スタビリンクおよびその製造方法
【課題】ボールシートの固定部に強化樹脂を用いた場合でも、所望の引き抜き強度を得ることができるスタビリンクおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】サブ組立体100Aの形成では、ボールシート200の本体部201の側面部の底部側とハウジング300の内面の底部側との間に空間Sを設けている。ハウジング300の底部側の外面に型600を設けることにより、キャビティCを形成する。キャビティCおよび空間Sの内部に強化樹脂Rを注入して射出成形を行う。射出成形により本体部201の側面部の底部側に、図3に示す固定部202が形成される。この場合、本体部201の固定用溝部221に嵌合する固定用凸条部231が固定部202に形成される。ハウジングの孔部320から外部へ突出する突起部232が固定部202の底部に形成され、突起部232はハウジング300の底部外面と係合する形状を有する。
【解決手段】サブ組立体100Aの形成では、ボールシート200の本体部201の側面部の底部側とハウジング300の内面の底部側との間に空間Sを設けている。ハウジング300の底部側の外面に型600を設けることにより、キャビティCを形成する。キャビティCおよび空間Sの内部に強化樹脂Rを注入して射出成形を行う。射出成形により本体部201の側面部の底部側に、図3に示す固定部202が形成される。この場合、本体部201の固定用溝部221に嵌合する固定用凸条部231が固定部202に形成される。ハウジングの孔部320から外部へ突出する突起部232が固定部202の底部に形成され、突起部232はハウジング300の底部外面と係合する形状を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールシートを備えたスタビリンクに係り、特に、ボールシートの固定手法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
スタビリンクは、サスペンション装置とスタビライザ装置とを連結するスタビリンク部品である。図1は、車両の前車輪側の概略構成を表す斜視図である。サスペンション装置10は、左右のタイヤ30に設けられ、アーム11とシリンダ12を備えている。アーム11の下端部はタイヤ30の軸を支持する軸受部に固定され、シリンダ12はアーム11に対して弾性変位が可能である。アーム11には、スタビリンク1が取り付けられるブラケット13が設けられている。サスペンション装置10は、タイヤ30に加えられる車体の重量を支えている。スタビライザ装置20は、略コ字形状を有するバー21を備え、ブッシュ22を介して車体に取り付けられている。スタビライザ装置20は、車両のロール剛性を確保する。
【0003】
スタビリンク1は、サスペンション装置10のブラケット13およびスタビライザ装置20のバー21の端部に設けられ、スタビリンク1同士はサポートバー6により連結されている。スタビリンク1は、サスペンション装置10が路面からの入力を受けたときに発生する荷重をスタビライザ装置20に伝達する。
【0004】
図2は、スタビリンク1の構成の具体例を表す側断面図である。スタビリンク1は、スタッドボール2、ボールシート3、ハウジング4、および、ダストカバー5を備えている。
【0005】
スタッドボール2は、一体成形されたスタッド部2Aおよびボール部2Bを有している。スタッド部2Aの先端部にはねじ部2Cが形成されている。サスペンション装置10側のスタビリンク1のねじ部2Cは、アーム11のブラケット13にねじ締結により固定され、スタビライザ装置20側のスタビリンク1のねじ部2Cは、バー21にねじ締結により固定されている。ボールシート3およびハウジング4は、スタッドボール2をユニバーサルに軸支する軸支部材を構成している。
【0006】
ボールシート3の凹部3Aは、そこにスタッドボール2のボール部2Bが圧入され、ベアリング機能を有する。ハウジング4は、ボールシート3を収容している。ダストカバー5は、ボールシート3の凹部3A内への異物の侵入を防止する。ハウジング4の側面には、スタビリンク1同士を接続するサポートバー6が設けられている。ボールシート3の底面部には、固定部として熱かしめ部3Bが形成されている。熱かしめ部3Bの形成では、ボールシート3のピン部をハウジング4の孔部4Aから外部へ突出させ、熱かしめや超音波かしめによりピン部を変形させることにより、ハウジング4の底部外部にかしめる。ボールシート3は、熱かしめ部3Bによりハウジング4に固定される(たとえば特許文献1,2)。
【0007】
このようなスタビリンク1では、スタッドボール2のボール部2Bがボールシート3の凹部3Aから引き抜かれることを防止するために、引き抜き強度を増大させる必要がある。この場合、ハウジング4に対するボールシート3の固定部位であるかしめ部3Bの強度は、同じ材料で構成されるボールシート3の強度に対応するから、スタッドボール2の引き抜き強度は、ボールシート3の強度により決定される。
【0008】
ボールシート3の強度を高めるために、グラスファイバ等の強化剤を含有させた強化樹脂をボールシート3に用いることが考えられるが、この場合、強化剤は、スタッドボール2のボール部2Bへの攻撃性を有するため、ボールシート3のベアリング機能が低下する虞がある。他方、ベアリング機能を優先させるために、ボールシート3の材料として、強化剤を含有しないポリアセタール(POM)を用いる場合、たとえばφ16球で引き抜き強度が2000N〜2800N程度しか得られない。
【0009】
そこで本発明者は、引き抜き強度の向上およびベアリング機能の低下防止の両立を図るため、二色成形により得られるハイブリッド型ボールシートを提案している(たとえば特許文献3)。ハイブリッド型ボールシートは、スタッドボールのボール部をユニバーサルに支持するベアリング機能を有するボール受け部と、ボール受け部の外側に形成されるとともに強化樹脂からなる強化部とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−117429号公報
【特許文献2】特開平7−54835号公報
【特許文献3】特開2010−65725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、ハイブリッド型ボールシートでは、スタビリンク1のボールシート3と同様に、熱かしめ部3Bによりボールシートを固定する手法を用いた場合、熱かしめや超音波かしめを行うとき、強化樹脂に含有されている強化剤の挙動制御が困難であるため、強化繊維の正規配列の崩壊が生じやすく、その結果、所望の引き抜き強度を得ることができない虞があった。
【0012】
したがって、本発明は、ボールシートの固定部に強化樹脂を用いた場合でも、所望の引き抜き強度を得ることができるスタビリンクおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のスタビリンクの製造方法は、スタッドボール、ボールシートの本体部、および、ハウジングを備えたサブ組立体を形成し、そのサブ組立体の形成では、本体部の側面部の底部側とハウジングの内面の底部側との間に空間を設け、サブ組立体におけるハウジングの底部側の外面に型を設けることにより、キャビティを形成し、キャビティおよび空間の内部に強化樹脂を注入して射出成形を行うことにより、本体部の側面部の底部側を覆うボールシートの固定部を形成し、ボールシートの本体部の形成では、本体部の側面部の底部側に、凹部および凸部の少なくとも一方からなる第1嵌合形状を形成し、ボールシートの固定部の形成では、強化剤を含有する樹脂を強化樹脂として用い、ハウジングの孔部を通じて本体部の側面部の外面に対して強化樹脂を流入させることにより、第1嵌合形状に嵌合する第2嵌合形状を固定部に形成するとともに、ハウジングの孔部から外部へ突出する突起部を固定部の底部に形成し、突起部をハウジングの底部の外面と係合する形状とすることを特徴とする。
【0014】
本発明のスタビリンクの製造方法では、ボールシートの本体部の側面部の底部側とハウジングの内面の底部側との間に空間を設けるようにしてサブ組立体を形成し、サブ組立体におけるハウジングの底部側の外面に型を設けることによってキャビティを形成する。そのようなキャビティおよび空間の内部に強化樹脂を注入して射出成形を行うことにより、本体部の側面部の底部側を覆う固定部をボールシートに形成している。
【0015】
ボールシートの固定部の形成では、ハウジングの孔部を通じて本体部の側面部の外面に対して強化樹脂を流入させることにより、本体部の第1嵌合形状に嵌合する第2嵌合形状を固定部に形成しているから、第1嵌合形状(本体部側嵌合形状)および第2嵌合形状(固定部側嵌合形状)からなる嵌合部によって、本体部と固定部は機械的に噛み合うことができる。したがって、ボールシートでは、本体部と固定部の材料である互いの樹脂が化学的融合をしなくても、固定部からの本体部の抜けを防止することができる。また、固定部の突起部をハウジングの底部外面と係合する形状としているから、ハウジングからの固定部の抜けを防止することができる。
【0016】
ここで本発明のスタビリンクの製造方法では、強化剤を含有させた強化樹脂を射出成形で注入しているから、従来の熱かしめや超音波かしめ等のかしめ手法とは異なり、強化繊維等の強化剤の正規配列が得やすい。したがって、固定部は、強化樹脂本来の強度を得ることができるから、スタッドボールの所望の引き抜き強度を得ることができる。この場合、本体部に対する固定部の固定では、上記のように本体部と固定部の互いの樹脂の化学的融合が不要であり、樹脂同士の融合相性を考慮しなくてもよいから、射出成形で用いる樹脂選択の幅を拡げることができる。また、固定部の突起部の底部とハウジングの底部の外面は、注入された強化樹脂の成形収縮により、強固に接触することができるから、外部からの泥水等に対するシール性を向上させることができる。
【0017】
本発明のスタビリンクの製造方法は種々の構成を用いることができる。たとえばハウジングの底部に、他の孔部を形成し、ボールシートの固定部の形成では、キャビティおよび空間の内部への強化樹脂の注入時に他の孔部からガスを放出させ、他の孔部から外部へ突出する他の突起部を形成し、他の突起部をハウジングの底部の外面と係合する形状とする態様を用いることができる。この態様では、ハウジングに対するホールシートの軸線回りの回転を効果的に防止することができる。
【0018】
本発明のスタビリンクは、本発明のスタビリンクの製造方法で製造されるものである。すなわち、本発明のスタビリンクは、ボール部を有するスタッドボールと、ボール部を摺動自在に嵌合する本体部と、本体部の側面部の底部側を覆うようにして形成された固定部とを有するボールシートと、ボールシートを収容するとともに、底部に孔部を有するハウジングとを備え、固定部は、強化剤を含有する強化樹脂からなり、本体部の側面部の底部側には、凹部および凸部の少なくとも一方からなる第1嵌合形状が形成され、固定部には、第1嵌合形状に嵌合する第2嵌合形状が形成され、固定部の底部には、ハウジングの孔部から外部へ突出する突起部が形成され、突起部は、ハウジングの底部の外面と係合する形状を有していることを特徴とする。本発明のスタビリンクは、本発明のスタビリンクの製造方法と同様な効果を得ることができる。
【0019】
本発明のスタビリンクは種々の構成を用いることができる。たとえばボールシートの本体部は、ボール部を摺動自在に嵌合するボール受け部と、ボール受け部の外側に形成されるとともに強化樹脂からなる強化部とを有し、第1嵌合形状は、強化部の側面部の底部側に形成され、固定部は、強化部の側面部の底部側を覆うようにして形成されている構成を用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のスタビリンクあるいはその製造方法によれば、ボールシートの固定部に強化樹脂を用いた場合でも、所望の引き抜き強度を得ることができる等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】車両の前車輪側の概略構成を表す斜視図である。
【図2】従来のスタビリンクの構成を表す側断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るスタビリンクの構成を表す側断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るスタビリンクのボールシートの本体部の構成を表す側面図である。
【図5】図4に示すボールシートの本体部の構成を表す斜視図である。
【図6】図4に示すボールシートの本体部の構成を表す側断面図である。
【図7】図4に示すボールシートの本体部の構成を表す断面図である。
【図8】図4に示す本体部のボール受け部の構成を表す斜視図である。
【図9】図4に示す本体部の強化部の構成を表す斜視図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るスタビリンクの製造方法の射出成形を説明するための図であって、(A)は射出成形の状態を表す側断面図、(B)はハウジングの底部下面を表す平面図である。
【図11】図10に示す射出成形で使用される型の変形例を表す側断面図である。
【図12】本発明の一実施形態に係るスタビリンクのボールシートの本体部の変形例の構成を表す側面図である。
【図13】本発明の一実施形態に係るスタビリンクのボールシートの本体部の他の変形例の構成を表す側面図である。
【図14】本発明の一実施形態に係るスタビリンクの変形例を表す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1)スタビリンクの構成
(1−1)全体構成
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図3は、本発明の一実施形態に係るスタビリンクの構成を表す側断面図である。図4は、本発明の一実施形態に係るスタビリンクのボールシートの本体部の構成を表す側面図である。図5は、図4に示すボールシートの本体部の構成を表す斜視図である。図6は、図4に示すボールシートの本体部の構成を表す側断面図である。図7は、図4に示すボールシートの本体部の構成を表す断面図である。図8は、図4に示す本体部のボール受け部の構成を表す斜視図である。図9は、図4に示す本体部の強化部の構成を表す斜視図である。
【0023】
スタビリンク100は、図3に示すように、スタッドボール101、ボールシート200、ハウジング300、サポートバー400、および、ダストカバー500を備えている。
【0024】
スタッドボール101は、たとえば金属製で一体成形されている。スタッドボール101は、図3に示すように、スタッド部110、ボール部120、鍔部130、ねじ部140、凸部150、および、テーパ部160を有している。スタッド部110は、たとえば円柱状をなしている。ボール部120は、たとえば球状をなし、スタッド部110の下端部に形成されている。ボール部120の中心は、スタッド部110の軸線O上に位置している。スタッド部110の軸線O方向中間部には鍔部130および凸部150が形成されている。ねじ部140はスタッド部110の先端部に形成されている。テーパ部160は、凸部150とボール部120との間に形成されている。
【0025】
ボールシート200は、本体部201および固定部202を備えている。本体部201は、ボール受け部210および強化部220を有する。ボール受け部210は、スタッドボール101のボール部120をユニバーサルに支持する。強化部220は、ボール受け部210の外側に形成されている。ボールシート200は、ハウジング300に収容され、固定部202によりハウジング300の底部に固定されている。
【0026】
ハウジング300は、鍔部310および孔部320を有している。鍔部310は、ハウジング300の開口側の端部に形成されている。孔部320は、ハウジング300の底面部に形成されている。ハウジング300の側面部外面には、径方向に延びるサポートバー400の端部が固定されている。ダストカバー500では、大径側の端縁部がボールシート200の鍔部211とハウジング300の鍔部310との間に狭持され、小径側の端縁部がスタッドボール101の鍔部130と凸部150との間に固定されている。
【0027】
(1−2)ボールシートの構成
(A)ボールシートの材料
ボールシート200では、本体部201のボール受け部210の材料は、たとえば下記の第1材料のなかから選択され、本体部201の強化部220の材料は、たとえば下記の第2材料のなかから選択され、固定部202の材料は、たとえば下記の第2材料のなかから選択される。この場合、強化部220の材料と固定部202の材料とは異なっていてもよい。
【0028】
第1材料としては、ポリアセタール(POM)や、ポリプロピレン(PP)、四フッ化エチレン(PTFE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ナイロン66(PA66)等の樹脂が用いられる。第2材料としては、ポリアセタール(POM)や、ポリプロピレン(PP)、四フッ化エチレン(PTFE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ナイロン66(PA66)等の樹脂に、グラスファイバ(GF)やカーボンファイバ(CF)等の強化繊維(強化剤)を添加した強化樹脂等が用いられる。
【0029】
第2材料をボールシート200の一部(強化部220および固定部202)にのみ添加することにより、高価な材料である第2材料の使用重量を減少させることができるので、製造コストの抑制を図ることができる。グラスファイバ(GF)あるいはカーボンファイバ(CF)などを添加する量としては、10〜30%程度が好適である。このような添加量に設定することにより、ボールシート200の強度を維持するとともに、スタビリンク100の製造コストの抑制を図ることができる。たとえば第2材料として、グラスファイバを重量比で30%含有するナイロン66(PA66)を用いることが好適である。この場合、スタビリンク100は、たとえばφ16球で6000N以上の引き抜き強度を得ることができる。
【0030】
(B)本体部の構成
(B−1)ボール受け部の構成
本体部201のボール受け部210は、たとえば図8に示すように、鍔部211、凹部212、および、凸部213を有している。ボール受け部210では、たとえば第1材料としてポリアセタール(POM)が用いられ、鍔部211、凹部212、および、凸部213が一体成形されている。
【0031】
鍔部211は、たとえばボール受け部210の開口側に形成され、ボール受け部210の外側に向かって突出している。凹部212の内側形状は、ボール部120の外面形状に対応する球状である。凹部212の外側形状は、凹部212の内側形状と相似形状をなす球状である。凹部212は、受け部212a、オーバーハング部212b、および、グリース溝212cを有している。凹部212の内側には、スタッドボール101のボール部120が摺動自在に嵌合している。
【0032】
受け部212aは、たとえばボール部120の中心Zに対して凹部212の底側に設けられ、ボール部120の側面形状に対応する半球状をなしている。受け部212aは、スタッドボール101がボールシート200の底側に向けて押圧されることにより圧力を受ける。
【0033】
オーバーハング部212bは、たとえばボール部120の中心Zに対して凹部212の開口側に設けられ、ボール部120の側面形状に対応する形状をなしている。オーバーハング部212bはボール部120を覆うように形成されているから、スタッドボール101に引き抜く力が働いて引き抜き荷重を受けた場合、オーバーハング部212bは、引き抜き荷重に抗してボール部120が凹部212から抜けるのを防止することができる。
【0034】
グリース溝212cは、たとえば凹部212の底側から開口側まで形成され、凹部212の円周方向に所定間隔で複数設けられている。グリース溝212cの個数は、適宜設定することができ、たとえば8個である。グリース溝212cは、凹部212やダストカバー500の内側に充填されたグリースがボール部120の上下間に形成された空間を移動するための通路である。グリース溝212cは、グリースが奪った熱の放出あるいは吸収を行うという熱循環の働きを促進する。
【0035】
凸部213は、たとえば凹部212の開口側の外周壁に所定間隔で複数設けられ、凹部212において隣接するグリース溝212c,212cの中間に位置している。凸部213の個数は、適宜設定することができ、たとえば8個である。
【0036】
(B−2)強化部の構成
本体部201の強化部220は、たとえば図9に示すように、固定用溝部221および保持部222を有している。強化部220では、たとえば第2材料としてグラスファイバを重量比で30%含有するナイロン66(PA66)が用いられている。
【0037】
固定用溝部221は、保持部222の側面部の外面に周方向に沿って形成され、凹状をなしている。固定用溝部221は、側面部の外面の全周にわたって形成されていてもよいし、図12に示すように、固定用溝部221表面に固定用凸部223を設けることにより断続的に形成されていてもよい。固定用溝部221の本数は、高さ方向のスペースとの関係で許容される範囲内で、複数に設定してもよい。また、保持部222の側面部の外面の底部側には、固定用溝部221の代わりに、図13に示すように、周方向に延在する固定用凸条部224を設けてもよい。
【0038】
保持部222は、たとえば凹部212の外側に密着するようにして覆っている。これにより、凹部212よりも高強度を有する保持部222によるボール部120への接触を防止することができるから、ボール部120の表面粗度の低下を防止することができ、かつボール部120の偏磨耗を防止することができる。これにより保持部222によるボール部120の破損を防止することができるから、スタビリンク100の機能の向上を図ることができ、その結果、スタビリンク100の信頼性の向上を図ることができる。
【0039】
保持部222の内側形状は、凹部212の外側形状に対応する球状である。保持部222は、ボール受け部210の凹部212が引き抜き荷重を受けたとき、凹部212を保持することができるから、スタビリンク100の機能の向上を図ることができ、その結果、スタビリンク100の信頼性の向上を図ることができる。
【0040】
保持部222は、たとえばその外側の形状が有底円筒状をなしており、ハウジング300に圧入される。保持部222は、支持部222a、バックアップ部222b、グリース用溝部222c、および、スリット222dを有している。保持部222は、ボール受け部210の凹部212を保持する。
【0041】
支持部222aは、ボール部120の中心Zに対して保持部222の底側に設けられ、凹部212の外側形状に対応する形状をなしている。支持部222aは、ボール受け部210の受け部212aを支持する。
【0042】
バックアップ部222bは、ボール部120の中心Zに対して保持部222の開口側に設けられ、オーバーハング部212bを覆っている。バックアップ部222bは、バックアップ部222bの引き抜き荷重を直接に受けるオーバーハング部212bを補強している。バックアップ部222bは、凹部212のオーバーハング部212bが引き抜き荷重を受けたとき、引き抜き荷重に抗してボール部120が凹部212から抜けるのを防止することができる。これにより、スタビリンク100の破損を防止することができるから、スタビリンク100の信頼性の向上を図ることができる。
【0043】
バックアップ部222bは、オーバーハング部212bを補強しており、鍔部211および凹部212は一体成形されているから、凹部212が引き抜き荷重を受けたときでも、凹部212の破損を防止することができ、ダストカバー500の抜けを防止することができる。また、凹部212が引き抜き荷重を受けたとき、ボール受け部210と強化部220との境界で離反することがあっても、保持部222からの凹部212の抜けを防止することができる。
【0044】
バックアップ部222bには、たとえば複数のスリット222dを設けることにより複数の凸状部222eが形成されている。ボールシート200の凹部212にスタッドボール101のボール部120を押し込む場合や、ボール受け部210の凹部212に中子を入れてボール受け部210および保持部222を有するボールシート200を成形した後に中子を抜く場合等には、バックアップ部222bの凸状部222eが外側に押圧され、ボールシート200の開口部分が拡張することができるから、ボール部120を凹部212に押し込むことができるとともに、中子を凹部212から抜くことができる。
【0045】
バックアップ部222bは、複数の凸状部222eが形成されている場合でも、引き抜き荷重に抗してボール部120が凹部212から抜けるのを防止することができる。具体的には、スタッドボール101のボール部120をボールシート200の凹部212に嵌合させ、そのボールシート200をハウジング300に収容した場合、ハウジング300によりバックアップ部222bの拡径が防止されるから、ボールシート200の開口部分の拡張を抑制することができるとともに、バックアップ部222bが引き抜き荷重に抗してボール部120が凹部212から抜けるのを防止することができる。
【0046】
凸状部222eは、たとえばグリース用溝部222cを中心にして設けられている。凸状部222eの幅Wは、グリース用溝部222cを中心にして両側に均等に広がっている。凸状部222eの高さHは、ボール部120の中心Zから開口部分までの高さである。なお、凸状部222eの剛性を確保することができるとともに、凹部212にボール部120を嵌合することができる場合、凸状部222eの高さHを適宜変更してもよい。凸状部222eの個数は、グリース用溝部222cの数と同数に設定され、たとえば8個である。
【0047】
凸状部222eの高さHおよびの幅Wは、以下の数1の式を満足するように設定されている。
【0048】
[数1]
1.0≦凸状部の高さH/凸状部の幅W≦2.0
【0049】
凸状部222eの高さHは、たとえば7mm程度に設定されている。また、凸状部222eの幅Wは、4mm程度に設定されている。凸状部222eの高さHおよび幅Wを数1の式を満足するように設定することにより、バックアップ部222bの弾力性を維持するとともに、バックアップ部222bの強度を向上させることがきる。
【0050】
ボール受け部210の凸部213は、強化部220のスリット222dに嵌合している。これにより、凹部212と保持部222とが噛み合い、凹部212の回転を防止することができる。ボールシート200の外周にボール受け部210の露出部を設け、ハウジング300とボールシート200との嵌め代を設定することにより、ボール部120が摺動可能となるようにスタビリンク100のトルクを調整することができる。
【0051】
グリース用溝部222cは、たとえば保持部222の内側で凹部212のグリース溝212cに重なるようにして配置され、保持部222の底側から開口側まで形成されている。グリース用溝部222cの個数はたとえば8個である。グリース用溝部222cは、凹部212やダストカバー500の内側に充填されたグリースがボール部120の上下間に形成された空間を移動するための通路である。グリース用溝部222cは、グリースが奪った熱の放出や吸収を行うという熱循環の働きを促進する。グリース溝212cおよびグリース用溝部222cは、グリースを循環させるためのグリース流通路となる。
【0052】
グリース流通路では、凹部212にグリース溝212cを設けており、保持部222が凹部212を覆っていない状態となるため、保持部222にグリース用溝部222cを設けることにより、保持部222によるボール部120への接触を防止している。
【0053】
(C)固定部の構成
固定部202は、たとえば図3に示すように保持部222の側面部の外面の底部側に密着して覆うようにして形成されている。固定部202には、強化部220の固定用溝部221に嵌合する固定用凸条部231が形成されている。固定用凸条部231および固定用溝部221は、嵌合部を構成しており、機械的に噛み合うことができる。固定部202の底部には、ハウジング300の孔部320から外部へ突出する突起部232が形成されている。突起部232の先端部は、ハウジング300の底部外面と係合する形状を有し、たとえばボタン状をなしている。突起部232は、ハウジング300からの固定部202の抜けを防止することができる。
【0054】
この場合、嵌合部(固定用溝部221および固定用凸条部231)および突起部232の材料として、強化樹脂である第2材料を用いているから、引き抜き荷重に抗してボールシート200がハウジング300から抜けるのを効果的に防止することができる。これによりスタビリンク100の破損を防止することができるから、スタビリンク100の信頼性の向上を図ることができる。
【0055】
固定用凸条部231の形状および本数は、強化部220の固定用溝部221のものに対応している。保持部222の側面部外面に固定用溝部221の代わりに、図13に示す固定用凸条部224を設ける場合、固定部202には、固定用凸条部224に対応する形状を有する固定用溝部が形成される。突起部232は、ハウジング300の底部の中心から離間した位置に設けることにより、ハウジング300に対するボールシート200の回転を防止することができる。また、突起部の柱状部の断面形状をその中心に対して非対称な形状とすることにより、ハウジング300に対するボールシート200の回転を防止することができる。突起部232の個数は、適宜設定することができ、たとえば2個である。この場合、ハウジング300に対するボールシート200の回転を効果的に防止することができる。
【0056】
突起部232の設計では、突起部232における孔部320内に形成されている柱状部分の総断面積(たとえば、全ての柱状部の断面積(孔部320の断面積)が同じ場合、柱状部分の本数×柱状部分の断面積)と引っ張り破壊強度との積(柱状部分の総断面積×引っ張り破壊強度)は、φ16球のスタッドボールを用いる場合、たとえば2kN以上に設定することが好適である。固定部202の材料として、グラスファイバを重量比で30%含有するナイロン66(PA66)を用いる場合は、図2の従来のスタビリンク1のボールシート3の材料としてポリアセタール(POM)を用い、柱状部分の面積を等しく設定した場合と比較して、約2倍の引き抜き強度を得ることができる。
【0057】
(2)スタビリンクの製造方法
次に、スタビリンク100の製造方法の一例について図面を参照して説明する。
【0058】
まず、図10(A)に示すようにスタッドボール101、ボールシート200の本体部201、ハウジング300、サポートバー400、および、ダストカバー500を備えたサブ組立体100Aを形成する。サブ組立体100Aの形成では、本体部201の保持部222の側面部の外面の底部側とハウジング300の内面の底部側との間に空間Sを設けている。
【0059】
この場合、サブ組立体100Aは、ボールシート200の固定部202を形成していない以外は、図3の構成と同様である。ボールシート200の本体部201は、たとえば本発明者が特許文献1で提案している手法により得られる。本体部201の形成では、強化部220の側面部の外面に固定用溝部221を形成している。ハウジング300では、たとえば図10(B)に示すように、孔部320の個数を2個に設定し、その位置は底部の中心に対して対称に配置している。
【0060】
次いで、サブ組立体100Aのハウジング300の底部側の外面に射出成形用型600(以下、型600)を設けることにより、キャビティCを形成する。この場合、ハウジング300の底部を上方に向けて位置させる。型600は、ハウジング300の孔部320に対向して配置される孔部600Aを有し、孔部600Aにおけるハウジング側の端部には、固定部202の突起部232に対応する形状をなす幅広部600Bが形成されている。
【0061】
型600の一方の孔部600Aには、樹脂注入用ゲート601を挿入し、他方の孔部600Aには、ガス抜き用部材602を挿入する。強化樹脂Rは、樹脂注入用ゲート601の孔部から注入され、ガスGは、樹脂注入用ゲート601の孔部から放出される。孔部600Aの内周面と樹脂注入用ゲート601のスリーブの外周面との間には隙間603が設けられ、孔部600Aの内周面とガス抜き用部材602のスリーブの外周面との間には隙間603が設けられ、隙間603は、ガス抜き用のクリアランスである。ガス抜き用部材602側の孔部600Aでの隙間603は、樹脂注入用ゲート601側の孔部600Aでの隙間603よりも間隔が大きく設定されている。なお、図11に示すように両方の孔部600Aに樹脂注入用ゲート601を挿入する構成としてもよい。なお、図10、11では、図示の便宜上、隙間603の間隔を大きく記載している。突起部232の柱状部分に対応する形状をなす孔部320の形状は、樹脂注入およびガス抜きが可能である限り、特に限定されるものではなく、たとえば円柱状や角柱状であり、その断面形状は、特に限定されない。
【0062】
続いて、キャビティCおよび空間S内に、第2材料である強化樹脂Rを注入して射出成形を行う。この場合、強化樹脂Rは、樹脂注入用ゲート601の孔部から注入する。ガスGは、ガス抜き用部材602の孔部および隙間603から放出される。このような射出成形によって、本体部201の保持部222の側面部の底部側に、固定部202が形成される。固定部202の形成では、保持部222の側面部の外面に対して強化樹脂Rを流入させることにより、保持部222の固定用溝部221に嵌合する固定用凸条部231を固定部202に形成するとともに、ハウジング300の孔部320から外部へ突出する突起部232を固定部202の底部に形成し、突起部232をハウジング300の底部外面と係合する形状とする。これにより、図3に示すスタビリンク100が製造される。
【0063】
以上のように本実施形態では、ボールシート200の固定部202の形成において、ハウジング300の孔部320を通じて本体部201の側面部の外面に対して強化樹脂Rを流入させ、固定用溝部221(第1嵌合形状)に嵌合する固定用凸条部231(第2嵌合形状)を固定部202に形成しているから、固定用溝部221および固定用凸条部231からなる嵌合部により、本体部201と固定部202は機械的に噛み合うことができる。したがって、ボールシート200では、本体部201と固定部202の材料である互いの樹脂が化学的融合をしなくても、固定部202からの本体部201の抜けを防止することができる。また、固定部202の突起部232をハウジング300の底部の外面と係合する形状としているから、ハウジング300からの固定部202の抜けを防止することができる。
【0064】
ここで本実施形態では、強化剤を含有させた強化樹脂Rを射出成形で注入しているから、従来の熱かしめや超音波かしめ等のかしめ手法とは異なり、強化繊維等の強化剤の正規配列が得やすい。したがって、固定部202は、強化樹脂本来の強度を得ることができるから、スタッドボール101の所望の引き抜き強度を得ることができる。この場合、本体部201に対する固定部202の固定では、上記のように本体部201と固定部202の互いの樹脂の化学的融合が不要であり、樹脂同士の融合相性を考慮しなくてもよいから、射出成形で用いる樹脂選択の幅を拡げることができる。また、固定部202の突起部232の底部とハウジング300の底部の外面は、注入された強化樹脂Rの成形収縮により、強固に接触することができるから、外部からの泥水等に対するシール性を向上させることができる。
【0065】
(3)変形例
以上、実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上記実施形態では、ボール受け部および強化部を有するハイブリッド型ボールシートに本発明を適用したが、これに限定されるものではなく、たとえば単一材料からなるボールシートに適用してもよい。図14は、本発明の一実施形態のスタビリンクの変形例を表す側断面図である。スタビリンク800は、ボールシート以外は、図2のスタビリンク1と同様な構成である。
【0066】
ボールシート810は、本体部811および固定部812を有している。本体部811の材料は、たとえば第1材料のなかから選択され、固定部812の材料は、たとえば第2材料のなかから選択される。本体部811の側面部の外面の底部側には、上記実施形態の固定用溝部221と同様な形状をなす固定用溝部821が形成されている。固定部812には、本体部811の固定用溝部821に嵌合する固定用凸条部831が形成されている。固定部202の底部には、ハウジング4の孔部4Aから外部へ突出する突起部832が形成されている。突起部832は、上記実施形態の突起部232と同様な形状をなしている。固定部812は、上記実施形態の固定部202と同様な作用・効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0067】
100,800…スタビリンク、100A…サブ組立体、101…スタッドボール、120…ボール部、200,810…ボールシート、201,811…本体部、202,812…固定部、221,821…固定用溝部(凹部、第1嵌合形状)、223…固定用凸部(第1嵌合形状)、224…固定用凸条部(凸部、第1嵌合形状)、231,831…固定用凸条部(凸部、第2嵌合形状)、232,832…突起部(突起部、他の突起部)、4,300…ハウジング、4A,320…孔部、600…射出成形用型(型)、600A…孔部(孔部、他の孔部)、C…キャビティ、G…ガス、R…強化樹脂、S…空間
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールシートを備えたスタビリンクに係り、特に、ボールシートの固定手法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
スタビリンクは、サスペンション装置とスタビライザ装置とを連結するスタビリンク部品である。図1は、車両の前車輪側の概略構成を表す斜視図である。サスペンション装置10は、左右のタイヤ30に設けられ、アーム11とシリンダ12を備えている。アーム11の下端部はタイヤ30の軸を支持する軸受部に固定され、シリンダ12はアーム11に対して弾性変位が可能である。アーム11には、スタビリンク1が取り付けられるブラケット13が設けられている。サスペンション装置10は、タイヤ30に加えられる車体の重量を支えている。スタビライザ装置20は、略コ字形状を有するバー21を備え、ブッシュ22を介して車体に取り付けられている。スタビライザ装置20は、車両のロール剛性を確保する。
【0003】
スタビリンク1は、サスペンション装置10のブラケット13およびスタビライザ装置20のバー21の端部に設けられ、スタビリンク1同士はサポートバー6により連結されている。スタビリンク1は、サスペンション装置10が路面からの入力を受けたときに発生する荷重をスタビライザ装置20に伝達する。
【0004】
図2は、スタビリンク1の構成の具体例を表す側断面図である。スタビリンク1は、スタッドボール2、ボールシート3、ハウジング4、および、ダストカバー5を備えている。
【0005】
スタッドボール2は、一体成形されたスタッド部2Aおよびボール部2Bを有している。スタッド部2Aの先端部にはねじ部2Cが形成されている。サスペンション装置10側のスタビリンク1のねじ部2Cは、アーム11のブラケット13にねじ締結により固定され、スタビライザ装置20側のスタビリンク1のねじ部2Cは、バー21にねじ締結により固定されている。ボールシート3およびハウジング4は、スタッドボール2をユニバーサルに軸支する軸支部材を構成している。
【0006】
ボールシート3の凹部3Aは、そこにスタッドボール2のボール部2Bが圧入され、ベアリング機能を有する。ハウジング4は、ボールシート3を収容している。ダストカバー5は、ボールシート3の凹部3A内への異物の侵入を防止する。ハウジング4の側面には、スタビリンク1同士を接続するサポートバー6が設けられている。ボールシート3の底面部には、固定部として熱かしめ部3Bが形成されている。熱かしめ部3Bの形成では、ボールシート3のピン部をハウジング4の孔部4Aから外部へ突出させ、熱かしめや超音波かしめによりピン部を変形させることにより、ハウジング4の底部外部にかしめる。ボールシート3は、熱かしめ部3Bによりハウジング4に固定される(たとえば特許文献1,2)。
【0007】
このようなスタビリンク1では、スタッドボール2のボール部2Bがボールシート3の凹部3Aから引き抜かれることを防止するために、引き抜き強度を増大させる必要がある。この場合、ハウジング4に対するボールシート3の固定部位であるかしめ部3Bの強度は、同じ材料で構成されるボールシート3の強度に対応するから、スタッドボール2の引き抜き強度は、ボールシート3の強度により決定される。
【0008】
ボールシート3の強度を高めるために、グラスファイバ等の強化剤を含有させた強化樹脂をボールシート3に用いることが考えられるが、この場合、強化剤は、スタッドボール2のボール部2Bへの攻撃性を有するため、ボールシート3のベアリング機能が低下する虞がある。他方、ベアリング機能を優先させるために、ボールシート3の材料として、強化剤を含有しないポリアセタール(POM)を用いる場合、たとえばφ16球で引き抜き強度が2000N〜2800N程度しか得られない。
【0009】
そこで本発明者は、引き抜き強度の向上およびベアリング機能の低下防止の両立を図るため、二色成形により得られるハイブリッド型ボールシートを提案している(たとえば特許文献3)。ハイブリッド型ボールシートは、スタッドボールのボール部をユニバーサルに支持するベアリング機能を有するボール受け部と、ボール受け部の外側に形成されるとともに強化樹脂からなる強化部とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−117429号公報
【特許文献2】特開平7−54835号公報
【特許文献3】特開2010−65725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、ハイブリッド型ボールシートでは、スタビリンク1のボールシート3と同様に、熱かしめ部3Bによりボールシートを固定する手法を用いた場合、熱かしめや超音波かしめを行うとき、強化樹脂に含有されている強化剤の挙動制御が困難であるため、強化繊維の正規配列の崩壊が生じやすく、その結果、所望の引き抜き強度を得ることができない虞があった。
【0012】
したがって、本発明は、ボールシートの固定部に強化樹脂を用いた場合でも、所望の引き抜き強度を得ることができるスタビリンクおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のスタビリンクの製造方法は、スタッドボール、ボールシートの本体部、および、ハウジングを備えたサブ組立体を形成し、そのサブ組立体の形成では、本体部の側面部の底部側とハウジングの内面の底部側との間に空間を設け、サブ組立体におけるハウジングの底部側の外面に型を設けることにより、キャビティを形成し、キャビティおよび空間の内部に強化樹脂を注入して射出成形を行うことにより、本体部の側面部の底部側を覆うボールシートの固定部を形成し、ボールシートの本体部の形成では、本体部の側面部の底部側に、凹部および凸部の少なくとも一方からなる第1嵌合形状を形成し、ボールシートの固定部の形成では、強化剤を含有する樹脂を強化樹脂として用い、ハウジングの孔部を通じて本体部の側面部の外面に対して強化樹脂を流入させることにより、第1嵌合形状に嵌合する第2嵌合形状を固定部に形成するとともに、ハウジングの孔部から外部へ突出する突起部を固定部の底部に形成し、突起部をハウジングの底部の外面と係合する形状とすることを特徴とする。
【0014】
本発明のスタビリンクの製造方法では、ボールシートの本体部の側面部の底部側とハウジングの内面の底部側との間に空間を設けるようにしてサブ組立体を形成し、サブ組立体におけるハウジングの底部側の外面に型を設けることによってキャビティを形成する。そのようなキャビティおよび空間の内部に強化樹脂を注入して射出成形を行うことにより、本体部の側面部の底部側を覆う固定部をボールシートに形成している。
【0015】
ボールシートの固定部の形成では、ハウジングの孔部を通じて本体部の側面部の外面に対して強化樹脂を流入させることにより、本体部の第1嵌合形状に嵌合する第2嵌合形状を固定部に形成しているから、第1嵌合形状(本体部側嵌合形状)および第2嵌合形状(固定部側嵌合形状)からなる嵌合部によって、本体部と固定部は機械的に噛み合うことができる。したがって、ボールシートでは、本体部と固定部の材料である互いの樹脂が化学的融合をしなくても、固定部からの本体部の抜けを防止することができる。また、固定部の突起部をハウジングの底部外面と係合する形状としているから、ハウジングからの固定部の抜けを防止することができる。
【0016】
ここで本発明のスタビリンクの製造方法では、強化剤を含有させた強化樹脂を射出成形で注入しているから、従来の熱かしめや超音波かしめ等のかしめ手法とは異なり、強化繊維等の強化剤の正規配列が得やすい。したがって、固定部は、強化樹脂本来の強度を得ることができるから、スタッドボールの所望の引き抜き強度を得ることができる。この場合、本体部に対する固定部の固定では、上記のように本体部と固定部の互いの樹脂の化学的融合が不要であり、樹脂同士の融合相性を考慮しなくてもよいから、射出成形で用いる樹脂選択の幅を拡げることができる。また、固定部の突起部の底部とハウジングの底部の外面は、注入された強化樹脂の成形収縮により、強固に接触することができるから、外部からの泥水等に対するシール性を向上させることができる。
【0017】
本発明のスタビリンクの製造方法は種々の構成を用いることができる。たとえばハウジングの底部に、他の孔部を形成し、ボールシートの固定部の形成では、キャビティおよび空間の内部への強化樹脂の注入時に他の孔部からガスを放出させ、他の孔部から外部へ突出する他の突起部を形成し、他の突起部をハウジングの底部の外面と係合する形状とする態様を用いることができる。この態様では、ハウジングに対するホールシートの軸線回りの回転を効果的に防止することができる。
【0018】
本発明のスタビリンクは、本発明のスタビリンクの製造方法で製造されるものである。すなわち、本発明のスタビリンクは、ボール部を有するスタッドボールと、ボール部を摺動自在に嵌合する本体部と、本体部の側面部の底部側を覆うようにして形成された固定部とを有するボールシートと、ボールシートを収容するとともに、底部に孔部を有するハウジングとを備え、固定部は、強化剤を含有する強化樹脂からなり、本体部の側面部の底部側には、凹部および凸部の少なくとも一方からなる第1嵌合形状が形成され、固定部には、第1嵌合形状に嵌合する第2嵌合形状が形成され、固定部の底部には、ハウジングの孔部から外部へ突出する突起部が形成され、突起部は、ハウジングの底部の外面と係合する形状を有していることを特徴とする。本発明のスタビリンクは、本発明のスタビリンクの製造方法と同様な効果を得ることができる。
【0019】
本発明のスタビリンクは種々の構成を用いることができる。たとえばボールシートの本体部は、ボール部を摺動自在に嵌合するボール受け部と、ボール受け部の外側に形成されるとともに強化樹脂からなる強化部とを有し、第1嵌合形状は、強化部の側面部の底部側に形成され、固定部は、強化部の側面部の底部側を覆うようにして形成されている構成を用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のスタビリンクあるいはその製造方法によれば、ボールシートの固定部に強化樹脂を用いた場合でも、所望の引き抜き強度を得ることができる等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】車両の前車輪側の概略構成を表す斜視図である。
【図2】従来のスタビリンクの構成を表す側断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るスタビリンクの構成を表す側断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るスタビリンクのボールシートの本体部の構成を表す側面図である。
【図5】図4に示すボールシートの本体部の構成を表す斜視図である。
【図6】図4に示すボールシートの本体部の構成を表す側断面図である。
【図7】図4に示すボールシートの本体部の構成を表す断面図である。
【図8】図4に示す本体部のボール受け部の構成を表す斜視図である。
【図9】図4に示す本体部の強化部の構成を表す斜視図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るスタビリンクの製造方法の射出成形を説明するための図であって、(A)は射出成形の状態を表す側断面図、(B)はハウジングの底部下面を表す平面図である。
【図11】図10に示す射出成形で使用される型の変形例を表す側断面図である。
【図12】本発明の一実施形態に係るスタビリンクのボールシートの本体部の変形例の構成を表す側面図である。
【図13】本発明の一実施形態に係るスタビリンクのボールシートの本体部の他の変形例の構成を表す側面図である。
【図14】本発明の一実施形態に係るスタビリンクの変形例を表す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1)スタビリンクの構成
(1−1)全体構成
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図3は、本発明の一実施形態に係るスタビリンクの構成を表す側断面図である。図4は、本発明の一実施形態に係るスタビリンクのボールシートの本体部の構成を表す側面図である。図5は、図4に示すボールシートの本体部の構成を表す斜視図である。図6は、図4に示すボールシートの本体部の構成を表す側断面図である。図7は、図4に示すボールシートの本体部の構成を表す断面図である。図8は、図4に示す本体部のボール受け部の構成を表す斜視図である。図9は、図4に示す本体部の強化部の構成を表す斜視図である。
【0023】
スタビリンク100は、図3に示すように、スタッドボール101、ボールシート200、ハウジング300、サポートバー400、および、ダストカバー500を備えている。
【0024】
スタッドボール101は、たとえば金属製で一体成形されている。スタッドボール101は、図3に示すように、スタッド部110、ボール部120、鍔部130、ねじ部140、凸部150、および、テーパ部160を有している。スタッド部110は、たとえば円柱状をなしている。ボール部120は、たとえば球状をなし、スタッド部110の下端部に形成されている。ボール部120の中心は、スタッド部110の軸線O上に位置している。スタッド部110の軸線O方向中間部には鍔部130および凸部150が形成されている。ねじ部140はスタッド部110の先端部に形成されている。テーパ部160は、凸部150とボール部120との間に形成されている。
【0025】
ボールシート200は、本体部201および固定部202を備えている。本体部201は、ボール受け部210および強化部220を有する。ボール受け部210は、スタッドボール101のボール部120をユニバーサルに支持する。強化部220は、ボール受け部210の外側に形成されている。ボールシート200は、ハウジング300に収容され、固定部202によりハウジング300の底部に固定されている。
【0026】
ハウジング300は、鍔部310および孔部320を有している。鍔部310は、ハウジング300の開口側の端部に形成されている。孔部320は、ハウジング300の底面部に形成されている。ハウジング300の側面部外面には、径方向に延びるサポートバー400の端部が固定されている。ダストカバー500では、大径側の端縁部がボールシート200の鍔部211とハウジング300の鍔部310との間に狭持され、小径側の端縁部がスタッドボール101の鍔部130と凸部150との間に固定されている。
【0027】
(1−2)ボールシートの構成
(A)ボールシートの材料
ボールシート200では、本体部201のボール受け部210の材料は、たとえば下記の第1材料のなかから選択され、本体部201の強化部220の材料は、たとえば下記の第2材料のなかから選択され、固定部202の材料は、たとえば下記の第2材料のなかから選択される。この場合、強化部220の材料と固定部202の材料とは異なっていてもよい。
【0028】
第1材料としては、ポリアセタール(POM)や、ポリプロピレン(PP)、四フッ化エチレン(PTFE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ナイロン66(PA66)等の樹脂が用いられる。第2材料としては、ポリアセタール(POM)や、ポリプロピレン(PP)、四フッ化エチレン(PTFE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ナイロン66(PA66)等の樹脂に、グラスファイバ(GF)やカーボンファイバ(CF)等の強化繊維(強化剤)を添加した強化樹脂等が用いられる。
【0029】
第2材料をボールシート200の一部(強化部220および固定部202)にのみ添加することにより、高価な材料である第2材料の使用重量を減少させることができるので、製造コストの抑制を図ることができる。グラスファイバ(GF)あるいはカーボンファイバ(CF)などを添加する量としては、10〜30%程度が好適である。このような添加量に設定することにより、ボールシート200の強度を維持するとともに、スタビリンク100の製造コストの抑制を図ることができる。たとえば第2材料として、グラスファイバを重量比で30%含有するナイロン66(PA66)を用いることが好適である。この場合、スタビリンク100は、たとえばφ16球で6000N以上の引き抜き強度を得ることができる。
【0030】
(B)本体部の構成
(B−1)ボール受け部の構成
本体部201のボール受け部210は、たとえば図8に示すように、鍔部211、凹部212、および、凸部213を有している。ボール受け部210では、たとえば第1材料としてポリアセタール(POM)が用いられ、鍔部211、凹部212、および、凸部213が一体成形されている。
【0031】
鍔部211は、たとえばボール受け部210の開口側に形成され、ボール受け部210の外側に向かって突出している。凹部212の内側形状は、ボール部120の外面形状に対応する球状である。凹部212の外側形状は、凹部212の内側形状と相似形状をなす球状である。凹部212は、受け部212a、オーバーハング部212b、および、グリース溝212cを有している。凹部212の内側には、スタッドボール101のボール部120が摺動自在に嵌合している。
【0032】
受け部212aは、たとえばボール部120の中心Zに対して凹部212の底側に設けられ、ボール部120の側面形状に対応する半球状をなしている。受け部212aは、スタッドボール101がボールシート200の底側に向けて押圧されることにより圧力を受ける。
【0033】
オーバーハング部212bは、たとえばボール部120の中心Zに対して凹部212の開口側に設けられ、ボール部120の側面形状に対応する形状をなしている。オーバーハング部212bはボール部120を覆うように形成されているから、スタッドボール101に引き抜く力が働いて引き抜き荷重を受けた場合、オーバーハング部212bは、引き抜き荷重に抗してボール部120が凹部212から抜けるのを防止することができる。
【0034】
グリース溝212cは、たとえば凹部212の底側から開口側まで形成され、凹部212の円周方向に所定間隔で複数設けられている。グリース溝212cの個数は、適宜設定することができ、たとえば8個である。グリース溝212cは、凹部212やダストカバー500の内側に充填されたグリースがボール部120の上下間に形成された空間を移動するための通路である。グリース溝212cは、グリースが奪った熱の放出あるいは吸収を行うという熱循環の働きを促進する。
【0035】
凸部213は、たとえば凹部212の開口側の外周壁に所定間隔で複数設けられ、凹部212において隣接するグリース溝212c,212cの中間に位置している。凸部213の個数は、適宜設定することができ、たとえば8個である。
【0036】
(B−2)強化部の構成
本体部201の強化部220は、たとえば図9に示すように、固定用溝部221および保持部222を有している。強化部220では、たとえば第2材料としてグラスファイバを重量比で30%含有するナイロン66(PA66)が用いられている。
【0037】
固定用溝部221は、保持部222の側面部の外面に周方向に沿って形成され、凹状をなしている。固定用溝部221は、側面部の外面の全周にわたって形成されていてもよいし、図12に示すように、固定用溝部221表面に固定用凸部223を設けることにより断続的に形成されていてもよい。固定用溝部221の本数は、高さ方向のスペースとの関係で許容される範囲内で、複数に設定してもよい。また、保持部222の側面部の外面の底部側には、固定用溝部221の代わりに、図13に示すように、周方向に延在する固定用凸条部224を設けてもよい。
【0038】
保持部222は、たとえば凹部212の外側に密着するようにして覆っている。これにより、凹部212よりも高強度を有する保持部222によるボール部120への接触を防止することができるから、ボール部120の表面粗度の低下を防止することができ、かつボール部120の偏磨耗を防止することができる。これにより保持部222によるボール部120の破損を防止することができるから、スタビリンク100の機能の向上を図ることができ、その結果、スタビリンク100の信頼性の向上を図ることができる。
【0039】
保持部222の内側形状は、凹部212の外側形状に対応する球状である。保持部222は、ボール受け部210の凹部212が引き抜き荷重を受けたとき、凹部212を保持することができるから、スタビリンク100の機能の向上を図ることができ、その結果、スタビリンク100の信頼性の向上を図ることができる。
【0040】
保持部222は、たとえばその外側の形状が有底円筒状をなしており、ハウジング300に圧入される。保持部222は、支持部222a、バックアップ部222b、グリース用溝部222c、および、スリット222dを有している。保持部222は、ボール受け部210の凹部212を保持する。
【0041】
支持部222aは、ボール部120の中心Zに対して保持部222の底側に設けられ、凹部212の外側形状に対応する形状をなしている。支持部222aは、ボール受け部210の受け部212aを支持する。
【0042】
バックアップ部222bは、ボール部120の中心Zに対して保持部222の開口側に設けられ、オーバーハング部212bを覆っている。バックアップ部222bは、バックアップ部222bの引き抜き荷重を直接に受けるオーバーハング部212bを補強している。バックアップ部222bは、凹部212のオーバーハング部212bが引き抜き荷重を受けたとき、引き抜き荷重に抗してボール部120が凹部212から抜けるのを防止することができる。これにより、スタビリンク100の破損を防止することができるから、スタビリンク100の信頼性の向上を図ることができる。
【0043】
バックアップ部222bは、オーバーハング部212bを補強しており、鍔部211および凹部212は一体成形されているから、凹部212が引き抜き荷重を受けたときでも、凹部212の破損を防止することができ、ダストカバー500の抜けを防止することができる。また、凹部212が引き抜き荷重を受けたとき、ボール受け部210と強化部220との境界で離反することがあっても、保持部222からの凹部212の抜けを防止することができる。
【0044】
バックアップ部222bには、たとえば複数のスリット222dを設けることにより複数の凸状部222eが形成されている。ボールシート200の凹部212にスタッドボール101のボール部120を押し込む場合や、ボール受け部210の凹部212に中子を入れてボール受け部210および保持部222を有するボールシート200を成形した後に中子を抜く場合等には、バックアップ部222bの凸状部222eが外側に押圧され、ボールシート200の開口部分が拡張することができるから、ボール部120を凹部212に押し込むことができるとともに、中子を凹部212から抜くことができる。
【0045】
バックアップ部222bは、複数の凸状部222eが形成されている場合でも、引き抜き荷重に抗してボール部120が凹部212から抜けるのを防止することができる。具体的には、スタッドボール101のボール部120をボールシート200の凹部212に嵌合させ、そのボールシート200をハウジング300に収容した場合、ハウジング300によりバックアップ部222bの拡径が防止されるから、ボールシート200の開口部分の拡張を抑制することができるとともに、バックアップ部222bが引き抜き荷重に抗してボール部120が凹部212から抜けるのを防止することができる。
【0046】
凸状部222eは、たとえばグリース用溝部222cを中心にして設けられている。凸状部222eの幅Wは、グリース用溝部222cを中心にして両側に均等に広がっている。凸状部222eの高さHは、ボール部120の中心Zから開口部分までの高さである。なお、凸状部222eの剛性を確保することができるとともに、凹部212にボール部120を嵌合することができる場合、凸状部222eの高さHを適宜変更してもよい。凸状部222eの個数は、グリース用溝部222cの数と同数に設定され、たとえば8個である。
【0047】
凸状部222eの高さHおよびの幅Wは、以下の数1の式を満足するように設定されている。
【0048】
[数1]
1.0≦凸状部の高さH/凸状部の幅W≦2.0
【0049】
凸状部222eの高さHは、たとえば7mm程度に設定されている。また、凸状部222eの幅Wは、4mm程度に設定されている。凸状部222eの高さHおよび幅Wを数1の式を満足するように設定することにより、バックアップ部222bの弾力性を維持するとともに、バックアップ部222bの強度を向上させることがきる。
【0050】
ボール受け部210の凸部213は、強化部220のスリット222dに嵌合している。これにより、凹部212と保持部222とが噛み合い、凹部212の回転を防止することができる。ボールシート200の外周にボール受け部210の露出部を設け、ハウジング300とボールシート200との嵌め代を設定することにより、ボール部120が摺動可能となるようにスタビリンク100のトルクを調整することができる。
【0051】
グリース用溝部222cは、たとえば保持部222の内側で凹部212のグリース溝212cに重なるようにして配置され、保持部222の底側から開口側まで形成されている。グリース用溝部222cの個数はたとえば8個である。グリース用溝部222cは、凹部212やダストカバー500の内側に充填されたグリースがボール部120の上下間に形成された空間を移動するための通路である。グリース用溝部222cは、グリースが奪った熱の放出や吸収を行うという熱循環の働きを促進する。グリース溝212cおよびグリース用溝部222cは、グリースを循環させるためのグリース流通路となる。
【0052】
グリース流通路では、凹部212にグリース溝212cを設けており、保持部222が凹部212を覆っていない状態となるため、保持部222にグリース用溝部222cを設けることにより、保持部222によるボール部120への接触を防止している。
【0053】
(C)固定部の構成
固定部202は、たとえば図3に示すように保持部222の側面部の外面の底部側に密着して覆うようにして形成されている。固定部202には、強化部220の固定用溝部221に嵌合する固定用凸条部231が形成されている。固定用凸条部231および固定用溝部221は、嵌合部を構成しており、機械的に噛み合うことができる。固定部202の底部には、ハウジング300の孔部320から外部へ突出する突起部232が形成されている。突起部232の先端部は、ハウジング300の底部外面と係合する形状を有し、たとえばボタン状をなしている。突起部232は、ハウジング300からの固定部202の抜けを防止することができる。
【0054】
この場合、嵌合部(固定用溝部221および固定用凸条部231)および突起部232の材料として、強化樹脂である第2材料を用いているから、引き抜き荷重に抗してボールシート200がハウジング300から抜けるのを効果的に防止することができる。これによりスタビリンク100の破損を防止することができるから、スタビリンク100の信頼性の向上を図ることができる。
【0055】
固定用凸条部231の形状および本数は、強化部220の固定用溝部221のものに対応している。保持部222の側面部外面に固定用溝部221の代わりに、図13に示す固定用凸条部224を設ける場合、固定部202には、固定用凸条部224に対応する形状を有する固定用溝部が形成される。突起部232は、ハウジング300の底部の中心から離間した位置に設けることにより、ハウジング300に対するボールシート200の回転を防止することができる。また、突起部の柱状部の断面形状をその中心に対して非対称な形状とすることにより、ハウジング300に対するボールシート200の回転を防止することができる。突起部232の個数は、適宜設定することができ、たとえば2個である。この場合、ハウジング300に対するボールシート200の回転を効果的に防止することができる。
【0056】
突起部232の設計では、突起部232における孔部320内に形成されている柱状部分の総断面積(たとえば、全ての柱状部の断面積(孔部320の断面積)が同じ場合、柱状部分の本数×柱状部分の断面積)と引っ張り破壊強度との積(柱状部分の総断面積×引っ張り破壊強度)は、φ16球のスタッドボールを用いる場合、たとえば2kN以上に設定することが好適である。固定部202の材料として、グラスファイバを重量比で30%含有するナイロン66(PA66)を用いる場合は、図2の従来のスタビリンク1のボールシート3の材料としてポリアセタール(POM)を用い、柱状部分の面積を等しく設定した場合と比較して、約2倍の引き抜き強度を得ることができる。
【0057】
(2)スタビリンクの製造方法
次に、スタビリンク100の製造方法の一例について図面を参照して説明する。
【0058】
まず、図10(A)に示すようにスタッドボール101、ボールシート200の本体部201、ハウジング300、サポートバー400、および、ダストカバー500を備えたサブ組立体100Aを形成する。サブ組立体100Aの形成では、本体部201の保持部222の側面部の外面の底部側とハウジング300の内面の底部側との間に空間Sを設けている。
【0059】
この場合、サブ組立体100Aは、ボールシート200の固定部202を形成していない以外は、図3の構成と同様である。ボールシート200の本体部201は、たとえば本発明者が特許文献1で提案している手法により得られる。本体部201の形成では、強化部220の側面部の外面に固定用溝部221を形成している。ハウジング300では、たとえば図10(B)に示すように、孔部320の個数を2個に設定し、その位置は底部の中心に対して対称に配置している。
【0060】
次いで、サブ組立体100Aのハウジング300の底部側の外面に射出成形用型600(以下、型600)を設けることにより、キャビティCを形成する。この場合、ハウジング300の底部を上方に向けて位置させる。型600は、ハウジング300の孔部320に対向して配置される孔部600Aを有し、孔部600Aにおけるハウジング側の端部には、固定部202の突起部232に対応する形状をなす幅広部600Bが形成されている。
【0061】
型600の一方の孔部600Aには、樹脂注入用ゲート601を挿入し、他方の孔部600Aには、ガス抜き用部材602を挿入する。強化樹脂Rは、樹脂注入用ゲート601の孔部から注入され、ガスGは、樹脂注入用ゲート601の孔部から放出される。孔部600Aの内周面と樹脂注入用ゲート601のスリーブの外周面との間には隙間603が設けられ、孔部600Aの内周面とガス抜き用部材602のスリーブの外周面との間には隙間603が設けられ、隙間603は、ガス抜き用のクリアランスである。ガス抜き用部材602側の孔部600Aでの隙間603は、樹脂注入用ゲート601側の孔部600Aでの隙間603よりも間隔が大きく設定されている。なお、図11に示すように両方の孔部600Aに樹脂注入用ゲート601を挿入する構成としてもよい。なお、図10、11では、図示の便宜上、隙間603の間隔を大きく記載している。突起部232の柱状部分に対応する形状をなす孔部320の形状は、樹脂注入およびガス抜きが可能である限り、特に限定されるものではなく、たとえば円柱状や角柱状であり、その断面形状は、特に限定されない。
【0062】
続いて、キャビティCおよび空間S内に、第2材料である強化樹脂Rを注入して射出成形を行う。この場合、強化樹脂Rは、樹脂注入用ゲート601の孔部から注入する。ガスGは、ガス抜き用部材602の孔部および隙間603から放出される。このような射出成形によって、本体部201の保持部222の側面部の底部側に、固定部202が形成される。固定部202の形成では、保持部222の側面部の外面に対して強化樹脂Rを流入させることにより、保持部222の固定用溝部221に嵌合する固定用凸条部231を固定部202に形成するとともに、ハウジング300の孔部320から外部へ突出する突起部232を固定部202の底部に形成し、突起部232をハウジング300の底部外面と係合する形状とする。これにより、図3に示すスタビリンク100が製造される。
【0063】
以上のように本実施形態では、ボールシート200の固定部202の形成において、ハウジング300の孔部320を通じて本体部201の側面部の外面に対して強化樹脂Rを流入させ、固定用溝部221(第1嵌合形状)に嵌合する固定用凸条部231(第2嵌合形状)を固定部202に形成しているから、固定用溝部221および固定用凸条部231からなる嵌合部により、本体部201と固定部202は機械的に噛み合うことができる。したがって、ボールシート200では、本体部201と固定部202の材料である互いの樹脂が化学的融合をしなくても、固定部202からの本体部201の抜けを防止することができる。また、固定部202の突起部232をハウジング300の底部の外面と係合する形状としているから、ハウジング300からの固定部202の抜けを防止することができる。
【0064】
ここで本実施形態では、強化剤を含有させた強化樹脂Rを射出成形で注入しているから、従来の熱かしめや超音波かしめ等のかしめ手法とは異なり、強化繊維等の強化剤の正規配列が得やすい。したがって、固定部202は、強化樹脂本来の強度を得ることができるから、スタッドボール101の所望の引き抜き強度を得ることができる。この場合、本体部201に対する固定部202の固定では、上記のように本体部201と固定部202の互いの樹脂の化学的融合が不要であり、樹脂同士の融合相性を考慮しなくてもよいから、射出成形で用いる樹脂選択の幅を拡げることができる。また、固定部202の突起部232の底部とハウジング300の底部の外面は、注入された強化樹脂Rの成形収縮により、強固に接触することができるから、外部からの泥水等に対するシール性を向上させることができる。
【0065】
(3)変形例
以上、実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上記実施形態では、ボール受け部および強化部を有するハイブリッド型ボールシートに本発明を適用したが、これに限定されるものではなく、たとえば単一材料からなるボールシートに適用してもよい。図14は、本発明の一実施形態のスタビリンクの変形例を表す側断面図である。スタビリンク800は、ボールシート以外は、図2のスタビリンク1と同様な構成である。
【0066】
ボールシート810は、本体部811および固定部812を有している。本体部811の材料は、たとえば第1材料のなかから選択され、固定部812の材料は、たとえば第2材料のなかから選択される。本体部811の側面部の外面の底部側には、上記実施形態の固定用溝部221と同様な形状をなす固定用溝部821が形成されている。固定部812には、本体部811の固定用溝部821に嵌合する固定用凸条部831が形成されている。固定部202の底部には、ハウジング4の孔部4Aから外部へ突出する突起部832が形成されている。突起部832は、上記実施形態の突起部232と同様な形状をなしている。固定部812は、上記実施形態の固定部202と同様な作用・効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0067】
100,800…スタビリンク、100A…サブ組立体、101…スタッドボール、120…ボール部、200,810…ボールシート、201,811…本体部、202,812…固定部、221,821…固定用溝部(凹部、第1嵌合形状)、223…固定用凸部(第1嵌合形状)、224…固定用凸条部(凸部、第1嵌合形状)、231,831…固定用凸条部(凸部、第2嵌合形状)、232,832…突起部(突起部、他の突起部)、4,300…ハウジング、4A,320…孔部、600…射出成形用型(型)、600A…孔部(孔部、他の孔部)、C…キャビティ、G…ガス、R…強化樹脂、S…空間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタッドボール、ボールシートの本体部、および、ハウジングを備えたサブ組立体を形成し、そのサブ組立体の形成では、前記本体部の側面部の底部側と前記ハウジングの内面の底部側との間に空間を設け、
前記サブ組立体における前記ハウジングの底部側の外面に型を設けることにより、キャビティを形成し、
前記キャビティおよび前記空間の内部に強化樹脂を注入して射出成形を行うことにより、前記本体部の前記側面部の底部側を覆う前記ボールシートの固定部を形成し、
前記ボールシートの本体部の形成では、前記本体部の前記側面部の前記底部側に、凹部および凸部の少なくとも一方からなる第1嵌合形状を形成し、
前記ボールシートの前記固定部の形成では、強化剤を含有する樹脂を前記強化樹脂として用い、前記ハウジングの孔部を通じて前記本体部の前記側面部の外面に対して前記強化樹脂を流入させることにより、前記第1嵌合形状に嵌合する第2嵌合形状を前記固定部に形成するとともに、前記ハウジングの前記孔部から外部へ突出する突起部を前記固定部の底部に形成し、前記突起部を前記ハウジングの前記底部の外面と係合する形状とすることを特徴とするスタビリンクの製造方法。
【請求項2】
前記ハウジングの前記底部に、他の孔部を形成し、
前記ボールシートの前記固定部の形成では、前記キャビティおよび前記空間の内部への前記強化樹脂の注入時に前記他の孔部からガスを放出させ、前記他の孔部から外部へ突出する他の突起部を形成し、前記他の突起部を前記ハウジングの前記底部の外面と係合する形状とすることを特徴とする請求項1に記載のスタビリンクの製造方法。
【請求項3】
ボール部を有するスタッドボールと、
前記ボール部を摺動自在に嵌合する本体部と、前記本体部の側面部の底部側を覆うようにして形成された固定部とを有するボールシートと、
前記ボールシートを収容するとともに、底部に孔部を有するハウジングとを備え、
前記固定部は、強化剤を含有する強化樹脂からなり、
前記本体部の前記側面部の底部側には、凹部および凸部の少なくとも一方からなる第1嵌合形状が形成され、前記固定部には、前記第1嵌合形状に嵌合する第2嵌合形状が形成され、
前記固定部の底部には、前記ハウジングの前記孔部から外部へ突出する突起部が形成され、前記突起部は、前記ハウジングの前記底部の外面と係合する形状を有していることを特徴とするスタビリンク。
【請求項4】
前記ボールシートの前記本体部は、前記ボール部を摺動自在に嵌合するボール受け部と、前記ボール受け部の外側に形成されるとともに強化樹脂からなる強化部とを有し、
前記第1嵌合形状は、前記強化部の側面部の底部側に形成され、
前記固定部は、前記強化部の前記側面部の底部側を覆うようにして形成されていることを特徴とする請求項3に記載のスタビリンク。
【請求項1】
スタッドボール、ボールシートの本体部、および、ハウジングを備えたサブ組立体を形成し、そのサブ組立体の形成では、前記本体部の側面部の底部側と前記ハウジングの内面の底部側との間に空間を設け、
前記サブ組立体における前記ハウジングの底部側の外面に型を設けることにより、キャビティを形成し、
前記キャビティおよび前記空間の内部に強化樹脂を注入して射出成形を行うことにより、前記本体部の前記側面部の底部側を覆う前記ボールシートの固定部を形成し、
前記ボールシートの本体部の形成では、前記本体部の前記側面部の前記底部側に、凹部および凸部の少なくとも一方からなる第1嵌合形状を形成し、
前記ボールシートの前記固定部の形成では、強化剤を含有する樹脂を前記強化樹脂として用い、前記ハウジングの孔部を通じて前記本体部の前記側面部の外面に対して前記強化樹脂を流入させることにより、前記第1嵌合形状に嵌合する第2嵌合形状を前記固定部に形成するとともに、前記ハウジングの前記孔部から外部へ突出する突起部を前記固定部の底部に形成し、前記突起部を前記ハウジングの前記底部の外面と係合する形状とすることを特徴とするスタビリンクの製造方法。
【請求項2】
前記ハウジングの前記底部に、他の孔部を形成し、
前記ボールシートの前記固定部の形成では、前記キャビティおよび前記空間の内部への前記強化樹脂の注入時に前記他の孔部からガスを放出させ、前記他の孔部から外部へ突出する他の突起部を形成し、前記他の突起部を前記ハウジングの前記底部の外面と係合する形状とすることを特徴とする請求項1に記載のスタビリンクの製造方法。
【請求項3】
ボール部を有するスタッドボールと、
前記ボール部を摺動自在に嵌合する本体部と、前記本体部の側面部の底部側を覆うようにして形成された固定部とを有するボールシートと、
前記ボールシートを収容するとともに、底部に孔部を有するハウジングとを備え、
前記固定部は、強化剤を含有する強化樹脂からなり、
前記本体部の前記側面部の底部側には、凹部および凸部の少なくとも一方からなる第1嵌合形状が形成され、前記固定部には、前記第1嵌合形状に嵌合する第2嵌合形状が形成され、
前記固定部の底部には、前記ハウジングの前記孔部から外部へ突出する突起部が形成され、前記突起部は、前記ハウジングの前記底部の外面と係合する形状を有していることを特徴とするスタビリンク。
【請求項4】
前記ボールシートの前記本体部は、前記ボール部を摺動自在に嵌合するボール受け部と、前記ボール受け部の外側に形成されるとともに強化樹脂からなる強化部とを有し、
前記第1嵌合形状は、前記強化部の側面部の底部側に形成され、
前記固定部は、前記強化部の前記側面部の底部側を覆うようにして形成されていることを特徴とする請求項3に記載のスタビリンク。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−106692(P2012−106692A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258825(P2010−258825)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】
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