスキージにおいて、磁石保持部は移動方向に直交する幅方向に沿って磁石を保持するようにしてもよい。また、この場合、複数の磁石が幅方向に沿って間隔を空けて配置されようにしてもよい。
【0022】
このようなスキージにおいて、磁石保持部は移動方向に沿って離間した第1保持部および第2保持部において磁石を保持するようにしてもよい。また、この場合、第1保持部および第2保持部において、複数の磁石が移動方向に直交する幅方向に沿って間隔を空けて配置されるようにしてもよい。
【0023】
このようなスキージにおいて、磁石のスクリーン版に対面する面に保護膜が形成されていることが好ましい。この場合、磁石がスクリーン版を擦り付けて損傷してしまうことを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下添付図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
【0025】
図1乃至図5は本発明によるスクリーン印刷機10およびスクリーン印刷機10用のスキージ20の一実施の形態を示す図である。このうち図1はスクリーン印刷機10を示す側面図であり、図2はスクリーン印刷機10を示す平面図であり、図3はスキージ20を示す側面図であり、図4はスキージ20の設計方法を説明する図であり、図5(a),(b),(c)は印刷時の各位置(印刷開始時、印刷中間時、印刷終了時)における版離れ角度θを説明する図である。
【0026】
図1乃至図5に示す本実施の形態のスクリーン印刷機10は、スキージ20が異なるのみであり、他は図8および図9(a),(b),(c)を用いて説明した従来のスクリーン印刷機11と略同一である。図1乃至図5において、図10および図11(a),(b),(c)に示す従来のスクリーン印刷機11と同一部分には同一符号を付すとともに、重複する説明の一部を省略する。
【0027】
なお、図10は従来のスクリーン印刷機11を示す側面図であり、図11(a),(b),(c)は従来のスクリーン印刷機11の印刷時の各位置(印刷開始時、印刷中間時、印刷終了時)における版離れ角度θs,θc,θeを説明する図である。
【0028】
図1乃至図5に示すように、本実施の形態によるスクリーン印刷機10は、被印刷物4を載置する印刷台12と、印刷台12上の被印刷物4上方に被印刷物4との間に間隔を空けて配置されたスクリーン版16と、スクリーン版16に当接してスクリーン版16を押圧しながらスクリーン版16上を移動するスキージ20と、を備えている。
【0029】
図1に示すように、スクリーン版16は、スキージ移動方向の両端縁をスクリーン版張設部18に張設、すなわち張った状態で保持されている。また、スクリーン版16には、スクリーン版16上から被印刷物4上に塗工液(インキまたはインキに相当するペースト状物体)2を通過させるための吐出孔(図示せず)が、所望の印刷パターンに対応して設けられている。このようなスクリーン版16は磁性材料を用いて形成されている。
【0030】
なお、本発明におけるスクリーン版16とは、古くから広く用いられてきた網目状の紗を有する版だけでなく、昨今エレクトロニクスの分野において用いられているメタルマスクや樹脂マスクを含む概念である。このうち紗を有する版であって磁性材料を用いて形成されたものとしては、ステンレス鋼等を網目状に編み込んだ紗と、ニッケル合金やステンレス鋼等からなり、前述した吐出孔が所望パターンに対応して設けられたシートとを積層したもの、あるいはステンレス鋼等からなる紗の網目のうち吐出口を除く範囲に樹脂が入り込んでいるもの等があげられる。一方、エレクトロニクスの分野、とりわけプリント回路やICの印刷に用いられるメタルマスクであって磁性材料を用いて形成されたものとしては、ニッケル合金やステンレス鋼等からなり、前述した吐出孔が所望パターンに対応して設けられたシートがあげられる。
【0031】
図2に示すように、スクリーン版16は、スクリーン版張設部18に把持された領域を含むスクリーン版16の縁部からなり、印刷に用いられない非印刷範囲16bと、非印刷範囲16bに囲まれる範囲であって、被印刷物4に当接させられて印刷に用いられる印刷有効範囲16aと、を有している。上述した吐出孔は当然に印刷有効範囲16a内に設けられている。また、本願において印刷時(印刷)とは、スクリーン版16の印刷有効範囲16aが被印刷物4と当接するとき、言い換えると、スキージ20がスクリーン版16の印刷有効範囲16a上にありスクリーン版16に当接してスクリーン版16を被印刷物4に向けて押圧しているときを意味する。また、本願においてスクリーン版16の裏面とは被印刷物4に対面する側の面をさす。
【0032】
次に、スキージ20について詳述する。
【0033】
図1乃至図3に示すように、本実施の形態において、スキージ20は、幅方向に沿って延びるスキージ本体24と、スキージ本体24を保持するスキージフォルダ22と、を有している。ただし、このような態様に限定されることなく、スキージ本体24とスキージフォルダ22とが一体に形成されてスキージ20を構成するようにしてもよい。また、スクリーン印刷機10は、スキージ本体24とスキージフォルダ22とを移動させるための駆動部(図示せず)をさらに備えている。
【0034】
図1乃至図3に示すように、スキージ本体24は、スクリーン版16を押圧する押圧部26と、押圧部26の印刷時における移動方向後方に配置され磁石30を保持する磁石保持部28と、を有している。そして、特に図3に示すように、磁石30は磁石保持部28のスクリーン版16に対面する側の面に配置(保持)されている。
【0035】
特に図3に示すように、本実施の形態において、押圧部26と磁石保持部28とは、例えば、ウレタン樹脂のような樹脂、金属、または樹脂をコーティングされた金属等から、一体に形成されている。また、本実施の形態において、押圧部26と磁石保持部28との間であってスクリーン版16に対面する側には、断面円形状を有する空隙32が形成されている。スキージ本体24が必要以上にスクリーン版16を擦り付けることを防止し、スクリーン版16を損傷しまうことを抑制するためである。このような空隙32は、スクリーン版16を損傷しまうことを抑制することができる限りにおいて、断面矩形状を有する形状や、断面三角形状を有する形状等に変更することができる。
【0036】
また、本実施の形態において、磁石30は細長状に形成され、磁石保持部28の幅方向両端部間に渡って延在している。すなわち、磁石保持部28は幅方向に沿って磁石30を保持している。このような磁石30は、サマコバ磁石、アルニコ磁石、フェライト磁石、またはネオジウム磁石のような永久磁石、あるいは電磁石を用いることができる。また、図3に示すように、磁石30のスクリーン版に対面する側の面には保護膜30aが形成されている。保護膜30aは、磁石30がスクリーン版16を擦り付けて損傷してしまうことを防止するために設けたものであり、テフロン(登録商標)、フッ素等を含むポリマーにて磁石30を被覆すること等により形成され得る。
【0037】
次に、図4によりスキージ20の設計方法について説明する。
【0038】
図4は印刷開始時におけるスクリーン印刷機10の状態を示している。Aは印刷開始時におけるスキージ20の押圧部26のスクリーン版16への当接位置(押圧位置)、すなわち、スクリーン版16と被印刷物4との接触位置であり、Bは印刷開始時における磁石30のスクリーン版16への接触(吸着)位置である。
【0039】
本実施の形態において、印刷開始時におけるスクリーン版16の版離れ角度θが、磁石保持部28および磁石30を設けなかった場合の印刷開始時におけるスクリーン版16の版離れ角度θsと同一となるように磁石30の形状と磁石30の配置位置とが決定されている。つまり、印刷開始時におけるスキージ20の押圧部26のスクリーン版16への当接位置Aと印刷開始時における磁石30のスクリーン版16への接触位置Bとの間のスキージ移動方向に沿った離間長さeに対する、印刷開始時における磁石30のスクリーン版16への接触位置Bの被印刷物4からの高さhの比の値(h/e)が、印刷開始時におけるスキージ20の押圧部26のスクリーン版16への当接位置Aと印刷開始側のスクリーン版16の保持位置Cとの間のスキージ移動方向に沿った離間長さfに対する、スクリーン版16と被印刷物4との離間間隔dの比の値(d/f)と同一となっている、すなわち、
h/e=d/f
となっている。図4に示すように、このようにスキージ20を構成することにより、印刷開始時において磁石30はスクリーン版16に接触する。また、この場合、図4に示すように、押圧部26のスクリーン版16を押圧する面と磁石30のスクリーン版16に接触(吸着)する面とが同一平面上に配置されることが好ましく、また、当該押圧面および接触面が印刷開始時における接触位置Aと保持位置Cとの間でのスクリーン版16と同一平面上に配置されるようになっていることがさらに好ましい。
【0040】
なお、上述した磁石30の配置位置は、磁石保持部28の形状を調整することにより、変更することができる。
【0041】
しかしながら、印刷開始時におけるスクリーン版16の版離れ角度θが、当接部材30を設けなかった場合の印刷開始時におけるスクリーン版16の版離れ角度θsと同一となるようにすることは必須ではなく、版離れ角度θが版離れ角度θs以上となるように、磁石30の形状と磁石30の配置位置とが決定されてもよい。つまり、当接位置Aと接触位置Bとの間のスキージ移動方向に沿った離間長さeに対する、接触位置Bの高さhの比の値(h/e)が、当接位置Aと保持位置Cとの間のスキージ移動方向に沿った離間長さfに対する、保持位置Cと被印刷物4との離間間隔dの比の値(d/f)以上となるように、すなわち、
h/e≧d/f
となるようにしてもよい。この場合、印刷開始時において、スクリーン版16は接触位置Aと保持位置Cとを結ぶ平面上から磁石30により上方に引き上げられる。
【0042】
また、この場合においても、押圧部26のスクリーン版16を押圧する面と磁石30のスクリーン版に接触(吸着)する面とが同一平面上に配置されていることが好ましい。
【0043】
次にこのような構成からなる本実施の形態の作用について説明する。
【0044】
本実施の形態によるスクリーン印刷機10の場合も、従来のスクリーン印刷機11と同様にして被印刷物4にパターンを印刷する。すなわち、スキージ20がスクリーン版16を押圧してスクリーン版16を被印刷物4に線状に当接させるとともに、スクリーン版16上を移動する。そして、スクリーン版16上であってスキージ20の移動方向前方に配置された塗工液2はスキージ20の移動およびスクリーン版16の被印刷物4への当接にともない、スクリーン版16の吐出孔に充填されるとともに被印刷物4に接触する。そして、スキージ20が通過すると、スクリーン版16は自らの張力によって被印刷物4から離間、すなわち、版離れし、スクリーン版16の吐出孔に充填された塗工液2は被印刷物4上に配置されたままスクリーン版16から分離し、被印刷物4上にパターンが印刷(転写)される。
【0045】
このとき、従来のスクリーン印刷機11においては、図11(a),(b),(c)に示すように、スクリーン版16と被印刷物4との間の離間間隔dが一定であることから、印刷が進みスキージ20が印刷開始側のスクリーン版16の保持位置Cから遠ざかるにつれて、すなわち離間長さfが長くなるにつれて、スキージ後方におけるスクリーン版16の版離れ角度θは小さくなっていく。しかしながら、本実施の形態によれば、特に図5に示すように、スクリーン版16と被印刷物4との接触(当接)位置Aから一定長さe後方に、スキージ20の磁石保持部28に保持された磁石30が設けられている。この磁石30は磁性材料を用いて形成されたスクリーン版16と引き合うので、スクリーン版16を一定高さhまで引き上げる。また、本実施の形態においては、磁石30に引き上げられることによってスクリーン版16と被印刷物4とがなす角度(版離れ角度)θが、磁石保持部材28および磁石30が設けられていない場合において最大となる印刷開始時の版離れ角度θs以上となるようになっている。
【0046】
したがって、図5(a),(b),(c)に示すように、スキージ20がスクリーン版16の印刷有効範囲16aを被印刷物4に当接させて印刷している間に渡って、磁石30は押圧部28から移動方向に沿って一定距離e後方で、スクリーン版16を被印刷物4から分離するように引き上げる。これにより、スクリーン版16はスキージ20の通過後直ちに版離れする。また、押圧部26と磁石保持部28に保持された磁石30との相対位置関係は変化しないので、印刷している間に渡ってスクリーン版16の版離れ角度θは一定となる。これにともなって版離れ引き上げ力および版離れ速度が印刷している間に渡って一定となり、塗工液2の飛び散りまたはパターンの剥がれ等を生じさせることなく、所望の塗工液2の転写量により所望のパターンを精度よく印刷することができる。
【0047】
また、磁石30は幅方向に沿って延びる細長状からなり、磁石保持部28の幅方向両端部間に渡って延在している。したがって、被印刷物4に線状に貼り付くスクリーン版16を幅方向に沿った両端間に渡って線状に引き上げる力が生じる。これにより、スムースかつ確実な版離れを引き起こすことができる。
【0048】
以上のように本実施の形態によれば、スキージ20はスクリーン版16を被印刷物4に向けて押圧する押圧部26と、押圧部26の移動方向後方に配置された磁石保持部28とを有し、磁石保持部28のスクリーン版16に対面する側の面には磁石30が設けられている。この磁石30は、押圧部26から移動方向に沿って一定長さe後方で被印刷物4から一定高さhまでスクリーン版16を引き上げる。したがって、スクリーン印刷機10のスクリーン版16の版離れを確実かつスムースにすることができるとともに、さらにスクリーン版16の版離れ角度θを印刷している間に渡って一定にすることができる。これにより、スクリーン印刷機10の印刷精度を向上させることができる。また、このようなスキージ20を既存のスクリーン印刷機11に容易に適用することができるので、既存のスクリーン印刷機11を安価に改造してその印刷精度を向上させることができる。
【0049】
また、本実施の形態によれば、押圧部26と磁石保持部28とが一体に形成されているので、スキージ20の構成はさらに簡易化され、これにより、スクリーン印刷機10の構成もより簡易となり、またスクリーン印刷機10の取り扱いも容易となる。
【0050】
さらに、本実施の形態によれば、押圧部26と磁石保持部28との間であってスクリーン版16に対面する側に空隙32が設けられている。このため、スキージ20が必要以上にスクリーン版16を擦り付けてしまうことを防止することができ、これにより、スクリーン版16を損傷してしまうことを抑制することができる。
【0051】
さらにまた、本実施の形態によれば、磁石保持部28は移動方向に直交する幅方向に沿いスクリーン版16の幅方向両端部間に渡って磁石30を保持している。したがって、スクリーン版16を被印刷物4から全幅に渡って線状に引き上げる力が生じ、これにより、よりスムースな版離れ引き起こすことができる。
【0052】
またさらに、本実施の形態によれば、磁石30のスクリーン版16に対面する面に保護膜30aが形成されているので、磁石30がスクリーン版16を擦り付けて損傷してしまうことを抑制することができる。
【0053】
また、本実施の形態によれば、押圧部26のスクリーン版16を押圧する面と、磁石30のスクリーン版16に接触(吸着)する面とが、同一平面上に配置されている。したがって、押圧部26と磁石保持部28に保持された磁石30との間でスクリーン版16は平面状となる。これにより、磁石30と磁性材料を用いて形成されたスクリーン版16との引き合う力を、被印刷物4からスクリーン版16を分離させることに効率的に用いることができる。
【0054】
なお、本実施の形態において、磁石30は細長状からなり、磁石保持部28の幅方向両端部間に渡って延在する例を示したが、これに限られず、例えば図6(a),(b)に示すように変形してもよい。
【0055】
なお、図6(a),(b)はスキージ20を下方から示す図であって磁石30の配置方法の変形例を説明するための図である。図6において、図1乃至図5を用いて説明したスクリーン印刷機10およびスキージ20の実施の形態と同一部分には同一符号を付し、重複する詳細な説明を省略する。
【0056】
図6(a)に示すスキージ20においては、複数の磁石30が、磁石保持部28の幅方向に沿って一列に配置されている。また、図6(b)に示すように、スクリーン版16を被印刷物4から引き上げるための十分な力を確保することができる限りにおいて、複数の小さな磁石30を幅方向に沿って間隔を空けて、すなわち磁石30間に隙間30bを設けるようにして配置してもよい。
【0057】
また、本実施の形態において、磁石保持部28が押圧部26の移動方向後方の一箇所において磁石30を保持する例を示したが、これに限られない。例えば、図7に示すように、磁石保持部28が移動方向に沿って離間した第1保持部28aおよび第2保持部28bにて磁石30を保持するようにしてもよいし、または3箇所以上にて磁石30を保持するようにしてもよい。
【0058】
なお、図7はスキージの変形例を示す側面図である。図7において、図1乃至図6を用いて説明したスクリーン印刷機10およびスキージ20の実施の形態およびその変形例と同一部分には同一符号を付し、重複する詳細な説明を省略する。
【0059】
図7に示すスキージ20aにおいて、押圧部26と磁石保持部28との間であってスクリーン版16に対面する側には、断面略矩形状を有する空隙32が形成されている。また、移動方向に沿って離間して配置された第1保持部28aと第2保持部28bとの間であってスクリーン版16に対面する側にも、断面略矩形状を有する空隙34が形成されている。これらの空隙32,34は、上述したように、スキージ20aがスクリーン版16を損傷してしまうことを抑制するために設けられたものであり、この限りにおいて空隙32,34の形状は特に限定されない。
【0060】
また、上述した実施の形態およびその変形例で説明したように、このようなスキージ20aにおいても、スクリーン版16を被印刷物4から引き上げることができる限りにおいて、各列の磁石30を種々の方法で配置することができる。
【0061】
図8(a),(b)はスキージ20aを下方から示す図であって、磁石30の配置方法を説明するための図である。図1乃至図6を用いて説明したスクリーン印刷機10およびスキージ20の実施の形態およびその変形例と同一部分には同一符号を付し、重複する詳細な説明を省略する。
【0062】
このうち図8(a)は、細長状からなり磁石保持部28の幅方向両端部間に延在する磁石30を第1保持部28aおよび第2保持部28bにそれぞれ配置した例を示している。また、上述したように、複数の小さな磁石30を幅方向に沿って第1保持部28aおよび第2保持部に配置してもよい。さらには、複数の小さな磁石30を幅方向に沿って間隔を空けて、すなわち磁石30間に隙間30bを設けて第1保持部28aおよび第2保持部28bに配置してもよい。さらには、図8(b)に示すように、隣接する保持部において隙間30bが設けられた部分と対応する(幅方向位置が同一となる)部分に磁30石を配置するとともに、隣接する保持部において磁石30が配置された部分と対応する(幅方向位置が同一となる)部分に隙間30bを設けるように、すなわち、いわゆる千鳥状に磁石30を配置してもよい。
【0063】
さらにまた、本実施の形態によれば、印刷時におけるスキージ後方でのスクリーン版16の版離れ角度θが、スキージ20に磁石保持部28および磁石30を設けなかった場合における最大版離れ角度θs以上となるように、磁石30の形状と磁石30の磁石保持部28による配置位置とを決定する例を示したが、版離れ角度θがスクリーン版16を被印刷物4から分離させるのに十分な大きさとなっている限りにおいてこれに限られない。すなわち、図9に示すように、版離れ角度θがスキージ20に磁石保持部28および磁石30を設けなかった場合における最大版離れ角度θsよりも小さくなるようにしてもよい。
【0064】
なお、図9において、図1乃至図8を用いて説明したスクリーン印刷機10およびスキージ20,20aの一実施の形態およびその変形例と同一部分には同一符号を付し、重複する詳細な説明を省略する。
【0065】
スクリーン版16が被印刷物4からある程度離れて保持されている場合(離間間隔dが大きい場合)、印刷開始側においては、版離れ角度θが大きくなり、磁石30が設けられてかったとしても十分な版離れ引き上げ力が期待される。その一方で、離間間隔dが大きい場合であっても印刷有効範囲16aが移動方向に長いと、印刷終了側においては、版離れ角度θが小さくなり、磁石30が設けられていないと十分な引き上げ力を確保することができないことも想定される。このような場合には、版離れ角度θが印刷終了時における版離れ角度θeより大きく、かつ印刷開始時における版離れ角度θsより小さくなるように、磁石30の形状と磁石30の磁石保持部28による配置位置とを決定するようにしてもよい。図9に示すように、この場合、磁石保持部28および磁石30は、印刷開始側においてスクリーン版16を下方に押圧して押し下げ、印刷終了側においてスクリーン版16を上方に引き上げる。そして、この場合の版離れ角度θも印刷開始時から印刷終了時までの間に渡って一定となり、これにより、パターンを精度よく印刷することができる。また、版離れ角度θを大きくし過ぎた場合に生ずる不都合、例えば、スクリーン版16の損傷、塗工液2の飛び散り、パターン剥がれ等を回避することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明によるスクリーン印刷機の一実施の形態を示す側面図。
【図2】スクリーン印刷機を示す平面図。
【図3】本発明によるスキージの一実施の形態を示す側面図。
【図4】スキージの設計方法を説明する図。
【図5】スクリーン印刷機の印刷時の各位置における版離れ角度を説明する図。
【図6】スキージを下方から示す図であって磁石の配置方法の変形例を説明するための図。
【図7】スキージの変形例を示す側面図。
【図8】スキージの変形例を下方から示す図であって、磁石の配置方法を説明するための図。
【図9】印刷時の各位置における版離れ角度を説明する図。
【図10】従来のスクリーン印刷機を示す側面図。
【図11】従来のスクリーン印刷機の印刷時の各位置における版離れ角度を説明する図。
【符号の説明】
【0067】
2 塗工液
4 被印刷物
10 スクリーン印刷機
11 従来のスクリーン印刷機
12 印刷台
16 スクリーン版
16a 印刷有効範囲
16b 非印刷範囲
18 スクリーン版張設部
20 スキージ
21 従来のスキージ
22 スキージフォルダ
24 スキージ本体
26 押圧部
28 磁石保持部
28a 第1保持部
28b 第2保持部
30 磁石
30a 保護膜
30b 隙間
A スキージの押圧部のスクリーン版への当接(押圧)位置
B 磁石のスクリーン版への接触位置
C スクリーン版の保持位置
d スクリーン版と被印刷物との離間間隔
e 当接位置Aと接触位置Bとの間のスキージ移動方向に沿った離間長さ
f 当接位置Aと保持位置Cとの間のスキージ移動方向に沿った離間長さ
h 接触位置Bの高さ
θ 印刷時にスキージ後方でスクリーン版と被印刷物とがなす角度(版離れ角度)
θs 磁石を設けなかった場合(従来のスクリーン印刷機)の印刷開始時におけるスクリーン版の版離れ角度
θc 磁石を設けなかった場合(従来のスクリーン印刷機)の印刷中間時におけるスクリーン版の版離れ角度
θe 磁石を設けなかった場合(従来のスクリーン印刷機)の印刷終了時におけるスクリーン版の版離れ角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷物を載置する印刷台と、
印刷台上の被印刷物上に被印刷物と所定間隔を空けて配置され、磁性材料を用いて形成されたスクリーン版と、
スクリーン版を被印刷物に向けて押圧しながらスクリーン版上を移動するスキージと、を備えたスクリーン印刷機であって、
スキージは、スクリーン版を押圧する押圧部と、押圧部の印刷時における移動方向後方に配置され磁石を保持する磁石保持部と、を有し、
磁石は磁石保持部のスクリーン版に対面する側に保持され、これにより、印刷時のスクリーン版の版離れ角度が一定となるようにした
ことを特徴とするスクリーン印刷機。
【請求項2】
押圧部と磁石保持部とが一体に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のスクリーン印刷機。
【請求項3】
押圧部と磁石保持部との間であってスクリーン版に対面する側に空隙が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のスクリーン印刷機。
【請求項4】
磁石保持部は移動方向に直交する幅方向に沿って磁石を保持している
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のスクリーン印刷機。
【請求項5】
複数の磁石が幅方向に沿って間隔を空けて配置されている
ことを特徴とする請求項4に記載のスクリーン印刷機。
【請求項6】
磁石保持部は移動方向に離間した第1保持部および第2保持部において磁石を保持している
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のスクリーン印刷機。
【請求項7】
第1保持部および第2保持部において、複数の磁石が移動方向に直交する幅方向に沿って間隔を空けて配置されている
ことを特徴とする請求項6に記載のスクリーン印刷機。
【請求項8】
磁石のスクリーン版に対面する面に保護膜が形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のスクリーン印刷機。
【請求項9】
被印刷物を載置する印刷台と、印刷台上の被印刷物上に被印刷物と所定間隔を空けて配置され、磁性材料を用いて形成されたスクリーン版と、を備えたスクリーン印刷機に用いられるスキージであって、スクリーン版を被印刷物に向けて押圧しながらスクリーン版上を移動するスキージにおいて、
スクリーン版を押圧する押圧部と、
押圧部の印刷時における移動方向後方に配置され磁石を保持する磁石保持部と、を備え、
磁石は磁石保持部のスクリーン版に対面する側に保持され、これにより、印刷時のスクリーン版の版離れ角度が一定となるようにした
ことを特徴とするスクリーン印刷機用のスキージ。
【請求項10】
押圧部と磁石保持部とが一体に形成されている
ことを特徴とする請求項9に記載のスクリーン印刷機用のスキージ。
【請求項11】
押圧部と磁石保持部との間であってスクリーン版に対面する側に空隙が設けられていることを特徴とする請求項10に記載のスクリーン印刷機用のスキージ。
【請求項12】
磁石保持部は移動方向に直交する幅方向に沿って磁石を保持している
ことを特徴とする請求項9乃至11のいずれか一項に記載のスクリーン印刷機用のスキージ。
【請求項13】
複数の磁石が幅方向に沿って間隔を空けて配置されている
ことを特徴とする請求項12に記載のスクリーン印刷機用のスキージ。
【請求項14】
磁石保持部は移動方向に離間した第1保持部および第2保持部において磁石を保持している
ことを特徴とする請求項9乃至11のいずれか一項に記載のスクリーン印刷機用のスキージ。
【請求項15】
第1保持部および第2保持部において、複数の磁石が移動方向に直交する幅方向に沿って間隔を空けて配置されている
ことを特徴とする請求項14に記載のスクリーン印刷機用のスキージ。
【請求項16】
磁石のスクリーン版に対面する面に保護膜が形成されている
ことを特徴とする請求項9乃至15のいずれか一項に記載のスクリーン印刷機用のスキージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−198791(P2006−198791A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10271(P2005−10271)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】